一方その頃、横島達からの連絡を受けたネギは、魔法先生達のセーフハウスの一つに皆を集めて作戦会議を始めていた。
「超さん……いえ、横島さん……もややこしいかな」
「兄貴、兄貴、もう鈴音でいいんじゃねえか?」
「うん、そうしようか」
超鈴音(チャオリンシェン)改め横島鈴音(よこしますずね)の事は「鈴音」と呼ぶ事にして話を進めていく。
「超……鈴音一味がロボット軍団を所有、か……」
「有り得るな」
山下と中村が揃ってうんうんと頷いている。これが麻帆良における、鈴音に対する一般人の認識である。
「『コスモプロセッサ』ってなんや?」
「分からん、俺も聞いた事がない」
これは小太郎と犬豪院の言葉。コスモプロセッサについてはネギ達もよく分からないので「願いを叶える世界樹の、もっとスゴいもの」と説明しておいた。間違ってはいない。
「それよりも僕は、鈴音さんとフェイトがどう関係しているのかが気になるよ」
「京都のアイツか……」
「陰険なやっちゃからなぁ、何企んでるか分かったもんやないで!」
「俺っちもそう思うぜ、あいつが一番危ねーってな!」
ネギの関心はロボット軍団よりもフェイトにあるようだ。
これに反応したのは京都の件に関わっている豪徳寺と小太郎、そしてカモ。皆フェイトの方が厄介な相手だと考えていた。
見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.173
同じくセーフハウスにいる3−Aの生徒はあやかを筆頭にのどか、ハルナ、まき絵、亜子、和美、楓の八人だ。
この内、のどかとハルナの二人、それに豪徳寺がネギの『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』だった。
さて、ネギの話を聞いていた彼女達だが、意外な二人がコスモプロセッサについて知っていた。
「コスモプロセッサといえば、アシュタロスが東京に作ったというアレでござるな」
「それのせいで、世界中で妖怪が大量発生したと聞いておりますわ」
楓ともう一人、なんとあやかである。
『女華姫隠密部隊』の末裔である現役退魔師の楓は、当時仲間が復活した妖怪退治に駆り出されていた事を知っていた。楓自身も助っ人に呼ばれ、数日学校を休んで麻帆良から離れていた。ネギが来る前の話だ。
そしてあやかはというと、当時彼女の家『雪広コンツェルン』の施設が、復活して暴れまわっていた妖怪達の襲撃対象になったそうだ。幸いGS達がすぐに駆けつけてくれたおかげで被害は少なかったそうだが。
そんな事があったため一体何あったのかと調べてみた結果、コスモプロセッサが妖怪大量発生の原因だったと知ったらしい。
「つまり超りん……というか鈴りんが、百鬼夜行やろうとしてるの? 修学旅行のアレみたいな」
「あの程度鈴音殿なら、わざわざコスモプロセッサを使わなくてもできそうでござる」
「ああ、確かに。私でもできるわ」
そういってハルナは手に持っていた『落書帝國(インペリウム・グラフィケース)』のペンをピコピコと動かした。
遊んでいるように見えるが、これでもれっきとした戦闘準備中である。彼女のアーティファクトは描いた絵を具現化する能力なので、今の内に絵のストックを増やしているのだ。
なお、実際に彼女が百鬼夜行を具現化しようとした場合は力が足りないだろう。彼女が生み出す絵のゴーレムの力や持続時間は、彼女自身の力に依存するのだから。
それはともかく、問題はコスモプロセッサが妖怪を発生させられるという事だ。話を聞いていた少女達は不安気な顔をしている。
これにはネギが慌ててフォローに入る。
「だ、大丈夫ですよ! 鈴音さんが、そんな事するはずないじゃないですか!」
「でもよぉ、兄貴。フェイトの方は分かったもんじゃねーぜ?」
「…………」
「…………」
皆無言になった。カモの一言で。顔も青くなっている。
「カモくーん! なんて事言うのさー!!」
「いや、でも、二人が組んでるとしたら可能性は……!」
ネギは生徒達を怖がらせてしまったカモを掴むが、彼の言っている事は間違いではない。
