topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.169
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 麻帆良祭最終日だというのに、野良の保護で盛り上がる横島達。
 保護するのにレーベンスシュルト城を使う許可を出したエヴァだったが、内心「この忙しい時に何をやっとるんだ、こいつらは」という気持ちがあった。
 しかし昼前ぐらいになると、そんな気持ちはどこかに吹き飛んでいた。
 朝から手分けをして駆け回り、集めたその数は百近く。城の中庭だけでは足りず、出城も使う事になった。
 アキラの『キキミミズキン』が無ければ、今頃城は大混乱だっただろう。
「……本当に、こいつらが麻帆良にいたのか?」
「いなかったら、どこから連れてくるのよ」
 何よりもエヴァを呆れさせたのは、その百匹の多種多様さだ。
 南国のカラフルな鳥もいれば、北国の長毛種の動物もいる。動物園でもここまでの陣容はなかなか見られないのではないだろうか。アスナの返事を聞いてもにわかには信じがたいラインナップだ。
 おそらくはペットとして飼われていたもの達だろう。
 いわゆる「学祭長者」と呼ばれた者達が、稼いだお金の使い道として珍しいペットを求める事は少なくない。これが大学生で免許を持っていれば高級外車などの使い道もあっただろうが、中学生や高校生ではそうもいかないのだ。
 長年麻帆良にいるエヴァはそれを知っていた。卒業時に実家に連れて帰る訳にはいかず、捨てていく者が少なくない事も。
 そういう意味でこの百匹は、麻帆良学園都市ならではのラインナップといえるだろう。

「ところで、その氷は?」
 アスナが指差す先には、大きな氷柱があった。暑さに弱い生き物達が周りに集まり涼んでいる。
「フン、獣共がやかましいから黙らせてやったのだ」
 そう言って凄むエヴァ。
 そんな彼女が暑そうにしている動物達にこっそり氷をプレゼントした姿を、茶々丸だけが知っていた。もちろん動画で記録済みである。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.169


 なお、例のユニコーンのような幻想生物モドキは他にもいた。
 翼の生えた馬・ペガサスがいたと聞いた時は驚いたが、直後に空を飛べないようだと聞いて呆れた。
 空を飛んでいたらもっと騒ぎになっていただろうから、それで良かったのかもしれないが。
「こんなものが町中を歩いていたのか?」
「普段は郊外の山とかにいたみたい。今は山の方が騒がしいから下りてきたんだって」
「便利だな『キキミミズキン』……」
「麻帆良祭の間は皆コスプレしてるから、ユニコーンとかペガサスがいても目立たなかったのかな?」
「それでいいのか、麻帆良の連中は……」
 その話を聞いたエヴァは、とりあえず飼育費は麻帆良学園に請求してやると心に決めるのだった。
 ちなみにエサは、とある人物の力を借りて用意する事になっている。
「ホホホ、助かりましたわ」
 委員長のあやか……ではない。いや、彼女も急遽呼び出した助っ人なのは確かなのだが。
「ペットフードならともかく、動物園で見るような動物のエサなど、どこで買い求めればいいか分かりませんでしたわ」
「…………任せて」
 グッと親指を立てて見せる銀色の髪をした少女、ザジ・レイニーデイである。『ナイトメアサーカス』に所属する彼女は、サーカスで使う猛獣の飼育経験があった。
 実はアキラが小鳥を集めようとしていた時、小鳥を追って彼女が現れたのだ。
 クラスメイトなのにろくに会話をした事もない相手。アキラも戸惑いながら野良動物達を集めていると説明すると、彼女はにっこりと笑って協力を申し出てくれた。
 という訳で彼女の伝手を使い、あやかがお金を出し超特急で届けてもらう事で百匹分の餌を確保している。これで最終日は乗り越えられるだろう。
 もちろんあやかが出したお金は、後日エヴァが麻帆良学園に請求して返済する予定である。


