topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.141
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「不覚……ッ! 私とした事が……!」
 アスナ達がネギに昨夜の件を報告している頃、刹那はレーベンスシュルト城別棟の前にある噴水の側に立ち、一心不乱に素振りをしていた。
 その頬は傍目にも分かる程紅潮している。こうしている今も、体内に残る横島の霊力を感じているのだ。アスナと違い一端の霊能力者である刹那は、より明確にその存在を感じ取る事が出来る。こうしている今も、彼の顔が頭から離れない。
 昨晩、初めて霊力供給を受けた刹那。以前霊力を用いたヒーリングをマッサージと一緒に受けた事があったため同じ様なものだと軽く考えていたが、その考えは甘かった。
 全然違うのだ。マッサージも心地良かったが、それが肉体を癒すものなのに対し、霊力供給は経絡へ、中へと入り込んでくる感覚なのだ。それを異物感と感じたのは、刹那自身が一端の霊能力者だったからだろうか。
 だが、嫌悪感はなかった。むしろ体内に入り込んでくる異物――横島の霊力に安らぎを感じてしまった。霊能力者の常識としては有り得ない事態だが、刹那は不思議とそれを受け容れてしまっていた。それどころか、次はいつするのかと待ち遠しく思えてならない。
「うわあぁぁぁぁっ!」
 耳まで紅く染め上げた刹那は、恥ずかしさを振り払うようにムチャクチャに木刀を振り回した。いつもの真剣『夕凪』ではなく木刀をだ。実は別棟を出る前にエヴァにこれを渡され、『夕凪』の方は取り上げられていた。彼女はこうなる事を予想していたのかも知れない。
「センパイ、無様どすなぁ……」
「貴様に言われたくない!」
 刹那が怒鳴り声と共に振り返った先には、噴水の縁に力無く横たわる月詠の姿があった。
 昨夜の修行で刹那が一番心配していたのは、この少女の存在だった。この少女は自らの快楽のために戦っており、そして霊力供給の修行を受ける者達が気持ち良いと感じるのは周知の通りである。下手に興奮させると暴れ出すかも知れない、刹那はそう考えていたのだ。
 その危険性については、横島も同じ事を考えていたらしい。そのために月詠に対しては特に念入りに、大量に霊力を注ぎ込み、心身ともに蕩けさせて骨抜きにしようとしていた。

「はぁ〜ん、だんなさまぁ〜 ウチは、ウチはぁ〜〜〜ん

 その結果が、ご覧の有様である。
 刹那が木刀を持って別棟を出ようとしているところを見てついて来たようだが、本気で足腰が立たないようで、噴水の縁に横たわったまま身体をくねくねとさせ続けている。見ている方が恥ずかしくなるようなあられもない姿だ。
 この状況をどうにかするには、体内に溜まった霊力を発散させるのが一番良い。場合によっては月詠と模擬戦をするのも有りだと考えていた刹那だったが、この様子ではそれも無理そうであった。

 月詠の痴態を見てかえって落ち着いてきた刹那は一つため息をつき、ボトル内の空を見上げてぽつりと呟いた。
「私達でこの有様だと、千草はもっと大変だろうな……」
 霊能力者であるために、これほど横島の存在を明確に感じられるのであれば、刹那より優れた霊能力者である千草は彼女以上にハッキリと横島を感じ取っているはずだ。かつては敵であった相手だが、今の自分と同じ――或いはもっと酷い状態になっているのではないかと思うと、流石に同情してしまう。
「いや〜、案外喜んでるかも知れまへんよ〜」
 その呟きが聞こえていたらしく、月詠が横たわったまま合いの手を入れる。暢気な言葉に毒気を抜かれてしまった刹那は、呆れたような視線を彼女に向けた。
「そうか? 正直私は、立っているのも負担なんだが」
 刹那は気合いで毅然とした態度を保ってはいるが、気を抜くと足の力が抜けてへなへなとへたり込んでしまいそうな状態だ。結局のところ刹那と月詠の違いは、気合いで抗っているかどうかの一点にある。
「センパイは〜、負担とか辛いとかじゃなくて恥ずかしいだけやと思いますよ〜」
「む……」
「だんなさまに気持ち良ぉしてもろうて、受け容れれば楽になりますえ?」
「それは堕落と言うのだッ!」
 恍惚とした表情で甘い息を吐く月詠を怒鳴りつけると、刹那はそっぽを向いて素振りを再開してしまった。しかし、彼女の剣にいつもの鋭さがない事が月詠には分かる。体内に溜まった霊力のせいで集中し切れてないのだ。気持ち良さに耐える刹那の顔は紅い。
 それでも霊力を発散している事には変わらないので、月詠は何も言わずに放っておく事にする。

