「行きましょう、横島さん!」
「おう!」
『ハマノツルギ』を担いだアスナ+令子と、『栄光の手(ハンズ・オブ・グローリー) 』とサイキックソーサーを構えた横島+鈴音が並んで駆け出す。
「まずは僕が! 来れ雷精! 風の精! 雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐! 雷の暴風(テンペスタース・フルグリエンス)!!」
ネギの魔法が水分身軍団に穴を開け、そこに二人が駆け込む。
横島が先行して穴を閉ざして食い止めようとする水分身軍団の攻撃を受け止め、アスナが『ハマノツルギ』で放つ魔法無効化能力(マジックキャンセル)の一撃がその穴を更に広げる。
『ちょっ、何これ!?』
ただ水分身を倒すのではなく消去してしまう攻撃に、令子が驚きの声を上げた。
「『魔法無効化能力』! これが私の力です!」
『これ、水分身の天敵……?』
すぐにそれが水分身軍団に有効だと判断した令子は、落ち着きを取り戻しても主導権を逆転させようとはせずに、そのままサポートに徹する事にする。
「うふふ……私、活躍してるわ……! これなら横島さんも私を見直して、そして、そして……むふっ、むふふふふ……!」
アスナを妄想に耽らせるのは危険だと判断したというのもある。
表に出しているのも安全とは言い難いが、そこは横島が上手くフォローしてくれる。それならばアスナは妄想の赴くままに暴れさせた方がいいだろう。
見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.197
先行していた雪之丞+西条と、ピート+エミもそれぞれ単騎で暴れまわっていた。
「あの力は……?」
『ハッキリした事は分からないケド、対魔法に特化した霊能みたいなワケ』
真っ先にアスナの力に気付いたのはピート。彼にはそれが何であるかは分からなかったが、合体しているエミがすぐさまフォローした。
『どうやら彼女は面白い力を持っているようだね』
「フェイトってヤツを倒すには、一番向いてそうだな」
雪之丞&西条もアスナの能力に気付き、こちらも『究極の魔体』モドキを狙うのではなく、そこまでの道を切り開く方針に切り替えた。
ちなみにこの二人、主導権を握っているのは雪之丞だ。左右に塗り分けられた仮面は魔装術によるものである。
実力的に西条が負けている訳ではないのだが、彼はあえてフォローに回っていた。魔装術による仮面の方が格好良いからである。
冷静な西条の方がフォローするのに向いていたという理由も一応あると付け加えておこう。
ともかく、同期合体をした面々の力は圧倒的だった。
『究極の魔体』モドキは猛スピードで水分身軍団を生み出していくが、雪之丞とピートが増えるはしから蹴散らしていく。
その二人が開けた穴に横島とアスナが突入し、穴を閉じようと迫ってくるフェイト達をアスナの一振りが消し飛ばす。
フェイトに対して一番有利に戦えるのはアスナだが、一番隙が大きいのもアスナだろう。しかし横島がそれを完全にカバーしているため、フェイトはアスナの快進撃を止める事ができない。
これに横島パーティの他の面々とネギパーティも加わり、形勢は完全に逆転。
増えるよりも減るスピードの方が上回り、水分身は徐々に数を減らしていく。それと同時にアスナは、着実に『究極の魔体』モドキとの距離を縮めていった。
「やらせるか……!」
対するフェイトは、接近するアスナと横島に向け、まず魔法で攻撃。
ビルほどの大きさの石柱を叩きつけるという物理攻撃ならば効果があると考えたのだろうが、アスナが前に出て魔法で生み出されたそれを易々と切り裂き、巨大な石柱を消去する。
それで全ての魔法は効かないと悟ったのだろう。フェイトは『究極の魔体』モドキの大きな両腕を振り上げ、先程の石柱にも劣らないサイズのそれが唸りをあげてアスナ目掛けて叩きつけられようとする。
『本物ほどじゃないからいけるネ!』
「信じるぞ!」
しかし、それは横島のサイキックソーサーの爆発によって遮られた。
同期合体によって生み出される莫大な霊力によって生み出されたそれは文珠の『爆』発並みの威力を発揮する。
しかしモドキとはいえ流石は『究極の魔体』を名乗るもの。その一撃でも砕く事はできない。
「もういっちょーーーっ!!」
しかし爆発によって完全に勢いを殺され、二発目の爆発で浮き上がる。
「今です!!」
「うおりゃぁッ!!」
その腕にピートと雪之丞のキックが炸裂。フェイトはたまらずバランスを崩す。
「邪魔をするなッ!!」
