topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.163
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「こいつ……『究極の魔体』みたいだ」
 そう呟いた横島がしばらくその巨体を見上げていると、不意に背後が騒がしくなった。何事かとアスナ達の所に戻ってみると、そこは息も絶え絶えな刀子、シャークティ、美空、ココネの別働隊の姿があった。
「ちょっ!? 横島さん、見ちゃダメ!!」
 ほぼ全裸の姿で。
 脱げビームを食らったのだろう。特に先頭の刀子は皆の盾になっていたのか、スーツはほとんど残っておらず、下着も辛うじて紐が残っているレベル。刀子の色白の肌と、大人の女性の充実した肢体をまざまざと見せつけていた。
 背後の通路は、彼女達をこんな風にした『田中さん』軍団が迫っている。
 そこに現れたのが横島だ。流石の彼女も、最近少なからず気にかけている横島を前にしては冷静ではいられないようで、思わず立ち止まり年頃の少女のように頬を紅潮させた。
 その艶姿を脳裏に焼き付ける横島。湧き上がる煩悩。刀子はおろかアスナでも、そこに灼熱のマグマが噴き上がっているような錯覚を覚えた。
「皆、伏せて!!」
 そう言うやいなや、刀子はその場に倒れ伏す。続けてシャークティが美空とココネを押し倒す形で倒れる。
「煩悩ビームッ!!」
 次の瞬間、横島の額から霊波砲が放たれた。凄まじい霊力の奔流が通路からなだれ込もうとする『田中さん』達を穿ち、紙切れのように吹き飛ばす。
「あなた達も伏せて!」
「えっ? あ、はい!」
「ふおぉおぉぉぉーーーッ!!」
 アスナ達も慌てて伏せると、横島は煩悩ビームを放ったまま身体を動かし、まだ起動していないロボット達を横薙ぎにした。
 後に残るのは上下に分断されたクズ鉄の山。
 ゆうに100体以上はあったであろうロボット軍団、煩悩の光によって全滅である。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.163


「もういいですよ〜」
 その後、アスナが体を張って目隠ししている内に、刀子達は無事なジャンパーなどで身体を隠した。その間にも横島は霊力を回復できて一石二鳥だ。
「神楽坂、もう離れていいぞ」
「……もうちょっと」
「さっさと離れろっ!」
 千雨に叱られ離れるアスナ。
 という訳でひとまず落ち着いたが、素肌にボロボロになったジャケットだけという姿に、横島がこっそり霊力を回復させているのは秘密である。

「で、結局ここは何だったんだ?」
 横島がそう尋ねると、まず夕映が答える。
「おそらく格納庫ですね。あの『田中さん』軍団をここに隠していたのでしょう」
「……壊しても大丈夫なんだよな?」
「それも大丈夫だと思います」
「この辺りは関東魔法協会のテリトリーよ。ここに兵器を隠し持ち、魔法使いと関係者を襲った。むしろ超鈴音を捕まえて調べるのに十分過ぎる証拠だわ」
 シャークティの説明を聞き、横島は納得した。
 令子がガルーダと戦った時も、相手は企業でその施設を破壊したが、賠償請求が来たみたいな話は聞いていない。今回も似たようなケースと考えれば良いのだろう。
 超の目的が何なのかというのは気になるが、それについてはこれから調べるしかない。
 改めて周囲を見回してみると辺りは瓦礫の山となっている。
 人型の『田中さん』が少々精神的に優しくない状態になっているが、断面からはみ出るコード類が、それがやはり機械である事を教えてくれる。
「千雨ちゃん、調べてみて何か分かったか?」
「スペックと、電力だけじゃなくて魔法力も動力にして動く量産型ロボだって事が分かった。多脚の方も似たようなもんだ」
「魔法力も?」
 千雨はその疑問には答えられないので、代わりに夕映が推測で答える。
「脱げビームに使っているんじゃないですか?」
「ああ、あれ魔法の一種か」
「科学はそこまで進歩してないです」
「超でも?」
「…………多分」
 断言はできなかった。
 流石に全てを持ち帰る事はできないので、重要そうなパーツだけを見繕って持って帰る事にする。荷物持ちは横島、選別するのは千雨だ。
 彼女も造詣が深いのはロボットアニメばかりで実際に詳しい訳ではないが、『Grimoire Book』を使えば何のためのパーツであるかを知る事ができる。千雨は脱げビームを生み出す部分、そのエネルギー源を中心に持ち帰ってもらう事にした。

