「こ、これはすさまじい光景だ!! さすがの麻帆良生も、この巨大ロボには動揺が走ったか!!」
声を張り上げ実況を続ける朝倉。
当然彼女は、五体の巨大ロボが『究極の魔体』モドキである事は分かっていたが、イベント参加者と観光客をパニックにしないために、即興でイベントの一幕とするべく頭脳をフル回転させていた。
「世界樹を囲むように五体の巨大ロボが姿を現しましたぁ!!」
これは「トラブルではなくあくまで予定されたイベントの一環である」と誤魔化すためのものであると同時に、魔法使い関係者達に状況を知らせるためのものでもある。
「おおっとー! 湖からも新手が繰り出されてきました! 皆さんはロボット軍団を食い止めてください!!」
実況しつつイベント参加者を誘導していく。
魔法先生達も『究極の魔体』モドキを止めるために動き出し、イベント参加者達は湖から現れた新手に向かって果敢に挑んでいく。
巨大ロボが動くとなると事故が怖いが、これでイベント参加者達は大丈夫だろう。
いや、脱げビームは健在なので、そちらについては保証はできないのだが。
実況しつつ朝倉は考える。
「……鈴りん、明らかに事故が起きないようにしてるね」
即興で実況している和美は、そんな彼女の意志を感じ取っていた。
このような大事件を現在進行形で起こしている鈴音だが、武装はあくまで脱げビームを使うなど、極力一般人に被害が出ないように立ち回っている。
おそらく『学園防衛魔法騎士団』についてもどこかで情報を得ており、こちらの動きも把握していると思われる。
それらを踏まえた上で彼女が出した結論は、「鈴音とは話し合える余地がある」だった。
「横島さん、パパだったらしっかり娘を連れて帰ってきなさいよ……!」
プロ意識の高い朝倉は、その呟きがマイクに拾われるようなヘマはしなかった。
見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.181
「ひとまず食い止められてはおるようじゃな」
関東魔法協会の司令室で、顎鬚を撫でながら学園長は独りごちた。
普段ならば、こういうトラブルが起きた時は後進への試練だと任せるのだが、かつての弟子であった自称『フェイト』が関わっているとなると、今回ばかりは黙って見ている訳にはいかない。他の魔法先生には任せず自ら指揮を執る。
現在、世界樹周辺ではイベント参加者とロボット軍団、魔法先生達と『究極の魔体』モドキの戦いとうまい具合に分断されていた。
「こりゃ仕組まれとったの」
学園長は、それが敵側の思惑によるものであると気付いていた。
彼の知るフェイトは、こういう事をするタイプではない。おそらく鈴音であろうとも当たりを付けている。
『究極の魔体』モドキ出現と同時に学園都市を守る結界がハッキングによりどんどん無効化されていく。これでは結界に頼らず自分達の手で侵攻を阻まねばならない。
フェイトは優れているがあくまで魔法使いであり、ハッキングのようなハイテク技術は持ち合わせていなかった。こちらもおそらく鈴音の手によるものだろう。
「魔法先生達は緊急出動じゃ、何か動きがあればすぐに報告してくれ」
とにかく今は儀式の完成を阻止するのだ。学園長は己を奮い立たせて司令室の者達に指示を飛ばすのだった。
現状湖からのロボット軍団との戦いは、イベント参加者達とヒーローユニットを任せた一部の魔法生徒のおかげで優勢に進んでいた。
時折増援に押され崩れかけるが、その度に高台に陣取った裕奈達がフォローを入れていた。
「また来た! 美空、行くよ!」
「へいへい」
時折ロボが高台に近付くが、裕奈と美空の二人で対処している。
この場では二人の能力が飛び抜けており、後ろにいるアキラ達への攻撃を見事にシャットアウトしていた。
「あ、湖岸の方押されてる!」
「……皆、一斉攻撃!」
「大丈夫、人に当たっても効果は無いよー!」
他の面々は、いつの間にかアキラが指揮官ポジションに収まっている。
