「お、お邪魔しま〜す……」
武闘大会の打ち合わせが終わったところでおキヌ達がレーベンスシュルト城に到着。茶々丸に案内されてパーティー会場にやってきた。
やはりこういう高級感溢れるのを通り越して現実感の無い場所には怖気づいてしまうのか、小動物のようにせわしなく辺りを見回してはプルプルしている。
その姿を見たエヴァはポツリ「クラスの連中は最初から遠慮が無かったなぁ」と呟いていた。
なお、エヴァ的にはおキヌのような反応の方が好ましいらしい。からかい甲斐がありそうという意味で。
見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.153
「あれ? おじいちゃんも一緒やったん?」
「ウム、丁度そこで一緒になっての」
学園長も、おキヌ達と同時に到着した。家の前でおキヌ達と会ったらしく、美智恵と同じテーブルに着いて話し始める。
これには美智恵が来たらひのめを預けようと思っていた令子が肩透かしを食らった形だったが、面倒臭い話だと察したのかあっさりと引き下がった。
「ホント、すごいですね」
おキヌは、レーベンスシュルト城の雰囲気に飲まれて緊張気味だ。
周囲の面々は正統派大和撫子調少女の登場に「アスナピンチか!?」と大騒ぎなのだが、今のおキヌはそれに気付けないぐらいに余裕が無かった。
「これは……私にふさわしい城だわ!」
一方令子はレーベンスシュルト城が気に入ったようで、情報公開に先立ちエヴァを通じて魔法の水晶球を手に入れようと画策中。
横島が「財産隠すのに使うんスね」とツっこんだのは言うまでもない。
彼はその直後にシバかれたが、おキヌはその姿を見て変わってないなぁと安堵していた。
「お、お初にお目に掛かります! 拙者、女華姫直属隠密部隊が末裔、長瀬楓と申します!」
「えっ、女華姫さまの!?」
ちなみに、おキヌの登場に一番沸き立ったのは楓だろう。彼女にしてみれば伝説上の人物が目の前に現れたのだ、当然の反応だ。
これで緊張がほぐれたおキヌは、そのまま風香・史伽も交えて四人で談笑し始める。
当然、横島の周りにも少女達が集まる。
まずはアーニャとコレットが両隣に座る。別行動していた面々が今日の事を話したいという事でアスナは遠慮していた。
「ねえねえ、タダオ! 私ね、今日馬に乗ったんだよっ!」
アーニャとコレットは、あやかがいる馬術部で体験乗馬をしてきたそうだ。
「ファンタジーな世界のイメージあったけど、馬とか魔法界じゃ乗らないのか?」
「ホウキがあるから、あんまり乗りませんね〜」
「馬車はあるけどね」
文化の違いである。おかげで二人にとって馬に乗るというのは物珍しく、思い切り楽しんだようだ。
「あとこれ、似顔絵! パルさんに描いてもらったんです!」
コレットが見せる画用紙には、少しディフォルメされた彼女の顔が描かれていた。
「パル、すっごい真剣だったよね」
「ちょっと恥ずかしかったです」
「髪をかき分けて見てたけど、あれ意味あったのかな?」
おそらくリアル犬耳を前に、ある種の知的好奇心を抑えきれなかったのだと思われる。似顔絵を描く分には意味が無いだろうが、彼女の後の創作活動に活かされるだろう。多分。
そのまま兄か父親に甘えるように飛びつくアーニャ。先輩を慕う後輩のようなコレット。そして、その二人に挟まれる横島。
「…………」
向かいの席に座っていた令子は、あれは誰だと目の前に座る男が横島だと認識できずにいた。
「旦那さまぁ、ウチはコスプレ大会で賞もろたんですよ。ほら、これ写真」
続けて来たのは月詠と千草、それに千雨。三人は今日コスプレ大会に参加し、見事に千雨が優勝、月詠と千草のコンビが準優勝をもぎ取ってきたそうだ。
「あ、これ写真や」
千草が見せてきた待ち受け画像には、青いエプロンドレス姿の月詠と、不気味なのにやたらとクオリティの高い縞模様の巨大猫の姿があった。
「……この猫、千草?」
「当たり前やろ?」
「千草はん、きぐるみが好きやからなぁ」
「やっぱアレ、趣味だったのか……」
そんな三人の会話をぶすっとした顔で見ている千雨。
「ん? 千雨ちゃん、優勝したのに不機嫌そうだな」
