topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.127
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「ちょ、ちょっと待って下さいね!」
 早速話し始めようとしたコレットを、愛衣が手で制した。そして彼女は携帯電話を取り出し、誰かに連絡を取る。
「あ、茶々丸さんですか! 実は―――」
 連絡した相手は、茶々丸であった。本当ならばエヴァに連絡をしたいのだが、機械に弱い彼女は、そう言う物は全て茶々丸に任せてある。
「と言う訳で、アリアドネーから来たコレットさんと言う方と知り合ったのですが、その人が横島さんの―――」
 愛衣はコレットの事を茶々丸を通してエヴァに伝え、彼女をレーベンスシュルト城に招待して良いかと問い合わせる。流石に一般人を招待する事は出来ないが、魔法関係者ならば出来るのではないかと考えたのだ。
 問題があるとすればコレットが麻帆良の関係者ではなくアリアドネーからの援軍だと言う事だが、エヴァにしてみれば麻帆良よりも魔法界の関係者の方が「マシ」らしい。横島について何か知っている事を伝えると、許可するどころか携帯電話を通じてドスの効いた声で「連れて来い」と言ってきた。やはり、エヴァも気になるようだ。
 電話を終えた愛衣は、目を輝かせて振り返った。その表情に圧力のようなものを感じてしまったコレットは、思わず腰が退けてしまう。
「あの、コレットさん。これから時間はありますか? 是非、あなたを招待したいんですけど」
「え、え〜っと……」
 一方コレットは、この急展開に頭がついて行けずにいた。
 魔法関係者を探して感知魔法に引っ掛かった愛衣に声を掛けたまでは良かったのだが、あれよあれよと言う間に駅のホームに連れて来られ、しかもこれから家に招待してくれると言うのだ。
 アリアドネーからの援軍に見習いとして付いて来た彼女は、人間界を知るために交流を深めるよう申し付けられていたが、これは一足飛びに深め過ぎではないだろうか。このままでは愛衣の家に拉致されてしまいそうだ。怖くなってきたコレットは、長い耳をぺたっと垂らし、ぷるぷると小刻みに肩を震わせる。
 ここは逃げた方が良いのではないかと思ったが、現実に時間は有り余っている。咄嗟に言い訳を思い付けずにあたふたしていると、愛衣がコレットの手を両手でぐっと握ってきた。
「コレットさん、家に来てお話を聞かせて下さい!」
「え、え〜っと」
 これは本格的に不味いとコレットは誤魔化す理由をでっち上げようと頭を捻るが、それより先に愛衣が更なる追い打ちを掛けた。
「実は私、お兄様と――横島さんと一緒に暮らしてるんです!」
「……………えっ?」
 肩の震えが、ピタリと止まった。
「ま、マジで?」
「マジです!」
 感知魔法で見付け、たまたま声を掛けた魔法生徒が横島の同居人だと言うのだ。つまり、これから連れて行かれる先は横島の家。なんと言う幸運であろうか。先程までの態度はどこへやら、耳をピンッと立たせたコレットは瞬く間に乗り気になった。
「分かりました! 行きましょう!」
 横島本人に会えると言うのであれば躊躇する理由はない。それどころか、ネギを探す皆よりも一歩も二歩も先んじることができる。
 愛衣がこれから電車に乗ってエヴァの家に戻るのだが、コレットはこれまで怖くて電車に乗った事がない。しかし、それも今の彼女にとっては障害にならなかった。足取り軽く、それこそスキップしそうな勢いで愛衣と共に電車に乗り込んで行く。
「それにしても、一緒に暮らしてるって兄妹なの? さっきお兄様って言ってたし」
「い、いえ、そう言う訳じゃなくて……」
 コレットの問い掛けに対し、愛衣は学園祭の警備のために、学園長の本部からは独立した別グループとして集まっている事を説明した。本人も忘れ掛けていたが、元々愛衣達がレーベンスシュルト城に引っ越したのは、そう言う理由あっての事だ。
 では、学園祭が終われば元に戻るのかについては、今のところ未定であった。出来る事ならばずっと今のままが良いと思ってしまうのは、きっと愛衣だけではあるまい。
「そ、その、私にとってはお兄様のように大切な人ですから……」
 頬を赤く染め、もじもじしながら答える愛衣。傍から見ていて微笑ましく、コレットも思わず笑みを浮かべてしまう。
「って事は、もしかして新発見のアーティファクトを授かった『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』って言うのは、もしかして……?」
「………っ!」
 興味本位で尋ねたのだろう。軽い口調のコレットの問い掛けに、愛衣は声を詰まらせてしまう。
 横島と仮契約(パクティオー)して、彼の『魔法使いの従者』になりたい。愛衣が以前から考えていた事だ。今のマスターである高音も、本人が望んでおり、相手が横島ならば多分大丈夫だろうと、これには賛成している。
 しかし、愛衣はいまだに仮契約していなかった。恥ずかしくて横島に仮契約して欲しいと頼む事が出来なかったのだ。
 高音の時はこのような事など気にも留めなかったのだが、横島を相手に仮契約すると考えると、彼と唇を重ねキスする事が恥ずかしくて恥ずかしくて堪らず、延ばし延ばしにしている内に裕奈に先を越されてしまったのである。
 黙り込んでしまった愛衣を見て、何かしくじってしまったかと、コレットはばつが悪そうにおずおずと問い掛ける。
「……あれ? 何か悪い事聞いちゃった?」
「い、いえ、何でもないんです、何でも。その、私はお兄様とは仮契約してません。まだ」
「ふ〜ん」
 最後に「まだ」と付け足してみたものの、それが何時になるかは愛衣本人にも分からなかった。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.127


