topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.184
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「オラァッ!」
「フンッ!」
 手に装着した下駄の一撃が魔物の巨躯をのけぞらせる。その隙に山下が渾身の一撃を叩き込み、魔物はそのまま倒れ伏した。
 倒れた魔物が煙となって消えるのを確認。二人は安堵の息を吐く。
「危ねえ! ダブル裂空掌!」
 その隙を突いて空から急降下してきた鳥型の魔物を中村が撃墜した。
「油断大敵だぜ!」
「すまない、助かった!」
「強敵に集中し過ぎていた……な!」
 お互い礼もそこそこに次の敵へと向かう。たった今気を抜いて不意を突かれたばかりなのだ。ミスは繰り返さない。
 中村の言う通り油断大敵。地獄の特訓中に何度もあった事だ。
 しかし強敵相手だと、倒す事に集中せねばならず、そこまで気を回す余裕が無くなってしまう。
 そればかりは特訓してもどうにもならず、ならばと開き直って互いに勝手に戦い、気が付いたら仲間をフォローしている。それが彼らのたどり着いたコンビネーションであった。
「残りわずかだ! 一気に片付けるぞ!!」
「応っ!」
「流れ弾を見逃すなよ!」
 時折狙いすましたように飛んでくるフェイトの魔法に気を付けながら三人は戦い、その堅実な戦いぶりに魔物は順調に数を減らしていく。
 公園の魔物が尽きるまで、そう長くは掛からないだろう。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.184


