topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.180
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 町並みの向こう側にそびえ立つ巨大な光柱。柱の数は五つ。一つ一つが家一軒を軽く飲み込んでしまいそうな太さだ。
「あれは……!」
 光柱の中に見える大きな影。そう、五つの『究極の魔体』モドキだ。
「どうやら始まったみたいね……」
 それは世界樹コスモプロセッサ化の儀式が発動準備に入った合図。『学園防衛魔法騎士団』第二部スタートである。

「横島さん、どうする?」
 そう千雨は問い掛けてくるが、その顔には行きたくないと書かれていた。
 アーティファクトを持ち、修行しているとはいえ、彼女はまだ一般人の範疇にいる。あの巨体相手に挑みたいと思わないのは当然だ。
「……あっちは学園長達に任せよう」
 そしてこちらはプロのGSなのだが、あっさりと『究極の魔体』モドキとは戦わないという判断を下した。
「世界樹を守るのは魔法先生達の役目だし」
 一応、プロとしての判断である。
 世界樹を守るのが魔法先生達の役目ならば、横島達の役目は鈴音の身柄を押さえる事。彼はプロとして自らの役割を優先したのである。
「あんなのと戦うのは一回で十分だろ。二度は御免だ」
「そうそう、私達は不肖の娘をとっ捕まえに行くわよ」
 多分。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.180


 しかし、鈴音を止めれば『究極の魔体』モドキを止められるかもしれないのも事実。なにせあれらは彼女が作り出したものなのだから。そのため誰も彼等の意見に反対する事は無かった。
「家全体に何か魔法が掛かってるな。なんの魔法かまではまだ解析できない」
 千雨が『Grimoire Book』で家に掛けられた魔法の存在を突き止めた事もあり、ここに鈴音がいるのはほぼ確実と判断。そのまま家の中の捜索を優先する事になる。
「それじゃ早速鍵を調べるわ。あ、シロ。ちゃんと人が来ないか見張ってなさい」
「合点でござる!」
「……美神はん、なんか手慣れてません?」
 月詠のツっこみを、令子は華麗にスルーした。そして横島は視線を逸した。
 そのまま令子はいとも容易く鍵を開け、誰かに見られる前に全員で家の中に入る。
「意外と簡単に入れましたね……」
「アスナ、油断するなよ。この時点で鍵開けた事は知られてて、監視カメラで見張られてる可能性もあるぞ」
「えっ!?」
 アスナはキョロキョロと見回すが、天井の隅のような分かりやすいところに監視カメラは設置されていない。
「ん? この花瓶、描かれてる鳥の目がレンズになってるぞ」
「ああ、天井に埋めてるな。ほら、照明の隣」
「甘いわね、あんた達。多分、この鏡の裏にも仕込んでるわ」
「マジアルか?」
「確認はできないけど、よく見たら分かるもの、よく探さないと見えないもの、そもそも見えない場所にあるものの三段構えって考えたら、ね」
「流石鈴音アルな〜」
 古菲は素直に感心していたが、説明した令子は更にオカルト系の備えもしているだろうと考えていた。
「どうします? カメラ斬ります? 壁ごと」
「カメラに対処している隙に逃げるかもしれないからダメ。どうせいくつ仕掛けてるかなんて分かんないんだし」
「ああ、それもそうどすなぁ」
 という訳で一行は監視カメラの存在を無視して中へと進み、手分けして鈴音を探す事にする。
 しかし中は人の気配が感じられなかった。生活感も感じられず、ここに人が隠れていたとは思えない。
 だが、それはおかしい。五月がここに料理を届けにきて、それを鈴音が受け取っているはずなのだから。
「隠し部屋がある?」
「今までのパターン的に地下じゃないアルか?」
「意表を突いて屋根裏部屋とか?」
「先生と美神殿の娘御となると、どんな裏技を使ってきても不思議じゃないでござるよ」
「まぁ、こういう調査は『Grimoire Book』で…………あれ、おかしいな……」
「千雨ちゃん、どうしたの?」
「変だ。家の中を調べられねえ」
 張り切って『Grimoire Book』を開いて調査しようとした千雨だったが、エラーが出るばかりで家の中を調べる事ができなかった。
 隣から画面を覗き込んだアーニャが、その疑問に答える。
「魔法で妨害してるんじゃない? きっと家に掛かってた魔法がそれだったのよ。ほら、私も魔法が使えないわ」
「そんな事もできるのか……」
 彼女の言う通りアーティファクトは一種のマジックアイテムなので、当然魔法で妨害する事もできた。おそらくこの家の中に仕込んでいるのだろう。
「シロの方はどうだ?」
「家の中を普通に動き回っているから、かえって分からないでござるよ」
 鈴音がここにいた事は確かだが、追跡しようにも混線していて分からなくなっているようだ。
 ここに食事を届けに来ていた五月の匂い、監視カメラ、魔法を妨害する仕掛け、そして家屋内に残された鈴音の匂い。この家が本命の隠れ家なのは間違いないだろう。
「仕方ない、手分けして探そう」
 妨害しているものを探すのならば、そのまま鈴音と隠し部屋を探した方がいい。そう判断した一行は、手分けして探索を開始する。当然一人にならないよう、二人以上で組んでだ。
 たとえ鈴音がクラスメイトに危害を加えないとしても、人質に取るなどは十分に考えられるからだ。フェイトが絡んでいる可能性も考えると尚更である。
 なお、公園の公衆トイレを隠れ家の入り口にした事がある令子が、真っ先にトイレを調べたのは言うまでもない。なお、ハズレだったようだ。

