「気に入ったわ! あなた、東京で店を出す気があるならいつでも連絡して! 協力するから!」
五月の料理を気に入って思わずスカウトに熱が入った令子だが、情報収集を忘れていた訳ではない。情報収集の前振りとして料理を注文したら美味しかったのだ。
『超包子』は今日も大盛況で行列ができており、こちらの調査時間の大半は行列に並ぶ時間に費やされていたりする。
そこで五月の料理を口にした令子が少々暴走してしまったが、それは些細な事。鈴音の情報はしっかりと聞き出す事ができた。
最初は渋っていた五月も、令子が鈴音の母親だと名乗ると答えてくれた。父親か母親が訪ねてくれば話していいと言われていたらしい。
地下に潜んで動いていた鈴音達。しかし食わねば腹が減る。そんな彼女達の下に食事を届けていたのが五月だったそうだ。
地下での活動についてはそれ以上の関わりは無いそうだが、料理を届ける先は日によって違っていたらしい。鈴音達の活動範囲はかなり広かったようだ。
大きな人型ロボット――まほら武闘会に出場していた『田中さん』が大勢いて、何やら大規模な作業をしていたそうだ。
「何をしていたかまでは分からないの?」
そう尋ねてみたが、五月は小さく首を横に振った。
彼女は魔法、オカルトに関しては素人であるため、詳しい事は分からなかった。
地下道は入り組んでいるため、それが地上のどの辺りに当たるかも分からないようだ。
見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.172
この後、レーベンスシュルト城で合流した一行。
エヴァ達も連絡を受け、木乃香の護衛に関わる情報があるかもしれないという事で戻ってはきている。麻帆良祭最終日を楽しむのも大事だが、お目当ては最終日の学園主催クライマックスイベントなので、それまでは余裕があるのだ。
横島達と令子達、どちらも決定的な情報は手に入れられなかったが、両者の情報を合わせると一つの疑問が浮かんできた。
世界樹の力をもってすればコスモプロセッサ化は不可能ではない。では、五月が見たという広範囲に渡っての作業は一体何をしていたのか?
「もしかしたら、地下の方が本命かもしれへんなぁ」
ポツリとそう呟いたのは千草。皆の視線が集まる。
その時彼女の脳裏に浮かんでいたのは、京都で木乃香の力を利用し、両面宿儺を召喚しようとした時の事だった。
あれは木乃香の力だけでは実現できなかった。両面宿儺を封じた『葛葉』が用意していた儀式場があってこそのものだ。
これを今回の件に当てはめて考えてみる。木乃香の力は世界樹の力ならば、儀式場は地下で作っていたという何かになるのではないだろうか。
「……って可能性を思いついたんやけど、どうやろ?」
「有り得ますね……」
シャークティが答えた。彼女もコスモプロセッサをどう作るかなどは分からないが、世界樹だけでやるよりも、世界樹を改造して力を落とすよりも可能性が高いと判断したようだ。
「つまり、儀式場の方をなんとかしちゃえばコスモプロセッサは作れないって事ですか?」
「作っていたものによるけど、その可能性はあるわね」
「それ、地下のどのあたりにあるか分かるアルか?」
「大丈夫よ、これも借りてきたから」
そう言って令子は、地図を取り出した。簡単に書かれた地下水道の地図で、配達ルートが書かれている。五月はこれを見ながら配達していたらしい。
