topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.123
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 レーベンスシュルト城の本城から迫り出した眺めの良いテラス。人が集まればパーティ会場のように賑わう場所だが、今は横島とカモの姿しかなかった。横島は中央部分で落ち着き無くうろうろと歩き回っており、カモはテーブルの一つの上からその姿を眺めている。
「兄さん。もっと落ち着いて、でんと構えましょうよ」
「そうは言ってもな……」
 カモが呆れた様子で声を掛けるが、横島はカモに視線を向ける事なく歩き回り続ける。さっぱり落ち着いていない。
 それも仕方がないだろう。これから裕奈が、仮契約(パクティオー)するために――つまり、横島とキスをしにやって来るのだ。緊張するなと言う方が無茶な話である。
「でも兄さん、これで六人目の従者でしょ? もう百戦錬磨のベテランじゃないっスか」
「んな訳ないだろ。そう簡単に行くか」
 アスナ、夕映、古菲、千鶴、千雨と、既に五人の『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』がいる横島。彼女達の唇を奪ってきた事は確かだが、だからと言ってベテラン呼ばわりはいささか心外であった。
「俺なんざ、振り回されっぱなしだっつーの」
「そうかなぁ……」
 横島の反論にカモは納得いかない様子で首を傾げるが、当の横島にしてみれば、それが偽らざる気持ちである事は間違い無い。
 この期に及んで自分がもてないなどと言うつもりはない。麻帆良に来てからと言うもの、女性との縁が増えた。今や数十人の美女、美少女と一つ屋根の下に暮らす立場にあり、うはうはだ。
 だからこそ、今の美味しい立場を失いたくないと言う願望が生まれてくる。勢い任せに下手な事をして、彼女達に嫌われたくないのだ。成功したものは、その成果を守るために守勢に入ると言うが、今の横島は正にその状態だと言える。
「でも、流石に失敗はしないだろ? 手慣れてんだから、ここはやさ〜しくリードして……」
「いやいや、無理無理。特に千鶴ちゃんとかすごくてなぁ」
「ああ、それはなんとなくイメージ出来る」
 テラスに来た事で千鶴と仮契約した時の事を思い出したのか、横島の表情が緩む。
 カモも、彼女がすごいと言う事に関しては納得であった。
「て言うか、そろそろ来るんじゃねえか? いつまでもそんな顔してちゃダメだぜ」
「おっと」
 にやけた表情をした横島を、カモがたしなめた。
 「仮契約コーディネーター」を自称するカモとしては、仮契約が上手く行くように力を尽くさねばならない。にやけた顔をしている時に裕奈がやってきて、やっぱり仮契約を止めると言われる訳にはいかないのだ。もっとも横島の場合、裕奈がテラスに現れれば瞬時に表情を切り替えるぐらいの荒業を見せてくれそうな気もするが。

 一方その頃別棟の方では、自室で準備を整えた裕奈がようやく一階のサロンに降りて来ていた。
「うわっ、気合い入ってる〜っ!」
 裕奈の姿を見て、サロンで待ち構えていた面々からわっと歓声が上がる。
 可愛らしくも清潔感のある明るい色合いのキャミソールワンピースに、開いた胸元を大きな星を象ったネックレスで飾っていた。足下もいつもより少しヒールが高めのパンプスを履いている。更に、派手にならない程度にうっすらとメイクもしていた。そのままデートに行けてしまいそうなぐらいの気合いの入れようだ。
 入浴したばかりなので、髪が微かに湿り気を帯びてしっとりしているが、これはこれでいつもとは違う雰囲気を醸し出していた。
「へ、変じゃないかな?」
「……うん、大丈夫。横島さんも、きっと可愛いって言ってくれるよ」
「そ、そうかな……」
 恥ずかしいのか、もじもじしている裕奈を、アキラが笑顔で励ます。
 その隣で千雨も、横島ならばきっと可愛い、可愛いと連呼するだろうなと考えていた。二人ともゲームの中で実際に言われた事があるのでよく分かる。横島は、本心からそれを連呼するのだ。
「それじゃ、いってらっしゃーい」
「うん、それじゃ行ってくる……って付いて来てくれないの!?」
「え? だって、二人きりの方が良いって」
「いや、その、なんて言うか……ここからテラスまでって、結構距離あるし」
「あー……」
 しどろもどろな裕奈だが、一同はその一言で理解した。
 非常に良い環境と皆に評されているレーベンスシュルト城だが、実は一つだけ問題がある。
 それは、レーベンスシュルト城自体が、非常に大きいと言う事だ。あまりにも大きいため、別棟から外に繋がるゲートタワーへの直通ゲートを新たに設置したぐらいである。別棟を出て、中庭を通って本城に入り、更にテラスまで上っていくとなると、数分掛かるだろう。
 たかが数分と言ってしまえばそれまでだ。現にここに住む住人達は、テラスへ行く際毎回その数分の道程を歩いている。横島が一緒の時は誰が手を繋ぎ、腕を組み、或いはおんぶしてもらったり肩車してもらったりするかが話題になるぐらいの余裕があった。
 だが、今の裕奈はそうはいかない。緊張で胸は高鳴っており、この状態のままテラスまで一人っきりで行くなど耐えられそうになかった。
「でも、仮契約する時は二人っきりがいいんだよね?」
「テラスに入る直前まででいいからっ! ……だめかな?」
 手を合わせて拝むように頼む裕奈。おしゃれしていても、この辺りは変わらない。いや、ようやく普段通りの彼女が見えたと言うべきだろうか。
 なんとなくその姿に安心してしまうアスナ達。しょうがないなと苦笑しながらも、裕奈と一緒にテラスに行く事を決めるのだった。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.123


