topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.152
前へ もくじへ 次へ


「これは確かに度肝抜かれるわ……」
 レーベンスシュルト城を一望できる転移魔法陣の上に立った令子の第一声がそれだった。
 隣でエヴァがフフンと腰に手を当て慎ましやかな胸を張っている。
「これ、情報公開されたら私でも買えるの?」
「さて、どうだろうな? そういう話は聞いておらん」
 詳しい話を知っているのは、学園長やその周辺だろう。
「何とか手に入らないかしら? これさえあれば……」
「隠し財産詰め込むんすね?」
 横島のツっこみに、令子はそっと視線を逸らした。
 かくいう彼は、両腕をアスナとシロにがっしりホールドされた状態だ。
 彼女達を迎えに行った際に「会いたかったでござるよ〜!」と飛びつかれ、顔を舐め回され、アスナも真似しようとして古菲に止められた結果、こうなっていた。今は彼を挟んで威嚇しあっている。
 そちらは華麗にスルーして、ひのめを抱っこした茶々丸が令子を案内しようとする。
 ひのめの世話は、横島が両腕をホールドされた際に自ら買って出ていた。
「それではこちらへ、皆さんお待ちかねですよ」
「皆さん? ここって、そんなに人いるの?」
「こちらの事情を知っている、クラスの連中がな……」
「……バレるとまずいって話じゃなかったっけ?」
「あうぅ……」
 情報公開のテストケースに選ばれていなかったら、今頃オコジョになっていたであろうネギがうめき声をあげた。豪徳寺と肩の上のカモが、揃ってネギを慰めている。
 今夜は本戦進出を祝うパーティーなので、ネギ一行もこちらに来ているのだ。これは互いに情報交換をするという目的もあった。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.152


「学園長も呼んだら来ないですか? あちらとも情報交換しておきたいのですが」
「さ、流石に忙しいんじゃ……」
「呼べ、呼んでしまえ。オカルトGメンとの話も必要だとか言ってサボりにくるぞ」
 とエヴァが言ったので横島が電話を掛けて美智恵が来ている事を告げると、学園長は本当に来てくれる事になった。
 魔法協会としても今回の一件には手を出してもらいたくないのだろう。フェイトの一件について、あまり探られたくないというのもあるのかも知れない。
「という訳で、もうじき学園長がこっちに来るんスけど」
「細かい話はママに任せればいいわ。さぁ、パーティー会場へ案内してちょうだい」
 しかし、令子はそもそも学園長とやり取りをするつもりが無かった。
 あくまで彼女は、観光客としてここにいるのだ。なにより一銭にもならない事をボランティアでするはずがなかった。仮に彼女を動かしたければ目も飛び出るような大金を積む必要があるだろう。
 動いてほしくない学園長にとっては、願ったり叶ったりな話である。

 茶々丸が案内してくれた会場はいつもの中庭で、ネギパーティの面々も既に到着していた。
「うわっ! 横島さんが子持ちの美人ナンパしてきた!!」
 そして令子を見た、パルの第一声がこれである。ひのめも見逃していないあたり、なかなかに目ざとい。
「怖い事言うなーっ!!」
「そんな訳ないでしょ! この人は美神令子さん! 横島さんの元雇い主で、現役最高峰のGSよ!」
 すかさず否定するのは横島とアスナ。前者は令子に怒られるのが怖いため、後者は横島の名誉のために。
 にわかに注目を集めた令子は、子持ちのように見られるのは否定できないため引きつった笑みを浮かべていた。
「あれ? 朝倉はいないの? 美神さんがいたら真っ先に取材したがると思ったのに」
「なんや忙しい言うてたで」
「ああ、武闘大会で実況やってたし、そっちに掛かりっきりなのかもね」
 現在ここにいない3−Aの生徒は、超、ハカセ、五月、真名、朝倉の超一味と武闘大会に関わっている面々だ。
 修学旅行では超と行動を共にしていたザジも、今夜はこちらに来ている。
「ザジさんは、こっち来てて大丈夫なの?」
 アスナがそう問い掛けると、ザジは口だけ笑ってコクリと頷いた。どうやら武闘大会の方には全く関わっていないようだ。
 彼女は麻帆良祭中は『ナイトメアサーカス』に出演しているので、そちらで忙しいのだろう。

