どっちの除霊ショー 3
「う〜ん。壮絶だなぁオイ」
控え室に置かれたTVでスタジオの様子を伺う横島、ピート、冥子の3人。番組は前半、後半に分かれていて前半はGメン、GS協会から来た「エラい人」達による討論。後半はそれぞれの代表者による実戦形式の試合となっているらしい。
それを聞いた横島達は冥子のぷっつんをどうしたものかと頭を悩ませたが、観客の中にタイガーがいる事を知り、幻覚でごまかすか文珠でなんとかする事にして今はなごやかに双方の幹部同士の討論を観戦している。
「諦めた」とも言う。
しかし、現在スタジオで繰り広げられているこれは『討論』ではない、『口喧嘩』だ。西条に出演を命じたGメンの幹部が民間GSはギャラが高いと罵ればピートに出演を要請したGS協会の幹部は負けじとGメンの使用する除霊道具は国民の税金でまかなわれているにも関わらず、湯水のように使っていると返す。
西条の密告により無理矢理参加した美智恵と窮地に陥っているGS達を救う使命感に燃える唐巣によりなんとか掴みあいの喧嘩になる事なく、TV番組としてはかろうじて成立してはいるが、やはりこれは『口喧嘩』であって『討論』ではない。
「なぁピート、結局こいつらは何がいいたいんだ?」
「さぁ?」
「依頼するならどっちがお得かって言ってるのよ」
「あら〜、令子ちゃ〜ん」
2人の疑問に答えながら控え室に入ってきたのは令子。美智恵に預けられていたはずのひのめの姿がないところを見るとおキヌあたりに押し付けて来たのだろう。
横島達3人にあてがわれた控え室だと言うのに我が物顔で入って来ては座布団を枕がわりにそのまま寝っ転がってしまう。
「あの、どちらがお得ってGメンは民間GSへの報酬は払えない人達のための……」
「本来はね、でも私が横島君にまかせるような仕事や受けもしないような小さい仕事を主にやってるGSってのも少なからずいるわけよ」
ピートの疑問に視線だけを2人に向けて答える令子。なんだかんだで『口喧嘩』の本質部分を理解している。
「私も〜たまにそ〜いう仕事をする事があるのよ〜」
「「「そりゃ、普段の仕事の成功率が低すぎるからだ!」」」
…と、言いたい三人だったが、口に出すのは怖いので心の中だけに留めておいた。
令子はオカルトGメンと民間GSとを比べてどちらが金がかかるのかと言えば、間違いなく前者だと断言する。そもそも、除霊にかかる費用の差と言うのは、その費用を支払うのが税金か依頼者個人かと言う違いなのだ。
ここで問題となるのが「破魔札」と言う除霊具。これは霊符に込められた霊力を炸裂させて攻撃する物で原理としては精霊石と同じ様な物だが、威力は当然の事ながらコストパフォーマンスにおいても精霊石の足元にも及ばない。にも関わらずオカルトGメンだけでなく民間GSにも多用されているのは精霊石と違って人の手で作る事ができ、量産が可能なためである。
そして、もう一つの特徴として精霊石も破魔札もそれに込められた霊力のみで効力を発揮する。仮に使用者が霊力をまったく使えない素人でもこれらの除霊具は効力を発揮するのだ。
美智恵と西条の二人を除外しての話だが、現在の日本のオカルトGメンにおいて現場で除霊を行う隊員は全体的に実力不足の傾向にある。そのため、オカルトGメンは除霊のために破魔札を大量に使用して除霊を行う。逆に言えばそうしなければ除霊ができないのだ。
「だからこそ、実力ある人がオカルトGメンに入隊して…」
「安月給で命かけろって言うの? 言っとくけど私に奉仕精神なんてないわよ」
反論しようとしたピートだが、令子には全く通用しない。
「…あんたら、犬飼の事件覚えてる?」
「「?」」
突然の話題展開に呆気に取られる横島とピート。令子はそんな反応も予想の内だった様で二人の返事を待たずに話を続ける。
「あの事件はさ、最初普通の通り魔事件として警察が捜査してたのは知ってた?」
「…いえ」
