topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.67
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 化けタヌキの捕獲を終え、昼過ぎに現地を出発したアスナ達一行が二日目の宿泊先に到着したのは、もう既に日も暮れかけた頃合であった。こんなに時間が掛かったのは、途中でエヴァのワガママを聞いて寄り道したと言うのもあるが、明日の仕事先にそれだけ近付いたと言う事でもある。
 アスナや古菲は、タヌキを追い掛け回して山を駆け回った事もあり、この強行軍で疲れ果ててへろへろであった。

 チェックインを済ませてルームキーを受け取り、一行はエヴァが選んだと言う部屋へと向かうと、そこは想像していた以上に豪華な部屋であった。四人用の部屋で、ベッドルームも二つ。それぞれにクイーンサイズのベッドが二つずつある。
「すっご〜い! ホントにこんな部屋に泊まっちゃっていいんですか?」
「え……あ、ああ、もちろんサっ!」
 嬉しそうに目を輝かせるアスナに、サムズアップで答える横島。ここの宿泊費はエヴァ――正確には学園長に出させるつもりだった横島だが、この笑顔を見ていると、多少無理をしてでも、格好を付けて自分が出すべきなのではないかと思えてきてしまう。かなり手痛い出費になるのは分かりきっているのだが、悲しきは男の見栄である。
「ところで、ベッドが一つ足りませんが、エクストラベッドを用意してもらえるですか?」
「いや、少しでも安く済ませてやろうと思ってな、二人で一つのベッドを使うと言う事にしておいた」
 エヴァも彼女なりに予算について考えていたらしい。これだけ高そうな部屋をチャージしながら何を今更と言う感じではあるが。
「と言うわけで、私と横島が一つのベッドを使うとして、後は貴様らで好きに選ぶがいい」
「ちょっと待ったーっ!」
 元よりそれが目的だったのか、キラキラと輝かんばかりの笑顔を見せるエヴァに対し、すかさずアスナはハリセン型の『ハマノツルギ』を召喚してツっこみを入れる。魔力全開状態のエヴァにとって、『魔法無効化能力(マジックキャンセル)』を持つアスナは天敵である。あっさりと魔力障壁を無効化され、スパコーンと良い音が鳴り響いた。
「な、何をするか神楽坂明日菜!」
「やるに決まってるでしょ! いきなり何言ってんのよ!」
 この二人のやり取りにも慣れてしまったのか、横島達三人はアスナ達をそのまま放置してソファに腰掛け、くつろぎ始める。
「横島さんとい、一緒に寝るのは、わ……私の役目よっ!」
「ぬかしおったな、色ボケ娘がっ!」
 そのまま取っ組み合いのケンカに発展する二人。傍目には来年には高校生になるアスナが小学生相手に大人気ない真似をしているようにも見えるが、流石は吸血鬼の真祖、互角に勝負を繰り広げている。真祖の魔力の使い所としてこれはどうかと思わなくもないが、それこそ当事者エヴァには関係がなかった。
「アスナもなかなか強くなたアル」
「って言うか、俺がこっちのソファで寝たら解決するんじゃねえか?」
「いえ、実際に除霊現場に出ている横島さんにそこまでさせるのは流石に。私は図書館島で慣れていますので、誰か一人がこちらで寝るならば私が」
「いやー、流石にそれは男として不味いだろ」
 誰か一人がソファで寝れば済むのだが、横島、夕映の双方が自分がと申し出て譲らない。
 横島は男として少女をソファに寝かせて自分はベッドで寝る事など出来ないし、夕映は横島は除霊現場に出るのだから、きっちりベッドで休むべきだと言う。どちらも正論だけにこの話はどこまで行っても平行線になりそうだ。
 そこで夕映は、別の解決方法を模索してみる事にする。
「それに、誰か二人が一つのベッドを使うのならば、体格的に私とエヴァさんです」
「寝ぼけたエヴァに噛み付かれても知らんぞ」
 一方夕映は、全員ベッドを使用するならば、小柄な自分とエヴァが二人で一つのベッドを使うべきだと主張。しかし、横島はエヴァに噛み付かれる危険性を指摘する。実際のところ、横島はエヴァの寝相が悪いかどうかなど知らず、あくまで彼の抱くエヴァのイメージなのだが、これまでに様々なパターンでエヴァに血を吸われてきた横島だけに妙な説得力があった。
「では、どうするですか?」
「……そうだな、こういうのはどうだろう?」
 横島が古菲と夕映を招き寄せ、二人が顔を近付けると、横島はピッと人差し指を立てて部屋割りについて説明を始めた。


