topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.07
前へ もくじへ 次へ


 時間は前後するが、横島が五人の女子中学生メイドに囲まれて、ある意味ウハウハになっている頃、ネギは懐中電灯を片手に自主的に見回りをしていた。
 職員会議では大停電中は外出を控えるようにと言われていたが、エヴァが闇夜に乗じてまた悪さをするのではないかと考えると、いても立ってもいられなかったのだ。アスナの帰宅が遅れていた事で、彼の不安が煽り立てられていたのも否定できない。

「兄貴〜、大変だぁ〜!」
「あれ、カモ君。どこに行ってたの?」
 一人で見回りを続けていると、今日一日姿の見えなかったカモが慌てて駆け寄ってくる。
 足元まで来たカモを抱き上げると、彼は焦った様子でまくし立てた。
「兄貴は感じねぇのかよ、この強烈な魔力をよ! 俺っちのしっぽにビンビン感じやがるぜ!」
「魔力…まさか、エヴァンジェリンさん!?」
「間違いねぇ、あんにゃろ闇夜に乗じて動き出しやがった! 真っ直ぐ、こっちに向かってるぜ!」
「えぇっ!?」
 慌てて辺りを見回すと、月の輝きの中に一点のシミのようなものが見えた。
 何かと目を凝らしていると、それはどんどんと大きくなっていく。
「兄貴、ありゃ真祖だ! 空を飛んできやがったッ!!」
「…ッ!」
 そう、月の光を背にネギを目掛けて急降下してきたのは茶々丸と、その背に乗ったエヴァ。
 足のバーニアを噴かした茶々丸のスピードは凄まじく、ネギが行動を起こす前に彼女は大地を抉りつつも、しっかりと両の足で着地した。
 メイド服に身を包み、エヴァを背負ったままの姿はどこか滑稽だが、彼女の放つ威圧感はそれを笑うことを許さない。
「驚いたか?」
 背負われていたエヴァが茶々丸の背後から姿を現した。その笑みを浮かべた表情はどこか自慢のオモチャを見せびらかす子供のようにも見える。
「フフフ、科学技術の進歩と言うのは素晴らしいな。人間を越えた力を持つロボットが、私の魔力と合わさることでの最強の『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』が完成する」
 今の茶々丸は、霊的な力を持たぬ鋼鉄の身体を、全開状態のエヴァの魔力で強化しているのだ。距離をつめての戦いにおいては、パワー、スピード共にマスターであるエヴァを凌駕している。
 一目見て理解できる。今のネギに勝ち目は無い。
 その圧倒的な力量差に足が震えだすネギ。カモは慌てて彼の肩まで駆け上がると、耳元でエヴァ達には聞こえないようにそっと囁いた。
「兄貴、ここは退くぜ!」
「で、でも…」
「真祖の魔力が全開でも、『登校地獄(インフェルヌス・スコラスティクス)』は健在のはずだ。ヤツは学園都市からは出られない」
 躊躇するネギ。尻尾を巻いて逃げるのが嫌なのだろう。
 まだ子供である彼には、「退く」ことと「逃げる」ことの違いを理解するのは難しい。
 しかし、このまま真正面からぶつかったとしても、勝ち目は無いのだ。カモも簡単には引き下がらない。
「忘れちゃいけねぇぜ、真祖は自分でも言ってたが兄貴の血を吸うまで呪いは解けないんだ。血を吸われない限り、兄貴の勝ちなんだよ!」
 言葉を選びながら説得するカモは必死の表情だ。
 下手をすれば自分の命も危ないので当然のことだろう。
「それに、魔力の封印解除だっていつまでもやってられるもんじゃねぇ。時間を稼げば、真祖の魔力だって元に戻るはずだ! そしたら、ロボの姐さんだって、ただのロボに戻る!」
「…わ、わかったよ。カモくん」
 ネギの返事を聞いてニヤリと笑うと、愛用しているイギリスの老舗メーカー、ダンヒル製のローラガス・ライターと学校の理科室から持ち出したマグネシウムのリボンをどこからともなく取り出すカモ。
 それに合わせて、ネギは振り返りざまに杖に跨り飛び立った。肩のカモは置き土産とばかりにマグネシウムに火を付けて放り投げる。すると、すぐさま激しく燃焼したマグネシウムが強烈な光を放った。
 背を向けていたネギ達に影響はないが、エヴァ達はその光の直撃を受ける。咄嗟に腕で目を庇うも、その隙にネギは飛び去ってしまった。

