topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.165
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 鈴音の姿が完全に掻き消えた後、高畑達は渡り廊下周辺を捜索したが痕跡を見つける事はできなかった。
 完全に取り逃したと判断した高畑達は、一旦学園長に報告し、改めて超を捜索するためにその場を去る。

「うむ、成功 いや〜、今のはなかなかヤバかたネ」

 超が再びその場に現れたのは午後七時二分。辺りがすっかり暗くなった頃合いだった。
 そう、彼女は魔法先生達に捕らえられそうになった時、この場から逃げたのではなかった。時間移動(タイム・ポーテーション)を使って、あの時から逃げ出したのだ。
 もっとも数時間の移動が限度であるため、捨て台詞のように三日目に飛ぶことはできなかったが。
 だがそれでも、高畑達を完全に出し抜いたのは事実だった。今この場に魔法使いは一人もいない。
「おとイカン、こんな所にいたら誰かに見つかってしまうヨ」
 それでも警戒を怠らず、周囲を見回し魔法先生達がいない事を確認した超は、そそくさとその場を離れようとする。
 彼女にはまだやらねばならない事がある。そのためにも今は身を隠すのだ。
 いそいそと渡り廊下を小走りして建物に入ろうとしたその時、彼女の周囲を取り囲むように三人の人影が姿を現した。
「! 何奴!」
 高畑を前にしても余裕の態度を崩さなかった超が、初めて表情を引き締め、身構える。
「犯人は現場に戻る……この場合は、最初から離れてなかったみたいね」
「まさか……!」
 コスプレしていないにも関わらず、コスプレしている観光客に混じっても負けない存在感を放つゴージャスな立ち姿。そう、美神令子だ。
「超さん、私達もいるからねっ!」
 なお、残りの二人は横島とアスナである。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.165


 しかし超は、二人を気にしている余裕は無い。
「……どうしてここが?」
 努めて笑みを浮かべ、余裕があるように見せかけようとするが、令子には通じない。
 令子達がここにいたのは偶然ではなかった。そして、ここで待ち伏せしていた訳でもなかった。彼女達がここにいたのは、予想通りこの時間に超が姿を現したからだ。だからこその余裕である。
 令子は勝ち誇った態度で、超に向かって口を開いた。
「ふぅん……あんた、他に時間移動を使える人を知らないみたいね」
「何を……?」
「私自身も何度か使った事あるけど、それ以上に周りで何度も見てるとね……近くで時間移動が行われると察知できるようになるのよ!」
 優れた霊感の為せる業である。

 数時間前、横島達が令子達と合流したのは、丁度超が高畑達の前から姿を消した時だった。
 横島は早速例の写真を見せようとするが、令子は呆然とした顔で空を見上げたまま、それを受け取ろうとしない。
「美神さん? どうしたんですか?」
「おキヌちゃん……ママ、もう東京に帰ったわよね?」
「え? ええ、そのはずですけど」
 いきなりで何の話か分からないおキヌが、戸惑いながら答える。
 しかし、その答えが令子にとっては何よりも重要だった。
 この時、彼女は気付いたのだ。近くで時間移動が行われた事に。
 美智恵は今、東京に戻っていて麻帆良にいない。にも関わらず、この近くで自分以外の誰かが時間移動を使った。令子の霊感は、その事実を鋭く感じ取っていた。
「千草、ひのめとおキヌちゃんをお願い!」
 そう言うやいなや、令子は駆け出す。
「美神さん!」
「私も行きます!」
 ただ事ではない気配を感じ取った横島も駆け出し、アスナも後に続く。
「出よ(アデアット)! 横島さん、土偶羅さんを!」
 夕映がとっさに土偶羅魔具羅を呼び出して横島に投げ渡し、振り返りそれを受け取った横島はそのまま小脇に抱えて走り去った。
 それから例の渡り廊下にたどり着いた令子達は、土偶羅魔具羅の協力もあってそこで時間移動が行われた事を確認。
 更には使用されたであろうエネルギーの量を解析し、再び出現する時間を予測。
 その結果に合わせ、こうして超を待ち構えていたのだ。実際にここで彼女を待ったのはほんの十分程度である。
 超が令子達の存在に気付かなかったのは、横島の文珠を使って『隠』れていたからだ。

