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過去からの招待状 5


 議会は白熱していた、あくまで極一部だが。
 猪場は件の山を保護区とする事を議題として提出したが、その反応はあまり芳しいとは言えない。一部の賛成派と一部の反対派、そして大多数を占めるのがどちらにも属さぬ中立派だった。
 GSと妖怪達の関係が今のままで良いと思っている者は少ない。だが、下手に状況を動かす事で、保護区を作る事で民間GS達の生活に悪影響を与える事は避けたい。
 「時機尚早」それが大半のGS協会幹部達の意見だ。



 そして、保護区となるはずの山は戦場と化していた。
 タマモはベルゼブルに対し相性の良い狐火を放ち応戦していたが、如何せん数が違い過ぎる。何より、今この山には戦えるだけの力を持った者がほとんどいないのだ。タマモを除く妖怪達の中で一番強い力を持つのは猫叉の美衣、彼女とてベルゼブルと戦える力があるかと言えば、答は否だ。そもそもこの山の妖怪達は人間に追い立てられた者がほとんどだ。力があればそもそも追い立てられたりしない。
 『愛子組』のメンバーの中には現役GSもいるが、仮にも《蝿の王》の異名を持つ魔族 ベルゼブルと互角以上の戦いをできる者は皆無だ。ベルゼブルは今、この戦場を支配している。

「こんな時に横島はどこ行ったのよ!」
 そう言いつつ、手近なベルゼブル達を焼き払うタマモ。背中に愛子とケイを庇いながら戦っているため、碌に動く事ができない。
「愛子! 手近な人間でも妖怪でも片っ端から飲み込んでいきなさい!」
「ええっ!?」
「少しでも狙われる的を減らすのよ! それとも、別の理由で減らされたいの!?」
「わ、わかったわ」
 タマモの意図を理解した愛子は周囲の人達を次々と机の中の学校に匿っていく。机の中にいれば愛子の身に何かない限り、安全は保障されるであろう。

「さ、ケイ君も」
「………」
 愛子がケイも机の中へと手を差し伸べるが、ケイは俯いたままその手を取ろうとしない。
「何やってるのよ、急ぎなさい!」
「…イヤだ!
 しかし、ケイは愛子の手を振り払い走り去ってしまった。
「え? え?」
「何でそうなるのよ、あのガキンチョっ!」
 悪態をつきつつも、横島と一緒に美衣の話を聞いていたタマモは今のケイの心理のおおよそを理解していた。
 皆を守る事を望んでいたケイである、守られたくなかったのだろう。子供のワガママといえばそれまでだが、状況は最悪だ。
「ど、どどどどうしよう!?」
「落ち着きなさい! 手近な連中を回収しながら追うのよ!」
「わ、わかったわ」
 タマモと愛子の2人は慎重に移動し始める。
 正直なところタマモの妖力が続く限り、一ヶ所で防戦に徹し、近付くベルゼブルを迎撃しつつ横島の救援を待っていた方が安全策ではあるのだが、それでは『愛子組』や妖怪達への被害が相当なものとなる。そこでタマモは愛子の中に人間も妖怪も放り込み、ベルゼブルの攻撃をあえて自分達に集中させようとしたのだ。そうする事でベルゼブルの群はおのずと自分達の周囲という狭い範囲に密集する、そこを狐火なり広範囲を攻撃できる方法で一掃すれば良いと考えていた。
 無論、問題がない訳ではない。まず第一にタマモにとっても愛子にとっても極めて危険な方法であるという事、第二に今のタマモの妖力では「一」掃とはいかないという事だ。
「…あんたがいなけりゃ話にならないわ…とっとと戻ってきなさいよ、横島…!」



