topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.43
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「チッ、変なもん見てもうたわ!」
 深夜の街を一匹の犬が疾走していた。その体格は小柄で、まだ子犬である事が伺える。
 ただし、その口から紡がれるのは犬の鳴き声ではなく、流暢な人間の言葉だ。言われるまでもなく、これはただの犬ではない。
 彼の名は犬上小太郎。京都で行われた木乃香を巡るネギと天ヶ崎千草との戦いにおいて、千草側の傭兵として戦った人狼族の血を引く少年である。
 小太郎はあの戦いが終わった後、襲撃された総本山の後始末に関西呪術協会が奔走している隙に、京都からの脱出を果たしていたのだが、何の後ろ盾も持たない彼に行く当てはなく、その後は野に伏せ、山中に潜み、時には人里に紛れ込みながら逃亡生活を送っていた。

 そんなある日、人里に降りていた小太郎は、ある怪しげな集団の密会現場を目撃してしまった。
 街中でも人目に付かないように移動する小太郎が、人目に付かないように潜む彼等と遭遇したのは、ある意味必然だったのかも知れない。
 見るからに怪しげな雰囲気を醸し出す三人の男。男の一人はローブを身に纏っており、フードを被ってどんな顔をしているのか、年齢、性別すらも分からない。足元にも何か居た気がしたが、そちらの正体を掴む間もなかった。
 一つはっきりと言える事は、彼等が堅気の者ではないと言う事だ。少なくとも足元に居た存在と、三人の男の中で最も大柄な黒いコートの男に至っては、その気配から人間ではないと断言できる。

 逃げる犬、その背後から複数の子供らしき声が聞こえてくる。追跡者は複数のようだ。おそらく彼等の足元に居た者達だろう。
 かなり身軽のようだが、それに関しては小太郎も負けてはいない。多勢に無勢ではあるが、深夜である事が彼に味方した。その小さな身体で暗闇の中に紛れてしまえば、追跡者達にその姿は見えない。そのままこの場は逃げ切る事ができるだろう。
「チッ、逃がさねーゾ!」
「厄介な事になったな。麻帆良に行く前にケリを付けておくべきか…」
 小太郎はよほど不味いものを見てしまったのだろう。何かしらの追跡する術があるのか、小太郎の足を以ってしても中々振り切れない。追跡者達は小太郎を諦める気は全くないようだ。
 それは小太郎も感じていた。人狼族の超感覚が告げる、突き刺さるかのような人ならざる者の気配。彼等はそう簡単に逃がしてくれるような甘い相手ではあるまい。
 また、小太郎もただ尻尾を巻いて逃げ続けるつもりもない。彼は逃げた振りをしながら、意表を突いて追跡者達の近くに身を潜め、少しでも敵の情報を探ろうと耳を澄ませていた。
 すると、ローブの男が追いついて来て、小太郎を捕らえられなかった事についてコートの男を罵り始めた。どうやらローブの男の方が上の立場にあるらしい。雇い主だろうかと小太郎は考えるが、しばらく様子を見ていると、それだけではない事が分かってきた。
 男が袖から小瓶を取り出して見せると、途端にコートの男の表情が歪んだ。ローブの男は更に「またこの中に戻りたくはないだろう?」と続ける。フードのせいで表情は見えないが、その口調から察するにあまり良い顔はしていなさそうだ。
 そのやり取りを見て、小太郎は逆転の一打を思い付いた。もし、ローブの男がコートの男を脅して従わせているならば、あの小瓶を奪ってしまえば、その関係が崩れるかも知れない。これは試してみる価値がある。小太郎は何か使える物はないかと辺りを見回し、少し離れた通路の奥にゴミ箱があるのを見つけた。声を立てずにニッと笑みを浮かべると、忍び足でその場を離れて物陰に隠れる。
 そして密かに人狼族特有の眷属、狗神を召喚すると、ゴミ箱に向かって体当たりをさせてわざと大きな音を立てさせる。その狗神にはそのまま路地の向こうへと何度も壁にぶつかるなどして音を立てながら走り去らせた。
 当然追跡者達もすぐにそれに気付いて動き始めるが、音に気を取られて物陰の小太郎には気付かずそのまま走り去って行く。彼等の足音が遠ざかって行くのを見計らって小太郎も動き出し、彼等が居た所に近付いてみると、案の定ローブの男がそこに残っていた。小瓶を手にした態度から予測はしていたのだが、やはりこの男、専ら部下を動かすばかりで自ら動く気はないらしい。それが小太郎の付け入る隙となった。
「行っけぇ! 狗神ぃッ!!」
「何?」
 不意を打って数匹の狗神を襲い掛からせる。
 すると、ローブの男は見覚えのある光の矢を放ちそれを迎撃しようとするが、そのために突き出した片腕が仇となった。狗神達の影に隠れるようにして一息に距離を詰めた小太郎のすくい上げるような一撃が見事小瓶を持っていた腕に命中。男が取り落としてしまったそれを、小太郎は通り抜け様に拾ってそのまま走り去る。
 そこまでは良かった。
「ッ!?」
 思わず足を止める小太郎。
 密談していた男は三人。ローブの男、コートの男、そして今目の前に立つ第三の男。彼はこの第三の男の存在を失念していた。男が走り去ろうとした小太郎の前に立ち塞がる。いや、正確には不運にも走り去ろうとした先にその男が立っていたと言うべきだろうか。
 その男を一言で表せば『道化師』。夜の闇に溶け込んでしまいそうなその姿は、コートの男に比べて折れてしまいそうな程に細身だ。
 しかし、彼から感じるプレッシャーはコートの男に勝るとも劣らない。
 こうしている間にも背後からはローブの男が迫ってくる。この場を切り抜けるには、全力で道化師に一撃を食らわせてその隙に全速でこの場を離脱しかない。小太郎は拳をぐっと握り締めて力を込めるが、彼が動き出すよりも先に男がすっと動いて道を開けてくれた。
 小太郎が驚いて目を丸くしていると、男は小馬鹿にしたような笑みを浮かべたまま顎を動かして行けと促す。子供など相手にするまでもないと言うのだろうか。年若いながらも腕一本で生きてきた小太郎としては、その態度には色々と言いたくなるが、これはチャンスである。じりじりとできるだけ距離を取りながら歩を進めるが、その男とすれ違おうとするだけで足元が凍りつくようだ。気を抜けば動かなくなりそうな足に喝を入れ、小太郎は一気に速度を上げて駆け抜けた。
 男を引き離した所で小太郎は視線をそちらに向けてみるが、ローブの男が小太郎を指差して捕まえろと道化師の男に命じている。しかし、道化師の方はローブの男の態度などどこ吹く風、小太郎を捕らえようとする様子は無い。どうやらあの男はコートの男とは立場が違うようだ。小太郎はこれ幸いとコートの男達が戻ってくる前に全速力で走り抜けるのだった。

