topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.206
前へ もくじへ 次へ


 妙神山で一泊した横島は、翌朝東京の自宅へと戻った。
 せっかくの機会なので、自分も修業するという千草を残しての一人での帰宅だ。
 ちなみにパピリオに空を飛んで麓まで送ってもらい、そこからは電車である。
 パピリオはその後、麓の町のスーパーでお菓子を大量に買い込んで帰って行った。地元では結構有名になっているらしい。
 なんだかんだで上手くやっているのだなと思いつつ、横島は帰路についた。

「月詠が妙神山で修業する事に!? 私も行ってきます!!」
「せっちゃんは受験勉強やで〜」
 なお帰宅後、話を聞いた刹那が文字通り妙神山へ飛んで行こうとしたが、木乃香に意外と素早い動きで腕を掴まれて止められてしまった。

 刹那はしゅんとなって自分の席に戻る。
 実際のところ、刹那の成績はあまりよろしいものではない。バカレンジャーほどではないがクラスでも下位だ。
 それでも本人は気にしていなかったのは、自分の役割はあくまで近衛家の令嬢である木乃香の護衛であって勉学は二の次と考えていたからである。
 事情を知る学園側も、赤点を取って追試を受けるほどではないのだからと放置していた面がある。
 しかし、今彼女達は近衛家から離れて独り立ちしようとしている。
 木乃香としても、刹那には戦うだけの人になってほしくないと思っていた。そのためには勉強についても今まで通りにはいかないのだ。
「ていうか、せっちゃん。期末のクラス順位って確か……」
「言わないでください! 平均点は、むしろ上がってたんですから!!」
 アスナ達の成績が大きく上がった結果、順位が下がった者がいたと言っておこう。
 仮に新生バカレンジャーを結成する事になった場合、刹那のメンバー入りはほぼ確実であるとも。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.206


 その様子を見ていたアスナが、ふと疑問を口にする。
「そういえば、月詠は六女に行くつもりはないのかしら?」
「推薦狙いって言ってたわ。霊能力者としての自信があるから、そっちを狙うって」
 それに答えたのは、麻帆良祭前は一緒にいる事が多かったアーニャだ。
「それならば私だって……」
「せっちゃん、そんな事言うてたら、高校入ってから勉強についていけへんようになるで? ウチら近衛家からは離れるんやから、今まで通りって訳にはいかへんよ?」
「…………はい」
「まぁ、推薦で入学できたけど、落ちこぼれました〜ってのはねぇ」
 アスナ達が真面目に勉強しているのも、そういう面が大きい。
 彼女達の中には、六女は全国からGS候補のエリートが集まる学校というイメージがあるのだ。そんな中で落ちこぼれになるのは避けたいのだろう。
 実のところ除霊科はそこまで難関という訳でもないのだが、入学後の事を考えれば勉強しておくに越したことはない。
「とにかく今は、受験勉強がんばりましょっ! 頑張れば結果はついてくるわ!」
「は、はい!」
 しっかりと結果を出しつつあるアスナだけに説得力があった。その言葉に励まされ、刹那は妙神山行きは諦めて真面目に受験勉強に専念する。
 せっかく東京の、横島の家に来たというのに勉強合宿になってしまっているアスナ達。来年四月に、その努力が報われる事を祈るばかりである。

「って言ってますわよ、一文字さん」
「耳が痛ぇ……」
 なお、一連の会話で一番ダメージを受けていたのは、傍からその会話を聞いていた一文字魔理であった。
 彼女も霊力の強さを買われて六女の除霊科に入学したものの、勉強について行けずに落ちこぼれになっていた身だ。
 最近はおキヌとかおりの協力で持ち直してきたものの、まだまだ要精進というのが現状であった。
 その点月詠は、その辺りを一切気にしないタイプだ。魔理以上の図太さを持っていると言えるかもしれないが、それについては触れないでおこう。


「そういえばアーニャちゃんも、おっきくなったら六女に入るの?」
「いや、私メルディアナ魔法学校を卒業してるし」
 将来的にはGSを目指す事を考えてなくもないのだが、それでも横島の下で除霊助手をしていた方が受験資格を得るのは早いだろう。
 という訳で彼女は、アスナ達のように受験勉強に追われていなかった。
 こちらはこちらで魔法学校の卒業試験を終えたので、今後の事を考えなければいけない立場なのだが、それは魔鈴などの先人達から話を聞いて決めるだろう。

「エヴァちゃんは……そもそも高校に行きそうにないわね」
「学生生活長いらしいからなぁ」
 エヴァと茶々丸に関しては、請われでもしない限り高校に進学する事は無いだろう。
 ピートのようにGS資格取得を目指すかどうかは微妙だが、やるならばアーニャと同じように除霊助手を経ての受験を目指すと思われる。