 愛衣はそのままコレットを連れて帰路につく。家近くの小川ですらむぃ達が物珍しそうに顔を出すと、コレットが魔物だと驚きの声を上げたりしたが、それ以外は特に問題もなくエヴァの家に到着した。
「へぇ〜、スライムには驚いたけど、結構雰囲気良いところじゃん。でも、ちょっと寂しいかな?」
 ログハウスを見上げながら呟くコレット。雰囲気と言うものは滲み出てしまうものなのだろうか。彼女の言う「ちょっと寂しい」と言うのは的を射ていた。
 実際、レーベンスシュルト城で暮らし始めて以来、エヴァの生活の基盤はそちらに移ってしまい、既に家具のほとんどが城内に移されている。二階のエヴァの寝室などは空になった本棚しか残されていない。ベッドは別棟のエヴァの部屋に、本棚の中身は本城の書斎に移されている。コレットは、このエヴァの家が醸し出す生活感の無さを感じ取ったのだろう。

 これは今の段階では誰にも言っておらず、エヴァ自身しか知らない事だが、彼女は『登校地獄(インフェルヌス・スコラスティクス)』を解呪した後、麻帆良から出て行く事を既に視野に入れていた。最終的にはレーベンスシュルト城の入ったボトルだけを持って行けば良い状態にしようと言うのだ。
 そのボトルを安置するための別の場所が必要になるのだが、そこはそれ。東京の横島の家に転がり込む気満々だったりする。当然の如く、これも横島本人には内緒であった。

 閑話休題。

 家の中に入ったコレットは、何か言いたげな表情で引き攣った笑みを浮かべた。実際に家具がほとんどない室内を目の当たりにし、ここでどんな生活を送っているのかと疑問を抱いたのだろう。
「……な、なんて言うか」
「あ、あの、私達が住んでいるのは、こっちですから……」
 コレットの言いたい事を察した愛衣は、苦笑しながら彼女を地下室の方へと案内する。
 そして、ボトルが据え置かれている部屋に入り、薄暗い部屋の中で床一面に描かれた魔法陣の淡い光に照らし出されるボトルを見たコレットは、驚きに目を見開いた。
「す、すごい……こんな大きなボトル、初めて見たかも」
 魔法使いであるコレットは、この建造物を納める事の出来る魔法のボトル、水晶球の存在は当然知っていたが、流石にこのサイズは初めて見たらしい。愛衣がこの中には城と出城、更にその周辺の地域一帯が入っている事を教えると、コレットは驚きつつも納得していた。
「これ結構旧式だよね? こんなの持ってるなんて、横島さんってやっぱりすごいんだ!」
「いえ、これはエヴァちゃんの」
「エヴァ?」
「はい。この家の持ち主で―――」
「……エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル?」
「え、ええ、御存知でしたか?」
 知らないはずがない。魔法界では親が子供を躾けるために、こちらの世界で言うところの「なまはげ」のように使うぐらいに有名な元・大物賞金首だ。例に洩れずコレットの幼い頃は、悪い子はエヴァンジェリンが攫いに来ると怪談のように聞かされたものである。
「か、帰る!」
「だいじょーぶですよっ! ウワサほど怖くないですから! むしろ、可愛いですから!」
 踵を返して、帰ろうとするコレット。ここで逃がす訳にはいかないと、愛衣は彼女の腰にしがみ付くも、そのまま引きずられてしまう。
 コレットの方も、流石に愛衣を引きずったまま階段を登っていく事は出来なかったようだ。愛衣は、そもそも噂通りの恐ろしい吸血鬼なら自分達はここに住んでいないと説得し、なんとかコレットを引き止める事に成功する。
 コレットの方も、エヴァの城に入る事と、横島本人に会える事を天秤に掛けて、後者が勝ったらしい。
「それじゃ、入りますよ」
「う、うん」
 しかし、やはり怖いらしく、耳はぺたんと垂れている。愛衣はそんなコレットの様子にくすっと微笑むと、彼女の手をぎゅっと握る。
 そして、そのまま二人は、しっかりと手を繋いで一緒にレーベンスシュルト城に入るのだった。


