「のどかちゃん、鈴音は何か企んでる訳じゃないんだな?」
「はい! 今は悔しがってますけど、さっきまで大喜びでした!」
「すごかったよ〜♪」
「しっぽがあったらブンブン振ってたね、あれは!」
「ちょっ!? 三人ともストップ!!」
慌てて三人を止める鈴音。その顔は真っ赤になっている。
『いどのえにっき』は名前が分からないと使えないという弱点があるが、それを差し引いても非常に強力なアーティファクト。それが完全に決まったのだ。
鈴音の顔にこれまでの余裕は無い。形勢は完全に逆転していた。
「ま、まさか本屋を連れてくるとは……!」
「だってお前、事情聞いても本当の事話しそうにないし」
「ぐぬぬ……」
「自分でも否定できないって思ってます!」
自覚はあったようだ。
これは、のどか達を呼んだ横島の判断は正しかったという事だろう。
「あ、流石パパって思ってる〜」
「ちょっと鈴りん、チョロくない?」
なお、まき絵とパルの追撃は、顔を紅潮させたままスルーした。
のどかの周りに集まって『いどのえにっき』を覗き込んでニヤニヤしているアスナ達の姿も、視界に入れないようにしている。
一方令子はのどかのアーティファクトの事を知らなかったが、状況は理解したらしく、勝ち誇った笑みを浮かべた。
「それじゃ、改めて聞きましょうか。あんたがフェイトってヤツと手を組む理由を」
見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.187
そう問われた時、鈴音の表情が強張った。そのまま何もしゃべらずに無言を貫いている。
「オホホホホ、黙ってても、問い掛けが聞こえている以上、何も考えないという事はないでしょ? ほら、早く調べちゃって」
「え、えっと……」
高笑いしながら心を読むよう促す令子だったが、のどかは戸惑った様子で答えない。
「ちょっと、どうしたのよ?」
「そ、それが……鈴音さん、全然関係無い事考えてます! 話を聞いてません!」
「なんですって!?」
「ふっふふ……私は以前から本屋のアーティファクトについては知っていたネ。『超鈴音』と名乗っている内は心を読まれる事は無いと思っていたけど、対策を考えていなかった訳ではないネ」
不敵に笑う鈴音。流石と言うべきか。彼女はすぐさま対策を打ってきた。
今この場にのどかが現れた事については意表を突かれたが、いずれ相対する時が来るとは以前から考えていたのだろう。
「フッフッフッ……私を甘くみたね、ママ」
そうつぶやく鈴音。『いどのえにっき』を覗き込むのどか達は、本と令子の顔を交互に見ながらおろおろしている。
それを見た令子は、不安になってきた。こちらの話を聞いていない、意識にすら入れないレベルで他の事を考えている。それは一体何だというのか。
「……ちょっと、この子一体何考えてるのよ?」
「えっと……横島さんの留守中に起きた、美神さんの失敗談とかが次々と……」
「なにやってんのよ鈴音ーーーッ!!」
なお、今ページに表示されているのは、掃除中に学生時代の制服を見つけて着てみたらスカートがビリッといったというエピソードである。
目の前の令子ではなく、鈴音がいた未来の令子の話なのだが、それを見せられる側としてはいたたまれないことこの上ない。見られる側は言わずもがなである。
「へ〜、横島さんの出張中は、一日三回写真立てにちゅーしてたんだ」
「かわいい〜♪」
ノリノリで読み上げるパル達。これは横島もいたたまれない。
喜べばいいのか、未来の自分に嫉妬すればいいのかも分からない状態だ。
「ちょ、デタラメよ! 未来の私とはいえ、人前でそんな事するはずが……!」
「赤ん坊だと思って油断したのが運の尽きネ、ママ」
「ま、まさか……!」
そのまさかだ。鈴音はルシオラの生まれ変わりであるため、赤ん坊の頃からルシオラとしての意識があったのである。
そう今も次々に『いどのえにっき』に表示され続けているエピソードの数々は、その頃に鈴音が見てしまったものなのだ。
未来の自分、何やってるんだと文句を言いたいところだが、こればかりはどうしようもない。
なんとか止めねばと考えた令子は、意外とシンプルな答えにたどり着いた。
「フンッ!!」
「うわぉぅ!?」
鈴音目掛けて、渾身の力を込めて神通棍を振り下ろしたのだ。
「フ、フフ……あんたが意識を失えば、あのふざけたデマは止まるのよね……?」
「ママ、思い切りが良いネ」
そう、令子が選んだのは、鈴音の意識を刈り取るという方法だった。
その一撃は、まず鈴音の背後にあったコンソールを破壊した。
それでも令子は止まらず、鈴音の意識を刈り取るという目的を果たすべく次々に攻撃を繰り脱す。
鈴音は必死にそれを避けていくが、同時に部屋の設備が壊されていった。対霊的存在用の武器である神通棍で、ここまでの破壊力を出せるのは流石としか言いようがない。