地図には六つの印があるが、位置関係に法則性は見受けられない。
この地図も鈴音が横島と令子には教えてもいいと言っていたものなので、そこまで正確に書かれていない可能性も考えられる。
「夕映ちゃん、分かる?」
「ちょっと待ってください」
しかし横島パーティには彼女がいる。図書館探険部に属し、地下迷宮の探索に慣れた夕映という少女が。
その辺りの事情を知らない令子とシロは訝しげな顔になるが、夕映は意に介さずに地図を受け取り、自分のメモと見比べながら読み解いていく。
「少なくとも、このルートに関しては正確みたいです」
「そうなのか?」
「私達が調べた格納庫ですよ」
そう言って夕映が指差す地図上の部屋。五月の配達先の一つであるらしいそこは、横島達がロボ軍団を見つけた場所だというのだ。
「あの広い場所が、地図ではこの大きさなのね。どんだけ広いのよ、麻帆良の地下って」
「そんなに広かったでござるか?」
アスナのぼやきに反応したのはシロ。彼女と令子は地下のアレを見ていない。
「まほら武闘会で見たでしょ『田中さん』、あれが百体以上並んでたのよ」
「百体以上!?」
「あと奥の方にでっかいのが」
「でっかいの?」
「究極の魔体モドキっスよ、美神さん」
「はぁっ!?」
流石の令子も素っ頓狂な声を上げた。
しかし、すぐに世界樹のコスモプロセッサ化を狙うような技術を持っているならば究極の魔体を再現する事も不可能ではないと気付く。
「それ、見掛け倒しじゃないの?」
「文珠でブッ壊してきたんで、詳しい事は……」
「そう、壊したならいい…………ッ!?」
小さくため息をついた令子だったが、更にここである事に気付いて夕映から地図をひったくった。
地図を持った部分がしわになるぐらい手に力が入り、わなわなと震える。
この地図によると、五月は六箇所に食事を届けていたらしく、その全てが地図上では同じような広さの部屋となっている。
その内の一つを横島達が発見し、そこはロボット軍団の格納庫になっていた。
では、残りの五つはどうなっているのだろうか?
令子は考える。これがロボット軍団ではなく金塊等だった場合、自分ならばどう隠すかと。
そう、リスクを分散するために分けて隠す。それこそ手段を選ばずに。公園の公共トイレの地下に隠しシェルターを造るぐらいは軽くやってのける。というか実際にやった。
鈴音もリスク分散のためにロボット軍団を分けて隠す。十分考えられる。
「いや、それってどんだけ金が掛かるんだよ? 学祭長者っていっても限度があるだろ」
この推測を皆に聞かせると、千雨がすぐさま現実的な事をツっこんできた。
確かに、それだけの規模となると掛かる資金も莫大だろう。彼女の言う通り『超包子』の稼ぎだけでは無理がある。
だが、しかし……。
「甘いわね。鈴音は未来の情報を持ってるのよ。お金を稼ぐ方法なんていくらでもあるわ」
かつて未来から来た横島は、未来の情報を利用して競馬で一山当てていた。令子もそんな立場になればきっと同じ事をしていただろう。いや、もっと多彩な手段を用いて莫大な金を得ていただろう。
自分が鈴音を育てたならば、お金に関しては本気の英才教育を施しただろう。令子は自信を持ってそう断言できる。
そんな彼女が未来の情報を持って過去に来た場合、『超包子』で儲けるだけでおとなしくしているだろうか?