「……で、貴様らで勝手に決めたわけか」
「妥当なとこだろ」
「チッ!」
 二人でケンカしている内に、横島達三人の話し合いで勝手に部屋割りが決まってしまった事に対し、エヴァは忌々しそうに舌打ちをした。
 今回の部屋割りにおいて大事な事は、四つあるベッドの内、一つは横島が使うと言う事。二つのベッドルームにはそれぞれ二つずつベッドがあるため、残り三つのベッドの内の一つを使う者は、横島と同じ寝室で一夜を過ごす事になるのだ。
 これまでの事からも分かる通り、アスナとエヴァは却下である。エヴァは素で横島を襲いかねないし、アスナが暴走すると大胆な行動に出てしまう事は周知の通りだ。横島としてはむしろ歓迎するところなのだが、流石に隣の部屋に三人がいる状況では、両手を広げてカモーンと待ち構えるわけにはいかない。
 となると残りは古菲と夕映のどちらかと言う事になるのだが、二人とも横島と一緒の部屋で寝る事を拒みはしないが、二人きりと言うのはあまりにも恥ずかし過ぎる。と言うわけで、横島の隣のベッドは古菲と夕映が二人で使う事になり、横島、古菲、夕映の部屋と、アスナ、エヴァの部屋に別れる事になった。
「もぅ、しょうがないわねぇ……」
 腰に手を当てて頬を膨らませていたアスナも、妥当な案だったので反論はしなかった。
 よくよく考えてみれば、横島以外でエヴァに対抗出来るのはアスナだけなのだ。もし、古菲と夕映のどちらかが横島と二人きりで一夜を過ごす事になれば、そんな事などおかまいなしに反対していただろうが、三人で一部屋ならば大丈夫であろうと言う安心感もある。仮にこの二人が千鶴や高音、或いはアキラであればアスナも危機感を抱いただろうが、古菲にしろ夕映にしろ、どちらも可愛い事は確かだが、横島の方から積極的になるタイプではないのだ。
「では、決まりですね」
「んじゃ、晩飯食いに行くか! 予約はしてないんだよな?」
「ああ、時間が分からんかったからな。だが、下調べはしてある、ついて来るがいい」
「エヴァちゃんオススメの店なら、期待できそうね〜」
「ああ、任せておけ」
 先程までケンカをしていた二人が、夕食の話題になった途端に意気投合してしまったのはご愛嬌である。

 こうして何事もなく今夜の部屋割りは決まったのだが―――

「………」
「くーふぇさん、どうしたですか?」
「……あ、いや、何でもないアル」

―――ただ一人、横島と夕映だけで話が進められたため、あれよあれよと言う間に横島と一緒の部屋で一夜を過ごす事になってしまっていた古菲が、柄にもなく頬を染めててれてれしていた。
 しかも、この日の晩、夕映が「いざと言う時は撃退をお願いするです」と古菲を横島に近い方に寝かせたため、電気を消した暗闇の中、横島の一挙手一投足を意識してしまい、深夜遅くまでドギマギして眠れなかったのは古菲だけの秘密である。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.67


