明日もレーベンスシュルト城へ遊びに行く約束を取り付けたコレットは、意気揚々とホテルに帰って来た。一度使ってみて怖がらなくても良いと気付いたので、魔法を使わず遠くまで移動出来る便利な乗り物――路面電車を利用しての帰還である。彼女達魔法界の援軍には、警備期間中麻帆良内でのみ使える定期が支給されているのだが、それをようやく使う事が出来た。
中に入ると、ロビーのソファに身を沈めるエミリィ達の姿がある。あちらは今日もネギに会えなかったらしく、疲れ切った様子だ。魔法界からの援軍が泊まるホテルは、普段から魔法関係者が宿泊するために全てのスタッフが関東魔法協会の関係者で揃えられているため、認識阻害の魔法も解いて気怠そうにしている。
そう言えば、今日コレットが知り合った少女達は横島の関係者であるだけでなく、ネギの教え子達でもあった。彼女達の知らない事を知っているとちょっぴり優越感に浸るコレット。
その事を伝えれば彼女達は喜ぶだろうか。いや、喜ぶのは間違いないだろう。これは教えてやらねばなるまいと、コレットはにんまりとした笑みを浮かべてエミリィ達に近付いて行く。
「……あっ」
間近まで近付き、声を掛けようと片手を上げたところで、コレットははたと気付いた。
自分も横島の前に立ち、勢いに任せて仮契約(パクティオー)を申し込んで彼等に迷惑を掛けてしまった。実際に横島が迷惑に感じたかどうかは疑問が残るところだが、せっかくの自分を慕ってくれる少女とキスをするチャンスをみすみすふいにして我慢せざるを得なかったのは、彼にとって辛い事であっただろう。
エミリィ達にネギの情報を伝えると、彼の迷惑にならないだろうか。そう考え始めると、情報を伝えるべきか否かコレットには判断が付かず、声を掛けようとした体勢のまま、二の句が継げなくなってしまった。
「あら、どうしましたの?」
逆に、エミリィの方がコレットに気付いて振り返り、声を掛けて来た。変な体勢のまま固まり、冷や汗を垂らすコレットの姿を見て、エミリィは首を傾げて怪訝そうな表情を浮かべている。
「あ、いや〜……セラス総長はどこかな〜って。いいんちょ、知らない?」
「ああ、それでしたら先程戻ってこられましたわ」
何とか誤魔化そうと、わたわたしながらもコレットはセラスの名前を出してその場を切り抜けた。横島と出会えた事は報告せねばならないと考えていたので、咄嗟に名前を出す事が出来たのは僥倖だ。
「アハハ、ありがとね〜」
「……?」
このままここに留まっていては、いつボロが出るか分からない。セラスは現在このホテルにいるようなので、コレットはそそくさとこの場を離れてセラスの下へ向かった。
セラスが宿泊している部屋は、コレット達の部屋と同じ階のさほど離れていない場所にある。見習い達が一番手が掛かり、心配だから近くの部屋を宛がわれたのかも知れない。
扉の前に立つコレット。やはり、セラス総長と会うのは緊張する。一度大きく深呼吸をし、よしっと気合いを入れ直すと、コレットは意を決して扉を二度ノックした。
やや間があって扉が開かれる。中から顔を覗かせたセラスは、部屋で寛いでいるかと思いきや、いつも通りのスーツ姿であった。
「あら、コレット。どうかしたの?」
優しげな声のセラス。しかし、彼女が優しいだけでない事を、コレット達はよく知っている。
「は、はい! 報告があって来ました!」
ビシッと背筋を伸ばして声を張り上げるコレット。その姿を見て、セラスはどこか困ったような表情で苦笑した。このホテルは魔法関係者ばかりだから良いものの、廊下でそんなに大声を張り上げてどうしようと言うのか。しかし、緊張で顔を強張らせたコレットは、その事に気付いていないようだ。
思わずキョロキョロと辺りを見回してみると、廊下の向こうにホテルのスタッフらしき女性の姿があった。先程のコレットの声が聞こえたのか、暖かい視線で笑みを浮かべてこちらを見詰めている。セラスは思った。今の自分は、きっと彼女と同じような笑みを浮かべているのだろうと。