 それから令子が少女達に囲まれ、まるでアイドルか何かのように扱われたが、それも一段落してようやく本来のお題である武闘大会本戦進出を祝って乾杯となる。
 今夜は中庭でバーベキューになったようだ。飲み物はもちろんノンアルコールだが、それでも大騒ぎできるのが3−Aの面々である。
 流石に令子はこのノリにはついていけずに千草、刀子、シャークティの大人組に混じって静かに飲んでいた。
「最初にお城を見た時は、舞踏会みたいなパーティーをイメージしたけど……」
「そういうパーティー、あの子らには似合わんやろ」
「まぁ、確かにね」
 特に陰陽師というオカルト業界的に近い千草とは話が合うようだ。
「向こうで騒いでる分には問題無い。私を巻き込まなければな」
 なお、大人組にエヴァも混じっているのはご愛嬌である。
「真祖だってのは知ってるけど、その身体でパカパカお酒飲まれると違和感あるわねぇ……」
「何を今更。貴様にだって真祖の知り合いがいるのではないか?」
「知り合いは真祖の子のバンパイアハーフよ。そういえばピートがお酒飲んでるのって見た事ないわね。高校生やってるからかしら?」
 彼の場合は貧乏生活の影響も大きいと思われる。

 一方パーティー会場の一角には大騒ぎの少女達、大人組とも異なるもうひとつのグル―プがあった。ネギを筆頭に本戦進出を決めた面々だ。
 あの後、本戦のトーナメントが決まったらしく、明日に備えて対策会議をしているようだ。古菲とシロもこれに混じっている。
 楓はその辺り気にしていないようで風香と史伽と共に賑やかにやっているが。余裕があるというより、彼女はそこまで優勝にがっついていないのだろう。
「で、なんで俺まで?」
「参加してた私達じゃ、他のグループの試合は見れなかたアルヨ。横島師父」
 その代わりという訳ではないが、古菲とシロにダブルでせがまれた横島がアドバイザーとして連れてこられていた。
「といってもアドバイスできそうな事って無いぞ? そもそも本戦進出したのほとんど関係者だし。真名ちゃんとか高畑先生が強いってのも今更。リカードのおっさんについてはお前らの方が詳しいだろ?」
「それは、まぁ……」
 ネギ達に向けて言うと、彼らは顔を見合わせて複雑そうな顔をした。毎日の熾烈な特訓を思い出しているのだろう。
「『黄昏のナントカ』ってヤツは魔法界から来たんだろうが、魔法は禁止なんだろ?」
「詠唱が禁止ですね。ですから、あの人が無詠唱魔法を使えるなら手強いと思います」
「俺が同じグループだったが、流石に戦っている最中に観察する事はできなかったな」
「え〜っと、予選で使ってたかな〜?」
「なんだ見てないのか?」
「同時にやってたんだから、全部見られる訳ないだろ。ただでさえ見なきゃいけない場所が分かれてたのに」
「ああ、そりゃ仕方ねえな」
 ちなみに彼が見ていたのは古菲と真名のグループ、シロのグループ、楓のグループと身近な少女達ばかりである。
 他に見ていたといえば、最後まで勝負が決まらなかったAグループぐらいだろう。
「あの辻部長ってのは強いのか?」
 逆に横島が問い掛けると、豪徳寺達は再び顔を見合わせた。そしてしばし考えた後、言葉を選びながら答える。
「強い事は確かだ、一般人の中ではな」
「もう自分が一般人ではないとか言いたげだな」
「そりゃ元からだ。気とか使える人間を一般人と一緒にしちゃいかんだろ」
「……なるほど」
 出会った当初から一般人扱いしていなかった横島にとっては今更の話ではあるが、「自覚あったんかい」とはツっこまなかった。
「なんか古菲をライバル視してたみたいだけど」
「よく勝負を挑まれてたアル」
「おおっ! 先生と伊達殿みたいなライバル関係でござるな!」
「あいつとそんな物騒な関係にしないでくれ」
 なお、古菲も彼とライバルだと言われるのは遠慮したいとの事。
 最近は控えているが、古菲は元々学園都市中の格闘家達から挑戦される立場だ。
 その中の一人が辻部長なのだが、まともな勝負になった事は一度もないので、実力的にライバルと呼べるような関係ではない。
 それはともかく、この辺りの事情に関しては、表裏の事情に詳しいポチが説明してくれる。
「古部長は、いうなれば麻帆良における『表の頂点』なのだ。試合で気を使う事も無かったしな」
「つまり『一般人最強』?」
「それなんかビミョーアル」
 裏の実力者達を知った今では下手に言い返す事もできず、古菲が拗ねて唇を尖らせた。
「だが、我々が君に挑戦した事は無いだろう?」
「そういえば……」
「魔法使いじゃなくても、そういうのは気をつけてたんですね」
「どちらかというとオカルト業界関係者としての心得だな」
 ネギは話を聞いて感心した様子だが、この辺りは一般常識である。令子だって神通棍で一般人を殴ったりはしない。基本的には。
 何事にも例外はあるのだが、それは気にしないでおこう。