 一方、横島は大きく翼を広げ戦闘体勢に入った魔族とともにベルゼブルの群と戦っていたが、ベルゼブルの群に対し決定打を与える事ができず、消耗戦を強いられていた。
 文珠は警戒され当てる事もできず、サイキックソーサーを当てる事ができても相手の数が多すぎて決定打にならない。『栄光の手』に至っては猛スピードで無数の弾丸のようにヒットアンドアウェイを繰り返すベルゼブルの動きに対応し切れない。
「文珠をぶつける事ができれば…こんな事なら妙神山で広範囲を攻撃できる技を教えてもらっとくんだった」
 後悔しても時既に遅し、文珠は確かに万能の霊能ではあるが、数ヶ月に渡るベスパや小竜姫との一対一の戦いを繰り返してきた横島の戦闘スタイルは極めて一対一の戦いに特化し過ぎていた。それ故に一対多の戦いとなると、文珠を封じられた途端に対応できなくなってしまうのだ。
 六道女学院での十二人の生徒との戦いがいい例であろう、横島は十二人を相手にしつつも結局は目の前の一人にしか集中していない。もし相手が現役GS十二人であれば、そして、その中に令子のようなリーダーシップを発揮する者がいれば、確実に横島の敗北で終わっていたであろう。

「てめぇ、ずっこいぞ! 月でもこんなにクローンはいなかっただろーが!」
「ハッハッハッ そいつは褒め言葉か? まぁ、月では魔力の送信を邪魔しないためにあえて数を抑えてたんだがな。それより、俺も貴様の事は高く評価しているんだ、もう少し頑張ってくれよ?」
 そう言いつつも攻撃の手は緩めないベルゼブル。勝ち誇ったように高笑いを交えながら種明かしを始めた。
「俺はな、コスモプロセッサの力で復活した時に思ったんだよ。「アシュタロスは強えが、きっと貴様等にゃ負ける」ってな」
「へ?」
「だから俺は復活後すぐに行動に移ったんだよ、コスモプロセッサから溢れる無限の魔力を使ってどんどんクローンを増やして魔力を蓄えていたのさ!」
 かつて猪場は言った、奴等は弱い人間をいつまでも見縊り続けると。魔族にある意味認められたのは嬉しい、相手がベルゼブルでなければ。更に言えば、魔族に認められた人間はいまや半魔族だ。ベルゼブルは気付いていないようだが。

「デミアンの野郎は魔界に戻ると言っていたが、俺ぁそんなつもりはねぇ! そこのゲートがあれば俺はもっとクローンを産み出す事ができる! いずれはロケットの1つでも乗っ取って月にでも行ってやるぜ、あそこに満ちた魔力を本気で使えば俺のクローンで地球を覆い尽くす事も可能だからなッ!!」
「なッ!?」
 横島は驚愕に目を見開いた。

「クローンを産み出すだと…お前、女だったんかーーーッ!?

「いや、そういう問題じゃなく」
 流石のベルゼブルも呆れている。
 ちなみにこのベルゼブルに性別はない。


「クックックッ…どうやらあの様子だとベルゼブルの奴、我慢できずに始めたらしいな」
 デミアンがベルゼブルの群に包まれる山を見上げて笑う。
 デミアンとオカルトGメン、マスク・ザ・ジャスティスとダテ・ザ・キラー。相対する二陣営は完全に膠着状態に陥っていた。二人のヒーローはオカルトGメンに手出しする事ができず、そのオカルトGメンもまたマスク・ザ・ジャスティスの正体がわかっているので手出しできない。そしてデミアンは彼等の戦いを観察していた。

「貴様等、何をやっているか!」
 そこに息を切らせながらGメン幹部の男が割り込んで来た。
「そいつらはオカルトGメンの敵だぞ、撃て!」
 隊員に命令を下すが、いかに幹部の命令と言えどこの状況ではい、そうですかと聞く訳にもいかない。隊員達はオロオロとするばかりだ。

「ほぅ、貴様等も裏切り者か? さぁて、どうしたものか…」
「かまわん! 裏切り者はまとめて片付けてしまえッ!」
 意味ありげに幹部の男に視線を向けたデミアンは返されたヒステリックな言葉に満足そうに微笑んだ。
「上の命令だ。さて、働くとしようか」
 じわじわと近付くデミアンに対し、後ずさる隊員達。彼等ではデミアンに太刀打ちできない。
「迷わずそこの男を撃てば良かっただろうに…ま、恨むなら自分の愚かさを恨むんだな。犬の分際で主の命に逆らったのだから!」
「クッ…!」
デミアンの擬体から生えた触手が鎌の様な形状になって隊員の頭上に振り下ろされる。