 そのまま手分けして探してみるが、よほど巧妙に隠しているのか隠し部屋も隠し扉も見つからない。
 それどころか、家の中はトラップだらけだった。普通に移動している分には何も起きないが、何か調べようとすると発動する。魔法的なものからオカルト的なもの、そして科学的なものまで選り取りみどりだ。例外は小さな裏庭だけだったが、こちらはトラップどころか魔法的・霊的反応も全く無いので取り合えず屋内の捜索を優先する。
 『Grimoire Book』が使えない一行には為す術が無く、トラップに引っかかりまくる。全てがいたずら、嫌がらせのようなものばかりでダメージそのものは無いに等しいのが救いだろうか。
「きゃーっ!?」
「タダオ、こっち見ないでーっ!!」
 なお一番多かったのは脱げビームである。
 手を変え品を変えて四方八方から発射されるビーム。最終的には気合いで避けまくった令子以外の全員が脱がされてしまった。もちろん横島を含む。
「な、なんであんたら怒らないの……?」
「えっ? 横島さんなら別に」
 なお、言葉では嫌がりつつ、どこか楽しそうで、横島に見せようとしている節さえ見えるアスナ達を目の当たりにした令子の精神的ショックが一番の大ダメージだったのは余談である。
「いないわねぇ……」
「隠し扉も見当たらんアル」
 それからしばらく捜索を続け、屋内を一通り調べ終わったところで一旦奥のリビングに集まって情報を整理する。
 二階を調べてきた月詠とアーニャによると、どの部屋も家具は一通り用意されていたが、使われた形跡が無かったとの事だ。タンスやクローゼットも中は空だった、いや、脱げビームのトラップだけがあったらしい。
 開けた途端に不意打ちを食らい、悲鳴を上げたところで横島が駆けつけたが、その後の展開は言わずもがなである。
「この家はダミーだった可能性もあるか?」
「ここじゃなかったのかしら……?」
 こうなってくると、そもそもこの家で正解だったのかという疑問が浮かんでくる。令子も「吾妻」という表札が、鈴音の仕掛けた罠だったのではないかと思い始めていた。
「ちょっと空気入れ替えようか」
 横島が裏庭につながるガラス戸を開ける。締め切った状態で探索していたためか、庭から吹き込んでくる風が心地よい。
「あ〜、風に乗って鈴音殿の匂いが」
「手入れはちゃんとしてたみたいだな。雑草も生えてないぞ」
「……ちょい待ち」
 シロと横島ののんきな会話を聞いていた千雨が、ある事に気付いて立ち上がった。
 そして裏庭に出て辺りを見回す。一行が全員で庭に出れば手狭になりそうな小さい庭だった。少し高めかと思われる壁に囲まれ、壁際に腰ぐらいまでの灌木が植えられているぐらいだ。こういう場所にありそうな倉庫も無い。いや、倉庫を置くスペースも無い。
「ッ! まさか……!?」
 『Grimoire Book』を取り出し、庭を調べ始める千雨。家屋の外に出たため問題無く使う事ができる。
「……ビンゴだ!」
 そして程なく彼女は発見した。裏庭の隅、茂みで見えなくなっている部分に隠された四角い金属製の扉を。
 偽装された家、魔法も妨害されている家屋、しかし何も見つからない。ここまでくればこの家がダミーだと考えるのも無理もない話だ。ここにたどり着くだけでも一苦労なのだから徒労感も一入であろう。
 しかし、それこそがダミー。ガチガチに固める事で家に目を向けさせ、家を抜けた先にある裏庭の本命から目を逸らさせていたのだ。
 つまりこれは、扉を「見つけられないための仕掛け」ではなく「見つけるのに苦労させるための仕掛け」。最終的に裏庭の扉を見つけられても、見つけられなくても苦労させるのがこの家の真の目的だったのだろう。
 確かにその仕掛けは功を奏した。家を探索するのに結構時間を使ってしまっている。
 世界樹の方は、まだ戦いが続いているようだ。してやられた感は拭えないが、手遅れではない。
 金属製の扉は取っ手も無く、開け方が分からなかったので、文珠を使って開いた。
 扉の向こうは地下へと続く穴が開いており、はしごを伝って下りられるようになっている。
 横島が顔を上げて皆を見ると、彼女達もコクリとうなずく。
「よし、まずは俺から行くぞ」
 この先に鈴音がいる。そう信じて一行は横島を先頭に地下へと下りていった。