 一方本城のテラスには、アスナ達のノリについていけない者がもう一人いた。
「はぁ〜……」
「どうしたんですか、美神さん。大きなため息ついて」
 令子である。シロは率先してアスナ達に協力しているが、令子はそれどころではなかったのだ。
 そんな令子を放ってはおけず、おキヌはひのめを抱いて一緒にいる。
 令子は、おキヌの膝の上にいるひのめに視線を向け、もう一度ため息をついた。
「鈴音の事なんだけどさ……」
「横島さんと美神さんの娘だっていう子ですね」
 おキヌにとっても衝撃的な存在だ。少なくないショックを受けた。
「でも……なんというか、別の未来なんですよね?」
 そう、ルシオラの生まれ変わりである鈴音は、ルシオラが既に復活しているこの時間軸の未来ではあり得ない。
 これはおキヌにとっては救いであると同時に、令子を複雑にさせている原因でもあった。
「そう! 別の未来なのよ! 私の子じゃ……私と横島君の子じゃないのよ〜〜〜っ!!」
 身も蓋もない話ではあるが、令子にしてみれば議論の余地無く娘だといわれた方が諦めがつくのだ。異なる時間軸、自分とは直接つながっていないという「逃げ道」が彼女の往生際を悪くさせていた。
「そ、そこまで言わなくても……」
 そして、そういう態度を見ると鈴音をフォローしてあげたくなるのが、おキヌという少女の優しさであろう。
「というか、美智恵さんには知らせなくていいんですか?」
「……そっちも怖いのよねぇ」
 母・美智恵の存在も、令子の頭を悩ませていた。
 令子は、アシュタロスと戦っている時の母と、戦後の母の落差を知っている。一線を退き身を隠していた数年間が原因なのか、「冷徹な隊長」だった母は「のんきなお母さん」になってしまっていた。
 今でもオカルトGメンでは有能な隊長として通しているようだが、あの過去の母が元の時間に帰った直後、「ごめんね〜」とのんきな声と共に登場した時の笑顔を令子は忘れていなかった。今までの母のイメージを木っ端微塵にしたあの笑顔を。
「あのママにさ、『初孫』の存在を知らせたら……どうなると思う?」
「ど、どうって……」
 おキヌも表情を引きつらせる。彼女もアシュタロス戦後の美智恵には親馬鹿な面がある事を知っていた。正確には、元々あったものが表に出やすくなっている事を知っていた。
 まだお婆ちゃんなんて年じゃないと言い出す可能性も考えられるが、それも低いのではないかと思われる。
「やっぱり、知らせない方がいいと思うのよ」
「で、ですね……」
 まだ敵か味方かもハッキリしない鈴音。もし美智恵が孫馬鹿を発揮した場合、敵だったとしても戦えないという事になりかねない。複雑な内心だけではなく、そういう意味でも美智恵にはまだ知らせるべきではないと令子は考えていた。
 おキヌはそこまで考えてはいなかったが、やはり戦うどころではなくなるのではないかと考えていた。
「でも、今日最終日ですよね? 美智恵さん、戻ってくるんじゃ?」
「どうかしら? 魔法使いの問題は、魔法使いが解決するって学園長も言ってるみたいだし、下手に手出しするのは避けると思うんだけど」
「つまり、私達も手出ししないって事ですか?」
「要請されない限りはね」

 ここで状況を整理しておこう。現在麻帆良学園都市が抱えている問題は、フェイトに関するものだ。
 関東魔法協会の裏切り者であり、かつての東西の大戦を巻き起こした主犯。
 現在も散発的に魔物を召喚して襲撃を繰り返している。その目的は、学園都市の中央にそびえ立つ世界樹だと思われる。
 世界樹、正式な名は神木・蟠桃。麻帆良祭に合わせて魔力が高まる、いや正確には魔力が高まる周期に合わせて麻帆良祭が開催されているのだ。それは今日、最終日に魔力が最高潮に達する。
 フェイトが蟠桃を狙うのは今日だろう。だから魔法使い達は今日一日厳戒態勢で警戒を密にする。令子達もそこまでは聞かされていた。
 そしてもうひとつ、昨日発覚した鈴音に関する問題がある。
 こちらは少々複雑だ。鈴音のやっている事は、魔法使いから見ればともかく、表向きには問題が無いギリギリを攻めているものが多い。
 地下に秘密の格納庫を作った話を聞きながら、令子は内心「流石、我が娘!」と舌を巻いていた。
 そしてここが重要なのだが、現在のところフェイトと鈴音の関係は分かっていない。そのため関東魔法協会ではフェイトと鈴音の件を別問題として扱うしかなかった。
 そのためフェイトの事は学園長達に任せ、鈴音について調べようとしているのがアスナ達である。彼女達にとって鈴音は、クラスメイトであり友達なのだ。
 鈴音の父である横島もこれに力を貸していた。
 では母である令子はどうするのか。
「美神さんはどうするんですか?」
「…………」
 おキヌに問われても答えない令子は、無言で水晶球の内側の空を眺めていた。


