topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.154
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「横島さん、ほらこっちも美味しいですよ」
「茶々丸、かなり気合い入れたなぁ」
「麻帆良祭という事で張り切りましたが、お客様が来られたので丁度良かったです」
 パーティー会場の一つのテーブルを、横島、アスナ、茶々丸、それにおキヌと楓で囲んでいる。
 シロは隣のテーブルで古菲達と大食い大会を開催中で、皆の注目はそちらに集まっていた。
「ホントに凄い……美神さんと行くレストランみたい」
 しかしおキヌの興味は、茶々丸の料理の腕に向いているようだ。
「ありがとうございます。おキヌさんの料理の腕もなかなかのものだと聞いております」
「そ、そんな、私なんて……!」
「いやぁ、おキヌちゃんの料理には助けられたなぁ……」
 おキヌは謙遜するが、彼女の料理が文字通り生命線だった時代があるという横島がいるのであまり意味が無い。
「前に木乃香も言ってたけど、お店の料理と家庭料理の違いなんでしょうね」
「なるほど、このか殿の料理は確かに家庭の味でござるな」
 そのまま料理談義に突入する面々。
 こちらのテーブルは平和に交流を進めていた。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.154


 その一方、別のテーブルは平和どころではない交流に突入しつつあった。
「だ〜か〜ら〜、これは大儲けのチャンスなのよ!」
「そうは言っても、私が作っている訳じゃないからなぁ。他には無いのか?」
「転移魔法を利用した公共交通機関というのも考えたんだけど、それだと私は儲からないのよねぇ……」
「それで儲けられるのは魔法使いだけだろうからな」
 令子のいるテーブルである。
 魔法使いの情報公開に先立ってエヴァから魔法の水晶球を手に入れようとしていた彼女は、更に一歩押し進めて商売にする事を考えていた。
 水晶球の密売? 違う、情報公開された時点で無意味になるような事をする意味が無いし、美智恵の目が届くところでそんな話をする訳が無い。
 では一体何をしようというのか。
「魔法の水晶球は、狭い日本でこそ活かせるわ!」
「その理屈は分かる」
「魔法の水晶球を使ったマンション経営! これはいけるわ! 今の内から準備を進めて、一等地を確保しておけば……!」
 そう、小さな地下室に収まる水晶球サイズで、レーベンスシュルト城のような広大な土地を確保できる。令子はそこに不動産としての価値を見出したのだ。
 今は隠していなければならないが、情報公開されたら堂々と使う事ができる。当然令子の言うように、魔法の道具を使って商売をする者も現れ始めるかも知れない。ならば先立って準備しておこうというのが令子の考えだ。
 隣で聞いていた美智恵は「インサイダー取引」という言葉が脳裏に浮かんだが、何も言う事ができなかった。
 なにせ令子の提案は現時点では法に触れない、いや、法が触れられない。その辺りを規制する法が存在しないからだ。
「ネギ君、ちょっとこっち来てくれる?」
「えっ、僕ですか?」
「あなた通販よくやっってるんでしょ? 魔法の道具について教えて欲しいのよ」
「ああ、そういう話なら俺っちがしますぜ、姐さん」
「…………あんた妖精?」
「こっちの人に初見で妖精って分かってもらったの初めてかも……」
 その後カモも交えて様々な道具の話を聞きながら話をしたところ、令子はいくつかの新商売のアイデアを披露してみせた。
 にも関わらず美智恵から見ても学園長から見ても問題ある発言が出なかったのは流石と言うべきか。「大金の前にはモラルもホワイトアウトする」とのたまう彼女だが、逆に言えばホワイトアウトしなければこれだけのバランス感覚を発揮するのだ。
 いつの間にやら3−Aの面々も夕映を筆頭に何人か興味を持って周りに集まっていた。すご〜いと持て囃され令子も鼻高々だ。
 もっともそれだけ母・美智恵が怖いという事なのだが、それは言わぬが花である。