「まったく、あいつら一体何なんや!」
 追跡者達を撒いて一息ついたところで小太郎は一人ごちた。
 断片的な情報は得る事ができたが、肝心のその正体は分からない。ただ一つ言える事は尋常な相手ではないと言う事だ。今回は逃げ切る事が出来たが、これで終わりと言う事はないだろう。あの様子から察するにこれからも小太郎を追い続けるに違いない。
 このまま延々と逃げ続けるのは性に合わない。これから先の安全を確保するためにも、どこかで反撃に転じて返り討ちにしてしまいたいが、一人で立ち向かうのは無謀の極みである。
「そう言やあいつら、『麻帆良』とか言うてたな…」
 その名は小太郎も知っている。関東魔法協会の本拠地だ。
 ローブの男が狗神を迎撃するのに使用した光の矢、あれは西洋魔法使いの使う『魔法の射手(サギタ・マギカ)』である。あの男は西洋魔法使いなのだろうか。
 この時、小太郎の脳裏に天啓のように一つの考えが浮かんだ。自分も麻帆良に行くべきではないかと。
 普通に考えれば、追跡者達の目的地も麻帆良なのだから、それは自ら敵の懐に飛び込むようなもの。それでも麻帆良に行けば何とかなると言うのか。
「…アホな。ネギのヤツは頼りにならんし、逆に忍者の姉ちゃんにとっ捕まってまうわ」
 小太郎はかぶりを振ってその考えを否定した。
 自分は、関西呪術協会、関東魔法協会の双方から逃亡中の身なのだ。麻帆良に行けるはずがない。
「でもなァ…」
 しかし、反撃に転じようにも、今の彼には後ろ盾もなければ、頼りにできる仲間もいない。
 このまま逃亡を続けていてもいずれはジリ貧になる事は理解していた。今夜彼等の密談を目撃してしまったのは転機だ。ここで何かしらの行動を起こさねばならない。
「チッ! しゃーないなぁッ!!」
 まるで自分に言い聞かせるような強い語気の言葉。
 小太郎の足はいつしか麻帆良学園都市に向かっていた。まるで一筋の光明に導かれるように。
 それが正しい判断であるかどうかは、今の彼には理解できない。
 何故なら、その一筋の光明はかつてハルナと言う少女が彼に言った『フラグ』と言う謎の言葉なのだから。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.43