 意外なところでこの件について悩んでいる者がいた。愛衣である。
 彼女は元々、高音と同じ聖ウルスラに進学する事を考えていた。しかし横島と知り合い、オカルト業界を広く知る事になった。
 そして、ただ魔法使いを目指すよりも、魔鈴のような魔法使いのGSになった方が良いのではないかと思うようになっていたのだ。
 しかし彼女は中学2年生、来年4月以降も麻帆良に残る身だ。横島は魔法使いの情報公開が終われば東京に戻ってしまうので、除霊助手を経ての受験というルートが使いにくい。
 麻帆良学園に除霊科ができればいいのだが、残念ながら今のところそんな話は出ていない。
 そのため彼女は再来年の中学卒業後、麻帆良に残るか東京に来るかの選択を迫られていた。
 幸い3年生のアスナ達ほど受験勉強に追われていないため、アーニャと一緒に魔鈴の仕事を見学しに行く事になっている。
 彼女は彼女で、東京での夏休みを有意義に過ごす事になるだろう。

 なお、一番頭を悩ませているのは彼女である。
「兄ちゃん、麻帆良で何があったんだよ……」
 そう、魂の妹・薫だ。
 兄が麻帆良から女子中学生集団を連れてくると聞いて心躍らせていた彼女。しかしいざふたを開けてみると、その少女達は真面目に受験勉強に励む優等生集団だったのだ。
 アスナ達を優等生と呼ぶのは少々語弊があるかもしれないが、薫から見れば毎日真面目に勉強している時点で優等生なのである。
 兄とはかけ離れているように見える少女達。薫が兄に何かあったのかと心配するのも無理はなかった。


 さて、そんな妹に心配されている横島はというと、六女の生徒達の修業を見に魔法の水晶球へと移動していた。彼は受験勉強については協力できないのだ。
 夏休みという事で帰省する者もあり人数は減っているが、それでも毎日誰かが来ている。特にかおりは毎日通っていた。
 どうやら雪之丞が、修業してくると言って行方をくらませているらしい。あちらはあちらで麻帆良祭の一件で思うところがあったのかもしれない。
 その話をするとかおりが不機嫌になるので、彼女の前で雪之丞の事は禁句である。
 その辺りの事情をよく知らないアスナ達にとっては、修業の合間に勉強を見てくれる良い先輩であった。

