topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.26
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 にぎやかにホテルを出発した総勢十六名の女子中学生一同。何故か引率する様な形になっている横島は、終始彼女達に圧倒されっ放しだった。
 彼女達の目的地は『時代劇村』、『太秦シネマ村』内にある時代劇を中心としたテーマパークだ。到着した一同がまず向かったのは『変装の館』、せっかく来たのだから皆で着物を借りて着てみようと言うのだ。
「丁度良かった、私達も向いましょう」
 そう言って先陣を切ったのは刹那。木乃香を護る事を第一に考える彼女だ、当然遊びたくて言っている訳ではない。
「あまり大きな声では言えませんが…」
 そう前置きして刹那は説明する。
 彼女の所属する『京都神鳴流』は、その名の通り京都に本拠地を置く戦闘集団だ。GS協会と違って京都に限定されるが、組織的なサポートも備えている。
「実は…『変装の館』には神鳴流剣士のために本物の防具も用意されているのです」
「なんでまたそんなとこで」
「一般人の目に触れないため…木を隠すなら森の中、です」
 とは言え、裏側に属するため、一般人の目が届く所で表立ってサポートは行っていない。
 その性質上、昔ながらの防具を身に付ける事が多い神鳴流。そんな彼らにとって「時代劇の扮装」と言うのは、日常にあってはならない本物を隠すための『森』に相応しいのだ。
 全員がここを利用している訳ではなく、自分で所持している場合もあれば、表向きはただの骨董屋が裏では武具を扱っていたりもするそうだ。『変装の館』はあくまで貸し衣裳、不意に強敵と戦う事になった者が主に利用する『レンタル専用』の場所らしい。
「表も裏も貸し衣裳なのね…」
「て言うか、わざわざ入場券買うアルか?」
「ここならば武具を身に付けて外に出ても怪しまれないと言うのもありますので」
 『こちら側』にいると忘れてしまいがちだが、本来日本の法律では刀を持ち歩くと犯罪なのだ。ある程度の暗黙の了解があるとは言え、一般人の目もあるため、陰に隠れながら活動を行う事が必須となる。現に刹那の『夕凪』もかなりの長さがあるが、木刀を模した仕込み刀となっている。

 刹那もあまり詳しくは語らなかったが、『時代劇村』と言うのはその性質上、神鳴流が身を隠すには何かと都合が良く、変装の館以外にも色々な場所に入り込んでいるらしい。場合によっては関係者用の入り口も利用できるそうだ。
 アスナの目の前では、桜子、美砂、円の三人がパンフレットを手に、忍者ショーを見に行こうと盛り上がっているが、もしかしたらそのショーに出演している忍者も神鳴流の関係者なのかも知れない。そう考えると、楽しげなテーマパークも一転してピリピリと張り詰めた雰囲気に包まれている、ような気がしてくる。

「横島さんと古菲もどうぞ」
「いや、俺はいい。その分アスナをガチガチに固めてくれ」
「私も、チャイナが戦闘服だから遠慮するアル」
 刹那は四人分の防具を揃えるつもりだったようだが、二人はそれを丁重に断った。
 古菲は自分の服装にこだわりを持っているし、横島にとって敵の攻撃は防ぐものではなく避けるもの。そのためには余分な重量は必要ない。
 刹那はその考え方は危険だと感じたが、古菲のこだわりを否定する事もできず、横島についても以前仕事仲間の龍宮真名から彼は至近距離から撃たれた銃弾すら避けてしまうと聞き及んでいたので、素直に二人の意見を受け容れて引き下がる事にする。

「アスナさん、キョロキョロしてないで行きますよ」
「あ、うん」
 刹那に促され変装の館に入るアスナ。
 他のクラスメイト達も後に続くが、二人は彼女達を置いて更に奥へと進んだ。
「あ、せっちゃん…」
「おーい、木乃香ちゃん。こっちに来てくれ」
「え、あ…うん、ちょっと待ってや」
 昨日から刹那にべったりの木乃香は横島が引き止めた。
 動きやすい衣裳を選んで欲しいと言っているが、これは本物の防具を受け取りに行った刹那達に近付けないためと、二人がいない間は横島が木乃香のガードをするためだ。

「ねえねえ、これなんかどうかにゃー?」
 二人で衣裳を見ていると、大仰な着物を持った桜子が近付いてきた。
 所謂「バカ殿」の衣裳だ、横島に着て欲しいらしい。いつもの彼ならば関西人の血の命ずるまま、笑いを取るためにそれを着ていただろうが、今はそうはいかない。ゴテゴテとした派手な着物はいかにも動きにくそうだ。
「い、いやー、それも面白そうだけど、もうちょっと動きやすいのがいいかなー、なんて」
「動きやすいのがいいの? アスナみたいな事言うんだねー」
 そう言いうと、桜子はバカ殿の衣裳を戻して新しい衣裳を探し始める。
 同時に目を光らせた者が若干名。アスナが横島に弟子入りを申し込みに行く際も大きな盛り上がりを見せた彼女達だ。こんな格好の獲物を捨て置くはずがなかった。

