topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.128
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 レーベンスシュルト城に入ってから驚きっぱなしだったコレットだったが、ここに来て更なる驚きが彼女を襲った。
 アスナ達が帰って来て、次々に別棟に入ってくること十数人。どうも愛衣が連絡した時、茶々丸達は教室に居たらしく、横島の情報を持つコレットの存在はすぐに3−Aのほぼ全員に知れ渡ってしまったようだ。そんな話を聞いて彼女達がおとなしくしていられるはずもなく、麻帆良祭の準備を早々に済ませて帰って来たと言う訳だ。
 いや、正確には終わらせたのではない。教室でなくても出来る仕事は、全てここに持ち込んだのだ。麻帆良祭の準備を持ち帰って作業する事は、寮では他の寮生の迷惑になるため基本的に禁止されているのだが、ここレーベンスシュルト城では問題無く出来る事であった。作業スペースも、別棟のサロンだけでおつりが来る。

 とは言え、流石に全員が参加している訳ではない。
 のどか、まき絵、亜子の三人は、ネギの方が気になるらしく、セーフハウスの方に行ってしまった。ネギ当人も横島の話には興味があったようだが、やはり修行をサボる気にはなれないらしい。和美と一緒にカモにも参加してもらって、後で話を聞くと言う事にしている。
 同じネギ・パーティでも、ハルナはこちらに来ていた。横島の話から何か面白いネタが拾えるのではないかと考えているようだ。

 また、普段はネギ達と共に修行している楓もこちらに来ている。大妖怪『死津喪比女』の封印を守る一族『女華姫直属隠密部隊』の末裔である楓はこれまで表舞台に立つ事は無かった。しかし、当の死津喪比女も倒され、封印の巫女であるおキヌも生き返った今、その使命は終わってしまったと言える。
 そう、これからの楓の一族は、長年培った退魔の技術を活かし、今までとは別の形でオカルト業界に関わっていかなければならない。そんな身の上である彼女は、アシュタロスに関する話――ひいては一線で活躍するGSの話は聞き逃せないのだろう。
 『超一味』こと、超、聡美、五月の三人も『超包子(チャオパオズ)』の準備があるらしく不参加だ。しかし、最近超達と一緒にいる事が多い真名とザジの二人はこちらに来ている。
「おや、珍しいでござるな、真名。表の業界には興味はないと思っていたが」
「なに、横島は私の新しい相方候補なんでな。それに、超の方に行っても、私に手伝える事なんてないよ」
「なるほど」
 刹那が木乃香に付きっ切りになって以来、真名は新しい仕事のパートナーとして横島に目を付けていた。溢れる煩悩の問題も踏まえた上で、上手くあしらう事が出来れば、これほど扱いやすい者はいないと考えたのだ。
 また、超達は昨年ウェイトレスをしてくれた古菲、茶々丸の二人が今年は不参加のため、今年はお料理研究会を引き入れて準備を進めている。そんな中に真名が行っても手伝える事は試食ぐらいだろう。
 真名が所属する大学のバイアスロン部の方も麻帆良祭には参加する事になっているが、まだ彼女が手伝いに行かねばならない程ではない。となると、真名が選ぶのは横島の話を聞きに行く事一択となる。
「しかし、横島殿なら真名が『超包子』のウェイトレスの格好をすれば喜んでくれるのでは?」
「……それは、私に限った話じゃないだろ」
 珍しく冗談を言う楓に対し、真名は苦笑を浮かべて肩をすくめてみせた。今のところ真名にとっての横島は、あくまで刹那の代理。そこまでサービスしてやるつもりは無いと言う事だろう。
 そして、ザジはと言うと「………」こちらは何を考えているのかよく分からない。人の輪の中心から少し離れたところで、じっとクラスメイトを見詰めている。最近何故か超と一緒にいる事も多いなど、謎が多い彼女。無口な割にはただ単に賑やかなのが好きなのかも知れないが、こればかりは本人に聞いてみるしかないだろう。答えてくれるかどうかは、また別の問題だが。