 かく言う月詠も、ただ色ボケている訳ではない。横島に送り込まれた霊力のおかげで、彼女の霊力は一時的に高まっているような状態になっていた。通常なら扱う事も出来ない強い力が全身を巡っているのを感じ取り高揚感を覚える。月詠にとっては、それすらも快楽であった。
 この感覚を肉体に、魂に沁み込ませるのだ。今の自分よりも強い力を扱う感覚を。それは強くなるための道標となる。快楽に溺れながらも、彼女は強さに貪欲だ。
「ハァ、ハァ……ほんま……最っ高のだんなさまやわぁ……
 横島は月詠の危険性を考えて特に念入りに霊力を注ぎ込んだが、それが却って彼女を燃え上がらせたようだ。こんな修行ならば、もっと早くから受けておくべきだったと後悔してさえいる。すっかり霊力供給の修行が気に入った月詠は、身悶えるように身体をくねくねさせながら次の修行を心待ちにするのであった。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.141


 一方その頃「最高のだんなさま」こと横島は、学校を休んでいる皆の世話をするために忙しく動き回っていた。
 休んでいる面々は大きく分けて三つに分かれる。刹那のように身体を動かして早く霊力を発散させようと言う者達と、身体を動かす事も出来ずに起き上がれない者達、そして僅かだが平然としている者達だ。
 一つ目のグループは刹那を筆頭に古菲、裕奈、千鶴、高音、刀子、ココネ、そしてエヴァである。もっともエヴァは他の者達ほどではないらしく、頬を紅潮させて若干ハイになっている程度のようだ。今は体内に溜まった霊力を確認するように全身に巡らせながらネギが来るのを今か今かと待ち構えている。
 二つ目のグループは月詠を筆頭に夕映、アキラ、千雨、愛衣、夏美、風香、史伽、千草、そしてアーニャとコレットだ。アキラは身体能力では修行を受けた者達の中でも上位に位置するようだが、それでも起き上がる事が出来ない状態になっていた。
 この辺りは単純に身体能力の問題ではなく個人の性格が関わってくるようだ。アキラは自らの羞恥心に打ち勝つ事が出来ず、一般人程度の体力しかない千鶴はそれでも気丈に家事に勤しんでいる。
 そして最後のグループはアスナ、木乃香、そして茶々丸である。登校しなかった茶々丸は、いつもと変わらぬ様子で皆の世話をしている。以前霊力酔いの状態になって大暴れした事がある彼女は、それ以降余剰霊力を外部のコンデンサーに溜めるようにしていたのだ。こうする事でどれだけ霊力を注ぎ込まれてその場ではあふんあふんと乱れたとしても、後には引かないようになっているのである。
 この機能のおかげで茶々丸は、霊力供給の修行やエヴァの吸血で溢れでた煩悩を毎晩一身に受け止める役割を担っていた。彼女が最後にネジ巻きをしてもらう最大の理由はそこにあるのだ。

 閑話休題。

 刹那達については、横島のやるべき事は特にない。古菲などはいつもならば組手を申し込んで来ているところだが、今回に限ってそれはないだろう。何故なら彼女達も刹那と同じ様に体内に感じる横島の霊力から生まれる気持ち良さに耐えているからだ。この上、横島と触れ合うような真似をすれば、それこそ組手どころではなくなってしまうだろう。
 彼女達も刹那と同じく集中出来ない状態であるらしく、自室やサロンでストレッチをするなどして霊力を発散させようとしていた。
 逆に夕映を筆頭とする身体を動かす事も出来ない面々はと言うと、こちらは足腰が立たない状態であるため自室で静かに休んでいた。そんな彼女達を古菲達が補助しているのだが、今回の件について責任を感じた横島もその役割を買って出ていたりする。
 ただでさえ横島の事が頭から離れずにいると言うのに、本人に世話をされるなど恥ずかしくて仕方がない。しかし古菲達も気力で奮い立たせている状態であり、茶々丸はそれ以外にいくらでもやらなくてはいけない事があるため、最後に頼りになるのは彼であった。
 いわゆる「お姫さま抱っこ」されたりすると恥ずかしくて堪らないが、内心では嬉しさを感じているのも否定出来ない。愛衣や風香は嬉しさの方が勝ったのか、そのまま横島の首に手を回して抱き着いたりしていた。アキラは長身である事を気にして申し訳なさそうだったが、横島がそんな事を気にする訳がない。千雨、夏美、史伽の三人は顔を真っ赤にし、中でも千雨は何か言いたげな顔をしていたが、結局は横島にされるがままだった。
「こう言うのは開き直りが大事です」
 その一方で夕映は平然としたもので、寝坊した日は横島に起こしてもらい寝ぼけたままトイレまで運ばれた事もある少女は完全に開き直っていたりする。
 そんな中、一番恥ずかしがりつつ、一番喜んでいたのは―――

