topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.183
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 一歩一歩近付いていくネギ。フェイトはあからさまに見下している態度だ。
 その様子を窺っていたカモは、それが挑発である事が分かった。
「アニキ……!」
 だが、カモを注意を促すよりも先にネギが動いた。瞬動を使い、一息に距離を詰める。
 それを待っていたかのように魔法力が籠められた手を突き出すフェイト。ネギに対してカウンターで魔法を叩き込もうとする。
 しかしその瞬間、ネギの姿が彼の視界から消えた。
「甘いぞ、フェイト!」
 その言葉が耳に届いた直後、フェイトの脇腹に衝撃が走る。
「なっ……!?」
 カモ達は見えた。フェイトが手を突き出した瞬間、ネギが再度瞬動を発動して方向転換し、『風精召喚(エウォカーティオ・ウァルキュリアールム)』により槍と化した杖で彼の脇腹を薙いだのを。
 ネギは挑発されている事に気付いていたのだ。故にそれを利用して奇襲を仕掛けた。
 しかしフェイトもさるもの、すぐに種に気付いた。
 手だ。彼自身が攻撃するために突き出した手を利用して、ネギは彼の視界から消えたのだ。
「味な真似を……!」
 一連の攻防でフェイトは気付く。ネギがあの時よりも大きく成長している事を。
 そして一方的に魔法を撃っていれば勝てる相手ではなくなった事を。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.183


 同時に彼は、それでも自分の方が強いと判断した。距離を詰めての徒手空拳での攻撃を始める。
 激しい攻防を繰り広げ、隙を見せれば小さな魔法で追撃。態勢を崩したところで大きな魔法を叩き込む。その戦闘スタイルはネギのそれと近い。
 しかしフェイトは小柄だが魔法で強化しているため一撃一撃が重く、そのスピードはネギを超えている。また技術面でもフェイトの方が上だろう。
「フン、『石化の邪眼(カコン・オンマ・ペトローセオース)』!!」
 ネギが思い切って踏み込もうとすると、すかさずフェイトが光線の魔法を放つ。
 そう、何よりフェイトの魔法は石化魔法、食らえば一撃必殺になりえるものが多い。
 これは大きな差であり、フェイトはそれを牽制に使う事でネギとの戦いを有利に進めていた。
 それでもネギが戦えているのは、今日までの地獄の特訓で積み上げてきた強敵との戦闘経験のおかげだろう。
 フェイトとしては牽制だけでなく、隙あらばネギを石化させてしまおうと狙っていたが、いくら追い詰めても彼は致命的な隙だけは見せない。
 鋭い掌底が腹に突き刺さり、礫を腕に食らっても、それでも杖は落とさず、その目は隙あらばカウンターを決めようと燃えていた。
「その目、気に食わないね……」
「それは……光栄だね……」
 まだまだ余裕のフェイトに対し、ネギは呼吸が乱れている。やはり実力はフェイトの方が上だ。
 しかし、それでも押し切れない。勝ち切れない。そのネギのしぶとさは、フェイトの心に焦りを生み出していた。
「……少し、本気を見せてあげるよ」
 そう言い宙に浮かんだフェイトは手を掲げて詠唱を始める。
「契約により我に従え奈落の王!! 地割り来れ、千丈舐め尽くす灼熱の奔流!!」
「これは……長い!」
 それはネギにとって未知の呪文であったが、詠唱の長さから魔法の規模を推察し、「大物が来ます!」と叫んで、自らも詠唱を始める。
 それを聞いた豪徳寺達は、すぐさま戦場から背を向けて駆け出した。
 魔物達がその背を狙うが、互いにフォローしながら公園の外へと走り去る。
 大規模魔法が放たれる時は、真っ先にその場から離れて被害を避ける。そうする事でネギの足を引っ張る事を防ぐ。地獄の特訓で彼等が学んだ事だ。
 ネギは飛ばずに地面からフェイトを見据え、身構える。
「滾れ! 迸れ! 赫灼たる亡びの地神!! 『引き裂く大地(テッラ・フィンデーンス)』!!」
 フェイトの放つ魔法の光がネギよりずっと手前の地面に突き刺さる。
 まさか外したのかと思ったのも束の間、ネギは靴底に熱を感じた。
「……ッ!?」
 次の瞬間地面が割れ、溶岩が噴き出し、ネギの姿を一瞬にして呑み込んでしまった。
 『引き裂く大地(テッラ・フィンデーンス)』、それはフェイトから放たれるのではなく大地を溶岩化して放つ魔法。
「空を飛んで長く詠唱すれば、おのずとこちらに注目する。逆に地面への注意は疎かになるという事さ」
 噴き上げた溶岩が重力に従って地面に落ちる。
 たとえ魔法で迎え撃とうとしても、地面からの攻撃には対応がワンテンポ遅れる。その一瞬で敵を屠るに十分な威力を、この魔法は持っていた。
 市街地の公園に突如としてできた溶岩だまり。そこにネギがいた痕跡は残されていなかった。
「それにしても、全員まとめて始末するつもりだったのに上手く逃がしたじゃないか。そこだけは褒めてあげるよ」
 残りは逃げた豪徳寺達。ネギへのせめてもの敬意として、自らの手で全滅させてあげよう。
 そう考えて今なお煮えたぎる溶岩だまりに背を向けた瞬間、フェイトは違和感を感じた。
「『雷の斧(ディオス・テュコス)』!!」
 空に何かがいる。そう気付いたフェイトが空を見上げた瞬間、空から落ちてきたネギが雷光の斧に変えた杖を渾身の力を込めて振り下ろした。
 フェイトもさるもので瞬動を駆使して間一髪直撃を避けたが、雷の刃が背中を切り裂いていた。
 流れる電流により動きが鈍る。ネギはその隙を逃さず追撃。対するフェイトは苦し紛れの体勢で強引にカウンターパンチを放とうとする。
「甘い! リカードさんの一撃の方がもっと重かった!」
 しかしネギはその拳を杖で受け止め、がら空きになった腹に蹴りを叩き込んだ。 
「セラス総長の魔法の方がもっと鋭かった!」
 更に牽制として放たれた『魔法の射手(サギタ・マギカ)』を杖で打ち払い。
「神多羅木先生の魔法の方がもっと速かった!」
 そのスピードを活かして距離を取ろうとするフェイトに食らいつき。
「横島さんのフェイントの方がもっと巧妙だった!」
 注意を逸らそうと仕掛けられたフェイントを見抜いて、逆にカウンターを炸裂させる。
 身体をよろめかせ隙を見せるやいなや、事前に詠唱し、遅延させていた『魔法の射手』を叩き込む。
 しかし、元々のスペックはフェイトの方が高い。その攻撃も障壁によって防がれてしまった。
「そ、そうか……遅延呪文で障壁を」
「ああ、咄嗟に障壁を出す場所を足元に切り替えたんだ」
 フェイトの魔法に対抗して準備していた魔法は『障壁最大(バリエースマーキシム)』、何重もの魔法障壁を張る魔法だ。
 フェイトの魔法はその程度では防げない威力があったが、一瞬の時間稼ぎはできる。
 ネギはあの瞬間足元に障壁を張り、それを足場にして飛ぶ事で溶岩に飲み込まれるのを回避したのだ。
 『戦いの歌(カントゥス・ベラークス)』で魔法力を纏っていなければ、それでも足が焼け焦げていただろう。
 まさに間一髪。気付くのが一秒遅れていたら、あの一撃で負けていた。
「なかなかやぶっ!?」
 態勢を立て直そうとしたフェイトの横っ面に、ネギは杖の一撃を叩き込む。彼はフェイトの大魔法を凌いでも全く気を抜いていなかった。
 態勢を整える間など与えず、連続攻撃を叩き込んでいくネギ。相手の方が強い? ならば攻撃させなければいい。そう言わんばかりの怒涛の攻めだ。
「いいか、フェイト! 師匠の方が、師匠の方が、もっと容赦が無かった! それに……なんかパワー全開で暴走してた茶々丸さんの方がよっぽど怖かったんだーーーッ!!」
 反撃の間を与えず至近距離で叩き込まれる『雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)』。ネギはその勢いを利用して巻き込まれないよう距離を取った。
 稲光が迸り、フェイトが光の中に飲み込まれ、轟音が響き渡る。
 これは流石に防ぎきれなかったようで、ダメージを負うフェイト。姿が消えていない事から水分身でない事が分かる。
「な、なんだその戦い方は……? 京都で戦った時はまるで違う……」
 京都でのネギは、優秀ではあったが魔法学院の優等生の域を出ていなかった。しかし今の彼は明らかに違う。流石のフェイトも、この荒々しさには戸惑いを隠せない。
 これはエヴァの教えを受け、自分の戦い方を一から組み直したおかげだろう。
 スペックではフェイトの方が勝っている。しかし、現在押されているのは彼の方だ。その事実にいたくプライドを傷付けられたフェイトは怒りの形相でネギを睨みつけた。
 しかし彼が恐れる事は無い。何故なら全開エヴァと暴走茶々丸と摸擬戦をする方がよほど怖いからだ。なお、どちらも横島が原因である事は余談である。

