「そういう事なら、僕が立候補しましょう。バンパイアハーフとしての魔力を使わなければ、ほぼ互角のはずです」
「待ちな。俺を忘れてもらっちゃ困るぜ」
「僕も候補だという事を忘れてもらっては困る」
ならばと名乗りを上げるピート、雪之丞、西条の三人。横島が実際に合体しようとするかどうかはともかく、候補である事は間違いない。パルあたりなら喜びそうな光景かもしれない。
逆に面白くないのが令子だ。積極的に合体したい訳ではないが、このまま引き下がるのは負けたようで悔しい。
「そうだ! 文珠で力も同格にするってできない?」
「俺一人じゃ無理っス。俺が今制御できる文字数は二文字なんで、『同』『期』以外の制御は……」
「ぐぬぬ……」
「どういう事や?」
令子は横島の返事で理解したが、できない面々もいたようだ。代表して小太郎が二人に尋ねる。
「文珠を二文字以上制御するのって、結構難しいんだよ。同期合体は『同』と『期』の二文字を使うから、使える人が……」
「俺とネギなら大体互角やと思うけど、無理って事か?」
「ああ、合体するどちらかが文珠二文字を制御する必要があるから、二人には無理だろうな」
二人とも霊能力については専門外なので仕方がない。
そもそもネギの潜在的な魔法力の量を考えると、実際に互角なのかどうかは微妙なところである。
見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.196
「この中でできそうなのは……」
ざっと見回して考えてみるが、横島、令子、鈴音、美智恵、エミ、西条、そして辛うじて雪之丞ぐらいだろう。ピートも細かい制御となると厳しい。それぐらい文珠二文字の制御は難しかった。
もっともピートも立候補は取り下げていない。制御はもう一人に任せれば合体する事が可能だからだ。
そして同期合体だが、何度も言っているが大体互角の力を持っている事が求められる。ここに差があると合体できなくはないが、共鳴による強化が弱くなっていくのだ。
しかし、これが難しい。令子、鈴音、美智恵の三代でも、やはり魔族である鈴音が頭一つ飛び抜けているし、全盛期を過ぎた美智恵ではマイトだけを比較すると令子に一歩及ばない。
他の面々も、それぞれ得意分野があるが、単純にマイトだけで比べるとなると、互角といえるものは見当たらなかった。
「多少効率が悪くなっても、できる人でやるしか……」
美智恵がそう呟いた瞬間、皆の目の色が変わる。
「やはり僕が立候補しましょう。バンパイアハーフとしての魔力を使わなければ、ほぼ互角のはずです」
「待ちな。俺を忘れてもらっちゃ困るぜ」
「僕も候補だという事を忘れてもらっては困る」
そして繰り返される会話。そう、効率を考えなければ、逆に候補が増えすぎてしまうのだ。
「いっそ文珠あるだけ出して、全部の組み合わせで行ってみる?」
「まぁ、十個ぐらいなら……」
「そんなにあるの!?」
令子は冗談で言ったつもりだったが、意外にも実現可能だった。
なおそれは、横島がアスナ達と毎晩霊力供給に励んだ結果なので、詳しく話す事はできない。
詳細は省くが、文珠量産への貢献度は茶々丸と高音がツートップである。
「どないしたん?」
「な、なんでもないわ……」
その一方で、好奇心がうずいて接触感応能力(サイコメトリー)を使った紫穂が、カウンターを食らっていた。
割とこういう事は平気な彼女であったが、それなりに好意を抱いている横島の方を見てしまったのが効いたらしい。猫を殺すである。
それはともかく、十個の文珠があれば、五組が同期合体できる。効率は悪いだろうが、それでも数百倍の力は得られるはずだ。
「合!」
「体!」
「「さあ、お前の罪を数えろ!!」」
最初に決まったのは西条と雪之丞。二人ともノリノリで同期合体。
魔装術の効果もあって左右に色分けされた仮面を被る姿になった「一人」は、早速水分身の群目掛けて飛び出して行った。
「フフフ……蕩けるような心地良さなワケ♥」
「やりにくいなぁ……自我はしっかり保っていてくださいよ?」
次はエミとピートのコンビだ。エミが彼を指名し、ピートは若干引き気味だったが、この一件を解決するために虎穴に飛び込む事を決めたのだ。
なお、その虎の名はフェイトではなくエミかもしれないが、それは置いておこう。
こちらはメインとなっているのはピートのようで、彼は時間を掛けてはまずいと慌てて戦闘を開始する。
そして残されたのは横島、令子、鈴音、美智恵、そして合体希望のアスナ。
まず、鈴音と美智恵が辞退した。どちらもマイトの差があり過ぎるため効率が悪いという理由だ。前者と後者で意味は違っていたが。
残りの文珠は六つ。その内の二つを手渡された令子は――
「ま、まずい……」
――究極の選択を迫られていた。
というのも彼女は、自分と横島だけ同期合体する事になると考えていたのだ。まさか文珠のストックにこれほどの余裕があるとは考えてなかった。
文珠の数の余裕があるならば、横島と令子がそれぞれ合体相手を選んだ方が戦力的に有利となる。当たり前の事である。
さて、ここで問題だ。この状況で令子が横島を合体相手に選んだら、周囲はどう考えるだろうか。
「(私が、横島君と合体したがってると思われる……!?)」
それは令子にとっては大問題であった。美智恵あたりは察したのか「子供じゃないんだから……」とぼやいてため息をついている。
「………………アスナ、行くわよ」
そして令子は「逃げ」を選択した。
ここで横島を指名できるようであれば、そもそも彼に独立されていないだろうから仕方がない。
効率でいえば鈴音や美智恵より下だろうが、母や娘と合体するよりはと考えたのだろう。
既に同期合体した二人が暴れているので、自分は無理に横島を指名しなくても……という判断もあったのかもしれない。