 千雨達が持ち帰るパーツを選別している間、美空はココネを肩車して部屋の中を見て回っていた。サボっているのではない。まだ動くものがいないが調べる、れっきとした見回りだ。
「うひゃ〜……ホントすごいね、横島さん」
 しかし動きそうなものは残っておらず、ことごとくスクラップになっている多脚ロボを見て、美空は彼の煩悩の凄まじさに戦慄を覚える。
 霊能力者としての見識も持つシャークティの下で学んでいる彼女だからこそ分かる。そもそも、ロボット相手に霊力でここまでの物理的な破壊力を発揮するというのが規格外もいいところだ。こんな事ができるのは、一流GSの中でも一握りしかいないだろう。
 その上、エネルギー供給もお手軽なのだから手に負えない。その供給方法を思い浮かべた美空は、背筋が寒くなる。
 もっとも彼の性格ならば、女性が無理やり「供給」させられるような事になればかえって煩悩が萎んでしまうだろう。これまでの付き合いでそれが分かっているのが彼女にとっての救いかもしれない。 

 それはともかく、一番奥の究極の魔体モドキだけはいまだに健在だった。
 地底湖のほとりに立った美空達は、二人でその巨体を見上げる。
 胴体部分が横一文字に焼け焦げ、塗装が禿げている。先程の煩悩ビームの痕だろう。
 しかしそれだけで傷はついていないようだ。信じられない頑丈さである。
「奥のアレは特別頑丈みたいね」
 いつの間にか隣に立っていたシャークティが呟いた。
「ロボ対霊力って考えると、それが普通じゃないっスか?」
「……そうね」
 千雨に調べさせようとしたところ、表面の装甲部分しか調査できなかった。土偶羅魔具羅がいれば何か分かったかもしれないが、今は仕事中でデータのやり取りしかできない。仕方がないので夕映が写真を撮ってデータを土偶羅魔具羅に送っておく。
 これではデータ不足だ。分かった事といえば、凄まじく頑強な装甲だという事と、多少の魔法は軽く弾いてしまう塗装がされているという事。明らかに対魔法使い戦を想定している。これだけでも超の危険度は上がるというものだ。
 これを破壊できるとすれば京都神鳴流だろう。そう考えたシャークティは、早速刀子を呼ぶ。
「……なるほど、試してみましようか」
 話を聞いた刀子は早速水面を駆けて飛びかかり、神鳴流奥義『斬岩剣』を叩き込む。ここまで多脚ロボでも一刀両断にしてきた一撃だ。
 大人として横島に頼ってばかりではいられない。そんな意地も込めた渾身の一撃。しかしそれでも究極の魔体は斬る事ができず、横一文字の痕の上に拳大にも届かない小さな穴を開けたのみだった。これでは破壊するまでにどれだけ時間が掛かるか分かったものではない。
 できれば壊してしまいたいが、それも難しいかもしれない。シャークティと刀子はそう考えた。
 まだ超の拠点も見つけていないのだ。そちらを優先すべきか? いや、この究極の魔体モドキも放っておいていいものではない。
 ならば再び二手に分かれるか? それもダメだ。ここのロボ軍団は全滅させたとはいえ地下通路の方にどれだけ残っているか分からない。ここからは合流したまま動くべきだろう。
 では拠点の捜索と究極の魔体モドキの破壊、どちらを優先すべきか? 思考が堂々巡りになりかけたところで、救いの手を差し伸べるものが現れた。
「傷がついたなら、なんとかなると思いますよ」
 横島である。
 その手に持つのは『壊』の文字が浮かび上がった文珠。これをあの小さな穴から中に放り込もうというのが彼の案だ。
「あ、それなら私が行ってくるよ。横島さん、ココネをお願いね」
 ここで珍しく率先して手を挙げたのは美空。後で何もしなかったと言われるのを防ごうとする打算があるのは秘密である。
 肩車していたココネを下ろして横島に預けると、靴のアーティファクトを発動させて『壊』の文珠を手に水面を駆け出した。
「レイアップシュー!」
 そしてバスケットボールのレイアップシュートの要領で傷口に文珠を放り込み、着地と同時に踵を返してダッシュで戻ってくる。
 彼女が陸地にたどり着くとほぼ同時に一瞬傷口から光が漏れ、次に節々から黒い煙が上がり、そして巨体が地底湖に崩れ落ちた。
 響き渡る轟音、大きな波が生まれ、横島達は慌てて飛び退き迫る水を避けた。幸い多少の飛沫を浴びるだけで済んだ。なお、真っ先に一番遠くまで逃げたのは美空である。
 轟音が静まると、しばし皆が無言になった。
「……あれも一部持って帰るのか?」
「いや、流石に無理ですよ」
 その沈黙を遮ったのは横島とアスナだ。