「……手駒は、君の方が上みたいだね」
 豪徳寺達の戦いを横目に見ながらフェイトが呟く。しかしその表情は余裕を崩していない。
 自分とネギでは自分の方が上で、豪徳寺達を合わせても自分一人で勝てると考えているのだろう。実力的に慢心とも言い切れない。
 『雷の斧(ディオス・テュコス)』によって地面に叩き落された彼は、そのまま浮上せずにネギを迎え撃っていた。
 彼の魔法は地面を使うものが多い。この状態では自分を巻き込む規模の魔法が封じられる事になるが、それでもネギ一人を相手取るなら十分だという判断だろう。
 本人が気付いているのか、あえて無視しているのかは分からないが、それだけ彼を警戒しているという事でもある。
 ネギもここで一気に倒してしまいたいと攻めるが、槍対徒手空拳でも押し切る事ができない。
 彼も空を飛ぶのに意識を割かれていたようで、空中にいた時よりも技の鋭さが増している。
「……ッ!」
 それに気付いたネギはすぐさま飛び退き、一旦距離を取った。
 フェイトはすかさず魔法で追撃するが、ネギは障壁を使って逸らす。
 その後も攻防を続ける中でネギは考える。やはり実力ではフェイトの方が勝っていると。
 だからといって諦めはしない。地獄の特訓では常に相手の方が遥かに格上だったのだから。
 フェイトもまた、怯まないネギの目に気付いていた。格下の相手が自分に歯向かってくる事に彼のプライドは傷付けられる。
「チッ……!」
 ネギの足元から突き出す数本の石柱。
 ネギはジャンプでかわし、石柱は更にそれを追いかけるが、ネギは虚空瞬動で追撃を逃れた。まだ慣れていないが、緊急避難には十分だ。着地に少ししくじるが、すぐさま体勢を立て直し構えを取る。
 ここですぐに反撃の魔法は使わない。瞬動で距離を詰めて連撃を叩き込むが、フェイトはそれをたやすく防ぐ。
 凄まじいスピード、そして技術だ。やはり今のネギでは、その守りを崩す事はできない。
 だが、問題は無い。それでいい。大きな魔法を使わせなければそれでいい。
 ネギは彼を倒すのではなく、時間稼ぎとして攻撃していた。
 勝利までの道筋を見定める時間。その時を待つための時間。
「ネギ君、魔物は全て片付けたぞ!」
 そして準備は整った。豪徳寺達が公園の魔物を一掃したのだ。
 全員で掛かってきたとしても負けるとは思えないが、フェイトは警戒して身構える。
「小太郎君達が魔物に追われているはずです! 追い掛けてください!」
 しかし、フェイトの予想に反し、ネギは豪徳寺達をこの場から離脱させようとした。茂みから現れたカモも、豪徳寺の肩に飛び乗る。
 ネギ達の目的は儀式の阻止。ならば、魔法陣の頂点に向かったチームの戦力を増強するのは悪い判断ではない。追撃している魔物を倒すだけでも助けになるだろう。
 フェイトは頂点の儀式ポイントにも守りの備えをしてあるが、儀式を阻止されてしまえば、ここでネギを倒そうともフェイトの負けとなる。
 ここは確実にリスクを減らす事にしてネギから距離を取り、大きな魔法で公園から出て行こうとしている三人と一匹の背中を狙う。
「させない!」
 そこに風をまとったネギが、矢のように飛び込んだ。
 ただし、杖の先端の魔法の刃を鏃とし、そこに『魔法の矢(サギタ・マギカ)』を乗せ、更に瞬動で加速して突っ込むという、矢は矢でも攻城兵器バリスタの矢である。
「く、狙っていたか!」
 その一撃は魔法を放とうとしていた腕をかいくぐり脇腹へと突き刺さる。豪徳寺達に意識が向いた一瞬の隙を突いた攻撃だ。
 纏っていた『魔法の矢』も炸裂させ、鉄壁の守りを崩す。
「こじ開けたぞ、フェイト!」
 畳み掛けるように追撃を叩き込むネギ。フェイトは成す術もなく攻撃を受ける。
 その間に豪徳寺達は走り去っていき、魔法で狙える距離では無くなってしまった。
「チッ……やってくれたね!」
「クッ! ……まだまだァッ!!」
 ネギの顔に反撃の拳が叩き込まれるが、それでも彼は攻撃の手を止めない。
 連続攻撃に晒されながらフェイトは考える。実力は間違いなく自分の方が上だ。だが、ネギも決して弱くはないと。
 そう二人の戦いは、ネギはフェイトを押し切る事ができないが、同時にフェイトもネギを倒し切る事ができないのだ。
 つまり、足止めが成立するのである。
「勝てないから足止めに徹するか。悪くない判断だ!」
 それに気付いたフェイトは戦い方を切り替える。再び浮上して距離を取り、『石の槍(ドリュ・ペトラス)』を使う。
 一つ一つが一撃必殺の威力を持つが、攻撃範囲は狭い。その分詠唱は速く、フェイトは連発による波状攻撃を仕掛ける。ネギは手数が追い付かず、対応し切れない。
 だがネギもさるもの。直撃を避け、狙いを定まらせないよう走り回りながら遅延呪文(ディレイ・スペル)を準備していく。
 ネギの周囲に浮かんでいく光球。
「ならばこうだ!」
 フェイトが新たな呪文を放つと、周囲一帯の地面がデコボコに隆起した。
 ダメージを与えるほどではないが、素早く走り回れるほどではない。
「くっ!」
 ネギが素早く呪文を唱え、再び宙に舞い上がった。
 再び弾幕を放つフェイト。だがネギは飛行呪文を維持しながらも遅延呪文を再び紡ぎ始める。
「この……」
 フェイトは一瞬切れかけて大魔法を打ち込もうかと考えるが、すんでの所で思いとどまる。
 弾幕ではなく、機動力で回避しづらい、かつ威力は低めだが詠唱の早い範囲爆発魔法に切り替えて攻撃を継続する。
 だがネギもしぶとかった。回避機動を更に激しくし、避けきれない爆発は魔法の盾で防ぐ。
 その間にも詠唱は途切れず、ペースは遅くなっても一つずつ、一つずつ時間と共に光球は増えていく。
 一方的に攻撃し続けているフェイトだが、その実追い詰められているのもまたフェイトだった。
 何より攻撃の手を緩める事ができないこの状況、フェイトの足止めは完璧に果たされている。
「ちっ、戦い方という物がわかってきたじゃないか……」
 そうこうしている内にネギの周囲に浮かぶ光球の数が三十七となった。
 このままでは光球の数は増える一方。時間はネギの味方。ならばここで動くべきだ。
 遅延魔法を放たれても防ぎ、回避しつつ、広範囲を攻撃し一気に片付ける事ができる大魔法を詠唱する。これはネギにもできる事。ならば自分にもできる。そうフェイトは考えた。
「いいだろう。勝負してあげるよ……!」
 手数で勝負していた魔法攻撃をピタリと止め、フェイトは大魔法の詠唱に入る。
 しかしその視線はネギの光球から離さない。詠唱が完了するまでいかなる攻撃も防ぎ、回避する。その一点に意識を集中していた。
「今だッ!!」
 タイミングを逃さずネギも動く。
 フェイトとは正反対の方向に。
 しかも光球を従えたまま杖にまたがり、猛スピードで飛び去って行く。
「何だとっ!?」
 驚きの声を上げたフェイトは、思わず詠唱をストップさせてしまった。
 飛び去った先は豪徳寺達とは別方向。フェイトは小さな魔法で追撃しようとするが、ネギはそのまま近くの建物の陰に隠れ、姿が見えなくなってしまう。
「本当にいやらしい手だ!」
 フェイトの目的を考えると、豪徳寺達を追い、小太郎達も捕捉して儀式を完遂しなければならない。
 しかし、ここに大量の遅延魔法を準備し、どこかに隠れたネギの存在が響いてくる。豪徳寺を追えば、また横っ腹を突いてくるのは間違いない。
「だが……!」
 フェイトはニヤリと笑みを浮かべて、再び地面に降り立った。
「ネギ、君は勘違いしているようだが……魔物はまだ打ち止めじゃないんだよ?」
 そして地上の公園で、もう一度無数の魔物を召喚する。
 地面から闇が染み出し、盛り上がり、形を変えて魔物が姿を現す。
「さぁ、どうする? もう手駒は残っていないだろう?」
 近くに隠れているであろうネギに語り掛ける。いくらネギでも、この数を一人で相手取る事はできないだろう。
 その時、物陰から『魔法の矢』が飛来。
「甘いよ!」
 しかしフェイトは手近な魔物を掴み、『魔法の矢』に投げつける事でそれを防ぐ。
「それで不意を突いたつもりかい? そこの家の陰からだ。前後と上、三匹で行け」
 あまり数を出しても道の狭さを利用されると考えたフェイトは、三匹の魔物に『魔法の矢』が発射されたであろう位置を探らせるが、そこにネギの姿は無かった。
「逃げながら、ちまちまと攻撃してくるつもりかい?」
 どこまでもいやらしい手を使ってくる。魔物に手分けして捜させるという手もあるが、それでは各個撃破されてしまう恐れがある。
 そこでフェイトは手近な家の屋根へと移動し視界を確保。
「さて、どこから来るかな? それとも大魔法で一撃必殺を狙うかい?」
 そして自分を中心に魔物を放射状に配置し、どこから攻撃されてもすぐに対応できる態勢を整え、そして待った。





