topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.178
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 裕奈達が高台の上で奮戦している頃、後方の救護班に参加している木乃香チームは大忙しだった。
 と言っても怪我人が多い訳ではない。参加者に支給されている魔法のローブは、転んだりぶつかったりの事故はほぼ完全に防いでくれるという優れものなのだ。
 そのため救護班のテントで待機している木乃香とおキヌのところに来るのは、主に参加者以外の怪我人、それも転んで足を擦りむいたぐらいの人しか来ない。
 おキヌの方はひのめの子守りに集中できて助かっているが、覚えたヒーリングでバンバン助けようとした木乃香としては少々拍子抜けである。
 ではどうして忙しいかというと、それは救護テントの外に集まってくる人達が原因だった。
「ローブを誰かに取られちまった! 新しいのは無いか!?」
「俺もだ! 見つからないんだ!!」
「お願い、早くして! って、見るなーっ!!」
 ロボ軍団の脱げビームによってローブを失った者達が押し寄せているのだ。
 脱げビームは見た目こそ派手だが、殺傷力は0。ただし対象の武装をパンツ一枚を除いて全て吹き飛ばしてしまう。何故か貼り付けるタイプのシリコンブラだけは対象外となっているのは余談である。
 イベントのシステムとしては、脱げビームを食らうとマイナス50ポイントだ。
 それを食らった者達は、飛ばされた武器やローブ、それに服を拾って戦いに戻るのだが、ここでブラまで飛ばされてしまった女子達が一秒でも早く身体を隠すため、飛ばされたローブを探すのではなく近くに飛んできたローブを手に取ってしまうという事態が続出していた。
 その結果が救護班に集まるパンツ一丁の人々である。男子が七割といったところだろう。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.178


「ロ、ローブはまだまだありまぁす!」
 そんなパンツ一丁の男子集団相手に顔を真っ赤にしながらローブを手渡していくのは、救護班の手伝いとして来ていた夏美。
 その一方で千鶴はにこやかに、茶々丸は平静に、どちらも余裕のある態度でローブを手渡していっている。
 夏美も二人に任せて女子だけに渡していればいいのかも知れないが、ここで放っておけないのは彼女の真面目さ故だろう。

「偶然だろうが、裕奈達は良い場所に陣取っているようだな」
 そんな騒ぎを他所にテント入り口に立って高台の方を見ているのはエヴァ。
 当然のごとくローブを渡すのは手伝っていないが。一応彼女は木乃香の護衛として側にいるのであって、サボってる訳ではない。
 彼女は逐一学園側から連絡を受け取り戦況を確認しながら、敵が近付いて来ないか警戒を続けていた。
 エヴァにとってはもはや身内同然である木乃香の護衛は真面目にするつもりのようなので、ここはもう大丈夫だといっていいだろう。
 ただし、エヴァがやり過ぎて辺り一帯を氷漬けにした場合はその限りではない。


 一方その頃横島チームは、学園都市の地図を囲んで頭を捻っていた。
 鈴音を探すために出てきたものの、彼女がどこにいるのかがさっぱり分からないのだ。
 シロの超感覚で探そうとして真っ先にまほら武闘会の会場に行ってみたが、彼女の痕跡は途中で消えていた。
 例の隠れ家も、そんな既に知られている場所に潜んでいるとも考えにくい。
 そのため地図を広げて、彼女が立ち寄りそうなところを皆で考えているのだ。
「戦況が見られる場所にいると思うんだけど……」
「美神さん、美神さん。あいつら多分、監視カメラの映像把握してると思いますよ」
「あの子、そんな事までできる訳……?」
「鈴音さんなら楽勝かと」
 夕映の言葉に、アスナ達は揃って頷いた。
「じゃあ、地下のどこかに隠れてるのかしら?」
「それだと探すのも大変そうでござるな」
 しかし他の情報は無いため、手分けして地下を捜索するべきか。そんな流れになろうとしたが、そこで高音が「ちょっといいかしら?」と待ったを掛けた。
「魔法使いとして発言させていただきますが、世界樹の力を利用しようとする場合、術者がその場にいる必要があると思います」
「地下にいると、移動の手間が掛かりそう?」
「それはどうとでも。でも最終的には世界樹に現れると考えて良いんじゃないかしら」
 つまりは世界樹で待ち伏せする作戦だ。鈴音本人が来なかったとしても術者を押さえれば儀式を阻止する事ができる。
「う〜ん……」
 しかし、令子は気に入らないようだ。
 高音の言う通りなのだろうが、どうにもピンと来ない。
「美神さん」
「何?」
「待つの嫌なんスね」
「……まぁね」
 つまるところ彼女の性格的に、待ちの姿勢は性に合わないのだろう。
 令子はなんとかこちらから攻める方法を模索したかった。
「でも、ここに来るのが分かってるなら、何も手を打たないのはどうなんだ?」
「むむむ……」
 しかしそれは理屈ではないため、千雨の冷静なツっこみに言い返す事ができない。
「あ〜、それなら二手に分かれるか?」
 結局千草の提案で、世界樹で待ち構えるメンバーと鈴音を捜索するメンバーに分かれる事になった。
 捜索チームはもちろん令子、超感覚で鈴音を探すシロを筆頭に、鈴音と遭遇する可能性が高いため横島、彼が行くならば当然一緒にとアスナとアーニャ、令子と同じく待つよりも攻めたい派の古菲と月詠、そしてアーティファクト『Grimoire Book』を使って捜査できる千雨だ。
 待ち伏せチームは千草、刹那、高音、愛衣、コレットに、アーティファクト『土偶羅魔具羅』で敵の接近を察知できる夕映が加わる。
 捜索チームの方が多いのは、世界樹は大きいため、空から来る可能性も考えられるからだ。空中戦をする手段を持っていないと敵が来ても何もできない可能性がある。それでも無理に戦いに参加しようとすると落下の危険があるだろう。夕映は千草の式神が守る事になる。
「じゃあ、こっちも見つけたら連絡するから、連絡無いまま世界樹に来たら、すぐに連絡してくれ」
「分かった。月詠、ちゃんと忠夫の言う事聞くんやで」
「千草はん、子供やないんですから……」
 心配性な母親気分と、狂人の部分を知っているが故の当然の心配、半々といったところだろうか。
 そんな二人の姿を刹那は呆れ顔で見ており、アスナ達は微笑ましそうに見ていた。
 月詠がアスナ達に受け容れられたのは、千草のこの態度も一因かも知れない。