「お、落ち着いて考えをまとめよう」
豪徳寺がネギの手の中でもがくカモをつまみ上げ、彼を落ち着かせる。
コスモプロセッサは妖怪を大量発生させられるが、本来の効果は世界樹の願いを叶える効果をパワーアップさせたようなものだ。鈴音の目的もそちらだと考えられる。どういう願いを叶えようとしているかまでは分からないが。
ただ、フェイトの方はやりかねない。他に願いがあったとしても魔法先生達が止めに入れば、その牽制として妖怪を大量発生させる事も考えられる。
「横島さん達、フェイトの事はあまり気にしてなかったみたいですね」
「のどか、それは仕方ないって。未来から来た自分の娘だよ? しかも母親はアスナ達じゃない美神令子!」
更にパルは「萌えるわね〜」と続けるが、そちらはスルーしておく。
のどか達もそういう事ならば鈴音の事ばかり気になってしまうのも仕方がないのではと納得した。先程までの青い顔はどこへやら、きゃいきゃいと横島と令子の関係について憶測混じり、いやほとんど憶測だけの話をし始める。
しかしネギはそうはいかない。魔法使いとしての因縁もあって彼の事を思考から外す事ができなかった。
「本当に鈴音さんとフェイトは組んでいるのかな?」
現在のところ、この問題に関しては確信に至る情報が無い。
ただ状況証拠として、鈴音の隠されたモニタールームにフェイトの気配が残っていたというものと、究極の魔体モドキに両面宿儺の情報が使われているかもしれないという二点だけがある。
「朝倉さん、まほら武闘会で司会をしてましたよね。その時に何か聞いたり見たりしていませんか?」
「フェイトの事? それらしいのは無かったかなぁ」
そもそも彼女は、隠されたモニタールームがある事も知らなかったそうだ。
ただ、真名が鈴音の所に出入りしていたのは何度か見て、その時は武闘会を盛り上げるための仕込みかなにかだと思っていたとの事。
その話を聞いて楓が反応する。
「……そういえば、真名は今どこに?」
「さぁ? 横島さん達の所じゃないの?」
「いえ、いないそうです。ザジさんの話では、昨夜は鈴音さんのところにいたとか」
ザジからの情報によると、昨夜の晩鈴音と一緒にいたのはハカセと真名、五月、ザジの四人。その内ザジは午前の内に横島達と合流、今も一緒にいる。
そして五月は、今日も『超包子』で忙しそうにしていた。これは先程桜子、美砂、円の三人から「お昼中だよ〜」という写真付きの連絡があって確認できていた。
なお桜子達三人は、今日はネギ、横島の双方と行動を共にせず三人だけで麻帆良祭最終日を楽しんでいる。危険かもしれないが桜子と一緒なら大丈夫だろうと考えての行動だった。
それ以外の3−Aの面々は、皆ネギか横島と行動を共にしていた。
ハカセと真名は……現時点では所在が分からない。この二人は鈴音の協力者とみておいた方がいいだろう。特にハカセは鈴音のロボット軍団にも大きく関わっていると思われる。
「どうするんや、ネギ」
「…………」
小太郎を問い掛けに、ネギは顎に手を当てて考える。
鈴音とフェイトが本当に組んでいるのかどうか、それによって危険性は大きく変わる。組んでいる事を前提として動くべきだ。ネギの理性はそう告げる。
しかし彼は鈴音を、自分の生徒を信じたかった。
でも、状況証拠がそれを許さない。
もし横島が自分の立場ならばどう判断していただろうか。そう考えた時、ネギは組んでいる、いない以外のもう一つの可能性に思い至った。
「あっ……鈴音さんは、フェイトに利用されているだけって可能性は無いかな?」
「それはつまり二人は組んでいるが、実は鈴音がフェイトに騙されているだけという事か?」
「いやぁ、ねーだろ」
「それは考えにくいな……」
「有り得ん」
順に豪徳寺、中村、山下、犬豪院の反応である。
豪徳寺以外の三人はフェイトを知らないが、それでも鈴音がそう簡単に騙されるとは思えないようだ。
「フェイトという人物の事をよく知っている訳ではありませんが、私も鈴音さんが騙されるとは思えませんわ」
これはあやか達も同意見だった。双方鈴音の天才ぶりを評価しての判断だろう。
