topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.134
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 それは偶然であった。
「あれは……」
 学校の帰り道、アキラは用事があったため皆と一緒に帰らずに駅前の繁華街で買い物を済ませ、いつもとは異なるルートで家に帰ろうとしていた。
 その途上、荷物を抱えて公園に入っていく茶々丸の姿を見掛けたのだ。あの特徴的な髪の色とアンテナは見間違えようがない。
 アキラは、せっかくだから茶々丸と一緒に帰ろうと言う気持ちと、彼女が何をしようとしているのか知りたいと言う好奇心の半々で、茶々丸を追って公園に入って行く。
 公園に入った茶々丸は、中央の噴水の前まで足を進めると、抱えた荷物の中からペット用のエサ皿とキャットフードの缶をいくつか取り出す。それに合わせて公園のそこかしこから野良猫達が集まり、たちまち茶々丸の周りは猫で埋め尽くされてしまった。背後からその様子を眺めていたアキラは、何度も訪れた事がある公園にこれだけ野良猫がいたのかと驚くと同時に、集まった猫達の可愛らしさに呆けている。
 茶々丸がキャットフードをエサ皿に載せると、一斉に猫達が皿目掛けて群がる。
 実はクラスメイトにはあまり知られていないが、茶々丸は毎日のようにこの公園を訪れては野良猫達にエサをやる事を日課にしていた。これはずっと以前から行っていた事であり、アスナ達がレーベンスシュルト城に引っ越して忙しくなった後も、これだけは続けている。
「あ……」
 いつしか猫だけでなく小鳥までも茶々丸の周りに集まって来た。その様はまるで一枚の絵画のようで、神秘的にすら思えてくる。
「あ、あの!」
 いつまでも覗き見をしているのは悪いような気がしてきたアキラは、意を決して声を掛けた。その声に驚いて何羽かの小鳥が飛び立ち、猫達が一斉に顔を上げてアキラの方に顔を向ける。ワンテンポ遅れて茶々丸も振り返りアキラを見た。
「アキラさん、どうしてここに?」
「あ、買い物の帰りなんだ。それで公園に入っていく茶々丸を見掛けて……」
「そうでしたか……」
 それだけを言うと、茶々丸は猫達に視線を戻す。アキラと茶々丸、どちらも積極的に喋るタイプではないため会話が続かない。
 アキラは猫達を驚かさないように注意しながら茶々丸に近付いて行く。
「猫達にエサをやってたんだ。この子達……茶々丸が飼ってるの?」
「いえ……この子達は皆、野良猫です」
 そう言う茶々丸の横顔が少し寂しそうに見えるのは気のせいではあるまい。
 しかし、いかんせん茶々丸はエヴァの従者として彼女と共に暮らす身だ。好き勝手に連れ帰る訳にはいかなかった。本当は茶々丸も飼えるものなら飼ってやりたいのだろう。

