「……仕留めたか」
エヴァがフェイトの魂を完全に消滅させた後に姿を現したのは学園長・近衛近右衛門だった。
彼もまたフェイトの魂が逃げ伸びていた事に気付いていたが、彼女に先を越されてしまったのだ。
「遅かったじゃないか……まぁ、早い者勝ちだ。私もこいつには恨みがあったのでな」
繰り返すが、ジェットコースターに乗れなかった恨みである。
近右衛門はスルーして大木の根元に目をやる。その場所にはもう、彼が存在した事を示す痕跡も残っていなかった。
彼にとっても因縁のある相手だったが、こうなってしまっては仕方がない。
「あの馬鹿者めが……こんなになってまで、一体何を……!」
「……分からんか?」
「お主には分かるというのか?」
「分からんでもない……理解はできんがな」
そう呟く彼女の脳裏に浮かんでいたのは、かつて世界を震撼させた一件だった。
アシュタロス、自らの知識と技術を武器に神々に戦いを挑んだ魔王。
『究極の魔体』モドキを作り、コスモプロセッサを再現しようとしたフェイト。彼の一連の行動は、そのアシュタロスを模倣しようとしていた形跡がある。
鈴音の正体を知っていた可能性は低いので偶然だろうが、彼はアシュタロスの娘・ルシオラの生まれ変わりも味方に引き入れていた。
思うにフェイトは、神々をあと一歩というところまで追い詰めたその戦いぶりに、今の精霊の力を借りたものではなく悪魔の力を借りたかつての魔法。その究極の姿を見たのではないだろうか。
「それそのものが目的だったと?」
「無論、コスモプロセッサ化した後、叶える願いも考えていただろうさ。それこそ、世界樹では足りないような事を、いくつもな」
その言葉を聞き、近右衛門は黙り込んだ。
納得できる。彼は才能に溢れた優秀な弟子だった。優れた魔法使いであり、また研究者であった。そう、禁呪を蘇らせてしまうほどの。
その素質が、歪みに歪んだ結果がこれだというのか。そう思い至った近右衛門は、ガクリと膝を突いた。
見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.199
一方、世界樹前広場は後夜祭で盛り上がっていた。
立食パーティーが用意されていたが、それだけで足りるはずもなく、芝生の上にシートを敷いて盛り上がってる姿がいくつも見える。その様はまるで混雑した花見会場のようだ。
それがあまりにも広範囲に渡っているため、世界樹の光だけでは足りずに大きなキャンプファイヤーがいくつも設置されていた。
そんな中、美智恵に捕まった鈴音は、事情聴取混じりの話に明け暮れていた。祖母と孫娘の会話といかないあたり、美智恵も仕事人間である。
真名とハカセも加えてフェイトに関する話もしていたため、令子だけでなく西条もそちらに参加していた。
なお同じ超一味である五月は、その辺りの事情は知らないという事で今も『超包子』で頑張っている。
ザジがチャイナドレス姿でウェイトレスをしているが、それだけでは手が足りない。
そこで料理に茶々丸、ウェイトレスに古菲、そしてザジが配達に移り、更に楓が助っ人に加わっていた。
今も岡持ちを持ったザジと楓が夜空を飛び回っている。なお楓は五人ほど見える。分身の術も駆使しているようだ。
ひのめはそのままおキヌが預かっているのだが、治療班として大忙しだった彼女はお疲れだ。まずシロが合流したが、彼女だけではおキヌも不安が拭えない。
それを察した千鶴が夏美を連れて合流。千鶴がひのめを預かって、おキヌはようやく休憩が取れるようになっていた。
なお、千鶴が赤ん坊を抱く姿が、妙に似合っている事については触れてはいけない。
ちなみに千草もおキヌ達を心配して合流していたが、こちらは出遅れしまったようだ。
何故か千鶴に対抗意識を燃やし、一緒に連れてきていた月詠を抱き寄せては迷惑がられていたりする。
「ほほう、今時の科学技術もなかなかじゃの〜」
Dr.カオスは最先端のアニマトロニクスを駆使したパレードに興味津々な様子で、マリアとテレサを連れて見物しに行った。
あれはすごい、これもすごいと大喜びだが、その内の何人かは魔法界からの援軍で自前の姿である事には気付いていない様子。
マリアとテレサはセンサーのおかげで気付いていたが、こちらはこちらでスルーしてパレードを楽しんでいた。
風香と史伽、美空とココネ、そして木乃香、刹那は出店巡りに出掛けている。こちらは最後まで麻帆良祭を目一杯楽しもうというチームである。
この一行にアーニャ、コレット、夕映の三人がついて行ったようだ。
夜の人混みに子供達だけでは危ないと保護者役を買って出てくれたのは魔鈴。アーニャにとって彼女は憧れの魔法使い、大喜びだったのは言うまでもない。
「私達、休んでいていいのかしら?」
「魔法生徒は、できるだけ休むようにと言われてますし」
その一方でそわそわしているのは高音と愛衣。今頃魔法先生達は後始末に大忙しなので、自分達が休んでいいのかと考えているのだ。
そのため二人は、いつ呼び出されても良いようにと他の面々とは別行動で後夜祭を楽しんでいた。高音、真面目である。
