topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.192
前へ もくじへ 次へ


「明石君、ここは頼むぞ」
「学園長……ご武運を」
 明石教授は学園長を見送った。止めたいが、止める事はできない。
 関東魔法協会に、あの『究極の魔体』モドキに対抗できそうなのは、もう学園長しか残っていないのだ。
 杖に乗って戦場に飛び出た学園長は、二体の『究極の魔体』モドキの進行方向へ向かい、世界樹との間に立ちふさがるように静止する。
「お主を弟子にしたのは間違いじゃった……」
 かつて彼を弟子にしていた頃の事が思い出される。
 才能のある生徒であった事は間違いない。弟子達の中でも飛び抜けていた。修業も熱心であり、誰よりも早いスピードで成長していた。
 だが、誰よりも力を求めていた。そして間違ってしまった。
「ワシもお主も間違ってしまった……。その間違い、今ここで正そう……!」
 今回の騒動、その責任は自分にもあると学園長は考えていた。彼を魔法使いにしてしまったのは自分なのだからと。
 だからこそ命に代えても止める。悲痛な決意を秘めて立ち向かおうとしたその時――

「サーイキックゥゥゥ……ファンネルーーーっ!!」

――甲高い少女の声が辺りに響き渡った。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.192


 学園長が声の方に振り向くと、そこには赤い髪の少女が杖も箒も使わずに宙に浮いていた。
「誰がファンネルだ!?」
「集中しろ、ダテブラック! 奴は石化光線を放ってくるぞ!!」
 そしてその背後から二人の男性が弧を描きながら飛んできた。
 背広姿で覆面をした長髪の男と、傍目にはどこかの特撮ヒーローのような男。二人はそのまま呆然とした学園長の横を通り抜けて『究極の魔体』モドキへと向かっていく。
 『究極の魔体』モドキは石化光線で迎撃するが、二人はそれを巧みにかわし、かわしきれないものは剣と霊波砲で防ぐ。
「悪ぃ! 全部は難しい!」
「構わん! それよりもスピードを維持するんだ!」
 その言葉から少女が二人を動かしている事が分かった。覆面男の言葉通り、少女は二人の勢いを殺さずに『究極の魔体』モドキに肉薄させる。
「ま、待て! 生半可な攻撃では……!」
 ハッと我に返った学園長が声を上げるが、二人は止まらない。
「食らえ!」
「正義は勝つ!」
 至近距離まで近付いた二人は、破魔札マシンガンを撃ち込みながら通り抜ける。
 更にUターンしてもう一度攻撃を仕掛ける。『究極の魔体』モドキはそれを迎撃しようとするが――ボフッと音がして、石化光線は不発に終わった。
 二人はそのまま破魔札マシンガンを撃ち込んでは離脱、それを数度繰り返す。
「よう、じいちゃん大丈夫か?」
 学園長がその光景を呆然と見ていると、赤い髪の少女が近付いてきて声を掛けてきた。
「おぬし達は一体……?」
「あたしは『B.A.B.E.L.』の……じゃなくて、え〜っと」
「通りすがりのヒーローだ」
「通りすがりの正義の味方です」
 学園長の問いに答えたのは、いつの間にか戻ってきた二人の男だった。マシンガンが弾切れしたようだ。

