topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.118
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 まるで日本ではないみたいだとよく言われる麻帆良学園都市、その中でも一際異彩を放っているのが、湖に浮かぶ小さな島に建てられた図書館島だ。明治の中頃、学園の創設と共に建設されたとされるそれは、一つの島を丸ごと図書館にしてしまった、世界最大規模の巨大図書館である。
 歴史を感じさせる長い石橋を越えて島に辿り着くと、対岸に見える街並みがやけに遠くに感じられる。しんと静まり返っており、喧騒とは無縁のある種の神秘的な雰囲気が漂っていた。
「はぁ〜、すごいとこどすなぁ〜」
「た、確かに……」
 月詠、千草の二人は、図書館島を見上げて呆然としていた。
 京都にも、オカルトに関わる神秘的な場所と言う物はいくつも存在するが、この図書館島もそれらに負けていない。いくら湖によって街から隔絶されているとは言え、都市内にある事がおかしく感じられる。まるでこの島そのものが、「普通でない街」麻帆良の象徴のようにも思えてきた。
 アーニャは、二人に比べてまだ冷静だった。彼女には、ここが人間界の常識では異様な雰囲気である事が、まだ分からないのであろう。
「ねぇ、全然人がいないんだけど、今日休みなんて事はないでしょうね?」
「それやったら木乃香お嬢さん達が何か言うてきたと思いますえ」
 月詠が意外と読書好きである事を知られているためか、木乃香、刹那達との会話の中で図書館探険部の事が度々話題になっていた。木乃香、夕映、愛衣、高音、横島の五人が図書館探険部に所属している事は既に月詠達も知っている。
「平日やからやろ。学生は皆学校行ってる時間やしな」
「あ、そっか」
 とは言え、流石に早過ぎたらしい。入り口前の案内板を見てみると、開館までもう少し時間があるようだ。どうやらここは、学校の始業と同時に開館するらしい。無論、貴重な魔法書を保管している場所なので、職員は全て関東魔法協会の関係者だ。「司書」ではなく「職員」であるのがミソらしい。
 この図書館島で「司書」の肩書きを持っているのはたった一人だけらしく、誰もその姿を見た事がないとか。一体何者だと思わなくもないが、一般の利用者として図書館島を利用する分には何の関わりもない事なので、気にしない事にする。