 手前の階段でアスナ達と別れた裕奈がテラスを覗き込むと、テーブルの一つに着く横島と、そのテーブルの上にいるカモの姿が見えた。何か話しているようだが、裕奈のいる所までは声が届いていない。
 こうして横島の姿を眺めているだけでもドキドキが止まらない。やけに彼の顔、いや唇が近くに見えるような気がする。初めてじゃないのに、これからキスをすると考えると、ぎゅっと握った手の平がじんわり汗ばんできていた。
「お、お待たせ〜」
 勇気を振り絞り、駆け足で横島に近付くと、裕奈は普段の彼女からは想像も出来ないようなか細い声で話し掛けた。
「………」
「………」
 その声に振り返った横島だったが、テーブルの上のカモと一緒に絶句し、返事を返す事が出来ない。普段から見慣れているはずの裕奈。そんな彼女がおめかしした姿に、思わず見惚れてしまっている。
 裕奈の方もその視線に気付き、もじもじとし始めた。
「そんなジロジロ見ないでよ〜」
「す、すまん。でも、すっごく可愛いぞっ!」
 上目遣いでチラチラと見ながら抗議する裕奈に対し、横島は表情を輝かせ、親指を立てて返した。そう返されると裕奈は更に恥ずかしくなり、顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 そんな初々しい裕奈と、いつも通りの横島をよそに、カモはいそいそと仮契約の魔法陣を完成させてしまった。こちらもいつも通りである。
「さぁ、準備は完了だ!」
 その言葉と共に魔法陣が光を放つ。横島と裕奈は、その光でいつの間にやら魔法陣が完成している事に気付いた。
 裕奈は、いよいよなんだと息を呑む。
「それじゃ、後はごゆっくり。あっしは別棟のサロンで待ってまさぁ」
 そう言ってそそくさと去って行くカモ。
 テラスを出て、少し歩いたところでアスナ達と会った。流石にテラスの様子を覗いて窺う気にはなれないが、かと言って放ってサロンに戻る気にもなれずに、こうして仮契約が終わって二人が戻ってくるのを待っているらしい。
 せっかくなので、カモもアスナ達と一緒に待つ事にする。