 茶々丸の隣でしゃがんでいたアキラの膝の上に一匹の野良猫が乗った。なんともまったりとした空気が漂っている。
 これは丁度良い機会かも知れない。アキラは前から聞きたかった事を、思い切って尋ねてみる事にした。
「ねぇ、茶々丸って……エヴァちゃんの『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』なんだよね?」
「はい、そうですが。それが何か?」
「えっと、その、どうして仮契約(パクティオー)したのかなぁ〜って」
 愛衣と同じく、アキラも横島と仮契約したいが一歩踏み出す事が出来ずに燻っている身だ。それだけに他の『魔法使いの従者』達が仮契約した理由には興味があった。
 そして茶々丸は、横島ではなくエヴァの従者である。アキラはこれを機に、横島とアスナ達以外の主従関係について聞いてみたかったのだ。
「あの、申し訳ないのですが……」
「どうしたの?」
「私は、マスターの従者となるべく生み出された身ですので、アキラさんの望みに沿う答えを持ち合わせておりません」
 しかし、茶々丸はアキラの問いに答える事が出来なかった。
 と言うのも、彼女はアスナ達とは根本的に違うのだ。自らの意志で仮契約を望み、マスターを選んだのではなく、最初からエヴァの『魔法使いの従者』になるべく生み出されたのである。仮契約の方法もアスナ達とは異なるため、茶々丸は仮契約カードもアーティファクトも所持していない。
「それに、そう言う話はアスナさん達に尋ねた方がよろしいのでは?」
 茶々丸が小首を傾げて尋ねると、肩の上の子猫も器用に合わせて首を傾げた。
「……もう聞いた」
 そう答えたアキラは、力無く肩を落とした。なんて事はない。アスナ達に尋ねると、どうしても惚気話が混じってしまうのだ。
 そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、膝の上の野良猫が慰めるように顔をすり寄せてくる。
「どうでした?」
「意外と真面目なんだよね、皆」
 どこか困ったような表情で天を仰ぐアキラ。今日も良い天気だ。太陽の光が眩しい。
 アスナ達の話は、惚気ながらも内容は真剣そのものであった。横島の五人の従者達は、それぞれが目的を持って彼に付いて行く事を決めている。
 従者ではないが、横島除霊事務所の除霊助手になった千草にも話を聞いてみた。こちらも除霊助手である事に対し真剣に向き合っていた。アスナ達よりも具体的に考えているように感じられたのは、きっと年齢のためだけではあるまい。
 もちろん、アキラが不真面目と言う訳ではない。彼女が横島の下で修行する理由は、再びオカルト絡みの事件に巻き込まれた時に、修行をしていなかった事で助けられるはずの人を助けられないような事になりたくないためだ。
「では、何故仮契約を申し込まれないのですか? アキラさんなら拒まれる事はないと思いますが」
「それは……」
 アキラが修行している理由は横島達も知っている。彼女はアスナと同じく天然で経絡が開いているがマイトは低いタイプで、修行をしなければこのまま一般人として生きていく事も可能だったのだ。
 もしもの時に誰かを助けるために霊力を身に着ける道を選んだ。そんな彼女が仮契約したいと横島に申し込めば、アスナ達も喜んで新しい従者仲間として受け容れるだろう。
 だが、彼女は仮契約を申し込んでいない。それは何故か。恥ずかしいと言うのももちろん理由の一つだが、それだけではなかった。
「……………」
 茶々丸は無言でアキラを見詰める。
 その視線を感じながら、アキラは意を決し、心の奥に仕舞い込んでいた言葉を口に出す。