 小太郎が謎の集団に遭遇した翌朝、件の麻帆良学園都市では横島が除霊の仕事を見付けるために勤しんでいた。
 なまじ修学旅行用にと現金を用意していたせいか、調子に乗って奢り過ぎてしまい、気が付けば財布の中がかなり寂しい有様になっていたのだ。
 慌てて除霊の仕事を探し始めた横島は、まず仕事を紹介してもらおうと学園長の下に向かったのだが、彼は関東魔法協会の長であっても表の顔はあくまで麻帆良学園の学園長に過ぎず、それならばと学園都市内の全て霊障の情報が集まると言う場所を紹介してもらった。
 早速その日の放課後、アスナとの待ち合わせの前に行ってみると、そこは麻帆良学園都市内にある神社であった。
 霊障の情報と言うものはGS協会やオカルトGメンに集まると思われがちだが、実際はこのような神社や寺のような場所に集まる事が多い。そもそも、GS協会、オカルトGメンの支部はどこにでもあるわけではない。それ故に一般人が霊障に遭うといの一番に相談するのが神社仏閣となるのだ。
 勿論、闘竜寺の弓家のような例があるとは言え、神主や住職の全てがGSと言うわけではない。
 しかし、神社仏閣は民間GS等の事を知らない一般人にとってもっとも身近な霊的施設である。そのため、その土地のオカルト関連の情報が集積する場所となる。そうすると、地元で開業している民間GSもその情報を目当てに集うようになり、いつしか霊障に遭った一般人は神主、住職に相談し、その仕事に合わせて地元の民間GSに相談者を紹介したり、大きな仕事であればGS協会やオカルトGメンに助けを求めると言う仕組みが出来上がっていた。
 ずっと東京で活動し、大きな仕事を主に請け負う令子のような一流どころの仕事振りしか見てこなかった横島は知らない事だが、都市圏以外での一般的なGSの仕事と言うのはこういうものが普通なのだ。
 横島は独立後、GS協会から紹介される仕事を主にこなしていたが、これも大都市故に神社仏閣を中心として土地に根付いた情報網が機能していないため、GS協会がその代理をしていたに過ぎない。

「龍宮神社、か…ん、龍宮?」
「横島、学園長から連絡は受けているぞ」
 聞き覚えのある声に見上げてみると、石段の上に巫女装束に身を包んだ龍宮真名が立っていた。
 日に灼けた肌に白い衣装が実に映える。彼女の方が高い位置にいるため横島を見下ろすような形になっており、その不思議な雰囲気を持つ目で見据えられて横島はゾクゾクと身震いする思いである。
 残念ながら裾の長い袴であったため、横島は下から覗こうとせずに石段を登って真名の前に立った。
「やっぱ、真名ちゃんの家だったのか」
「麻帆良にある神社では、ここが一番大きいからな。もっとも、ウチはGSじゃないんだが」
「幽霊でも撃ち殺せそうなクセに…」
 横島のツっこみを否定も肯定もせずに華麗にスルーして、真名は横島を境内へと案内する。
 この龍宮神社もご多分に漏れずに、麻帆良学園都市内の霊障の情報が集まっていた。他の神社仏閣と違うところは、霊障の情報を紹介する相手の中に魔法使いが混ざっている事だ。
 勿論、相談者に魔法使いを直接紹介するわけではない。基本的に魔法使いがトラブルを解決するのは奉仕活動であり、相談者の与り知らぬところで人知れず霊障を解決していく。結果として霊障は収まり、自然消滅したと言う事にして処理される。中には図書館島の魔導書を狙ってやって来た外部からの侵入者がしでかした後始末も混ざっており、それらは民間GSに委託する事ができないため、率先して魔法使いが解決していた。
 無論全ての霊障を魔法使いが解決してしまったらGS協会に目を付けられてしまうため、魔法使いに紹介するのは相談者が依頼料を支払えないような場合、すなわち本来ならばオカルトGメンにお鉢が回るような霊障と言う事になる。
「麻帆良学園都市はその性質上、民間GSがいなくてね。横島がやってくれると言うなら、わざわざ地方からGSを呼ばなくても済むから助かるよ」
「いっそ魔法先生の何人かにGS資格取らせて、この街で開業させりゃいいのに」
「フフ、それも手だろうな」
 何気ない横島の一言に真名は苦笑している。
 そんな事など考えた事もなかったが、確かにそれならば他の土地と同じように、地元の霊障を地元のGSが解決しているように装う事ができる。魔法使いには魔法使いの世界があるために、実行しようとすれば色々と問題があるだろうが、魔法使いの世界に生きながら魔法使いではない真名には、彼の提案はシンプルながらも実に効果的なように感じられた。
「ともかく、横島への仲介は私が担当する事となった」
「おおっ! ならば、お互いもっと理解し合うために、デートにでもっ!」
「なら、そのための軍資金を稼いでくるんだな。ほら、急ぎの仕事が一件ある」
 真名に抱きつこうとするも、彼女は手にした書類で見事なカウンターを食らわせてきた。
「なになに…?」
 手に取って見てみると、それはとあるビルの一室で夜な夜な悪霊が徘徊していると言う霊障の情報が書かれた書類だった。
 悪霊の霊力レベルは並。こちらの問い掛けに反応こそするが、まともなやり取りは不可能であり、性質はかなり凶暴であると言う情報が添えられている。更には悪霊になったであろう人物の情報、その原因についても触れられており、その書類の最後は「際立って特殊な点もなく、通常の除霊で対応可能」と言う言葉で締められていた。
「敵は一体、神楽坂の初仕事には丁度いいんじゃないか?」
「確かに、毎晩現れてるみたいだし、行って除霊するだけみたいだな」
「毎晩現れるから緊急なんだよ」
 これならば今晩にでも取り掛かる事ができるし、アスナもさほど危険ではない。早速今晩にでも現場に向かおうと、横島は迷うことなく二つ返事でこの仕事を引き受けた。
「他にも良い仕事があればそちらに回すが、神楽坂を連れて行けるような案件がいいのか?」
 彼女の言う「良い仕事」と言うのは、条件が良い、アスナでもさほど危険ではない仕事と言う意味である。
「できればそれの方がいいんだけど、報酬良いのがあったら回してくれてもかまわんぞ。アスナを連れてくのが不味いような除霊なら、俺一人でやるし」
「残ってればね。場合によっては私の仕事を手伝ってもらう事もあるかも知れないが、その時はよろしく頼むよ」
 かく言う真名も、ここに集まった情報の中から仕事を引き受けている身であり、報酬の良い仕事は優先的に自分に回していたりする。今までならば、一人で行うのが危険となると刹那にサポートを頼んでいたのだが、彼女は修学旅行以来木乃香に付きっ切りとなっている。
 そのため、真名は新しいサポートの候補として横島に目を付けたようだ。当然、彼の性格面の問題は承知しているが、だからこそ御し易く、分け前も少なめで済むとでも考えているのだろう。
 仕事の後に食事でも付き合ってやれば尚一層効果的だ、その際に彼に奢らせれば一石二鳥である。思わず笑みを浮かべる真名、無垢な雪のように白い巫女装束に身を包みながらも、なかなかに腹黒い考え方であった。