「ふむ、悪くない手だ。良い助言者を見つけたな、ぼーや♪」
 しかしエヴァの表情に焦りは見えない。
 むしろ、ここで冷静に退いたネギに感心している。
 もしここでがむしゃらに突貫してきたら、それこそ軽く返り討ちにして死ぬまで血を戴いていたところだ。
「では、少しぼーやに付き合ってやるとするか」
 目をこすりながら笑うエヴァ。
 腕を胸の前に交差させると、コウモリの形をした魔力が集り巨大なマントを形作っていく。
「マスター、私が飛んだ方がスピードがありますが?」
「それではぼーやを轢き殺してしまうだろう? 久々に飛べるんだ。夜空の散歩と洒落込もうじゃないか」
「…お付き合いいたします、マスター」
 茶々丸は恭しく一礼をし、そして二人は夜空へと飛び立つ。
 完璧な主従関係がそこにはある―――

「…マスター、停電の間しか封印は解除されない事を覚えておられますか?」
「やっぱり空を飛ぶのはいいな〜♪ ん、何か言ったか?」
「いえ、何も」

―――とは言い切れなかった。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.07


 ゆるりと、それでもかなりのスピードで追いかけるエヴァ。追いかけられる側のネギ達は焦るばかりだ。
「兄貴、学園都市の端まで逃げるんだ! そこなら、ヤバくなったらすぐ外に逃げられる!」
「わかったよ!」
 ネギも杖で飛ぶスピードにはそれなりの自信があった。
 懐からネギの趣味、アンティーク魔法道具コレクションの一つである魔法銃を取り出し、時折放たれるエヴァの魔法を迎撃しながら暗闇に沈む学園都市を疾走する。まるで映画のような光景ではあるが、本人達はそれどころではない。

「アハハハ! 本当によくやるじゃないか、あのぼーや♪」
 実に楽しそうな笑い声だ。
 久々に全開で魔力を行使できると言うのもあるだろうが、その行使する対象であるネギが予想外に善戦しているのが嬉しいのかエヴァは無邪気な笑顔を見せている。やはり、あっさりと終わってしまうと面白くないのだ。
 アスナだけでなくまき絵達四人も横島の方に向かわせたのは正解だったとエヴァは感じていた。
 いかに吸血鬼化していたとは言え、空も飛べない四人が一緒では、このスピードで戦うことはなかっただろう。もっとあっさりと決着が付いていた可能性が高い。

 横島がアスナ達五人の洗脳を解いたのは、丁度その頃だった。
 自分の掛けた洗脳術が解かれたことをエヴァは感じ取る。
「…ムッ、横島め。どうやったか知らんが五人の洗脳を解いたようだ」
「いかがいたしますか?」
「仕方ないな、そろそろ決着を付けるぞ。ヤツはおそらく吸血鬼化した五人を見捨てんだろうが、こちらに来る可能性もゼロではないからな」
「了解しました。ネギ先生はあの橋へ降りるようです」
 茶々丸の指差す先には、学園都市と外部を繋ぐ橋に降り立つネギの姿が見える。
 その場所を見てエヴァは舌打ちをする。彼女にはネギ達の意図が手に取るように分かった。ネギが学園都市の端まで逃げることで、いつでも結界の外に逃げ出せると言う保険を掛けてエヴァと戦おうとしているのだ。
 エヴァにとって不利なのは確かだが、それ以上に保身に走った作戦をとったネギに軽く失望を覚えていた。仮に自分がネギの立場であれば、逃げながらでも攻めの一手を打っていたはずだと。
「意外にセコい作戦じゃないか」
 所詮は子供、この程度かとエヴァ達も橋の上に降り立とうとしたその時。