犬飼の事件は西条が自腹を切って依頼した事で令子達民間GSが動き出したのだが、実はその前に警察が通り魔事件として捜査し、オカルトの関わる物だと判断されて一度オカルトGメンが捜査を行っている。その陣頭指揮を執ったのが西条なのだが、被害者に残された痕跡からオカルトGメンでは手に負えないと独断で令子達に協力を要請していたのだ。
「オカルトGメンができる前なら、事件にオカルトが関わっていたなら警察からGS協会に連絡が行ってたのよ」
そして、GS協会の仲介により警察…正確には国から民間GSへ依頼されていたのだ。いつかエミが「警察は支払いが渋くなった」と言っていたが、それはオカルトGメンができた事により「この依頼料で駄目ならオカルトGメンに依頼します」と言える様になったためだ。陰で「民間GSへの依頼料を値切るためにオカルトGメンは設立された」とも言われていたりする。
「そうやって聞くと、オカルトGメンって碌でもないっスね」
「…あんまり褒めたくないけど、海外では結構活躍してるのよGメンって」
「日本支部は設立されたばかりですからね」
要するに組織としてまだ若い日本支部が人員不足であり、実力不足なのだ。
令子曰く美智恵があと50人、西条があと200人程いれば日本支部も海外の支部と同程度に活躍できるだろうとの事。そもそも北は北海道から南は沖縄までを東京にある一つの支部だけでどうにかしようと考えるのが間違いなのだ。
「今のところオカルトGメンの除霊なんて、相手が低級霊とか雑魚の悪霊とかに限られてるからね。Gメンができてからそういう小さい依頼が減って来たのは確かなのよ。まぁ、私ぐらいになるとどうって事ないけど」
元々大きな依頼、もとい一攫千金な依頼しか興味のない令子にとっては依頼主がギャラをケチるようになった事以外は あまり影響がないそうだ。
「それに、横島君にまかせるような小さな依頼を受ける時は研修も兼ねてるわけだから利益を極力少なくして受けたりしてるのよ?」
「へ〜、令子ちゃん優しいのね〜」
「でも、俺にゃ必要ないお札とかの分も必要経費に入れてるんでしょ?」
「………」
図星のようだ。
「そ、それにしてもめんどくさいわね〜。この後あんた達の試合もあるんでしょ?」
「はい、1対1で3試合やります」
「…冥子、ちょっと耳貸しなさい!」
「なぁに〜? 令子ちゃ〜ん」
冥子に何やら耳打ちをする令子、それを眺める横島は「また何か悪巧みをしてるんだなぁ」と半ば諦めの境地に達していた。
「で、美神さんに何て言われたんスか?」
「えっとね〜。冥子は〜先輩だから〜一番に行け〜って」
「「ナンデストー!?」」
なんと、令子は収録に付き合うのがめんどくさいという理由で初っ端から核弾頭を放り込もうと言うのだ。
「ちょちょちょちょちょ、ちょっと待って下さいよ!」
「え〜、なぁに〜?」
冥子はまったくわかっていない。
令子が最初に行けと言ったからには それを撤回させるのは難しいだろう。
「ど、どうします? 横島さん」
「いや、前向きに考えるんだ。多分西条の野郎は最後だ、奴の性格上これは間違いない。そんで名前も聞いた事ないような前座の2人なら冥子ちゃんでも勝てるかも知れないぞ」
「それも無謀なんじゃ…」
「他に手はないだろう、唐巣神父の手前逃げるわけにもいかんし」
「そ、それもそうですね…」
ピートはがっくりと肩を落とした。
「GS協会の皆さん、もうすぐ本番ですので準備の方をお願いします」
「あ、はい!」
「ほら、冥子。ちゃっちゃと終らせてきなさい」
「は〜い♪」
令子が終らせろと言うのは試合なのか、それとも…
何にせよ、横島とピートの2人は覚悟を決める間も与えられずスタジオに向かう事になった。
「で、美神さんはどうするんですか?」
「Zzz……」
既に寝ていた。
「う〜ん、せっかくのチャンス、寝込みを襲うべきだったかなぁ?」