 それはともかく、ここで一行は二手に分かれ、千草達は世界樹に行って儀式を行う術者が現れるのを待ち構える。
 そして横島達は鈴音捜索を続けるのだが、ここはやはりシロの超感覚が頼りだった。
 臭いを探るためだから仕方ない事なのだが、四つん這いになって地面の臭いを嗅ぐシロの後ろ姿はシュールだ。
 しかし、鈴音は元々この町の住人。逆に臭いが多くて判別がつかない。
「新しい臭いと古い臭いって違いがあるの?」
「それはもちろん、新しいものは臭いも強いから、比べればすぐに分かるでござるよ」
 古い臭いをたどっても鈴音の下には行けない。シロは、最新の臭いを見つけ出さなければいけないのだ。
「こう、今ここで感じられる臭いの中から一番新しいもの見つける事はできるでござるが、それが本当に今日のものかどうかまでは……」
 人通りが多いところは、それこそ何度も訪れているし、少ないところも一度ぐらいは訪れている。しかし、それがいつのものかまでは分からない。
 シロの勘は「どれも古いのではないか?」と告げていた。
 今回の儀式を実行するにあたって入念に準備をしていただろうから、そのために様々な場所を下見していた事は十分に考えられる。今感じとっている臭いは、その時のものではないかというのがシロの考えだった。
「……やっぱり、今日か昨日あたりに立ち寄ったところを推理するところから始めた方が良さそうね」
「でも鈴音、そんな分かりやすい動きはしそうにないアル」
「『麻帆良の最強頭脳』だもんなぁ……」
「そんな風に呼ばれてるのね、私の娘……」
 同時に横島の娘でもあるので、令子にとっても予想外の手を打ってくる可能性は否定できなかった。

 皆であーでもないこーでもないと話し合っていると、アーニャが首を傾げながら横島に尋ねてくる。
「ねぇ、タダオ。スズネ達は何食べてるの?」
「えっ?」
「ご飯よ、ご飯。インスタントで済ませてるのかしら?」
「いや、鈴音なら自分で作るんじゃないかなぁ」
 鈴音は『超包子』の料理人でもある。自炊するぐらい訳ないだろう。今使用している隠れ家に調理設備が整ってる可能性も考えられる。
「実は『超包子』で買ってるとは考えられまへんか?」
「まっさかー。それは分かりやす過ぎじゃない?」
 そもそもオーナーである鈴音は「買い」はしないだろう。
「シロの事を知ってたら、超感覚対策でその辺は近付いていない可能性も考えられないか?」
「ああ、未来から来たなら考えられるわね」
「…………」
 千雨と令子の会話を聞いた横島が、ふと動きを止めた。
 少し視線を上を向けて何やら考え、やがて一つの推論にたどり着く。
「……別アプローチしてみるか」
「別……ですか?」
 アスナの問い掛けに、横島は自信に満ちた目で答える。
「さっちゃんの方から追ってみよう」
「五月さんから?」
 そう、『超包子』の料理人・四葉五月。彼女は魔法ともオカルトとも関係は無いものの、『超包子』の関係で鈴音とは付き合いが深い。
 鈴音一味と呼ばれるグループに参加こそしていないものの、食事を届けるなど裏方として協力していた形跡がある。
 おそらく鈴音は、自分で料理する時間も無いほど忙しかったのだろう。この時横島の脳裏に浮かんだのは、栄養ドリンクを飲みながら徹夜でアルテミス召喚のための魔法陣を描くかつての令子の姿だった。世界樹のコスモプロッセサ化という内容を考えれば、儀式もそれだけ大掛かりなものになる事は十分考えられる。
「今隠れている場所まで知っているかは微妙だが、食事を届けるために接触する方法は知ってるかもしれない」
「なるほど〜……そんならちょいと痛い目見てもらいます?」
「いや、それやったら俺らの方が悪役だから」
 久しぶりに狂人らしい顔を見せた月詠だったが、横島はすかさずツっこみを入れた。
 やるべき事は、シロに五月の臭いを追わせる事だ。おそらくその先に鈴音の臭いもある。





つづく


あとがき

 超鈴音に関する各種設定。
 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

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