「私……まだ、覚悟を決められてないのかも」

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.134


「覚悟……ですか?」
 茶々丸は再び首を傾げて疑問を口にした。
 本当に分からない。一般人として生きていける道を捨てて霊能力者の道を歩み出すのは相当な覚悟が必要な事だ。アキラがその事を分かっていなかったとは思えない。今更何の覚悟が必要だと言うのか。
「うん、覚悟」
 しかし、アキラは自分の言葉に納得しているらしい。彼女の中ではそれが明確な答えとなっているようだ。
 そう、確かにアキラは覚悟を決めて横島の霊力供給の修行を受ける事を決めた。だが、その覚悟は「霊能力者の道を歩み始める」事についての覚悟であって「横島と共に行く」覚悟ではない。
 アキラにとって横島と共に行く覚悟は、霊能力者の道を歩む覚悟とは別のものであり、また同じぐらいに重要な意味も持つものなのだ。だからこそ、軽々しく仮契約を申し込む事は出来ない。
「でも、好きなんですよね?」
 隣の茶々丸がストレートに尋ねて来た。
 アキラは一瞬呆気に取られて言葉を失うが、やがて頬から耳まで真っ赤になりながら小さくコクンと頷く。
 そもそも、霊力供給の内容が内容だ。最近はベッドに倒れ込んで身体を重ね合わせる事も珍しくない。少なからず好意がなければあんな事は出来ないだろう。
 切っ掛けは些細な事で、エヴァが修学旅行に行けるように「おねだり」し、恥ずかしいところを見られたおかげで彼の事を男性として意識するようになったのが始まりだ。
 それから恥ずかしがりながらも彼の事を目で追うようになった。
 『キャラバンクエスト』の事件の際に二人でゲームの世界に取り込まれてしまい、彼に守られ、彼を知り、ぐっと距離が縮まった。
 ゲームの中で防具を選ぶ時、思い切り子供扱いされてしまったが、可愛い可愛いと連呼されるのは悪い気分ではなかった。露出度の高い装備を着せられた時は恥ずかしかったが、アキラが恥ずかしがるとすぐに別の物を用意してくれるのだ。
 それでも一度は持って来て着させようとするあたり、やっぱりスケベだと思う。しかし、本当にイヤなものは表情から察する事が出来るのか、あっさり退いてくれる辺り「分かってくれているのだ」と地味に嬉しかったりする。
 このように思えてしまうあたり、やはりあの時には既に彼に対する好意があったのかも知れない。それを再確認してしまったアキラは、ますます顔が赤くなっているのを感じた。両手を頬に添えてみると、熱くなっているのが分かる。

「では何故?」
 そんなアキラの姿を見ていた茶々丸は、更に問い掛けた。
 茶々丸も常々疑問に思っていたのだ。彼女にとって生まれた時からそこにあった『仮契約』。マスターであるエヴァも「大したものではない」と捉えているのに、アスナ達はそれをとても重要視している。
 何故彼女達は仮契約を重要視するのか。それが茶々丸には分からなかった。
 アキラもそうだ。彼女が仮契約を申し込んでいないのは、それを重要視しているからに他ならない。彼女達にとって仮契約とは何なのか。そして、それは自分のそれとどう違うのか。茶々丸はそれが知りたかった。
 茶々丸にとっても横島は特別な存在である。マスターであるエヴァにとっても色々な意味で重要な存在であり、茶々丸もまた毎晩霊力供給をしてもらっている。
 彼に対して抱く感情は、きっと人間で言うところの好意なのだろう。そう自覚する茶々丸であったが、彼女は横島と仮契約をしたいとは全く考えていなかった。彼女にとって仮契約は重要な意味を持たないためだ。
 茶々丸にとっては、毎晩彼を部屋に招き入れて霊力供給をしてもらい、二人きりで甘い時間を過ごす事の方がよっぽど重要なのである。
 逆に言えば、エヴァとの仮契約も茶々丸にとっては重要なものではないと言う事だ。だからこそ、茶々丸はエヴァの事を子供扱いして保護者のように振る舞ったり出来るのかも知れない。