「……別に」
気付いた横島が声を掛けるが、千雨はぷいっとそっぽを向いてしまう。
彼女がこうなっているのには訳があった。
実は今日のコスプレ大会は、大っぴらに情報を流さず極秘で行われるものだった。だから千雨も、誰にも知られぬようにして、こっそり出場したのだ。
ところが会場に到着してすぐに月詠に声を掛けられた。なんと千草は、独自の情報網でコスプレ大会の事を察知していたのだ。
それについてはいい。千草のきぐるみについては修学旅行で知っていたので、思いの外本気だったのだと再確認しただけだ。
問題は……二人のコスプレの題材が有名作ではあるが、アニメでは無かった事だ。
当然千雨は現在放送中の人気アニメ作品『魔法少女♥ビブリオン』、その中でも特に人気キャラである『ビブリオ ルーランルージュ』のコスプレをして大会に挑んだ。
その結果、月詠達を制して見事優勝する事ができたのだが……ここで二人のコスプレがアニメで無かった事が問題になってくる。
そもそも大会はキャラクターコスプレイベント。月詠達のコスプレは大会の趣旨、客層を踏まえて考えると「薄い」のだ。
にも関わらず準優勝まで迫られた。
自分が優勝できたのは題材が客層に合っていたおかげ。何より自ら衣装を作る者として、千草の作った衣装にクオリティで負けたと感じてしまったのだ。
月詠は、黙っていれば小柄で愛らしい少女だ。それでいて蠱惑的というか、時折妙な色気を感じる時もある。
千草は、なんだかんだといってそんな月詠を可愛がっており、彼女にオシャレをさせるのが大好きだ。
もし千草が月詠をネットアイドルとしてプロデュースし始めたらどうなるだろうか。そんな想像が千雨の頭から離れない。
月詠の方がそんな話は興味が無いと断りそうだが、それでほっとしている自分に腹が立ってしまうあたり、千雨はネットアイドルについては真剣であった。
「千雨、ほんまにどないしたん?」
「なんや、ドツボにハマってそうやなぁ」
横島も心配になって、千雨の顔の前で「お〜い」と手を振る。
「…………横島さんっ!」
「はい! なんでせう!?」
するとぼうっとした顔で見ていた千雨の目に光が宿り、勢い良く横島の手を取った。
「実は、とっておきのコスプレがあるんです! 後で意見を聞かせてくれませんか?」
「えっ? ああ、俺で良ければ?」
だが、巻き込まれて横島達と付き合うようになってから、千雨も逞しくなっている。そう、ならば次は納得のいく形で勝ってやると奮起できるぐらいに。
周りで見ている面々には分からなかったが、とにかく千雨は立ち直ったようだ。
とりあえず、少し離れたところで見ていたパルだけが、その千雨の変化を見てうんうんと頷いていた。
なお、このパーティーが済んだ後、千雨は衣装部屋に横島を連れていき、とっておきのコスプレを見せる。
しかしまだちゃんと仕上げていない衣装だったため途中で衣装がバラけ、ちょっと背伸びした黒の下着姿を見られてしまう事になるのだが、彼女はまだその事を知る由もなかった。
「!? !? !?」
そして令子は、美女・美少女に囲まれ、しかも頼りにされているらしい横島を見て目を白黒させていた。
それからも入れ替わり立ち替わり横島の所にやってくる少女達。
令子は、それを見て「う〜む」と唸る。
実は明日の大会本戦に集中しているネギに気を使い、できるだけ横島の方に行くようにしているのだが、令子にはそれが分からない。
今日の出来事を話す者、明日の出し物に来て欲しいと頼む者、その話の内容は様々だ。
共通しているのは、皆多かれ少なかれ彼を慕っているという事。
楽しい遊び相手として見ている者、面白い先輩として見ている者、兄のように慕っている者、明らかに思慕を募らせている者と様々だ。
特に一番最後。子供に懐かれやすい事は知っていたが、これほどの数の女子中学生に広く慕われているのが信じられなかった。
「横島君……」
「何です?」
「……あなた、本物?」
「何言ってんすか……」
思わずそう尋ねてしまうのも無理のない話である。
そしていよいよアスナの番となるのだが、ここで待ったが掛かった。