普段は口下手の彼女も、この状況では高揚感も手伝って声を張り上げるようになっていた。更に桜子達がフォローしつつ率先してそれに従っていると、周りの面々もそれに合わせるようになっていたのだ。
マジックアイテムの特性上味方へ誤射しても何の問題も無い事もあって、素人集団でもギリギリのところで支援する事ができていた。後は誰が攻撃を命中させてポイントを稼ぐかである。
その一方で『究極の魔体』モドキとの戦いは、劣勢を強いられていた。
高畑とリカードならば一人で一体を相手取れるのだが、敵は五体いるため二人だけでは対処しきれないのだ。
「硬い……!」
「なんて強力なバリアだ!」
動き出した『究極の魔体』モドキは、モドキとはいえその名に恥じない強力なバリアを備えていた。
高畑とリカードが渾身の力で攻撃しても撃破するには至らず、再生能力も備えている。
「これで『モドキ』なら、本物はどれほど……!?」
高畑などは、そうぼやける程度の余裕があるが、膠着状態。
他の三体にも魔法先生、神明流剣士、そして魔法界からの援軍が挑んでいるがろくな有効打を与えられていない。一番有効なのは結界術による足止めという有様だった。
「急急如律令ッ!」
そんな中で意外と活躍しているのが関西呪術協会の陰陽師達。結界を張るにしても魔法のものよりも陰陽術の方が効果的だったのだ。
これはおそらく『究極の魔体』モドキは、本家本元と同じく魔族由来の技術が使われているためだろう。いうなれば相性の問題である。
おかげで劣勢ではあるが、彼等は『究極の魔体』モドキの足止めに成功していた。配置に付かさなければ、儀式は行えない。
ただし『究極の魔体』モドキが健在の内は、この戦いは終わらない。
高畑とリカードが一体でも破壊しきるか、別の部分で儀式を失敗させる必要があった。
「超……、いや、鈴音さんを探している横島君達か、あるいは……」
そう呟く高畑がチラリと視線を向けた先には、五体の『究極の魔体』モドキがいない方向へと向かっていくネギ達の後ろ姿があった。
そのネギパーティは、先導するネギを追いかけてひた走っていた。
小太郎や豪徳寺達は何の問題もなくついていけているが、のどか達は流石に厳しく、彼女達はパルのゴーレムに乗って遅れてついてきている。
「ネギ、どこに行くんや!?」
ネギは、その問いに答えない。
五体の『究極の魔体』モドキの進路から魔法陣の完成形を思い描き、六芒星を描くには足りない一点を推測。そこにフェイトが現れると予測し、ただただひた走っている。
その場所は湖の正反対、郊外の山寄りの場所だ。麻帆良祭の間は、ほとんど人気が無さそうなのは不幸中の幸いだろうか。
「ネギ先生!」
世界樹広場を抜ける際に大きく翼を広げた刹那が近付いてきた。
「この地図を」
「これは……?」
「千雨さんが敵の動きをサーチし、コレットさん達が魔法陣を予測しました」
一旦足を止め、呼吸を整えながら広げてみる。それは世界樹を中心とした麻帆良の地図で、その上に赤ペンで五体の『究極の魔体』モドキの予想進路と、それによって描かれるであろう魔法陣の六芒星が書き込まれていた。それはネギの予想とほぼ変わらぬものだ。
「高畑先生達が五体を足止めしていますが、倒すのは難しいようです」
「横島さん、よく壊せましたね……」
その時は起動していなかったのと、文珠を使ったおかげである。
あの時、あと二体か三体見つけて破壊していれば、儀式を行う事すらできなくなっていただろうが、それは言わぬが花。後の祭りである。
ともかく、ネギが頭の中で考えているだけよりも目標が明確になった。
「あ、電話……横島さんだ!」
丁度この時、横島から電話が入った。彼等の方はこれから鈴音の隠れ家の地下に入るところだったようで、その前に連絡してきたようだ。
ネギはその場で情報交換。ここまで走り通しで疲れていた豪徳寺達には休憩時間であり、その間にのどか達も追いついてきた。
「はい、はい……じゃあ、そういう事で」
電話を終えたネギが、皆に向き直る。
「ネギ君、横島はなんと?」
「鈴音さんの隠れ家で、地下への入り口を発見したそうです。地下に入ると連絡できなくなるから今の内にって」