「ネギ・スプリングフィールドオォォォォォッ!!」

 なお、自分が放置され、ネギはとうに移動している事に気付いたのは、それから五分後の事であった。
 怒り狂ったフェイトは、飛行して魔法陣の頂点に向かう。
 魔物も共に追跡させているが、いかんせんスピードが違うため、先頭にフェイト、少し離れて翼を持つ魔物、更に離れて地上を行く魔物が続いていた。
 すると豪徳寺達の姿が見えるよりも先に、屋根の上に立って杖を構えているネギの姿が見つかった。
「ラス・テル マ・スキル マギステル!」
 杖の先端を迫りくるフェイトに向け、ネギは詠唱を開始。
 距離は十分、詠唱するだけの時間は確保できている。
「光の精霊百九十九柱! 集い来たりて敵を射て! 魔法の射手、連弾・光の百九十九矢(セリエス・ルーキス)!!」
 空を染め上げるほどの光の矢が放たれ、一斉にフェイトに襲い掛かる。
「ヴィシュ・タル リ・シュタル ヴァンゲイト!」
 しかしフェイトはすぐさま多重障壁を張って防御。着弾した光の矢が炸裂して強烈な光を放つが、障壁の向こう側のフェイトまでは届かない。
「ッ! 上か!?」
 詠唱時間を確保していた割には魔法が弱い、そう判断したフェイトは気配を探る。
 気配の方を見上げると、『雷の斧』を振りかぶったネギがローブをマントのように翻しながら迫っていた。
 フェイトは咄嗟に石の剣を呼び出して迎撃。剣を砕かれてしまったが、カウンター気味にネギの腕に蹴りを食らわせ吹き飛ばした。
「同じ手が二度も通じ……!?」
 その時、フェイトは気付いた。吹き飛ばされたネギが笑っていた事を。
 そして……ネギの更に背後に下駄を構えた豪徳寺の姿があった事を。

「超必殺! 漢気光線ッ!!」

 魔法使いの従者(ミニステル・マギ)の召喚。仮契約(パクティオー)カードの機能が脳裏に浮かんだ瞬間、光の奔流が怒涛のごとくフェイトの身体を飲み込んだ。





つづく


あとがき

 原作における『風精召喚(エウォカーティオ・ウァルキュリアールム)』は、自分の複製を作って攻撃させたりする魔法ですが、その複製が剣を持っていたので『見習いGSアスナ』では杖の先端に槍の穂先を作る用途で使わせています。

 超鈴音、フェイト・アーウェルンクスに関する各種設定。
 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

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