「千草、開いたみたいよー」
 そんな事を考えている内に開館の時間になったようだ。千草はアーニャに声を掛けられて、ハッと我に返る。
「ああ、ほな入ろか」
 月詠、アーニャの二人を伴って館内に入る千草。まるで子連れの母親のような気分になりかけたが、自分はまだ若いとそれを振り払う。
「うわ〜、すごいところね〜っ!」
 中に入ると、まずアーニャが感嘆の声を上げる。図書館では静かにしろと窘めるべきかも知れないが、千草は何も言う事が出来なかった。彼女もまた『図書館島』に圧倒されていたのだ。
 ズラッと立ち並ぶ本棚。上を見上げれば天井がやけに高い。一見普通の図書館なのだが、外とは空気が違うような気がする。柱や階段、手摺りの意匠が西洋風と言う事もあり、千草達はまるで異国の宮殿に迷い込んだかのような錯覚を覚えた。
「そう言えば、夕映はんから聞きましたけど、地下三階まで降りたら滝があるらしいですよ」
「……それ、本傷まんか?」
 実際には更に地下深くまで続いているらしいが、一般利用者が降りられるのは地下三階までだ。基本的に地下深くになればなるほど非常識な構造になって行くらしい。
 ちなみに、夕映によれば図書館島内の自販機のラインナップが面白いとの事だったが、その直後に脇から首を突っ込んできた高音が、真っ赤な顔をしてあれに手を出してはいけないと忠告してきた。
 横島と愛衣の二人も、名前から味が想像出来ない物は避けた方が良いと言っていたので、ここでの飲食は行わない事にしている。
「とりあえず、お昼まで色々見て回ってみよか」
「お昼ご飯はどうするの?」
「横島と合流する事になってるから」
「ふ〜ん」
 言っている間に月詠は、既に本棚に向かっていた。以前ならば慌てて追い掛けていたところだが、今はその心配はいらない。月詠にとって妙神山の小竜姫と戦えると言うのは相当嬉しい事らしく、最近の彼女は横島との約束をしっかり守っておとなしくしているのだ。
 無論、色々と我慢しているようだが、おかげで木乃香達とも普通に交流出来ており、年頃の少女らしい表情も見せるようになってきた。なし崩し的にパートナーになってしまっていた千草としては、このまま我慢する事も覚えて欲しいところだ。
「あ、これオカルトの本と違います?」
「『季刊GS通信』か……ちょっと読んでみるわ」
 どうやらアーニャはお目当ての本を見付けたらしい。アーニャと月詠は何冊かの雑誌を手に取り、手近な椅子に座ってそれを読み始める。その姿を見届けた千草は、しばらく放っておいても大丈夫だろうと、自分も目当ての本を探しに行く事にした。
 彼女が探している本、それは料理関係の本だ。
 横島除霊事務所の除霊助手となり、レーベンスシュルト城に住む事になった千草。当然の如く「料理当番」にも参加する事になった。ここでも月詠とセットにされてしまったが、それは彼女に刃物を持たせると危ないからであろう。
 ちなみに、アーニャも自ら望んで、滞在中は手伝う事になっていた。日本の料理を覚えたいらしい。こちらの面倒は千鶴が率先して買って出たため、彼女の担当となっている。その大人顔負けの圧倒的な胸のボリュームに、アーニャは複雑な表情を浮かべていた。
 それはともかく、千草は幼い頃に両親を亡くしたと言う事もあり、家事は一通りこなせる。こう見えても料理の腕にはそれなりに自信があった。
 では、何故今更料理の本を探そうと言うのか。それは年も立場も近いと言う事で仲良くなった刀子から、気になる話を聞かされたためだ。
 刀子曰く、彼女もそれなりに料理の腕には自信があったのだが、それでもレーベンスシュルト城の住人の中では埋もれてしまうそうだ。中でも茶々丸の料理の腕は別格らしい。食い道楽のエヴァのワガママに振り回され、様々な料理技術を習得した彼女は、一流シェフ並の技術を持っている。
 そんな彼女も、現在のところは経験不足のため家庭的な料理においては木乃香に一歩譲り、千鶴、裕奈は主婦顔負けの手際の良さを見せるとか。アスナを始めとする他の面々も、決定的な料理下手はおらず、現在勉強中との事だ。
 そんな事を聞かされては、千草も黙っては居られない。せっかくこうして図書館島に来たのだから、新しいレシピを手に入れて、それに挑戦してみようと言うのだ。
 千草は思う。先日アスナ達が定期テストの成績が上がったと喜んでいたが、それも皆で協力しながらも、互いに負けまいと言う競争心があったからだろうと。ライバルと言うほど殺伐とはしていないが、張り合う気持ちはある。千草は、こう言う関係が嫌いではなかった。
 料理に関しても一緒だ。どうせならば美味しいと言ってもらいたい。何より美味しいと言ってもらいたい人がいるからこそ、皆頑張るのだ。
「……果報者やねぇ、ウチの所長は」
 手頃な料理本を見付けた千草は、クスッと微笑むと、その本を手にアーニャ達の元に戻っていった。


