topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.188
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 気を取り直し、改めて鈴音から話を聞く事にする。
 質問をするのは引き続き令子だ。壊れていなかった椅子に座っている。
 ちなみに壊れた設備は、直させないでいる。儀式に関わるものならば、現状このままの方が良いと判断したためだ。
「今度こそちゃんと答えなさいよ」
「横島鈴音、ウソつかないね」
 確かに嘘はついていなかった。他の事を考えていただけで。
 同じ事をすると令子が再び暴れ出すだろうから、流石に繰り返す事はしない。
「それじゃあ改めて聞くけど、あんたがフェイトってヤツと手を組む理由は?」
「それは……もう一度、時間移動するためネ」
 令子がチラリとのどかを見ると、彼女は小さくうなずいた。確かに嘘はついていないようだ。
「時間移動、ね」
 しかし本当の事だからといって納得できるかどうかは別問題だ。
 確かに時間移動は神魔族によって禁止されている。しかし、それは霊能が発動できないようになっている訳ではない。
 現に鈴音は先日も使用していた。この事から彼女が神魔族のルールについてはそれほど重要視していない事が分かる。
 ハッキリと言ってしまえば、時間移動をするだけならさっさと一人でやってしまえばいい。鈴音は文珠も使えるのだから、令子や美智恵よりも楽にできるはずだ。
 にも関わらず、フェイトと協力する理由。嘘はついていないが、まだ隠している事がある。令子はそう判断した。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.188


 それは何かと考えた時、令子はひとつの可能性に思い至る。
「ねぇ、横島君……ルシオラって、もう復活してるのよね?」
「え、ええ、今は魔界にいますけど。あ、鈴音はアレでしょ。こう、もうひとつの未来? そっちの世界から来たルシオラ」
 「別の時間軸で生まれ変わったルシオラ」といった方が正確だろうか。
「じゃあ、この世界で時間移動した場合……この子は、自分が生まれた時間軸に戻れるのかしら?」
「えっ……」
 横島は答えられなかった。正直分からない。周りを見てみても理解できている者は少ないようだ。千雨、のどか、パルの三人はピンときたようだが、彼女達の場合はマンガなどで得た知識のおかげだろう。
 令子も自分にはできない。美智恵にだって無理だろうと判断していた。
「それじゃ鈴音がフェイトと協力してやろうとしている事は……」
「コスモプロセッサを使って、自分の生まれた時間軸に戻れるようにする。十分考えられるわね」
 こちらの世界を自分の生まれた時間軸に合わせて改変するというのも考えられるが、それは規模が大き過ぎる。それをやろうとすると神魔族が黙っていないであろうことは確実なので、令子も候補から外していた。

 ここまで考えたところで、令子はひとつの疑問にたどり着いた。
 そもそも鈴音は、どうしてこの時代に来たのだろうか?
 真っ先に思い付いたのは、時間移動を利用しての金稼ぎだが、神魔族を敵に回してまでやるメリットがあるとは思えない。鈴音の才覚を考えると、しなくても稼げるだろう。
 次に彼女の脳裏に浮かんだのは、かつて自分が時間移動をした一件だ。
 チラリと横島の方を見る。視線に気付いた彼はどうして見られたのか分からず戸惑っていたが、令子にとっては重要な事だ。
 過去の世界におけるドクター・ヌルとの戦いにおいて、横島は一度死んだ。その後のヌルの攻撃で偶然時間移動が発動したため助ける事ができたが、あの時助けられなかった場合、自分はどうしていただろうか。
 やはり時間移動を使って助けようと考えていたのではないだろうか。あの頃はまだ時間移動も禁止されていなかったのだから躊躇する理由も無い。
 令子にはそれぐらいしか思い付かなかった。神魔族を敵に回してまで時間移動をする理由が。
 そう思い至ってしまっては聞かざるを得ない。
「鈴音……どっちなの?」
 令子は震える声で聞いた。
 周りの横島達は何の事か分からない様子だったが、他ならぬ鈴音にだけはそれで通じたようだ。
 彼女は伏し目がちに逡巡する様子を見せたが、令子達に背を向け、肩を小さく震わせながら「最初は……ママ」と答えた。
「最初はって事は、横島君も……?」
 鈴音はコクリと頷く。
「そ、それってまさか……!?」
 そのやり取りで気付いたのは、やはりのどかだった。
「本屋ちゃん、どういう事!?」
「多分、鈴音さんのいた世界では、横島さんと美神さんはもう……」
 アスナの問い掛けに、震える声で答えるのどか。それで皆も理解し、一同は騒然となる。
「や、やっぱりそうなのね……」
 パルは気付いていたが、何も言わなかった。いや、言えなかったようだ。流石の彼女もこれを茶化す事はできなかったのだろう。
 千雨は茫然として青ざめている。こちらは薄々そうではないかと考えていたが、信じたくなかったといったところか。
「えっ? えっ?」
 一方「お前は既に死んでいる」と言われたようなものである横島は戸惑うばかりだ。
 助けを求めるようにのどかに顔を向けるが、彼女は悲痛な声で「本当の……事です……!」と返した。『いどのえにっき』にハッキリと表示されたのだろう。鈴音の世界において二人は既に死んでいる事が。
「鈴音さん、一体何があったの……?」
 アスナが恐る恐る尋ねた。
「それは……」
 一体何があったのか。それは異なる歴史を歩むこの世界でも起こり得るものなのか。皆が固唾をのんで次の言葉を待つ。