「うひゃあぁぁぁぁぁっ!」
 ボトル内に入り、ゲートがあるタワーの上に立ったコレットは、一面に広がる景色を目の当たりにして思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
 無理もあるまい。レーベンスシュルト城の様な古いボトルタイプは、今や魔法界でもほとんど見掛けないが、水晶球タイプならばそれなりに出回っている。コレットは水晶球タイプの中に入った事があるのだが、それはもっと小さい物で、中の空間もそれに比例して建物が一つ入る程度の狭いものであった。そのイメージがあっただけに、初めてボトル内に入ったアスナ達よりも具体的な理由で驚いてしまったのだ。
「大丈夫ですか?」
「え、あ、うん、大丈夫だよ」
 と言いつつ、足が震えている。
 本拠地を見れば魔法使いの実力が分かると言うが、なるほどその通りだとコレットは感じた。そびえ立つ巨大な城、そして目の前に広がる広大な景色全てがエヴァのものである。
「ほら、あそこに見える別棟が、私達の暮らしている場所です。そこのゲートから別棟の入り口に転移出来るようになっています」
「ゲ、ゲートまであるんだ」
 聞けば聞くほど個人の邸宅と言うレベルではない。
 その名を聞いた時から分かっていた事だが、やはり伝説の賞金首の名は伊達では無い。コレットは改めて『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』エヴァンジェリンの凄さを思い知るのだった。

 二人が別棟に入ると、千草、月詠、アーニャの三人が出迎えてくれた。横島と高音、それにアスナ達はまだ戻って来てない。
 千草達三人が囲むテーブルの上には、たくさんの本と一緒にスナック菓子なども広げられている。どうやら愛衣達が学校に行っている間に彼女達も買い物に出掛けていたようだ。
「おかえり〜……って、誰?」
 顔を上げて振り返った千草が、愛衣の隣に立つコレットの姿を見て首を傾げる。その声に月詠とアーニャの二人も顔を上げるが、月詠の反応もコレットが人間ではなく亜人である事に興味を持ったようだが、概ね千草と同じようなものであった。
 しかし、魔法界出身者であるアーニャはコレットが魔法界の者であり、着ている制服がアリアドネーの物である事に気付いた。
「その制服、アリアドネーのよね? メイ、その人援軍の人?」
 今日はアーニャも魔法使いとしての装いではなく普通の服を着ていたため、一見して魔法使いだとは分からない。そんな彼女にアリアドネーの制服だと指摘され、コレットは驚いたようだ。
「ハ、ハイ! アリアドネーから来ました、コレット・ファランドールです!」
 しかし、すぐに気を取り直し、元気良く挨拶をしてペコリと頭を下げる。しっかりとした挨拶に、千草達は思わず席を立ち二人に近付いて来た。
「えっと、三人とも魔法使いなんですか?」
「ああ、魔法使いはこの子だけや。ウチは陰陽師、んでこっちは神鳴流な」
「どうも〜神鳴流です〜、おはつに〜♪」
 にこやかな笑みを浮かべて挨拶をする月詠。コレットもつられて微笑むと、もう一度ペコリと頭を下げる。

