topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.159
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 本当に、本当に色々とあったが、ネギとナギの親子対決は、ネギの勝利で幕を閉じた。
「よくやったな、ネギ」
 本音を言えば「よくもやってくれたな」と言いたいところだろうが、そこは父親としてのプライドに掛けて意地でも言わないようだ。
「まぁ、あれだ。浮遊術と虚空瞬動は覚えた方がいいぜ。ハイレベル同士の戦いに首を突っ込みたいならな」
「ハイ!」
 元気な返事をするネギだが、やはりこれまでのダメージは大きいらしく足が震えている。
 ナギは苦笑すると、息子を支えながら共に舞台を降りた。
 実は彼も足が小刻みに震えているのはここだけの話である。和美は気付いたが空気を読んで黙ったまま親子の後ろ姿を見送った。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.159


「……悪ぃな。お前には何もしてやれなくて」
「えっ?」
 不意の言葉にネギが顔を上げると、そこには優しげな目をしたナギの顔があった。
 その言葉は、六年前に会ったナギが言った言葉と同じものだ。
「クウネルがこんな形でお前と会わせたって事は、俺は死んだって事だろ。こんな事言えた義理じゃないが……元気に育ちな」
 そう言ってナギはフードを被る。ネギは気付いた、時間がほとんど残っていない事を。
「待って、父さん! 父さんは生きてるんです! 六年前の雪の日、父さんは僕を助けて……!」
「何……?」
 その言葉を聞いたナギの口元に笑みが浮かぶ。
 ネギの言う通りならば、少なくとも六年もの間我が子の前に姿を見せていない事になる。
 所詮は再現された過去の記憶。今の自分がどういう状況なのかは分からないが、きっとろくでもない事に巻き込まれているのだろう。
 自分自身だが目の前にいたらぶん殴ってやると思いながら、ナギはくっくっくっと笑った。
「まぁ、あれだ。俺の想像以上に成長してたぜ。それは保証する」
「ハ、ハイ!」
「今のお前には言うまでもない事かも知れないが……俺の跡を追うのはそこそこにしとけ。最後の攻撃とかアレだ、多分俺でもできない」
「アハハ……」
 そういう意味ではナギもネギの成長が楽しみだった。このまま消えてしまうのが惜しいと思ってしまうぐらいに。
 だからナギは、最後にこの言葉に伝える。
「お前は……お前自身になりな」
 俺が予想もつかないような成長をしてみせてくれという願いを込めて。
 その言葉と共に溢れ出る光。それは柱となって空へと伸びていく。その様はまるで魂が天に還っていくかのようだった。
 そして光が収まると、フードの中はアルビレオの顔が。
 にっこりと微笑む彼に、ネギはペコリと頭を下げた。

「……良かったのか? 話しに行かなくて」
 枡席から彼等の姿を見ていた横島は、膝の上に座るエヴァの頭を撫でながら声を掛けた。
 対するエヴァは不本意そうだが、腰を上げようとはしない。それどころか横島の胸を背もたれにして身体を預けてくる。
「言いたい事は山程あったが……ぼーやの健闘に免じて、な」
 思いの外ネギが健闘したため、再現できる時間がほとんど残っていない事にエヴァは気付いていた。
 僅かな時間では呪いを解かせる事はおろか、まともに話す時間も作れないだろうと判断した彼女は、残りの時間全てをネギに譲り黙って見送る事にしたのだ。
 ここで物欲しげな顔をしていたらアルビレオがからかってきたと思われるので、意識して落ち着いた姿を演じているという面もある。
 実際、妙神山のヒャクメの件が無ければここまで落ち着いてはいられなかっただろう。そういう意味では横島に感謝である。
 エヴァは横島にしなだれ掛かり、仲睦まじい姿を見せつけて勝ち誇るが、アルビレオは旧知の少女の元気な姿に微笑むだけだった。
 その後アルビレオはそのままネギを連れて控え室に戻ると、彼を高畑に預けて自身は忽然と会場から姿を消してしまった。
 ナギをネギに会わせた事で目的は果たしたという事だろう。