 そして、テラスに残された横島と裕奈はと言うと、こちらは光る魔法陣の前に二人並んで立っていた。
「……いいんだな?」
 神妙な面持ちで尋ねる横島に、頬を紅潮させた裕奈はコクンと頷いて応えた。
 仮契約するためにここまで来たのだ。今更後には退けない。
「よし、やるぞ」
 先に横島が魔法陣の中に入り、裕奈に手を差し伸べる。裕奈はその手を取ると、続けて魔法陣の中に入った。風が吹いている訳でもないのに、ワンピースの裾が軽やかに翻る。光が裾を持ち上げようとしているのだろうか。
「ん……」
 魔法陣から溢れ出す魔法力の奔流に刺激され、裕奈は思わず声を漏らした。
 しばし目を瞑り、無言でその刺激に耐えていた裕奈だったが、やがてその目を開いて不思議そうに首を傾げる。
「……あれ?」
「どうした?」
「いや、魔法陣の中ってどんな感じなのかな〜って思ってたけど」
「けど?」
「これなら、にいちゃんに霊力供給してもらってる時の方が、もっとドキドキするかも!」
「そ、そうか……」
 笑顔を見せる裕奈に対し、今度は横島の方が恥ずかしくなって、ついっと視線を逸らしてしまう。
 その反応に、裕奈はにんまりと笑みを浮かべる。恥ずかしいのは自分だけではない。そう思うと、心強くなってきた。
 まずは一歩近付き、裕奈は横島に身体を密着させる。豊かな胸が、彼の身体に押し付けられる。横島の視線は眼下に見える谷間と、その谷間に半ば潜り込んだ星形のペンダントに釘付けだ。
「もぉ〜。にいちゃんのエッチ! ちゃんと、私を見てよ!」
 裕奈は身を乗り出すと、更に横島に身体を密着させて下から顔を覗き込んだ。裕奈の胸が、二人の間で押し潰されて形を変える。横島は自分を覗き込む幼げな表情とは裏腹に、その顔に遮られて見えない部分で感じる強烈な存在感を感じ取っていた。
 目と目が合い、横島はそのつぶらな瞳に吸い込まれるように目が放せなくなってしまう。そしてそれは裕奈も同じであった。二人でじっと見詰め合い、互いの鼓動だけが耳の奥でやけに響いている。
 そうやって身体を密着させながら、裕奈はたどたどしく横島の手を取り、自分の背に回そうとする。ところが、見て確認せずにしようとしたせいか、腰の辺りに回すはずだった横島の右手が腰より更に下、裕奈のお尻の方に行ってしまった。
 裕奈はすぐさまその手を戻そうとするが、密着した体勢のままでは上手くいかない。それどころか、撫でるように手を動かしていた横島は、そのまま掴むように手の位置を定めてしまう。
 ビクンッと身を震わせた裕奈。横島は空いた左手を自ら裕奈の腰に回し、力強く抱き寄せた。
「にい、ちゃん……っ!」
 裕奈は荒い息遣いで兄を呼ぶと、自分もと彼の背に手を回し、そのまま横島の身体を抱き締め、二人は激しく抱き合う形となる。
 間近で見詰め合う二人。あまりにもな気恥ずかしさに、裕奈はヒールの高いパンプスを履いてきて良かったと、益体もない事を考えてしまった。
 唇と唇が触れ合うまで、あと数センチと言ったところか。しかし、その残り僅かの距離を自分でゼロには出来そうにもない。そう感じた裕奈は、とろんと潤んだ瞳で横島を見詰め、甘えた声でキスをねだる。
「ね、ねぇ、にいちゃんの方から……してよ」
 そこまで言い終えた裕奈は、その瞳を閉じ、そして待った。
 目を閉じると、胸の高鳴りがドキドキとやけに大きく響いているような気がする。このまま勢いに任せてキスしてしまった方が楽かも知れない。そんな考えも浮かんだが、最後は大好きな兄の意志で、兄の方からキスして欲しかった。
「分かった、行くぞ……!」
 ドキドキしているのは横島も一緒なのだが、そこは兄として、年上としての意地だろうか。
 横島は裕奈の身体を更に強く抱き締めると、覆い被さるように唇を重ね合わせた。
「……っ!」
 その瞬間、魔法陣の光が強まった。その光がワンピースを捲り上げようとするが、奇しくもお尻に当てられた横島の手がそれを防いだ。
 裕奈は声を上げそうになるが、唇が塞がれているため、僅かに吐息が漏れるばかり。
 これだけ身体を密着させた、横島が上、裕奈が下と言うこの体勢では、裕奈に出来る事はほとんどない。彼女に出来る事は、ただただ横島に身を任せ、そして受け容れる事だけだ。
 いや、正確には二つだけ出来る事がある。
 一つは顔を背けて拒む事。だが、これは有り得なかった。自ら望んで、仮契約に臨んだのだ。彼女には受け容れこそすれ拒む理由がない。
 もう一つは、重ね合わせた唇の隙間から、微かに声を漏らす事だ。
「に……にいちゃん、もっと、優しく……っ!」
 しかし、これは逆効果であった。
「ん〜〜〜〜〜っ!!」
 この弱々しい声は、かえって横島をその気にさせてしまったらしい。
 口付けは更に激しさを増し、裕奈は唯々されるがままにそれを受け容れるのだった。


