topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.156
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「第二試合は『3D柔術』の使い手、山下慶一! 対するは何やら只者ではない雰囲気を漂わせるコスプレ少女、長瀬楓! これでも中学生です!!」
 和美の紹介に湧き上がる歓声。楓は色々とツっこみたかったが、忍者である事を明かされても困るので、今は「ニンニン」とスルーしておいた。
 内心は「これでも中学生」というのがどういう意味なのか、後で問い詰める気満々であったが。
「第二試合……Fight!!」
「ごッ……かぺぽ……?」
「……おぉ、スマンでござる。ちと考え事をしていたでござるよ」
 そして試合は一瞬で終わった。
 試合開始直後に先手必勝と山下が飛び込んだが、楓が強烈なカウンターを叩き込んだのだ。
 山下もネギパーティで鍛えていたが、共に鍛えていた楓にはまだ届かなかったという事だろう。
 これでは和美が実況を挟む間も無い。彼女が我に返って楓の勝利を宣言したのは、茶々丸が何が起きたのかを観客に解説し終えた後の事であった。

「ぜ、全然盛り上がらない……」
 そして大会運営本部では、二試合続けて一瞬で終わってしまった事に超が頭を抱えていた。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.156


「あっさり勝負が決まるわね〜……」
「楓ちゃんってネギと修行する前から強いですからねぇ」
 つまらなそうにポップコーンを口に放り込む令子。フォローする明日菜もこの展開には苦笑いだ。
「ていうか、誰と誰が戦うとか超が調整してるんじゃないっすか?」
「ああ、超ならしそうですね」
 横島の言葉に刹那も同意する。
 アーニャとコレットはそんな事をするのかと首を傾げたが、パルが「ああ、後の試合の方が盛り上がるようにするためね」と言うと、まき絵と亜子も「超りんならやる」と同調した。
 皆の様子を見てアキラが不安そうに言葉を漏らす。
「ふ、不正じゃない……よね?」
「んなワケないでしょ。元々トーナメントの組み合わせは運営側が決めるって話なんだし」
 それに大丈夫だと太鼓判を押し、彼女の不安を払拭したのは令子だった。
 これだけの大会を運営できる『学祭長者』とやらになれるだけの人物ならば、盛り上がる試合を序盤に持ってきて竜頭蛇尾にするような真似はしないだろうというのが彼女の考えだ。
「でも、盛り上がらん試合ばっかりやとお客さん飽きるんとちゃう?」
「予想外に盛り上がらなかったのかも知れませんよ、このちゃん。まぁ、あまりにも盛り上がらなかったら超が何か手を打つと思いますが」
「次の試合、誰と誰?」
「え〜っと、中村さんと……リカードさんですね」
「あっさり勝負つきそうやなぁ……」
 リカードの事を知る面々は、次の試合もあっさり終わりそうだとため息をつく。
 令子だけは彼の事を知らなかったが、コレットから魔法界で『近衛部隊の鬼教官』と呼ばれている有名人だと教えてもらうと、なるほどと納得した。

「よぉっし、麻帆良の若人よ! 稽古をつけてやる、胸を借りるつもりで掛かってこい!」
「ウ……ウッス!」
 案の定第三試合はリカードの圧勝であったが、リカードが稽古だとあっさり終わらせなかったため一定の盛り上がりを見せた。
 中村が果敢に烈空掌を放ち、リカードがそれを迎撃する。見た目には派手な戦いが観客に受けたようだ。
「……麻帆良って、気を飛ばせるヤツとか普通なの?」
 麻帆良初心者の令子は、麻帆良の事を少し誤解し掛けていたが。
「いやいやいや、流石にそれはないですから!」
「というか、リカードの方が使っているのは魔法だな。無詠唱の『魔法の矢(サギタ・マギカ)』だ」
「そういえば、禁止されてるのは詠唱だけやったなぁ」
 そう木乃香がつぶやく。それはある意味「ルールの隙間」なのだが、これについては運営側が意図的に空けていた隙間だと思われる。
「噂通りの『鬼教官』なら使わなくても勝てそうだけど……」
「盛り上げるためにわざとやってるんだろ、リカードのおっさん」
「横島さんもそう思います?」
 なお魔法界出身者のコレットは、リカードが手加減していると感じたようだ。同時に妙なサービス精神を発揮しているんだろうなとも。
 その一方で令子は、別の事が気になっていた。
「ていうか次の試合シロよね?」
「そうみたいですね」
「勝っても次の試合であいつと戦うの?」
 トーナメントの組み合わせにより、シロは次の試合で勝ってもリカードと戦う事になるのだ。
 令子は魔法については素人だが、それでもリカードが強い事は分かる。むしろ彼は白兵戦こそが本領だ。詠唱禁止はハンデにならないだろう。
 シロの優勝にお金を賭けている令子は、気が気ではなかった。たとえそれが彼女にとってはお遊びにもならない端金であったとしても。
 しかし、そんな令子を刹那は顔を引きつらせて見ている。
「何よ?」
「い、いえ、シロさんの対戦相手が……」
「…………え゛?」