 まったくの一般人である美砂、円の二人は今回は不参加だ。この二人は、込み入ったオカルト業界の話にはあまり興味が無いらしい。先日、ネギのセーフハウスにトレーニング器具が設置されたため、そちらでフィットネス運動に励む予定である。これは横島側からトレーニング器具を譲ってもらえないかと頼んだところ、ネギ達が本拠の建物内に眠るトレーニング器具を調べ、まだ使える物、修理すれば使える物をより分けてみたのだが、意外と多くの器具が残されていた事が分かったためだ。
 ほとんど修理せねば使えない物であったが、逆に言えば修理すれば使える物ばかりと言う事だ。それを聡美を通して麻帆良大学工学部に修理してもらったところ、レーベンスシュルト城の出城とネギの本拠地、双方にトレーニング器具が設置出来るだけの数が揃ったため、どちらにも器具が設置されたのである。
 彼女達は麻帆良祭でライブイベントへの参加を予定しているため、舞台に立つ事に備えてダイエットしておきたい乙女心であった。
 しかし、一緒にライブイベントに参加するはずの桜子は、何故かこちらに来ていた。自分の飼い猫達が猫妖精だった事もあり、オカルト業界に興味が出てきたのだろうが、こちらに来た理由はそれだけではない。
 と言うのも、美砂、円と同じくチアリーディング部に属する桜子は、これまでダイエットと言うものと縁が無かったのだ。小食どころかむしろよく食べる方なのだが、何故か全然太らないのだ。チアリーディング部では誰かがダイエットしようとする度に話題になる、『強運伝説』と並び謳われるもう一つの桜子伝説である。
 ラクロスをしているからだ。野良猫を追い掛け回しているからだ。よく笑うからだ。様々な説があるが、真相は藪の中。ただ単にそう言う体質なのだとすれば、年頃の少女達から見れば何とも羨ましい話だ。

 それ以外の3−Aの面々は、全員レーベンスシュルト城に集まっていた。出迎える千草たちは、こちらで暮らし始めてから何度もあった光景なので落ち着いたものだ。冷静に、今日は少ないとさえ考えている。


「え、え〜っと……」
 コレットはソファに腰掛けたまま、呆然とした表情で急ににぎやかになったサロンを眺めていた。
 彼女が何か反応するよりも早く、ソファは3−Aの少女達に取り囲まれてしまう。
「あなたがコレットさん?」
「うわっ、その耳ホンモノなの!?」
「シッポも付いてる! かわいい〜〜〜っ!!」
「えと、あの……!」
 矢継ぎ早に繰り出される質問に、まともに答える事も出来ない。
 人間界と交流を深めるのは良いが、いきなりこれはハードルが高過ぎるのではないだろうか。
 たまたま声を掛けた愛衣が横島の関係者と知った時は、なんて幸運なんだろうと思ったが、今の状況には本当に幸運だったのかと疑問を抱いてしまう。正に四面楚歌。いや、敵どころか友好的なので、これは正しくないかも知れない。何にせよ、コレット一人で相対するには厳しい状況である事は確かであろう。
 何が何だか分からずにぐるぐると目を回したコレットは、力無く垂れた耳と一緒に頭を抱えるのだった。

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 コレットは、隣に座る愛衣に助けを求めようとするが、彼女は苦笑いを浮かべて力無く首を横に振るばかりだ。
 皆の話――主にあやかの話を聞いている内に、少し理解する事が出来た。ここに集まる面々は麻帆良女子中学校3年A組の面々がほとんどであり、彼女達は情報公開のテストケースとして魔法使いの存在を知らされているらしい。
「と言う訳でコレットさん。このレーベンスシュルト城の中では、肩の力を抜いてリラックスしてお過ごしくださいな」
「は、はぁ……」
 あやかは、皆と同じ制服姿だと言うのに、一際目立つ華のある少女だ。彼女が3−Aのクラス委員長だと聞き、コレットはさもありなんと頷いた。と言うのも、コレットはあやかを見て、自分のクラスの委員長、エミリィ・セブンシープの姿を一番に思い浮かべてしまっていたのだ。今のところは「あやかの方がまともそう」と言う評価だが、ネギが関われば二人ともほとんど変わらない事を彼女はまだ知らない。