「この年になってお姫さま抱っこなんて恥ずかしいわぁ……

―――他ならぬ千草であろう。
 初めて霊力供給の修行を受けた彼女だが、元より家事手伝いのような立場であったため足腰が立たなくなったのは特に問題ではないらしく、横島に世話してもらえると言う立場を恥ずかしがりながらも心底楽しんでいる様子であった。
 なんだかんだと言って美人と言って良い千草が甘えてしなだれかかってくるのが嬉しいらしく、横島も内心喜んでいたようだ。昨夜の事を反省しているためそこで調子に乗る事はなかったが、そうでなければ千草の部屋に引きずり込まれていたかも知れない。


 そして皆の世話が一段落付き、ようやく休憩を取れるようになった横島は、サロンのソファにぐったりと身を沈めて天井を見上げていた。この別棟は壁に沿って部屋が並んでいて、一階のサロンの上は屋根まで吹き抜けでやたらと天井が高くなっており、こうした疲れた時に見上げると吸い込まれそうな錯覚を覚えそうになる。
「あ〜……辛いなぁ、俺のせいとは言え」
 力無くぼやく横島。流石の彼も疲れを隠せないようだ。
「いや、むしろ望むところなんだが……」
 ただし、彼が疲れているのは肉体的な問題ではない。アキラは気にしていたようだが、令子の下で荷物持ちをしていた彼にとって、女性の一人や二人は軽いものである。ただただ自分の身長程ありそうな大荷物を背負う事に比べれば可愛らしい美少女、美女をお姫さま抱っこするなど、むしろ役得である。金を払っても良いとさえ考えていた。
 問題は世話をしている少女達が皆、気持ち良さに耐えながら潤んだ瞳で熱い視線を送ってきている事だ。千草のような美女に迫られると思わずふらふらと誘惑に負けてしまいそうにもなる。これが二人きりであれば、それが罠だとしてもその場で服を脱いで飛び込んでいたであろう。しかし現実には周囲の目が光っているのだ。しかも、その目も問題であった。冷たい視線を送ってくるならば涙を呑んで引き下がるだけで良いのだが、その目の主もまた横島の霊力供給の修行を受けた面々なのだ。身体を動かして霊力を発散させようとしているが、横島の姿を見掛ける度にチラチラと見てくるのだ。こちらもまた潤んだ瞳で熱い視線を。
「昔の俺なら飛び込んでただろなぁ……」
 昨夜ノーパンノーブラのアスナ達のあられもない姿を堪能していなければ、今の横島でも超加速で飛び込んでいただろう。特に千草の誘いは危なかった。実際に部屋に入ったところでハッと我に返り部屋から飛び出した。今の彼は除霊助手だった頃ほどがっついていないため、このまま状況に流されるのは不味いと判断出来る程度の冷静さを保てたのだろう。

「て言うか、俺ってすげぇな」
 自分の手を握ったり開いたりを繰り返し、ぐっと腕に力を込めたりしながら、横島は呆れたような声を漏らした。
 昨夜霊力供給の修行を受けた人数は二十人を超える。その内の半分以上がプロのGS並、或いはそれ以上のマイトを誇る者達だ。そんな彼女達全員に負荷を掛けられるだけの霊力を流し込んだのだから、普通ならば霊力の使い過ぎで倒れてもおかしくない状況であろう。にも関わらず、横島はこうして何事もなくぴんぴんとしている。彼自身、自分が煩悩から霊力を生み出している自覚はあったが、ここまで際限がないとは思わなかった。そう思っていたのに自重しない辺りが彼らしいかも知れない。
「アスナ達もすごかったからなぁ……」
 昨日のアスナ達を思い出し、横島は思わず顔がにやけてしまう。身体の線がハッキリと分かる薄手の霊衣だけに身を包み、下着も身に着けずに抱き着いてくるアスナ達。それで煩悩を全開にしなければ横島ではない。
 霊力供給の修行はアスナ達と鍛えると同時に霊力を大量に使用する事で横島のマイトも鍛えるものなのだが、横島は昨夜の修行で殻を破れたような気がしていた。彼の霊力は確実に強くなっている。世の霊能力者が聞けばそんな馬鹿げた事でと怒るか呆れるかするだろうが、そんな事が出来てしまうのがこの横島忠夫と言う男なのである。