フェイトは倒れつつももう一方の腕を振るい、その直撃を受けたピートと雪之丞が吹き飛ばされる。
「速い!?」
「あの野郎、魔法を加速に使ってやがる!」
一撃をもろに食らいながらも雪之丞は気付いた。フェイトが魔法を肘から撃つ事によって、攻撃ではなく魔法発射の反動による加速に利用した事を。
この隙に横島とアスナが巨体を駆け上がろうとするも、『究極の魔体』モドキは倒れた姿勢のまま背中から勢いよく石柱を生み出す事で宙に舞い上がり、二人はバランスを崩して転げ落ちる。
「こんのぉ……!」
『待ちなさい、アスナ! 罠よ!』
アスナは落ちながらも石柱を消そうとしたが、令子が慌てて止めた。もしここで石柱を消していれば、舞い上がった『究極の魔体』モドキの巨体が落ちてきていただろう。
「魔法が効かなくても……やりようはある!」
石柱の上で体勢を整えたフェイトは、数十の石柱を生み出し、地面目掛けて撃ち込んだ。アスナは狙わず、自分が乗る石柱を中心に円を描くように撃ち込む。
それによりアスナ達の周りには石柱による壁ができあがり、閉じ込められる形になる。そう、目的は攻撃ではない。一時的にでも彼女達を閉じ込める事だ。
そして上には『究極の魔体』モドキ。その姿を見て、彼の目論見に気付いたのは令子だった。
『……ねえ、アスナ。あんたの魔法無効化能力って、どうやって発動するの?』
「えっ? 触ったり、斬撃にして飛ばしたりで……」
『そ、そう、やるわね……』
斬撃を飛ばすというのが令子には理解できなかったが、大剣形態の『ハマノツルギ』を使えばできてしまうのだから仕方がない。
『アスナ、石柱を消して行きなさい!』
「えっ? えっ?」
『急いで!!』
「は、はい!」
その話を聞いた瞬間、令子はアスナを急かして動かした。
それを見て西条も気付く。
『そうか、魔法無効化のミスを狙うつもりか』
そう、それこそがフェイトの狙いだ。既に彼は先程よりも巨大な石柱を生み出し、アスナ達目掛けて撃ち込もうとしていた。
「横島、あれ爆破しろ!」
「無茶言うなー! 多過ぎるわーーー!!」
それでも横島は両手を掲げ、頭上スペース全てを埋め尽くすサイズのサイキックソーサーを展開。降り注ぐ数本の石柱を全て受け止める。
「お、重……っ!?」
「横島さん、開きましたよ!」
この間にアスナは周りの石柱を一本破壊。その開いた隙間からアスナ、雪之丞、ピートが抜けだす。
「横島さん、早く!」
「む、無理……!」
しかし、横島が動けない。無理もない。いくら同期合体で強くなっているとはいえ、ビル数棟分の重さを一人で支えているようなものなのだから。
アスナは慌てて駆け寄ろうとしたが、その腕を雪之丞が掴んで止めた。そして彼の指差しでそれに気付き、サイキックソーサーの上に積み上がる石柱を消す。
しかし、大き過ぎるため、斬撃を飛ばしても一本しか消す事ができない。これでは焼石に水だ。
続けて二本目を消すが、遅かった。轟音を立てて次々と地面に突き刺さる石柱。しかし横島は出て来ていない。
砕けた石柱の瓦礫で埋まった壁の中。下で支えていた横島は、いくら同期合体しているとはいってもひとたまりもないだろう。
「そ、そんな……」
力を失い、崩れ落ちるアスナ。その瞬間、令子でもフォローしきれなくなったのか、主導権が彼女に移り、令子の姿へと変わる。
「あっ、ちょっとアスナ!? 大丈夫!?」
『…………』
令子は自分の中のアスナに声を掛けるが、反応が無い。
「フ、フフ……ハハハハハ……!」
代わりに頭上から笑い声が響く。
「魔法無効化能力があるから楽勝だと思っていたのかい? 君を抑える手段なんていくらでもあるんだよ? ああ、それ、どうなってるか知らないけど、聞こえてるよね?」
勝ち誇るフェイト。追い打ちとばかりに自ら残りの石柱を崩し、横島がいた場所の真上に地響きと共に降り立つ。
「さて、残り三人。おそらくその状態だと、魔法無効化能力は使えないと思うけど……どう料理してほしい?」
彼の言う通り、令子が表に出ている状態ではアスナの魔法無効化能力は使えない。
今石化魔法を使われたら、瞬時に石化する事は無いにしても、一気に窮地に陥るだろう。
だがそれは、逆に言えば一瞬で終わらせる事無く長く苦しめられるという事だ。フェイトはそう考え、石化魔法の詠唱を始めようとする。
「ん……?」
しかし、そこで彼は気付いた。
「もう一人はどこに行った……!?」
視線の先にいるのが、令子と雪之丞の二人だけだという事に。
「……ふう、同期合体した状態でもいけるかは賭けだったけど、上手くいったみたいだ」