「面白そうな話をしておるのぅ、わしにも詳しい話を聞かせてもらえるかの?」
「あら、興味あるの?」
「ホッホッホッ、そんなところじゃ」
 和やかに話しているが、彼の内心はそれどころではない。
 令子の提案は、情報公開すればおのずと誰かが考えていただろう。魔法を使った商売、色々と考えられる。
 だが、その全てが真っ当な商売だろうか? 魔法を使って詐欺を働く者が現れないだろうか?
 たとえば子供のネギでも簡単に入手できる『赤いあめ玉青いあめ玉年齢詐称薬』、それを使えばどんな犯罪ができるだろうか。
 もし老人がそれを使って若者を騙して結婚しようと目論んだとしよう。それがバレた時、それを結婚詐欺として訴える事はできるだろうか?
 いや、直接犯罪に使わなくても、それを使って凶悪な犯罪者が人間界に潜伏する事だって考えられる。
 もちろん魔法界でもそうした事は考えられていた。想定すべき事態や、それに対する対策もいくつも考えられていたが、悲しいかな、技術の使い方というのはそれを正しく使おうとするものより、悪用しようとする者の方が常に一歩先を行くものなのだ。
 しかし彼は気づいてしまった。今目の前に、悪用――もとい、非正規の使い方に関しては世界でも屈指の知恵が働く人物が居る事を。
 先程美智恵とは話を終えたばかりだが、もう一度話さねばなるまい。美智恵の方も同じ事を考えていたようで、チラリとそちらを見ると丁度二人の目が合った。
 コクリと小さく頷く美智恵、彼女も同じ事を考えていたようだ。
「ふむ……美神君、それらの道具を使って犯罪行為を行うならば、どういうものが考えられるかね?」
「はぁ?」
 ここで学園長は、あえて一石を投じてみる事にした。
「なぁに、他意は無い。ちと参考にしたいのじゃよ。我々は情報公開に向けて色々と準備せねばならんからの」
「ふ〜ん……」
 そう言われても令子は釈然としない。何か罠なのではないかと警戒している。
「令子、思いつく限りを言ってみなさい。これぞというものを隠したりしないで」
「や、やらないわよ。そんな事……」
 が、美智恵もこう言っているので大丈夫だろうと、思いつく限りを意見してみる事にした。
 美智恵が怖いからではない。多分。
 なお、このあたりでエヴァは「これ以上付き合ってられるか」と離脱した。これ以上は面倒だと横島の膝の上に座り、アスナとの口喧嘩を始めている。

 学園長はシスター・シャークティを呼んで議事録代わりのメモを取らせながら話を聞く態勢に入った。
 最初は怒られるのかと思って身構えていた令子だったが、二人の反応からセキュリティの話だと気づいた後は矢継ぎ早に様々なアイデアを出し始めた。聞いている者達がどん引きするレベルで。
「と言っても、今聞いた範囲でできる事なんてたかが知れてるんじゃない? 水晶球は何か隠すのに使えそうだけど」
 と裏金の隠し場所として考えていた人が言っている。
「年齢詐称薬などは需要があるのでは?」
 夕映が手を上げて意見を述べてきたので、令子も考えてみる。
「……割に合わないわね」
 しかし令子は、あまり旨味が無いと判断した。
「そうですか? 求める人はいくらでもいそうですが」
「そもそもそれで犯罪が成立するのは、薬が規制品として人間界に流れてこない場合でしょ? 普通に流通してたら、ただの輸入代行サービスよ?」
「それは、まぁ」
「規制された時は向こうでは簡単に手に入るのにこっちは超高額ってなるだろうけど、そこまでするだけの価値はあるかしら?」
「手間の割には儲けが少ないという事ですか?」
「いやぁ、手間は掛からないと思うぜ? 規制品になったら通販はできなくなるだろうけど、魔法界から直接持ってくりゃいい。手間はこっちのあぶねークスリと変わらないんじゃないかな?」
 好奇心を刺激されたのか夕映が身を乗り出すと、カモがゲッゲッゲッと笑いながら会話に割り込む。
「え、そんな簡単なの?」
「……令子?」
「な、なんでもないわ……」
 そして娘のよからぬ反応を、母は見逃さない。
「ほっほっほっ、そこまで簡単ではないぞ。二つの世界を行き来するにはゲートを通らねばならん。あそこはそこらの空港よりも警備もチェックも厳しいからの」
 学園長もそんな甘いものではないと笑いながら教えてくれた。
 しかし、ここで美智恵が怪訝そうな顔になる。
「……あの、そのような施設があるとはオカルト業界でも聞いた事が無いのですが、人避けの結界か何か張ってあるのですか?」
「いや、魔法による迷い路じゃ。手順通りの儀式を行いながら近付けねばたどり着く事もできん。一般人がたどり着けるとしたら、それは宝くじで一等に当たるような確率じゃよ」
「逆に言えば、儀式を知っていればフリーパスですか……」
 学園長の答えを聞いた美智恵は、すぐさま人間界側から部外者が入り込む可能性を考えた。最悪テロリストが入り込む事も。
「というか情報公開後もその方法を取り続けるのですか?」
「ムッ……」
 夕映の言葉に学園長は唸った。
 それは難しい問題である。もし情報公開をして、この二つの世界を行き来する方法――ほとんど魔法使いにしか使えない方法が知られた時、人間界の人々は魔法使いをかえって胡散臭い存在だと思わないだろうか。
 今まで通りの秘密主義を貫くではなく、もう少しオープンにする。一考に値するかも知れない。
「税関みたいなのは無いの?」
「そういうのは魔法界にあるぞ」
「ああ、何かあっても魔法界で対処できるって事ね」
「そういう事じゃ……が、情報公開するならばこちらも空港のようなものを造った方が良いかも知れんのう」
 そう言う学園長は、この件についてできるだけ早く魔法界の面々と話し合わねばならないと考えていた。
「というか魔鈴なら自力で行き来できそうだけど」
「ひょっ?」
「まぁ、そのレベルって時点で容疑者は何人に絞られるかってレベルだから」
「……なるほど、割に合いませんね」
「でしょ?」
 ちなみにゲートを通らずに二つの世界を行き来する方法も存在する。
 彼女達が言う魔法薬の密輸については割が合わないだろうが、それを悪用すれば一体どれだけの事ができるのか。
 この話を振ったのは学園長自身だが、彼女達の話を聞きながら、彼はだんだんと頭が痛くなってくるのを感じていた。