「試合前にダメージを受けてどうするんですか……」
そんな会話を交わしながらスタジオに入ると男二人の口喧嘩が終了したところだった。どういう経緯があったかはわからないが見事なダブルノックアウトである。
「おい、西条。何があったんだ?」
「……2人とも言う事がだんだんヤバくなってきたんでね、隊長と唐巣神父が当て身をくらわせたんだよ……」
西条はこめかみを押さえながら言葉を絞り出す。双方イメージアップを目指してのTV出演だったがこれでは逆効果ではないか? あまり考えたくないが、そんな疑問が西条の頭をよぎってしまう。
「横島君、この番組か成功に終るか失敗に終るかはトリを飾る僕達の双肩にかかっているようだ。せいぜい華々しい負けセリフでも考えておきたまえ」
そう言ってGメン側の席に行く西条。3人目は横島で来いという挑戦状なのだろう。
スタジオを見回してみるとコメンテーターの席は双方の幹部が退場してしまったので美智恵と唐巣の2人。さらに司会が2人にゲストの芸能人が7人。席の配置から見るにGメン支持のゲスト4人にGS協会支持のゲストが3人。こちらが不利のようだ。
さらに手前側に観客席があるがこちらは一般人のみ。応援に駆けつけたGS関係者はスタッフ側でこちらを見守っている。
「う〜ん、そんな強そうには見えないなぁ」
アシュタロスを筆頭に幾度となく魔族との戦いを経験してた横島から見れば当然の事かも知れないが、どこから見ても「名も無いザコA、B」である。ピートも少なくともGメン代表!と出てこれるほどの実力はないだろうと見たようだ。
後日、美智恵から聞いた話によると、この2人はかつてマスコミを騒がせたピートがGS協会の代表で出てくると聞いた西条が一般市民の約半分、つまりは女性の支持を集めるためにルックスだけで選んだとか。
「んー、冥子ちゃんとピートで2勝してくれたら楽だなぁ」
相手の実力がその程度ならばと、横島は1つの秘策を考える。
「CMに入りましたので準備してくださ〜い」
ADに促され横島達はステージ脇のGS協会側の席につく。そして、横島は冥子の影に向けて何やら話しかけているのだった。
「それでは第一試合をはじめます、両者前へ!」
司会に呼ばれて冥子がステージに立つ。対するGメンは、冥子の事を知っているのか腰がひけている。
「こりゃ勝ったかな?」
「横島さん、さっきは何をしていたんですか?」
「ちょっと秘策をな」
ニヤリと笑う横島。それを見たピートは「やっぱり師弟なんだな」とある女性を思い浮かべた。
「はじめ!」
司会の掛け声と同時に轟音が響き渡る。次の瞬間、Gメンの隊員が立っていた場所に人間の姿はなく、冥子の式神ビカラがふんぞり返っていた。
ふと天井を見上げるとそこには頭をめり込ませた男がぷらーんぷらーん。これには横島を除くスタジオの全員が唖然とする。
「よ、横島さん…これは一体?」
「俺はこう言っただけさ、「試合開始と同時にビカラだけ攻撃をしかけろ」ってな。ただし、冥子ちゃんじゃなくビカラにだ」
なんと、横島は冥子の影の中の式神に直接命令を下したのだ。
流石、初対面においていの一番に飛びつき冥子達の仕事が終るまで濃厚なベーゼを交わしていただけの事はある(食われていたとも言う)。ビカラは横島の命令を忠実に守り、試合開始と同時に対戦相手を天井のオブジェと化してしまったのだ。
「こ、これは予想外だったわね〜」
いざとなれば使う気でいた右手の中の精霊石をポケットにしまう美智恵。Gメンには手痛い一敗だが、冥子にぷっつんされる事に比べれば随分とマシだろう。
「それにしても、他人の式神に命令を聞かせるなんて……やるわね、横島君」
モノノケに好かれやすいのもここまで来ると『天才』と評価されるべきかも知れない。
「さて、ここからが西条君の指揮官としての腕の見せ所よ」
そして、当のここからが見せ所の西条は
「………」
まだ呆けていた。
つづく
|