「あ、千草見てよ! やっぱり麻帆良の図書館ってすごいのね、こんなオカルトの専門書があるなんて!」
「………」
 「季刊GS通信」を手に目を輝かせるアーニャ。隣の月詠は、顔を逸らして肩を震わせている。おそらく、笑いを堪えているのだろう。月詠にしてみれば、可愛いで済む悪戯である。
 千草は溜め息をつき、アーニャに本当の事を教えてやる事にした。
「あのな、アーニャ。その雑誌……それなりに大きい本屋なら、どこでも売っとるで」
「……へ?」
「いくら麻帆良の図書館でも、一般人が入り込めるところにほんまもんのオカルト本は置いとらん」
 千草の言葉に、アーニャは目が点になっていた。無理もあるまい。
 そこに、笑いを堪えて涙目になった月詠が追い打ちを掛ける。
「そうそう。この雑誌、アスナはんの愛読書やそうですわ。多分、頼めば貸してもらえるんとちゃいます?」
「………」
 数秒後、アーニャの絶叫が響き渡り、三人が職員に怒られてしまったのは、言うまでもない。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.118


 時間を少し遡るが、麻帆良女子中では朝のホームルームで学園祭の出し物についての話し合いが各クラスで行われていた。
「それじゃ、みなさーん! 学園祭の出し物を何にするか決めますよー!」
 3−Aの教室の壇上で、ネギが元気に声を上げる。
「………」
「……あれ?」
 しかし、いつもの元気が良過ぎる返事は返って来なかった。皆、真剣な表情で何やら考え込んでいる。最近その名を返上気味ではあるが、あのバカレンジャーさえもだ。
「あ、あの、どうかしたんですか?」
「ネギく〜ん、これはテストより難しい問題だよ〜」
 おずおずと問い掛けるネギに答えたのは、レーベンスシュルト城の毎晩の勉強会に参加しておらず、寮でいつも通りのテスト期間を過ごしていたため、バカレンジャー続投かと噂されているまき絵だった。
「ウチの学校、出し物でお金儲けしてもいいもんねぇ……」
「やるからには、集客力とかも考えないと……」
 桜子と和美の二人も難しい顔をして考え込んでいる。
 ネギが首を傾げていると、二人の間の席に座るあやかが皆が真剣になっている理由について説明してくれた。
「ネギ先生、麻帆良祭では定期テストで順位を競い合ったように、出し物の良さを競い合う催し物がありますの。皆さん、それだけ真剣なのですわ」
「な、なるほど……」
 それを聞いてネギはほっと胸を撫で下ろす。元気が無いだけならば問題だが、真面目に取り組んだ結果静かになってしまうのは何の問題もない。むしろ、褒められて然るべき事だ。
 これはスムーズに話を進められそうだ。そう思ったネギは、にこやかに話し合いを進行させる。

 しかし、それは考えが甘かった。
 それから数分もしない内に、ネギは悪乗りした時の3−Aの恐ろしさを思い知る事になる。



 その日の夜、3−Aの面々はレーベンスシュルト城に集合していた。日課の修行を終えたアスナ達は、夕食前に入浴を済ませて部屋着に着替えている。ここに住んでいない面々も、一旦寮に帰り泊まりの準備と、明日の学校の準備を終わらせてから集まっている。今日はここに泊まって行くつもりなのだ。
 横島を始めとする3−A以外の面々が、ここに集まった経緯――今朝行われたホームルームの内容について聞いている。
「それでね、私が『ドキッ☆女だらけの水着大会・カフェ♪』って提案したらね」
「それは是非見てみたいな」
「横島君っ!」
 桜子がにこやかに話した「水着」と言う単語に横島が目を輝かせて腰を浮かせると、隣の高音が肘鉄を食わせてそれを止める。
 とにかく、その桜子の一言を切っ掛けに3−Aの少女達は暴走し、まき絵が『女だらけの泥んこレスリング喫茶』を提案すれば、それに対抗して風香が『ネコミミラゾクバー』を提案。トドメとばかりに千鶴が『ノーパン喫茶』を提案し、大騒ぎになったところで新田先生が駆け付けてネギ共々大目玉を食らったそうだ。
 当然、学園祭の出し物は決まらなかった。得る物があったとすれば、茶々丸が余計な知識を得たぐらいであろう。後日横島に霊力を供給してもらう際に活かされる事になるが、それはまた別の話である。
「それで新田先生に怒られちまったのか」
「そうなんですよ、横島さぁん……うぅっ」
 ここに皆が集まったのは他でもない。今日のホームルームで学園祭の出し物が決まらなかったため、ここで話し合いの続きをしようと言うのだ。ネギも小太郎達との修行を休んでこちらに来ている。
 ちなみに、姉のネカネはここにはいない。麻帆良に来て以来、毎日のようにセーフハウスを訪ねて来るそうだが、今日は仕事があるからセーフハウスにいないと連絡したらしい。いかに子供とは言え男の子。姉の前で弱音を吐きたくないのだろう。