 その後も令子は絶好調で「犯罪計画」を列挙していった。
 その度にカモと夕映がそれを精査していき、それに合わせて学園長、美智恵、シャークティでどう対処するかを話し合った。
 結論から言ってしまうと、学園長達魔法使いの考えは甘かった。相手が「魔族も認める悪辣さ」を持つ令子だったので仕方がない。
 予想外のところから繰り出されるアイデアの数々、対処法を考える側に令子にも負けていない美智恵がいてくれたのが不幸中の幸いであろう。
 結局横島達他の面々がパーティーを終えて部屋に戻った後も話し合いは続けられたが、学園長が他の魔法界代表者達を無理にでも呼んでおくべきだったと気付いたのは、流石の令子もネタが尽きかけた頃であった。
 エヴァが去り際に学園長を一瞥し、ニヤリと笑ったのは言うまでもない。
 それはともかく、結果として情報公開に伴う諸問題への対処について考えたメモの束が完成したので、「令子との会談」は美智恵の時以上の大成功を収めたと言える。
 当初はこちらに泊まって明日まで仕事をサボろうと考えていた学園長だったが、それどころではなくなってしまい、今日中に帰る事になってしまう。
「……さて、こいつを早急に皆に伝えなければならんの。明日の朝礼の後に時間を作ってもらおうか」
「明日ですか? それぞれ任務がありますし、麻帆良祭が終わるまで待った方が良いのでは?」
「いや、先にこの問題点と草案だけでも伝えておく。ゲートの話があったじゃろう? これだけの大人数が魔法界から来ておるんじゃ。帰還時が狙い目だと思わんかね?」
「……なるほど」
「という訳で、手伝ってくれんかの?」
「…………一部だけなら引き受けます」
 そういう話となると断る事ができず、シャークティは一部のメモの書類化を引き受けた。
 この後学園長は魔法先生達のセーフハウスに赴き、そこにいた明石教授、ガンドルフィーニ、瀬流彦を巻き込んでメモの束を書類にまとめる事になる。
 明石教授達は恨みがましい目で学園長を見ながらも、内容が内容だけに断る事ができなかったそうだ。





つづく


あとがき

 ゲートに関する話は原作のイベント、描写を参考にして書いています。
 マクギネスはその辺の空港よりも警備もチェックも厳重と言っていましたが、実際にフェイトはおろか桜子達が入り込めて、裕奈達は一緒に転移までしています。
 これに対してネギは「どんな厳重な警備でも事故や事件は起こってしまう」と言っていましたが、流石に一般人に気付かずにまとめて転移させてしまうようなシステムではダメだろうという事で、人間界から魔法界への移動についてはセキュリティが甘いと判断しました。

 という訳で今回は令子無双みたいな感じになりましたが、こればかりは相手が悪かったという事で。
 横島も原作より成長していますが、流石にこの辺りでは令子に敵いません。


 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

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