 コレットを囲んでわいわいと賑やかに盛り上がっていた3−Aの面々だったが、いつしか話題の中心はコレット本人ではなく彼女が持っていた雑誌の方へと移って行った。魔法界の雑誌であるため、当然魔法界の文字で書かれているのだが、そんなものは彼女達には壁にもならない。アーニャが通訳となり、皆で雑誌を覗き込んでいる。
 コレットに言わせれば、あの雑誌で見る価値があるのは写真だけで記事の内容そのものは眉唾物だ。だが、人間界にも同じような雑誌はあるため、彼女達はそれを踏まえて楽しんでいるようだ。

 千草は、月詠、あやか、千鶴、夏美を連れて厨房に行ってしまいここにはいない。向こうで皆の分のお茶とお茶菓子を用意しているのだろう。
 最近の千草は、警備の仕事以外は専ら月詠とアーニャ、それにチャチャゼロやすらむぃ達の子守りをして過ごしている。西からの援軍の中には居場所がなく、そこから飛び出して横島の懐に飛び込んだ身であるため、学生や教職員である他の面々と違い、普段は暇を持て余していたりする。
 おかげでレーベンスシュルト城の留守を守るような立場に納まっているのだが、エヴァの家周辺を見張るのはすらむぃ達の仕事だ。そのため、千草のやる事と言えば麻帆良を散策したり、アーニャ達を図書館島に連れて行ったり、レーベンスシュルト城内で家事をする事ぐらいになってしまっている。エプロン姿で家事をする姿が意外と似合っており、アスナ達京都で戦った面々を戸惑わせていた。

 そしてコレットの周りはと言うと、隣に座る愛衣と数人だけが集まっていた。夕映、裕奈、木乃香、そして刹那と、魔法界に興味を持つ者達だ。
 大勢に囲まれると怖いコレットにとって、これは有り難い話であった。夕映は鋭い質問を投げ掛け、木乃香はおっとりとした口調とは裏腹に押しが強い面があるが、五人とも人当たりの良い少女達なので、人間界と交流する第一歩としては適役であると言えるだろう。
「横島さんの話も気になるけど、それは本人が帰ってからにしよか〜」
「え゛? あ……そっか、横島さん、ここに住んでるんだよね」
 周囲の状況が落ち着いてきた事もあり、自分が今、横島が普段暮らしている場所にいるのだと改めて意識したコレット。途端に緊張してしまい、背筋をピンと伸ばして身体を強張らせる。
「大丈夫、緊張する事はないです。横島さんは、とても気さくな人ですから」
「う、うん」
 コレットの緊張を察し夕映がフォローするが、あまり効果は無いようだ。横島本人を前にすれば緊張も解れるのではないかと思い、夕映達は無理にリラックスはさせない事にする。