 ネギの肩の上のカモが、ひょいっとテーブルの上に飛び降り、横島、高音、愛衣、ココネの顔を順に見回して尋ねる。
「そう言えば、兄さん達も今日出し物を決めたんですかい?」
「ああ、ウチは屋台をするそうだ。タイ焼きをするんだと。クラスの半数ぐらいが盛り上がって何か話し合ってたな」
「兄さんは?」
「タコ焼きなら、口出したかも知れんがなぁ……」
 横島のクラスは、クラス全員で力を合わせてと言うよりも、一部の面々で盛り上がって話を進めているそうだ。口出しは出来ないが、あまり手伝う必要もないと言う、横島や豪徳寺達にとっては有り難い状況になっている。
「そ、それでいいの……?」
 アーニャが呆れた表情で問い掛けるが、実はこれは麻帆良の学園祭では珍しい事ではない。お金儲けをしても良いと言うルールのためか、サークルやクラブが部費を得るために積極的に参加しており、そちらに駆り出されてしまってクラスの出し物の準備には参加出来ないと言う事が多々あるのだ。
「まぁ、やるからには少しは店番とかやらんといかんのだろうけど、これがあるから少なくて済むだろうな」
 そう言って横島は、警備員の腕章を見せる。まったく何もしないと言う訳にはいかないが、学園の警備を担当していると言う事である程度は免除してもらえるだろう。
 そもそも、一部の盛り上がってる面々の間でタイ焼きの屋台をする事になったのは、甘い物の方が女性客が増えるのではないかと言う下心あっての事だ。男子生徒憧れの的である刀子と付き合っていると言う噂を筆頭に、何十人もの女性、女子と一緒に居る所を目撃されている横島には手伝わせたくないと言う意見があった。
 人の噂と言うのはどこから漏れるものか分からないもので、横島がアーニャを連れて歩いていた事も、千草、月詠と何やらただならぬ雰囲気で話していた事も既に噂になっていたりする。彼のクラスメイト達が「憎しみで人を殺せたら……」と嫉妬にかられるのも無理のない話であろう。

「私のクラスはカフェをする事になったわ。詳細はまだ決まってないけど」
「うちのクラスは、演劇で参加する事になりました。私は警備の仕事があるので、裏方の手伝いです」
「……白くまクレープ」
 高音、愛衣、ココネのクラスもスムーズに出し物が決まっていた。ココネのクラスに至っては、店名まで決まっているようだ。その話を聞き、決まっていないのは自分のクラスだけではないかと、ネギはますます落ち込んでしまう。
「そう落ち込むなよ、兄貴。せっかくこうして集まったんだから、ここで決めちまえばいいんだ」
「そ、そうだね、カモ君」
 ちなみに、女子寮の方ではこのような事は出来ない。何より寮では「門限」が存在するのだ。夜遅くまで騒いでいれば、当然寮母に止められてしまう。
 だからと言ってレーベンスシュルト城ならば良いのかと言う疑問もあるが、刀子もシャークティもこれについては口出しする気はなかった。ここならば騒いでも周囲の迷惑にはならない。明日寝坊して遅刻でもしない限り、めくじらを立てる必要はないと判断していた。
「横島さん達も、お客さんとして意見出してよね!」
「おっけー、任せとけ」
 美砂の言葉に、軽く返事を返す横島。
 茶々丸が以前使ったホワイトボードを運んで来て、あやかと和美が補佐に付き、ホームルームの続きが始まった。