 その後、横島は依頼書を手にアスナが待つ世界樹前広場へと向かった。この依頼、相談者は件のビルの警備員だが、依頼者はそのビルのオーナーとなっている。そちらへの連絡は真名がしてくれるそうだ。普通ならば、この後依頼者との顔合わせがあるのだが、この依頼者は龍宮神社の紹介を全面的に信用するので、一日でも早く解決して欲しいと言っている。

 世界樹前広場に辿り着くと、そこには既にアスナの姿があった。いつも通りに彼女だけでなく古菲の姿もある。
 早速横島が依頼の話をすると、二人は揃って目を輝かせた。
「…って、古菲も来る気なの?」
「仲間ハズレはズルいアルヨ」
 そう言う問題ではない。
 GSは除霊現場にGS資格を持たない者、依頼者や除霊助手を連れて行く場合、彼等の身の安全も確保しなければならない義務が生じる。とは言え、前者はともかく後者は除霊を手伝うのだから後に隠れているわけにもいかない。そこでGSが除霊助手を雇う際には、危険を承知でこの仕事に就くと言う条項を含んだ契約を交わす事になっている。また、除霊助手が除霊中に負傷してしまった場合の治療費はGS側が負担するのが通例だ。
 古菲は好奇心から言っているのだろうが、現実問題として除霊助手でない彼女を除霊の現場に連れて行くには色々と問題がある。
「あのな、除霊助手じゃないのを連れてくのは問題があるんだ、色々と」
「むぅ〜、それは困たな。私、今は別にGSになりたいとか考えてないアル」
「アスナにも出発前に書類書いてもらう事になるんだが、一緒に除霊に行きたいなら古菲も除霊助手になってもらわんとな」
「えぇっ!?」
「わ、私も横島師父の除霊助手に!?」
 そう言うと、二人は揃って驚いた顔をしてみせた。横島にしてみれば、京都でも一緒に戦ったのだから今更の話と考えていたのだが、二人にとってはそうではなかったらしい。
 それどころか、二人して頬を染めており、古菲は顔を背けながらもチラチラと横島を見ている。
 これは様子がおかしい。もしや、除霊助手になる事と将来GSになる事をイコールに考えているのではないか。
 横島が尋ねてみると、何故かアスナは頬を染めて顔を伏せ、もじもじとしていた古菲が顔を真っ赤にして叫ぶような大声で返事を返した。
「わ、私も仮契約(パクティオー)しないとダメアルかッ!?」
「なんですとーっ!?」
 突然の仮契約宣言。これには横島も驚愕して負けじと大声を上げる。
 どうやらこの二人、横島に弟子入りと仮契約をセットにして考えているようだ。古菲に至っては仮契約するならばアスナのようなスゴい事をしなければならないと勘違いしている。
「………ハッ!」
 古菲との仮契約に想いを馳せて意識を彼岸に飛ばしていた横島だったが、二人の大声のために集まった周囲の視線を感じて我に返った。このまま二人が顔を真っ赤にしたままでは周囲の人達からどんな目で見られてしまうか。横島は慌てて誤解を解くべく動き出した。
「違う違う違う! 別に仮契約しなくてもいいから! あと、除霊助手だからって絶対にGSにならないといけないって訳でもないからっ!!」
「え、そうなんですか?」
「俺だって、最初はGSになる気なかったし」
 それを聞いた古菲はホッと胸を撫で下ろしている。話を聞いてみると、横島とキスする事が嫌と言うよりも、仮契約そのものをしたくないようだ。
 アスナはどこが違うのかと言いたげだが、古菲の中では明らかに違うはっきりとした譲れない一線があるらしい。
「私は、自分の力で強くなりたいアル!」
 つまり、古菲はアーティファクトの力を借りたくないのだ。
 アーティファクトと一言で言っても色々であり、『ハマノツルギ』のような武器もあれば、『金鷹(カナタカ)』のような装着者自身を強化するものもある。
 古菲にどんなアーティファクトが授けられるかは分からないが、彼女はその力を借りて強くなるのではなく、自分自身の力で強くなり、GSや魔法使いと同じ舞台で戦いたいとの事だ。アスナとは明らかに違う、横島の言う所の「雪之丞のような戦闘民族」ならではの考え方であろう。
 仮契約する必要がないのであれば、迷うことはない。
「横島師父、私も除霊助手になるアルっ!」
「今更だけどな、ほれ」
 決心する古菲に、横島はひょいと気軽に封筒を手渡す。続けてアスナにも封筒が渡され、二人が疑問符を浮かべながらそれを開く。すると、中にはそれなりの金額が入っており、二人は目を丸くして、それと横島の顔を交互に見た。
「え、これって…」
「初月給、いや月給じゃないか。修学旅行の一件の報酬だ。随分と危険な仕事に巻き込んじまったし」
 ちなみにこれは、横島の自腹だったりする。勿論、学園長から横島に対しても報酬は支払われているのだが、これは関東魔法協会からの報酬と言う事になり、日頃の自警団の報酬と同じように、横島個人ではなく東京の「横島除霊事務所」へと支払われている。その後で横島の手元に届くのは、その一部である彼一人分の生活費のみなのだ。当然、少女達に奢りまくっていれば、すぐに無くなってしまう。
 そのため、アスナ達への報酬が今日まで延ばし延ばしになってしまっていたのだが、今日除霊の仕事を引き受けたことで収入の当てができたので、早速自分用の口座から彼女達分の報酬を下ろして来たと言うわけだ。
 余談ではあるが、これは横島のミスである。本来ならば横島の除霊助手と言う事は、横島除霊事務所のメンバーとなるため、給料も事務所から出るはず。しかし、横島がまだ除霊の現場に出ないからと正式な雇用契約を後回しにしたまま修学旅行に出発してしまったため、こうして彼が自腹を切る事になったのだ。今日、契約書を書いてもらうので、次回以降はきっちり事務所の方から支払われるであろう。