 改めてするまでもないかもしれないが、紹介しておこう。
 赤い髪の少女の名は明石薫、10歳。超能力支援研究局、通称『B.A.B.E.L.』に所属する超度(レベル)7の念動能力者(サイコキノ)、特務エスパー『ザ・チルドレン』である。
 長髪の覆面男の名は西条輝彦。ICPO超常犯罪課日本支部、通称『オカルトGメン』に所属する隊員である。
 そして特撮ヒーローの名は伊達雪之丞。霊力を鎧にして身に纏う『魔装術』の使い手であり、若手GSの代表格として名を知られている。
 『B.A.B.E.L.』、『オカルトGメン』、そして民間GSの三者がここに揃っているが、それだけではない。
「霧化しても中には入れないか……ならば!」
 二人に代わって『究極の魔体』モドキの相手をしているのは、破魔札マシンガンを持った金色の髪の青年、バンパイアハーフのピートことピエトロ・ド・ブラドー。
「吶喊します!」
「シンダラ、あたし達も行くワケ!」
 そして箒に乗った『現代の魔女』、麻帆良の魔法使い達よりも魔女らしい出で立ちをした魔鈴めぐみと、空飛ぶエイに見せかけて実はトリの式神であるシンダラに乗った呪術師小笠原エミ。こちらもやはり破魔札マシンガンを装備している。
 三人もやはり『究極の魔体』モドキの周りを飛び回り、破魔札をばらまいていた。
「替えのヤツ、持ってきたで!」
 その時、眼鏡をかけた黒髪の少女が突然姿を現した。超度7の瞬間移動能力者(テレポーター)野上葵である。
 西条と雪之丞が新しい破魔札マシンガンの弾倉を受け取ると、薫が「もういっちょ行ってこーい!」と二人を発射。彼等は再び『究極の魔体』モドキに攻撃を開始した。
 当然『究極の魔体』モドキは彼等を迎撃しようとするが、石化光線が出ない。何故かは中のフェイトにも分からないが他の魔法も使えないようで、『究極の魔体』モドキは大きな両腕を振り回し始めた。
「それじゃ忠夫はんにも渡してくるから!」
 そう言って葵は姿を消した。瞬間移動したのだろう。
 なお、横島の下には彼の義妹である変則瞬間移動能力者・横島澪が既に行っていて、鉢合わせする事になるのはすぐ後の話である。
 高畑とリカードの下にもマリアとテレサの姉妹が破魔札マシンガンを担いで向かっている真っ最中である。