「ネギ先生。実は私達、昼休みの間にも出し物は何が良いか話し合いましたの」
「え、そうだったんですか?」
「まだ試案の段階ですが、その成果をお見せしますわ」
「それは是非!」
 ネギが力強く答えると、あやか、和美、桜子、美砂、円の五人が別の部屋に移動して行った。ネギが何事かと疑問符を浮かべていると、ハルナが耳元でそっとあやか達は準備をしに行ったのだと教えてくれた。
 しばらく待っていると、やがてあやか達が戻って来た。
「3−Aメイドカフェへようこそー
「……はい?」
 なんと、戻って来たあやか達は、五人れぞれ異なるデザインのメイド服に身を包んでいた。
「ただのカフェでは集客力がイマイチと言う事で、メイドカフェはどうかと言う意見が出ましたの」
 にこやかに微笑むあやか。千雨のコスプレルームでメイド服を見たおかげで、メイド服と言う物がメイドが着るだけの服ではないと言う事は理解している。しかし、彼女の知識はそこまでであり、ただ単に制服がメイド服なだけの喫茶店だと認識しているようだ。
「え、え〜っと」
「む、反応が鈍いにゃ〜」
「まぁ、子供にゃ分かんないかもねー」
「と言う訳で横島さん! 麻帆良の全男子生徒を代表して感想を一言っ!」
 戸惑ったネギの反応が芳しくないため、和美達は矛先を横島に変えた。それに合わせて皆の視線が彼に集まる。
 横島は一通りあやか達のメイド服姿を眺め、天井を仰ぎ見て考え込み、再び視線をあやか達に戻して、ポツリと呟いた。

「見飽きた」

 予想外の一言であった。
「いや、皆可愛いと思うぞ。でも、メイド服はレーベンスシュルト城でしょっちゅう見掛けるからなぁ……こう、ぐっと来るものがない」
 可愛いと褒めてくれたのは嬉しいが、あやか達は横島の一言に少なからずショックを受けたようだ。ガクッと肩を落とし、項垂れている。
「ぐぐっ……流石横島さん。目が肥えてるわね……」
「でも、確かにこんなストレートなメイド服じゃ、目の肥えた人には通用しないかも……」
 美砂と桜子がぐっと拳を握り締めて顔を上げる。
 力強い目をしているが、その思考は明後日の方向に暴走しつつあった。
「お前等、どんな客を相手にするつもりだ」
 千雨のシュートなツっこみが入るが、彼女達は止まらない。
「こうなったらサービスの内容で勝負よ! さっちゃん、準備して!」
 美砂が声を掛けると、「さっちゃん」こと四葉五月はすぐさま準備に取り掛かった。テーブルの上に何種類かのドリンクを並べ、シェイカーを持ち出して巧みな手付きでカクテルを作り始める。
 刀子とシャークティは教師としての立場から、すぐに並べられたドリンク類をチェックしたが、そこは五月も分かっているようで、アルコール類は使われていない。
「ほらほら、横島さん。こっち来て座って♪」
 桜子に手を引かれるままにソファの一つに腰掛ける横島。それは横長のソファで、三人が並んで座れるようになっている。横島が中央に座ると両隣にはそれぞれ桜子と美砂が、向かいのソファには和美、円が腰掛けた。あやかはネギと共について行けずに呆然としている。
 と言うより、クラスの半数ぐらいがついていけてないようだ。残りの半数は周りで囃し立てている。
「まぁまぁ、横島さん。一杯どーぞっ
「お、おう」
 桜子の酌で横島が持つグラスに琥珀色の液体が注がれる。もちろん、ノンアルコールのジュースである。
「横島さぁん、私もこのカクテル飲んでいーかなー?」
「ああ、いいぞ……って言うか、お前等どんな店やるつもりだ」
「やだなぁ、よ・こ・し・ま・さん。 分かってるくせにぃ
 横島のツっこみも、悪乗りした美砂達には通じない。これは最早メイドカフェではなかった。
 なんとか一緒に悪乗りしないよう耐えていた横島だったが、次の桜子の行動が最後の決め手となる。
「あぁ〜ん 胸の谷間に栓抜きが落ちちゃった。横島さん、取ってぇ〜
 トドメであった。
「自分でよければ、謹んでーーーッ!!」
「きゃんっ♪」
 桜子の言う栓抜きは、彼女の服の上、胸元のエプロンに引っ掛かっていたのだが、横島の目には入っていないようだ。彼は直接桜子の胸に向けて手を伸ばす。栓抜きを取るどころではない。
「何やってんですかーーーッ!!」
「やめなさい、横島君ッ!!」
 その直後、アスナと高音の拳が左右から横島の頭に炸裂した。アスナは拳に霊力を込め、高音は拳に影を纏わせた霊力と魔法力のツープラトンだ。流石の横島も、これには堪らず一撃で意識を刈り取られ、そのまま桜子を押し倒すような体勢で突っ伏した。