「まぁ、休んでからじゃないと応援にも行けないわね。食べましょうか、愛衣」
「はいっ!」
そう言って食事を始めた二人だったが、魔法先生側にしてみれば前線で戦っていた者達にはしっかり休んでもらわねば申し訳が立たない。
魔法先生達の頑張りもあって、結局その後も高音達が応援に呼び出される事も無かった。
ネギは自分のパーティの面々でシートを一枚使っていた。
3−Aの中からはパーティの一員であるのどか、ハルナ、亜子、まき絵に加え、あやか、美砂、円、桜子が加わっている。
「フッ、お前達とは気が合いそうだ」
「ああ、俺達もそう思っていたよ」
意外なところで雪之丞、陰念、タイガーもここに加わっていたりする。豪徳寺達と話が合ったようだ。
「ちょっ、エミさん! 皆のところに……!」
「何言ってんの! もっと祭りを楽しむワケ!」
そしてピートは、エミに拉致されていった。
そして今回、司会として大活躍だった和美はというと……。
「横島さ〜ん、というか薫ちゃ〜ん」
「ん、なんだ?」
カメラを手に、さよとチャチャゼロを連れて横島達が集まっているシートにやって来ていた。
こちらはアスナはもちろんのこと、薫、澪、葵、紫穂、そして千雨が横島の周りに集まっている。
そこにイベントでの撃墜数ランキング4位の賞状を高々と掲げながら戻ってきた裕奈とアキラが加わっていた。
「いや〜、悪いんだけどさ、念動能力(サイコキネシス)で、私をあの石の上に登らせてくれない?」
そんな所に現れた和美は、薫の力を貸して欲しいと頼んできた。彼女が指差す方を見ると、さほど離れてない丘の上に、立方体の石柱が何本か立っている。
その石柱の上から、世界樹をバックにして後夜祭の光景を撮影したいそうだ。
「いや、脚立用意してたんだけどさ、この人混みだと持ってこれなくて……」
「ああ、そりゃ無理だな。いいぞ、なんだったら空から撮るか?」
「それはドローン班がやってるから大丈夫」
「そんなのまでいるのかよ、麻帆良の新聞部……」
色々な意味でプロ顔負けである。
それはともかく、石柱の上に登った和美は十枚ほど写真を撮ると、また薫に下ろしてもらい、次の撮影予定場所へと向かっていった。
その頃になると横島達のところに『超包子』からの出前が届いており、少し早めの夕食が始まった。
「うまっ! これ、中学生が作ってるってマジかよ!?」
「間違いなく手作りだわ。ホント、プロ顔負けね……」
『超包子』の料理は、初めて食べる薫達にも好評だ。
「しかもこの値段て……」
なお葵は値段にも注目して、レシートを持つ手をぷるぷる震わせていた。
「お兄ちゃん、あ〜ん……」
「あ〜ん……うん、美味い。澪はどれがいい?」
「……唐揚げ」
「よしきた! ほら、あ〜ん」
「あ、あ〜ん……」
そんな三人をよそに、澪は久しぶりに会った兄に甘えていた。
「横島さん! 私も! 私も!」
「あ、私も〜♪」
それに対抗意識を燃やすのがアスナであり、裕奈もノってくる。
それを見てアキラはくすくす笑い、その隣で千雨が呆れていた。
「あ、ズルいぞ澪!」
「それじゃ、私が……」
薫も参戦しようとしたが、こちらは子供好きのアキラがお世話を買って出た。
長身でスタイルが良いアキラなので、薫もおとなしくお世話されている。
「横島くぅ〜〜〜ん」
そこに子犬のように駆け寄ってきたのは冥子。令子と美智恵が忙しいため、いつの間にか付き添いになっていたタマモも一緒である。
ちなみにタマモは、どこかの出店で買ってきたいなり寿司を持ってきており、先程まで横島に甘えていた澪は、そちらに行ってしまった。そのためアスナと裕奈で横島の両隣に座る形になる。
「私〜、お母さまから〜、横島君に〜、これを渡すように頼まれてたの〜」
そのまま横島の向かいにちょこんと座った冥子は、カバンから大きな封筒を取り出して渡してくる。
中を見てみると、そこにはある建物に関する何枚もの資料が入っていた。
「横島さん、それ何ですか?」
隣のアスナが覗き込んで尋ねてくる。横島も初めて見る建物だったが、それが何であるかは分かっていた。
「これは……俺の新しい自宅兼事務所だ」
そう、それは麻帆良に来ている間に改築していた横島の自宅兼事務所の資料であった。
横島は元々ある仕事で報酬として受け取った家を自宅兼事務所として使っていたのだが、それがある事件に巻き込まれた際に半壊してしまっていた。
実は麻帆良に長期出張の話も、改築中に持ち込まれたから受けたという背景があったりする。
冥子がこの資料を持ってきたのは、その間のタマモ達の仮の住居を用意してくれたのも、改築についてのあれこれを手配してくれたのも、冥子の母・六道夫人だからである。
世話になり過ぎという気もするが、改築となると小竜姫謹製の結界を移す事も考えなければならないため、横島だけではどうにもならなかったという事情があった。