「横島さん、それならばこちらの忍者装束なんていかがですか? 動きやすさに関しては折り紙付きですわよ」
 まずはあやかが順当なところの衣裳を持ってくるが、それでは面白くないと美砂と円がそれを押しのける。
「いいんちょ、そんなのありきたりでつまんないってば!」
「やっぱここは『変に立派な身なりをした素浪人』なんかどう?」
「えー、それなら『謎のちりめん問屋のご隠居』で行こうよー。ほら、僕達で左右固めてさ」
「ほらほら、鳴滝ーズはこっち来なー。舞妓さんにしてあげるからさ」
 しかし、そこに風香と史伽が割り込んだため、美砂が二人を連れて行った。
 そして早々に舞妓の衣裳を選んで二人を着替えさせ始める。変装の館はメイク、結髪、着付けまでがプロの手で行われるため、これで二人はしばらく動けなくなってしまう。

「いっそ、六尺褌で肉体美を誇示してみたらどうかしら?」
「ち、ちづ姉…」
 そうやって横島の前が一段落した隙を狙ったのか、千鶴が現れてにこやかな笑顔で一番危ない提案をしてきた。
 「動きやすい」と言う条件だけはしっかりクリアしてるあたり侮れない。
「さあさあ、何でしたら私がお手伝いしましょうか?」
「いや、流石にそれは…」
 笑顔のまま、それでいて妙な威圧感を放ちながら迫る千鶴に横島は後ずさるしかない。
 木乃香に助けを求めようと周囲を見回してみるが、「横島さ〜ん、ウチこれに着替えてくるな〜」頼みの綱の木乃香は姫の衣裳を持ってさっさと着替えに行ってしまった。

「ノオォー! 木乃香ちゃん、カァムバァァークッ!!」

「うふふ、遠慮しなくてもいいんですよ〜」
 その背後には笑顔の千鶴がすぐそこまで迫っていた。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.26


 神鳴流と無関係のアスナがここの防具を借りる事ができるかは微妙なところであったが、刹那が申し出てみると、思いの外あっさりと了承の返事が返ってきた。神鳴流も千草の行動については把握しているらしく、月詠が個人で仕事を請けている分には口出しする事はできないが、その代わりに刹那個人への援助も惜しまないとの事。つまり、神鳴流は中立を貫くと言うわけだ。
 無関係のアスナに防具を貸し出すのは「こちら側」寄りのような気もするが、これはGS協会との関係も考慮しているのだろう。過去の大戦には神鳴流も西側として参戦していたので、仮にネギを連れてきて彼のために防具を貸して欲しいと頼んだところで、断られるのが関の山だ。そう言う意味では、今回の一件に『民間GS』を巻き込んだ学園長の判断は間違ってなかったと言える。

「あっちは盛り上がってるわね〜」
 にぎやかな店の方を振り返りつつ呟くアスナ。
 店から更に奥、倉庫の方に案内された彼女の前に、先程の貸衣装が並ぶ店内とは似て非なる光景が姿を現した。
 刀、槍、甲冑を始めとした様々な武具が所狭しと並べられており、さながら『鉄の山』と言ったところだろうか。ただし、山と言っても鋼の岩肌に刃の草木が生えた極めて剣呑な山だ。
「すごい…観光地の陰にこんな物騒な場所があったなんて」
「物騒さなら陰陽寮だって負けてませんよ」
「…あー、言われてみれば」
 そう言われてアスナは初めて気が付いた。本来、陰陽寮は破魔札を始めとした除霊具を扱う場所であって観光地ではない。時代の流れか今は観光地となっているが、物騒さに関しては陰陽寮の方が上と言えるだろう。破魔札と言うのは、霊力で爆発するダイナマイトのような物だ。
 アスナの様な一般人の視点から見て陰陽寮はそうでもなく、『変装の館』が危険と思えるのは、ひとえに前者は一般にも知られており、後者はその存在を隠されているからであろう。一般に知られている事が安心感となり、危険性を覆い隠してしまうのだ。

「アスナさん、普通の物でよろしいですか?」
「う〜ん、よく分かんないから刹那さんに任せるわ」
 刹那が見繕った物を言われるままにアスナは身に着けていく、基本的には刹那と同じ物で外見は変装の館でも扱われている『新撰組』の装束だ。しかし、胴、手甲と言った防具は全て本物であるため、少々重い。
「アスナさん、最後にこの陣羽織を」
「あー、それは防具じゃなくてただの上着なんでしょ? それなら私、こっちのジャケットの方がいいわ」
「…はぁ、ちぐはぐな気もしますが、アスナさんがそれで良いと言うのなら」
 アスナが取り出したのは横島から贈られたジャケット。木乃香の護衛をするのは彼女は親友だからと言うのが第一だが、アスナにとっては除霊助手としての初仕事でもある。そのため、できるだけこのジャケットを着ておきたいのだ。
「正直、この服装に『夕凪』はそぐわないのですが…仕方ありませんね」
「でも、刹那さんのは仕込み刀でしょ? いいじゃない、私なんてハリセンよ、ハリセン」
「そ、それは…」
 アスナにそう言われれば刹那も黙るしかない。
 『変装の館』には防具以外に刀も取り揃えられているが、刹那は『夕凪』以外の刀を使う気にはなれない。アスナも腰に刀を佩けば様になるだろうが、彼女はあくまで表側の除霊助手だ。神鳴流の剣士だからこそ成立する暗黙の了解が通用せず、銃刀法違反で逮捕されてしまうのがオチだろう。