「分かったわ。それじゃ、そんな所で声を張り上げてないで中に入りなさい」
「あ……す、すいません」
セラスが中に入るように促すと、自分がかなり大声を出していた事に気付いたコレットは、顔を真っ赤にして足早に部屋の中へと入った。
しかし、部屋に入ったからと言って緊張が解けるようなものでもない。コレットはまだカチコチの状態できょろきょろと辺りを見回している。
と言っても何か特別なものがある訳ではない。セラスが宿泊している部屋は、コレット達が泊まっている部屋とさほど変わらないものであった。むしろ、一人で泊まる部屋なため狭く感じるほどだ。
「それで、報告したい事って?」
「実は、横島さんに会ったんです!」
「そ、そうなの。おめでとう」
コレットの報告を聞いたセラスは、一瞬ピクッと身を震わせて動きを止めてしまったが、すぐに何事もなかったように話を続ける。しかし、内心は「とうとうこの日が来たか」と冷や汗をかいていた。
コレットが横島を、他の見習い達がネギを探し回っている事は、当然セラスも知っていた。二人の迷惑になるのではないかと心配ではあったが、人間との交流を深めるように申し付けた以上、頭ごなしに止める事も出来なかった。二人との接触は別段禁止されている訳ではないし、人間界との交流の取っ掛かりとして、彼等が適役である事は確かなのだから。
横島を探しているのはコレット一人だけ、まさかこちらが先に見つかるとは予想外だ。しかし、横島とネギには繋がりがあるので、どちらか片方が見つかってしまえば、もう片方の情報が見習い達に流れるのは時間の問題だろう。
口止め出来れば良いのだが、そうしなければならない程ではないと言うのが正直なところだ。口止めするぐらいなら、最初からネギ、横島の二人を探す事自体を禁止していれば良い。前述の通り人間界との交流を深めるために、彼等と知り合うこと自体は悪い話ではないのだ。
問題は彼等の迷惑になるかも知れない事と、セラスの苦労が増える事であってそれ以上ではない。中途半端に厄介なところが、頭の痛い話である。
見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.131
「……と言う訳で、明日もレーベンスシュルト城に行く事になったんです」
「そう、そんな事があったのね」
コレットからレーベンスシュルト城での出来事を一通り聞き終え、セラスは小さくため息をついた。
まさか、出会った直後に仮契約(パクティオー)を申し込むとは思わなかった。アリアドネーの生徒が、横島と仮契約する事を否定するつもりはない。仮に現役の団員だったとしても、当人同士が納得した上であれば構わないとセラスは考えている。その結果、その者がアリアドネー騎士団から退団する事になったとしても、それは本人の選んだ道だ。
しかし、仮契約を申し込んだコレットは、話を聞く限りそうではなさそうだった。深く考えずに勢いで申し込んでいた事は、彼女自身既に分かっているらしい。冷静に判断し、申し出を断ってくれた横島には感謝せねばなるまい。それと、コレットと話をしてその事に気付かせてくれた彼の『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』達にも。
「それにしても、横島君の従者達は昔気質と言うか……」
どこか呆れた様子でセラスが呟く。コレットはどう言う意味か分からなかったようで、首を傾げるだけだった。
人間界で生まれ育ったアスナ達には「昔」も何もないのだが、彼女達の『魔法使いの従者』としての心構えは、魔法界では一昔前の感覚に近い。
今の魔法界では、仮契約と言えば男性魔法使いには女性を、女性魔法使いには男性をと、そのまま主従で結婚してしまうパターンが多く、恋人探しの感覚に近い。巷に「仮契約屋」なるものがあるぐらいだ。アーティファクトだけを目的に仮契約する者達もいるらしい。
