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絶対無敵! グレートマザー再び!! 6


「たっだいまーっ! ……って、にいちゃんいないのかよ」
 学校から帰ってきた薫、葵、紫穂の三人が居間を覗き込むと、そこにはのんびりとTVを見る百合子、マリア、テレサ、ハニワ子、それに折り畳んだ座布団を枕代わりにごろ寝をするタマモの姿があった。しかし、肝心の兄の姿はなく薫はガックリと肩を落とす。
「忠夫なら、澪を連れて出掛けたわよ」
「……って、二人だけで?」
 にわかに信じられずにタマモの方に視線を向けると、彼女はいつもの気だるい声で「本当よ」と呟いた。昨日までどこに行くにもタマモと一緒だった澪。百合子曰く、タマモと一緒でなくても大丈夫なようにするための練習らしい。本当ならば自分が一緒に行くつもりだったのだが、まだそれは難しいと言う事で横島に白羽の矢が立ったらしい。
 昨夜、澪とタマモの二人は薫達と一緒に横島の部屋で寝た。子供とは言え五人ともなると流石に部屋が手狭となり、薫の部屋とを区切る襖を全開にして二部屋に跨って布団を並べる事となった。横島の両隣は、薫と澪である。しかし、澪は恥ずかしくて薫のように一つの布団でピッタリと引っ付く事は出来ず、タマモと一緒の隣の布団から伸ばした手を繋ぐだけだったが。
 翌朝、薫が横島の頬におはようのキスをしてみせると、澪は自分も真似しようとした。しかし、あまりにも恥ずかしくて顔が真っ赤になり、なかなか実行に移す事が出来ない。とは言え、引き下がる気にもなれなかったらしい。ニヤニヤと笑みを浮かべる薫に囃し立てられながら、ぷるぷると肩を震わせて薫とは反対の頬にそっと触れるだけのキスをしてみせた。
 その初々しい姿を思い出し、薫は納得する。確かに今の澪ならば、横島が一緒ならタマモがいなくても大丈夫かも知れない。
「それで、忠夫はん達はどこ行ったん?」
「GS協会よ、依頼探しに行くんだって」
「GS協会?」
 その言葉を聞いて、紫穂がピクリと反応した。横島と二人で古物除霊の名コンビを目指している彼女にとっては聞き逃せない言葉だ。
 見ると薫と葵もうずうずしている。その存在は知っていたが、実際どんな所なのかは全く知らなかった。横島一人で行っているなら遠慮もするだろうが、澪も一緒となれば話は別である。
「よしっ、あたし達も行こうぜっ!」
「そうね、面白そうじゃない」
「場所分かるんか?」
 当然の如く、自分達もGS協会に行こうと考える薫と紫穂。葵は比較的冷静だが、こちらも行く気満々である事には変わりない。マリアとテレサはどうしたものかと顔を見合わせる。しかし、止めようとしても三人は止まりそうになかったので、仕方なく地図を出してGS協会の場所を彼女達に教えるのだった。


 その頃、横島と澪はGS協会内の依頼斡旋窓口に居た。仕事情報はパソコンを使って閲覧するようになっている。窓口の前には二列に並んだテーブルにズラッとパソコンが並べられており、その一つ一つが仕切りで区切られている。横島は窓口にほど近いパソコンの前の椅子に座り、澪を膝の上に座らせて何か良い仕事はないかと探していた。
 ここに到着するまでもそうだったが、GS協会内はそれなりに人が多い。澪は緊張した様子で俯きながら、ぎゅっと横島の手を握りっぱなしであった。それでもしっかりと自分の足で歩いてついて来ている辺り、彼女の成長が伺える。
 子供を連れてGS協会に来るのは珍しいのだろう。建物の中に入った途端、澪は職員達の注目を集めてしまった。ビクッと震えて横島の腰にしがみ付き、その背に隠れてしまう澪。横島の膝の上に座った事でようやく落ち着いたのか、今は安らいだ表情で身体をすり寄せ、横島の胸にもたれかかっていた。