 ちなみに、この「暗黙の了解」と言うのは「銃刀法違反を見逃してもらえる」と言う意味ではない。
 もし、神鳴流の剣士が一般人に対して犯罪行為を行うような事があった場合、神鳴流の手によって『処分』されるため、警察の手出しは無用と言う意味なのだ。無論、この処置についても警察沙汰になる事はない。それもまた暗黙の了解の一つだ。

「あ、そうだ。この神通棍、刹那さんが持っててよ」
「助かりますが…よろしいのですか?」
「いいのいいの、今の私じゃ使えないしね」
 神通棍も横島から贈られた物のはずだが、こちらに関してはジャケット程のこだわりはないらしい。
 京都駅での刹那と月詠の戦いを見ていたアスナは、もし彼女が再び現れた際には、刹那が神通棍を使えた方が良いと考えたようだ。確かにその通りなので刹那は素直に受け取ると、脇差代わりに神通棍を佩いた。
「そう言えば…あの月詠ってヤツも防具借りに来たりしないでしょうね? イヤよ、出ようとした所で鉢合わせなんて」
「その点については心配要りませんよ」
 月詠も神鳴流の剣士である事を思い出したアスナが心配そうに呟くが、刹那はそれをあっさりと否定した。
 彼女はその性格上、防具を必要としないのだ。この太秦シネマ村で襲撃してくる事があったとしても、ここに来る事はないと断言できる。なぜなら自らを危険に晒す事で快楽を得る彼女にとって身を守るための防具は邪魔者、自分の楽しみを阻害するものに他ならないからだ。

 月詠の趣味を理解するつもりはない。
 同じ神鳴流の剣士だと思いたくもない。
 ただ、その実力だけは認めざるを得ない。
 身を守る防具に神通棍。刹那はこれだけの準備を整えても、彼女に勝利する自分をイメージできずにいる。
 彼女の剣は己を捨てた捨て身の剣、それだけに手強い。
「着替え終わったなら早く出ましょう。お嬢様達が待っているはずです」
 そんな弱気な考えを振り払い、刹那は皆と合流すべく店の方に戻ろうと促した。アスナも既に着替え終わっていたので、すぐさまそれに同意して店の方へと向う。
 月詠との戦いに思いを馳せて心中複雑な刹那に対し、アスナの方はやけに落ち着かない様子だ。おめかしした訳でもないのに、今の自分の姿を横島に見せたくてうずうずしている。
 師である横島を信頼しているからこそ、これだけ前向きでいられるのだろうが、この時ばかりはそのポジティブさに刹那は頭が下がる思いだった。


 一方、横島はと言うと、あの後、困った横島を見かねたあやかが割って入ってくれたおかげで、千鶴の魔の手から辛うじて逃げ出す事ができていた。
 結局、衣裳は最初にあやかが提案した忍者装束となっていた。ただし、黒はありきたりと思ったのか、やけにカラフルで、忍ぶ気が全く無さそうな忍者である。
「いや、もう、なんてーか、本気で身の危険を感じた」
「すいません、皆はしゃいでしまって…」
 自分は何も悪くないと言うのに横島に謝るあやか。クラス委員長としての責任感を抜きにしても、真面目さ故に何かと損をする性分である。
 丁度この時アスナ達が店の奥から戻ってきたのだが、この時に変装の館に残っていたのは横島とあやかをはじめとして古菲、木乃香、そしてあやかの班の長谷川千雨、春日美空の六人だけだった。
 このシネマ村では着替えた衣裳で記念撮影ができるのだが、写真撮影はそれ専用の館があってそこで行われているため、他の者達は早々に着替えを済ませて、そちらに向ったのだ。
 ちなみに、六人のうち古菲を除く五人は既に着替えを済ませており、木乃香は髪を結ってお姫様の姿に。あやかは自前の髪では結っても似合わないため、カツラを被って花魁の扮装に身を包んでいた。
 残る千雨と美空の二人は、あまり目立つ事を好まないのか町娘の装束を選んでいた。千雨が大きなリボンを付けてはいるが、髪型に関してはほとんどノータッチで済ませている。確かに木乃香やあやかのような派手さはないが、なかなかに可愛らしい着物姿であった。