「アスナはともかく、私もいいアルか?」
「それこそ今更だろ、古菲にゃエヴァと戦った時から手伝ってもらってるわけだし」
「おぉっ!」
 自分でも知らぬ間に除霊助手として身内扱いされていた事に喜ぶ古菲。満面の笑みを浮かべ全身で喜びを表しており、その感情表現はまるで子供のようだ。これはこれで愛らしいのだが、それを指摘すると本人は怒りそうなので、横島は黙って眺めるだけに留める。
「それじゃそれじゃ、早速今晩に備えて組み手アルっ!」
「いや、逆だろ。今日のトレーニングは軽めにな」
「それじゃ、私の神通棍の修行も?」
「時間短めにしようか。慣れるためにやってるんだから、全くやらないのも問題あるだろうし」
「わかりました!」
 アスナは早速鞄の中から神通棍を取り出し、芝生の上に胡坐を掻いて座り、神通棍の柄を額に押し当てて唸り出す。横島もすぐに仮契約カードを取り出して、アスナに霊力を送り始めた。
 最初の数分間はこうして横島の霊力を使ってアスナは神通棍に霊力を注ぎ込み、横島は供給する霊力を徐々に減らして、アスナ自身の霊力にシフトさせようとしている。

 アスナの修行中、当然横島は彼女に付きっ切りなのだが、その間背後にいるはずの古菲が妙に静かだ。
 何をしているのか気になったのでチラリとそちらに視線を向けてみると、古菲は座禅を組んで瞑想をしていた。思わず何をしているのかと問い掛けると、彼女は気を練っていると答える。
 古菲はこれまで、己自身の身体を鍛え、技を磨く事に邁進してきたが、京都での一件や横島との修行を経て、『気』の重要性を再認識したらしい。霊力も魔法も使えない彼女は、この気の力を突き詰めてみようと考えたようだ。彼女も彼女なりに一般人の枠を越えた世界で戦っていくために努力している。


 そうしている間に辺りは夕焼けに染まっていき、いつもより早めではあるが、ここで修行は切り上げる事となった。現在の三人は制服姿だ、流石にこのままでは除霊現場には行けないだろう。
 三人はここで一旦別れて、着替えを済ませてから食堂棟で待ち合わせる事にした。三人でどこかのレストランにでも入り、食事の後にでも契約書を書いてもらうのだ。
「それじゃ、また後でな」
「わかたアル」
「神通棍持って、ジャケット着てくればいいんですよね」
「あと、吸引札もな。今回は悪霊一体だけらしいから、見学だけだろうけど」
 実際、現場に着いても除霊は横島一人で済ませてしまうだろう。今回は彼女達に現場の雰囲気に慣れてもらうための仕事だ。それを聞くと、アスナはどことなくホッとした様子で、逆に古菲は残念そうであった。