 翌朝、古菲が少々寝不足気味であった。夕映の方も寝不足と言うわけでもないが、朝に弱いため眠そうな目をしていた。
 横島はおはようと声を掛けるが、二人からの返事はない。明らかに頭が覚醒しておらず、完全に寝ぼけている。
「ん〜……おおっ、今日も除霊だたアル」
「……ハッ、そうでした。早く着替えないと」
 横島が声を掛けてちゃんと起こそうかと考えていると、それよりも先に二人が動き始める。
「って、俺がまだいる! 脱ぐなお前らーっ!」
 なんと、部屋に横島がいるにも関わらず着替えはじめたのだ。
 口では止めながらもしばらくは鼻息を荒くして食い入るように見詰める横島、どちらかと言えば子供っぽい二人であるが、「目の前で繰り広げられる二人の女子中学生の生着替え」と言う魅惑の事実に、横島はそこから目を離す事が出来ないでいた。その底抜けに明るい性格のため子供っぽい印象が強かった古菲も、こうして改めてよく見てみると、小柄ながらなかなか良いスタイルをしている事が分かる。
「……ハッ!」
 しばらく目の前の光景を堪能していた横島だったが、ふと、ここで古菲が我に返ると怖い事になると気付いた。
 それに気付いてしまうと、これ以上見続けるのはデメリットの方が大きい。いや、元々デメリットの方が大きかったのだ。その事実に気付いてしまったと言った方が正確であろう。横島は慌ててベッドルームから退散する。
 ベッドルームを出ると、アスナとエヴァの二人はまだ起きてきていない様子だった。いや、朝に早いアスナの事だ。既に目を覚まし、ベッドルームの方でおめかしをしているのかも知れない。
 とりあえず、今この部屋には横島一人しかいない事は確かなので、横島は急いで顔を洗い、着替え始める。今日は現地に到着するとまず依頼者に会いに行く事になっているので、いつものデニムの上下ではなくスーツを選んだ。
 
 横島の準備は女性陣に比べて短時間で終わり、彼が着替え終わっても、アスナ達四人はベッドルームから出てこなかった。
 考えてみれば、古菲と夕映が寝ぼけながらも着替え始めている事はその目でしっかりくっきりはっきりと確認しているが、アスナ達が起きた事は確認していない。アスナは基本的に早起きなのだが、エヴァの方はかなり夜型人間だ。エヴァに付き合って寝るのが遅くなり、まだ寝ているのかも知れない。
 現場に遅刻するわけにはいかないので、横島はアスナ達のベッドルームの扉をノックし、本当に起きているのかどうかを確認してみる事にした。
「……返事がないな」
 小さく何度かノックしてみるが、返事がない。
 これはまだ寝ているのかも知れない。そう考えた横島は、ドアノブをぐっと掴むと「お邪魔しま〜す」と扉を開けて中を覗き込んだ。
「きゃっ……よ、横島さん!」
「ん、どうした、横島。私が恋しくなったか?」
「こっちもかいっ!」
 どうやらノックが聞こえなかっただけで、アスナはとうに起きていたらしい。扉を開いた横島を出迎えたのは、起きたばかりであろうぬいぐるみのように枕を抱きかかえたパジャマ姿のエヴァと、着替え途中で半裸状態のアスナであった。
「ス、スマン! わざとやない! わざとやないんや〜!」
 謝りながら慌てて扉を閉める横島、しかし、煩悩方面には類稀な力を発揮する彼の脳みそは、既に彼女のあられもない姿を脳裏に焼き付けてしまっているのは言うまでもない。

「お、お待たせしました〜」
 横島がソファに腰掛けて待っていると、まず、アスナが着替え終えてベッドルームから出てきた。今日の彼女は、アースカラーのノースリーブのブラウスに、葛城地のブーツカットジーンズだ。手には横島が贈ったジャケットを持っている。それを上から羽織るのだろう。
 先程の事もあるため、頬が赤い。昨晩は横島と一緒のベッドで寝るんだと騒いでいたが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしいらしい。この様子では、もし仮にエヴァに勝利して横島と一緒に寝る権利を得ていたとしても、いざその時が来れば暴走も治まり、緊張して一睡も出来なかったのではないだろうか。
「おはようございます、横島さん」
「ム、どうかしたアルか?」
「ううん、なんでもないなんでもない」
 続けて夕映と古菲の二人もベッドルームから出てきた。夕映はナイトブルーのロングパーカに水玉がプリントされたディアードミニスカートを組み合わせており、今日はスパッツは穿いていないようだ。一方、古菲はゆるめのグラフィックTシャツにキュロットパンツと言った出で立ちだ。明るい色調で揃えられた服装からすらりと伸びる褐色の肌をした手足がなんとも眩しいコーディネートである。
 古菲の方はしっかり起きているようだが、夕映はまだ眠たそうだ。
「横島師父も、どうしたアルか?」
「いや、なんでもない」
 疑問符を浮かべて首を傾げる古菲。幸い、横島が二人の着替えを見ていた事は気付かれていないようだ。横島の方は意識しまくりだったが。
「ところで、エヴァはまだアルか?」
「え、ああ、ちゃんと起きてたから、もうすぐ出てくると思うわ」
 アスナの返事を聞いて、一同はエヴァが出てくるであろう扉の方へと視線を向ける。このゴールデンウィーク中、エヴァはずっと茶々丸がチョイスした子供服を着ている。無論好き好んでそうしているはずもなく、他の選択肢がないため渋々にだ。それだけにエヴァがどんな格好をして出てくるかは、彼女達にとってある種の楽しみとなっている。