「そんで愛衣、なんでこの子連れて来たんや?」
「はい、実はコレットさんって、魔法界で噂になっているお兄様の事に詳しいそうなので、お話を伺おうと」
「横島の?」
 千草の眉がピクンと跳ねる。更に詳しく話を聞いてみると、コレットは横島がアシュタロスと戦ったメンバーの一人である事も知っているらしい。
 『文珠使い』横島忠夫に関する情報は、人間界ではあまり知られていない。そもそも『文珠使い』が彼である事自体が公開されていないのだ。千草がそれを知る事が出来たのは、京都での戦いにおいて彼と直接関わったためである。
 ましてや、アシュタロスとの戦いに関する詳しい内容など、千草のようなオカルト関係者でも知れるはずがない。
 その情報を目の前のウサギのような少女、コレットは持っていると言うのだ。千草は俄然興味を抱いた。
「ほ、ほな、詳しい話を聞かせてもらおか」
 興奮気味にコレットを迎え入れる千草。一応歓迎しているようで、それはコレットにも伝わってきた。
 五人はそのまま、本が広がっているテーブルとは別のテーブルに着く。お菓子だけはアーニャと月詠が移動させてきた。コレットはホテルでは見掛けなかったタイプのお菓子に興味津々だ。
「あ、私、コレットさんの持ってた雑誌を見てみたいです! いいですか?」
「ああ、これ? いいよ」
 こうしてコレットを招待する切っ掛けとなった魔法界の雑誌。その表紙には横島の姿がある。コレットにとっては何度も読んだ本であるため、あっさりと愛衣に貸してくれた。月詠も興味があるのか、横から覗き込んでくる。
「これ旦那様と一緒に写ってるの……刀子はんですなぁ」
「えっ?」
 月詠に言われ、改めてじっくりと表紙を見てみると、確かにその表紙には横島一人だけでなく刀子の姿も写っていた。後ろ姿なため顔は見えないが、仕込み刀を持ったスーツ姿は、間違い無く刀子だ。
 横島の方も角度の関係で、顔がはっきりとは見えないようになっているが、二人が並ぶ様は戦友同士のようにも見える。正しくパートナーと言った風情だ。
「これ、もしかして……麻帆良で撮られた写真?」
「もしかしなくても、そうでしょうね〜……」
 横島と刀子が出会ったのは麻帆良に来てからであり、こうして二人が肩を並べて戦うようになったのは、刀子がレーベンスシュルト城に引っ越し、一緒に夜の警備に出るようになってからだ。となると、この写真は極最近に撮られたものだと考えられる。
 横島、刀子と一緒に警備に出ているはずの刹那が写っていなかったり、他のグループの写真でなかったりするのは、もしかして刀子が一番「絵になる」と判断されたからだろうか。
 それも気になるところだが、愛衣にはもう一つ気になる事があった。
「隠し撮り……?」
「そうかも知れませんね〜」
 よくよく考えてみれば、この雑誌の編集部は、どうやって人間界に居る横島の写真を手に入れたのか。
 そう、彼等はわざわざ麻帆良まで来て警備中の横島の姿を隠し撮りしたのだ。顔がハッキリとは見えない写真を使っているのは、彼等の良心なのかも知れない。
「と言うかその雑誌、魔法界でも評判の悪いゴシップ雑誌よ」
「そ、そうなんですか!?」
 アーニャのツっこみに愛衣が驚きの声を上げる。まさか麻帆良にそのような者がいるとは思わなかった。
 いや、以前から麻帆良には魔法関係者が度々訪れていたので、それに混じって来ていたのかも知れない。
「……この雑誌、ほんまの事書いてるんやろな?」
 ゴシップ雑誌と聞き、千草が疑わしげな目になる。
「だ、大丈夫ですよ! 私の情報源は、その雑誌だけじゃありませんから!」
 慌ててフォローに入るコレット。彼女自身、その雑誌がゴシップ雑誌である事は知っていた。それでも彼女がその雑誌を手に取ったのは、ひとえに表紙が横島の写真だったからである。
 魔法界では超が付くほど有名な『千の呪文の男(サウザンド・マスター)』とは異なり、横島はまだまだ知られていない英雄だ。
 こんなにも早くにコレットが彼に目を付けたのは、彼女が軍事ネタと、英雄ネタが大好きであるが故である。『千の呪文の男』のファンは大勢いるが、横島のファンはほとんどいない。だからこそ、早い内から彼の事を調べて皆より一歩も二歩もリードしたいのである。
 ミーハーと言ってしまえばそれまでだが、そのために横島に関する情報を集め、こうして人間界でも彼を探し歩いていたのだから、その行動力は賞賛に値すると言えるだろう。