 その後、着替えを済ませた一行は、食堂棟に集合した。既に時間も夜のため、辺りの光景は昼間と一変している。制服、ジャージ姿の学生は姿を消し、大学生であろう私服姿の若者や、学校の関係者なのだろうか、スーツ姿の大人が見受けられる。
 夜でも人通りの多い中をアスナ達二人を連れて歩くのは誇らしいやら恥ずかしいやらだ。周囲の男達の視線も今は心地良い。
 横島も財布の中身は心もとないが、ここで二人に夕食を奢るぐらいの余裕はある。
 独立して、除霊助手であった頃よりも幾分かの金銭的余裕ができたためか、最近妙に奢る機会が増えた。主に少女達に。これは彼自身自覚もしているが、慕ってくれている彼女達を無下にできない、せっかくの機会を逃して堪るかと言うのが彼の本音であった。この辺りの軽率さは、おそらく父親の血であろう。
「横島さん、どうしたんですか?」
「…いや、今一瞬、自分の将来が不安になった」
「突然どうしたアルか?」
 アスナと古菲は揃って疑問符を浮かべるが、横島自身その不安の正体を掴めずにいた。無自覚なのか、無意識の内にあえて事実から目を逸らしているのかは微妙なところだ。
 昼に豪徳寺達とも利用した事のあるレストランの前を通り掛かってみると昼ほど混雑しておらず、横島は丁度良いとそこに入る事にする。各々に注文すると、昼よりも短い時間で料理が運ばれてきたので、できるだけ早く現場に行きたい三人は、早速その料理に舌鼓を打ち始めた。
「ところで、今日はどんな除霊なんですか?」
「繁華街の方にあるビルの一室に夜な夜な幽霊が出るんだと」
「ビル? もしかして、駅前のかな?」
 女子中学生の間でも、その悪霊は噂になっているらしい。
 何が原因で悪霊が現れたのか、金銭絡みの怨恨、痴情のもつれ、二人は幾つかの噂を口にするが、そのどれもが書類に書かれた真相とは異なっている。
 そのビルは駅前の大通りから道路一本隔てた路地にあり、消費者金融やスナックがある事からそのような噂が立ったのだろう。しかし、真名からもらった書類に書かれた情報によると、ビル内には小さな事務所があり、仕事の忙しさにノイローゼ気味になった社員の一人が自棄になって自ら命を絶ったそうだ。二人に聞いてみると、やはりその事務所の存在自体を知らなかった。
「そう言うのってよくあるんですか?」
「よくあるっつーか、物騒な話だけど、死人がいなきゃ悪霊は出ないし」
 それが最近のものとは限らないのがGSと言う仕事だ。その「死人」が数百年前のものと言う事もある。
 悪霊ではなく妖怪等が相手と言う事もあるが、横島もしばらくはアスナ達をそのような仕事に連れて行くのは避けるつもりだった。古菲辺りは喜びそうだが、それとこれとは話が別だ。
 また、麻帆良では、外部から侵入した魔法使いが妖怪とはまた異なる魔物を召喚したりする事もあるのだが、そちらへの対処は魔法使いの仕事だろう。
「とにかく、除霊の仕事としてはオーソドックスだな。むしろ簡単なケースだ。ほれ、食い終わったら契約書書いて。それが終わったら現場に行くぞ」
「「は〜い」」
 食べ終えた二人は横島からボールペンを借りて早速契約書を書き始める。新聞配達のアルバイトをしているアスナは手馴れた様子で、古菲は所々でアスナに尋ねながら。
 やがて二人は特に問題もなく契約書を書き終えて、二人揃ってポンと名前の横に捺印した。これで二人は正式な横島除霊事務所の除霊助手である。
「よし! それじゃ準備も終わったし、現場に向かおうか」
「いよいよアルな!」
「だ、大丈夫ですよ、どーんっと任せてください!」
「いやいや、今日戦うのは俺だから」
 戦いたくてうずうずとしている古菲に、初めての実戦に緊張を隠せないアスナ。
 二人とも根本的に間違っている、今日は二人とも戦わないのだ。横島は苦笑して首を横に振るのだった。