 横島達が固唾を飲んで見守っていると、やがてそろりそろりとエヴァが扉の向こうから顔を覗かせた。
「貴様ら、笑うなよ! 絶対に笑うなよ!」
「それは暗に『笑え』と言ってるのか?」
「違うわっ!」
 そう言いつつ、いつまでもそうしているわけにはいかないので、エヴァは覚悟を決めて姿を現した。青いストライプのハイネックTシャツにデニムのサロペットスカート。足元は柄付きのオーバーニーソックスと、何とも可愛らしい姿である。
「あはははは! エヴァちゃん、よく似合ってる〜♪」
「笑うな、神楽坂明日菜!」
「流石は茶々丸さん、良いセンスです」
「どこがだ!?」
「そうは言ても、よく似合てるアル」
「古菲、貴様まで……!」
「はっはっはっ、可愛いぞ、エヴァ〜」
「にやけた顔をするな、横島!」
 横島が頭を撫でてやると、顔を真っ赤にしたエヴァは怒って回し蹴りを放つ。しかし、横島はすっと腰を引いてかわしたため、その蹴りは虚しく空を切るだけだ。
「スキありッ!」
「あたーっ!?」
 しかし、エヴァもそのままでは引き下がらない。魔力全開状態の彼女は、魔法で自由に空を飛ぶ事も出来るので、そのまま一旦空中で静止し、不意を突いて横島の顎を思い切り蹴り上げた。
「何やってのよ、エヴァちゃーん!」
「フン、コイツが悪いんだ」
 すぐさまアスナが突っ掛かるが、エヴァの方も悪びれた様子はない。ダメージ自体はそれほどでもなかったのか、顎を押さえていた横島が、すぐさま復活を果たしたので、その場はケンカに発展する事なく収まった。
「て言うか、そんなにそれがイヤなら昨日か一昨日の服じゃダメなのか?」
「そんな不潔な真似が出来るか。それに、どれを着ようとも私の趣味に合わん事は変わらん」
 「茶々丸め、帰ったら覚えていろ……」とぶつぶつ呟き始めるエヴァ。彼女が「こちら」に戻ってくるまで待っている時間もないため、横島がエヴァを抱き上げ、皆でホテルの一階にある喫茶店へと向かう事にする。そこで朝食を済ませるのだ。
 一階に向かうエレベーターの中で、アスナが横島に問い掛けてくる。
「ところで横島さん、今日はどんな仕事なんですか?」
「そう言えば、まだ聞いてませんでしたね」
「現地に到着してからのお楽しみ――と言いたいとこだが、まぁ、いいか。どうせ朝飯食ったらすぐ行くわけだし」
 横島としては、実際に現地に到着してから驚かせたくて、昨日はあえて仕事の内容を皆に伝えなかったのだが、こうして聞かれてしまっては仕方がない。どうせあと少しで知る事になるので、ここで話して驚かせる事にした。

「今日の除霊――いや、捕獲対象はな、ユニコーンだ!