「茶々丸、避けろッ!!」
「ッ!?」
「超必殺・漢魂(オトコダマ)ッ!!」

 エヴァ達の背中目掛けて、野太い大声と共に気の一撃が放たれた。
 いち早く気付いたエヴァは回避に成功するが、茶々丸が背中に漢魂の直撃を受ける。

「よっしゃ、直撃ぃ!」
「待たせたな、ネギ君!」
「え? え?」
 ガッツポーズのカモに対して状況が理解できないネギ。
 橋の上で仁王立ちするその姿はもちろん豪徳寺薫だ。ネギとでエヴァ達を挟み込むような位置に立っている。

 これがカモの最後の切り札だった。
 ネギがいつまで経っても豪徳寺に事情を説明しに行こうとせず、アスナの邪魔をしたくないと横島に対しても協力を要請しようとしなかったため、しびれを切らしたカモが自らコピーの仮契約カードを持って豪徳寺の元に赴いたのだ。つい先程の話である。
 カモの予想通り、豪徳寺は二つ返事で従者としてネギと共に戦う事を了承してくれた。即決だったが、これは魔法使いとは違うが一般人から見れば十分非日常の住人である横島と知り合ったばかりだと言うのも影響しているのだろう。

 そして、脚色交じりでネギの事情を説明している内に大停電が始まってしまい、カモはそれと同時に発生した強大な魔力に身を震わせる。
 真祖が動き出したのだと感じたカモはすぐさま一計を案じ、先に豪徳寺をこの橋に移動させ、更にネギをここまで誘導する事により、逃げるネギ、追うエヴァ、そして待ち伏せする豪徳寺という構図を作り出したのだ。
 彼が動くのが一日遅れていたら、ネギは本当に一人でエヴァ達と戦う事になっていただろう。

 しかし、待ち伏せされていたにも関わらず、呟くエヴァはやはり平静を保っている。
 攻撃が来た方に視線をやると、そこには立派なリーゼント。
 ネギとリーゼントを見比べて、フムとしばし考えること数十秒。
 やがて、一つの結論に辿り着いたエヴァはポンと手を打ちネギを見据えた。

「若い身空でそういう趣味に走るとは感心せんな」
「事故ですっ!」

 しかし、その結論は的外れだった。

 閑話休題。

「それにしても、いつの間にか従者を見つけていたか…だが、あの様子を見るに仕組んだのはあの助言者のようだな。やるではないか、下等生物の分際で」
 茶々丸もさほどダメージはないようだ。何事もなかったように立ち上がって服の汚れを掃っている。
 彼女の身体がエヴァの魔力で守られていると言うのもあるが、あくまで一般人の域を超えていない豪徳寺の気では力不足なのだ。
 例え子猫が二匹に増えたとしても、一頭の獅子には敵わない。つまりはそういう事だ。

「茶々丸、私はぼーやとダンスの時間だ。あちらの招かれざるゲストには丁重にお帰りいただくように」
「承知いたしました。ご武運を」
 一礼して豪徳寺に向き直る茶々丸。その姿に隙はなく、実力差は歴然だ。
 しかし、彼は怯まずにポケットから一枚のカード、彼自身の姿が描かれた仮契約カードを取り出した。

「女を殴るのは趣味じゃないんだが…子供の命が掛かっているとなるとそうも言ってられんでな!」
「さぁ、豪徳寺の兄さん、さっき教えた通りに呪文を唱えるんだ!」
「応っ! 来れ(アデアット)!!

 その言葉と同時に仮契約カードが光を放った。
「…?」
 しかし、光が収まっても豪徳寺の手にアーティファクトらしきものは無い。
 興味があったためそちらを見ていたエヴァは疑問符を浮かべ、茶々丸はセンサーで周囲に不審な物体がないかを調べ始める…が、それらしき物は発見できない。
 二人が戸惑っているうちに先手必勝とばかりに茶々丸に向けて駆け出す豪徳寺。
 しかし、やはり一般人である彼のスピードは彼女から見れば大した事がない。彼自身の攻撃では自分では傷付かないと確信していた茶々丸は姿の見えぬアーティファクトの奇襲を警戒していた。
「避けろ、茶々丸!」
「!?」
 真っ先に違和感に気付いたのはエヴァだった。
 茶々丸が彼女の声を聞いて慌てて豪徳寺に視線を戻すが、時既に遅し。