 夕食を終えた後、三人が現場のビルに向かうと、入ってすぐの警備員の詰め所から年配の警備員が現れて横島達を出迎えた。三人も来た事、特に後ろの二人が少女である事に驚いた様子だったが、そこは横島が二人は除霊助手であり、報酬は当初の契約通りと言って取り成す。
 すると警備員も安心した様子で詰め所に戻り、現場の鍵を取って戻ってくる。
 案内してくれるのかと思ったが、横島にその鍵を手渡すと、さっさと詰め所に戻って行ってしまった。彼もまた依頼主のように、あまりこの件とは関わりたくないタイプの人間らしい。
 横島としても、今日はアスナと古菲と言う守らなければならない二人がおり、彼が来ないのはむしろ願ったりなので、そのまま黙って鍵を受け取ると、件の部屋へと向かう。
 エレベーターの中で、どこか腑に落ちない表情をしていたアスナがおずおずと口を開いた。
「ところで…夜な夜な現れるんですよね、その悪霊」
「らしいな。毎晩出てるって話だから、今日も居るはずだ」
「まだ8時にもなってないんですけど、もう出てるんですか?」
「………」
 ビルの外は駅にほど近いためか、ネオンの灯りで明るいぐらいだ。
 とてもじゃないが、幽霊の出る雰囲気ではない。
「い…いや、出るまで待つのもGSの仕事さ。ハ、ハハ…」
 そう答える横島の笑いが力無いものなのも無理はあるまい。
 しかし、その心配は杞憂に終わった。エレベーターが目的の階層に止まり、外に出ると、真っ暗な廊下の向こうから何かを叩き付けるかのような音が聞こえてきたのだ。
「もう出てるみたいアル」
「早朝出社の生真面目な人だったみたいだからなぁ…」
「それ、関係あるんですか?」
 アスナはどこか呆れた様子だったが、これが意外と関係あったりする。
 低級霊ともなれば浮遊霊や悪霊の残した霊力の残りカスに過ぎないが、浮遊霊、悪霊は通常生前の人格が残ってる場合がほとんどだ。今回のケースのように正気を失っている事もままあるが、失うのもまた正気があってこそである。
 今回の悪霊の場合は、生前の彼の生活サイクルが影響し、夜な夜な現れるにも日暮れ直後から毎日現れていたのだろう。死してなお多忙な幽霊に、横島は思わず手を合わせて黙祷を捧げ、アスナ達もそれに倣う。
「それじゃ、二人はこれ持ってついて来て」
 用意していた懐中電灯を持たせ、先頭に立った横島を頂点に三角形を描くように密集して並び、二人に背後から前方を照らさせる。横島は左手に淡い光を放つサイキックソーサーを発現させて進み始めた。
 この階は件の悪霊のせいか、まったく人影がなく、灯りも消されている。エレベーターを降りてすぐの所にあったスイッチを押してみたが反応はない。電気配線を攻撃されるのを恐れたらしく、ブレーカー自体を落としているようだ。
「こ、怖いですね…」
 いつもなら横島の腕に抱きつくところだが、今はそうもいかないために隣の古菲と手を繋ぐアスナ。やはり暗闇が怖いのか、響く足音にも如実に反応している。
 一方、古菲の方は普段の見回りで慣れているのか、灯りを左右に動かしながら悪霊の姿を探していた。

 そのまま進んでいくと、どんどん音が近付いてきた。心なしか空気も重くなってきたような気がする。
 悪霊は間近かと、横島が右手に『栄光の手(ハンズ・オブ・グローリー)』を発現させて警戒を強めると、突然前方のドアのガラス部分を突き破って花瓶が飛び出して来た。
「そこに居るみたいアル」
「アスナ、吸引札を開いて構えるんだ。俺も祓うつもりで思い切り攻撃するけど、祓いきれなかった時はそれで吸引してくれ。」
「わ、わかりました…」
 そう言って横島は、京都の時と同じように仮契約カードを額のバンダナに仕込んだ。アスナへの霊力供給が開始され、もし悪霊の攻撃が来たとしてもある程度身を守る事ができるだろう。また、吸引札の使用も確実なものになるはずだ。
「古菲はドアを開けてくれ、それと同時に俺が飛び込む」
「分かたアル」
 古菲が、また割れたガラス部分から何か飛び出してこないように警戒しながら壁に背を付けたまま手を伸ばしてドアノブを掴み、横島とアスナも、壁の背を付けたまま、すぐに飛び込めるようにしてその瞬間を待つ。

「さんー、にぃー、いち……今だっ!」
 横島の合図で扉が開け放たれ、先手必勝とばかりに横島が事務所内に飛び込んだ。
 続けて吸引札を持ったアスナが腰を屈めた体勢で入り口の前に立ち、その背後から古菲がアスナからも受け取った二つの懐中電灯で事務所内を照らす。
「見つけたぞ悪霊! このGS横島忠――」
「ヘヴォ上司ガアァァァーーッ!!」
 せっかくなので格好良く決めようとした横島だったが、それよりも早く事務所内に居た悪霊が持ち上げた椅子で殴り掛かってきた。
 その姿は肉がほとんどこそげ落ちた骸骨のような姿をしており、背後からアスナ達の息を呑む音が聞こえてくる。そのホラー映画に出てくるような姿に生理的嫌悪が先立ったのだろう。
 横島は一気に勝負を決めるべく、悪霊の攻撃を『栄光の手』で弾きながらサイキックソーサーを投げ付ける。
 距離が近かったので、それは間髪入れずに悪霊の腹に命中して爆発。爆炎が収まると、そこには腰の部分に大穴を明け、上下が千切れかけて動きを止める悪霊の姿があった。
「アスナ、今だっ!」
「え、あ…っ!」
「吸引札アルヨ!」
「わ、分かったわっ!」
 呆然としていたアスナは、突然横島に声を掛けられて慌てふためいてしまったが、背後の古菲に懐中電灯で肩を叩かれてハッと我を取り戻し、両手を突き出して吸引札を構える。