「ママが、病気で亡くなって……その後、パパも……」

 その言葉を聞いた時、何故か令子の脳裏に「蜘蛛」という言葉が浮かんだ。
 それらしい記憶は無い。無いはずだが、何故か引っ掛かった。

「くたばる前日までナンパを繰り返す、百歳超えてもファンキーなジジイだったネ」

「……………………え゛?」
 皆、その言葉の意味を理解できなかった。いや、理解する事を拒否した。
 鈴音は横島と令子の子供だというが、一体何歳の時に生まれた子供なのか。
 彼女は「超鈴音」という偽の戸籍で麻帆良学園都市に通っていたが、その戸籍に書かれた名前以外の情報は本当に正しかったのだろうか。

 そもそも彼女の本当の年齢は、いくつなのだろうか。

 見た目的にアスナ達とそう変わらない事から、中学生というのは嘘ではないと考えていた令子だったが、彼女が魔族の生まれ変わりである事を失念していた。
 見た目通りの年齢ではない。十分有り得る。
 彼女の天才的頭脳も、それだけ学ぶ時間があったのだと考えると、納得できる。
 その割には精神年齢が……とも思うが、よくよく考えると神魔族にはそういう面を持っているものも少なくはない。
「その、鈴音殿は何歳でござるか?」
「女に年齢を尋ねるものじゃないネ、シロ」
 おずおずと問い掛けるシロに、鈴音はニヤリと笑って答えた。少なくとも五十歳は軽く超えていそうだ。
 それはともかく、また主導権を持っていかれた。横島達は、そう感じた。
 しかし、ここでパルが待ったを掛ける。
「じゃあ質問変えるけど、鈴りんが時間移動してきたのは何のため?」
「……それはさっき答えたネ」
「それは私も聞きたいな。さっきの答えじゃ納得できなくなった」
 そこに追撃するのは千雨。彼女もまた気付いていた。
「よく分からんが、要するに鈴音の生まれた未来と今は、『時間軸』みたいなヤツが違うって事だろ?」
「『歴史が変わった』ってヤツだよね」
「詳しく説明するかナ?」
「いや、いい。聞き終わる頃には、良いか悪いかはともかく全部終わってそうだ」
 マンガ由来の知識だが、そう間違ってはいないようだ。鈴音も間違っているならばハッキリそう言うだろう。
「だったら、さっきの答えはやっぱりおかしいだろ」
「元の世界に戻っても、横島さん達がいないんじゃね〜」
 二人の言葉を聞き、古菲はポンと手を打った。
「言われてみれば、確かにそうアル」
「お二人を生き返らせる〜とかなら納得いきますけど……」
 月詠はチラリと横島を見る。二人は見ての通り健在だ。
「じゃあ、時間移動だけじゃなくて、二人を生き返らせるのも考えてるとか?」
「えっと……『いどのえにっき』で違うって言ってます」
「どっちも大往生だったし、今更かナ?」
 アーニャの予想は、残念ながらハズレだったようだ。