「続けて第四試合を行います! 東京からの参加者です! オカルト業界からの刺客、犬塚シロ! 対するは麻帆良が誇る『デスメガネ』こと……タカミチ・T・高畑〜!!」

 会場に朗々と響き渡る和美の声。同時に今まで以上の大歓声が会場を揺らす。
「……『デスメガネ』?」
 そのノリについていけない令子が、呆れ顔でポツリと漏らす。
「あ〜、高畑先生って『学園広域指導員』で生徒から恐れられてるから」
「ああ、生徒の悪口なのね」
 明日菜のフォローに令子はひとまず納得したが、この時点ではたかが生徒指導の先生に自分の助手が負けるとは思えなかった。
「ククク……次の試合が楽しみだな」
 そしてエヴァは、そんな令子を肴にニヤニヤしていた。

 選手控室の建物は枡席の後ろにあるため、シロと高畑の二人は横島達の脇を通って舞台に上がる。
 普段のシロならば「せんせ〜♪」と声を掛けてきそうなものだが、今は高畑から強者の気配を感じ取ったのか緊張した面持ちだ。
「両方知ってるタダオは、どっちが勝つと思う?」
「知ってるって言っても、高畑先生しばらく麻帆良にいなかったからなぁ」
「魔法界では超有名人なんですけどね〜。雑誌の表紙飾った事もあるんですよ」
「何やってんの、あの先生……」
 ちなみにコレットは、最近はアシュタロスを倒したGS達に夢中だったので、高畑が表紙を飾った時の雑誌は確保していないそうだ。

 そんな話をしている内に試合開始。まずはシロが霊波刀を出して高畑の出方を伺う。
 輝く刀身に観客は声を上げ、茶々丸はそれが霊能力の一種である事を解説する。魔法と違って秘匿しなくても良いので解説としては楽なものだ。
 霊能力について解説していれば、魔法については触れなくても勝手に同じようなものだと勘違いしてもらえるかもしれないという思惑もあったりする。
 対する高畑は「やりにくいなぁ……」と苦笑しつつ、両手をポケットに突っ込んで構えも取っていなかった。
 シロがどれだけ睨みつけようとも、高畑は意に介さない。
 これでは埒があかないと判断したシロは、思い切って斬り掛かった。
「これはなかなか……!」
 少女の細い手足からは想像もつかないスピード。それは高畑を驚かせるには十分なものであった。
 しかし高畑は一歩も退く事無く、目にも止まらぬスピードでポケットから拳を引き抜き「何か」を撃ち出した。
「なんのぉッ!」
 シロは咄嗟に霊波刀で防ぐ。勢いを殺しきれずにたたらを踏む事になったが、なんとか直撃を避けた。
「話には聞いていたが……超高速の拳圧、見事なものでござるな」
「まいったなぁ、予選のあれだけじゃ分からないと思ったんだけど」
 実は彼の謎の技については、昨夜令子と美智恵により正体を探るべく分析が行われていた。
 ポケットを鞘代わりにして居合い斬りをするようにしているのではないか。いや、手の位置はそのままに腰を切る事で相手に拳を抜く動作を見せずにしているのではないかといくつかの意見が出た。
 結局その正体を突き止める事はできなかったが、両者に共通していたのは高速で撃ち出した拳圧による攻撃だろうというもの。
 シロはその話を聞いていたので、咄嗟に防御する事ができたのだ。
「仕組みはよく分からなかったが、どういうものかは予想できたでござる」
「……なるほどね」
 「超高速の拳圧」についてはそのものズバリだ。言い当てられた高畑は頭をかいた。
 しかし余裕の表情は崩れない。彼は分かっているのだ。自分の『居合い拳』は、仕組みが分かったところでそう簡単に崩されるものではないという事を。
「じゃあ、名前も教えておこうか。これはね『居合い拳』というんだ」
「ッ!?」
 その瞬間、高畑の目が「先生」から「戦士」のものへと変わった。
 それを認識するよりも早くシロの身体が動く。退くのではなく前進するために。
 彼女は本能的に感じたのだ。攻めなければ負けると。
 そしてそれは正解だった。『居合い拳』の唯一の弱点、それは距離だ。近過ぎると撃つ事ができない。
 もっとも高畑はインファイトも得意とするため、近距離は『居合い拳』の弱点であっても高畑の弱点ではない。
 それでもあえて距離を詰めて戦う。それがシロにとっての唯一の勝利への道だ。
「勢いはある……だが!」
 しかし高畑もさる者、『居合い拳』の弱点は熟知している。その対処方法も。霊波刀の連撃を腕でいなしつつ、僅かな隙を突いて蹴りを叩き込んでシロを吹き飛ばした。
 舞台の上を転がったシロはすぐさま身を起こしたが、その瞬間追撃の『居合い拳』を叩き込まれる。
 勝負を決めるべく更に撃ち込まれる拳圧。シロはただ前進するのではなく横の動きも交えて対応するが、高畑の連打は的確にシロを捉えており隙を見せない。
「こなくそーーーっ!!」
 このまま続けてもジリ貧だと感じたシロは、思い切って突貫する。
 破れかぶれになった訳ではない。
「『八房』に比べれば遅いッ!」
 一撃一撃が重いが、速さはかの妖刀『八房』の斬撃に劣る。
 シロは迫りくる拳圧をいなし、叩き落とし、斬り払って高畑に肉迫する。
 ここで初めて高畑の表情に焦りが見えた。
「覚悟ーッ!!」
 勢いを殺さぬまま高畑の懐に飛び込むシロ。
 がら空きの腹目掛けて霊波刀を叩き込もうとした瞬間――逆にシロの方が場外まで吹き飛ばされた。
 シロはそのまま池に転落。数秒後に顔を出したが、ダメージが大きかったらしく十秒以内に舞台に戻る事ができずリングアウトで敗北となった。