「吸引ッ!!」

 その掛け声と同時に、動きを止めていた悪霊が吸引札に吸い込まれた。
 同時に辺りに響いていた悪霊の声もぱったりと止み、フッと空気も軽くなったように感じられる。
「えと、終わった…の?」
「ご苦労さん、その吸引札は俺の方で処理しとくから」
「あっけないアルな〜」
「いいじゃない、成功したんだからっ!」
 古菲はいささか不満そうであったが、何にせよ、アスナ達の初仕事は成功である。
 アスナと古菲は手を取り合って喜び合い、そして悪戯っぽく微笑み合うと、せーのっと二人でタイミングを合わせて横島に飛び付いた。突然抱き着かれてそのまま倒れてしまいそうになる横島であったが、何とか持ち堪えると、二人の肩を抱いたまま歩き出す。
 事務所の後片付けについては契約外なので、後は詰め所の方に報告して鍵を返せば、仕事は終了だ。横島は、このまま二人を女子寮まで送っていこうかと考えながらエレベーターに乗り込んだ。

 この後、両手に花の状態で現れた横島を見て、警備員が怪訝そうな顔をしたのは余談である。



「ふむ、麻帆良学園都市に入られてしまったか…」
「いいじゃねぇか、ターゲットと一緒に纏めて始末したらヨ」
 麻帆良学園都市にほど近い山中から街を見下ろすコート姿の男。
 その足元には三つの小さな影があり、その内の一体が物騒な事を口走っている。
「確か、ターゲットは三人だったよな?」
 木陰からもう一人の細身の男、道化師が姿を現した。
「ああ、あの狼男(ヴェアヴォルフ)の少年も含めて四人になってしまったがね」
 コートの男がオーバーリアクションで頭を振って答える。
 どうやら小太郎は無事に麻帆良学園都市に逃げ込んだようだ。街の周辺に山や森が多い事が彼に味方したのだろう。
「私としては、ターゲットの少年に興味があるのだがねぇ…できれば、人質を取ってでも、本気の彼と戦いたい」
 彼ならばそう言うと予想していたのか、その言葉を聞いて道化師は笑っている。
 足元の影の一つもポツリと「悪趣味ですネ…」と呟いた。
「どうせあの犬のガキが行くとこは限られてるんだろ?」
「二箇所考えられるな」
 小太郎の行く当て、それはネギ達の住む女子寮か、横島の住む男子寮かのどちらかだ。
 彼も関西呪術協会から逃亡中の身であるため、魔法先生の元に駆け込むとは考え難い。
「だったら二手に別れようじゃないか、おいらもターゲットの一人には借りがあるんでな」
「…ネギ君はいかんよ、彼は私の獲物だ」
「安心しな、俺の狙いは横島忠夫だ。ハナからガキのヤツに用はねぇ
 この男は、コートの男のようにあのローブの男に雇われたわけではなく、あくまで個人的な協力者であった。ローブの男ではなく、コートの男とのある利害の一致で協力を申し出てくれたのだ。
 個人的な親交であるだけにコートの男も、この道化師を信頼している。
「ならば、横島忠夫は君に任せるとしよう」
 道化師は剣呑な笑みを浮かべて頷いた。

「ホッホッホー! 待っていろ横島忠夫、貴様はおいら直々に地獄に送ってやる! このパイパーがなッ!!

 麻帆良学園都市を眼下に見下ろし、道化師、悪魔パイパーは両手を広げて高らかに宣言する。

「フッフッフッ…ネギ君、あの頃からどれだけ成長してるか、楽しみだ」
「横島め、おいらのラッパでガキにしてやるッ!」
 子供の成長を見るのが好きな男と、子供にするのが好きな男。
 彼らの利害の一致とは、ひとえにその一点に在った。



つづく


あとがき
 小太郎がいつヘルマン達を知り、封魔の瓶(ラゲーナ・シグナートーリア)を奪ったのか。
 神社仏閣を中心としたオカルト業界の仕事情報網に関して。
 これらは『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定です。ご了承下さい。

 『黒い手』シリーズ本編の方で、GS協会が仲介に入ると言う設定をでっち上げましたが、大都市はともかく地方都市になるとそうもいかないだろうと、地元に根付いたネットワークと言うのを考えてみました。
 GS全般で見た場合、令子達がトップクラスの極一部で、神社仏閣のネットワークは原作の『バトルロイヤルはつもうで!!』に登場した「ヨーガふぁいやっ!!」とか言ってた人のような脇役GS達のためのものとして設定しております。

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