 今日ここに依頼を探しに来たのは、澪と言う新しい家族が増えたため、GS協会から依頼を紹介されるのを待つばかりではなく、自分でも探してみようと思い立ったからだ。
 しかし、こうして見てみるとどれを選べば良いのかよく分からない。元々この斡旋窓口で紹介される依頼の難度は、上中下で言えば中、もしくは下である。上となれば依頼者が直接令子のようなベテランの有名所に依頼を持ち込んだり、GS協会の方が担当するGSを指名する事になっている。
 当然の事だが、このパソコンから見られるのは霊障の規模や報酬等の条件のみだ。依頼者に関する情報は一切伏せられている。まず、自分にも出来そうな依頼をと思い、パッ、パッと霊障の欄を見ながら画面を切り替えていく横島。澪は彼の膝の上で目まぐるしく切り替わる画面を物珍しそうに見入っていた。
 一通り依頼内容を見てみたが、その大半は文珠を使えば何とかなるんじゃないかなと言う物であった。
「しかし、霊障って日々起きてるものなんだなぁ……」
 ふとマウスを持つ手を止め、空いたもう片方の手で澪の頭を撫でながら周りを見回してみる。
 他のパソコンの前には同業者であろう者達が座り、真剣な面持ちで依頼内容に目を通していた。修験者にはじまり一風変わった格好をした者が多いのはGSだからだろうか。横島は今日は依頼者に会う訳ではないのだからと、いつも通りのTシャツにジーンズ姿であるため、ここでは若干浮いてしまっている。
 考えようによっては、パソコンが並べられた近代的な部屋に修験者が普通に居ると言う方が異様な光景なのかも知れない。しかし、ここはGS協会。これが日常の光景であった。古くから伝わる術具を扱うGSも、依頼を見つけるために文明の利器を使うのである。

 革製のジャケットを羽織った背の高い男性が、数枚のチケットのような小さな紙を持って窓口の方へと向かっていった。
 ここでは、あのように目を付けた依頼の番号をプリントアウトし、それを窓口に持って行く事になっている。そして、GSとしての能力や今までの実績などを考慮され、依頼しても大丈夫だろうとGS協会が判断すれば、正式にその依頼を引き受ける事が出来るのだ。
 『文珠使い』である横島は、ここにある依頼はだいたい受ける事が出来るだろう。後は提示された報酬を見て判断するだけだ。膝の上の澪のためにも頑張らなければならない。なにせ横島は、一家を支える大黒柱なのだから。

「横島さん、ちょっとよろしいですか?」
「はい?」
 突然背後から声を掛けられたので振り向いてみると、そこにはGS協会の事務員である天城の姿があった。彼は横島の家に修行に訪れているファントムの仮面(ペルソナ)を持った少女、天城美菜の父親である。
 また、横島が独立して事務所を立ち上げた際に、GS協会の現役GSリストに登録する手続きをしてくれたのも彼だ。その縁か、横島にとって何かと世話になっている人であった。
「入り口のところに、妹さんが訪ねて来てるんですが」
「妹が?」
 思わず膝の上の澪を見る横島。澪もまたその言葉を聞いて横島を見上げており、丁度二人の目が合った。
「横島さん、ご兄妹多かったんですね。三人訪ねて来てますよ」
「さては薫達だな」
 一瞬、タマモが来たのかと考えた横島だったが、三人と言われてすぐに薫達であろうと考え直す。澪を下ろして立ち上がり、横島はひとまず入り口まで三人を迎えに行く事にした。
「あ〜……子供四人も連れて、ここで仕事探すのは不味いですか?」
「子連れの方もいますが、騒がしくなると周りの方の迷惑になるでしょうねぇ……依頼を探しているなら、別室にご案内しますが?」
「お願いできます?」
 膝の上でおとなしくしている澪一人ならばともかく、賑やかな三人が来てしまえば流石に周りの者達に迷惑だろう。ふと隣の席に目をやると、大樹と同年代であろう眼鏡を掛けたスーツ姿の中年男性が「あなたも大変ですね」と言いたげな顔で苦笑していた。