 一方様子を見に公園に戻ってきた豪徳寺達は、再び魔物達との闘いに突入していた。
「いける〜、いけるぜ〜!」
 カモは公園の木の上に移動し、ネギとフェイトの戦いを見守っていた。ネギの善戦振りに興奮気味だが、枝葉の中に身を隠しているため声を上げる訳にはいかない。
「ネギ君、気を抜くな!」
 一方で豪徳寺は、魔物を下駄の歯で殴り倒しつつ、ネギに助言を送る。
 有利の時こそ気を引き締める。彼もまたネギと共に地獄の特訓を潜り抜けており、何度も痛い目を見たからこそ得られた教訓だ。
 そう、二人で先行している小太郎とポチも、ここで共に戦っている中村と山下も、皆地獄の特訓を受けてきた。彼等に油断は無い。油断すれば冗談抜きで死にかねない環境を潜り抜けてきたのだから。
 そのためこちらの戦況は豪徳寺達の有利に傾いてきている。
 公園の魔物はいくらかはフェイトの魔法に巻き込まれたようで更に数を減らしており、豪徳寺を追っていた者達も逃げながらいくらか倒しているためこちらも残りは少ない。
 何よりフェイトがネギとの戦いで手が離せないためか、追加の魔物が召喚されず減っていく一方なのだ。
「なあなあ、魔物減ってきてね?」
「確かに……一部が犬豪院達を追っているのかもしれんな」
 ただ、実際はどこかで召喚されている可能性も考えられる。山下はその追加召喚分がポチ達を追撃しているのではと考えていた。
「豪徳寺!」
「分かっている。早く魔物達を片付けて二人を追うぞ!」
「おう!」
 気合を入れ直して魔物達に躍りかかる三人。こちらの戦いはそう遠くない内に決着が着きそうだった。





つづく


あとがき

 原作における『風精召喚(エウォカーティオ・ウァルキュリアールム)』は、自分の複製を作って攻撃させたりする魔法ですが、その複製が剣を持っていたので『見習いGSアスナ』では杖の先端に槍の穂先を作る用途で使わせています。

 超鈴音、フェイト・アーウェルンクスに関する各種設定。
 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

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