「あ〜、死ぬかと思った」
令子の背後から噴き上がる霧。それは人の形となり、ピートと横島の姿となった。
そう、横島が力尽きようとしたあの瞬間、ピートが霧化能力で近付いて彼も一緒に霧にしていたのだ。
おかげで石柱に圧し潰される事も無く、無事脱出できたのである。
「横島さん!?」
その直後、令子の姿が再びアスナに変わった。
『立ち直りが早いな、彼女は……』
『でも今は頼もしいわ』
呆れ気味の西条と令子だったが、横島が無事だったためか、その声はどこかほっとした様子だ。
「辛うじて逃げられたみたいだけど……数で圧殺すればいい事には変わりない!」
対してフェイトは横島を仕留められなかった事が気に障ったらしく、その声から怒りが滲み出ている。
新たに先程と同程度、アスナの斬撃では一本ずつしか消せないサイズの石柱を十本生み出し撃ち込んできた。
次の瞬間、再びサイキックソーサーが展開されて、全ての石柱を受け止める。
「また同じ事を繰り返す気かい? 霧で逃げる、確かバンパイアの能力だったね。それは何人まで霧化できるのかな?」
勝ち誇るフェイト。彼の言う通り、ピートが同時に霧化できる人数には限りがある。
同じ事を繰り返して逃げ続けていては、攻撃の余波で周囲の者達に被害が出てしまうだろう。
そう、同じ事を繰り返していれば。
「で……できた……サイキックゥ……ソォサァ……!」
『私がフォローしたおかげよ』
だが今回は、サイキックソーサーを展開したのは横島ではない。アスナだ。
「ほぅ……だが、君に変わったところでその重量は支えられないだろう?」
フェイトの言う通りだ。出力でいえばアスナは同期合体している四人の中では一番弱い。いくら女横島見習いだからといって、横島のしぶとさには及ばない。
「ん〜〜〜〜〜……爆破ァッ!!」
だが次の瞬間、アスナは巨大なサイキックソーサーを自ら爆破した。
次の瞬間、爆風に飲み込まれた全ての石柱が一瞬にして消える。
「なっ!? バカな!!」
彼は気付いていなかった。石柱がサイキックソーサーに触れる端から、少しずつ消されていた事を。霊力の塊であるサイキックソーサーには、彼女の魔法無効化能力が上乗せされている事を。
巨大サイキックソーサーから噴き出した霊力の爆風、魔法無効化能力が上乗せされたそれは、一瞬にして石柱を消し飛ばしたのだ。
「そ、そんなバカな……」
予想外の光景に一瞬思考が真っ白になるフェイト。その隙を雪之丞と西条は見逃さない。
「『ダブル! ヒーロー! キイィィィック!!』」
無防備となった『究極の魔体』モドキの胸板に強烈な一撃を叩き込む。
それを合図に横島とピートも動く。
「クッ……!」
フェイトは両腕を交差して防ごうとするが、その直後に右腕が地面に墜落した。
横島の手に輝くのは『重』の文珠。ただでさえ重い『究極の魔体』モドキの腕の重量を倍増させ、動けなくしたのだ。
「一瞬でもいい! 動きを止める事ができれば!!」
そしてピートは吸血鬼としての力も使い、力技で左腕を押さえ込む。
長くはもたないだろうが、それで十分だ。
その隙を突いてアスナが今度こそ『究極の魔体』モドキのボディを駆け上がる。
フェイトは再び浮上してアスナを振り落とそうとするが、重くなった右腕がそれを阻み、数秒浮上が遅れる。
アスナの俊足には、それで十分だ。バランスを崩しつつも勢いは落とさず頭まで駆け上がっていく。
「覚悟しなさいフェイト! このGS見習い神楽坂アスナが……極楽へ逝かせてあげるわッ!!」
そして、フェイトが宿る魔体の頭脳に、ハマノツルギの渾身の一撃が振り下ろされた。
つづく
あとがき
『GS美神!!極楽大作戦』の面々、『絶対可憐チルドレン』の面々に関する各種設定。
超鈴音、フェイト・アーウェルンクス、リョウメンスクナに関する各種設定。
レーベンスシュルト城に関する各種設定。
関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
魔法界に関する各種設定。
各登場人物に関する各種設定。
アーティファクトに関する各種設定。
これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、『絶対可憐チルドレン』クロスオーバー、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。
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