 澪と手を繋いで入り口のロビーまで行くと、薫達三人がベンチに腰掛けて待たされていた。家でこの場所を聞いてからさほど時間は経っていない。葵の瞬間移動能力(テレポーテーション)を駆使してここまで駆け付けたのだろう。
「あ、にいちゃん!」
 薫は横島の姿に気付くと、嬉しそうに駆け寄り、そのままの勢いで抱き着いた。続けて葵と紫穂も駆け寄ってくる。
「横島さん、こちらにどうぞ。二、三、良さそうな案件がありましたので」
「あ、はい。それじゃお前ら、行くぞ」
「あれ? 向こうの部屋は?」
「流石にお前等も連れてくとなると騒がし過ぎるだろ」
 そう言われて薫は、澪ならば良いのかと言い返したくなるが、確かに澪はおとなしいので、ここは素直に引き下がった。その代わりに、彼の背中にひしっと抱き着いておんぶしてもらう。一行はそのままの体勢で別室に案内してもらう事になった。そんな横島達の姿を見ながら、案内役を買って出た天城は苦笑を禁じ得ないようだ。彼には娘がいるので、その光景がどこか懐かしいのかも知れない。
 一行が案内されたのは応接用の一室であった。テーブルを挟んで長い高級そうなソファが二つある。腰を下ろしてみると何とも座り心地が良く、薫達はその弾力を楽しんでいる。一方、澪は膝の上に手を置き、強張った面持ちで背筋を伸ばして座っている。今までにない雰囲気の部屋に緊張しているのだろう。横島もその気持ちは分かるため、微笑ましそうに見守っていた。澪はその視線に気付くと、ちょっと座る位置をズラして横島に身体を密着させてくる。思えばタマモと一緒の時もそうだった。こうして身体をくっつけ合う事で相手のぬくもりを感じ、安心出来るのだろう。
「て言うか、こんな事してもらっちゃっていいんスか?」
「ああ、構いませんよ。横島さん、『文珠使い』でしょう。それに、娘がお世話になってますし」
 いかに依頼斡旋窓口と言えど、このように応接室を使った依頼の斡旋などはしない。このやり方は本来、GS協会が依頼を担当するGSを指定し、本人をここに呼び出して紹介する際のものだ。
 幸い、天城の手元には担当者を決めなければならない案件がいくつかあった。四人も子供を引き連れて依頼斡旋所を利用させるわけにはいかないので、急遽GS協会から依頼を紹介する形に切り替えたのである。GS協会側から依頼を紹介してもらうのにはそれ相応の能力、実績が求められるが、横島は以前から協会から依頼された除霊を何件もこなしており、その点は既にクリアしているので問題はあるまい。
「とりあえず、二件あるのですが……」
 横島と向かい合う形でソファに座った天城は、ファイルから二枚の書類を取り出し、テーブルの上に並べる。そこには依頼斡旋窓口のパソコンで見られるものよりも、もう少し詳しい情報が記載されていた。依頼人の名前や、現場の写真が載っている。
 廃工場と廃屋の除霊、どちらも通常除霊で対応出来そうな依頼だ。依頼者が必ず除霊を成功させるべく、それなりの実績を持ったGSを希望しており、それでいて依頼料は令子クラスを雇えない程度と言う、所謂中堅クラスの依頼である。それでも、横島がこれまで受けてきた依頼に比べて倍近い依頼料だ。これまで何度もGS協会からの依頼を成功させて来た横島ならば、依頼者側からも文句は出ないだろう。『文珠使い』であると紹介出来れば一発だろうが、それは非公開情報なので秘密である。
「う〜ん、一日で両方ってのは無理そうだな」
「日程については調整出来ますよ」
 その辺りの調整はGS協会で行ってくれるらしい。ただ単に、担当GSが決まったと連絡する日をズラせば良いのだ。
「でも、いいんですか? 二件も紹介してもらっちゃって」
「どちらも、担当GSに実績を求めていますからねぇ。こちらとしては、横島さんが早急に片付けてくだされば助かります。ベテランはこの額じゃ動いてくれませんし」
「なるほど」
 先日、令子に古物除霊を一手に引き受けすぎては他のGSを敵に回しかねないと忠告されたばかりだったので、一気に二件も引き受けても良いものかと迷った。しかし、GS協会にしてみれば、この二件は誰にでも任せて良いと言うものではないため、むしろ二件とも引き受けてくれた方が助かるのだ。
 そう言う事ならばと、横島はこの二件の除霊を引き受ける事にする。
「なぁ、にいちゃ〜ん」
 横島が二件とも引き受ける旨を天城に伝えると、突然薫が猫撫で声を出してしなだれかかってきた。
「ダメだぞ」
「まだ何も言ってねーじゃん!」
「どうせ、除霊現場に連れてって欲しいとか言うんだろ」
「ぐっ……」
 図星である。そのものズバリを言い当てられて、薫は押し黙ってしまった。
「なんでだよー!」
「素人連れてって怪我でもさせたら、俺の責任になるんだよ」
「大丈夫だって、あたし強いから!」
「ダメ」
 薫は尚も食い下がるが、にべもなく却下されてしまう。援軍を頼もうと葵と紫穂の方を見るが、横島の家では普通の子でいたい葵は、サッと視線を逸らしてしまった。今日こうしてここに来たのも、GSと言う仕事への興味と言うよりも、横島がどんな仕事をしているのかと言う興味であり、それがたまたまGSであったに過ぎない。
 紫穂もまた、薫の援軍要請に視線を逸らして応えた。彼女は横島除霊事務所の正式な除霊助手でないにも関わらず古物除霊を手伝っている。これは紫穂にとって、人に忌避される接触感応能力(サイコメトリー)を横島に望まれ、横島のために役立てる事が出来ると言う、二人を繋ぐ絆であった。薫も葵もその手のモノが苦手であるため、彼を独占出来る貴重な時間でもある。また、家事を手伝う事などガラではない彼女にとって、それは横島の家での自分の居場所を確保するためのものでもあった。
 素人を除霊作業に参加させ、何かあった場合は有資格者――この場合はGS免許を持ち、除霊事務所の所長である横島の責任となる。彼が何故、薫は駄目だと言うのに紫穂は手伝わせているのか。それは、横島が古物除霊で怪我をする事は無いだろうと考えているためであった。
 下手に藪を突いて蛇を出してしまえば、横島の古物除霊を手伝えなくなるかも知れない。そのため、紫穂には薫を援護する事が出来なかった。
 二人に援護してもらえない薫は、澪に視線を向けるが、こちらも自分から除霊現場に行きたがる性格ではなさそうだ。実際除霊現場に出たとしても、自分なら何とか出来ると言う思いはあるのだが、これ以上食い下がると横島の迷惑になりそうなので、薫は仕方なく諦める事にした。

