topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.175
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 時間は少し遡り、レーベンスシュルト城の水晶球では夜が明ける頃。
 中で午後三時になるのと、外で午後三時になるのが丁度同じになるように調整されているため、アスナ達は決戦に備えて最後の調整をしていた。
 今日はシロも参加しているので賑やかだ。
「おはようございま〜す
「今日もがんばろうね、兄ちゃん
 挨拶と称して、横島と触れ合うチャンスだからではない。多分。
 ストレッチから始まり、レーベンスシュルト城を一周するランニング。それからそれぞれに合わせたトレーニングと続く。
「めんどくせぇ……」
「今日くらい寝ててもいいですよ?」
「……目、覚めちまったし」
 最初は面倒臭がっていた千雨も、今ではこれが日課になってしまっている。
 なににせよ、横島と一緒というのがモチベーションの維持につながり毎日続けられているのだから大したものであろう。

 一方令子は、普段よりは早いがレーベンスシュルト城では遅めの目覚めを迎えていた。
「ハッ! ……ゆ、夢……?」
「……美神さん、大丈夫ですか?」
 丁度起こしに来たところだったおキヌが、寝汗びっしょりの令子の姿を見て心配そうに声を掛ける。
「変な夢を見たわ……」
「変な夢?」
 おキヌは怪訝そうな表情をした。霊感の強い令子ならば、それは予知夢の可能性もある。
「横島君が……女の子に囲まれて、抱きつかれても普通にしてたの。天変地異の前触れだわ……!」
「…………それ現実です」
 疲れた声でツっこむおキヌ。
 外の声に気付いて目を覚ました令子が、窓からアスナ達にじゃれつかれる横島の姿を見て、夢だと思って二度寝したというのが事の真相であった。
 おキヌも来たばかりなので知らないが、先程まで令子はうなされていたので、悪い夢を見たのも事実だったのかもしれない。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.175


 その後、寝汗を洗い流すために大浴場へと向かった令子は、アスナ達と鉢合わせになった。
 令子は思わず警戒して辺りを見回したが、流石の彼女達も風呂は横島とは別なので彼の姿は無い。
「あっ、おはよーございまーす」
「お、おはよう」
 元気の良く出迎える少女達の挨拶に、戸惑いつつも返事をする令子。
 シャワーを浴びながら少女達の会話に耳を傾けてみると、横島に対して好意的な内容が聞こえてくる。
「…………」
 令子は、なんともいえない居心地の悪さを感じていた。麻帆良に来て三日目だが、この横島に対して好意的な空気はどうにも慣れない。なんだかんだで付き合いが長いせいか、どうしても「それは誰の話だ」と思えてしまうのだ。
「今日は、なんとしても鈴音さんを止めないとねっ!」
「お父さんとケンカなんて止めないと!」
 原因の一つは鈴音だろう。横島と令子の子という事で、彼女自身意識してしまっているのだ。だからこそ余計に居心地が悪いと感じる。令子自身そういう自覚はあった。しかし、生来の天邪鬼な性格からハッキリとそうだとは認められない。
「……とにかく! 鈴音を引っ叩いてでも止める!」
 とにかく眼前の目的に邁進する事によって誤魔化す。それが彼女の選んだ道であった。

 一方おキヌは抱っこ紐を使ってひのめのお世話をしながら横島と話をしていた。
 いつものように朝食を用意しようとしたがお客様にそんな事はさせられないと止められ、手持ち無沙汰なところにお風呂が空くのを待つ横島が現れたのだ。
 横島と自分、そして赤ん坊のひのめの三人が側にいるという事で、時折意識が彼岸に飛ぶのはご愛嬌である。
「横島さん、私達は鈴音ちゃんを探すという事でいいんですよね?」
「ん? そうだな。他にも問題は色々とあるんだろうけど、俺達だけで全部できる訳ないし」
「ですよねぇ」
 まるで令子の事務所にいた頃のような懐かしい雰囲気に思わず頬が緩むおキヌ。
「フェイトって、関東魔法協会も関西呪術協会も、それにネギも因縁があるみたいだから、俺が口出ししにくいっていうのもあるんだよ。その辺は気を遣わないとな」
「で、ですよねぇ」
 だが次の瞬間、一気に距離が離れてしまったような気がした。
 今の彼は除霊事務所の所長なのだから当然なのだが、周りに配慮する姿が彼を遠くに見せたのだ。
「お、おキヌちゃん、どうしたの?」
「み……美神さんなら、そういう事気にしないだろうなぁって……」
「何の話してんのよ、あんたらは」
 彼女の知る「所長」の姿とかけ離れていたのも一因かもしれないが、それは触れないであげるのが優しさである。
 それはともかく、令子達が入浴を終えてきたので、交代で横島も大浴場に行く。
「で、おキヌちゃん」
「なんですか?」
「さっき何考えてたか教えてもらえないかしら?」
「え、え〜っと……」
 その間おキヌは令子から色々と質問攻めにあう事になるが、それについては割愛する。