 閑話休題。

 横島が麻帆良に行って三か月ほど。六女の少女達はその間も横島から習った基礎修練をしっかりと続けていたようだ。
 かおりは精神状態の問題で分かりにくいが、魔理の方は霊力が安定している事が見て取れる。エミの下でも修業しているが、実戦に放り込まれる事の方が圧倒的に多いため、基礎修練が非常に役に立っているそうだ。
 他に来ているのは、一年生の内にGS資格を取った早生成里乃。実戦の場に出る機会があるという意味では、彼女の立場は魔理に近い。こちらも三ヶ月の間に何度か除霊を経験したそうだ。
「あれ? お母さん、引退したんじゃ?」
「ええ、ですから……冥子先輩の助手として……」
 そう言ってすっと視線を逸らす成里乃。色々と苦労したのであろう。
 不幸中の幸いというか、冥子も後輩の前では良い格好をしたいと考えるのか、式神の暴走は無かったらしい。六道夫人が簡単な仕事を回したのもあるだろう。
 緊張感はあったようで、「精神が鍛えられた」と彼女は言う。
 今日はかおりと魔理が模擬戦をしているので、成里乃がマンツーマンで修業を見てもらう事となった。
 こちらはこちらでゆっくり組手をしていくのだが……。
「攻撃する右腕に霊力集中させ過ぎ。左腕の防御が薄くなってるぞ」
「えっ?」
 成里乃が神通扇を武器にしているのに対し、横島が手にしているのは式神ケント紙と同じ紙でできたハリセン。これでもれっきとした除霊具であり、指導用の武器として厄珍堂で取り扱っていたりする。
 叩かれても大したダメージは無いが、霊力が薄くなったところを的確に突かれて動きが止まってしまう。思い通りに動けない成里乃は、段々と息が荒くなってきていた。
 GS資格を取得し、何度か現場を経験してそれなりに自信がついていた彼女だったが、まだまだ未熟であると思い知らされてしまった。
「よ、横島さん、霊視の精度、上がってません……?」
「そ、そうか? まぁ、俺も麻帆良でサボってた訳じゃないからっ!」
 そう言って笑って誤魔化すが、原因は明らかである。
 そう、アスナ達と毎晩のように行っていた霊力供給の修業だ。
 チャクラを傷付けず気持ちよくする超人的な技術。それを可能とするギリギリのラインを見極める目。
 それをもってすれば、霊力の集中によって薄くなった部分を見抜く事など朝飯前なのである。
 そんな裏事情を知らない成里乃は、素直に横島を尊敬の目で見る。対する横島はというと、その視線を素直に受け止める事ができずに目を泳がせるのだった。いつもアスナ達にしている事を考えれば当然であろう。
 この後、二人の様子を見ていた魔理が稽古をつけて欲しいと挑んできて、同じように霊力が薄くなったところを叩かれていた。
 挑んでは来ずに、その様子をじっと見ていたのはかおり。こちらは冷静に横島が新たに身に付けた技を見極めようとしている。
「あれ、弓の水晶観音なら突破できる?」
 隣で息を整えていた成里乃が、かおりにそう尋ねてきた。
「どうかしら……? 攻撃するのに霊力を集中して、偏りができるのは水晶観音も変わらないわ」
 そう、それ自体はかおり達だけでなく令子でも変わらないだろう。霊力を集中させるというのは、そういう事だ。
「だから、霊力が偏るのは仕方がないとして、薄くなったところを狙われても、自分の攻撃をヒットさせる事に集中すれば……」
 かおりのこの考え自体は間違っていない。たとえば雪之丞あたりならば体勢を崩しながらも強引に一撃を食らわせてくるだろう。
 しかし、正しくもない。実際に食らった成里乃は、それが分かっていた。
「……かおりも一度、稽古をつけてもらった方がいい」
「どういう事かしら?」
「多分、今想像している以上に『崩される』から」
 横島と魔理の模擬戦を真っ直ぐに見据えながら言う成里乃に、かおりは訝しげな視線を向けた。
 そこまで言うのならばと、この後かおりも水晶観音を使って横島に挑んだ。
「なっ!? 腕が……!?」
 結果、かおりは攻撃を止められ、体勢を崩され、挙句の果てに水晶観音の腕をハリセンでへし折られてしまった。もちろん生身のそれではなく、霊力で作った方の腕だが。
 霊力が薄くなった瞬間に、関節部分を狙われた。気を付けてはいたが、無意識の内に霊力が偏ってしまったようだ。
 実際に体験してみて分かった。まるで急所を突かれたような感覚。これはかおりが考えていた以上に効果がある。
 この不思議な技を食らっているかおり達の感覚は、一言で言えば「勝負になっていない」だ。武術の達人に勝負を挑むも「足元がお留守ですよ」と軽くあしらわれている状態というのが一番近いかもしれない。
 これが除霊に必要な技術かといわれると疑問ではある。ただ、凄い技術である事は確かだ。おそらく令子達にも、これはできないのではないだろうか。
 一つ言える事は、耐えるにしろ、避けるにしろ、この技を凌いで攻撃を繰り出す事ができるようになれば、彼女達はまたひとつレベルアップできるだろうという事だ。

 この後三人は、レベルアップを目指して何度も横島に挑んだが、お互い疲れ切ったところで魔理がパンチを入れるのがやっとだった。
 もっとも体勢を崩しながら闇雲に撃ったラッキーパンチだったので、本人は納得いかなかったようだが。
 3人はリベンジを誓いつつ、夕食後に帰宅。
 今日の話は他の面々にも伝わり、明日からまた横島に勝負を挑む者が現れるだろう。


 ちなみに魔理は、今日の事をタイガーやエミにも話した。
 するとタイガーは素直に感心した様子だったが、エミの方が微妙な顔をしていた。
「どうしたんですか?」
「いや、まぁ……修業として有効なのは確かなんだろうけど……」
「けど?」
「そういう相手だったら、まず遠距離から攻撃する事を考えるワケ」
 勝つ事を考えるならば距離を変えるべき。それがエミの意見だった。
 修業なのは分かるが、はたして魔理はそこまで考えていたのだろうか。実戦でも何も考えずに相手の得意距離で戦わないだろうかと心配になったようだ。
 その事を指摘すると、魔理は笑いながら視線を逸らした。
 それを見たエミが、更に厳しい、実戦的な修業を課す事にしたのは言うまでもない。





つづく


あとがき

 『GS美神!!極楽大作戦』の面々、『絶対可憐チルドレン』の面々に関する各種設定。
 超鈴音・茶々丸に関する各種設定。
 魔法のに関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、『絶対可憐チルドレン』クロスオーバー、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

前へ もくじへ 次へ