いや、有り得ない。最初からコスモプロセッサ化を目的に過去に来たのならば尚更だ。それこそありとあらゆる手段を用いて金を稼いだだろう。
それでロボット軍団を造るための資金問題はクリアーできる。つまり、地図上の印六箇所全てにロボット軍団と究極の魔体モドキがあるというのは有り得るのだ。
この仮説を聞かされた一同は唖然としていた。令子はそこまでやるのかという呆れも混じっているが、それについてはスルーしておく。
「というか私の娘なら、ここで『ロボット軍団』なんて手段は使わないと思うんだけど……横島君似なのかしら?」
「そりゃ否定はしませんけど……」
茶々丸の生みの親という事を考えると、Dr.カオスの影響も考えられる。
そんな話をしていると、アスナがくいっくいっと、横島の袖を引っ張る。
「ねぇねぇ、横島さん。残りの五箇所もチェックします?」
「どうだろうなぁ」
気になるところだが、横島はすぐに決断できなかった。
鈴音が今日コスモプロセッサ化計画を実行しようと企んでいるなら、その五箇所でロボット軍団を作っていたとしても、既に運び出している可能性が高い。
「というか、地下から出せんのか? それ。いくら麻帆良いうても、町中で格納庫のハッチが開いたりせんやろ?」
「無い……と言い切れないのが怖いところですわね……」
高音の呟きと共に、横島を含む麻帆良学園関係者が一斉に視線を逸らした。
麻帆良なら、麻帆良学園都市ならば地下に巨大ロボットが隠されていても不思議ではない。それが麻帆良学園関係者の共通認識であった。
「それなら、魔法の水晶球を使えばいいんじゃない? ここみたいな」
「あ、そっか」
ここレーベンスシュルト城のような魔法の水晶球を利用すれば、水晶球サイズで大量の荷物を運ぶ事ができる。現にここにも茶々丸の姉妹達が大量にいる。究極の魔体モドキも、流石に城よりは小さいだろう。
「そうなると、五箇所にロボが残ってる可能性は更に低くなるでしょうねぇ」
「一箇所のロボ軍団、全滅させたからな」
結局のところ、地下のチェックに関しては学園長に報告して任せる事にした。
本来地下水道を管理しているのは学園長だ。刀子やシャークティが知らない事も多々ある。もしかしたら図書館島のようなショートカットルートがある事も十分考えられるのだ。ならば、学園長に任せてしまった方がいいだろう。
またこれらの情報はネギ達にも伝えられる。
「じゃあ私達は、どうします?」
「鈴音殿が動き出すのはいつでござるか?」
「世界樹は毎年、夕暮れ時に一番光が強くなるわ。世界樹の力を狙ってるなら、やっぱりそのタイミングでしょうね」
「じゃあ、まだ時間はあるわね」
学園主催のクライマックスイベントが開催されるのもその時間だ。
現在の時刻は午後2時過ぎ。クライマックスイベントの少し前という事で夕方5時前あたりには臨戦態勢を整えるとして、まだ3時間近く残っている。
問題はその時間を使って鈴音を見つけ出す事ができるかだが、ここまで探しても現在の居場所に関する情報はさっぱり見つからないあたり難しいと言わざるを得ない。
それに朝から野良動物を探し回り、昼からは鈴音の調査で皆疲れている。
「ひとまず休憩でいいんじゃないか? 今日は朝から走り回ってたし」
そのため横島達は夕方まで休む事にした。このまま当てもなく探し続けるよりも、鈴音が動き出すであろう夕暮れ時に万全の態勢で待ち構える事を選んだのだ。
「中途半端な時間ねぇ……」
「ならば伸ばすか?」
「えっ?」
令子のぼやきに今まで黙って話を聞いていたエヴァが動いた。
令子達は知らない事だが、魔法の水晶球は設定を変える事によって中で二十四時間過ごして外では一時間しか経たないようにできる。
「猿神(ハヌマン)の修行みたいなものかしら?」
「いや、そこまで凄いものでは……」
令子のどこかズレた感想はともかく、食費等の問題で自粛していたが、今回一度だけならば問題無い。ひのめのミルクやおしめなども予備は十分持ってきているので、こちらも問題ないだろう。
また今から一時間使っても3時過ぎ。水晶球から出てくるのが夕方ギリギリになる訳でもないので大丈夫だ。
「じゃあ、一日休ませてもらっちゃう?」
「さんせーい!」
やはり疲れているのか、アスナ達の返事も心なしか元気が無かった。
やはり夕方に備えて休みは必要だ。エヴァが水晶球の設定を操作し、横島達はレーベンスシュルト城に入った。
つづく
あとがき
次回からは横島から連絡を受けたネギパートになります。
超鈴音に関する各種設定。
レーベンスシュルト城に関する各種設定。
関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
魔法界に関する各種設定。
各登場人物に関する各種設定。
アーティファクトに関する各種設定。
これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。
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