そもそも『魔法使いの従者』と言うのは、魔法世界に伝わる古いお伽噺だ。世界を救う『偉大な魔法使い(マギステル・マギ)』と、それを守り助けた一人の勇敢な戦士の話である。魔法使いは戦場において、盾となって守ってくれる前衛がいなければ真価を発揮出来ないため、その話に倣って仕事の相棒となるパートナーを連れるようになったのが『魔法使いの従者』の始まりであったと言われている。
アスナ達も年頃の少女であり、横島もまた年頃の男だ。恋人のような感覚で意識していないと言う事はないだろうが、彼女達はパートナーになり、共に歩んでいく事について真剣に考えている。全てひっくるめて自分の将来を見据えていると言い換えても良いだろう。
そのパートナーである事に真摯に向き合う姿勢は、一昔前の魔法使いと『魔法使いの従者』のそれに近いのではないだろうか。
「ねぇ、コレット。あなたは横島君の従者達の話を聞いてどう思ったの?」
「え? どうって」
「たかが仮契約なのに、堅苦しいとか思わなかった?」
「それは……」
セラスの問い掛けに、言葉を詰まらせるコレット。確かに最初はそう思わなくもなかった。しかしアスナ達の話を聞いていると、従者として修行に励んでいる彼女達が、苦労しているどころかとても楽しそうに思えてきたのだ。
堅苦しいだけでは、あんな風にはなれないだろう。そう、彼女達は『魔法使いの従者』として努力しながらも、充実していたである。
コレットは、セラスの目を見詰めてキッパリと答えた。
「いえ、それはありません。彼女達はとても楽しそうでした」
「そう……」
その答えを聞き、セラスは満足そうに頷いた。横島達との出会いは、コレットにとってプラスになったらしい。学校では落ちこぼれであった彼女にとって、これは大きな前進だと言えよう。
一通り話を聞き終え、セラスはこれからどうするべきかを考えた。
とりあえず、一度レーベンスシュルト城に顔を出すべきだろう。彼等はコレットを受け容れているようだが、突然の訪問であった事は間違いない。また、コレットから情報が流れる事によって他にもレーベンスシュルト城に出向く者が現れるかも知れない事を考えると、セラス本人が出向いて彼等に事情を説明する必要があるだろう。
「コレット、あなたは明日もレーベンスシュルト城に行くのよね?」
「ハイ!」
満面の笑顔で答えるコレット。
「私も一緒に行くわ」
「……え゛」
しかし、次の一言でその笑顔が強張った。
その様子に気付きながらも、セラスは話を続ける。
「横島君達はね、魔法界で騒がれている新発見のアーティファクトや、魔王アシュタロスを倒しただけの人物じゃないの」
「そうなんですか?」
「ええ、これからの人間界のオカルト業界において―――いえ、三界のデタントにおいて重要になるかも知れない人物なのよ?」
「デタント……」
その言葉はコレットも知っていた。そもそも、関東魔法協会が情報公開を進めている理由に、そのデタントが関わっている。この事は援軍に選ばれた際に、人間界に援軍に赴く理由としてコレット達にも説明されていた。
「私もいずれ挨拶しとかないとって考えていたし、丁度良い機会だわ」
「は、はぁ……」
どうやら、明日一緒に行くのは決定らしい。
先程、アスナ達は堅苦しくなかったかと問われたばかりだが、こちらの方が堅苦しい事この上ない。勘弁して欲しいと思うが、コレットにはどうする事も出来なかった。
「そうそう、ネギ先生については何か聞いたかしら?」
「えっと、皆さんがネギ先生の教え子だって話を」
「セーフハウスの話までは聞いてないのね……」
セラスはあごに手を当てて考える。
ネギの教え子であるアスナ達に会ったが、ネギの居場所までは教えられていない。彼女達が意図的にそうしたのかどうかは分からないが、これは丁度良いかも知れない。
「コレット。横島君達に会った事なんだけど、もう誰かに話した?」