「漢気パンチッ!」

 有り得ないスピードまで加速した豪徳寺が一瞬にして眼前まで迫る。
 気を込めた拳が茶々丸の頬に突き刺さり、彼女の身体を軽々と吹き飛ばした。
 スピードに乗っていた事もあるが、明らかに先程よりも強力な気が込められている。破壊力が段違いだ。

「す、すごい…」
 突然の展開について行けていないネギが呆然と呟いた。
「くぅ〜、やっぱ豪徳寺の兄さんは漢だぁ! 俺っちの見込んだ通りだぜ!」
 対照的に興奮気味に叫ぶのはカモ。
 夕方に事情を説明していた時にあのアーティファクトを見ていたのだが、想像以上に彼との相性は良いようだ。
「兄貴! あのロボは任せて兄貴は真祖との戦いに集中するんだ!」
「うん、わかったよ!」
 力強く答えて杖を握りなおすネギ。「勝てるかもしれない」そんな思いが彼の中で芽生え始めていた。

「足音が妙だと思ったら…」
「下駄、でしょうか?」
 モーター音を響かせながら起き上がった茶々丸が見てみると、豪徳寺の足元が下駄になっている。先程まで彼が立っていた位置を見てみると、靴と靴下が揃えて置いてあった。彼女達が気付かなかっただけで、彼は最初から靴を脱いで裸足だったのかも知れない。
 漢の血と汗が染み付いた高下駄、それが豪徳寺のアーティファクトなのだろう。これで弊衣破帽なら由緒正しい『蛮カラ』である。
 エヴァは下駄の奏でる独特の足音に気付いたのだろう。西洋人形を彷彿とさせる外見とは裏腹に日本文化を好む彼女ならではだ。

「その姿形はまさに時代の遺物だな。私がこの地に来た時には既に絶滅危惧種になっていたはずだが」
 十五年間学生を続けているエヴァならではの感慨である。
 そう言いつつもエヴァの目は冷静に豪徳寺のアーティファクトを分析していた。
 彼が身に纏う気の量が先程より明らかに増えている。下駄を履くと「気合が入る」とでも言うのだろうか。あの下駄には気を強化する能力があるのだろう。
 そして、もう一つ。
「気を付けろ、茶々丸。先程の加速もおそらく…」
「あのアーティファクトですね」
 そう言って構える茶々丸。頬の多少の損傷があるが、戦闘への影響はなさそうだ。
 故に、エヴァはたった一つの台詞を口にするだけで全てが事足りる。

「やれるな?」
「お任せ下さい」

 視線は豪徳寺を見据えたまま、しかしハッキリとした口調で答える茶々丸。変わらぬ表情のはずだが、その瞳にはどこか力強さが感じられた。
 茶々丸に任せておけば何の心配もいらない。満足気に頷いたエヴァは、豪徳寺の事は頭の隅に追いやってネギに向き直った。

「待たせたな。さぁ、こちらも始めようか…」
「その前にちゃんと約束してください。僕が勝ったら悪い事は止めて、ちゃんと授業にも出るって」
「…フフッ」
 エヴァとしてはネギを怖がらせてやろうと思っているのだが、眉を吊り上げて自分を見据えるその姿に、クスリと思わず笑みがこぼれてしまう。
「何がおかしいんですかっ!?」
「いや、あまりにも可愛らしくてな…随分と強気じゃないか、助けが来てくれてやっと一安心と言ったところか、ぼーや?」
「バッ、バカにしないで下さい!」
 顔を真っ赤にして怒るネギ。
 この程度の挑発に乗ってしまうあたりが実に可愛らしい。

「貴様の要求を通したければ力づくで来い。私が生徒である事は忘れて、本気を出すことだ」
「…言われなくても! 契約執行(シス・メア・パルス)…!」
「言い忘れていたが、気と魔力は相殺し合うから、素人が同時に使うのは難しいぞ」
「ッ!?」
 エヴァの鋭い一言に詠唱が止まってしまう。
 確かに、ネギは豪徳寺をサポートするために、彼に魔力を送ろうとしていた。
「せっかくいい勝負になっているんだ。台無しにするような真似はしないでくれよ?」
 フフンと鼻で笑うエヴァ。