 その一方で雑誌を取り囲むアスナ達は、やはり表紙の写真に注目していた。
 刀子だけが横島と一緒に写り、刹那が写っていない事については、木乃香と一緒にコレットの方に行っている刹那本人がさほど気にしていないようだ。むしろ、このような雑誌に載ってしまう方が恥ずかしいらしく、ほっと胸を撫で下ろしていたりする。
 それとは打って変わって心中穏やかでないのがアスナだ。表紙がごく最近撮られた物である事に気付き、何故パートナーとして写っているのが自分ではないのかと考えていた。
「刀子先生、やっぱり絵になるね〜」
 桜子の呟きに、皆がうんうんと頷いた。アスナもその意見には頷かざるを得ない。
 そもそも刀子は、関東魔法協会の関係者と分かる以前からアスナ達の間では有名な存在だった。女子中の教師でありながら他校の男子生徒に人気のある美人教師。麻帆良女子中の生徒達にとっては、こうなりたいと願う憧れの存在だ。
「て言うか刀子先生、絶対狙ってるよね?」
「………」
 表紙の刀子を指差しながら、思い付くままに口走る桜子。しかし、彼女の言葉に答えられる者はいなかった。その言葉はシャレにならないのだ。桜子も自分のミスに気付いたらしく、しまったとばつが悪そうな顔になって口元を手で押さえる。
 刀子が最近妙に横島の事を気に掛けているのは、レーベンスシュルト城に住む者達にとっては既に公然の秘密となっていた。オカルトに寛容な男は金の草鞋を履いてでも捜せと言うのは刀子本人の弁である。当人達は否定していたが、刀子が横島を押し倒したと言う噂もあった。それだけに第三者から横島のパートナーとして刀子の名が挙がると敏感に反応してしまうのは、無理もない話であろう。
「ま、まぁ、刀子先生はホラ、焦ってるから!」
「あ、後がないからね〜」
 本人がいないと思って言いたい放題である。
 しかし、なんだかんだと言って彼女達は刀子の事は嫌いではなかった。むしろ、レーベンスシュルト城で暮らし始めてから可愛いところもあるのだと身近に感じるようになったほどだ。言いたい放題言えるのも、親愛の裏返しである。
「わ、私ももっと頑張らないと……」
 そしてアスナはと言うと、自分が最終的に表紙に載らなかったのは、自分がパートナーとしてまだ頼りないのだと結論付けた。桜子の言う通り、実際並び立つ横島と刀子の後ろ姿は様になっている。
 もし、今の自分が同じように写真を撮られれば、このように「格好良い」と感じられる写真になれるだろうか。そう考えると、この雑誌の編集者の判断は間違ってなかったと思えてくるのだ。
 自分も刀子ぐらいに強くなれば横島の隣に立っても様になるはず。そう考えたアスナは、もっと修行を頑張ろうと、決意を新たにするのだった。