「いえ、まだです」
「それなら、明日まで黙っていてくれないかしら? 明日、私からネギ先生の普段の居場所を教えるから」
「明日までですか? 分かりました」
明日、コレットを連れて横島に会う事が出来れば、人間界のオカルト業界と繋ぎを取ると言う目的はひとまず果たされる事になる。その後ならば、他の見習い達がネギのセーフハウスに押し掛けたとしても、自分が対処してしまえば良い。
最初からこうしておけば手っ取り早かったのではないかと思わなくもないが、これはコレットが他の見習い達より先に横島に出会ったからこそ出来るのだと、セラスは自分を誤魔化した。
「と、とにかく、明日は二人でレーベンスシュルト城まで行きましょ。警備の仕事についても、話しておきたい事があるから」
「は、はひ、お手柔らかにお願いします!」
「フフッ、そんなに緊張する事ないのよ」
そう言ってセラスは微笑み掛けるが、それは無茶と言うものである。
コレットはガチガチに緊張したまま退室し、そのまま自分の部屋の前を通り過ぎてどこかへ行こうとしたところを、エミリィとベアトリクスに発見されて自分の部屋へ連れて行かれる事になった。
エミリィ達はロビーでのコレットの態度が気になっていたが、今の彼女の様子を見てセラス総長に説教されたか、何か厄介事を押し付けられたのだろうと推察して、それ以上は触れずにいた。幸か不幸か、おかげでコレットはその日の晩、横島と出会った事を周囲に知られずに過ごす事が出来たのである。
翌日、いつものようにネギを探しに行くエミリィ達を見送った後、コレットは一階のロビーで待っているはずのセラスの下へと向かった。
横島達には学校があるため、レーベンスシュルト城に行くのは、いつもの探索と変わらない時間である。セラスはこれからレーベンスシュルト城を訪ねると、既に横島に連絡をしている。
ロビーに到着すると、そこには既にセラスが来てコレットを待っていた。セラスは、いつも通りのスーツ姿だ。横島に会いに行くからと行って、特別おめかししたりはしない。あくまで今日の用件は仕事に関するものなのだろう。
「準備は出来たかしら?」
「はい!」
一方コレットはと言うと、流石に一晩経って落ち着いたのか昨日ほど緊張はしていなかった。
こちらはセラスと違って制服ではなく私服姿になっている。今日も横島に会いに行くので、ちょっとおめかししてみたのだ。魔法界の服なので人間界のそれとは少々デザインが異なるのだが、こうして見ると、耳としっぽを除けば普通の一般人の少女とさほど変わらない。その耳としっぽが問題なのだが、横島はそんな些細な事は気にしないだろう。
「それじゃ、出発しましょうか」
横島達もそろそろレーベンスシュルト城に帰っている頃だろう。二人は連れ立ってホテルを出ると、路面電車を使ってレーベンスシュルト城へと向かった。昨日まで電車に乗れなかったコレットだが、今はもう平気である。
エヴァの家近くの小川に差し掛かったところで、見知らぬセラスを警戒しすらむぃ達が顔を出したが、コレットの事を覚えてくれていたようで、彼女が事情を説明するとすぐに通してくれた。
そのまま二人がエヴァの家に到着すると、茶々丸が出迎えてくれて地下のレーベンスシュルト城へと案内してくれる。
城内に入り、魔法陣を通って別棟に向かうと、横島達が出迎えてくれた。昨日と違うのは、人数が少し少ない事。セラスが今日ここに来る事については既に連絡が行っているため、今日はクラスメイトの姿はなく、ここの住人のみが集まっている。
「今日は突然どうしたんですか、セラスさん」
「ええ、さっきも連絡した時にも話したんだけど、ちょっと頼みたい事があってね」
一つのテーブルを囲み横島と向かい合う席に座ったセラスは、一通り挨拶を済ませると早速今日ここに来た理由について話し始める。
彼女が今日ここに来たのは横島と顔を合わせて繋ぎを取るためなのだが、実はそれだけでなくもう一つの理由がある。