「そう言えば、横島さんは自宅にはパソコンはありますか?」
 手続きを済ませて、そろそろ帰ろうかと思ったその時、天城が横島に尋ねて来た。
「いえ、ないっスけど」
 独立するまで貧乏暮らしだった横島がそんな物を持っているはずもなく、横島は素直に持ってないと答える。
「ネットでGS協会のサイトを見れば、斡旋窓口の方で見れるのと同じ情報が見れますよ。勿論、GS資格の免許にある番号で登録する必要がありますけど。自宅から依頼斡旋を申請する事も出来ますし」
「し、知らんかった……」
 GSにとっては基本なのだそうだが、これは令子の下で除霊助手をしていたからであろう。彼女はネット等を使って依頼を探す事など、横島が見ている所ではした事が無い。また、GS協会から任された依頼も、報酬が低ければあっさり断ってしまう。それも仕方があるまい。何せ令子は、座して構えているだけで向こうから依頼がやってくると言う業界トップのGSなのだから。
「本来は、GS協会が無い地方のGSのためのものなのですが、やっぱりあった方が便利ですよ」
 地方は地方で、神社仏閣を中心としたオカルト業界のコミュニティが存在するのだが、やはり全国規模のネットワークとなると、GS協会公式サイトの有資格者用会員ページと言う事になるらしい。
「カオスもパソコンは持ってなかったな……こうなったら、買っちまうか?」
「おう、買っちまおうぜ! それなら、家でも見れるんだろ?」
 ポツリと呟いた横島に、いの一番に賛成したのは薫であった。応接間に通されたので、見る事が出来なかった依頼情報のページを見てみたいのだろう。どちらかと言えば、応接間に通される方が特別扱いなのだが、彼女にとってその辺りはどうでも良いようだ。家で兄と一緒にそのサイトを見てみたいのだろう。
「ここも家から来るには結構距離あるし、かまへんのとちゃう? そう言う買い物なら、愛子はんも怒らんやろ」
「そうね、帰りに見に行ってみない?」
 葵と紫穂も薫に同意した。この二人はせっかく横島に会いに出掛けてきたのだから、このまま直で帰るよりもどこかに寄って行きたいと考えている。
「あの、私もいいよ。帰りに買い物に行っても」
 三人の意見に澪も追従した。買い物に行けば、大勢の人がいる事は分かっているが、横島達と一緒ならば大丈夫だ。横島が澪へと視線を向けると、彼女は小さくコクリと頷いてみせた。

