祭りが終わり、日常が始まる。
色々とあった麻帆良祭も無事に終わり、アスナ達はいつもの日常に戻った。
終わった直後は魔法先生達が慌ただしく駆け回っていたが、今はそれも収まり、数日遅れで先生達にも日常が訪れたようだ。
とりあえず、アスナにとっての差し迫った問題は期末試験である。
最近の彼女は試験期間中という事で部活も無く、放課後は寄り道せずにレーベンスシュルト城に戻り、試験勉強に励んでいる。
以前の彼女を知る者にとっては驚きの光景だが、今の彼女には六道女学院の除霊科に進学したいという明確な目的があるのだ。
そうしているのはアスナだけでなく、3−Aのほとんどの生徒が集まり大規模な勉強会となっていた。
ちなみに高音、愛衣の二人は、この勉強会に参加していない。二人は友人達と勉強会をする事になっているらしい。魔法使いである事を秘密にしている立場上、こちらにばかりかまけて、表の友人関係をないがしろにする訳にはいかないとの事だった。
「う〜ん……う〜ん……」
「アスナさん、分からないなら素直に聞いてくださいな」
「う、ゴメン……」
問題があるとすれば、真面目になったからといって、急に成績が上がる訳ではないという事だろうか。
そんな彼女をマンツーマンで指導するのは、あやかである。
アスナとしては横島に教えてもらいたいところだろうが、彼も人に教えられるほど学校の成績は良くなかった。
そんな彼もここ数日はレーベンスシュルト城で試験勉強である。こちらは何故か鈴音が付きっ切りで勉強を教えていたりする。
「こんな時にネギはどうしたのよ? まだ忙しいって訳じゃないわよね? 魔法先生」
「麻帆良祭関係のお仕事は終わったみたいなんですけど……」
アスナの疑問に答えたのはのどか。しかし、何故か言い辛そうにしている。
「けど? どうしたのよ、のどかちゃん」
「それが……小太郎君の成績が、かなりまずいみたいで……」
「……ああ、なるほど」
このままでは、彼の夏休みは補習でつぶれてしまいそうな状態らしい。
豪徳寺達も似たり寄ったりの状態らしく、ネギパーティののどか達がこちらの勉強会に参加しているのも、彼等が女にみっともない姿を見せられないと言い出したためだそうだ。
見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.200
さて、アスナ達が試験勉強をしている間に、他の面々の事についても触れておこう。
まず令子達GS・オカルトGメン・B.A.B.E.L.の面々だが、彼女達は観光客として麻帆良に来ていたので、最終日の内に東京へと帰っていった。学生組は翌日学校なのだから当然である。
美智恵は鈴音を連れて帰りたがったが、麻帆良の生徒だからと自重。夏休みにまた会うと約束していた。
特にアーニャは、夏休みに再び魔鈴と会うと約束し、大はしゃぎだ。
またおキヌはアスナ達に、六女の資料を集めておいてくれるそうだ。
それを知った横島と令子が、下手に六道夫人に借りを作らないようにと釘を刺したのは言うまでもない。
ちなみにアーニャは、個人で人間界に出てきていたため、魔法界の援軍とは無関係である。そのため魔法界に帰る事なく今も麻帆良に残っている。
しかも既に学校を卒業している身である彼女は、期末試験とは無関係だ。
ただ、周りの面々が皆試験勉強で大忙しなため、最近は図書館島に通っており、今も借りてきた本で人間界の勉強に励んでいた。
なんだかんだで彼女もまた、真面目な優等生であった。
その魔法界からの援軍は、麻帆良祭終了から三日ほどは残って警備をしていたようだが、やがて順々に帰って行った。
ちなみにその三日というのは、麻帆良祭のために設置したものを撤去するのに掛かる時間だ。フェイトが召喚した魔物等が残っている可能性もあるため、その間は警備を続ける事になっていたのである。
コレットも例外ではなく、帰国前日にはレーベンスシュルト城で盛大にお別れパーティーを開いたものだ。
夏休みに東京に行く計画を聞いたコレットは、少し遅れるかもしれないが自分も参加したいと言い出した。
麻帆良祭期間中はともかく、東京で耳や尻尾が目立つのはまずい事を教えると、夏休みまでに変身魔法を覚えてみせると大張り切りだった。
ネギ・パーティは逆に、夏休みに魔法界に行く予定なので、彼の姉・ネカネとその時はよろしく頼むと話をしていたようだ。