 高畑は舞台を降り、戻ってきたシロに向けて手を差し伸べる。
「いやぁ、驚いたよ。まさか『居合い拳』を斬り払うなんて」
「高畑殿も強かったでござるよ。特に最後の一撃は」
「大丈夫かい?」
「これぐらい大丈夫でござるよ!」
「ハハハ……」
 思いの外元気なシロに、高畑は頬に一筋の汗を垂らせて力無く笑った。


 一方枡席の方では、賭けていたシロの敗北に令子がショックを受けていた。
 下手に触れるとそれを弾みに爆発しそうな雰囲気だったので、皆空気を読んでスルーしている。
 対してハッハッハッと笑っているのがエヴァである。
「高畑め、大人げない」
「何がだ?」
「最後に白犬の一撃が決まろうとした瞬間、あいつは切り札を切りおった。お遊びの大会で出すものでもなかろうに」
 言うまでもなく「白犬」とはシロの事である。ちなみに小太郎が「黒犬」だ。
「切り札?」
「ああ、『咸卦法』といってな、気と魔法力を合わせて強大な力を得る技だ」
 令子達GSが霊力と魔法力、あるいは霊力と気を組み合わせるのと違い、気と魔法力を組み合わせるのは非常に難しい。それだけに成功すれば爆発的に力を高められるのが『咸卦法』である。
「最後の一発にそれを使ったのか」
 シロが霊波刀を叩き込もうとした瞬間、高畑のカウンターがシロの腹に炸裂した。横島、令子、刹那、そして意外なところでアキラにはそれが見えていた。
 その一撃に『咸卦法』が使われていたのだ。それがなければシロは元気に舞台に戻り、試合はまだ続いていただろう。

「やっぱ俺、出ないで良かったわ。あいつらと戦うとか1000万でも割にあわん」
 しみじみと呟く横島の言葉に、皆がしみじみと頷いた。

 それはともかく、これで本戦出場者の内半数である八人の試合が終わった。
 残りは八人。ネギ、小太郎、真名、豪徳寺、犬豪院、田中さん、そして『黄昏のザイツェフ』ことチコ☆タンとクウネル・サンダースことアルビレオ・イマ。そうそうたるメンバーだ。
 トーナメント表一段目の後半戦、こちらも激戦が繰り広げられるだろう。
「こうなったらやけ食いよ! 横島君、ありったけ買ってきなさい!」
「はいはい」
「あ、横島さん、手伝います!」
 しかしスッたばかりの令子は、あまり興味が無いのであった。





つづく


あとがき

 霊波刀で居合い拳を防げるかについてですが
 霊波刀は刃というより霊力を収束させたエネルギーの塊のようなものと考え
 風楯(デフレクシオ)で防げるなら、霊波刀でも防げるだろうと判断しました。

 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

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