「おっ、アスナ達は新撰組アル」
「うわぁ、せっちゃん格好ええなー」
「アスナさん、貴女…」
「なんで陣羽織じゃなくてジャケットなんだよ」
 刹那の凛々しい姿を見て木乃香が駆け寄る。対してアスナの方はやはりジャケットが不評であった。普段は無口な千雨でさえ思わずツっこんでしまうほどだ。
「それ、横島さんとラブラブだって見せつけたいだけなんじゃないの?」
「………」
 アスナの着ているジャケットが横島から贈られた物である事はクラス内で周知の事実であるため、美空が軽口で冷やかすが、対するアスナは真に受けたのか顔を真っ赤にして俯いてしまう。
 それに触発されるように昨日の当事者である横島、それを至近距離で目の当たりにした古菲も顔を紅くするが、逆に昨日何があったかを知らない面々は疑問符を浮かべる事しかできなかった。



 横島達が派手な仮装行列となってシネマ村をねり歩いている頃、ネギ達はホテル嵐山にほど近い嵯峨野にあるアミューズメントセンターを訪れていた。
 夕映、ハルナの二人が新幹線内でも盛り上がっていたカードゲーム、魔法使いとなって魔法とクリーチャーを駆使して戦うと言うこのゲームは、アミューズメントゲームと連動している。筐体でカードゲームを行う事により、その戦いの様子を大画面で見て楽しむ事ができると言うのだ。
 むしろ、筐体を使った遊び方の方が本来のもので、テーブル上で行うゲームはこれのための練習試合と言ってもいいだろう。と言うのも、このゲームは他のトレーディングカードゲームに例に漏れず、新しいカードをどんどん取り入れて自分のカード、『デッキ』を強化していかなければならない。そのための新しいカードを手に入れる方法は二つあり、一つは普通に市販されているカードパックを買う事。そしてもう一つの方法と言うのが、筐体でゲームをプレイする事なのだ。1プレイにつき1枚、新しいカードが手に入る。
 ハルナ達は関西限定のカードを手に入れると張り切っているが、これは筐体で手に入るカードの中に地方限定カードが存在するためだ。修学旅行先が京都に決まったその日から、彼女達は軍資金を用意して待ち構えていたらしい。
「へ〜、最近のゲームは凄いんですね〜。豪徳寺さんもこのゲームやってるんですか?」
「いや、俺はそう言う頭を使うものより、こっちの方が…なっ」
 豪徳寺の方は、カードゲームに興味はないらしく、パンチングマシーンに渾身の拳を叩き込んで新記録を弾き出している。他にも対戦型の格闘ゲームやガンシューティングを好んでプレイするそうだ。彼のイメージにぴったりである。
「ネギ君はどうなんだ? 頭を使うゲームは得意そうだが」
「僕は…」
 逆に豪徳寺から問われてネギは言葉を詰まらせる。
 かく言うネギは今時珍しいほどゲームに関しては疎い人種だったりする。と言うのも、ネギは物心ついた頃には魔法の修練を始めており、幼い頃からずっとそれに没頭していたため、子供らしい遊びをした経験がほとんどないのだ。
 ネギは六年前の事件に思いを馳せる。彼がこうなった原因は幼い頃の衝撃的な体験にあった。



 今から六年前、魔法界にある小さな山間の村に住んでいたネギは、今の優等生っぷりからは想像もつかない程の『悪ガキ』であった。
 ただし、周囲の人に対して悪戯を行うような『悪ガキ』ではない。

「ネギが溺れたって本当ですか、お父様!?」
 ネギが住む離れの小屋に飛び込んできたのは、彼の年の離れた姉、ネカネだ。
 この日、ネギは冬の湖に自ら飛び込み溺れてしまっていた。四十度の熱を出し、意識不明の重態だ。
 彼は以前から高い木に登っては、そこから飛び降りたり、猛犬の鎖を魔法で切っては追い掛け回されたりしていた。これまでは「父親に似て元気の良い悪ガキ」で済ませていた周囲の者達も今回ばかりは眉を顰めた。
 その山間の村は冬になると雪に閉ざされる寒冷な地。そんな場所で冬に湖に飛び込むなど自ら命を捨てるようなものである。そう、ネギの行動は子供の「悪戯」を飛び越えて「自殺未遂」と言っても過言ではない暴挙なのだ。この頃、魔法学院に通い寮生活を送っていたネカネが急遽呼び戻された事からも、ネギの容態がどれほど悪かったかは推して知るべしである。