なおタマモ達は現在、以前お世話になった事がある六道邸の離れに間借りしていたりする。ハニワ兵達の存在、マリアとテレサの充電に掛かる電気代などを考えると、こちらも選択の余地が無かった。タマモが冥子の付き添いになっているのも、その辺りに理由があった。
資料に印刷されているのは、完成予想図などではなく写真。横島の家はほとんど完成していた。後は夏休みまでに仕上げるそうだ。
「へぇ〜、横島さんの家って何階なんですか?」
「いや、これ全部」
「……えっ?」
「これ全部」
その資料の載っていた写真は、三階建てのビル。写真では分からないが、更に地下一階もある。カオス式地脈発電機は、地下に移設されたそうだ。
敷地の大部分をビルにした事もあって、縦よりも横幅の大きさの方が印象に残る。庭は無くなってしまったが、代わりに屋上ガーデンができていた。
地下はカオスの研究所と倉庫、一階が事務所と車庫、そして二・三階が自宅となっている。まだ車は持っていないが、いずれ必要になるという事で車庫も用意された。
「うっわ〜、いつもとは違う意味で、兄ちゃんの事凄いって思ったかも」
個人の家というには大きいそれを見て、裕奈が驚きの声を上げた。
資料には内装の写真も入っており、中まではまだ見た事が無い薫達も加わって盛り上がっている。
「ところで忠夫はん。トレーニングルームはどうなったんや? 三階の半分がそうなる言うてなかった?」
「ああ、それは変わったんだ。トレーニングルームは別に用意する事になった」
「へ〜」
実は横島、自分の家の事なのだから当然の話なのだが、この件については定期的に六道夫人と連絡を取っている。
元々この改築は、六女の生徒達が集まって修業をする際に、外から見られないトレーニング場所を作るという目的があった。
しかし横島は、五月にエヴァの別荘、魔法の水晶球の存在を知ってしまったのだ。
そして彼は考えた。情報公開に先駆けてこれを手に入れ、トレーニング場所として設置できないだろうかと。
この件は密かにエヴァに相談したのだが、彼女は魔法の水晶珠を魔法使い以外に譲っていいか判断ができなかった。
そこでエヴァから学園長、更に横島を通じて六道夫人にも話が行ったのだが、意外にもこれが盛り上がってしまった。
そもそも民間GSたちにとって、トレーニングをする場所というのは慢性的な悩みの種なのだ。
身体を鍛えるぐらいならばジムなどがあるが、霊能力も含めると妙神山ほどではないにせよ専門の場所に行く必要があった。
六道夫人は、魔法の水晶球がその解決策になると考えたのだ。無論、安い買い物ではないが、身も蓋もない無い話をしてしまえば「精霊石ほどではないし、最高級の破魔札ほどでもない」。
学園長とも話をした六道夫人は、道場一つ程度のサイズならば中堅以上のGSには手が届くと判断した。
学園長の方も、情報公開に向けて何か魔法使い側の強みが欲しいと考えていたところにこの話が降ってわいてきていたため、これはいけると判断したようだ。
という訳で、まずはテストとして横島の事務所に設置し、六女の生徒達に体験してもらおうという事になった。六道夫人が工事を急がせたのも、この辺りに理由があった。
夫人曰く「令子ちゃんが〜、妙神山を直した時と比べたら〜大した事無いわ〜」との事。
「それじゃ、夏休みに東京に行く時はこの家に?」
「そうなるな。七月の末あたりになるだろうけど」
横島の答えを聞いたアキラは、改めて資料に目を向ける。嬉しいのか、小さく微笑んだ彼女の頬は微かに紅潮していた。
「よ、横島さんの家に、一ヶ月お泊り……!?」
「おっ、姉ちゃんエロい事考えてるな?」
「心を読むまでもないわね」
夏休みに思いを馳せて盛り上がる面々。
その騒ぎを、どこか冷めた目で見つめている少女が一人。千雨だ。
彼女は大きくため息をつき、そして妄想を迸らせるアスナに向かって、言葉の寸鉄を突き付ける。
「……期末で赤点取ったら行けないからな」
その一言でアスナの動きがピタリと止まった。
「キ……マツ……?」
「期末テストだよ、期末テスト」
そう、麻帆良祭は終わり、平穏な日常が戻ってくる。
楽しい楽しい夏休みの前には、期末テストが立ち塞がっているのである。
つづく
あとがき
『GS美神!!極楽大作戦』の面々、『絶対可憐チルドレン』の面々に関する各種設定。
超鈴音、フェイト・アーウェルンクス、リョウメンスクナに関する各種設定。
レーベンスシュルト城に関する各種設定。
関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
魔法界に関する各種設定。
各登場人物に関する各種設定。
アーティファクトに関する各種設定。
これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、『絶対可憐チルドレン』クロスオーバー、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。
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