「えっ、私ですか!?」
一方アスナは驚いていた。まさか、ここで自分が選ばれるとは思ってもいなかったのだ。
しかし、今でこそ横島の愛弟子、女横島見習いになっている彼女だが、元々は「GS美神令子」に憧れていたのだ。この機会を逃すという選択肢は無い。
「やってみたいんでしょ? あいつ程度が相手なら、多少効率悪くたってどうって事ないわ!」
「は、はい!」
戸惑いつつも了承の返事をし、それを聞いた令子は、すかさず『同』『期』の文珠を発動させた。
やはりメインとなったのは令子。そしてアスナのマイトが低過ぎるせいか、出力は前者二人には遠く及ばないようだ。
しかし、令子は気にしていないようだ。多少効率が悪くてもいいというのは、誤魔化しだけでは無かったのだろう。
「じゃあ、残りの文珠は四つだから……」
そう言って横島は、二つを鈴音に渡した。
問題は、それぞれが誰と合体するかだ。
「あの、身長が違っていても大丈夫なら、僕じゃダメですか?」
ここで立候補したのはネギ。
「いや、ダメだろ」
「それはダメネ」
「即答!?」
しかし父娘は即座に断った。
「ネギ相手でもマイトでは負けてないだろうからな。メインになるのは俺だろ?」
「それは別に構いませんけど……」
「いや、そうなるとネギの魔法が使えなくなるって事だからな?」
「ネギ坊主は、合体しないで戦った方が戦力になるネ」
「な、なるほど……」
もちろん断るのにはキチンとした理由があった。彼をただ同期合体で共鳴のために使うのは、戦力的にもったいない。
何故なら強力な魔法というのは、マイトの差をひっくり返せるだけの力がある。それが同期合体すると、メインにならない限り使えなくなってしまうのだ。
「分かりました、そういう事なら……」
そのためネギも納得するしかなく、素直に引き下がった。
「ま、ここは素直に私とパパで合体して、残り二個は念のために取っておくネ」
「それもそうだな」
という訳で五組目は無く、最後の組み合わせとなった四組目は横島と鈴音の父娘コンビだ。
横島が手持ちの二個を一旦戻し、鈴音が文珠を使って同期合体。メインとなったのは、マイトが低いはずの横島の方だった。
「まぁ、ここは、特等席でパパの活躍を見せてもらうネ」
肩部分から聞こえてくる鈴音の声。彼女があえて力を抑える事で、横島の方をメインにしていた。
これで準備は完了。後はこの同期合体の力で最後の『究極の魔体』モドキを倒すだけだ。
「――ッ!?」
しかし、ここで令子に異変が起きた。
「美神さん!?」
隣の横島が、倒れそうになる令子を支える。
「もしや、中のアスナに何かが!?」
肩から響く鈴音の声。確かに、異変の原因は令子の中のアスナにあった。
彼女は考えたのだ。同期合体した横島を見て。
「(あれ? もしかして、ここで私の方がメインだったら、修学旅行の時みたいな活躍を、今度は横島さんと並んでできたんじゃ……)」
それは恋する少女の、小さな願いだったのかもしれない。
しかし現実は厳しい。彼女のマイトは令子には遠く及ばず、メインとなっているのは令子の方。これをひっくり返すのは難しい。
それでも諦めきれないアスナは考えた。なんとかできないか。こんな時、横島ならどうするだろうかと。
そして彼女は、一つの光明にたどり着く。
「煩悩全開ッ!!」
「いーやーっ!?」
そう、敬愛する師と同じ手段に。
本当にそれでアスナの霊力は一時的にだが増幅。本来ならばそれでも令子には届かなかっただろうが、迸る妄想が同期合体している令子に伝わった事で、なんと悲鳴を上げた彼女の方も一時的に弱まってしまった。意外と初心である。
それによってオーバーフローが発生。メインが令子からアスナへと入れ替わり、横島に支えられている姿がアスナのものへと変わる。
「重……うわっ、おっきい」
「揉むな、コラーーーっ!!」
ただし、完全には入れ替わらなかったようで、身体の方が令子に近い。いうなれば二十歳ぐらいまで成長したアスナとなっていた。
「ママ、見習いのアスナに負けるとか……」
「放っといて! ていうか、最近の中学生進んでない!?」
「いや、アスナが特殊なだけネ。女横島見習いと呼ばれてるのは伊達じゃないヨ」
「お、女横島……」
その一言で令子も納得してしまった。
ともかく、妄想全開で絶好調のアスナはしばらく続くようで、しばらく令子と入れ替わりそうになかった。令子の方がダメージが大きいのかもしれない。
同期合体は、あまり時間が掛けられないという事で、このまま戦闘を開始する事となった。
「『来れ(アデアット)』!」
アスナが召喚したアーティファクト『ハマノツルギ』は、当然いつものハリセンではなくアスナの背丈ほどはありそうな大剣の姿。アスナはそれを軽々と担ぎ上げる。
「行きましょう、横島さん!」
「おう!」
そして二人は駆け出した。麻帆良祭最終決戦、いよいよクライマックスである。
つづく
あとがき
『GS美神!!極楽大作戦』の面々、『絶対可憐チルドレン』の面々に関する各種設定。
超鈴音、フェイト・アーウェルンクス、リョウメンスクナに関する各種設定。
レーベンスシュルト城に関する各種設定。
関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
魔法界に関する各種設定。
各登場人物に関する各種設定。
アーティファクトに関する各種設定。
これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、『絶対可憐チルドレン』クロスオーバー、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。
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