「美神さん、どうするんですかね〜?」
 奇しくも中庭の方でも令子の事が話題になっていた。
 午前中は野良動物達の保護で盛り上がってしまったが、午後からは予定通り鈴音について調べようと考えているアスナ達。
 父親の横島は協力してくれる事になっているが、母親の令子はどうするのかが彼女達は気になっていた。
「美神殿ならきっと、きっと……!」
 令子を信じたいシロも歯切れが悪い。彼女も分かっているのだろう。令子が金にならない事をする時の腰の重さを。
「もし説得が必要になった時、やはり両親が揃ってた方が良いんじゃないかしら?」
 どこかズレている千鶴の意見。しかし、風香と史伽は揃ってコクコクと頷いている。彼女達の中では、悪さをしていた鈴音が、両親の涙ながらの説得を受けて自首してくるイメージができあがっているのかもしれない。もちろん自首してきた鈴音は、どこからともなく現れたパトカーに乗せられ、夕日に向かって走り去っていくのである。
 それはともかく、学園長も唸らせる悪知恵の持ち主、令子。いうなれば彼女は「天才・超鈴音」の元祖であるといえる。鈴音の事を調べるならば、令子の協力は是非とも欲しい。アスナ達はそう考えていた。
「横島さん、なんとかならないかな?」
 不安そうな夏美が尋ねてくる。
 そんな顔をされては、横島としては何とかせねばなるまい。彼は一計を案じ、シロに声を掛ける。
「シロ、美神さんに伝言を頼めるか?」
「合点でござるよ! で、なんて言えばいいでござるか?」
「それはだな……」
 シロを近くに呼び、何やら耳打ちする横島。聞いていたシロは、何やら眉をひそめて怪訝そうな顔になる。
「……そんな言伝で、いいでござるか?」
「多分、大丈夫だ」
「では……」
 納得いかない様子だったが、それでもシロは猛スピードで駆け出していった。
 本城に駆け込んで行ったシロを見送り、そのまま待つ事しばし。
 アスナ達も会話を止めて開いたままの門を見守っていると、けたたましい足音と共に令子が飛び出してきた。
 そして高らかに「横島君、鈴音を探しに行くわよ!」と宣言する。
 直後に湧き上がるアスナ達の歓声。少女達が令子の参戦を心から歓迎したのは言うまでもない。
 そんな騒ぎの中、シロとおキヌも到着。ひのめは相変わらずおキヌの腕の中である。
 令子は何故かやる気満々だ。その姿に首を傾げた夕映は、すすすっと横島に近付く。
「横島さん、横島さん。美神さんに何を言ったのですか?」
「ん? ああ、大した事じゃないぞ」
「いや、大した事でしょ? あんなにやる気出してるんだから」
 アーニャとコレットもアスナ達の喧騒から離れて近付いてきた。
「それで、なんて言ったんですか?」
 コレットが目を輝かせながら問い掛けてきた。
 対する横島は、笑いながらこう答える。
「ホントに大した事じゃないって。『未成年が罪を犯した場合、親が責任を問われるんじゃないか』って伝えてもらっただけだから」
「…………はい?」
 コレットだけでなく、アーニャと夕映も呆気にとられた顔になったが、実はこれが重要な事なのだ。令子にとっては。
「未来から来た娘ですよね? 現代の人間に、その保護者としての責任を負わせるってできるのですか?」
「さあなぁ、でも『時間移動能力』って、霊能として認められているものだから無いとはいえないんじゃないか?」
 この場合、実際どうなのかよりも、令子に責任を負わせる口実になるかどうかが重要なのだ。
 その結果が今の令子である。
「そんなに責任負いたくないって事?」
「ま、それもあるだろうな」
 そう呟く横島の視線の先には令子。彼女は鈴音の居場所は分からないかとアスナ達に問い掛けている。
「もしかしたらフェイトと一緒……?」
「でもそれは、二人が手を組んでた場合だよね?」
「ああ、例の魔法使いね。うふふ、ウチの娘を誑かすなんていい度胸してるじゃない……」
 本当に殺る気満々である。
 しかし、見る者が見れば、彼女が責任を負いたくないだけではない事が分かっただろう。
 令子とて娘だという鈴音の事を全く認めてない訳ではないし、情が湧かない訳でもない。生来の天邪鬼が邪魔をして、素直に助けようとできないだけで。
 横島が彼女に伝えた言葉は、彼女が動くための「建前」だったのである。令子は助け舟を出された事に気付きながらも、あえてそれに乗ったのだ。
 元より母性愛の強い千鶴と木乃香、そして最近とみに母性愛が溢れている千草の三人が、そんな令子の姿を暖かく見守っていた。

「ん……?」
 その時、令子の服の裾を何者かがくいっくいっと引っ張った。
 誰かと振り返ると、そこには銀色の髪と褐色の肌を持つ少女、ザジ・レイニーデイ。
 にこっと笑って上目遣いで見つめてくるばかりの少女に令子が戸惑っていると、アキラが慌てて間に入った。
 アキラが少し屈んで顔を近付けると、ザジは彼女の耳元で何かを呟く。
 それを聞いたアキラは目を丸くし、顔を上げてこう言った。
「ザジさん、昨日の晩まで鈴音さんと一緒だったって……!」
 修学旅行で一緒の班になってから、何かと超一味と一緒にいる事が多かったザジ。彼女は昨夜も鈴音と一緒に『超包子』で夕食をとったらしい。
 思わぬところから情報が転がり込んできた。
 彼女の言葉に耳を傾け、午後からはそれを元に鈴音捜索の開始である。





つづく


あとがき

 超鈴音に関する各種設定。
 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

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