しかしネギが考えているのは、そうではない。
「そうじゃないです。僕が言っているのは二人は組んでいないけど、フェイトが鈴音さんの計画を察知して利用というか、相乗りしようとしている可能性ですよ」
「相乗り?」
「世界樹の力だって、いくつもの願いを叶えられるでしょう? コスモプロセッサにしたって、それは変わらないんじゃないんですか?」
「よく分かんねーけど、多分そうなんじゃねえかなぁ?」
「だったら鈴音さんが願いを叶えた後に、フェイトが別の願いを叶える。十分に考えられると思うんだ」
「騙されてないが、利用されている……それなら有り得る、か?」
「両方の願いが叶えられるなら、お互いに利用しあってるってのも考えられへん?」
「そ、それは……」
小太郎の言葉に、ネギは言葉をつまらせる。
鈴音を信じ、二人が手を組んでない可能性を考えた結果、二人が手を組める可能性が浮上してしまった。
双方の願いを叶えられるならば、二人は協力――お互いに利用し合える余地がある。
「そう考えるならば、最近続いている郊外の魔物襲撃は……」
「鈴りんが世界樹をコスモプロセッサにするのから目を逸らすための陽動?」
そう、麻帆良祭前から続いていた謎の連続襲撃にも、囮という意味ができてしまうのだ。
「えっと、鈴音さん達が手を組んでなくても、フェイトがコスモプロセッサを利用する可能性があるって事ですよね、ネギ先生!」
ネギが涙目になっている事に気付いたのどかが、必死にフォローした。
結局ネギ達は、問題となるのは「フェイトがコスモプロセッサを使うかもしれない」の一点であると判断して動く事にする。
やはり鈴音を疑いたくはなかった教師・友人としての感情と、それを全く考慮していないのは危険だという理性の妥協点である。
ここで学園長から連絡が来た。横島の情報から地下を調べさせたそうだが、どこももぬけの殻でロボット軍団は影も形も無かったとの事だ。
「もう持ち出しよったか!」
「まずいな……魔法の水晶球みたいなものを使ったのだろう?」
「あれならどこでも隠せそうですわ!」
その知らせに皆が騒ぎ出す。
しかし、ネギだけは静かに何かを考え込んでいた。
一つの疑問が彼の頭に浮かび上がる。因果なものだが、鈴音を信じたいというのにその聡明さがそれを許さなかった。
「ねえカモ君、究極の魔体モドキってなんのために作られたんだろう?」
「そりゃあ……世界樹をコスモプロセッサってヤツにするのに邪魔する魔法使いをズバババーッと蹴散らすためだろ」
「それ、数百体の『田中さん』と多脚戦車だけじゃ足りないのかな?」
「はぁ? いや、まぁ、確かに脅威だろうけど、戦力はあるに越した事は……」
「僕、戦力だけが目的なら究極の魔体モドキはいらないと思うんだ」
カモを遮って言葉を紡ぐネギ。それを聞き、カモもピタリと動きを止めた。
有り得ない話ではない。究極の魔体モドキ一体に、どれだけのコストが掛かっているのか。その分を『田中さん』と多脚戦車に使えばどれだけ戦力を増強できていたか。
魔法先生一人一人の力は強いが、数はそう多くない。そう考えると数で攻めるのは悪くない選択だと思える。
にも関わらず、鈴音は究極の魔体モドキを造った。そこに伊達や酔狂以外の理由があるとすれば……。
「……つまり、別の目的があるって事ですかい?」
「うん……」
ネギの頭の中でここまでで得た情報、元々持っていた知識が組み上がっていき、急速に一つの形を取り始めた。
つづく
あとがき
という訳で、次回は名探偵コナ……もといネギの推理となります。
超鈴音に関する各種設定。
レーベンスシュルト城に関する各種設定。
関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
魔法界に関する各種設定。
各登場人物に関する各種設定。
アーティファクトに関する各種設定。
これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。
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