「とにかく、アスナ達が帰って来るまで耐えないとな……」
 少女達の熱い視線に晒されながらも何も出来ないようなこの状況では、普段通りのアスナと木乃香の天真爛漫さが救いとなる。それにあやかも帰って来る。彼女はネギが絡むと色々と暴走しがちなところがあるが、基本的には良識の人だ。アスナ達のように弟子にしている訳ではないが、横島は彼女の事を友人として信頼していた。
 それにアスナ達の無防備さ、大胆さは周囲が身内同然の者達ばかりで遠慮がなくなっている事が大きな理由だ。横島はまだ知らない事だが、この後3−Aの少女達がレーベンスシュルト城を訪れる。クラスの友人達の目が入るとなると、流石のアスナ達も大胆さはなりを潜めて自重するようになるだろう。
「早く帰ってこい、アスナ……」
 そう呟いて横島はぐっと握った拳に力を込める。今は耐えられているとは言え、何も感じないと言う訳ではないのだ。本音を言えば今すぐ服を脱いで飛び込みたいのである。彼がこのまま最後まで耐え続けられるかどうかは、彼自身の精神力ではなくアスナ達がいつ帰って来るかに掛かっていた。

 彼は知らない。アスナ達は麻帆良祭の準備を進めるべく超達と共にミステリーツアーに使う道具を取りに行っているため、予定よりも帰りが遅くなる事を。



 その頃、中庭に面した一室にエプロンを身に着けた千鶴の姿があった。胸元にカメのアップリケが付いた可愛らしいエプロンだ。その姿は正に「若奥様」である。洗濯を手伝うために高音とココネの二人も一緒に来ていたが、千鶴の姿を眺める高音はその溢れ出る「若奥様っぽさ」に、この少女は本当に年下なのかと疑問を抱いていた。
 三人揃って上気した顔で頬が紅潮しているのは仕方がない事だろう。千鶴と高音の二人は他の人と比べてマイトが高い分多くの霊力を注ぎ込まれるが、木乃香の様に平然としていられるほどマイトが高い訳ではない。正直、こうしている今も体内を巡る横島の霊力を感じ取れてしまい、立っているのも辛いのだろう。高音とココネの二人も椅子に腰掛けて千鶴と一緒に取り扱い説明書を覗き込んでいる。
 異なるのは高音が恥ずかしそうに顔を伏せているのに対し、千鶴は幸せそうに微笑んでいる事だろう。千鶴は横島の存在を感じ取れる事を嬉しいと思っていた。その出で立ちと相まって、その姿は正に夫に思いを馳せる若奥様である。
 彼女達がいる部屋は中庭を挟んで別棟の向かいに位置する本城の一室で、洗濯機が設置されている。隣の部屋にはアイロン、ミシンも備え付けられており、中庭に出れば物干し台もあった。洗濯、衣類に関する事は全てここで賄えるようになっているのだ。
 身体を動かして霊力を発散すると言っても刹那や古菲のような武闘派ではない千鶴達は、家事に勤しむ事で霊力を発散させようとしていた。単に洗濯と言っても、レーベンスシュルト城に住む全員分の洗濯物を干すとなると十分に肉体労働である。今朝の洗濯は昨夜ぐしゃぐしゃになった霊衣もあるので尚更だ。
「霊衣は……ネットに入れれば良いのね」
 椅子に腰掛け、千鶴は霊衣と一緒に送られて来た取り扱い説明書に目を通す。それによると薄手の霊衣は柔道着のような厚手のものとは違い、傷み、型崩れを防ぐために洗濯ネットに入れて洗わなければならないそうだ。
「これなら簡単そうだわ」
 しかし、千鶴は面倒臭がるどころか簡単だと微笑みを見せる。
「て、手洗いとかはしなくても良いのね」
 高音もそれに同意したが、やはり顔が紅い。物が物だけに丁寧に手洗いをしなければいけないのではないかとイメージしていたが、そこまで丁重に扱う必要はないらしい。
 洗濯物が多いのはいつもの事だ。ココネはまだ物干し台に手が届かないため実質二人でする事になりそうだが、霊力供給のおかげで元気だけは有り余ってるため、さほど苦にはならない作業であろう。