 アスナ達レーベンスシュルト城の住人は一旦部屋に戻って私服に着替え、またサロンに戻って皆で盛り上がっていると、少し離れたテーブルで盛り上がる皆を眺めながら優雅にミルクティーを飲んでいたエヴァが、横島の帰宅に気付いて顔を上げた。
「む、横島が帰って来たぞ」
「え、ホント?」
「私が間違えるか。ほれ、噂の葛葉刀子も一緒だぞ」
 隣に控えていた茶々丸がテーブルの上にボトル管理用の水晶球を置くと、エヴァはそれを操作してゲートタワー上の映像を映し出す。そこには横島だけでなく警備の打ち合わせで一緒だったであろう高音、刀子、シャークティの三人に、帰り道で一緒になったと思われる美空、ココネの姿もあった。
「……ああ、そう言えば美空のヤツ、ココネを迎えに行ってたんやな」
 横島と一緒に居る美空の姿を見て、千草は帰宅した面々の中に美空の姿が無かった事に気付いてポンと手を打った。
 普段から、学校まで送り迎えするなど過保護にやっている訳ではないのだが、レーベンスシュルト城に引っ越してからまだ日が浅いため、いつも美空かシャークティが迎えに行っているのだ。
「うわっ、ほ……ホンモノだぁ……!」
 コレットもエヴァのテーブルに近付き、身を乗り出して水晶球を覗き込んでいる。水晶球越しとは言え、初めて見る動いている横島の姿に感激しているようだ。
「これ、来るんだよね!? これからこっちに来るんだよね!?」
「あ〜、がっつくな。来ると言うか、帰ってくるに決まってるだろ。横島は、ここに住んでるんだぞ」
 ぐっと顔を近付けてくるコレットを、エヴァは鬱陶しそうに手で防ぐ。先程までの緊張はどこへやら、コレットは興奮しているようだ。目を輝かせ、シッポはパタパタと振られて、スカートの裾を持ち上げてしまっているため、後ろから見ればパンツが丸見えである。
 そうこうしている内に水晶球に映った横島達はゲートを使って姿を消す。当然、使用したゲートは別棟の前に繋がっているものなので、それを知らないコレット以外の視線が揃って扉の方に向けられた。
「え?」
 それに釣られてコレットもそちらの方に視線を向けると、扉が開いて横島が姿を現した。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 横島の姿を見た瞬間、コレットは思わず大声を上げてしまう。
「うぉっ、なんだ!?」
 いきなりの聞き慣れない大声に横島は思わずたじろぐ。コレットはそのままの勢いで横島に近付くと、ガシッと彼の手を両手で握り、ブンブンと上下に振る。握手にしては少々激しい。
 横島のすぐ後ろにいた高音達も、状況が理解出来ずに目を丸くしている。
「あ、あの、初めまして、横島さん! わた、私、コレット・ファランドールと言いますっ!」
「は、はぁ、はじめまして……」
 その眼鏡の奥でキラキラと輝くエメラルドの瞳がじっと横島を見詰める。しかし、何もかもが突然過ぎて、横島の方はまともに応対する事が出来ない。
 改めて見てみると、なかなか可愛らしい少女だ……と、考えていた横島は、この時になって彼女の頭から生える一対の長い耳に気付いた。更に、着ている制服が麻帆良の物ではなくアリアドネーの物である事に気付く。
「え〜っと……どちらさま? その制服、もしかしてアリアドネーの?」
 横島の脳裏に空港で見た光景が浮かんできた。制服姿で、まるで学生の集団のように見えながら、角が生えていたり、獣の顔をしていたりと亜人が混じったアリアドネーの少女達。空港では確認出来なかったが、彼女もアリアドネーから派遣されてきた援軍の一員なのだろう。
「は、はい! アリアドネーから人間界の皆さんと交流を深めるために派遣された見習いですっ!」
 横島に問い掛けられたコレットは、ぴょんっと飛び退いて一歩下がると、ビシッと背筋を伸ばし、高々と片手を掲げてアリアドネーの見習いである事を伝えた。
「あの、今、魔法界ではお兄様の事が話題になっているらしくて、その話をコレットさんに伺おうと招待したんです」
「へ〜、アーティファクトの話か?」
「それが、その、アシュタロスとの戦いに関する話だそうです」
「………何?」
 ピタリと動きを止めた横島は、神妙な面持ちで問い返した。どうしてその事が魔法界で知られているかが分からなかったのだ。
「どうも、魔族から情報が流れたらしくて……」
「あ〜、そう言えば、魔法界には普通にいるって話だったな」
 コレットの方は興奮してそれどころではなかったので、愛衣が代わりに答える。それを聞いた横島は、小さくため息をつきつつも納得した。人間界より天界、魔界の方が自分の知名度が高いと言う事は既に知っている。あちらの世界では、人間界のように情報統制が行われていないのだろう。いや、向こうでは隠すほどのものではないのかも知れない。
 魔法界では自分は一体どのように噂されているのか。興味を持った横島は、コレットの話を聞いて見る事にした。