 彼女の言う通り、肉体活動を行うためのエネルギーである『気』と精神活動を行うための『魔力』、正確には『魔法力』と言うのだが、この二つのエネルギーは互いに相反する性質を持っているため、同時に使う事が難しい。
 ちなみに、この分類上においてGS達霊能力者が使う『霊力』と言うのは二つのエネルギーのより根源的な力、『生命力』であると言われている。
 つまり、『気』と『魔法力』は『生命力』から分岐したもの同士であると同時に、互いは繋がっていない。一つの身体から生まれながら互いに相反する理由はそこにあるのだ。

 これはネギの勉強不足であり、反論の余地は無い。
 ネギは杖を構え直してエヴァに向き直った。
「あちらは気にするな。他に気を取られながら勝てるほど、私は甘い相手ではないぞ?」
「そんな事…言われなくても分かってます!」

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!」
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!」

 二人の魔法始動キーが二重奏を奏でる。
 しかし、そのテンポはエヴァの方がわずかに早い。

「食らえ! 魔法の射手、氷の十七矢(サギタ・マギカ、セリエス・グラキアーキス)ッ!!

「ううっ…魔法の射手、連弾・雷の十七矢(サギタ・マギカ、セリエス・フルグラーリス)ッ!!

 一足先に完成し放たれたエヴァの魔法を、遅れて完成させたネギの魔法が目前まで迫ったそれを迎撃する。
 迎撃自体は成功したのだが、至近距離で互いにぶつかり合った魔法が炸裂しネギは体勢を崩してしまった。
 しかし、エヴァはその隙を突くようなことはせず、立て直したネギの詠唱に合わせて、それでいて少し早いタイミングに魔法を完成させる。どうやら、とことん魔法を撃ち合うつもりのようだ。

「ハハ! 少し時間が掛かり過ぎじゃないか? 闇の精霊、二十九柱(ウンデトリーギンタ、スピーリトゥス・オグスクーリー)! 魔法の射手、連弾・闇の二十九矢(サギタ・マギカ、セリエス・オブスクーリー)ッ!!

「あうえっ、に、二十九人!? クッ…光の精霊、二十九柱(ウンデトリーギンタ、スピーリトゥス・ルーキス)! 魔法の射手、連弾・光の二十九矢(サギタ・マギカ、セリエス・ルーキス)ッ!!



「なんじゃあいつらは…GSだってもう少し慎ましく戦うぞ」
 二人が魔法を撃ち合っている場所から少し離れた場所では、ようやく戦いの場に辿り着いた横島達が身を隠しながら様子を伺っていた。
 辿り着いたはいいが、流石に派手に魔法を撃ち合っている最中に飛び込む気にはなれない。
 何より吸血鬼化したとは言え少女達が怪我をするような事態は、どうしても避けたかったのだ。

 ネギ達の戦いが派手なのは、行使している力が『魔法力』だからだろう。
 『魔法力』は元来、身体の外部への影響力が強い力だ。そのため、他の二種の力と比べて『撃ち出す』事に向いている傾向がある。その上、魔法とは『魔法力』を以って自分以外の精霊等を召喚し、その力を借りて行使するのだ。極めて身体外部で力を発揮するのに特化した技術だと言える。
 逆に『気』などは身体能力の強化など身体の内部への影響力が強い。しかし、これは傍目には見ることができないものなので、客観的な派手さに関しては『魔法力』に軍配が上がるのだ。

「ネギ君、すご〜い」
「なにあれ、魔法ってヤツ?」
 まき絵と裕奈達の反応を見てアスナは頭を抱えていた。
 アキラと亜子は呆然としており、古菲は魔法の事は知らないはずだが横島の事を知っているのでさほど驚いた様子は無い。むしろ茶々丸と豪徳寺の戦いの方が気になるようで、そちらの戦いを見ている。

