横島が妙神山から戻ってきてから数日。彼は朝から空港に向かっていた。今日来日するコレットを迎えにきたのだ。
「というか、普通に飛行機で来るのか?」
「魔法界とつながるゲートは限られてるからね」
そう答えたのはアーニャ。彼女は魔鈴めぐみが自力で異界へのゲートを開いている事をまだ知らない。
他に同行しているのはタマモと澪、そして刀子。今日ワゴン車を借りて、刀子の運転でここまで来ている。
ちなみにアスナ達は家で受験勉強中、愛子達は歓迎パーティの準備中である。
搭乗ゲートに現れたコレットは、魔法で耳としっぽを隠していて人間の少女のように見えた。服もアリアドネー魔法騎士団候補生の制服ではなく、町を歩いていても違和感の無いものになっている。
「横島さぁ〜ん!」
横島の姿を確認した彼女は、何故か泣きつくように飛びついてきた。
何事かと思った横島だったが、それは彼女の後に姿を現した面々を見て判明する。
そこに並んでいたのはメガロメセンブリアのリカード元老院議員、ヘラス帝国のテオドラ第三皇女、アリアドネー魔法騎士団のセラス総長といった魔法界の重鎮達。
飛行機の中で一緒だったコレットは、彼等に気圧されてしまったようだ。
「なんでまた一緒に?」
「丁度セラス総長も同じタイミングで日本に行く事になって……」
セラス総長に詳しく話を聞いてみると、第二回のGS協会との会談があるとの事。
今回はそれぞれ情報公開後に取引できそうなマジックアイテムなどの資料を持ってきたそうだ。魔法の水晶球に続く商品を探すつもりなのだろう。
三人の方は、GS協会から迎えが来ていたので空港で別れる事になった。
そして横島達はコレットを連れてワゴンに乗り、帰路に着く。
三人の重鎮達と別れた車の中で、コレットは緊張を解く。魔法も解いて耳としっぽを出すのだが……。
「……ウサギになれるの?」
「ゴメンね〜、そこまではなれないんだよ〜」
それを見た澪が、彼女を妖怪扱いしたのはご愛敬である。
見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.207
横島の家に到着すると、盛大な歓迎がコレットを待っていた。アスナ達に愛子達、そして冥子におキヌ達に薫達と勢揃いである。
「モノホンのウサミミ! 触っていい!? 麻帆良では触るヒマ無かったんだ!!」
「て、手付きがいやらしいから、ちょっと……」
「初っ端からアホなことすな!」
真っ先に鼻息荒く詰め寄ったのは薫。すかさず葵がツッコミを入れる。
「横島さんって、お兄さんっぽいな〜って思ってましたけど……たくさん妹さんがいたからなんですね」
苦笑しながらそう言うコレット。車内でアーニャから千草と月詠が不在である事を聞いてガッカリした様子だったが、それも吹き飛んでしまう勢いだった。
時間は丁度昼食時。この人数で一緒に食事となると、水晶球内の宿泊施設前の広場でバーベキューをするか、中にある宴会場を使わねばならない。
今日は歓迎パーティーという事で、バーベキューとなっていた。人数が人数なので、手間の問題もあったようだ。こればかりは仕方がない。今はマリアとテレサがオーバーホール中で手伝えないのだから。
昼食が始まると、皆思い思いに楽しみ始める。
コレットはアスナ達以外は初対面だったので戸惑っていたが、魔法界に興味がある六女の生徒達から積極的に話し掛けていた。
少女達の楽しそうな声に包まれた広場。賑やかなこの場所には、今3つのグループが存在している。
まず一つは『麻帆良組』。アスナ、鈴音、古菲、夕映、裕奈、アキラ、千雨、千鶴、夏美、風香、史伽、木乃香、刹那、さよ、高音、愛衣、アーニャ、刀子だ。今日来日したコレットも、ここに加えていいだろう。
ほとんどが受験生なので、一緒に夏休みを満喫という訳にはいかないが、その辺りはコレットも理解を示してくれた。彼女もまたアリアドネー魔法騎士団の候補生として苦労している身だったからだ。
もう一つはタマモ、澪、愛子、小鳩、マリア、テレサ、カオスの横島除霊事務所の面々『事務所組』だ。
今はここに冥子も加わっているが、これは横島が麻帆良に行っている間彼女の除霊を手伝っていたつながりである。六道邸の別邸に居候していた縁で頼まれたのだ。
当初タマモは面倒臭がっていたが、マリアが面倒見の良さを発揮。結局タマモも逃げられず、暴走しそうになったら幻影も駆使して宥めるなど、冥子をサポートした。
その結果、冥子の除霊成功率が上がってますます逃げられなくなったのは秘密だ。
冥子はタマモとマリアにも懐き、よく横島の家にも出入りするようになっていた。
この件について、どこまで六道夫人の思惑が絡んでいるかは謎である。
最後の一つは薫、葵、紫穂の『B.A.B.E.L.』組だ。澪も合わせて横島妹組と言い換えてもいいかもしれない。
もっとも、若干約二名が否定するかもしれないが。葵は恥ずかしがりながら、そして紫穂は妖しい笑みを浮かべながら。
それはともかく、このグループは麻帆良組からも事務所組からも妹のように可愛がられていた。