 次の試合は古菲と楓、3−A同士の戦いだ。
 古菲が観客の歓声に応えながら舞台に向かい、楓がその後ろに続く。やはり一般生徒からの人気は昨年のウルティマホラチャンピオンである古菲が頭一つ飛び抜けている。会場には彼女目当てで来たという者も少なくないだろう。
 一方何故かギャルソンのような出で立ちで登場した楓は、中学生離れの長身とスタイルで一部の目を集めている。
 その楓が枡席の近くで足を止め、横島に小声で話しかける。
「横島殿、古に試合でアーティファクトを使わないように言ったでござるか?」
「いや、そんな話はしてないぞ? 頭の輪っかはいつも付けてるし」
 『猿神(ハヌマン)の装具』の一部、『緊箍児』。身に着けている間中古菲の霊力の一部を吸い取り、溜め込む効果があるものだ。
「どっちかというと、古菲の方が嫌がってるんじゃない?」
「その、古菲が嫌がっているのは、アーティファクトを使う事じゃなくて、頼る事だと思う」
 楓の問い掛けに、横島だけでなくアスナとアキラも加わって答えた。
 すると楓は「なるほどなるほど、ニンニン」とうなずき、何やら納得顔で古菲の後を追った。
 そして始まった試合は、開始早々一方的な展開となる。
 楓が影分身を使い、四方八方から襲いかかったのだ。
「刹那ちゃん、あれ大丈夫なのか?」
「予選でも使ってましたし、多分……」
 横島は今更ながら麻帆良ってズレてるなと思いながらその光景を見ていた。
 それは「本物」であると知っているからこそ思うもので、一般生徒達は単純に演出として楽しんでいるのかも知れないが。それはそれで能天気な話である。
 古菲も負けじと腰の帯を使った布槍術で対抗する。派手な動きに歓声が上がるが、楓は伸びた射程距離を見切って捕らえさせない。
「まったく、馬鹿者が……」
 エヴァが吐き捨てるように呟いた。
 彼女は気付いた。楓は古菲の射程距離を完全に見切っていると。
 ここから逆転の手があるとすれば、古菲がアーティファクト『猿神(ハヌマン)の装具』を使う事だが、彼女がそれに頼りたくないと考えているのは先程アキラが言った通りである。
 それがエヴァには面白くない。古菲のこだわりも理解するが、それは同時に選り好みしているという事でもあるのだから。
 楓は元々鳴滝姉妹に慕われるなど面倒見が良く、母性の強い娘だ。
 この戦い方は、彼女なりに考えた確実に勝利を得る方法であると同時に、時と場合によってはアーティファクトを使う必要があるのだと古菲に伝える方法なのだろう。
 その証拠に彼女はヒット・アンド・アウェイを繰り返して常に距離を取り続けている。
 古菲もヒットの瞬間を狙ってカウンターを決めようとしているが、その点においても楓の方が一枚上手であった。
 手足の長さ、脚力、跳躍力、今の古菲では、それらをひっくるめて「射程」が足りない。
 今この状況をひっくり返すには、やはり『猿神の装具』が必要となる。変化の術を使って身体能力を強化。それによって一時的に射程を伸ばすのだ。