「あ、あの、横島さん…魔法使いの事はバレちゃいけないんじゃ?」
「そうなんだが…エヴァを探してたらネギと魔法撃ち合ってましたなんて、普通考えんだろ」
 横島的には茶々丸と豪徳寺の戦いも気になる。
 茶々丸が強いことは知っていたが、今の彼女は段違いの強さを見せており、一般人であるはずの豪徳寺がその彼女とまともに撃ち合っているのだ。
「豪徳寺のヤツ、どんな魔法を使いやがったんだ?」
「夕方の強さとは段違いアル」
「! まさか、豪徳寺さんも吸血鬼化してるんじゃ!?」
「くぅぅっ、エヴァにカプっとやられたのか、何て羨ましい!
「「うらやましい?」」
 思わず本音が出てしまった横島に、アスナと古菲の視線が突き刺さる。
 横島は慌てて誤魔化した。
「あ、いや…多分だが、それはないと思うぞ」
「どうしてわかるんですか?」
「ありゃ魔力じゃなさそうだ。古菲の使ってる気だと思う」
 古菲も気ではないかと考えていたらしく、横島に同意した。アスナも納得したようで彼等の戦いに目を向け、そして横島は何とか誤魔化し切ったことに安堵して冷や汗をぬぐっていた。


 ネギ達ほど目立ってはいないが、豪徳寺の戦いも激しさを増していた。
 再び茶々丸目掛けて突撃するが、彼女はジャンプしてそれをかわす。
 そして、上から見下ろすことで豪徳寺の加速の正体を見切った。

 やはり、加速の正体は下駄のアーティファクトだった。
 下駄の裏面から気を噴出する事により、それがバーニアの役割を果たして彼を加速させていたのだ。これも特性の一つなのだろう。
 加速スピードは速いが、原理さえ分かれば対処のしようはある。何より、茶々丸自身も足にバーニアを搭載しているのだ。弱点は誰よりも熟知していた。

 一度着地した茶々丸は、再び突撃されるのを待って、今度は避けると同時にバーニアを噴かせて空中で静止する。
 豪徳寺は一度加速すると小回りが効かないらしく、茶々丸が居た位置を通り過ぎ、少し離れた場所まで行ってから足を止めると、自分も負けじと下駄から気を噴かせて空中に躍り出た。

「…あの、私の経験から忠告いたします」
「なんだ、唐突に」
「足元のバーニアだけですとバランスを取るのは非常に難しいと思われます」
 言い終わる前に豪徳寺はバランスを崩して落ちてしまっていた。
 そのまま顔面から橋に墜落するのを見届けた彼女は、ポツリと「びくとりー、です」と呟いた。
 従者同士の戦いは、茶々丸の勝利に終わったようだ。


 そして、ネギとエヴァの戦いもまたクライマックスを迎えていた。
 エヴァの強さに驚きながらも、ネギはこのまま撃ち合っていても決着は付かないと判断し、現在使える最も強力な魔法で勝負しようと残り少ない魔法力を振り絞った。
 最後の一撃が来ると感じたエヴァも、同種の魔法をぶつけてやろうと詠唱を開始する。

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 来れ雷精、風の精(ウェニアント・スピリトゥス・アエリアーレス・フルグリエンテース)!」

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック! 来れ氷精、闇の精(ウェニアント・スピリトゥス・グラキアーレス・オブスクランテース)!」


「あいつら、あの一撃で勝負を決める気か!?」
 ネギとエヴァの周囲に今までにない強大な力が集まっているのを感じた横島は二人が最後の一撃を放とうとしている事を察し、それと同時にこれはチャンスだと感じていた。
「よし、あの魔法を撃ち終わった直後がチャンスだ、皆で一斉に飛び掛るぞ!」
「ええ! ホンマにやるんですか!?」
 悲鳴のような声を上げる亜子に、横島は「俺も援護するから」と元気付ける。
 アスナと古菲はもちろんのこととして、まき絵と裕奈は既にやる気満々である。アキラも橋に到着するまでに朝日を浴びると灰になってしまうと聞いていたので、既に覚悟を決めていた。