 そして今、四方から刀子達横島パーティも現れ、横島と超達を更に取り囲む。
 超の出現予測地点の四方に分かれ、それぞれが文珠を使って隠れていたのだ。煩悩まみれの日々を送る横島がいるからこその大盤振る舞いだ。
 なお、これで使用した文珠の内の半分は、地下で半裸の刀子達を見る事で生み出したものだったりするのは秘密である。
「私自身かママが時間移動してきた可能性を考えてたけど、まさかあんたみたいな見ず知らずの子とはねぇ」
 時間移動はかなり希少な霊能だ。使いようによっては世界の命運を左右する霊能のため、神魔族から使用を制限されるレベルのものである。
 令子もまさか自分の家族以外に使い手がいるとは思っていなかった。こうしてわざわざ待っていたのも、そんな希少な霊能を持つのがどんな人物か知りたかったという面が大きい。
 それ以上に気になるのが、超が時間移動に必要なエネルギーをどうやって調達したかだ。
 令子達は雷のエネルギーを利用して時間移動を行う。超は霊能力者であると同時に優れた科学者でもあるらしいが、雷と同等のエネルギーをどう持ち運んだというのか。
 それがもし魔法使い達の持つ技術だというなら、自分も欲しい。令子は内心そんな事を考えていたりする。
「これは奥の手だたけど……」
 対する超は、不敵な笑みを浮かべて袖に手を入れて何かを取り出す。しかしその拳は握られたままで、それが何であるかは見えない。
 何か分からないが、再び時間移動をするつもりか。そう考えた令子は、手に持った何かを叩き落とすために鞭状になった神通棍を振るう。
「さらばっ!」
 しかし次の瞬間、超は予想外の動きに出た。
 握りしめた拳の中から光が漏れると、なんと超の身体がふわりと浮かび上がって神通棍を回避。そしてそのまま猛スピードで飛び去ってしまったのだ。
「逃げた!?」
「追いましょう、美神さん!」
 だが、横島パーティにも空を飛べる者はいる。
 高音の影の使い魔には令子とシロが、愛衣の『炎の狐』にはアスナが、そしてコレットのアーティファクト『月の舟』には横島がそれぞれ同乗する。
 そしてアーニャは自前の魔法の箒で、刹那は自前の翼で飛び立ち、一行は超の後を追った。

「クッ……!」
 流石の超も、この面子からは容易く逃げる事はできない。
 追い詰められた超は、上空に浮かぶ飛行船の上に降り立った。
 真っ先に追いついたのは『月の舟』に乗ったコレットと横島。横島だけが飛行船の上に飛びおり、コレットはそのまま周囲で待機する。
 次に追いついたのは『炎の狐』の愛衣とアスナ、そして刹那だ。こちらもアスナだけが飛行船の上に飛びおり、二人は周囲で超の動きを警戒する。特に刹那は隙あらば斬ると言わんばかりに超を睨みつけていた。木乃香を狙ったフェイトと手を組んでいるかもしれないという話を聞いたからだ。
「よくここまで来たネ……」
「むしろ、お前がよくここまで逃げられたな」
 その気になれば一時間も掛からずに月を一周できる『月の舟』に、音速のスピードを出せる『炎の狐』。それらに追われてここまでたどり着けただけでも大したものだ。
 時々不可思議な動きをしていたが、それはおそらく彼女の拳の中にあるものの力だろう。
 今も彼女はその握り拳を横島達に向けて突き出しており、横島とアスナはそれを警戒して近付く事ができない。
 そして超も逃げる事ができない。この状態で飛行できる事は見せてしまった。先程のように不意を突いて逃げる事はできないだろう。不審な動きをすれば、刹那は本気で斬り掛かってくるに違いない。
 そうしている内に令子達とアーニャも到着、令子とシロが飛行船に降り立ち、高音とアーニャは周囲の警戒に加わる。
「おや、どうしたのカナ?」
「…………」
 しかし、再度超の前に立った令子は、先程とは打って変わって神妙な面持ちになっていた。
「み、美神さん、どうしたんですか?」
 高音の影の使い魔は、スピードでは『月の舟』と『炎の狐』には及ばない。そのため令子は少し離れたところで超の動きを観察する事ができた。
 だから気付く事ができた。超が握りしめる何かが持つある特徴に。
 その力は飛ぶだけでなく、他の事もできる。そして何度も使える。掌に収まるサイズで、それだけ強力で多彩な能力を持つもの。令子はそんな力にひとつだけ心当たりがあった。
 気付いてしまったからには確かめなければならない。その一心で訝しげな顔をする横島達の脇を通り、超の前に立つ令子。
 余裕を取り戻したように見える超を癪に思いながらも、令子は意を決して口を開く。
「超、だったわね。あなた……文珠を使ってるのね?」
「えっ?」
「なんと!?」
 アスナとシロが驚いて超を見る。しかし彼女の表情に変化は無い。ただただ余裕の笑みを浮かべるだけだ。
「ちょ、ちょっと待ってください、美神さん! 文珠って、超は逃げてる間に何度も動きを変えて……そんなにパクられた覚えもないですよ!?」
「……いくつも使ってないとしたら?」
「えっ?」
「あんたもあるでしょ、ひとつだけ心当たりが」
「えっ? あっ……あーーーーーっ!?
 横島もようやく気付いた。その力の正体に。
 そんな彼を見て満足そうな笑みを浮かべた超は、「それでは御開帳ネ」と突き出した握り拳を開く。
 その掌の上にあったのは、淡い光を放つ太極図のような形になった文珠。かつてのアシュタロスとの戦いの際に、横島が一時的にだけ扱えていた特殊な文珠だ。
「ちょっ、それって……!? ま、まさか……まさかお前は……!?」
 それはいうなれば奇跡の産物。ベスパの妖毒が回り死にかけていた横島を救うために、ルシオラが自らの霊気構造を分け与え、横島の身体に二人の力が宿ったからこそ生まれたもの。
 それを何故か、目の前に立つ超鈴音という少女が持っている。
「まさか、まさか、まさかーーー!?」
 狼狽える横島を見て楽しそうに微笑む超は、くるりんと軽やかに回って皆に恭しく一礼をしてみせた。
「改めて自己紹介ネ。私の魂の名は……ルシオラ」
「ル、ルシオラ……?」
「やっぱり……」
 超の名乗りを聞いてアスナは疑問符を浮かべるが、令子は理解できた。
 彼女は知っていた。アシュタロスを倒した後、ルシオラ、ベスパ、パピリオの三姉妹の中で唯一人復活できなかったルシオラ。横島を助けるためにその身を犠牲にしたルシオラ。
 彼女が足りない霊気構造を補って復活するには――
 