「それじゃ、俺達はこれで」
「分かりました。そちらの二件については、出来るだけ早くに行ける日を連絡してください。どちらも普段は利用されていない所なので、時間はいつでも構いませんから」
「了解です」
 話がまとまったところでGS協会での用は終わりだ。天城に別れを告げて、横島達は続けて買い物に向かう事にする。
 GS協会を出た横島は、薫を肩車し、澪と手を繋いでいた。除霊依頼の書類が入った封筒は紫穂が預かっている。葵は手こそ繋いでいないものの、横島に寄り添うような位置を確保していた。
「ところで、忠夫さん。パソコンはどこで買うつもりなの?」
「う〜ん……正直なとこ、初めて買うんで何を見て選んでいいのかもさっぱりだ。とりあえず、電器屋にでも行ってみるか?」
 今までパソコンなど買った事もない横島は、正直これからどの店に向かえば良いのかも分からなかった。大きな店の家電売り場にでも行けば、何とかなるのではないかと考えている。
「知り合いに詳しいヤツとかいねーのか?」
「誰かいたっけかなぁ……」
 横島は携帯を取り出し、登録されたアドレスを見ながら誰か教えてくれそうな人がいないかを探してみる。
 そう言えば、令子は自分の事務所にパソコンを持っていた。あれでGS協会のサイトを開いているところなど見た事はないが、部屋にゴキブリが出た際に、あのパソコンを使って自分の家にミサイルを撃ち込もうとした事がある。
 彼女は意外と詳しいかも知れない。ピピッと携帯を操作し、彼女に連絡を取ろうとする横島。
「やっぱ、やめとこ」
 しかし、発信する直前になってそれを取りやめてしまう。彼女は確かに詳しいだろうが、色々と知ってはいけない裏技も知っていそうで、素人が教わるには少々荷が勝ち過ぎている気がしたのだ。
 令子に聞くのは止めて、他に詳しそうな人はいないかと探していく。クロサキ辺りならば仕事で使っているから詳しいかも知れない。そんな事を考えながら登録された番号のリストを見ていくと、ここでふとある人物の名が目に止まった。
「どうしたんや?」
「いや、この人がネットやってるとか言う話は聞いた事ないけど、考えて見りゃ使えない方がおかしいわ」
 そう言って横島は、その人物へと連絡をする。携帯に登録された名前は須狩、オカルトGメン日本支部の開発主任だ。彼女ならば普段からパソコンを使っているはずだ。クロサキと須狩、どちらに掛けるかと問われれば、須狩を選ぶのは横島にとって当然の選択である。