なお、その際に雪之丞を連れて行こうかという話も出ていたりする。
なお、リカード、テオドラ、セラスの三人は、その後東京に赴き、半月ほど滞在してオカルト業界の面々との対談・折衝に駆け回っていたようだ。
その際に中の空間に建物を入れられる魔法の水晶球についても話したが、かなり好感触だったらしい。
科学技術も合わせると、中でどれだけの事ができるのか。まずはそれを共同で研究するという方向で話が進んでいるそうだ。
とりあえず情報公開前の下調べとしては、大成功だったといえるだろう。
関西呪術協会からの援軍も、同じように三日ほど警備を続けてから帰っていった。
木乃香の父・近衛詠春の後継者を巡って手柄を競い合っていた彼等だが、結果はご存知の通り、おいしいところはGS協会・オカルトGメンの総取りである。
実力が及ばなかったというのは理解しているし、相手が美智恵となると無理矢理文句を言う事もできなかったのだろう。
それよりも、麻帆良祭が駄目となるとどうやって他の候補に先んじるかの方が重要なようで、彼等は特に問題を起こす事は無かった。
京都に帰ってからの方が大変かもしれないが、それはアスナ達には関わりの無い事である。
木乃香もその辺りの事情で卒業まで京都には帰らない事になっているので尚更であった。
ただ、ひとつだけアスナ達に大きな影響を及ぼす事があった。
「ほら、ここも間違っとる! 基礎から叩き込んでくで!」
「千草はん、かんにんしておくれやす〜」
鉢巻を巻いて勉強を教えている千草と、試験勉強をしている月詠。あの月詠が勉強をしているのである。
そんな彼女は、アスナと同じ麻帆良女子中学校の制服を着ていた。
「ま、まさか、月詠が転校してくるとは……」
その姿を見て、口元を引きつらせながらつぶやくのは刹那。
そう、麻帆良祭の翌日、月詠が3−Aに転校してきたのだ。今では彼女も3−Aの一員である。
なんだかんだで準備段階から麻帆良祭を楽しんでいた月詠。ずっとそれを見ていた千草が、京都の中学校を不登校のまま卒業するよりも、せっかくできた友達と一緒に卒業させてやりたいと親馬鹿っぷりを発揮。いつの間にか学園長に直訴していたらしい。
なんだかんだといって逃げずに試験勉強をしているあたり、月詠の方も皆と一緒に卒業したいと思っているのだろう。それが分かっているからこそ、刹那もそれ以上は何も言わなかった。
そして最後に学園長をはじめとする魔法先生達だが、麻帆良祭後一番苦労したのは間違いなく彼等だろう。
まず、麻帆良祭終了直後、石化されてしまった人達を翌日月曜日の朝までに治さなければいけなかった。当然、欠けている部分があればそこも修復しなければならない。
魔法先生も、魔法生徒も、日常に戻れば学校に行かなければいけないので、待ったなしである。
徹夜でそれを終わらせたら、一般生徒達の撤去作業に紛れて『究極の魔体』モドキの残骸などを撤去。それと並行して壊れてしまった場所の修理も進めていかなければいけない。
一番大変なのは間違いなくここである。修理に関しては壊れた原因さえ誤魔化してしまえば外部に頼む事ができるが、魔法絡みの物の片付けに関しては魔法使いだけでどうにかしなければならない。
こちらに関しては今も続いているのだが、今は試験期間中。魔法生徒達に手伝わせる訳にはいかない。
もちろん、魔法先生達にだって先生としての仕事があるが、それはそれで。今の状況では両方やるしかないのだ。
「『究極の魔体』モドキの残骸だけでも、片付けられて良かったのぅ……」
その巨体を見上げながら、学園長が呟いた。
周囲に広がるのは何も無い荒野。実はここは学園長が用意した「建物を入れる前の」魔法の水晶球の中だ。
『究極の魔体』モドキの残骸は、最も一般人に触れさせてはいけないものだ。しかし、魔法使い達だけでは動かすのも破壊するのも難しい。そこでこれを用意して中に入れる事にしたのだ。
当然入れるために大きな魔法陣を用意しなければならないが、それを片付ける手間を入れても、普通に運ぶよりは楽だったのである。
それならば試験期間中は先生の仕事に集中すればいいのではと思われるかもしれないが、そういう訳にもいかない事情があった。
「派手に壊れた場所もあるからのぅ……」
一日も早く直しておかないと「麻帆良祭で壊れた場所」だと、麻帆良学園都市の評判が悪くなるという理由だったりするのは、ここだけの話である。