「そうですね……私が出来るアドバイスと言えば」
 茶々丸はアキラをじっと見据える。心なしか真剣な表情だ。
「時間制限があるとは考えなくても良いと思います。麻帆良祭が終わっても、まだ先があるのですから」
「で、でも、麻帆良祭で何かあった時、私の力で助けられる人がいるかも知れないし……」
 前述の通り、アキラが霊能力の修行を始める決意を固めたのは、『キャラバンクエスト』の事件を経験し、次に何か起きた時に「修行をしていなかったから助けられなかった」などと言う事にならないためだ。
 そして仮契約に関してもそうだ。あの修学旅行の時に事件を起こした『フェイト』と名乗る魔法使いが麻帆良祭を狙っていると言う話を聞き、アキラは恐怖を覚えた。あの時、関西呪術協会の総本山で石にされたクラスメイトの頬に触れた時の冷たさは今でもリアルに思い出せる。
 まだ修行を始めたばかりのアキラは、アスナのように霊力を扱えるレベルには達していない。
 このままでは「仮契約してアーティファクトを手に入れなかったから助けられなかった」なんて事になるかも知れない。今度はもっと酷い事になるかも知れない。そんな思いがふつふつと湧いてきて、知らず知らずの内にアキラは自分自分を抱き締めるようにしてぶるっと肩を震わせた。
「………」
 その姿を見守っていた茶々丸は、修学旅行の時のエヴァの言葉を思い出していた。
「なんとなくですが、あの時のマスターの言葉の意味が理解出来たような気がします」
「え?」
 麻帆良祭で起きるであろう事件を心配し、仮契約しなければならないのではないかと考えるアキラの姿が、あの時の、力不足を悔やみ霊力供給を受けるべく横島に仮契約を申し込もうとしていたアスナの姿と重なって見えたのだ。
「マスターは、仮契約をすべきか悩むアスナさんにこうおっしゃってました。『何もできずとも、誰も貴様を責めはせん。そもそも、誰も貴様に期待などしていないぞ』と」
「う……」
「アキラさんが、そこまで責任を感じる必要はないのでは?」
 冷たい言い方ではあるが、茶々丸の言う通りである。
 何とかしなければと考えているのは、生真面目なアキラの責任感に他ならない。横島も霊能力の修行をつけてあげているとは言え、彼女を戦力として数えたりはしていない。むしろ、危険な事はさせたくないと考えている。そう、誰も彼女にそのような無茶を要求してはいないのだ。