 その後、ネカネの必死の看病の甲斐もあってネギは一命を取り留めた。
 意識を取り戻したネギにネカネは何故あんな事をしたのかと問い質してみたが、返ってきた答えは「ピンチになれば、お父さんが来てくれると思ったから」と言う一言。
 しかし、この時既にネギの父、『千の呪文の男(サウザンド・マスター)』ナギ・スプリングフィールドは人間界で消息を絶ち、既に死んだとされていた。当時、ネカネがショックを与えまいとオブラートに包んで説明したと言うのもあるだろうが、まだ三才のネギには『死』と言うものが理解できなかったのだ。
 それを聞いたネカネは、たとえネギを傷つける事になっても残酷な真実を伝えるべきだったのかと思い悩んだ。
 考えてみればネギの『悪戯』は、彼の一才年上の幼馴染である少女、アーニャこと、アンナ・ユーリエウナ・ココロウァが魔法学院に入学した頃から顕著になってきた気がする。
 その事に思い至ってネカネはああと気が付いた。
 村の人々のナギに対する評価は二つある。一つは世間でも謳われているような『英雄』、そしてもう一つは自分のトラブルに村を巻き込む『厄介者』だ。ナギのしでかした騒ぎの後始末に村人が奔走したのは一度や二度ではない。そのため、特にナギの面影のあるネギに対して村人達に隔意がある事には気付いていた。しかし、表立って行動を起こすような者はおらず、酒を飲んだ勢いでくだを巻く程度なので、誰も問題視していなかったのだ。
 しかし、ネギの寝顔を眺めながらネカネは思った。その判断は甘かったのではないだろうかと。
 ネギは非常に聡明な子供だ。まだ三才であり、誰からも魔法を習った事がないにも関わらず、彼は「自分の魔法で」犬の鎖を切っている。おそらく周囲の人が魔法を使っているのを見て、自然に身に着けたのだろう。
 ある者は流石は英雄『千の呪文の男』の子と褒め称え、またある者は彼もまた大きな戦いに身を投じるのではないか、そして父の様に村を戦いに巻き込むのではないかと恐れた。
 ネギはそんな彼等の微妙な心情を敏感に察知したのではないだろうか。
 村人達との隔たりに気付いてしまった彼にとって頼れるのは姉であるネカネ、幼馴染であるアーニャ、そして憧れの人でもある父、ナギだけだった。
 その内の二人が魔法学院の寮に入って村からいなくなり、一人ぼっちとなってしまったネギは父親に助けに来て欲しかったのだろう。こんな風になってしまう前にもっと自分を頼ってくれればとネカネは思うが、逆にネギの方は自分が我侭を言えば、魔法学院で勉強中のネカネに迷惑が掛かる事を理解していた。その年齢不相応な聡明さが逆に仇となってしまった形だ。

 その後、ネカネはネギの事が心配でたまらない様子だったが、いつまでも休んでいるわけにはいかなくなって、父に後の事を託して魔法学院へと戻っていった。
 村人達が共同でネギを見張る事になったが、ネギが自ら命を捨てるような行動に出る事がなくなるまで安心はできない。魔法学院に戻った後も、ネカネはしばらく心穏やかではない日々を過ごす事となる。
 これからはできるだけ休みを取ってネギに会いに行こうと心に決めるものの、ネギの事が心配で勉強に全く身が入らず、看病で休んでいた分の遅れを取り戻して再び故郷の村へと戻るまで一ヶ月の時を要した。

 そして、奇しくもネカネが村に戻った丁度その日、事件は起きる。

「あら? 何かしらアレ…」
 山の向こうに見える無数の翼を持った影。最初は鳥の群だと思った。
 しかし、影はこちらに近付いているのかみるみる内に大きくなっていく。やがてそれが鳥以外の何かであると分かった時には、影の群は村の目前まで迫っていた。
「まさか…魔族ッ!!」
 ネカネが叫ぶ。そう、翼を持った魔族の群が村に押し寄せて来たのだ。
「どうして魔法界に魔族が…」
 魔法は元来魔族が人間界を魔の方向へと傾けるために人類に伝えた技術だ。しかし、『魔女狩り』を避けて逃れる際に、人間界に残って最後まで抵抗した魔法使い達と違い、魔法界に移住した彼等は魔族との縁を切っている。
 そして移住後、新たな魔法体系を確立したのだ。ネギ達の使う魔法が、魔族ではなく精霊の力を借りるのはそのためである。
 魔法界は世界そのものを結界で護り、神魔族の侵入を許さぬようになっているはずだ。にも関わらずここに魔族が現れた。そこから導き出される答えは一つだ。
「誰かが古の魔法を行使して、悪魔を召喚した…!」
 それしか考えられない。
 通常神魔族が侵入できぬ魔法界において神魔族を呼び出す方法はそう多くは無い。最も簡単なのは魔法界側から別のルートで侵入させる事、つまり召喚の魔法陣を用いる事だ。
 無論、魔法界においては人間界に居た頃の、すなわち魔族の力を借りる古の魔法を使う事は禁じられている。あの群を召喚した者はその禁を破って村を襲撃させているのだ。
 普通に考えて、こんな小さな村を襲撃したところでメリットがある者はいないだろう。おそらく、村人の誰か、或いは『千の呪文の男』に恨みを持つ者の仕業に違いない。この村にはナギを慕って移り住んできたクセのある者が多いため、このような襲撃事件は今までにも何度かあった事なのだ。