「そもそも、なんで魔法界ではこんなに横島の事が知られてるんや?」
「それは、新発見のアーティファクトを立て続けに出してるからですよ」
 千草の疑問には、コレットが答えた。
 横島が魔法界で話題になった切っ掛けは、カモが提出した新発見のアーティファクトに関する報告書だ。一件だけでも珍しいと言うのに、それが立て続けに起きている。この奇跡のような出来事が研究者の間で話題になり、それに合わせて横島自身の人となりについて興味を持たれ始めたのだ。そして、魔法界でも噂になっていたアシュタロスとの戦いを再評価する動きに繋がったのである。
「アシュタロスとの戦いについては、魔族からの情報ですね」
「魔族!?」
「はい、魔法界は魔界とも交流がありますから」
 正確には、魔法界の中でも『南の帝国』が魔族と交流を持っている。そのため、『北の連合』ではそうでもないのだが、魔法界全体で見れば魔族を見掛ける事も珍しくない。
 ここにいる面々は誰も知らない事だが、横島は人間界よりも天界、魔界の方で注目されている。特に魔界では、重鎮の間でもその名を知られていた。それだけに、人間界では一般に知られていない情報も、魔界では流れている。
「つまり、魔界から旦那様の情報が魔法界にも流れたと言う事ですか?」
「ええ、すごいでしょ?」
 感心した様子の月詠に、コレットは自分の事でもないのにエヘンと胸を張る。
 確かに月詠は感心していたが、それは魔法界に情報が流れている事についてではない。彼女が感心したのは、横島が魔界で名が知れ渡っている事についてだ。
 彼女の頭の中では、魔界で名が知れ渡っている事と、魔界で敵が多い事とがイコールで結び付いていた。横島はデタント推進派の重要人物として名前が知れ渡っているので、デタント反対派に敵が多い。そう言う意味では、月詠の感心は間違ってはいなかった。つまり、斬る相手に困らないと言う事である。
 千草だけは月詠のそんな心中を察し、しばらく見張っておかないと、また暴走するかも知れないと溜め息をつくのだった。

 パラパラと雑誌を斜め読みしながら、愛衣は首を傾げた。
 新発見のアーティファクトについて有名になったと言っている割には、雑誌ではアーティファクトについてほとんど触れられていないのだ。
 おそらく、アーティファクトに関する真面目な話をするより、表紙の並び立つ横島と刀子のように「英雄」としての部分を売りにした方が良いと編集部が考えたのだろうが、直接インタビューしている訳ではないので内容がおかしくなってしまっている。
 愛衣のように普段の横島を知る身としては、ツっこみ所満載の記事だ。
「これはこれで面白そうですけど〜」
 一方で月詠は耐性があったようだ。記事の内容を笑い話として捉える程度の心の余裕を持っていた。
 もっとも、彼女の場合は今は笑っていても、数分後には斬りたくなっている可能性が高いが。

「あ、先輩達が帰って来はったみたいですよ〜」
 ふっと真顔に戻った月詠は、窓を通してゲートのあるタワーの方に視線を向けた。アスナ達3−Aの面々が帰ってきたらしい。残念ながら、横島と高音はまだ帰って来ていないようだ。
 コレットをここに紹介する際、茶々丸にコレットの事を連絡しているので、茶々丸を通じてこの事を知った3−Aの者達が、予定を繰り上げて早く帰ってきたのだろう。
「せっかくや、皆の前で話してもらおか」
「え、ええ、それは構いませんよ」
 戸惑いながら答えるコレット。魔法界に居た頃は、マイナーな横島について語れる場所などなくて悲しい想いをしたものだ。それを考えれば存分に語れるのだから嬉しいと思いこそすれ、躊躇する理由はない。
 ただ、一つ気になる事があったため、コレットは隣に座る愛衣に問い掛けた。
「ところで、帰って来た人達って皆魔法使いなの?」
「いえ、違いますよ。魔法使いもいますが、全員ではありません。あと、霊能力者もいますね……あ、大丈夫ですよ! この中では魔法使いである事を隠す必要はありませんから」
「へ、へぇ……」
 霊能力者までいるとなるとコレットの想像の範疇外だ。彼女が想像している以上に、ここでは魔法使いである事がオープンになっているらしい。
 魔法使いに霊能力者、そして吸血鬼にアンドロイド。色々と変わり種の面々もいるが、少なくとも「人間界と交流する」と言う目的はバッチリ果たせそうである。



つづく


あとがき
 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

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