黒い手 4
「それじゃ、私は小竜姫に預けられてるルシオラちゃんの霊破片を取ってくればいいんでちゅね?」
「ポチが持ってりゃ手っ取り早かったんだが…あれだけの荒行だ仕方ないか」
ルシオラの霊破片は修行中は安全なところにと、横島が小竜姫に預けていたのだ。ベスパは妙神山の構造に詳しいパピリオにそれを探させ自分は横島の元に向かう事にする。
「おそらく、ポチの魂は既に…それならいけるはずだ。姉さん、もうすぐ会えるよ…」
「おい、起きろポチ!」
「う…ベスパ?」
治療を終えた横島は妙神山の一室に寝かされていたが、そこに灯りも付けずに入って来たベスパが横島を叩き起こした。
「ほら、右手を出してみな」
そう言って横島の右腕を掴み上げるが当然その腕は魔族化したままだ。
「ポチ、目を瞑るんだ」
「?」
逆らう理由もないので素直に目を瞑る横島。ベスパはさらに続ける。
「自分の内側に感覚を潜りこませろ・・・今のお前になら感じられるはずだ…」
「…何を感じろって言うんだ」
「お前の中の・・・姉さんを」
「!?」
ベスパの言葉に思わず目を開く横島だったが、目の上にはベスパの手が乗せられていて暗闇のままだ。何を言ってもベスパは引き下がりそうにないので、横島は再び目を閉じてその言葉通りに自分の中のルシオラを探しはじめる。
「姉さんを感じられたか? それをそのまま掌に集中するんだ。そう、お前がいつも文珠を作っているように…」
言われるままにする横島。すると、魔族化した掌から漆黒の文珠が生み出される。
禍々しい感じはしない。むしろ暖かさすら感じる。
ベスパはそれを手に取ると愛おしそうに抱きしめた
「それは…まさか…」
「やっぱりできた…そうだよ、お前の中の姉さんさ」
「そんな、俺の魂からルシオラの部分を分離する事は…」
「人間のままならできないね」
「!?」
ベスパが横島の右腕を見下ろし、横島の視点もそれに続く。
「だが、今のお前の右腕は魂まで魔族化してた。だから姉さんの部分だけを分離する事ができたのさ」
「そんな事が…」
「ヨコシマー! ルシオラちゃんを連れて来たでちゅよー!」
パピリオがルシオラの霊破片を持って部屋に飛び込んで来たのはちょうどその時だった
「さぁ、行くよポチ!」
「行くってどこに?」
「魔界に決まってるだろ? 魔族化が魂にまで及んでいる今、完全に魔族化するのは時間の問題だ。さぁ、あたし達と一緒に魔界へ帰ろう!」
そう言ってベスパは横島に手を差し伸べる。
しかし…
「ゴメン、俺はまだやる事がある 一緒に行けないよ」
横島がベスパの手を取る事はなかった。
「どうして! 姉さんの霊的質量はこれでもまだギリギリだ。魔界じゃないととてもじゃないが蘇らせる事などできんぞ!?」
「………」
横島の決意はそれでも変わらない。
どこか複雑そうな笑みを浮かべて立ち上がり、ベスパの頭をクシャっと撫でると親が子に言い聞かせる様にこう言う。
「ルシオラの事はお前にまかせる、必ず蘇らせてやってくれ…それと、俺もいつか魔界へ行く、その時は皆で一緒に暮らそう」
「…わかったよ」
しばし沈黙していたベスパだったが、ベスパは少し照れた笑みを浮かべ頷いた。
「あ、小竜姫達が気付いたみたいでちゅよ!」
「ほら、俺が食い止めるからお前達は先に行け」
「ああ、待ってるよ………にいさん」
そう言ってベスパ達は横島が使っていたゲートに向かって駆け出した。横島の方はできる事なら小竜姫達とは戦いたくないがルシオラのため、何より2人の妹のためとあらば戦わねばなるまい。
そう覚悟を決めると身構えて《栄光の手》を発動させる。
だが、横島の心配は杞憂に終わった。
何故なら…
ドクンッ
心臓が急激に大きな鼓動を奏で始める。
「な、なんだ?」
ピシッ
ナニかにヒビが入る音がする。
次の瞬間
「ぐわあぁぁぁぁッ!?」
先刻までルシオラの腕と同じ模様だった魔族化した右腕が完全な黒となり、人としての原形を留めぬように肥大化、変形しはじめたのだ。
「横島さん!?」
小竜姫達がベスパを追って横島の部屋に辿り着いたのはちょうどその時だった。
つづく
「さて、ここで問題やルー坊」
「いきなりなんですか?」
「ルシオラが体を維持できなくする程の魔力とヨコシマが死んでまう程消耗した霊力。さて、どっちが大きい?」
「決まっているではないですか、魔力です」
「ほんじゃ、なんでヨコシマは今まで人間のままやってん?」
「…さぁ?」
「ククク、誰かさんが嫌がってたんやろうなぁ。ヨコシマが魔族化するのを…でもな、魔力はじょじょに横島の霊力と溶け合うて中で眠るルシオラだけのもんやのうなる。その自分のモノなった魔力を持って魔界で戦いはじめた時からこうなる事はわかりきってたんや」
「…ベスパ達が魔界に戻ってきたらどうしますか?」
「ほっとけ、手出し無用や」
「御意」
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