「頼みたい事? 魔法の事はよく分からないんで、簡単な事でお願いしますよ?」
横島が首を傾げながらそう言うと、セラスはにっこりと微笑んで首を横に振った。最初からそんな難しい事を要求するつもりは無い。
「簡単よ。コレットを、ここに置いて欲しいの」
「なるほど、コレットを………え?」
「私ですか!?」
そう、セラスの目的は、麻帆良祭の警備の間、コレットをレーベンスシュルト城に居候させる事であった。
横島達は、今回の麻帆良祭の警備では別働隊として扱われ、遊軍扱いとなっている。しかし、セラスはそんな彼等に注目していた。なんだかんだと言って彼等は、少数精鋭の実力ある集団なのだ。
また京都では木乃香を狙われ、『フェイト』当人と一戦交えている横島達やネギ達は、彼との因縁と言うものがある。
「え〜っと、なんでまた?」
「連絡員よ」
ネギの方にはしょっちゅうセラス本人が出入りしているのだが、横島の方はそうはいかない。しかし、捨て置くのは惜しい情報源だ。横島達が得た情報を自分も知るために、常に連絡が取れるルートを確保しておきたいとセラスは考えていた。
そこで目を付けたのがコレットだ。騎士団の方は戦力を割く余裕はないが、見習いはその限りではない。
レーベンスシュルト城に身を置き、何かあればすぐさまセラスにそれを知らせる連絡員。これならばコレットでも問題なくこなす事が出来るだろう。真面目に任務をこなす意志があり、通信の魔法さえ使えれば良いのだから。
また、これはコレットにとってもプラスとなる提案だ。毎日通うのも良いが、それよりも一つ屋根の下で暮らした方が交流が進むに決まっている。それが任務の一環となれば、彼女が後ろめたさを感じる事もないだろう。
そしてもう一つ。このレーベンシュルト城では、アスナ達が修行を行っているのだ。彼女達と同じ様に修行をすれば、コレットも力をつける事が出来るかも知れない。
これは、割と真面目にアリアドネーで勉学に励みながらも、なかなか芽の出ない落ちこぼれであるコレットに対する、セラスの援護射撃でもあった。
「何か問題があるかしら?」
「いや、ないです」
問題があるとすれば唐突の申し出と言う事だが、警備の仕事について頼みたい事があると言う事は、今日こちらを尋ねると連絡を取った際に話していたのだ。まったく不意打ちと言う訳ではない。
そして内容の方も、従者にしてくれと言う話ではなく、連絡員を一人置いて欲しいと言うものだ。その内容に問題はなく、横島達にとっても見知らぬ人物が送り込まれてくるより、既に知り合いであるコレットの方が余程安心出来ると言うものである。
「コレットも難しく考える必要はないのよ。リアルタイムで情報を得られる連絡ルートを確保したいだけだから」
結果としてコレットが本当に仮契約してしまう可能性もあるのだが、それはそれ。当人同士が決めた事であれば、セラスはとやかく言うつもりはない。
この点については、セラスはアスナ達を信用していた。昔気質の真面目さを持つアスナ達ならば、遊び半分で仮契約させる事はないだろう。
横島がチラリとエヴァの方に視線を向けると、彼女は鷹揚な態度で頷いた。
本当に今更な話だが、このレーベンスシュルト城は、少女が一人増えたところでどうと言う事はないだろう。
「分かりました。コレットの方がそれで良いのなら」
「そうね。あとはコレットの意志次第だわ。ダメなら他の見習いを探してみるから」
そして二人の視線がコレットに集まる。
「どうかしら?」
「え、あの、その……!」
急に話を振られて困るコレット。まさか、こんな展開になるとは夢にも思わなかった。
しかし、これは嬉しい申し出だ。『魔法使いの従者』であるアスナ達、いや、このレーベンスシュルト城で横島と共に暮らす彼女達を羨ましく思っていたコレットにしてみれば、彼女達に近付くまたとないチャンスである。
「わ、分かりました! コレット・ファランドール、謹んでその任務をお引き受けします!」