「横島さん、重いよ〜」
 呆然としていた一同だったが、横島にのしかかられて身動きが取れない桜子の声にハッと我に返った。
「み、見事な一撃です。成長しましたね、アスナさん」
 刹那が横島を抱き起こしながら、アスナの成長を称える。続けて木乃香が駆け寄って来て横島の頭にヒーリングを掛けた。
「横島さんもぐっと来たみたいだし、これで成功間違いなしだよね♪」
 横島がどけられた事でようやく起き上がる事が出来た桜子。まったく懲りていない様子だ。
「あなた達……いい加減にしなさいよ?」
 当然の事だが、ここまで暴走してしまっては、刀子、シャークティの教師陣は見逃す事が出来ない。桜子達五人は、その場で正座をさせられ刀子の説教を食らう事になった。あやかは完全にとばっちりだが、連帯責任である。
 ちなみに横島はと言うと、意外とダメージが大きかったようで木乃香がヒーリングをしても目を覚ます事はなく、そのまま茶々丸に運ばれて退場と言う事になった。

「お、いけるな。流石だ、サツキ」
 そして、円が注文して五月が作っていたカクテルはエヴァの物となる。この後も彼女は、五月に何杯もカクテルを注文したようだ。


「でも、メイドカフェって他のクラスもやりそうじゃない?」
「う〜ん、それはあるかも」
 桜子達が説教されている間、今度は裕奈がネギのサポートに付いて話し合いが続けられる事になる。
「えっと、それじゃ別の衣装にしますか?」
 一同の顔を見回し、ネギが問い掛けるが、皆は難しそうな顔をして唸っている。
 衣装を変えるのも面白いかも知れないが、結局は同じ事になってしまうような気がするのだ。
 皆が頭を悩ませていると、そこに今まで黙って見ていた千草が口を挟んできた。
「部外者が口出しすんのも何やけど、カフェってありがちちゃうか? ウチも高校生の時やった記憶があるで、三年中二回」
 それが何年前の話か、疑問を抱いてはいけない。
 だが、彼女の言う通り学園祭でカフェをやると言うのはありがちな話であった。
「う゛……確か、高音さんのクラスもカフェだよね」
 高音の場合、学校が違うのであまり影響は無いかも知れないが、麻帆良女子中の他のクラスがカフェをやるとなれば、そちらも考慮する必要があるかも知れない。
「ウチの学校の他のクラスもやるのかなぁ?」
「確か……職員室でそんな話を聞いたような気がします」
 ネギの一言に、全員が黙って考え込んでしまった。ここに来て、カフェ以外の出し物を考える必要が出てきてしまったのだ。
「こうなってくると、ウチのクラスならではっ! ってのが欲しいよね」
「ウチのクラスならではねぇ……」
 アスナは周りのクラスメイト達を見回してみる。ノリと勢いの良さには定評のあるクラスだが、こうして改めて聞かれるとパッと答えが出てこない。
「ん?」
 周囲を見回している内に、アスナは妙な事に気付いた。皆の視線が自分に向いているのだ。
 いつの間にか、クラスの皆がアスナに注目していた。説教されていた桜子達さえもだ。それに気付いたアスナは、思わずたじろいてしまう。
「な、なによ……」
「魔法関係はダメだけどさ……オカルトはアリじゃない?」
「オカルトぉ?」
 突然の提案に、アスナは素っ頓狂な声を上げてしまう。