「あ、あの……聞いてもいいですか?」
「どっちかと言うと聞きたいのはこっちなんだが、何だ?」
 頬を真っ赤に染めたコレットが、もじもじと尋ねてくる。なんとも可愛らしい仕草だが、それを堪能している余裕はない。横島は手短に先を促す。
「アシュタロスとの戦いでは、敵戦艦にスパイとして潜り込んでたって話は本当ですか?」
 それが最初に尋ねて来た内容だった。確かにそれは事実だ。
 しかし、よくよく話を聞いてみると、スパイとして戦艦に潜り込んでいたと言う事実だけが伝わっており、最初の切っ掛けはペットとして拉致された事であるなど詳しい事までは知られていないらしい。
 それほど詳しい内容ではないのだろうか。そう考えていると、コレットは続けて次の質問を投げ掛けてくる。
「それじゃ、戦艦ではコック長になって、潜り込んでたテロリストをバッタバッタとなぎ倒したって言うのも本当ですか?
「……いや、潜り込んでたのは俺の方だから」
 荒唐無稽な内容に、口元を引き攣らせながら答える横島。
 そもそも、その戦艦の主であるアシュタロス達の方がテロリストだ。そのテロリストの艦に潜り込むテロリストとは、一体なんだと言うのか。
「え〜っ、それじゃ南極での決戦じゃ美神令子さんと二人でアシュタロスの本拠地に潜り込んだって言うのは?」
「それは本当だ。でも、二人だけで南極に行ったんじゃないぞ?」
「知ってます! ニッポンのGSが中心になってたんですよね?」
 今度は正しい情報だったと、コレットは微笑んだ。やはり、大まかな流れについては正しい情報が伝わっている。
「二人でダンボールに隠れて、スニーキングミッションを成功させたんですよね!」
「全然違うっ!」
 だが、やはり詳細までは正しく伝わっていないらしい。
 しかも、その伝わってない部分を憶測で補っているため、魔法界では横島は珍妙奇天烈な大冒険を繰り広げた英雄と言う事になっているようだ。これでは『千の呪文の男(サウザンド・マスター)』のように有名になったとしても、彼と並び称される英雄として語られるのは難しいのではないだろうか。
「え、これも違うんですか?」
「普通に案内されてアシュタロスの所まで行ったよ」
「へ〜、堂々とした魔王だったんですね〜」
 コレットは噂ではない真実の姿に感心することしきりだが、周囲で聞いている面々は、やはり魔法界で手に入る情報はゴシップレベルに過ぎないのではないかと段々呆れ顔になってきている。
 その一方でコレットは、情報が間違ってる事などある程度の覚悟の上で、だからこそ真実を確かめるために本人に会おうとしていたので、こうして横島と言葉を交わせるだけで大満足であった。
 しかも、コレットの質問は間違えていたとしても、その後訂正する横島の話は真実だ。アスナ達にとっては彼の話を聞くだけでも価値があった。
 その後も幾つも質問しては、肯定されたり否定されたりを繰り返したコレット。結局、正しい噂は全体の二割と言ったところだろうか。やはり、おおまかな事態の流れの部分は正しいが、詳細は間違っていると言うのがほとんどだ。
「ちぇーっ、雑誌媒体の情報はほとんど間違ってるなぁ……って事は、アレも間違いなのか」
 コレットは唇を尖らせて、彼の話をメモしている。
「アレ?」
 ここまで来ると最後まで聞きたい横島は、首を傾げながら尋ねる。するとコレットは肩をすくめながら、アスナ達が手にしている雑誌に載っていた一番デタラメであろう記事の内容について口を開いた。

「横島さんが、世界を一つ滅ぼしたって書かれてたんですよ。そんな訳ないですよね〜」

「アハハハ! ヨコシマ、すげーじゃん!」
「何それ、そんな訳ないじゃない」
「と言うか、一体どこの世界を滅ぼしたと言うつもりですか、それは」
 思わずツっこみを入れてしまう周囲の面々。今までで一番デタラメな内容に、どっと笑いが起きる。
 そして世界を滅ぼしたとされる当の横島はと言うと―――

「………」
「……横島君、どうしたの? 汗びっしょりよ?」

―――何故か大量の汗を流していた。心配そうに声を掛ける高音から視線を逸らしている。
「ハ、ハハ、ナンデモナイ、ナンデモナイ」
 そして視線を逸らしたまま、乾いた声でピコピコと手を振って答えた。

 アシュタロスを倒した英雄の一人、『文珠使い』横島忠夫。
 かつて南極の『バベルの塔』において、アダムとイブにいらん事を教えて『宇宙のタマゴ』を一つ腐らせた男である。



つづく


あとがき
 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

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