 ここまでは対策になっているかどうかはともかく和やかに話が進んでいた。
 しかし、横島が話題を同じAグループのもう一人に移そうとしたところで状況が変わってくる。
「田中さん……だっけ? 工学部の刺客とかいう」
「あんどろ……? とにかく! 霊波刀は効きにくいでござろうが、あの程度の動きなら無くてもなんとかなるでござるよ!」
 意気込むシロにネギも豪徳寺達もうんうんと頷く。
 アンドロイドだというのは驚いたが、それはそれとして戦ったら勝てるというのが彼等の評価のようだ。
「あんなんハジメちゃうッ!!」
 ところが、ここで今まで黙りこくっていた小太郎が、不意に会場中に響き渡る声を上げた。
 これには皆が驚き、騒いでいた少女組も、飲んでいた大人組も何事かと静まり返って彼を見ている。
「えっ? 何か怒るポイントあったか?」
 横島も何が起こったか分からず戸惑っていたが、小太郎は何も答えずにそっぽを向くばかり。
 仕方がないとため息をつき、説明役を買ってでたのはやはりポチだった。
「実は俺達は、悪魔パイパーと戦った際に、あれと瓜二つのロボットと共闘したんだ。あの時は田中ハジメという名だったが……」
 パイパーの名を聞いて令子がピクリと反応。皆も静かに聞き耳を立てている。
「直されて出てきたって事か?」
「いや、それがだな……」
 ポチは小太郎の方を一瞥し、予選の後に起きた事を語り始めた。

 予選が終わった後、本戦進出者は一旦建物内に集められてトーナメントの組み合わせが発表された。
 「大会委員会の厳正な抽選の結果」によって決められたとの事だが、超なので抽選と言いつつ各人の実力、人気、注目度を考慮して盛り上がる組み合わせにしたと思われる。
 ネギ達としてはどんな相手と戦う事になっても全力を尽くすだけなので、特に気負う事無くリカードも交えて談笑していた。
 しかし、小太郎だけはそれどころではなかった。田中さんが気になって仕方がなかったのだ。
 巨漢の彼が姿を見せると、すぐさまネギ達から離れて駆け寄る。
「よぉ、ハジメー! お前、生き返ったんか! 良かったなぁ!」
「…………」
 そしてフレンドリーに話しかけるが、田中さんは口を開く事はおろか、小太郎に視線を向ける事もなく、部屋の奥まで歩いていってしまった。
「なんやねん……おいコラ、ハジメ! 無視すんなや!」
「ちょっ、ちょっと待ってください! 小太郎君!」
 ムキになって前に回り込もうとする小太郎。その裾を掴んで止めたのは、田中さんの陰に隠れていたハカセだ。
「実は……」
 田中さんの生みの親である彼女が語ったのは、小太郎にとってショッキングな事実であった。