「……古、使わぬのでござるか?」
 舞台上では、楓が足を止めて語りかけた。何をであるかは言うまでもない。
 無論油断はしていないが、そもそも古菲の方がフラフラで反撃できる状態ではなさそうだ。
「いやいや、これぐらいは自分の力で何とかしないといけないアル」
「そのストイックさは理解するが、使うべき時というものがあるでござるよ?」
「それなら、今はその時じゃないアル。掛かっているのは自分自身のみ、横島師父達に迷惑は掛けないアル」
「……なるほど、そこが古の越えられえぬ一線でござるか」
 仲間を守るために必要ならば、不本意でも使う。それが古菲の判断基準のようだ。
 この試合中はアーティファクトを使わせる事はできない。楓はそう判断した。
 ならばもう十分。逆に言えば仲間の命が掛かっている時は使うという言質は取れたのだ。これ以上はただただ古菲を苦しめるだけの蛇足となる。
「行くでござるよ……!」
 ここで手を抜くような真似はしない。そんな手加減は古菲も喜ばない事は理解している。
 それに現状では圧倒しているが、元々距離を詰めての戦いは古菲の得意とするところ。勝つとなれば、生半可な攻撃では話にならない。
 次の一撃で勝負を決める。楓は四人に影分身し、四方から襲い掛かった。
「楓忍法! 四つ身分身朧十字ッ!!」
 本体とほぼ変わらぬ威力の攻撃を繰り出す三体の分身を使った同時攻撃。いくら古菲でもこれを防ぐ術は無い。カウンターをしようにも確率は四分の一、仮に本体に来たとしても耐え切れる。
 古菲は回避する事もできずにまともに食らい、肉弾戦とは思えぬ轟音が会場に響き渡る。
 なす術も無く食らった古菲は、意識を失って倒れ込む……はずだった。
「なんと……!」
 三方は確かに通り抜けて軌跡を描いたが、一方が途中で止まっている。
 直後に楓の服の背中部分が弾け飛ぶ。真っ先に刹那が気付いた。古菲は、為す術も無く攻撃を受けた訳ではない。本体にカウンターを食らわせたのだと。
「……硬気功で拙者の攻撃を受け止め、浸透勁で攻撃を……」
「一矢……報いたアル……」
 白い歯を見せて微笑む古菲。しかし、そこまでだった。
 そのまま力尽き、楓にもたれ掛かるように崩れ落ちた。
 それを見た和美は舞台に上がり、慌てて楓の勝利を宣言。担架を呼ぼうとしたが、その前に横島とアキラが駆けつけた。
「横島殿、わざわざ来なくても拙者が運んだものを……」
「そんな無理、させる訳ないだろ?」
「……バレバレでござるか」
「横島さん、早く。長瀬さんは私が肩を貸すから」
 古菲は横島が抱き上げ、楓はアキラが肩を貸してそのまま控え室へと戻るのだが、その前に楓は棄権を宣言。二人の戦いは事実上の相討ちとなった。

 武闘会のために用意された臨時救護室で横島が調べたところ、古菲は全身いたるところの打撲に加えて腕を骨折。楓は肋骨が折れており、内臓にもダメージがあった。
 もちろん横島は、すぐさま文珠を出して二人を治療。楓も既に棄権しているのでルール違反ではない。
「想像以上の威力があった……いや、それだけではござらんな。想像以上にタフになっていたでござる」
 確かに実力、戦闘技術では楓が上回っていた。しかし、相討ちまで持って行かれた。
 平たく言えば「古菲がしぶとかった」。ある意味横島の弟子らしい話だ。
 全ては古菲の霊力が高まっていたためだろう。気に霊力を上乗せする事で硬気功と浸透勁の効果を高めるだけでなく、霊力によって耐久力も増していた。楓は相討ちになった理由をそう分析した。
 霊能は刃で、霊力が鋼。まずは鋼を鍛える。妙神山仕込みだという横島の修行方針が、その真価を発揮したといえる。
 要するに横島の霊力供給で日夜あふんあふん言わされていたのは無駄ではなかったという事である。
「そういえば、最後のカウンター……当てずっぽうだったでござるか?」
「いや、ちゃんと分かってたアルよ? なんとなく違いが分かったというか……」
「ああ、それ多分霊感。俺も区別はついてたし」
「えっ、私分からなかった……!」
 横島の言葉を聞いて、楓は感嘆のため息をもらした。
 つまり古菲は本体を見極め、分身の攻撃を無防備で受ける事を覚悟した上で最後のカウンターを放ったのだ。
 あれは偶然ではない。古菲が実力でもぎ取った相討ちである。
「……古の成長を見誤った拙者の油断でござるな」
「いやいや、楓も強かったアル。私もまだまだ修行が足りないネ」
 先程まで戦っていた二人が、今は和やかな空気で互いの健闘を称え合い始める。
 横島は文珠を出す程の怪我だったのにと呆れ、アキラと顔を見合わせ、二人揃ってため息をつくのだった。





つづく


あとがき

 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

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