「待てぇいッ!!」
 その直前、マスク・ザ・ジャスティスとダテ・ザ・キラーの二人が間に飛び込み、デミアンの一撃を受け止めた。
「裏切り者同志庇い合うか…それではチョロチョロと逃げ回る事はできまいッ!」
 更に無数の触手の攻撃が二人のヒーローに降り注ぎ、二人は苦悶の声を上げる。

「何をしている! 奴等は無防備だ、撃てっ! 撃てっ!」
 幹部の檄が飛ぶ。しかし、隊員達の手は震え動く事ができない。


「惑わされるなッ!!」


 マスク・ザ・ジャスティスの声に隊員達はハッと顔を上げた。
「君達は何のためにオカルトGメンに入ったのだッ! 守るためではないのかッ!? オカルトGメンはGSに助けを求める事ができない人達も救うために設立された、そう全ての人達をだ! 思い出せ、君達の理想を、夢を・・・君達の正義を取り戻すんだッ! 迷わず撃てぇッ!!

「全員構えッ!」
 マスク・ザ・ジャスティスの言葉に奮い立った隊員達。指揮官が指示を出し、全員が銃を構える。
「そ、そうだ! さっさと裏切り者を…」
「狙えッ!」
 幹部の言葉を遮るように指揮官の指示が矢継ぎ早に飛ぶ。

「どっちをですか?」
「決まっている…悪者を撃て!
「了解ッ!!」
 次の瞬間、無数の弾丸がデミアンに向けて放たれる。これには流石にデミアンもその衝撃に吹き飛ばされた。
「グァアッ! 貴様等、許さんぞ…!」
「ひいぃぃぃぃ!」
 デミアンの怒りの形相を見て、ようやくどういう相手と取引していたのか気付いたのか幹部の男は地を這う様に逃げ出してしまった。


「皆の正義の心を僕の剣に!」
 マスク・ザ・ジャスティスの言葉に皆が手をかざし、霊剣ジャスティスに霊力が集いその刀身が黄金の輝きを放つ。

「そのような攻撃、私の体には…」
「ならば、何故先程の銃弾は効いたんだ?
「!!」
 そう、デミアンの擬体にはあらゆる攻撃が効かない。正確には擬体には効果があるが、本体にまでダメージが届かない。
 しかし、先程の隊員達の銃弾に対し、デミアンは痛みを感じ声を上げた。それは何故か?

「Gメンで使用される銃弾の弾頭は全て精霊石製だ。あれは着弾しエネルギーを放つ、言わば霊的な炸裂弾」
 マスク・ザ・ジャスティスの言葉にデミアンの表情が強張ばる。追い討ちをかけるようにマスク・ザ・ジャスティスは霊剣ジャスティスを構え叫んだ。
「体内に潜り込んだ精霊石の放つ衝撃は効いただろう! お前はその擬体の内側への攻撃に弱いッ!」
「だからと言って貴様に何ができる!」
 デミアンが叫び、無数の触手が槍と化してマスク・ザ・ジャスティスを貫くべく次々と襲いかかる。
 マスク・ザ・ジャスティスはその槍の嵐を掻い潜り、霊剣ジャスティスをデミアンに突き立てた。

「この程度で私にダメージを与えられるものか!」
「僕はこういう事もできるのだよ、ジャスティス・スタンッ!!
「ギャアァァァァァッ!!」
 霊剣ジャスティスより放たれた衝撃がデミアンの擬体の内部を駆け巡り、その体に大穴を開ける。

「見えた! 行くぞ、ダテ・ザ・キラーッ!」
「応ッ!」
 二人のヒーローは互いに頷き合うと空高く舞い上がり、そしてデミアンの露出した本体の入ったカプセルに狙いを定めると

「ダブルッ!」
「ヒーローッ!」
「「キイィーーーック!!」」

一筋の流星と化したキックがデミアンを貫いた。





「こ、こんな覆面マントの変態が正義のヒーローだと?
 非常識だ!
 納得いかぁーーーんッ!!

 デミアンの言葉にも一理あるかも知れない。




つづく



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