 流石にあの巨体は、一部でも持ち帰るのが難しい。内部だけ『壊』しているので、一部だけ取り外すのも難しいだろう。
「任せて」
 そこで刀子が駆け出し、斬岩剣を一閃。装甲の端を斬り落とし、それだけを持ち帰る事になった。もちろん持つのは横島だ。
 そして部屋を出た一行は、周囲を警戒しながら来た道を引き返していた。
 横島達は上の階から飛びおりて来たが、刀子達は徒歩でこの階まで下りて来たそうなので、まずは彼女達に案内してもらう。
 目指すは横島達が最初に『田中さん』の集団と遭遇した場所だ。以前小太郎達がハカセと出会った時の事を省みるに、やはりあの近くに超一味の拠点があると考えられる。横島達から話を聞いた刀子とシャークティはそう判断した。おそらく『田中さん』達は、超一味の拠点を守る番人だったのだと。
 幸いロボ軍団の数は少なく、幾度かの戦いを経て一行はかつて小太郎達が戦っていた場所までたどり着く事ができた。やはりロボットが相手となると、斬岩剣のある神鳴流が強い。
 そこを基点に超の拠点を探す。ロボットの数は少なくなったが、油断はせずに全員一緒にだ。
 調査を担当するのは千雨と夕映。ちなみに土偶羅魔具羅によると、写真からは断言できないがあの究極の魔体モドキは、本物ほどの性能があるとは思えないそうだ。
 あちらも忙しいので手が放せないそうだが、大変そうなので処理能力の一部をこちらに回してくれるとの事。という訳で、夕映も土偶羅魔具羅を使って調査に参加している。
「あったです!」
 そのおかげか夕映が隠し扉を発見。機械制御の扉だったので千雨がハッキングすると、すぐに開ける事ができた。
 扉の向こうは通路になっていて、横島が先頭となり進んでいく。最後尾は『田中さん』の追撃を考えて刀子だ。
 それから追撃が二度ほどあったのみ。どちらも刀子が一刀両断で斬って捨てた。
 どこに向かっているかは分からないが、刀子曰く、方角と歩いた距離から考えて龍宮神社に近付いているのではないかとの事だ。
 トラップはいくつか仕掛けられていたが、ことごとく千雨が察知して無力化していく。魔法使い相手という事で機械制御だったのだろうが、それが裏目に出て千雨が天敵になってしまったようだ。
 その後は順調に進み、やがて上へと続く階段にたどり着いた。階段を登った先には扉がある。
「あれ、開かないぞ?」
「斬っていいわよ」
「いえ、これも機械制御です。ハッキングできます」
 刀子自身が斬りに来る前に、こちらも千雨が開く。
 そして中に入ると、これまでとは打って変わって普通のコンピューター室が現れた。全てのパソコンが起動している。
 千雨と夕映でそれらを調べたところ、ここから情報操作を行っていた事が判明した。
 操作と言ってもネット上の話題の誘導などで、魔法使いの存在を示唆するような噂を流していたようだ。それ以外にもネギの過去などの情報が流されている。
 壁一面のモニターには複数の角度からの映像で『まほら武闘会』の舞台が映されている。
 部屋を見回しても誰もいないが、どこか人の気配が感じられ、先程まで誰かがいたように感じられた。
 扉は入ってきたものも含めて二つある。この部屋にいた者は、もう一つの扉から出ていったのかもしれない。
 しかし、それを追うのは後だ。千雨と夕映、それにシャークティが手分けをしてデータを抜き出していく。解析は後回しだ。今は手早く回収を進めなければならない。
 その様子を横目に部屋を調べていた高音が、髪をかき上げながら「逃げたのかしら?」と呟く。
「地下の騒ぎに気付いていたなら当然の対応ですね」
 愛衣がそれに追随したが、千雨は首を傾げた。
「……いや、読んでたんじゃないかな?」
「どういう事です?」
「この情報操作、結構派手にやってる。あの超が、これでバレないと思ってたとは思えないんだ」
「バレる事を承知でしていたと?」
「ああ。だから、ここは囮じゃないかって……」
「トカゲのしっぽ……という事ですか?」
 愛衣の問いに、千雨はコクリと頷いた。
 確かに、この場所については小太郎達がハカセと会ったという情報があった。調べられたら見つけられるのは時間の問題だっただろう。あの超がそれを見逃していたとは考えがたい。
 ここはトカゲのしっぽだとすると、しっくりくる。
 いつでも切り離せるしっぽだからこそ、バレバレな情報操作もできたのだ。
 ここにあるデータがどれだけ役に立つが分からなくなってきたが、かといって放っておく訳にもいかない。皆無言になって作業を続ける。