 そんなこんなで朝食が終わると、アスナ達は出発の準備を始める。
 大浴場では横島をネタにきゃいきゃいと盛り上がっていた面々だが、今は真剣な表情で打ち合わせをしている。
 そのギャップに呆然としていた令子だったが、ふとその輪の中にいる横島を見てある事に気付いた。
「流石は教え子ってとこかしら……」
 そう、そのギャップの激しさは横島にそっくりだという事を。彼もまた普段のおちゃらけた態度と真剣な仕事時の落差が大きい人間なのだ。
 それはともかく、面々の真剣な顔を見て令子も気合を入れ直す。
 ここからは鈴音を、娘を止めるための作戦会議。令子もまた仕事モードに入って輪に加わった。
 彼女もまた普段と仕事時のギャップが激しいのは余談である。

 それはともかく、今日の横島達は三つのグループに分かれる事になっていた。
 一つ目はもちろん鈴音を捜索するチームだ。
 ここは一番人数が多く、横島、令子を中心にアスナ、古菲、夕映、千雨、刹那、高音、愛衣、千草、月詠、アーニャ、コレット、そしてシロ。戦闘も調査もできるメンバーだ。
「このちゃん、私も行って大丈夫?」
「大丈夫やよ、エヴァちゃんと一緒におるから」
 鈴音がどこにいるかを探すとなると広範囲に渡って捜索する必要があると考えると、空を飛べる刹那は逃せない戦力なのだ。

 二つ目は木乃香の護衛チーム。こちらもおろそかにはできない。
 刹那が抜ける事になるが、エヴァと茶々丸がいるので問題ないだろう。木乃香も式神を召喚すれば戦えない訳ではない。
 ここには千鶴と夏美、それにおキヌもひのめを連れて加わる事になっている。
「私は高みの見物といきたいんだがな……」
「ウチかてヒーリングくらいできるんやから、救護班くらいはできるえ?」
「あ、それなら私もお手伝いできます」
 このチームは『学園防衛魔法騎士団』の裏方を務める事になる。
 当然そこは魔法使い達も護衛を置く場所なので、安全面においても問題は無いだろう。

 そして最後の三つ目なのだが、こちらはレーベンスシュルト城に入る前に学園長から頼まれたもので、中で夜の内に決めたチームだ。
 防衛作戦『学園防衛魔法騎士団』、『対非生命型魔力駆動体特殊魔装具』を用いて生徒達を戦力とする作戦だが、やはり一般生徒だけに丸投げという訳にはいかないらしい。
 そのため学園長から横島達に、何人かこの作戦に参加させて欲しいという要請がきていた。
 という訳で皆で誰を参加させるかと盛り上がった結果、裕奈、アキラ、風香、史伽、美空、ココネの六人が参加する事になった。
「アーティファクト使うのは反則かな?」
「裕奈のは衣装で強くなれるタイプだから……」
「裕奈、そこは遠慮しなくていいぞ」
「横島さんの言う通り! マジな防衛作戦なんだから魔法生徒が参加しても問題無いよね」
「美空、サボる気では……」
「学園長の要請に応じただけで〜っす♪」
 他にも魔法先生達が『ヒーローユニット』として『学園防衛魔法騎士団』に参加する事になっており、刀子とシャークティもこれに参加する事になっていた。
「ちゃんと見ていますからね」
「……がんばりま〜す」
 実際に見ている余裕があるかどうかはともかく、シャークティが近くにいれば美空はサボる事はできないだろう。

 ここで重要となるのは……コスプレだ。
 冗談などではなく、鈴音を探し回るならば周りから怪しまれない出で立ちになる必要がある。それが麻帆良祭ではコスプレなのだ。
 『学園防衛魔法騎士団』は、学園側から『対非生命型魔力駆動体特殊魔装具』以外にも身を守るための白いローブを貸し出す事になっているが、それ以外の衣装も許されている。
 裕奈などはアーティファクトの衣装を使う事になっているが、一人だけでは目立つため、他のメンツも全員コスプレだ。
 なおコスプレ用の衣装は千雨と茶々丸の姉達が中心となって用意している。以前レーベンスシュルト城に作ったコスプレ部屋が、彼女達の「自発的協力」によって大幅に拡張されていたのだ。
「これって……」
「一からデザインしてる時間無かったからな」
 アキラは『キャラバンクエスト Online』に入り込んだ時に装備していた鎧兜一式に似せた衣装に身を包み、女騎士のような出で立ちになっていた。
「いいじゃん、いいじゃん。格好良いって」
 美空は動きやすさを優先してシーフ風……にしようとしたが、シャークティに言われて僧侶服になった。せめてもの抵抗としてミニスカである。
 そして風香、史伽、ココネの三人はお揃いの猫耳フードだ。
「ゆえ吉も着ようよー」
「エヴァちゃんも着るですー」
「遠慮します」
「誰が着るか!」
 なお、一部メンバーが猫耳フードを拒んだため『鳴滝レンジャー』の結成は成らなかった。

