topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.179
前へ もくじへ 次へ


 シェフ四葉五月の足取りを追えば、どこかで鈴音と接触している。そう当たりをつけた横島一行は、まず『超包子』に向かった。
「相変わらず繁盛してるわねぇ」
「鈴音が学祭長者になれたのも分かるアル」
 アスナと古菲が木陰から屋台の周りの人だかりを見ながらつぶやく。
 そうする必要は別に無いのだが、これから彼女の匂いを追跡する事に罪悪感を感じているのか、皆五月から見えない場所に隠れて様子を窺っていた。
 普段から繁盛している店だが、麻帆良祭中は観光客がどっと訪れるためか、いつも以上の繁盛ぶりになっている。
 店はそれだけ忙しくなるだろうが、その分の儲けが鈴音の懐に入る。そう、それが彼女の活動の資金源になっているのだ。
「学祭でそこまで儲けられるって、すごいのね……」
「麻帆良が特殊なんやと思うで」
 今にして思えば、六道女学園はまだ常識的であった。後日令子はそう語ったという。
 なお、理事長の家は麻帆良以上に非常識である事については触れなかった。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.179


「ここからは拙者にお任せでござるよ!」
 張り切って先頭に立つのはシロ。追跡は彼女の超感覚によるところが大きいので、彼女任せというのは間違っていない。
 早速四つん這いになって、しっぽをフリフリしながら五月の匂いをたどって行く。
 令子と横島、それにアスナとアーニャはすぐ後ろをついて行くが、他の面々は周囲の目が気になるのか、少し距離を取りながら後に続いた。
 五月が歩いたルートは人通りが多いところだったらしく、実際今も人が多い。
 麻帆良祭中なのでコスプレは珍しくないが、流石に四つん這いで進む少女の姿は目立ちまくる。皆が距離を取りたがるのも無理は無いだろう。
 令子と横島はこの手の調査の経験があったため、その辺りの感覚が鈍っていた。
 そしてアスナは……言うまでもない。単に横島の側から離れたくなかっただけである。横島と腕を組みながら進めるならば、周囲の目など彼女にとってはどうでもいいのだろう。こちらはこちらで普段通りであった。

「月詠は、周りの目とか気にしないで向こうに行くと思たアル」
「いやぁ、ウチもアレはちょっと……。はしたないわぁ」
 意外にも距離を取る側に入っていた月詠。彼女も3−Aの面々との付き合いを経て人並みの羞恥心が身についたのかもしれない。
 千草が知れば、きっと涙ぐんでいただろう。そして月詠が「涙もろくなったら年ですえ」とツっこんでお仕置きを受けていただろう。

 それはともかく、しばらく進んだところでシロがうめくような声を出して顔を上げた。
「美神殿ぉ……」
「シロ、どうしたの? まさか匂いを追跡できないの?」
「この追跡……お腹が空くでござる……」
「……はい?」
 追跡できない訳ではないが、五月はたくさんの料理を運びながらこの道を進んでいたらしい。当然料理が通り過ぎたのは数時間前の話なので令子達は匂いを感じないが、微かな五月の匂いを追跡しているシロは、否応無しにその料理の匂いも感じ取ってしまう。
 美味しい料理の匂い、お腹が空くのも無理は無い。
「ガマンしなさい! ちゃんとご飯食べてきたでしょ!」
「うぅ〜……」
 令子に叱られ、シロは追跡を再開。そのまま匂いをたどって行くと、鈴音の匂いにぶつかる前に、五月が様々な場所に立ち寄っている事が分かってきた。
 どこも人が多いが、観光客が訪れる場所ではなく、どちらかというと裏方が控えるような場所だ。
 それぞれの場所で聞き込みしてみると、五月はここに軽食を差し入れるために訪れていたらしい。食事を買いに行く時間ももったいないぐらいに忙しい彼等には正に天の助け。皆五月に感謝していた。
「いい子ね〜。私なら出前にして金取るけど」
「でしょうね」
 令子の感想はともかく、五月の一番新しい匂いをたどって来た一行だったが、どうやらこのルートは差し入れのために屋台を出た時のものだったようだ。
 これはハズレだったか。このまま一周して『超包子』に戻るのではないか。追跡する面々の脳裏にそんな考えがよぎる。
 まぁ、戻ってしまったらまた別のルートをたどればいい。そう考えて更に匂いをたどって行くと、周りの様子が少し変わってきた。
「横島さん……」
 シロは段々と祭りの喧騒から離れて行く。匂いに集中しているシロは気付いてなさそうだが、五月の歩いたルートは町中ではあるものの祭りとは無関係の場所、裏方の生徒達も今日は訪れないような場所へと進んで行く。
 周りの目が無くなってきたので、距離を取っていた古菲達も横島の側に近付いてきた。
「寂しい場所ねぇ」
「いや、普段は結構人通り多いからね。ほら、あの建物とか寮だし」
 アーニャがぼやき、アスナがフォローを入れる。
 アスナの言う通り、この辺りは寮が多い。言うなれば麻帆良学園都市の住宅街であり、それ故に観光客が無闇に近付かないよう祭りの会場にされなかった場所だ。
 そのため麻帆良祭中は、生徒達が朝晩に行き来する以外は閑散とした状態になる。
「こんなところに差し入れする相手いるかしら?」
「材料補充しに来たとか? アスナはん達の元の寮はどこですの?」
「ちょっと方向が違うわね。この辺、大学が近いのよ。この辺りにある建物も、大学の寮が多いし」
 この辺りは元々麻帆良の住人であるアスナ達も、あまり訪れない場所だ。いうなれば大学生エリアだ。
 しかし……。
「鈴音って、麻帆良工科大学に出入りしてたよな?」
 千雨がポツリとつぶやく。そう、アスナ達普通の中学生には縁が無いが、大学に出入りしていた鈴音にとってはどうだろうか。
 彼女はロボット工学研究会、東方医学研究会、生物工学研究会、量子力学研究会に所属している才媛だ。協力者であるハカセもロボット工学研究会、ジェット推進研究会に属しており、3−Aの中では最も大学に馴染みがある二人といっていいだろう。ハカセに至っては大学に泊まり込む事もザラだ。
 そして麻帆良の大学は様々な意味で「麻帆良らしい」場所であるため、学科によっては祭りの会場として使われていなかった。理由は単純、危険だからである。
「クンクン……こっちでござる」
 シロが匂いをたどって進む先には、麻帆良工科大学があった。ここは祭りの会場として使えない場所筆頭だ。
 そのまま大学に入るかと思いきや、匂いをたどるシロは少しズレた方向に進んで行く。
「……なるほど、狙い目ね」
 真っ先に反応したのは令子。彼女も何の変哲もない公園の地下に隠れ家を作り、公衆トイレに秘密のエレベーターを設置するなど、隠れ家には一家言がある。
 鈴音が普段から出入りする場所であり、その場所そのものではない。
 鈴音達が作業していても疑われず、また大学構内ほど人がいない。確かに狙い目だろう。令子も、我が娘ならばこれぐらい当然と考えていた。
「この辺なら秘密研究所とかあっても不思議じゃないし、鈴音さんの隠れ家があっても不思議じゃないわね」
「地下に巨大ロボットが隠されてても驚かねえ」
「それ、究極の魔体モドキ?」
 アスナ達も、横島達の推論には納得したようだ。
 千雨の調べによると、そう離れていない場所に地下水道に入れる場所もあるようだ。