「横島君、ちょっと来てくれるかしら?」
「えっ? 俺っスか?」
学園長と話していた美智恵が、双方の事情を知る者として横島の同席を頼んできたのだ。
仕事の話という事でアスナも文句は言えず、もう少しだけ待つ事になる。
横島も悪いと思ったのかアスナに向けてゴメンと手を合わせてから行った。
学園長のいるテーブルにはネギも呼ばれている。こちらも皆と盛り上がっているところで呼ばれたそうだ。
「すまんのぅ、横島君」
「謝るならアスナに謝った方が……」
「ウム、後で一言詫びておこう」
アスナがずっとお預けをくらった大型犬のように待っているのを見ていたらしく、学園長も本当に申し訳なさそうだった。
「では、手短にすませるとしようかの。美神殿との話し合いの結果を君達にも伝えておくぞ」
「そういう話なら美神さんも……」
「あの子は、元々関わる気が無いだろうから、後で私から伝えておくわ」
魔法先生達にも後ほど学園長から伝えるらしく、横島とネギの両パーティは、少々特殊な立ち位置にあるため、ここで先に話しておくとの事だ。
「と言っても、私達は基本的に関わらない。ただし、危険が迫った時は動くという事だけなんだけどね」
そう言って美智恵はくすくすと笑う。
今回の件が魔法協会にとっていかに大事であるかは美智恵も分かっている。それを邪魔するつもりは彼女には元々無かった。
先程までは、どういう状況が「危険が迫った」事になるかについて長々と話し合っていたようだ。
それを聞いた横島とネギは、そんなの適当でいいのではと思い揃って首を傾げる。
しかし学園長は、美智恵の莫大な経験から想定されるケースの一つ一つが得難い知識であるとほくほく顔だった。
実際美智恵も、直接の手助けはできないが、アドバイスぐらいはしようとしていたようだ。
ここでネギがおずおずと手を上げて意見をする。
「あの……危険が迫った時には力を貸してもらうって、いいんですか? そうならないために僕達がいるんじゃ?」
「ホッホッホッ、美神殿達は観光客としてここにおるんじゃ。彼女達に危険が迫る時は、そりゃもうわしらの敗北じゃよ」
「それは……」
「ネギ君の言う通り、そうならないためにわしらがおる。これはいわば保険じゃよ、保険」
「な、なるほど……」
戸惑いつつもうなずくネギを見て、学園長は軽やかに笑う。
これだけを聞くとあまり意味の無い話し合いだったようにも聞こえるが、公式ではないにせよ表の組織と交渉したという事実にも意味がある。
学園長にとっては、実りある話し合いだったと言えるだろう。
「とりあえず、ネギ君は今まで通り。横島君も美神殿達と一緒に祭りを見て回っても構わんぞ」
「分かりました!」
「了解っす」
という訳で学園長との打ち合わせは何事もなく終了。
両者とも「今まで通り」である事を再確認するだけの結果となった。
「じゃあ、横島さん。僕は今から小太郎君達と練習がありますので」
「……今からか?」
「ハイ! タカミチやリカードさんに勝つには、いくら修行しても足りませんから!」
「そ、そうか、頑張れよ」
目を輝かせるネギを見て、これは止めても無駄と悟った横島。
一行にのどか達が混じっているのを見て、彼女達が一緒ならば無茶はさせないだろうとそのまま見送る。
彼の方も暇ではないのだ。
「よ〜こ〜し〜ま〜さ〜ん♥」
そう、別の意味で目を輝かせるアスナが待ち構えていた。
横島が待たせてしまったお詫びも込めて頭を撫でると、アスナはにっこり笑って腕を組んでくる。
二人はそのまま、皆が待つ席へと向かっていくのだった。
つづく
あとがき
レーベンスシュルト城に関する各種設定。
関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
魔法界に関する各種設定。
各登場人物に関する各種設定。
アーティファクトに関する各種設定。
これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。
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