 どうせならば、須狩の予定に合わせて一緒に買い物でも行けないかと目論む横島。しかし、彼の目論みが成功する事はなかった。先日、薫にセクハラされまくった彼女は、横島の家に行くのを嫌がったのである。
 しかし、予想通り彼女はパソコンにも詳しく、相談にはきっちり乗ってくれた。初心者である横島は変にこだわる必要はないと、彼女がよく利用している店の名前を教えてくれたのだ。更に、その店のチラシの一部を写真に撮ってメールで送ってくれる。今ならば、これから始めるために必要な物を揃えたセットが、手頃な値段で手に入るそうだ。
「んぢゃ、この店に行ってみるか」
「ウチに任せとき、瞬間移動能力でひとっ飛びや。澪、干渉し合わんよう、力抑えときや」
「うん、分かった」
 同じ瞬間移動能力者(テレポーター)同士、能力が干渉しないよう声を掛け合う葵と澪。会話もスムーズだ。昨日一緒の部屋で寝た――いや、寝るまで騒いでいたおかげであろう。
「あ、その前に銀行な。金下ろさないといかん」
「ドーンと一括払いやな♪」
 先に銀行に寄り、パソコンを買うための代金を引き落としてから、須狩に紹介してもらった店へと向かう一行。
 澪も、これだけ大人数で一緒にいれば人混みも怖くないらしく、時折笑顔も見せてくれている。
 店に到着し、例のチラシの写真を店員に見せると、店員はすぐにその商品があるところに案内してくれた。その上、ネットに接続する契約や手続きもこの店で出来ると言ってくる。そのまま契約して良いのか迷った横島は、再び須狩に連絡してアドバイスを求める。すると、彼女は自分もそこで契約したから、特に問題は無いだろうと教えてくれた。横島は店員に勧められるまま手続きを済ませる。
 他に買うべき物は特にないので、横島はパソコンの入った段ボール箱をその場で受け取り、担いで店の外に出る。こっそり薫が念動能力(サイコキネシス)で手伝ってくれているので、軽いものだ。
 そして一行は人通りの少ない裏路地に入り、周囲に人の姿が無い事を確認して、葵の瞬間移動能力で家に帰るのだった。


 一行が帰宅すると、出迎えたマリアとテレサが横島の担ぐ段ボール箱を見て目を丸くしたのは言うまでもない。
 居間に行くと、そこには百合子とタマモの姿があり、やはり突然大きな買い物をしてきた横島に呆れた様子だった。しかし、薫達がGS協会のサイトを見るために必要なんだと力説して横島を庇う。横島ではなく彼女達が力説している辺り、どちらがそれを見たがっているかは一目瞭然である。
「早速見てみようぜ!」
「待て待て、どの部屋に置くかをまず決めないと」
「仕事部屋じゃないの?」
「あの部屋、除霊用の武器とか飾って雰囲気作ってるからなぁ……あの和風の部屋にパソコンを置くのは不味いんじゃないか?」
「ああ、確かにそうかも知れへんな」
 仕事場に置いては雰囲気が崩れる。しかし、仕事で使う物である事は確かなので、依頼者を招く例の除霊用武具を飾った和室の、隣の部屋にパソコンを設置する事になった。配線などはよく分からないため、横島はカオスかテレサ辺りに任せようかと思っていた。しかし、ここで意外な伏兵が登場する。ハニワ兵の澪父が詳しく、率先して引き受けてくれたのだ。生前仕事で使っていたらしい。
 そして、これまた意外な事に、カオスもテレサもパソコンの事を全く知らなかった。パソコンが出来た頃には、カオスは既に今のような状態だったのである。彼が知らないのだからテレサが知らないのも仕方あるまい。彼女は澪父を手伝いながら、パソコンに関する知識を学習しようとしている。