「じゃ、じゃあ、お前は……」
「またの名を横島鈴音(すずね)、未来から来た忠夫パパの実の娘ネ
「やっぱりかあぁぁぁッ!?」

――横島の子供として生まれ変わるしかないという事を。
 どこからともなくマイクを取り出し絶叫する横島。彼は突然の告白に混乱している。
 その一方で令子は、まだ冷静に情報を咀嚼しようとしていた。ある一点の疑問が彼女の理性をつなぎ止めている。
 無論、彼女も魔界でルシオラが復活した事は知っている。だが、未来が一つだけではない事も知っている。
 有り得る。ルシオラが復活しなかった未来で生まれ変わったルシオラならば。
 有り得る。ルシオラが復活する前に彼女がこの時代に来ていたとすれば。
 有り得るのだ。復活したルシオラと、生まれ変わったルシオラが同時に存在する事は。

 にこやかな笑みを浮かべた超こと鈴音は、真っ直ぐに令子の顔を見据えた。
 気付いたのだろう。令子が、あと一歩で真実にたどり着く事に。
「フフフ、分からないアルか? 鈴音……『鈴の音』と書いて『すずね』……」
 その自己紹介に何故か怯む令子。周りで聞いている者達は首を傾げるばかりだ。
 しかし、次の言葉で辺りの空気が一変する。
「令子の『令』に『金の音』と書いて『鈴音』……」
「それって……」
 皆の視線が集まる。それを一身に受ける令子は、顔色が蒼白になっている。
 ほとんどの者が令子らしいと思ってしまったのは秘密だ。
「ちょ、ちょっと待って! そんな事が……!」
 何とか言葉を紡いで否定しようとするが、続かない。
 彼女も分かっているのだ。
 母の美智恵から娘の令子へと受け継がれた霊能、時間移動。もしかしたら妹のひのめも受け継いでいるかもしれない時間移動。それを次に受け継ぐものがいるとすれば一体誰か。
 横島とルシオラの奇跡の業を受け継ぎ、時間移動までできてしまう目の前の少女が何者なのか。
 聞きたくない、認めたくない、しかし鈴音と名乗る少女は容赦なく事実を突きつける。

「You're my mother!!」
「Noooooooッ!!」

 麻帆良の夜空に、横島にも負けない絶叫が響き渡った。





つづく


あとがき

 超鈴音の正体に関する設定。

 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

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