 ネカネは村の皆に魔族の襲来を報せるために駆けるが、村の方でもそれは察知していたらしい。ネカネが村に辿り着いた時、村人達は既に迎撃の準備を整えていた。
「おお、ネカネ。何とも悪いタイミングに帰ってきてしまったようだな」
「お父様、私もまだ学生とは言え魔法使いのはしくれ、サポートぐらいできます。…それより、ネギは?」
「湖の方に釣りに行っているよ。今日はスタンの爺さんが見ているはずだ」
 それを聞いてネカネはほっと胸を撫で下ろした。
 スタンはこの村に古くから住んでいる「世界で最も『千の呪文の男』を嫌う男」を自称する偏屈な老魔法使いだ。口が悪く、いつも酒を飲んではナギは自分とこの村に迷惑を掛けたと愚痴っているのをネカネも見た事がある。しかし、同時にナギの実力を認めている人物でもある事は村の誰もが知っていた。
 本人の魔法使いとしての実力も折り紙付き。ネギの事を案じ、これまでも陰ながら彼の成長を見守ってきた人だ。スタンに任せておけばネギの事は心配いらないだろう。今頃、魔族の襲撃に気付いてネギを逃がすなり、連れて村に戻るなりしているはずだ。
「しかし、あの数の魔族が相手では、下手に逃げるのはかえって危険かも知れないな」
 一人の魔法使いが呟いた。確かに、逃げている途中で魔族の集団と遭遇してしまったら、いかにスタンと言えどもネギを護り切る事ができないかも知れない。
「ネカネ、ネギは湖の方で釣りをしていたはずだ。何とか二人と合流して一緒に逃げてくれ」
「………分かりました」
 幾度もこのような襲撃を経験しているこの村には、戦えない女子供のための地下避難所が存在する。
 にも関わらず父は「避難しろ」ではなく「逃げろ」とネカネに命じた。もしかしたら、この時の彼は霊能力者で言うところの「霊感」のようなものが働いていたのかも知れない。
 できれば自分も残って皆と一緒に戦いたかった。しかし、まだ見習いであり、サポートに回るのがやっとのネカネでは足手纏いになってしまうだろう。
 今の彼女にできる事は一刻も早くネギの避難を完了させる事だ。そうすれば、スタンを村の救援に向かわせる事ができる。ネカネが少しでも村の助けになろうとするならば、これしか方法がない。血が滲むほどに唇を噛みつつ、ネカネは踵を返して村はずれの湖へと向かうのだった。

 魔族の群が村に攻撃を開始したのとほぼ同時に、ネギの元にも魔族が現れていた。
 間の悪いことに、ネギは今日ネカネが魔法学院から帰ってくる事を思い出して村に帰ろうとしている途中だったのだ。現在位置は村からさほど離れていない森の入り口である。
 ネギの目の前に降り立った魔族はネギに対して攻撃を仕掛ける事なく、その襟首を摘み上げる。
 その体躯は人間の大人より頭二つ分ほど高い、かなり大型の魔族だ。
 夜の澱んだ湖の水面を思わせるような体色。ねじれた細い手足に、皮膚が渦巻状に波打った顔。人間なら右眼がある所に渦の中心があり、そこにぽっかりと穴が開いているが、その奥に眼球はなく暗闇が広がるばかりだ。その異様な姿に恐怖したネギはガチガチと歯を鳴らして震え、動けなくなってしまった。
 抵抗がない事に気をよくした魔族はネギを高々と掲げ、肩から生えた大きな翼を広げて飛び立とうとし―――

『雷の斧(ディオス・テュコス)ッ!!』

―――次の瞬間、背後から放たれた魔法で横薙ぎされ、上半身、下半身と真っ二つにされてしまった。
 ネギは地面に落とされ、すぐに藪の中からスタンが現れて彼の下に駆け寄る。
「立てるか、ぼーず」
「あ、ハイ…」
 スタンの睨むような視線に一瞬ビクッとなったネギだったが、彼が助けに来てくれた事に気付くと、何とか足の力を込めて立ち上がった。
「よし、立てたな? 村は危険だ、このまま森を突っ切って逃げるぞ」
「え、でも…」
 村の空が真っ赤に染まっているのを見て、今回の襲撃の規模が今までの比でないと悟ったスタン。
 先程の魔族はネギをどこかに連れ去ろうとした。連中の狙いはネギである可能性が高い。『千の呪文の男』に対する人質等、理由はいくらでも考えられる。
 『千の呪文の男』の敵であれば、これだけの大規模な襲撃も納得が行くと言うものだ。せめてネギだけでも逃がそうと、スタンは村へと戻らずに森の中へと向かうべく、ネギの手を引いて歩き出そうとする。
「………えちゃん」
「ネギ?」
 しかし、ネギが抵抗して動こうとしない。それどころか意外なネギの行動にスタンが戸惑った隙を突いて手を振り払うと、そのまま村に向かって走り出した。
「! このバカモンがっ!!」
「おねえちゃーん!」
 ネカネが帰って来ている。それだけがネギを突き動かしていた。
 村の中に入るとネカネの名を呼びながら闇雲に走り回る。追いついたスタンは、これでは魔族を呼び寄せているようなものだと頭を抱えた。
「ネギ!」
「おねえちゃん!」
 幸い、ネカネもこちらに向かっていたため、すぐにその声を聞いて駆けつけてくれた。
 ネカネがいればネギもおとなしく逃げてくれるだろう。スタンは安堵の溜め息を漏らして二人に声を掛けようとする。
「!?」
 しかし、その時彼は気付いてしまった。炎の向こうにいる無数の魔族の姿に。
 百や二百ではきかないだろう。一体どれほどの術士が召喚を行ったと言うのだろうか。
 もはやこれまで、こうなっては自分が囮となってネギ達の逃げる時間を稼ぐしかない。覚悟を決めたスタンが一歩踏み出したその時、再びスタンの瞳が驚愕に見開かれた。

『雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)ッ!!』

 大規模な攻撃魔法が魔族の群を廃墟となった村ごと貫き、更に森を薙ぎ払って向こうの山に大穴を開けてしまった。こんな強力な魔法を使うのはスタンの知る限り一人しかいない。
「遅いぞ。生きてるならとっとと戻ってこんか、バカモンが」
 罵る言葉は口汚いが、その顔には安堵の笑みが浮かんでいる。
 ネギ達に背を向けて降り立つ一人の男、『千の呪文の男』ナギ・スプリングフィールドだ。
 先程の魔法を逃れた魔族達は、その姿を見るとこぞって襲い掛かった。しかし、ナギはその拳で魔族の鎧を砕き、蹴りで魔族の肉体を破壊する。そして、トドメとばかりに杖を振るい、居並ぶ魔族達をまとめて吹き飛ばしてしまった。
 圧倒的な力だ。これだけの魔族の群を歯牙にも掛けていない。
「ネカネ! ここはあやつに任せて、今のうちに逃げるぞ!」
「は、ハイ!」
 スタンの声にハッと我に返ったネカネは、ナギの戦いに見入っているネギを抱き上げる。
 ネカネはネギと違ってナギの顔を覚えていたため、今目の前にいるのが死んだはずの父である事には気付いていたが、今はネギを逃がす事が先決だ。
「こっちじゃ!」
 森に逃げ込むつもりだったが、『千の呪文の男』が戻ってきたならば話は別だ。
 村の避難所に逃げ込めば、スタンが持ち堪えている内にナギが魔族の群を片付けてくれるだろう。
「ムッ! あれは…」
「どうしました、スタンさん!?」
 必死に息をつく間もなく走り続け、やっとの思いで避難所に辿り着くスタンとネカネ。ネギはネカネの腕の中でまだ茫然自失状態だ。無理もあるまい。
 しかし、そこでスタン達が見たのは、燃え上がる瓦礫と化した避難所の上で咆哮を上げる一体の魔族の姿だった。

 先程ネギを捕らえた魔族よりも更に大柄な身体。それでいて『怪物』でもなく、鎧を身に付け、どことなく知性を感じさせる。今回襲撃してきた魔族の中でも上位の存在なのだろう。
 長く捻じ曲がった二本の角に、仮面を思わせる硬質な卵の殻のような漆黒の顔。瞳がないはずなのに、両目の部分は淡い光を放っている。

 屋根の上の魔族が、こちらに気付いたのか顔をこちらに向けた。
 ネカネの腕の中のネギに気付くと、ガパっと音を立てて、まるで卵が割れるように大きな口を開く。
「!?」
 魔法の詠唱は間に合わない。そう判断したスタンはネカネ達を庇うように前に立ち、ネカネはネギを覆い隠すように魔族に背を向けて己の身体を盾とする。
 その直後に魔族の口から強烈な光が放たれた。
 それを真正面から見てしまったスタンは咄嗟に目を瞑るが、再び目を開いた時、彼の身体は足元から石と化しつつあった。ネカネも同様だ。スタンの身体が盾となったおかげか石化の進行は彼より遅いが、それでも全身に及ぶのは時間の問題だろう。
「ああっ!」
 鈍い音を立てて石となったネカネの足が砕けた。そのままネギに向けて倒れそうになるが、必死に身体を捻って彼を避けて地面に倒れ伏す。
 幸いにもネギには影響が無いようだが、このまま彼に一人で逃げろと言うのは、あまりにも無茶な話だ。
「ぐぬぬ…」
 ここで自分が物言わぬ石の骸となってしまえば、誰があの魔族からネギを守ると言うのか。
 スタンは最後の力を振り絞って懐から一つの小瓶を取り出すと、ぎこちない手付きで蓋を開け、指の付け根まで石となった手を魔族へと向けた。

『六芒の星と五芒の星よ(ヘキサグラマ・エト・ペンタグラマ)!』

 いつの間にやら魔族が呼び寄せたのか、その足元には更にゼリー状の肉体を持つ魔族が姿を現している。
「!!」
 そこでスタンが何かしようとしている事に魔族は気付いた。