「雷を纏いて吹けよ南洋の嵐(クム・フルグラティオーニ・フレット・テンペスタース・アウストリーナ)ッ!!」

「闇夜を従え吹けよ常夜の氷雪(クム・オブスクラティオーニ・フレット・テンペスタース・ニウァーリス)ッ!!」


「よし、行くぞ!」
 『護』の文珠を発動させて、先頭に立って駆け出す横島。
 アスナ達も同時に駆け出し、亜子が少し遅れながらも後に続く。
 一足早く戦いを終えていた茶々丸がそれに気付いたが、いきなり現れた横島達に驚いて一瞬反応が遅れてしまった。
 その一瞬の内に二人は魔法を完成させる。


「雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)ッ!!」

「闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)ッ!!」


 今までにない強大な魔法同士がぶつかり合う。
 奇しくもネギ達を挟んで横島達とは反対側にいた茶々丸は魔法の余波のために横島達を止めに向う事ができなくなり、エヴァに注意を促そうと叫ぶが、それも轟音のためにエヴァの耳には届かない。

 当初はエヴァの方が押していたが、ネギがくしゃみと同時に魔法力を暴走させて双方の魔法が大爆発を起こした。
 ダメージはエヴァの方が大きかったらしく、彼女は橋に叩きつけられてしまう。

 アスナ達が膝をついたネギの脇を通り過ぎたのは、丁度その時だった。
 ここに来てエヴァも彼女達の接近に気付く。洗脳が解かれていた事に気付いてはいたが、こういう行動に出るとは流石のエヴァも予想外だ。
 しかも、今は強力な魔法を行使して集中力が途切れている。魔法で迎撃するのは不可能だ。
「クッ…! 洗脳を解いたところで! 我が下僕達よ! 横島を止めろッ!」
 そう、エヴァに噛まれて吸血鬼化した者達は彼女の魔力によって支配されているのだ。
 意識はエヴァに向おうとしているのだが、身体が勝手に動いてしまいしがみつかれて横島は押し倒されてしまう。

 アスナとまき絵の二人によって。

 古菲はもちろんのこと、裕奈達三人の足は止まらなかった。
「なっ…しまった!」
 忘れてはならない。噛まれて吸血鬼となった者達は、直接的には自分を噛んだ吸血鬼に支配される。
 エヴァは裕奈達は噛んでいない。彼女達を吸血鬼にしたのは他ならぬ佐々木まき絵だ。
 その事に気付いた横島は、事前にまき絵に命令をさせていたのだ。マスターであるまき絵が足を止めても裕奈達は止まるなと。
 気付いた時には既に遅し、エヴァは四人に取り付かれてしまった。

「は、離せ!」
 そう言われて離す者はいない。彼女達だって命が掛かっているのだから。
「エヴァちゃんゴメンねー」
「あの、痛くしないから」
「血ぃ見るのはイヤなんやけど…」
「い、いや…」

 そして三人は一斉にエヴァに噛み付き、真祖の悲鳴が響き渡った。

「あ、牙が取れた!」
「私も!」
 互いに歯を見せ合って喜ぶアスナとまき絵。
 少し離れたところでは同じように裕奈達が肩を寄せ合って喜び合い、エヴァは真祖として噛み付かれたのがショックだったのか膝を抱いてシクシクと泣き始めてしまったので茶々丸と古菲があやしている。
 ネギは橋に墜落していた豪徳寺を助けに向ったが、彼は意外と丈夫で既に起き上がっていた。真祖と魔法を撃ち合い続けてもまだ動けるネギもそうだが、豪徳寺も中々にタフである。

 そして、横島はと言うと―――

『女子中学生メイド・集団キャットファイト Vol.1』

―――裕奈達がエヴァに飛び掛ったあたりから、鼻息を荒くしてハンディカムを回し続けていた。

「なに怪しげなDVD作ってるんですかーっ!?」
「ああっ!?」

 それに気付いたアスナが、既に魔力の輝きを失った神通棍で突っ込みを炸裂させる。
 データはそのまま彼女が没収してしまったようだ。



つづく



あとがき
 毎度のことですが…、
 『気』『魔力(魔法力)』『霊力(生命力)』の関係についての設定は『黒い手』シリーズ独自の物です。
 まだ解説してない部分もありますが、それはまた後々の話で。

前へ もくじへ 次へ