「とにかく、焦って答えを出す必要はないと思います」
「そうなのかな……」
「そんな気持ちで仮契約を申し込んだとしても、横島さんは―――」
「喜ばない?」
 アキラが小首を傾げて尋ねるが、茶々丸は首を横に振って話を続ける。
「いえ、ひとしきり喜んだ後、自己嫌悪に陥るかと」
「そ、そうなの……かな?」
 真顔で答える茶々丸に対し、どう言う顔をすれば良いか分からずに戸惑うアキラ。
 しかし、彼女の言葉は間違っていないだろう。横島はアキラとキスが出来るとなれば、それが焦りからくる決断であろうとおかまいなしに喜ぶだろうが、後になってそれを知りこれで良かったのかと良心の呵責を感じて頭を抱えるに違いない。
 そして、アキラも頭を抱えた。茶々丸の言葉に納得してしまったと言うのもあるが、自分より茶々丸の方がはるかに彼の事を理解している事に気付き、愕然としたのだ。自分なりに横島の事を見て来たつもりだったが、まだまだ彼の事を理解しきれていなかったらしい。
 そんな彼女の気持ちを見透かしてか、茶々丸は更に言葉を続ける。
「どうしても答えを出したいと言うのであれば、もっと横島さんと向き合ってみてはいかがでしょう?」
「横島さんと、向き合うか……」
「皆さんにとって横島さんと仮契約する事は、あの人と共に歩んで行く決意の表れとしての意味合いがあるのですよね?」
 茶々丸の問い掛けに、アキラはコクコクと頷く。
「ならば、横島さんの事をもっと知るべきでしょう」
「うん……うん!」
 その言葉に手応えを感じたアキラは、ぐっと握り締めた拳に力を込める。その顔にはいつしか笑みが浮かんでいた。
 茶々丸と話していて、自分がまだまだ横島の事を理解出来ていない事が分かった。こんな状態で彼と共に歩んで行くかどうかなど決められるはずがない。まずは彼の事をもっとよく知るべきだ。
 漠然としていた仮契約に関する悩みだったが、やるべき事が明確になりすっきりした感じがする。こうして茶々丸と二人で話す事になったのは偶然だったが、アキラにとってもとても実りある時間となったようだ。
 茶々丸はエサ皿や空き缶を片付け始めている。野良猫達の食事は終わったようだ。アキラの膝の上に乗っていた猫も、満足したのか他の猫と連れ立ってどこかへ行ってしまった。
 猫がいなくなったので、アキラは立ち上がりスカートに付いた砂をはたいて落とす。片付け終えた茶々丸も続けて立ち上がると、最後まで残っていた一匹の猫がタッと駆けて行った。
「茶々丸は、横島さんの事がよく分かってるんだね」
「そうでしょうか?」
 アキラの言葉に首を傾げる茶々丸。本当に分かっていないようだ。
「どうしてそんなに横島さんの事を知る事が出来たの?」
「………」
 少し視線を上に向けて考え込む茶々丸。彼女はアスナ達と一緒に霊力供給の修行を受けている訳ではなく、横島との接し方が他の面々とは異なるため、どこがどう違うのかが分かりにくいのかも知れない。
「そうですね……私自身、毎晩横島さんに霊力を供給していただいている身ですので、出来るだけ横島さんにも楽しんでいただこうとあの方の好みについては研究いたしました」
「それ……ちょっと聞きたいかも」
 アキラだけでなく、アスナ達にとっても非常に興味深い話であろう。
 猫の姿は、完全に見えなくなってしまった。アキラと茶々丸は、このまま二人で一緒に帰宅する事にし、その道すがら更に詳しい話を聞く事にする。
「そう言えば、茶々丸の霊力供給ってどうやってるの? 私達のとは違うんだよね?」
「はい、私はネジを通して供給していただいています」
 そう言って茶々丸はポケットから手の平サイズのネジを取り出して見せた。緊急用に持ち歩いている誰でも使える供給用のネジだ。以前から所持している旧式である。これ以外に霊力が強い横島に供給してもらうためのリミッター付き専用ネジも常に持ち歩いているのだが、こちらは易々と人に見せるつもりは無かった。
「へ、へぇ……」
 最近、新しいボディに換装して人間とほとんど変わらぬ外見となった茶々丸。しかし、こうしてネジを見せられると改めて思い出される。やはり彼女はガイノイドなのだ。
 更に話を聞いてみると、茶々丸の霊力供給は彼女の自室のベッドの上で行われているらしいが、横島がネジを持って回さなければならないため、アスナ達のように体勢のバリエーションを増やせないのが不満の種らしい。
「エヴァちゃんの部屋じゃないんだ?」
「マスターは邪魔……いえ、横島さんの血を戴いた後は、満足して眠ってしまう事が多いので」
 一瞬聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がしたが、アキラはスルーして話を進める事にする。
「それで、横島さんの好みって?」
「そうですね……下品にならない程度にセクシー、でしょうか?」
「げっ……下品!?」
 予想外の答えに思わず素っ頓狂な声を上げるアキラ。しかし、茶々丸は素だ。
 供給してもらう体勢に拘る事が出来ない彼女。供給を始める時は座った状態でも、途中で倒れ込んでしまう事が多く、最近は最初から伏せた状態で霊力供給をしてもらっているためベッドの上以外の場所で供給してもらう事も難しい。そのため、彼女の工夫は専ら衣装方面に向けられていた。
 「下品にならない程度にセクシー」と言うのは、もちろん下着の事だ。元より彼女の下着のセンスは横島も高く評価していたが、それが霊力供給と言うお披露目の場を得た事で、茶々丸も更に拘って下着を選ぶようになったらしい。
 実は、見られる事にあまり頓着しない茶々丸は、一度だけ一糸纏わぬ状態で霊力を供給してもらおうとした事がある。しかし、それを見た横島は理性が負けそうになりその場から逃げ出してしまった。それ以来、茶々丸は人に見られる事を少し意識するようになったそうだ。
 その話を聞き、アキラは顔を真っ赤にして茶々丸に問い掛ける。
「ど、どどど、どんな事やってるの!?」
「どんな事と言われましても、興奮した横島さんがまるでケモノのように覆い被さってきて―――」
「ストップ。それ以上はいいから」
 話の内容がだんだん明後日の方向に突っ走りそうだったので、アキラは茶々丸の話を止めた。茶々丸の方は、何故止められたか理解出来ていないようだ。
 しかし、茶々丸の言っている事は事実だったりする。部屋の中で二人きりで、ガイノイドとは言え、新しいボディでボリュームの増した茶々丸のスタイルの良さは、かなりのものなのだ。これで横島に抑えろと言うのは、それこそ無茶な要求である。
「ふっ……い、いや、何でもない」
 「不潔だ」と言おうとしてアキラは止めた。
 横島が覆い被さってくる事も、逆に少女達が覆い被さる事も、霊力供給の修行中は珍しい事ではない。かく言うアキラもベッドに倒れ込んで覆い被さる事が多かったりする。茶々丸の事を言えた義理ではないだろう。

