アスナと令子が友情?を確かめ合っている頃、地上の戦況は徐々に鈴音――いや、フェイト側に傾きかけていた。
「こっちからのサポート切ったから、私の寝返りに気付いたのかもしれないネ」
今まで魔法先生側がまがりなりにも抑え込めていたのは、フェイトが正体を隠すために魔法を使っていなかったからだろう。
しかし鈴音が寝返った事に気付いた彼は、一人で計画を遂行するためなりふり構わず魔法を使うようになった。鈴音はそう考えた。
『究極の魔体』モドキにフェイトの魂が宿っている事は、鈴音が寝返った時点で知られてしまう。そのため正体を隠す意味が無くなると考えた彼の判断は正しい。
「最初っから信じてなかったんじゃない?」
「かもしれないネ」
令子の指摘も、鈴音は否定しなかった。
元々二人は目的のために協力していたものの、鈴音が極力一般人に被害を出さない計画を立てていたのに対し、フェイトはその逆で強引にでも目的を果たそうとしていたように、それぞれの方針には大きな違いがあったのだ。
結局、深く静かに進めた方が成功率が高いという事で、鈴音の方針で計画を進めてきたが、フェイトは完全に納得はしていなかったのだろう。
鈴音からのサポートが切れた事で、すぐさま寝返ったと気付いた、いや、そう判断したのは、その辺りの積み重ねからくる不信感もあったのだと思われる。
見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.191
これまでは重装甲とその巨体から繰り出されるパワーでただただ押し進むだけだった。しかし今は、その巨体の各所に備え付けられた砲門から魔法を連発している。
『石の息吹(プノエー・ペトラス)』に『石化の邪眼(カコン・オンマ・ペトローセオース)』、石柱を生やすような魔法は自身にとっても邪魔になるからか、敵を石化させる魔法ばかりを使用している。
「これでは斬りかかる事もできん!」
一人の神鳴流剣士が叫ぶ。魔法界からの援軍の中にも、その声に同意する者達が少なからずいた。
近付けば攻撃できる。破壊できなくとも足止めぐらいはできる。しかし、不用意に近付けば魔法の餌食だ。
実際に隙を突いて斬りかかったものの、予想外の場所に備え付けられた砲門からの石化光線で石にされた者達が少なからずいる。
空中で石化した者の中には落下の衝撃で一部欠けてしまう者もいたが、その程度ならば後ほど魔法で治療できるので問題は無い。
それでも放っておく事は危険なため、周りの者達は石化された者の救助で足止めどころではなくなっていた。
この状況でフェイト入り『究極の魔体』モドキに対抗しうるのは、関東魔法協会側では高畑ぐらいだろう。
魔法界からの援軍でもリカードのみ。セラスやテオドラでは少々厳しい。というのも遠距離から撃ち込む魔法がほとんど効かないのだ。
関西呪術協会の陰陽師達は対霊の専門家だが、『究極の魔体』モドキという殻が彼等の術を阻んでいた。それよりも彼等が連れて来た神鳴流の剣士達の方が戦えているかもしれない。
しかしそれもあくまで比較論。全員で掛かっても足止めもままならないというのが現実だ。
高畑とリカードがなんとか一体ずつ足止めしているが、それでも三体が残る。それらはゆっくりとだが確実に目的地に向かって進んでいた。
ネギは魔法陣の頂点で儀式を進めようとしていたもう一人のフェイトと交戦を開始していたため、それらを止めに回る事はできない。そこにいたのは水分身だったようだが、こちらも儀式を構成する一部となると放っておく訳にもいかなかった。
「ワシも出た方がいいかのう?」
「現状では不要でしょう。それに学園長は最後の切り札ですし」
学園長なら老体を酷使すれば一対一で一体を止める事が出来る。とは言え一体でも阻止できれば儀式は阻止できるので、現状では学園長が無理をする意味は薄かった。
「みんな結構苦戦してんなあ……」
地下室のモニタで地上の様子を窺いながら、横島が呟いた。
「横島さん、私達も行きましょう!」
アスナが力強く言う。
「あれ、斬るのは難儀しそうやなぁ……」
しかし、月詠の言う通りでもある。流石の古菲も、あの巨体を殴り飛ばせるとは言えなかった。
考えられる対抗手段はひとつ。皆の視線が横島に集まる。そう、文珠だ。『究極の魔体』モドキを一体破壊した実績がある。
横島もそれを理解していた。この状況下では昔のように逃げると言い出す訳にもいかない。一刻も早く現場に向かわなければならないだろう。
「あの場所に早く行く方法は無いか? 地下道とか」
「かえって遠回りになるネ。地上ルート直行するのが一番早いヨ」
「不便な隠れ家だな、オイ」
「地下道調査されても簡単に見つからないようにしてるんだから当然ネ」
「……それなら仕方ない、のか?」
確かにこの場所は麻帆良祭の会場からも離れているが、元より見つからない事を第一に考えていたとすれば納得できなくもない。
元々鈴音は、この場所で魔法使い達に見つかる事なく、世界樹のコスモプロセッサ化の儀式を進める計画だったのだろう。
ここで下手に考えているよりも、早々に動いた方が良い。そう判断した横島達は現場に向かう事にした。
ただし全員で行く訳ではなく、千雨、のどか、パル、まき絵は地下室に残り、連絡を取りながらサポートしてくれる事となった。
鈴音も残ろうとしたが、令子が儀式を止める際にいてくれた方が良いと言い出したため、一緒に連れて行く事になる。
「そういえばさ、ハカセはどこにいるの?」
「ハカセなら別の場所で儀式の準備をしているネ。こっちから中止の連絡をしておくヨ」
それは移動しながらという事になり、一行は地上に戻って家を出た。
「何してんの?」
「タクシー呼びます、最速の」
ここで横島は、携帯を取り出し連絡を取り始める。