「ぽー」
「はい、これでネットに繋がるわよ〜」
 待つ事しばし。澪父を中心としたハニワ兵達とテレサの作業は終了し、パソコンが繋げられるようになった。早速横島達はネットに接続し、GS協会のサイトを開いてみる事にする。
 薫は当然の如く、横島の膝の上に陣取る。澪がそれを羨ましそうに見ている事に気付くと、彼女の手を引いて、二人で横島の膝の上に座った。葵と紫穂は横島の両隣にちょこんと座って画面を覗き込んでいる。
 GS協会のサイトを開き、画面の指示に従って会員登録をする。すると会員専用ぺージが開かれた。依頼の情報が掲載されたぺージだけではなく、様々なオカルト業界に関する情報が、このページでは見られるようだ。
「他のは後回しにして、まずは依頼のとこ見てみようぜ」
「今日、二件引き受けてきたんだがなぁ」
「いいから、いいから♪」
 薫がマウスを持つ横島の手の上に自分のそれを重ね、勝手に操作をして依頼情報のページを開いてしまう。更に勝手に依頼情報を見ていき、霊障の内容を見ては「おお〜」と感嘆の声を上げている。
「ん、ちょっと待て」
 薫が更にページを開いていると、ある案件のページに差し掛かったところで、横島はその手を止めた。
「なんだよ、今いいとこなのに」
「お兄ちゃん、どうしたの?」
 薫と澪が揃って横島の顔を見上げるが、彼は画面の一部を食い入るように見詰めている。それは他のページとは形式が違っていた。現場の写真が掲載されていたのだ。それに気付いた薫達も首を傾げる。他の依頼のページには現場写真などなかったはずだ。
 詳しく内容を読んでみると、何故写真が掲載されているのかが理解出来た。この案件は、横島がこの家を手に入れた時の依頼と同じように、霊障が起きている現場であるこの建物自体が報酬となっているのだ。写真は、報酬の欄に掲載されていたのである。
「忠夫はん、この建物がどうかしたんか?」
「いや、これ、どっかで見たような……」
「知ってるの? 結構、雰囲気良さそうな建物だけど」
 その写真の建物は紫穂の言う通り、なかなかに雰囲気の良い建物であった。あまりこの周辺――都会で見掛けるタイプではない。家と言うよりはペンション。どこかリゾート地の建物なのかも知れない。
「………あ」
 写真を食い入るように見詰めていた横島は、小さく声を上げた。その建物が何であるか、誰の物であるかを思い出したのだ。

「これ、地獄組の組長の別荘じゃねーか」

 そう、その建物は横島が令子の下で除霊助手をしていた頃に何度か依頼をしてきた事がある人物、現在は既に足を洗って隠居した元・地獄組の組長の別荘だったのだ。



つづく





あとがき
 澪の父親がハニワ兵である。
 澪が横島家の養女となる。
 依頼斡旋窓口がある、公式サイト、会員ページ等、GS協会に関する描写。
 須狩はパソコンに詳しい。カオス、テレサはパソコンの事を何も知らない。
 これらは『黒い手』シリーズ及び『絶対可憐チルドレン・クロスオーバー』独自の設定です。

 カオスは原作中で精神を交換する装置等、様々な機械を作っています。
 しかし、同じく原作中に登場したカオス式計算機を見るに、あれらは現行のコンピュータとは全くの別物であると判断しました。

 また、澪の性格など、いなり寿司が好き等の設定は、原作の描写に独自の設定を加えております。
 ご了承ください。

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