「お、済んだみたいだぜ」
 テラスを出て待っていたカモの下に仮契約カードが現れた。仮契約は一発で成功したらしい。現れたのは正式なカード一枚だけだ。アスナがこっそり胸を撫で下ろしている。
「どんなアーティファクトなの?」
 和美がカードを覗き込んできた。カモはそれを「落ち着きなって」と手で制すると、カードに書かれたアーティファクト名を読み上げる。
「え〜っと……『変幻の女神(モーフ・セア)』って名前のアーティファクトらしいな」
「『変幻』? 変身するアルか?」
「う〜ん、聞いた事ないアーティファクトだから調べてみない事には……」
「そんな事後でいいじゃない! 早く、横島さんのとこに行きましょっ!」
 アスナはアーティファクトより横島の方が気になるようだ。カードに注目する面々をよそに、駆け足でテラスに行こうとする。
「あれ? お前ら、こんな所でどうしたんだ?」
 しかし、それより先に横島達がこの場に現れた。裕奈は、横島の背に背負われている。
「あ、横島さん! ……って、裕奈どうかしたんですか?」
 アスナが裕奈の顔を覗き込むと、彼女は顔だけでなく耳まで真っ赤にして茹だった状態であった。ぐったりとして力が抜けた状態だ。緩んだ口元からよだれが垂れ、横島のシャツを濡らしている。彼女自身もまた、仮契約を行う前に入浴したばかりだと言うのに、汗ばんだ様子だ。
 そんなに激しいキスだったのだろうか。アスナは羨ましく思いつつも、本気で裕奈が心配になった。
「……ホントに大丈夫なの?」
「だいじょうぶらよ〜」
 しかし、呂律が回っていなかった。これは明らかに大丈夫ではない。
「と、とにかく別棟の方に戻ろっか」
 和美が提案すると、皆はうんうんと頷いてそれに賛同した。
 とにかく裕奈を休ませねばならない。それが全員の一致した見解であった。



 別棟に戻ると、まずぐったりした裕奈を見てアーニャが悲鳴を上げた。
 仮契約はどんなものかと言う知識はあれど、実際の経験は無い彼女は、そんなに激しく消耗するものなのかと驚きを隠せない。そんな事はないと否定したいアスナ達だったが、彼女達もそれぞれ激しい仮契約だったり、肉体的、精神的に消耗したりしていたため、フォローする事が出来なかった。
 そこで、アーティファクトだけが目的だったため、高音との仮契約はあっさりと済ませてしまった愛衣が、アスナ達に代わってアーニャをフォローする。かく言う彼女も、横島とは情熱的な仮契約をしたいと言う願望を抱いていたりする。
 そして横島は、横長のソファの端に腰掛け、裕奈は横島に膝枕をしてもらってソファに横たわった。アスナが羨ましそうに指をくわえているのはご愛敬だ。

 一方、裕奈のアーティファクトについて調べていたカモ達だったが、まほネットでは『変幻の女神』に関する情報は見付からなかった。やはり、まほネットに載っていないアーティファクトのようだ。マスターが横島のせいかも知れない。
「土偶羅に聞いてみましょうか?」
「あいつは夜じゃないと来れねえんだろ? まだ無理なんじゃ?」
「大丈夫です……『来れ(アデアット)』!」
 首を傾げるカモをよそに、アーティファクト『土偶羅魔具羅』を召喚する夕映。
 しかし、そこに現れた土偶羅は目を開かない。いつもの人間臭さが皆無な、ただの土偶であった。
「……これは、寝ていますの?」
 あやかが土偶羅の頬をつつきながら尋ねるが、そうではない。夕映は首を横に振った。
 アーティファクト『土偶羅魔具羅』は、元々土偶羅のレプリカであってオリジナルではない。首だけが魔界正規軍情報部のコンピュータに接続され、身体が残っていない土偶羅は、時折このレプリカボディを操作して遊んでいるのだ。
「このレプリカボディは、土偶羅がコントロールしていない間は、端末として魔界正規軍のコンピュータにアクセスする事が出来るのです。向こうには土偶羅がいますので、何だったら土偶羅から職人妖精に問い合わせてもらいましょう」
「なるほど……」
 なんとも便利なアーティファクトだ。仮契約するごとに新しいアーティファクトを発見する事になる横島。そんな彼の下に来るべきして来たアーティファクトと言えるかも知れない。