「詳しくは分からんが、田中さんというのは田中ハジメの後継機で、ハジメの戦闘データを移植する事はできたが記憶は戻らなかったそうだ」
「なるほど、そういう事か……」
 それはショックを受けても仕方がない。特に小太郎は、ハジメに友情を感じていたようなので尚更だ。
 ハカセ曰く、元々完膚なきまでに破壊された状態から回収したデータだったので、戦闘データを移植できただけでも幸運だったとの事。
 小太郎には申し訳ないが、これは仕方がない事だとポチは納得しているようだ。
 ひとつハッキリと言える事は、あの田中さんは田中ハジメほど強くはないという事だ。
「で、誰と戦うんだ?」
「龍宮真名だ」
「そりゃ、次の試合に進む事は無さそうだな……」
 自分は戦えそうにない。その事実も小太郎を鬱屈させている原因だった。
 しばし皆が無言になり、空気が重くなる。
「ちょっとちょっと、盛り上げていきましょうぜ!」
 せっかくのパーティーなのにこれはまずいと思ったカモは、大声を張り上げて空気を変えにかかった。
「そうだ、兄貴と一緒のグループだったクウネルってヤツの情報、何か無いっスか?」
「クウネル?」
「フードを目深に被った長身の人です。結構目立ってたと思うんですけど」
「ああ、エヴァが何か言ってたな。呼ぶか?」
「呼ばんでいい、もう来ている」
「うぉぅ!?」
 いつの間にかエヴァが横島の背後に近付いてきていた。
 横島の両隣は古菲とシロが押さえていたので、彼女はさも当然のように彼の膝の上に腰を下ろす。
「あの男についてひとつ思い出したというか、思いついた事があってな」
「幽霊みたいなもんだとか美神さんと言ってたけど、その事か?」
「ああ、あれはおそらく分身のようなもので、ダメージは完全無効、攻撃するのは自由自在という反則じみた存在になっているが……そっちはどうでもいい」
「いや、よくねーっスよ。それ反則じゃないっスか」
「あの分身を一瞬で消し去れば済む」
 エヴァはさらりと答えたが、かなり無茶な内容だ。
「霊波刀でもダメでござるか?」
「霊力か……それはやってみないと分からんな」
「なるほど! やってみるでござる!」
「ああ、効いたら儲けものだ……って、違う! そうじゃない! 私が思いついた事というのは別だ! だがやるとなったら思い切りやれッ!!」
 それはそれとして、効いて倒されるところを見てみたいエヴァであった。
 とりあえず、興奮気味の彼女を鎮めるため、横島が頭を撫でながら問いかける。
「で、思いついた事って何なんだ?」
「ん、ああ……あの男は『千の呪文の男(サウザンドマスター)』の仲間なんだが……」
「えっ!? そうなんですか!?」
 驚いて身を乗り出したネギを、エヴァは手で制止する。
「落ち着け、奴は表ではほとんど名を知られていない。にも関わらず偽名で参加してきたという事は、何か企んでいるのは間違いないだろう」
「悪巧み……って事アルか?」
「さてな、あいつは性格が悪いから、単に悪戯目的だったとしても私は驚かん」
 酷い言い草である。
「ネギの坊やには、後々接触してきて正体を明かすだろうが……」
「が?」
「ムカつくから、先に私が正体を教えておいてやる」
「……思い出したって、まさかそれっスか?」
「悪いか?」
 しかし、エヴァは悪びれない。
「とにかくだ、奴の名はアルビレオ・イマ。ナギの元仲間だ。どうして麻帆良にいるかまでは分からんが……その辺は近右衛門が知っているだろう」
「学園長が……聞いても教えてくれそうにないですね」
 多少は教えてもらえるかも知れないが、肝心な部分ははぐらかされるのがオチだろう。
「その辺は諦めておけ……で、ここからが本題なのだが」
「まだあるんですか?」
「ああ、これが一番重要だ。これは坊やだけでなく、お前達全員に関係する事だからよく聞いておけ」
 それを聞き、何事かと思いつつも身構える面々。
 その姿を見回して満足気に頷いたエヴァは、皆に向かって力強くこう言い放った。

「奴をクウネルと呼ぶ事は許さん! わざわざ名乗っている偽名など無視して、アルビレオと呼んでやるがいい!!」

「……それだけか?」
「悪いか?」
 呆れた声で問う横島。しれっと返すエヴァは、やはり悪びれなかった。





 一方その頃麻帆良の某所では、こんな会話が繰り広げられていた。
「なぁ、超。私の対戦相手が、あのロボットになっているのは……」
「いや〜、思てたより女性参加者が少なかたネ。せっかくの脱げビームなのにお披露目の場も無いというのはまずいヨ」
「オイ」
「かえでサンなら不意打ちでも何とかしそうだけど、万が一脱げても平然としてそうだし、観光客の方はあの美神令子の関係者みたいだから麻帆良のノリが通じるかどうか分からないネ」
 田中さんの生みの親はハカセだが、共同研究者である超も無関係ではない。そのため彼に搭載されている武装についても知っていた。
 そう、対象の衣服だけを吹き飛ばす通称『脱げビーム』の存在を。
「……私に脱げろと?」
「こう、見えそで見えないギリギリを狙えないかナ?」
「断る」
「ボーナス弾むから、ネ? 大会を盛り上げるためと思って」
「だが、断る。横島ならわざとやっている事を見抜きそうだからな。後で叱られるのが目に見えてる。もっと自分を大事にしなさいとか言ってくるぞ」
「…………」
「普通に試合で盛り上げればいいさ……って、どうした?」
「……意外と好感度高い?」
「……仕事のパートナーに選ぶくらいには、ね」
 にやにやとからかおうとした超だったが、真名はそれをサラリとかわしてしまった。
 大会を盛り上げるためにトーナメントの配置を決めた超だったが、何でもかんでも彼女の思い通りにいくという訳ではないのである。





つづく


あとがき

 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

前へ もくじへ 次へ