 そして後方の木乃香達は、ナース服を魔法少女っぽくアレンジした衣装だ。
「えっ、私もですか?」
「いつもの服は持ってきとらんのやろ?」
「コスプレの巫女服とかは……」
「ミニでフリル付きなら」
「ナース服でいいです!」
 巫女服を持ってきていなかったおキヌも巻き込まれ、千鶴、夏美、茶々丸も同じ衣装を使う事になっている。
「ほら、エヴァちゃんも♪」
「誰が着るか!!」
「でも同じ格好をしていたら、一緒にいても不自然に見えないんじゃないかしら?」
「ぐぬっ……」
 なお最後まで抵抗していたエヴァだったが、千鶴に説得され最後には同じ衣装を着る事になる。エヴァ的に猫耳フードとどちらがマシかは微妙なところである。

 最後に横島達だが、こちらは各々好きに衣装を選んだ。
 アスナと夕映は仮契約(パクティオー)カードに登録していた衣装を。古菲はアーティファクトである『猿神の装具』を使う。
「千雨はミリタリーにするんですか?」
「それもコスプレだろ? こういう状況だから、実用性重視だ」
 アーニャは元々魔法使いのローブ姿で麻帆良に来ていたのでそのままでも問題は無かったが、鳴滝姉妹に誘われて猫耳フードを選んでいた。
 高音はいつもの黒の装束であり、千草は胸元を開いた着物姿、月詠はゴスロリ姿。
 刹那もこういう時のために用意していた戦装束であり気合は十分だ。
 ただ一人、アリアドネーの制服で参加するつもりだったコレットだけに待ったが掛かる。
「アリアドネーの生徒達は、ヒーローユニットとして参加する事になってるそうだ」
「あ〜……こっち側で行動するなら、アリアドネーの制服はまずいんですね」
 という訳でどうしようかと迷っていたコレットは、愛衣とお揃いの可愛らしいデザインの魔法使いのローブを着る事になった。『学園防衛魔法騎士団』と間違われないよう白は避けている。
「で、シロは……」
「拙者はいつも通りでいいでござるよ」
「いや、普通過ぎてこの中では浮く」
「なんと!?」
 流石にTシャツとダメージジーンズでコスプレ集団の中に混じるのは目立つだろう。
「といっても新しく作ってる時間はねーぞ?」
「そこは既存のものでなんとか?」
「せ、せめて武士らしいものを……」
「あ、それならなんとかなるわ」
 という訳で本人の希望もあり、シロは浪人風の衣装に決まった。

 そして最後に皆の視線が令子に集まった。
 着せ替えが楽しくなってきている少女達の視線に、自分は無関係だと思っていた令子も思わずたじろぐ。
 そのままでもどこかのゴージャスな芸能人といっても通じそうな出で立ちだが、仕事をするとなるとそのままという訳にはいかない。
 このままでは着せ替え人形にされる。そう考えた彼女は脱出口を探る。
「じゃ、じゃあ、私も刀子みたいにスーツで……」
「私の場合は、麻帆良の教師として知られているから、この姿のままでも問題無いけど……」
「『誰も知らない謎の新任女教師』、かえって目立つんじゃないですか?」
「うぐっ……」
 アスナのツっこみに、令子はぐうの音も出なかった。
「えっと……長谷川さん、どんなのがあるのかしら?」
「今から新しいのは難しいですね。既存の職業モノとか、そのアニメヒロインのとか……サイズ調整はしないといけないから、早めに決めていただければ」
 ならばGSっぽい格好を……と言おうとしたが、ここで「GSっぽい」とはどんなものだろうと疑問が浮かんで言葉が続かない。こういうのは本当に人それぞれなのだ。かくいう彼女自身も、ボディコン姿で除霊現場を駆け回っている。
 今の時代ボディコン自体がコスプレのようなものだが、そんなメタな話はしてはいけない。
 それはともかく、アニメのヒロインもよく分からないし、この年でそういうのは恥ずかしいと令子は考えた。
「あっ……」
 なんとかダメージを減らそうと考え抜いた彼女は、ふとあるものを思い出した。

「という訳で、これでいくわ!」

 お昼を過ぎて時間の流れが元に戻る直前、皆の前に立った令子はカツラを被り、眼鏡を掛け、そしてスリットの深いチャイナドレス姿に身を包んでいた。
「うわぁ、懐かしいですね〜」
「GS資格試験の時のか〜」
「これなら一度着た事あるし、動きやすさは証明済みだからね」
 かつて令子がGS資格試験に潜り込む時のためにした変装、『ミカ・レイ』である。
「……この胸元開いてるの、どうにかならないの?」
「布が足りないんで勘弁してください」
 諸般の事情により露出度アップVer.である。





つづく


あとがき

 超鈴音に関する各種設定。
 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

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