 しばらく待っていると、土偶羅からの返事が来た。夕映は、千雨のパソコンを通じて送られて来た資料を印刷してもらう。
 『変幻の女神』は、やはり今まで知られていなかったアーティファクトのようだ。またもや新発見である。
「ふむ……『変幻の女神』って言うのは、『猿神(ハヌマン)の装具』みたいな、衣装タイプのアーティファクトみたいだな」
 送られて来た資料によると、『変幻の女神』は『アルテミス』、『ヘカーテ』、『セレーネー』と言う三柱の月の女神をモデルにして作られたアーティファクトらしい。
 カードに描かれている裕奈の姿は、胸元が開いたレオタードに古めかしい弓矢を持った姿であった。彼女自身のスタイルの良さもあって非常に良く似合っている。
 これはアルテミスをモデルとした姿なのだろう。人狼族の守護女神でもあるアルテミスが人に宿った姿を、横島は見た事があった。狼の耳としっぽこそ無いものの、その姿はあの時のアルテミスそのままであった。
「この弓を杖の代わりにして魔法を使うと、魔法の効果を増幅してくれるようですね」
「おおっ! 『魔法の射手』とか使ったら似合いそうだな!」
 『アルテミス』の能力は非常に攻撃的であった。弓を杖の代わりに使えると言うだけでも便利だ。
 この弓を使えば基本的な魔法である『魔法の射手』も当然増幅する事が出来る。元々数を束ねて使うタイプの魔法なので、同じように使えば『魔法の射手』を散弾銃のように撃ち出す事も可能だろう。
「……でも、私まだ『魔法の射手』なんて使えないよ〜」
 横島の膝枕で休んでいた裕奈がひらひらと手を振って声を出す。
 そう、彼女はまだ基本的な魔法を使えるようになったばかりだ。この弓を使って『火を灯れ(アールデスカット)』を使ったところで、少し大きめの火を出すのが精一杯だろう。
「それって、修行せなあかんって事?」
「そう言う事でしょうね……」
 今のままでは『アルテミス』は真価を発揮する事が出来ない。まずは、『魔法の射手』を使えるようにならなくてはいけないだろう。奇しくも横島と仮契約した事で、裕奈には魔法使いとしての新たな目標が誕生したようだ。

 また、『ヘカーテ』、『セレーネー』にもそれぞれ独自の能力があるらしい。ただし、それらの能力を同時に使う事は出来ない。
 『アルテミス』に変身している時に『ヘカーテ』、『セレーネー』の能力は使えない。逆もまた然りだ。
 月が満ち欠けしてその姿を変えるように、三つの姿を持ち、それぞれに姿を変える事によって能力をも変化させてしまう。それこそが『変幻の女神』の真の能力であった。
「とにかく、召喚してみようぜ!」
 カモはオリジナルカードを横島に、コピーカ―ドを裕奈に手渡す。ここで裕奈は、初めてカードに描かれている自分の姿を見た。手にした弓を見ていると、昔の猟師の格好をしているようにも見えるが、その服装は毛皮のようなレオタードである。
「さぁ、姐さん!」
「今日はダメ〜……」
 しかし、裕奈の方がそれどころではなかった。仮契約のキスでぐったりと疲れ果てた裕奈は、アーティファクトを召喚してファッションショーをやれる状態ではなかったのだ。
「こりゃ無理そうだな。今度にすっか」
 そう言ってカモは、がっくりと肩を落とした。
 『ヘカーテ』、『セレーネー』の姿は気になるが、今はそれどころではない。裕奈をゆっくり休ませる事こそが先決のようである。



つづく


あとがき
 『ヘカーテ』、『セレーネー』の能力については、またいずれ出番があった時にでも。

 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 オリジナルアーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

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