 その名を聞いて、アスナ達は驚きに目を丸くした。エヴァもほぅと小さく感嘆の声を上げる。
 中でも如実に反応したのが夕映だった。
「ユニコーンと言うと、あの伝説の……?」
「そう、そのユニコーンだ。本来、人間界にはもういないんだけど、今日これから行く所に一頭現れたらしい。俺達はそれを捕獲しに行くんだ」
「へぇ、なんかよく分かんないけど、凄いんですか? ユニコーンって」
「何を言うですか、アスナさん! ユニコーンと言うのは……」
「はいはい、それは現地に到着してからな」
 今まで伝説上の生き物とされてきたユニコーンに会えると興奮を隠しきれない夕映を横島が宥める。それと同時にエレベーターが一階に到着した。ここから先はホテルの従業員も一般の宿泊客も大勢いる。そんな中でユニコーンの名を連呼するわけにはいかない。あまり情報を漏らすのは良くないと言うのもあるが、GSにとってはそうでなくとも、一般人にとってユニコーンはあくまでも伝説上の実在しない動物なのだ。下手をすれば自分達が周囲から白い目で見られかねない。
 その事を説明すると、夕映はすぐに理解してくれた。以前、麻帆良でも「魔法使い」と連呼して失敗し掛けた事があるので、同じ過ちは繰り返さない。
「詳しい話は現場に到着してからアル」
「そうね、要するに昨日タヌキ捕まえたのと一緒じゃない。楽勝、楽勝!」
 この時点でユニコーンについて詳しく知らないアスナ達は気楽なものであった。
「ほれ、エヴァもぶつぶつ言ってないで戻って来い。朝飯だぞ」
「ん……ああ、そうだな。ならば、私はプリン・ア・ラ・モードでもいただくとするか」
「……朝からか?」
「悪いか?」
 人間とは異なり、普通の食事は趣味の嗜好品であるエヴァには、言うだけ無駄である。こちらもまた暢気であった。

 一行は喫茶店に入り、何事もなく朝食を済ませる。その後、部屋に戻って荷物をまとめ、チェックアウトを済ませて今日の現場へと向かった。
 元より横島は今日一日で仕事を終わらせるつもりだ。明日から学校と言うのもあるが、それは同時にエヴァに掛けられた呪い『登校地獄(インフェルヌス・スコラスティクス)』が復活するタイムリミットでもある。
 今は麻帆良を覆う結界の外にいるため魔力も復活し自由にしているが、それでも「学校のスケジュールに従わなければいけない」と言う呪いは健在である。ゴールデンウィークが終わるまで――今夜十二時の時点で麻帆良に到着しているのが望ましい。そのためには、時間は少しでも無駄には出来なかった。昨日の宿泊先に、今日の現場に近いホテルを選んだのもそのためなのだ。
 現地の駅に到着した横島は、すぐに依頼主へ連絡を入れる。すると依頼主は直接現場に来てくれと住所を言ってきた。
 その声はどこか焦った様子だ。そこで何かが起きているのかも知れない。横島達は、駅前でタクシーを探すも、田舎であるためか見つからず、走って現場に向かう事になる。
「……仕方ないな、感謝しろよ?」
 横島、アスナ、古菲の三人ならばそれなりのスピードが出るが、エヴァと夕映が加わるとそうはいかない。そこでエヴァは仕方なく、横島達三人の身体能力を魔法でサポートし、また、エヴァと夕映は飛行魔法で走る三人の後を追う事にした。これで車と同等のスピードで現地に向かう事が出来る。

「到着!」
「思ってたより早く着きましたね〜」
「私のおかげだな」
 一行が電話で言われた現場に到着すると、そこには大勢の人だかりが出来ていた。それを見て横島は理解する。おそらくユニコーンが出現したのだろう。
「あ、GSの横島さんですか?」
 人だかりの中の一人が横島達に気付いてこちらに駆け寄ってきた。直接会うのは初めてだが、彼が今回依頼の電話を掛けてきた相手だと言う事が声で分かる。
「誰ですか?」
「今回の依頼者、農協の人だ」
「の、農協、ですか?」
 突然現れた農協の人に、伝説上の生き物であるユニコーンと農協がどう結び付くかが分からない夕映は戸惑うばかりだ。アスナと古菲も同じだ。エヴァだけは予想していたのか「やはりか」と言わんばかりに大きな溜め息をついている。

 アスナ達が人ごみを掻き分けて行くと、確かにそこにユニコーンは居た。
 逞しい白い馬体に、額から生える螺旋状の筋が入った一本の角。その姿はえも言われぬ神々しさを醸し出している。
「キャベツ食べて」
「フンしてるアル」
「女の子がそんな事言っちゃいけません!」
「し、神話とイメージ違い過ぎるです……」
 しかし、その行動は普通の馬と変わらなかった。畑のキャベツをバリバリと食べ、馬糞をボロボロとこぼすその姿に、夕映は少なからずショックを受けたようである。