情報交換の際にネギの予想と、魔法先生達の戦況についても伝えたが、前者については横島も同意してくれた。『究極の魔体』モドキの代理を務めるのがフェイトであろう事についてもだ。
また、本物の『究極の魔体』にはバリアに穴があった事を教えてくれたが、これは横島から学園長に連絡してもらっている。
しかし、鈴音がそんなあからさまな隙を残しているとは考えにくいとの事なので、それが今回も突破口になるかは微妙なところである。
「やっぱり突破口は……」
考えられる突破口は二つ。それは今もどこかで儀式全体を管理しているであろう鈴音。彼女を押さえれば儀式は破綻するだろう。こちらは横島達に任せればいい。
もうひとつは『究極の魔体』モドキの代わりになって儀式を進めようとしているであろうフェイトだ。魔法陣が完成しなくなれば、当然儀式を進められなくなる。
フェイト自身も強大な魔法使いだが、『究極の魔体』モドキよりは勝ち目を見い出せる。
つまり横島パーティとネギパーティ、どちらが先に儀式を阻止するかだ。電話で情報交換した二人はそう結論付けた。
一方は内心で「だから早くそっちで解決しろ。その方が穏便に止められる」と他力本願な事を考え、もう一方は「これは負けてられない!」と意気込んでいたが、それはそれである。
世界樹の方に戻っていく刹那を見送り、移動を再開しようというところで、ネギはのどか達に声を掛ける。
「ここからはスピードを上げていきます。それに向こうにフェイトがいれば魔物を召喚してきて乱戦になるでしょう。のどかさん達が行くのは危険です」
「えっ、でも……」
「あ、戻れという訳じゃないんです。別の事をお願いしたいんです」
「別の事、ですか?」
「はい、それは――」
結局のどか達はネギの頼み事を了承。のどか、パル、まき絵の三人はここから別行動となった。
ネギ、カモ、小太郎、豪徳寺、山下、中村、ポチは、更にスピードを上げてフェイトが目指しているであろう予測地点へと向かう。
「おっ、向こうも気付いたみたいやで!」
人気の無い道をしばらく走っていると、無数の魔物達が一行の前に姿を現した。
「こいつら、誰かが召喚したんか?」
「もしかしたら、フェイトの奴は既に所定の位置についたのかもしれねえな……」
「それで俺達の接近に気付いて、こいつらを送り込んできたって事か」
流石に家の中からという事は無いが、路地裏から獣のような姿をしたものが姿を現し、大きな翼を持ったものが屋根の上に降り立つ。
その配置は進行方向に偏っており、明らかにネギ達を足止めするのが目的だ。
「どうする、兄貴」
カモの問いにネギはぐっと杖を握る手に力を込める。
「皆で行こう! 魔物達を蹴散らして、フェイトを止めるんだ!!」
「よっしゃあ! ダブル裂空掌を食らえ!!」
「露払いは俺達が。ネギ君は魔法を温存するんだ!」
口火を切ったのは中村。山下もネギを庇いつつ進んでいく。
「ここならば問題あるまい……!」
ポチは人狼の姿となり、重機のように魔物を蹴散らし、道を切り開いていく。
ネギは自分も戦いたい気持ちをぐっと抑え、そのフェイトへと続く道を進むのだった。
つづく
あとがき
『究極の魔体』モドキは、原作では『火星ロボ』でした。
原作では湖から三体、反対側から三体の計六体登場していますが、こちらでは湖以外から五体登場しています。
出現場所が違うのは、鈴音が明確にイベント参加者を危険から遠ざけようとしたため。
数が一体少ないのは、横島が文珠で一体破壊したからです。
超鈴音に関する各種設定。
レーベンスシュルト城に関する各種設定。
関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
魔法界に関する各種設定。
各登場人物に関する各種設定。
アーティファクトに関する各種設定。
これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。
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