相手は夕映、正確には一緒にいるコレット。彼女のアーティファクト『月の舟』で迎えに来てもらうのだ。
「すいませ〜ん、スピード出し過ぎるとすぐに通り過ぎちゃうから、安全運転で行きます〜」
一瞬でという訳にはいかないが、それでも本当にタクシーを使うよりも早く現場に到着できそうだ。
もっとも『月の舟』は二人乗りがせいぜいなので、コレットと横島の二人だけで先行する事になるだろう。安全運転で。
アスナ達は近くのバス停まで走り、バスに乗って現場に向かう事になる。令子のオゴリで。
一方現場では、石化の犠牲者が増え始めていた。そのまま放っておくと砕かれかねないため、無事な者達が必死に回収している。
「ん? 動きが変わった……?」
一人の魔法生徒が、『究極の魔体』モドキの動きが変わった事に気付いた。それはすぐさま司令部に報告され、そちらでもその動きが確認される。
どうやら足止めされている二体は完全に足を止め、高畑とリカードとの戦いに専念するようだ。そして残りの三体はそのまま目的地に向かって進み続けている。
それを見た学園長は、フェイトの目的を察した。
「まさかあやつめ、水分身を使う気か!?」
「水分身? ああ、あれにも魂の一部が宿っているという事は……」
そう、『究極の魔体』モドキはフェイトの水分身を生み出す事ができる。
そこから推測できるフェイトの作戦、それは足止めされている『究極の魔体』モドキの代わりに水分身を使って儀式を行う、だ。
水分身はセラスやテオドラでも相手にできるだろうが、フェイトは魔法力が尽きない限り水分身を生み出す事ができる。『究極の魔体』モドキという魔法力タンクを使って大量の水分身を出されたらたまったものではない。
おそらく今はまだ出さないだろう。『究極の魔体』モドキを破壊する術が無くても、水分身ならば対抗手段があるのだ。それに、まだ高畑とリカードが近い。
だからまず三体の『究極の魔体』モドキを魔法陣の頂点まで移動させる事で二人から離し、それから水分身を出して残りの頂点も押さえる。それがフェイトの作戦だろう。
この瞬間、『究極の魔体』モドキを足止めしているはずの二人が、逆に足止めされている側に変わった。
三体の『究極の魔体』モドキが頂点に到達するまでがタイムリミット。なんとしてもそれまでに『究極の魔体』モドキを止めなければならない。
だが、この状況を打破するには戦力が足りない。明石教授も、現状では無茶を承知で学園長に出て貰わねばならないのではないかと思い始めていた。
その時、オペレーターの魔法生徒が声を上げた。
「高速で接近するものが……横島君です!」
『月の舟』に乗った横島の接近を知らせる声だ。
「タマ取ったらあぁぁぁぁ!!」
手のひらに文珠を輝かせた横島が、猛スピードで『究極の魔体』モドキに迫る。
しかしフェイトも、自分を破壊できる文珠を警戒しているようで、一体の『究極の魔体』モドキが足を止めて横島の方に向きを変え、『石化の邪眼』を連射してきた。
「うわっ!?」
コレットは必死の操作でそれを避けていく。
とはいえ『月の舟』は最高速度は凄まじいが、小回りを利かせようとすると途端にスピードが落ちる。おかげで横島が振り落とされる事は無かったが、二人が『究極の魔体』モドキに迫るスピードは目に見えて落ちていた。
「GSをアレに近付けさせるんだ!」
「それなら……!」
周りの面々もなんとか横島を援護しようと動くが、『究極の魔体』モドキはそれに合わせて『石化の邪眼】を撃つ砲門の数を増やしてきた。
石化光線の直撃を食らって石にされてしまう者、それを助けようとして自らも食らってしまう者。
幸い『究極の魔体』モドキが足を止めているためその後砕かれる事は無いが、光線の嵐に周りの者達は救助もままならず、援護どころではなくなってしまっている。
「せっかく急いで来たのにーーー!!」
横島の悲痛な叫びが上がるが、どうしようもない。
コレットが上手く避け続け、時には横島が文珠やサイキックソーサーで光線を防ぐおかげで三体目の『究極の魔体』モドキの足を止める事ができた。
しかし、残りの二体はフリーのままで、そうしている間にも進み続けている。
瀬流彦をはじめとする魔法先生達が結界で押さえ込もうとするが、『究極の魔体』モドキは意に介さず足も止めない。
そしてボディが結界に触れようとした瞬間、無造作に、そして豪快に腕を振るい、結界ごと魔法先生達を払いのけた。
パワーが違い過ぎる。令子が見れば、本物ほどではないと言っていたかもしれないが、それでも『究極の魔体』モドキのパワーは圧倒的過ぎた。『石化の邪眼】によって距離を詰めて戦う者達がほぼ無力化されているのだから尚更だ。
関東魔法協会の司令部にも、矢継ぎ早に被害報告が届けられている。
幸い一般人に被害は出ていないが、今のフェイトは明らかに一般人の存在を考慮せずに進軍している。このままでは時間の問題だろう。
最早猶予は無い。自分が出るしかない。
『究極の魔体』モドキ相手にどこまでできるかは分からないが、命に代えてもあれを止めるしかない。
肩眉を上げてモニタを見つめていた学園長は、悲痛な決意を胸に秘め、袖の中の拳を強く握りしめていた。
つづく
あとがき
超鈴音、フェイト・アーウェルンクスに関する各種設定。
レーベンスシュルト城に関する各種設定。
関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
魔法界に関する各種設定。
各登場人物に関する各種設定。
アーティファクトに関する各種設定。
これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。
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