「それで、霊力供給が終わった後は?」
「終わった後ですか? 横島さんは入浴のために大浴場の方に向かわれますね。お疲れの場合は、そのまま私の部屋で休まれる事もありますが」
「そうなの!?」
 肉体的に疲れている状態で霊力供給を行うと、場所がベッドなだけに横島がそのまま眠ってしまう事があるらしい。その時は、茶々丸も起こすのが忍びないため、起こさずに放っておく事にしている。そのまま一緒に寝てしまうのだ。
「ですが、最近は減りましたね」
 その翌朝、横島が帰ってこなくて寂しい思いをしたであろうさよが涙目で飛び付いて来て以来、横島は努めて部屋まで戻るようにしていた。
 先日、霊力供給を終えて大浴場に向かう彼に茶々丸が同行した事があるが、これは泊まっていく事がほとんどなくなった横島に対する、茶々丸なりのアプローチだったりする。

 これは手強いかも知れない。
 一緒に霊力供給の修行を受けているアスナ達の事ばかり気にしていたので、完全にノーマークだった。
 顔の造形は見事としか言い様がない美人系。スタイルの良さも折り紙付きである。
 聞くところによると、そもそも新しいボディに換装した理由と言うのが、横島に柔らかいふとももで膝枕するためらしい。
 しかも、これはマスターであるエヴァも機械全般に弱いため知らない事なのだが、そもそも茶々丸は毎晩霊力を供給してもらう必要がなかったりする。にも関わらず毎晩横島を部屋に招いて霊力供給をしてもらっているのは、彼女自身がそうしてもらいたいからであった。そう、茶々丸が見せる彼女自身の「欲」なのである。
 供給過多にならないために、余分な霊力を溜め込む霊力コンデンサーをわざわざ用意しているのだから、よほど大事なのだろう。それだけ横島と共に過ごす時間を確保したいのだ。


「………」
 茶々丸の話を聞き終えたアキラは、茫然自失状態であった。
 心なしか嬉しそうに語る茶々丸を見て「見習わなければ」と思ってしまったあたり、彼女の語りに飲まれていたのだろうか。
 ただ、茶々丸がそれだけ積極的に横島と向き合っている事は否応無しに理解する事が出来た。これなら彼について詳しいのも納得出来る。
 自分も頑張らなければならない。この話を聞いてそんな事を考えるのは少しズレた反応のような気もするが、アキラは決意を秘めた瞳で遠くを見据えていた。
 アキラは考える、必要に迫られて仮契約するような事は止めようと。仮契約するならば、彼と共に歩んで行く決意を固めるならば、それはあくまで自分自身の意志を理由にするべきだ。
 そのためにも、もっと横島と向き合い、彼の事を知らなければならない。全てはそこから始まるのだから。
「それではまず下着姿で……」
「いや、それはやらないからっ!」
 かと言って茶々丸の真似をする訳ではない。
 まずは積極的に話し掛けてみる事にしよう。皆が横島と話しているのを傍から眺めるのではなく、自分自身が彼と話すのだ。
 アキラにとってはとても勇気のいる事だが、それこそが彼を知る第一歩である。



つづく


あとがき
 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

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