 そんな中、一人の人物が横島達に近付いてきた。
「やっぱり横島君じゃない」
「え?」
 これには横島も驚きの声を上げる。その声は横島にとって聞き覚えのある声だったのだ。
「ま、まさか……」
 恐る恐る顔を上げ、近付いて来た人物の顔を確認し、そして絶叫を上げる。
「やっぱりいぃぃぃーーーっ!?」
「会うなり何よ、失礼ね」
 その絶叫を、指で耳を塞いで受け流した女性は、横島のリアクションに少し怒った様子であった。
 オールバックの長い髪に、その名の如く、美の女神のような肢体。トレードマークのボディコンではなくコートを着ているが、間違いない。現役ナンバーワンGSにして横島の元上司、美神令子である。
「いやいやいやいや! なんでここに居るんスか!?」
「何でって、仕事に決まってるでしょ。でなきゃ、私がこんな田舎に来るわけないじゃない」
「仕事って、ここ他に何か霊障が?」
 横島がそう問い掛けると、令子は困った様子で肩をすくめた。
 訳が分からず依頼主の方に顔を向けてみると、こちらは何やら申し訳なさそうに頭を下げている。
「……どうやら、二重依頼ってヤツみたいねぇ」
「二重依頼?」
「あんたは、その農協の人から依頼を受けたんでしょ?」
「あ、はい、そうっス」
「こっちは地主の方から依頼を受けたのよ」
 話を聞いてみると、ユニコーンを巡る複雑な事情が関係しているらしい。令子は「まったく、しょうがないわね〜」と言いたげに横島に説明してくれた。それでもどこか嬉しそうに見えるのは気のせいではあるまい。