「一体何が……む」
 目まぐるしい状況についていけていない学園長は、周囲を見回し、地上に美智恵の姿を見つける。
 彼女ならば知っているに違いないと地上に降りて近付くと、そこには美智恵だけでなく、もう一人の超度7のエスパー、接触感応能力者(サイコメトラー)三宮紫穂と、シンダラの本来の主である式神使い・六道冥子の姿もあった。
「美智恵殿、あれは一体……」
「これで砲門を塞ぎました」
 そう言って美智恵が見せたのは、西条達が使っていたものと同じ破魔札マシンガン。銃弾ではなく破魔札をばらまくそれは、霊能力が弱い者でも数をばらまく事によって悪霊に対抗できるようにするオカルトGメンの正式装備である。本来ならば。
「ただし、中の弾は魔封じの札ですけどね」
 今回はそのマシンガンの中に魔封じに特化した札を詰め込んでいた。
 本来ならば呪いの類を防ぐためのものだが、同時に魔法を防ぐ事もできるそれを、『究極の魔体』モドキの砲門に撃ち込む事によって魔法の発動を阻害しているのだ。
「しかし、生半可な札では……」
「だからこそ数を使っているんですよ」
 この手の道具を工業製品のように大量生産する事に関しては、オカルト業界に一日の長がある。
 一足先に東京に戻っていた美智恵は、関東魔法協会だけでは対処できない可能性を考え、準備を整えて戻ってきたのだ。一番厄介な敵が魔法使いである事は分かっていたため、魔法使いを封殺するための装備を。
 魔封じの札を大量に使っても永続的に無効化する事はできないだろう。しかし、塞いだ札が焼き切れるまでは魔法の発射を阻止する事ができる。
「フンガー! 今の内に救助ジャー!」
「石になった連中を回収するぞ!」
 巨躯の『張り子の虎を返上した虎男』タイガー寅吉と、もうひとつの魔装術の極み『獣面夜叉(ジュウメンヤシャ)』の使い手・陰念を先頭に、美智恵が連れてきたオカルトGメンの隊員達が駆け出す。
 為す術が無く、周囲で魔法を避けるしかできなかった魔法使い達もそれに合わせて動き出し、石化した人達を次々に救助していく。
 特にタイガーはその力を活かし、一人で二人分の石像を担ぎ上げて走っていた。
「ところで学園長、あの石化……魔法で治せますか? こちらでやると時間が掛かるのですが……」
「それはこちらでやりましょう。明日までに全員治療します」
「お願いします」
 そんな実務的な話をしているが、学園長の方は気が気ではない。
 今回の件は元々、魔法使い達だけで解決するつもりだったのだ。魔法使いの情報公開に向けてオカルト業界に借りを作り、風下に立つのを防ぎたかったという理由である。
 現実として、あのままでは命と引き換えにして『究極の魔体』モドキと戦う必要があったため、援軍を出されるのは仕方が無い事ではあるのだが、今後の事を考えると、その内心は複雑であった。
 無論、美智恵もそのあたりの事は分かっている。彼女はそれぐらいの政治力を持ち合わせていた。
 だからこそ彼女も、ひとつ手を打っていた。
「学園長、こちらを見ていただけますか?」
「む、それは……」
 彼女が見せてきたのは『学園防衛魔法騎士団』の参加証。
「私達、通りすがりのイベント参加者ですから」
 オカルトGメンではなく、イベントに参加者した観光客であるという言い訳を用意していたのだ。
 麻帆良祭を見物に行ったら巻き込まれた。それで押し通すつもりである。
「強引じゃのぅ……というか、参加受付けはとうに終わっていたはずじゃが」
「お孫さんにお願いしたら、すぐに手配してくれましたわ」
「木乃香のやつめ……」
 麻帆良に到着した美智恵は、まずおキヌに連絡。おキヌから木乃香に話が行き、彼女が受付に掛け合って参加証を発行してもらったそうだ。
 なお受付は、今から参加してもポイントはそれほど稼げず、トップ周辺の順位は変わらないだろうから問題にならないと考えていたようだ。
「詭弁ですな」
「でも必要な事ですわ」
 美智恵としても今後の事を考えると、下手に上下関係を作るのは防いでおきたかった。そのための「通りすがりのイベント参加者」という言い訳である。
 どちらにせよ美智恵達援軍に借りができるのは変わらないが、それぐらいは引き受けてもらわねばならない。それこそ命と引き換えと考えれば安いものであろう。
「……感謝いたします、美智恵殿」
 学園長は深々と頭を下げた。細かい部分は話し合う必要があるだろうが、それこそ後の話である。

 そんな話をしている間に、戦況が動いていた。
 大きな動きがあったのは、横島が戦っていた『究極の魔体』モドキ。
 葵と澪、両方から破魔札マシンガンを受け取った横島は、澪をコレットに預けて飛行機から飛び降りた。
 そして葵の超度7の瞬間移動の力を借り、零距離で砲門に魔封じの札を撃ち込みながらのヒットアンドアウェイを繰り返したのだ。
「よし、トドメだ!」
「任せとき、忠夫はん!」
 頭周辺の砲門を全て潰した横島は、マシンガンを投げつけ、『究極の魔体』モドキの頭頂部に文珠『壊』を叩き込む。
 『究極の魔体』モドキは腕を伸ばして追い払おうとするが、葵は慌てず瞬間移動で離脱。それが最後の抵抗となった。
 文珠の力は頭部装甲だけに留まらず、フェイトの魂を宿したマジックアイテムごと内部を破壊した。
 轟音を立てて崩れ落ちていく巨体。これで『究極の魔体』モドキはあと四体である。





つづく


あとがき

 『GS美神!!極楽大作戦』の面々、『絶対可憐チルドレン』の面々に関する各種設定。
 超鈴音、フェイト・アーウェルンクスに関する各種設定。
 レーベンスシュルト城に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、『絶対可憐チルドレン』クロスオーバー、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

前へ もくじへ 次へ