 だが、考えてみればそれは良いアイデアかも知れない。この幾つもの学校が軒を連ねる麻帆良学園都市だが、アスナ達以外に除霊助手がいると言う話は聞いた事が無い。
「麻帆良は、関東魔法協会の影響下にあるからね。まともにこの街で活動しているGSは横島だけだ。私が保証する」
 この地域の霊障に関する情報が集まる龍宮神社の真名も、横島以外に麻帆良で活動するGSは知らなかった。
「占いとかすんの? ウチも部活の方でするけど」
「いや、ここはお化け屋敷とか?」
 その言葉を皮切りに、皆がざわざわと騒ぎ始める。やがて皆の視線がネギに集まった。
「ネギ君、どう?」
「お化け屋敷ですか……良いかも知れませんね」
 その提案に、ネギは賛成の意を示した。皆で話し合って出てきたアイデアだから、きっと上手く行くと言う、楽観的な思考ではあるが、ネギなりに生徒達を信じた上での結論だ。
「よしっ! 超りんとハカセが協力してくれたら、本格的なのが出来るよ!」
 次に皆の視線は超と聡美の二人に集まった。お化け屋敷のようなアトラクションでは、麻帆良の最強頭脳と言われる彼女達の力を借りられるかどうかで出来が大きく左右される。何より超自身もまたれっきとした霊能力者だ。しかし、そんな彼女達が『超包子(チャオパオズ)』で忙しいのは周知の通りである。
「あー、大丈夫ネ。メニューは一通り決定してるし、クラスの出し物手伝う時間はあるヨ」
「そうですね。せっかくですし、思いっきり行きましょう」
 超と聡美の二人は、あっさりと協力を承諾した。中学最後の学園祭なのだ。超達だってクラスの出し物に力を入れたいと考えている。その答えを聞いた一同から歓声が上がった。

「ところで皆、ちょと良いかナ?」
 超の言葉に、歓声がピタリと止まる。
「超さん、どうかしましたか?」
「や、お化け屋敷をするなら、私に良いアイデアがあるヨ」
「へぇ、どんなの?」
「これネ」
 そう言って超が取り出したのは一冊の雑誌だった。代表してアスナが受け取ると、彼女の周りに一瞬にして人だかりが出来る。
「こ、これは……ッ!?」
「オカルト、GS、お化け屋敷。こんなのもあるけど……興味ないかナ?」
 悪戯っぽい笑みを浮かべる超の問い掛けにネギも含めた一同はコクコクと頷く。皆の心は一つだ。是非、このようなお化け屋敷を作ってみたい。

 その雑誌の開かれたページには、東京で話題のお化け屋敷が紹介されていた。
 体感新感覚ホラーアドベンチャーと銘打たれたそのお化け屋敷の名は『GS体験 マジカル・ミステリー・ツアー』。
 GS美神令子監修の、東京デジャヴーランドの新アトラクションである。



つづく


あとがき
 レーベンスシュルト城は、原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

 天ヶ崎千草、月詠に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 『季刊GS通信』。
 これらは『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定です。

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