 夕映が知る伝説のように、ユニコーンは神話の中で美化して語られる事が多いが、本来農家にとっては作物を荒らす害獣なのだ。
 しかし、ユニコーンの角にはあらゆる呪いと病気を治す効果があるために乱獲され、著しく数を減らしてしまった。最近は人間界に滅多に姿を現す事がなくなっている。言うまでもなく、全ては人間の乱獲が原因である。
 そのため、現在は『ヴァチカン条約』と言う法律でユニコーンを保護しているのだが、今回はそれが裏目に出てしまったようだ。
「て言うか、ユニコーンって普通は退治どころか指一本触れる事も出来ませんよね? 俺はオカルトGメンに頼まれて来たんスけど……」
「そう、特別捕獲許可が今日降りるのね。チッ、地主のヤツも、もう一日早く依頼してくれれば!」
 ユニコーンを捕らえるには、特別捕獲許可を得る必要がある。農協から相談を受けたオカルトGメンがそれを申請し、今日捕獲許可が降りる予定であったため、オカルトGメンの前線指揮官にして令子の母である美智恵の依頼を受けて、横島は今日ここにやって来た。
 つまり、依頼主ら現地の人々は、今日まで来ない助けをずっと待ち続けていたのだ。そんな中で個人的にGSを雇うだけの力がある地主が先走ってしまい、特別捕獲許可など関係なしに秘密裏にユニコーンを捕まえてくれるGSを探して辿り着いたのが令子と言うわけである。被害者が「個人」でない場合に、割とある話なのが困りものだ。
「それって、結構ヤバい橋なんじゃ?」
「あんた、あの角の粉末がグラムいくらか知ってる!?」
「え、いや、あんまり」
「シャ○や○ロインの末端価格なんてメじゃないのよ! その金の前にはモラルなんかホワイトアウトしちゃうのよっ!!」
「よーするに、金に目が眩んだって事ですね」
 何とも言い難い動機ではあるが、実に令子らしいと言えるだろう。横島はむしろ懐かしささえ感じていた。
「……でも、もうじき美智恵さんが来ますよ?
 その一言で興奮気味に息を荒くしていた令子の動きがピタリと止まった。流石の彼女も母親は怖いようだ。
 そう、横島の予定では、今日ここで美智恵率いるオカルトGメンと合流してユニコーンを捕獲する事になっていた。横島達が先発してやってきたのは、許可が降りてこなければ出動する事も出来ない美智恵達に代わり、少しでも早くユニコーンを捕獲して農家の被害を減らすためである。最終的に、捕らえたユニコーンをオカルトGメンに引き渡す事が出来れば良いのだ。
 ユニコーンを捕らえるのは難しいが、横島が追い掛け回していれば、それだけでも農家の被害を減らす事が出来る。美智恵はそれも踏まえた上で、横島に先に現地入りするように指示を出していた。
「美神さん、ここはおとなしく退いた方がいいんじゃ?」
「クッ……ん?」
 横島の言う通り、美智恵と鉢合わせになるのは不味い。癪だが、横島の言う通りここは退くべきか、そう考え始めたところで、令子は、横島を取り囲む四人の少女達の存在に気付いた。
「ところで、その子達は?」
「え、ああ、紹介しときます。今ウチで除霊助手をしている――」
「か、神楽坂アスナです! 美神さん、お会い出来て光栄ですっ!」
 ガチガチに緊張した様子で握手を求めるアスナ。無理もあるまい、今でこそ横島の弟子であるアスナだが、そもそも彼女がGSの道を志そうとした原点は、令子に憧れていたからなのだ。一方、令子はその手を握り返し、戸惑いながらも、まるで六女に講義に行った時のようだと感じていた。
「アスナは、来年六女に挑戦するんですよ」
「へぇ、それじゃ霊力も使えるの? 助手やってた頃のあんたより頼りになるんじゃない?」
「い、いえ、私なんて横島さんに比べればまだまだで……」
 にこやかに話し掛けてくる令子にアスナはしどろもどろになるばかりだった。
 続けて横島は古菲の事を紹介する。
「こっちも助手をやってくれてる古菲で、雪之丞と同類っス」
「ム、そこはかとなくバカにされてるように感じるのは気のせいアルか?」
 かく言う古菲も、令子の事は知っていた。現役ナンバーワンGS、一度戦ってみたい相手だ。
 しかし、令子も横島と同じく、そう簡単に戦ってはくれそうにない。横島は「痛いのはいやだ」と言う理由からだが、令子の方は「金にならないから」と言う理由で、横島以上に取り付く島もない。
「んで、こっちの二人が夕映とエヴァ。こっちの二人は助手じゃなくて見学なんで」
「よ、よろしくお願いします」
「GSの仕事を見学したいなんて、なかなか通な趣味してるわね〜」
 アスナと夕映が横島の『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』である事は、色々とややこしくなりそうなので伏せて話を進める事にする。
 夕映は普通に挨拶を済ませたが、エヴァは横島の影に隠れて挨拶もしようとしなかった。元々良い噂を聞いていなかったと言うのもあるが、今回ユニコーンを捕獲に来たのも金のためなので、元賞金首の吸血鬼の真祖としては、警戒せざるを得ないのだ。
「そっちの子は……変な気配感じるわね。もしかして、バンパイア?」
「……隠してて後でバレたら怖いんで白状しますけど、吸血鬼の真祖です。元・賞金首らしいですけど、今はもう賞金は掛かってないんで」
「ふ〜ん、真祖だとしたら、まだ若い方なのかしらね」
 その話を聞くと令子はエヴァに対する興味をなくした。吸血鬼の真祖がどれだけ強いかを彼女は知っている。それと戦うデメリットの大きさと、倒しても賞金は得られないと言うメリットの無さから、下手にちょっかいを出す必要はないと判断したようだ。