しかも、それが任務とあれば、誰憚る事なく堂々と引き受ける事が出来る。
興奮気味に顔を真っ赤にしたコレットは、ソファから立ち上がり、ビシッと背筋を伸ばし片手を上げた体勢で、力強く了承の返事をした。
それと同時に、これまで固唾をのんで事の成り行きを見守ってきたアスナ達が、わっとコレットの周りに集まってきた。少々変わった経緯ではあるが、新たにレーベンスシュルト城の住人となるコレットを歓迎しているようだ。その光景を見てセラスは安心した様子で微笑んでいる。
「それじゃ横島君、よろしく頼むわね」
「分かりました。お預かりします」
「コレット、しばらくしたら一旦ホテルに戻るわよ。荷物をまとめて、こちらに移る前に皆に挨拶しないとね」
「ハイ!」
セラスの言葉に、パアッと輝くような笑顔で返事をするコレット。
これは、言わば「切っ掛け」だ。アリアドネーの落ちこぼれであるコレットが変わるための。
チャンスは与えた。セラスに出来るのはここまでだ。後はこれをどう活かすかは、彼女次第である。
しばらくしてからコレットは、荷物を取りに一旦ホテルに戻った。
他の見習い達が集められ、そこでコレットが特別任務のためにレーベンスシュルト城に移る事になったと伝えると、エミリィ達は大層驚いた様子だった。しかし、その直後にセラスがネギのセーフハウスについて教えると、その驚きもどこかに吹き飛んでしまったらしい。
こうしてコレットは、ネギの情報を得て興奮冷めやらぬ仲間達に見送られながら、レーベンスシュルト城に移り住む事になった。
「横島さん!」
「どうした」
「えっと、こう言う時は人間界ではなんて言うんだっけ……」
「コレット?」
「そうだ! ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」
「そ、それはちょっと違うような……」
「……あれ?」
とにかく、こうしてアリアドネーの見習いであるコレット・ファランドールは、新たなレーベンスシュルト城の住人になったのである。
後日、エミリィ達見習いは当然の如くネギのセーフハウスを訪ねた。
応対に出たのは弐集院で、にこやかな笑顔で一行をセーフハウス内に安置された魔法の水晶球へと案内してくれる。
これで念願のネギに会えると目を輝かせる彼女達であったが―――
「あら、よく来たわね」
「セ、セラス総長!?」
―――そんな彼女達を待ち構えていたのは、他ならぬセラスであった。
そう、エミリィ達がここに来る事が分かっていたセラスは、ネギに迷惑を掛けないよう自らセーフハウスで待機していたのだ。
「ど、どうしてセラス総長がここに!?」
「ネギ先生はいつも、ここで修行をしているのよ。私もここで魔法の指導をしているの」
慌てたエミリィの問い掛けに、セラスはしれっと答える。
「せっかく来たのだから、あなた達もどう?」
「ど、どう……とは?」
「私の補習授業を受けていきなさい♪」
横島との顔合わせも終わり、彼等の情報を得るための連絡役としてコレットを送り込んだセラスは、心置きなくセーフハウスでネギを指導出来る立場となった。エミリィ達が自ら来てくれると言うのであれば、彼女達に補習授業を行う事ぐらい朝飯前だ。
直後、エミリィ達の声にならない悲鳴が水晶球内に響き渡ったのは、言うまでもない事である。
つづく
あとがき
レーベンスシュルト城に関する各種設定。
関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
魔法界に関する各種設定。
各登場人物に関する各種設定。
アーティファクトに関する各種設定。
これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。
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