「……ここでござるな。匂いはその玄関のところで一旦止まっているでござる」
 シロがたどりついたのは、小じんまりとした一軒家だった。特に怪しいところはなく、外見は普通の住宅だ。
「吾妻?」
 アスナが表札を見て首を傾げるが、令子はその名前に反応してピクリと肩を震わせた。
「美神さん、知ってるんですか?」
「……私の父の旧姓よ。鈴音から見ればお爺さんね」
 千雨が問い掛けると、令子は口元を引きつらせながら答えた。彼女と父との関係は、悪い訳ではないのだが、色々と複雑なのだ。
「ここが鈴音の隠れ家っスかね?」
「家はダミーで地下って可能性もあるわね」
 五月はおそらく鈴音達に食事を届ける役目を担っていたのだろう。
 おそらく彼女が各所で差し入れをしていたのはダミーだ。そうする事でたくさんの料理を運んでいても不自然ではない状況を作り、こっそり祭りの喧騒から外れてここにいる鈴音に料理を届ける。それこそが目的だったのだろう。
 アスナ達にしてみれば、五月がそういう策を巡らしたとは考えにくい。しかし鈴音が考えたとすれば話は別だ。おそらく鈴音が五月にそうするよう指示を出していたと考えられる。
「むむっ、この匂い……鈴音殿でござるよ!」
 ここでシロが決定的な情報を発見した。五月の匂いと重なるような状態で鈴音の匂いも感じる。おそらく五月が届けた料理を受け取りに玄関まで出てきたのだろう。
 間違いない。ここが鈴音の隠れ家だ。
 皆の表情が変わった。ここからが本番だ。
 シロを一旦下がらせ、まずは令子が近付いて扉を調べ始める。アスナ達はその手慣れた手付きに泥棒の経験でもあるのではないかと思ったが、賢明にもそれを口に出す事は無かった。
「鍵は……掛かってるわね。それに何かオカルト的な防御ガチガチに固めてるみたいよ」
「鈴音さんなら、科学的なトラップも仕掛けてそうです」
「そっちは私じゃ調べられないわねぇ」
 ここまで隠してきた隠れ家だけあってセキュリティは万全のようだ。
「科学的なのなら、私のアーティファクトで何とかできるかも……」
 オカルト方面ならば令子でも破れる。科学方面ならば千雨がアーティファクトでハッキングするという方法が使えるだろう。
 時間が掛かりそうだがとにかく始めようとしたその時、突然の地震が一同を襲った。
「きゃあっ!?」
「タダオー!」
 アスナとアーニャが、咄嗟に横島に抱きついて転倒を防ぐ。
「これは……!」
 自力で耐えた令子は、すぐさま気付いた。この揺れは自然のものではないと。
 原因を探ろうと周囲を見回した彼女は見た。町並みの向こう側にそびえ立つ巨大な光柱を。
 柱の数は五つ。一つ一つが家一軒を軽く飲み込んでしまいそうな太さだ。
「あれは……!」
 光柱の中に見える大きな影。そう、五つの『究極の魔体』モドキだ。
「どうやら始まったみたいね……」
 それは世界樹コスモプロセッサ化の儀式が発動準備に入った合図。『学園防衛魔法騎士団』第二部スタートである。





つづく


あとがき

 超鈴音に関する各種設定。
 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

前へ もくじへ 次へ