本当ならば鈴音が密かに利用していた地下施設も早く片付けなければならないのだが、人目につく場所ではないため、しばらく後回しにされるだろうという事だった。
「今日の分終わりーーーっ!!」
アスナがあやかに出された課題を終わらせたのは、もう皆が夕食を食べ始めていた頃だった。
「あなたが最後ですわよ、アスナさん」
「うん、お腹すいた。今日の晩御飯何?」
「中華です」
試験期間中は、鈴音が一人で料理してくれている。自身の試験勉強は適当でいいとの事だ。
炒飯をかきこみながら、アスナはふと疑問に思った。
「そういえば鈴音さんって、横島さんと美神さんの子供なのよね?」
「そうらしいですわね」
「……なんで中華なんだろう?」
「……さぁ?」
アスナとあやか、二人揃って首を傾げる。
「ずっと日本に住んでた訳じゃないからネ?」
隣のテーブルの鈴音がツッコんできた。
確かに日本で生まれ育ったが、魔族に覚醒してからは何度か引っ越しをして転々としていたらしい。
「事故直前は火星に住んでたネ」
「火星!?」
「い、今の火星に出なくて良かったですわね……」
「危機一髪だったネ……」
流石に今の火星に放り出されるのは、鈴音も勘弁して欲しいようだ。
普段ならば霊力供給の修業を……と言うところだが、そちらも試験期間中は控えている。
その代わりといってはなんだが、ヒーリングによる肩こりの解消が皆にも評判だ。
横島としては中途半端で煩悩が有り余る事になってしまうが、そこは自重している。
なお、後でこっそり茶々丸が部屋に呼び、溢れんばかりの霊力を回収していたりするのは秘密である。茶々丸は、ねじ巻きが日課だから仕方がない。
そして夕食後、アスナが再び勉強を始めて唸っていると、ここぞとばかりにエヴァが口を挟んできた。
「ククク、赤点を取ったら大変だなぁ。私の妙神山行きの件があるから、東京行きの予定は揺らがんぞ?」
彼女の言う通り、赤点を取ってしまったら、夏休みは麻帆良で留守番になってしまうだろう。
その言葉にピクリと反応したのは古菲、夕映、楓、まき絵の四人。アスナと合わせてバカレンジャーである。
実はレーベンスシュルト城暮らしのアスナ、古菲、夕映の三人は、これでも最近は成績が上がってきていたりする。そのため楓とまき絵の方が、エヴァの言葉が効いていた。
かくいうエヴァも赤点ギリギリの成績だったりするが、これはどちらかというとあえてその程度の成績を取っているらしい。実際赤点を取ってしまった事は無いそうだ。
「……そういえばネギのぼうやなんだが」
「ネギ先生がどうしましたの?」
「あいつ英語担当だが、英語で赤点取るヤツがいたら、夏休みに補習授業をせんといかんのか?」
「ど、どうなんでしょう……?」
確認してみたところ、流石に補習まではさせないようだ。学園長としても、魔法界に行って学ぶ機会は逃してほしくないのだろう。
なお補習授業が必要になれば、別の先生が担当してくれる事になっているらしい。
もっとも、そんな事は現時点で分かるはずもない。しかし、ネギ大好きのまき絵と、赤点を取ってしまってはネギに合わせる顔が無い楓の、やる気が上がったので問題は無いだろう。
とにかく、赤点は回避。それを合言葉に試験勉強に励む少女達。
レーベンスシュルト城が、勉強する環境としてとても良いという事もあって、彼女達は日々手応えを感じていた。
「で、横島さんは大丈夫なの?」
「人生初のレベルで勉強してるから多分大丈夫だ」
それは横島にも影響を及ぼし、彼が東京にいた頃よりも良い成績を取る事になるのは、もう少し先の話である。
つづく
あとがき
『GS美神!!極楽大作戦』の面々、『絶対可憐チルドレン』の面々に関する各種設定。
超鈴音に関する各種設定。
レーベンスシュルト城に関する各種設定。
関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
魔法界に関する各種設定。
各登場人物に関する各種設定。
アーティファクトに関する各種設定。
これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、『絶対可憐チルドレン』クロスオーバー、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。
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