『悪しき霊に封印を(マロース・スピリトウス・シギレント)!』

 目の前の魔法使いは自分を封印しようとしている。その事に気付いた魔族は軟体の仲間と共にスタンに襲い掛かる。相手は半ば石化した肉体だ。魔族の強靭な腕で一撃を加えればたちどころに砕け散ってしまうだろう。

『封魔の瓶(ラゲーナ・シグナートーリア)ッ!!』

 しかし、スタンの詠唱の方が一瞬早かった。
 目前まで迫った魔族達はスタンの投げた小瓶に轟音を立てて吸い込まれていく。
 そのまま魔族の肉体を全て飲み込んだ小瓶はひとりでに蓋が閉じられて、大きさの割りには重い音を立てて地面に落ちた。魔族の封印に成功したのだ。
「逃…げろ…ぼー…ず…」
 その言葉を最後にスタンの全身は完全に石と化してしまった。
 ネギは涙でぼろぼろになった顔でネカネの名を呼び続けるが、意識を失ってしまったネカネの返事はない。触れている頬にはまだ人のぬくもりが残っているが、スカートの中に隠れた砕けた足は今も石化が進行しているのだろう。
 それでも、ネギには必死にネカネの名を呼び続けるしかなかった。それ以外にできる事など何もないのだ。

「…すまない、来るのが遅すぎた」
 侘びの言葉と共にローブ姿の影が現れ、ネギはビクッと顔を上げる。
 そこに立っていたのは先程魔族の群を一人で一掃した男。魔族よりも恐ろしい強さを持った男だ。
 彼が父、ナギ・スプリングフィールドである事を知らないネギは、ネカネを守ろうと練習用の小さな杖を手に男とネカネの間に立ちはだかる。しかし、足は小刻みに震え、恐怖で涙が溢れる瞳を開いてもいられない。
 一歩、また一歩と近付いて来るナギ。恐怖が限界に達し、ネギがぎゅっと目を瞑ったその時、くしゃっと大きな手が彼の頭を撫でた。
「大きくなったな、ネギ…」
「お父…さん?」



「…ギ君! ネギ君!」
「………えっ!?」
 豪徳寺に肩を揺さぶられて我に返るネギ。
 どうやら、六年前の事を思い出して物思いに耽ってしまっていたようだ。
「あ、すいません。どうかしたんですか?」
「どうもこうも、彼女達はゲームに熱中している。今のうちに目的地に向わないか?」
「そうだな、あの様子だと俺達がいなくなっても、しばらく気付きそうにないぜ」
 豪徳寺とカモに言われてカードゲームに興じるハルナ達を見てみるが、確かにあれだけ熱中していれば、こちらの動きに気付きそうもなかった。
 ネギが楓の方に視線を向けると、彼女もこちらの様子を窺っていたらしく無言で頷いて返してきた。
「…分かりました。行動を開始しましょう」
 それを合図に、楓はゲームに参加していないのどかに「トイレに行ってくる」と声を掛けて注意を引き、その隙にネギ達がまず入り口から外に出る。続けて楓は宣言通りにトイレに行く振りをして裏口から外に出て、少し進んだところでネギ達と合流を果たす。

「うまくいったな」
「さ、のどか殿が気付かぬ内に急ぐでござるよ」
「…ええ、そうですね」
 ネギはいつにも増して辺りを警戒しながら、愛用の杖をぎゅっと握り締めた。
 この杖は、六年前のあの日、ナギから贈られた物だ。ネギの身長に比べて長過ぎるのはそのためだ。

 千草から聞かされた魔法使いが起こしたとされる大戦の話はネギの心に暗い影を落としている。
 それでも、ネギは親書を届けると言う真の目的を果たさなければならない。
 この杖があれば大丈夫。この杖があれば進んでいける。
 そして隣にはカモ、豪徳寺、楓と言った心強い仲間もいる。ネギはもう決して一人ではない。
 自分にそう言い聞かせながら、ネギは関西呪術協会への道を歩き始めた。



つづく



あとがき
 『太秦シネマ村』は『太秦シネマ村』であって『太秦○画村』ではありません。
 神鳴流との関係等、原作中の『太秦シネマ村』とも異なる独自の設定も加えております。

 実在するテーマパークとの細かな、或いは大きな差異については目を瞑って下さい。
 扮装についても、実際にある扮装かどうかについての確認は取っておりません。
 少なくとも、六尺褌はないと思いますが…。

 それと、ハルナ達の遊んでいるカードゲーム、ネギの過去についても。
 色々と独自設定を加えて書いております。ご了承下さい。

 特にネギの過去については、原作とタイミングが異なりますが、
 ネギの本格的な戦いが始まるのはここからだと思ったので、
 少々早めですが、ここで彼が本格的に魔法を学ぶきっかけとなった過去話を入れさせてもらいました。

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