「横島君、あなた霊視はできる?」
「人狼族並とはいきませんけど、少しなら」
「私達も調べてみましょう」
「何人いたかぐらいなら分かるかも知れませんけど、それ以上の事は知ってる人でもないと分かりませんよ?」
「十分よ」
 という訳で、横島と刀子は床に手を当て霊視を始める。
 アスナも手伝いたかったがまだ霊視はできないため、仕方なく『ハマノツルギ』を手に扉を見張る事にした。『田中さん』が来るかもしれない入ってきた扉はアスナ、美空、ココネが、もう一つの扉は高音と愛衣が担当する。
「……横島さ〜ん、何か分かりますか〜?」
 気になるのか、アスナが小声で問い掛けた。
「二人……いや、三人みたいだな……」
「そうね……超と葉加瀬と、もう一人……これは分からないわ」
 アスナ達は驚いて顔を見合わせた。それが超一味と呼ばれる面々ならば刀子にも分かったはずだ。
「横島君は分かる?」
「この気配は……どこかで…………ッ!?」
 目を瞑って気配を探っていた横島が、不意に目を見開いた。
 分かったのだ、刀子の知らない三人目の気配の主が。

「この気配…………もしかして、フェイトじゃないか?」

 彼の口から紡がれた名は、フェイト。フェイト・アーウェルンクス。
 超一味としては予想外だが、麻帆良祭を巡るトラブルとしては予想して然るべき名だった。





つづく


あとがき

 麻帆良学園都市の地下水道は意外ときれい。
 魔法使い達の隠し通路として使われている。

 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

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