美神と横島
「落ち着け…落ち着け、俺! 美神さんを映画に誘うだけじゃないか。
やましい事は何も…あるかもしれないけど。
いやいや、この前チケットが手に入らないってぼやいていたからきっと大丈夫だ!!
…でも、断られる可能性が高いような」
こんな感じで電話の前で正座をしてすでに30分が経過している。
結局、横島が気合を入れなおして受話器を手に取ったのはそれから更に10分が経過した後の事だった。
「あ、美神さんですか? あのですね、映画のチケットが手に入ったんスけど…」
「はい、前に見たいって言ってたアレです」
「それで2人分手に入ったんで 一緒にどうかなー?って思ったりしてるんですけども、あの…」
「え? OK!?」
「はい! それじゃ明日の10時に駅前で!」
思いっきり叫びたいのを抑えて受話器を置く横島。
そして
「やったぁーーーッ!!」
月に向かって近所迷惑な雄叫びをあげるのだった。
一方、令子の事務所では、
「ママー? 電話かかってきてたみたいだけど誰から?」
「間違い電話だったみたい」
「ふーん…」
「ところで令子、明日は何か予定ある?」
「ないけど、どうして?」
母、美智恵。素直になれない娘のために一肌脱ぐ―――
「私、ちょっと用事があるからひのめの子守りをお願いしたいのよ」
―――つもりはまったくないようだ。
「仕方ないわね。ま シロ達に押し付けるからいいわよ」
「助かるわ、それじゃ今晩からお願いね」
そういうと美智恵はやけに上機嫌な様子で車を走らせ家へと戻っていった。残された令子は疑問符を浮かべる。
「泊ってくって言ってたのに急にどうしたのかしら? ま、どーせ仕事でしょ 私には関係ないわ」
美智恵を見送った令子は彼女の様子に大した興味も抱かず、腕の中で眠る妹、ひのめをあやすのだった。
この時の判断の甘さを後悔する事になるのは、もう少し先の話である。
「さて、明日は何着て行こうかしら 横島君ビックリするでしょうねぇ…」
はたして横島の運命や如何に!?
おわる
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