「美神さ〜ん、どうしたんですか〜?」
「おキヌ殿、こっちでござるよ! ん、この匂いは……」
 その時、おキヌとシロの二人がこちらに駆け寄って来た。令子も『美神令子除霊事務所』としてこちらに来ているので、除霊助手である二人がここにいるのは当然である。
「あっ、先生!」
「え、横島さん!?」
 二人は令子と一緒に居る横島の姿に気付いた。
「先生ぇーーーっ!!」
「どわっ!?」
 横島の姿を確認したシロが、感極まって飛びついて来た。そのまま彼を押し倒し、その顔をペロペロと舐め始める。
「先生、先生、先生〜! 会いたかったでござるよ〜!」
「や、やめんか、話が進まんわー!」
 ここまで懐かれるのは嬉しいのだが、同時に周囲の視線が痛いため、横島は自分の上でシッポを振るシロを、持ち上げるようにして引き離した。
「アスナさん、指をくわえてどうしたですか?」
「ハッ! いやいやいやいや、何でもない何でもないっ!」
 そんな二人の姿をアスナが羨ましそうに見ていたが、夕映にツっこまれてハッと我に返る。
 一方、古菲はシロのシッポに注目していた。どう見ても作り物には見えない。
「そのシッポ、本物みたいアルが……」
「ああ、こっちも紹介しとくわ。二人ともウチの除霊助手で、ネクロマンサーのおキヌちゃんと、人狼族のシロよ」
「人狼族! 小太郎君やポチ先輩と同じですね」
「なに、あんた達の知り合いにも人狼族がいるの?」
「ええ、隠れ里でなくて人間社会に紛れて暮らしている『狗』って亜種の犬上小太郎って子供と、犬豪院(いぬたけのいん)ポチって人狼族が」
「犬豪院と言えば、愛宕山の人狼族でござるな! 人狼族の中でも、昔から人間との交流が深い文化的な一族でござるよ」
 アスナ達にも人狼族の友人がいると聞き、シロは目を輝かせた。流石に顔を舐めにいったりはせずに、横島の上から立ち上がって、アスナ達と順々に握手をしている。
「横島さん、大丈夫ですか?」
「あ、ああ、大丈夫だよ。おキヌちゃん」
 倒れたままの横島は、おキヌが手を差し伸べて助け起こした。
 こちらには『ネクロマンサー』と『巫女』と言う相反する要素を併せ持つおキヌに疑問を抱いた夕映が質問を投げ掛ける。
「あの、よろしいですか? おキヌさんはネクロマンサーなのに巫女なのですか?」
「え? ああ、これは私の実家が神社だから着てるのよ」
「ああ、そうそう。おキヌちゃんは今、六女の一年なんだ」
「ええ!?」
 横島の言葉にアスナが如実に反応した。「センパイ!」とおキヌの手を握り、キラキラと目を輝かせている。
 こんな状況に慣れていないおキヌは、顔を真っ赤にしてしどろもどろになってしまう。まるで先程のアスナのようだ。
 ここで横島は、更に追い討ちを掛けた。
「ついでに言っちゃえば、楓ちゃんとこの『女華姫直属隠密部隊』が助けようとしてたのって、おキヌちゃんなんだ」
「なんと、そうだたアルか!?」
「よ、横島さはぁ〜ん。て言うか、楓ちゃんって誰なんですかぁ〜?」
 おキヌちゃんはもう勘弁してくださ〜いと涙目だが、その反応が可愛らしくて横島はニヤニヤとするばかりだ。
 実は、令子も例外ではなく、アスナ達とは意外な縁がある。修学旅行中に遭遇した『両面宿儺(リョウメンスクナ)』、平安時代に復活したそれを再度封じたのが『葛の葉』と言う人物なのだが、これが実は令子の前世にあたる。しかし、残念ながら横島はスクナを封じたのが葛の葉だという事実を知らなかった。それを知っているのは、今は京都の空の下の天ヶ崎千草のみである。

「ところで、こうなるとどっちがユニコーン捕まえればいいのですか?」
「一応、正当な権利はこっちにあるんだが……美神さんも引き下がってはくれないんスよね?」
「当たり前でしょ」
 大金が掛かっている仕事なのだ。令子が引き下がるわけがない。
 とは言え、ユニコーンを捕獲する正当な権利が横島にあるのは確かであり、美智恵が到着するまでと言うタイムリミットも存在する。
 何とかユニコーンの角を手に入れるために考え、令子は一つの答えに辿り着いた。これならばきっと上手くいく。我ながら良い考えだ。
 あとは上手く話を持っていくのみ。令子は笑みを浮かべて横島に話し掛けた。

「ねぇ、横島君。ユニコーンの捕獲なんだけどさ……ここはいっちょ、共同戦線といかない?」

 それは横島がよく知る令子の顔。何か企んでいる時の、「実にイイ笑顔」であった。



つづく


あとがき
 ゴールデンウィーク最後にして最大のイベント、美神令子の登場です。
 ゴールデンウィーク中にユニコーンの捕獲の仕事をさせると言うのは当初からの予定だったのですが、この仕事ならば令子と上手い具合に絡めるのではないかと、ゴールデンウィーク最終日に持ってきました。

 なお、古菲が意外と良いスタイルをしていると言うのは原作通りです。
 単行本一巻の三時間目で超より古菲の方がスタイルが良いと言う事になっており、ゲーム版攻略本によると、数字の上でも超より9cm背が低いにも関わらず、スリーサイズはウエスト以外超以上となっています。
 他のクラスメイトと比較しても、低身長組の中ではかなりスタイルの良い方ではないでしょうか。

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