こうなってくると面白エピソードを思い出す余裕も無くなり、『いどのえにっき』は当たればどうなるかを恐れる心境と、部屋を壊されて困るという思いで埋め尽くされるようになってきていた。
令子は怒りつつも、この部屋で魔法陣を制御しているならば、壊せば発動できなくなるかもしれないと考えるぐらいには冷静であり、鈴音を追い詰めつつも派手に暴れて部屋の設備を壊していった。
もっとも、鈴音にしてみれば、設備は壊されても文珠で直せるものなのだが。
「うわぁ、中が凄い事に……」
「横島さん、危ない!」
「普通に避けとるみたいやし、大丈夫ちゃいます?」
「なんで避けれるんだよ、あれ……」
一方アスナ達は時折飛んでくる破片から身を守るため壁に隠れながら部屋の中を窺っている。
令子のムチ状にした神通棍の攻撃範囲は広く、度々横島も巻き込まれていた。令子も気付いているのだろうが、そこは横島を信頼しているのだろう。事実彼は、今のところ一撃も食らってはいない。
しかし、ただ流れ弾を捌いている横島と違い、明確に狙われている鈴音は徐々に追いつめられていた。
これが全盛期の母の強さか。内心甘くみていたのは自分だった。設備は文珠で直せばいいが、それも自分が無事でいてこそである。
しかし令子の攻撃は凄まじく、事態を打開する案は思い浮かばない。
「ほらほら、どうしたの? 反撃できるもんならやってみなさい!」
「これだからママは、昔から……!」
鈴音が壁際まで追い詰められ、令子がトドメの一撃を繰り出したその時――
「やり過ぎっスよ、美神さん!」
――なんと、両手にサイキックソーサーを構えた横島が二人の間に割り込み、その攻撃を受け止めた。
このままでは鈴音が無事では済まないと、見かねて飛び込んだのだ。これには令子も驚き、攻撃の手を止める。
「ちょっ、なんで邪魔すんのよ!?」
「俺達の目的は、儀式を止める事で鈴音を止める事じゃないでしょ!?」
助けられた鈴音は、横島の背中を見つめながら茫然としていた。いくら横島とはいえ、この状況で助けてもらえるとは思っていなかったのだ。
横島自身は、その言葉の通り、このままでは令子がやり過ぎると思ったからこそであり、むしろ当然の行動だと考えていた。
「あ、デレた」
『いどのえにっき』を見ていたパルがそうつぶやいた瞬間、鈴音が横島の背中に抱き着いた。そのまましがみつき、甘えるように頬をすり寄せる。
パルの隣でまき絵が声をあげながらうわ〜、うわ〜と繰り返し、それを聞いたアスナ達が何事かとのどかの方に移動する。
「親子でそんなのダメですよ、鈴音さぁーーーんっ!!」
しかし次の瞬間、涙目ののどかが勢いよく『いどのえにっき』を閉じてしまった。
一体何を見てしまったのかは謎である。
「なに考えてるのよ、あんたはあぁぁぁッ!!」
令子は声を上げて攻撃を再開。しかし今度は間に横島が立っており、両手のサイキックソーサーで攻撃を防いでいる。
鈴音は横島の背に抱き着いたままで、どこか嬉しそうに見えるのは、おそらく気のせいではあるまい。
そして令子は、今の状況にデジャヴを感じていた。具体的に言うと横島の独立前、彼がタマモを事務所に連れてきた時の事だ。
あの時は『サイキック猫だまし・改』にしてやられた。今回もこの状況を打破するために使うかもしれない。そう考えていると、横島が両手を大きく引いた。
来る。そう直感した令子は、猫だまし・改が炸裂する前に一撃食らわせようと速度を上げて神通棍を振り下ろす。
「『サイキック真剣白刃取り』!!」
しかし両手を引いた横島は、サイキックソーサを『栄光の手(ハンズ・オブ・グローリー)』に切り替え、振り下ろされたムチ状神通棍の先端部分を両手で挟んで受け止めた。
互いの霊力がスパークを起こして強烈な光を発するが、攻撃は完全に勢いを殺され止まってしまう。
「ぐぬぬ……!」
「だから落ち着きましょうって、美神さん! ほら、鈴音ももう止めろ」
「いや、もうとっくに止めてるネ。そんな余裕無いヨ」
「だったら、さっさと離れなさい。ほらほら」
鈴音が横島から離されて戦闘終了である。
アスナ達は、クラスメイトが叩きのめされる姿を見ずに済んで、ほっと胸をなでおろすのだった。
つづく
あとがき
超鈴音、フェイト・アーウェルンクスに関する各種設定。
レーベンスシュルト城に関する各種設定。
関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
魔法界に関する各種設定。
各登場人物に関する各種設定。
アーティファクトに関する各種設定。
これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。
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