「でも……」
 ここでふと高音が何とも言えないどこか困ったような、それでいて呆れたような表情になる。
「洗濯機に放り込んで洗濯って、有り難みがないわねぇ……」
「チョット拍子抜ケ……」
 オカルトとは神秘のはずではなかったのか。魔法使いの彼女には、神秘のなせる業であるはずの霊衣が文明の利器で洗われると言うのは受け容れがたいようだ。これにはココネも同意している。科学を中心とする世界のオカルト技術と、魔法文明の世界の魔法技術の違いなのかも知れない。
「便利だからいいじゃない」
「それはそうなんだけど……」
「確かに便利。これは無視できナイ」
 とは言え、高音達も普段から文明の利器を一切使わずに生活をしている訳ではない。高音は納得いかないようだが、千鶴の言う通り便利である事は確かだった。
 その一方でココネは少し別の事を考えていた。これは見方を変えれば、科学とオカルトが共存する姿と言えるのではないだろうかと。そう考えると、ただの霊衣もやけに崇高なものに見えてくるような気がしてくる。これから情報公開をしていこうと考えている魔法使いの立場からすれば、意外と無視出来ないものなのかも知れないと小さな少女は考えていた。
「さて、それじゃ洗濯しちゃいましょうか。早く終わらせて掃除もしないとね」
「そっちは横島君に任せれば良いのよ」
「忠夫さん、お掃除苦手じゃない」
 高音が紅くなった頬を膨らませて言うと、千鶴はころころと笑いながら答えた。彼女の言う通り、横島は掃除が苦手だ。それどころかどんな所でしぶとくも生き延びるような力はあるが、家事全般など生活能力は必要最低限しか持っていない印象がある。現に彼の部屋をいつも掃除しているのは夏美であった。メイド姿になって掃除しに行く彼女は、彼の部屋の住人であるさよやすらむぃ達とも仲良くなっている。
 わざわざメイド服に着替える必要はないのかも知れないが、横島が両手を広げて可愛らしいメイドの来訪を喜んでいるので止めるに止められないそうだ。メイド服そのものは見飽きたと贅沢な事を言っている彼だが、実際に自分のために働いてくれるメイドの少女と言うのは心揺さぶられるものがあるらしい。
「今日は茶々丸さんも忙しそうだし、千草さんも夏美ちゃんも動けないし、私達が頑張らないと」
「……そうね、身体を動かすついでだし」
 何より高音達は身体を動かして霊力を発散すると言う目的があった。家事と言えども集中して身体を動かす事には変わりはない。むしろ自然体で霊力を巡らせる感覚を覚えることが出来る修行になるのではないかと彼女達の間では考えられていた。
「それじゃメイド服を……」
「着ませんっ!」
 ただし、メイド服を着用するかどうかは本人の意志に任されている。



 3−Aが学級閉鎖となってアスナ達が下校し、休んだ面々がそれぞれの方法で霊力を発散させようとしている頃、シスター・シャークティは授業に出て生徒達に小テストを受けさせていた。昨夜の霊力供給の修行には関わっていないため、平然としたものである。
「ふぅ……」
 レーベンスシュルト城の事を思い出して小さくため息をつく。確かに修行そのものには関わっていないが、昨夜何があったかは聞き及んでいた。
 修行を受けた二十人以上の少女達の大半が足腰も立たない状態にされてしまう。にも関わらず肉体的なダメージは全く無く、修行の効果は今まで以上。更にはあふんあふん加減も今まで以上と言うオマケまで付いて来る。
 修行法としては画期的なものだと思っていたが、もしかしたらシャークティが思っていたよりも遥かに恐ろしい霊能なのかも知れない。現に横島は、この霊能を用いて月詠を無力化してしまった。何よりまだ学生なアスナ達の事を考えると、毎日この状態が続くのは問題である。
 横島は初めての事であり、また自身の霊力が急激に高まってしまったので加減が出来なかったと言っていた。次からは後に引くまではやらないとも。霊力のコントロールに自信を持っているからこそ言える事であろう。
 とは言え、最近は横島当人よりもアスナ達の方が色ボケている面もある。刀子と千草が参加する事になり魔法先生としては現場を監視しなくても済むようになったが、ただの先生としては普段から目を光らせて節制を勧める必要がありそうだ。修行としては進歩したのかも知れないが、その分厄介さも増えてしまった気がする。
「……一番の問題は、あの二人かも知れないわね」
 そう言ってこめかみを押さえるシャークティの脳裏に浮かんだのは、刀子と千草の二人であった。彼女達は既に大人だ。あの二人に関しては何があっても自己責任と言えるのだが、相手が高校生の横島となると話は違ってくる。彼も既に独立した事務所を持つプロのGSなので自己責任だと言って放り投げても良いのかも知れないが、教師と言う立場がシャークティに責任を放棄する事を許さない。
「ハァ……頭が痛いわね」
 そう言ってシャークティは再びため息をつく。彼女の苦労はまだまだ終わりそうになかった。



つづく


あとがき
 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

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