 少し時間は遡り、五体の『究極の魔体』モドキが姿を現した頃。
「あの五体が攻めてきます!」
 魔法生徒の誰かが悲鳴のような声を上げる。
 『学園防衛魔法騎士団』というイベントの体をなしているが、やはりこれは一般人に戦わせていい相手ではない。魔法生徒にも厳しい相手だろう。
 予定通り表向きはストーリーイベントという事にして、関東魔法協会、関西呪術協会、魔法界からの援軍の中から選ばれた有志の精鋭達がヒーローユニットとして対処に当たる事になる。
「巨大ロボはイベントユニットです! 得点の対象にはなりません! 皆さんはロボット軍団を食い止めてください!!」
 朝倉のアナウンスが学園都市中に放送されている。これで一般人は『究極の魔体』モドキには近付かないだろう。
 鈴音も配慮しているのか、ロボット軍団の進軍ルートと『究極の魔体』モドキが進軍するルートは離れており、ロボット軍団との戦いに参加している一般人が『究極の魔体』モドキの進軍に巻き込まれる可能性はほぼ無いといっていい。

「やっぱり五体しかいないね」
「横島の兄さんが一体ブッ壊してくれたおかげだぜ!」
 ネギが気になったのは、儀式の魔法陣は六芒星なのに五体しか現れていない事。
 儀式を成功させるためにはその足りない一体を何かで補わなければならないのだが、それらしきものは姿を見せていなかった。
「五体の動きは……」
 杖にまたがって上空へと上がり、五体の進軍ルートを確認する。
 既にヒーローユニット達は動いており、魔法先生達が一体、陰陽師と神鳴流剣士達が一体、魔法界からの援軍が手分けをして二体、そして高畑が一人で一体を止めるべく動き始めていた。
「何が気になるんだい、兄貴」
「魔法陣を完成させるのに必要なもう一体だよ、カモ君」
 世界樹から少し離れた場所に出現した五体の『究極の魔体』モドキは、六芒星の魔法陣それぞれの頂点に向かって動いている。
「……よし!」
 スピードを上げて地上に下りたネギは、小太郎達と合流する。
「ネギ、もう皆動き出しとるで!」
「ゴメン、僕達もすぐに動こう!」
「よっしゃ、魔法先生達と合流するか?」
「いや、僕達は……六体目を叩く!」
 上空から動きを見ていたネギは、五体の動きと、六芒星の魔法陣の完成予想図を重ね合わせ、五体から一番離れている六つ目の頂点に目をつけた。
「六体目って、あれがもう一体出てくるんか?」
「いや、横島さんが一体壊したから、あれはもう打ち止めだと思う」
 しかし五体だけでは魔法陣を完成させる事ができない。しかし、生半可な実力ではその代わりを務める事はできないだろう。鈴音でも可能かどうかは怪しいところだ。
 そんな事が可能な魔法使い。ネギは一人しか心当たりが無い。
「……京都ではしてやられたけど、今日は負けないよ」
 そうつぶやく彼の脳裏には、白髮の少年の姿が浮かんでいた。





つづく


あとがき

 超鈴音に関する各種設定。
 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

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