 しかし、ますます分からなくなってきた。
 わざわざこの時代に来て、これだけ大掛かりな準備をしてきたにしては、時間軸を越えて彼女の生まれた未来へ帰るだけではメリットが少な過ぎる。労力的には、むしろマイナスだといっていいだろう。
 鈴音の本当の目的は何なのか。何を隠しているのか。
 のどかはずっと『いどのえにっき』を開いているが、その辺りについては時間移動が目的である以外は全く読めないようだ。
 どうやっているかは分からないが、巧みに隠しているのだろうか。
 それとも巧みなのは鈴音の誘導で、実は自分達は的外れな事に頭を悩ませているのだろうか。そんな不安が令子達の脳裏をよぎる。
「鈴音……何を隠しているの?」
「……未来の、美神さんのへそくりの隠し場所を知ってると出ました」
「…………ちなみに、どこ?」
「机の下の隠し収納って出てます」
「…………」
 令子は冷や汗をたらす。その表情から察するに未来だけでなく今も使っている隠し場所のようだ。当然、帰ったら隠し場所を変えようと考えていたりする。
 それはともかく、これで令子は確信した。鈴音は、嘘をつかずに『いどのえにっき』を誤魔化す術を持っている。
「のどかちゃんだったわね、私に質問してくれる? へそくり、どこに隠してるかって」
「えっ? あ、はい。美神さん、どこにへそくりを隠してますか?」
 すると『いどのえにっき』には、公園の公衆トイレの地下に密かに造られた地下室に、天井まで積み上げられた金塊がある事が描き出された。
「えっ、天井までの金塊……?」
「やっぱりね」
 実際のところ、令子のへそくりというか隠し資産の全貌は膨大であり、公園の隠し地下室などは極一部に過ぎない。しかし、『いどのえにっき』に浮かび上がったのは、それだけだ。
 そう、令子は試したのだ。鈴音と同じように『いどのえにっき』を誤魔化せないかと。
 結果はご覧の通りである。『いどのえにっき』は、一度に表示できる情報量に限りがある。そう考えた令子は、あえて答えの一部を強く思い浮かべる事により、読まれる情報を誘導したのである。鈴音も同じ方法を使っているのだろう。
 なお、読まれる情報を隠し地下室にした理由は、既に横島達に知られているからだ。
 仮に令子の隠し財産の情報を全てとなると、何十ページあっても足りないのはここだけの話である。
「要するに、答えの範囲が広い曖昧な質問じゃダメって事よ」
「具体的な質問じゃないとダメって事ですか?」
「そういう事ね」
「じゃあ、Yes、Noで答えられるようなのがいいのかな?」
 分からないなりにまとめたまき絵の言葉が、アスナ達には一番分かりやすかったかもしれない。

「という訳で、皆思い付く限り質問してみなさい!」
「はーい!」
 たとえるならば、クラスに転校生がやってきた時の質問攻めにするあのノリだろうか。
 まき絵とパルが中心になって矢継ぎ早に質問を投げ掛けていく。
「はいはいはーい! 茶々丸さんって未来のロボットなの?」
「いや、本気で未来の技術のロボットを作ろうとした場合、材料を用意する事ができないネ。部品を作る工作機械にも未来の技術が必要だし。だから茶々丸は、現代の技術で作られているヨ。Dr.カオスの技術も入ってるケド」
「自分より強いお人に会いに行きたかったとか?」
「いや、私は戦闘狂じゃないネ」
「横島さんと美神さんに会いたかったのか?」
「それも無いとは言わないヨ」
 鈴音の目的と全く関係無さそうな質問もあるが、令子はあえて止めなかった。
 連続で質問されていると、思考を誘導する余裕が無くなると考えたからだ。
 アスナやアーニャは真面目に鈴音の目的を予想し質問するが、残念ながら真相にはたどり着けていない。
「ズバリ! 時間移動する時、横島さんも連れていく事が目的じゃない?」
「おお、それは良い考えネ!」
「あ、ホントにその発想は無かったって考えてます」
 むしろ面白半分で質問しているパルの方が、良いところを突いているかもしれない。

 そんな中、ただ一人質問をしていなかったのは横島。
 彼は彼なりに考えており、彼もまたあるひとつの可能性に思い至っていた。
 皆の質問がひと段落ついたところで一歩前に出て、鈴音の真正面に立って質問を投げ掛ける。

「なぁ、鈴音……お前、さてはドジったな?

 その瞬間、部屋の中の時間が止まった、ような気がした。
「よ、横島さん、何言ってるんですか?」
「ドジったってなんの事?」
 顔を突き合わせて次の質問を考えていたアスナとアーニャが彼の方を見る。
 他の面々の視線も横島と鈴音の二人に注がれるが、そこで彼女達は気付いた。質問された鈴音の目が泳いでいる事に。
「…………あっ!」
 そして令子も気付いた。
 時間移動能力。強力な霊能だがその扱いは非常に難しく、令子自身も体験した事だが、意図しないタイミングで能力が発動する事もある。
 中世で横島を助けた時がそうだ。あれはヌルが電撃で攻撃したからこそ起きた偶然の産物だった。
 ならば、鈴音はどうなのか。横島の言う通り「ドジった」のだとすれば……。

「出ました……鈴音さん、山で雨宿りをしていたら、いきなり雷が落ちてきたって……」

 のどかがそう言い終えて『いどのえにっき』のページを皆に向けると、耳が痛くなるような沈黙が部屋を包み込んだ。
 そして、それを見た令子は全てを理解した。
「あんた……事故でこの時代に来たのね!?」
 そう、鈴音の時間移動は事故。偶然の落雷によって能力が発動してしまったものなのだから。

「え、え〜っと……ドンマイ?」
 この不幸かどうかも分からぬ事故を笑えばいいのか、呆れればいいのか。皆が複雑な表情で鈴音を見ていた。





つづく


あとがき

 超鈴音、フェイト・アーウェルンクスに関する各種設定。
 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

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