流石にセクハラしてくる薫は人を選ぶが、素直な良い子の葵や澪は皆から愛されている。紫穂も妹扱いではあるが、どこかタマモのように一目置かれているといったところか。
さて、この3つのグループが夏休みの間横島の家で過ごす事になる訳だが、その上でひとつ大きな問題がある。
広場に集まる面々の話題は、いつしかその問題に関するものになていた。
それが何であるかは、ここ数日一緒に過ごしている彼女達は分かっている。
アスナ達の受験勉強? いや、それは問題にはならない。後輩になるかもしれない者達に六女の生徒達は協力的であったし、かおりなどは時間が許す限り家庭教師役を買って出ていた。寮生よりも時間の融通が利き、魔理よりはよっぽど教え甲斐があるとの事だ。
彼女達はお互いの事を話し、交流を深めていく。その過程で気付いたのだ。
「そ、そ、そんな事までやってるの!?」
「そうなんですよ〜、横島さんは優しくしてくれて……♥」
「えろえろーっ!?」
「何を言うですか。れっきとした修業です」
そう、アスナ達が毎晩行っているという霊力供給の修業である。
先日の霊力の偏りを突く修行法に感心したばかりの六女の面々だったが、横島忠夫という男は、それだけでは終わらなかった。
この件、横島としてはあまり知られたくない話だが、この家で修業させている以上、避けて通る事はできない。
そのためアスナ達の話を止める事はできず、いたたまれなくなった彼は、判断はそれぞれに任せると言ってその場を離れてしまった。
今は澪を膝に乗せ、隣に座った冥子と一緒に和み、無心になろうとしている。傍目には微笑ましい光景である。
なお、一番興味津々だったのは薫だったが、この霊力供給の修業は、横島の方がマイト数が多くなければ負荷が掛けられないという制限がある。
そして薫達はレベル7の超能力者。横島でも負荷を掛ける事はできなかった。
ちなみに冥子も、同じような理由でこの修業を受ける事ができない。式神・十二神将を使役するという事は、それだけの力が必要という事なのだろう。
「くぅ〜! 兄ちゃんとめくるめく官能の日々を過ごすチャンスだったのに〜〜〜!!」
「いや、アカンやろ、それ」
すかさずツッコむ葵。こちらは恥ずかしさから、受けられなくて良かったと考えていたりする。
「むしろ、その修業内容にケチつける人がいない事が驚きよね」
真剣に語り合う麻帆良組と六女組を眺めながら、紫穂は呟いた。
かくいう彼女もこの修業を受けられない一人だが、こちらは薫と違って余裕がある。
「一緒に解呪」や「心を読みながらの言葉責め」という、他の者には真似できないものを持っているからかもしれない。
それはともかく、彼女の言う通り誰も修業内容そのものは否定していない。
悔しがっている薫はともかく、六女の面々は全員その修業を受ける事ができる。
ただ、内容が内容だけに受けていいのかどうかという問題があった。
修業自体は霊力を通しやすい修行用の霊衣を用いる本格的なものだ。まだ全員ではないが、実際に効果が出ている事は確かである。
とはいえ彼女達もお年頃の女の子、言いたい事は色々ある。特に最近は乱れるのが前提で、ベッドの上で修業しているというのは、なんの冗談かと思った事だろう。
しかし、それを語るアスナ達の表情から、それが冗談でない事は伝わってきた。六女組も理解した。楽しそうに、幸せそうに語る彼女達は、望んでその修業を受けているのだと。
そして、GSの卵である彼女達は分かってしまった。マイトそのものを鍛えられる修業にどれだけの価値があるのかを。
マイト数は、生まれ持った資質。マイト数を上げようとするならば、長く厳しい修業を経て自らの殻を破る必要がある。これまでの常識では、それが当然だった。
例外があるとすれば、令子が妙神山で受けた小竜姫の修業。あれはデッド・オア・アライブでこの荒行を一日で済ますというものである。
対して横島の霊力供給の修業は、方向性が大きく異なる。たとえるならば、時間を掛けてゆっくりと殻を壊さず拡張するといったところだろうか。
どちらかというと横島が受けた猿神(ハヌマン)の修業――強大な力で負荷を掛け続け、一時的にマイト数を上げて殻を破りやすくするもの――の影響が感じられる。
「まだまだ研究中ですけどね。受けるなら、そこは承知の上で受けてほしいです」
そう夕映が注意するが、それを踏まえても受けるだけの価値があると思えた。
実際、アスナ達は真剣に修業している。魔法使い関連の騒動に巻き込まれ必要に迫られたというのもあるのだろうが、それを抜きにしても真面目にGSを目指している事が六女の面々にも感じ取れた。
同時に、それだけでない事も分かってしまった。アスナ達は、霊力供給の修業を楽しんでいる。薫はオープン過ぎるが、多かれ少なかれアスナ達も同じような事を考えているのだ。
「……本音と建て前、両方クリアできるから厄介なのよ」
ポツリとそう零したのは、どこか遠い目をした高音。それは、この修業の厄介さを端的に表していた。
横島の超人的技術によるところが大きいが、命の危険もなくマイト数を上げる修業ができる。しかもそれはアスナ達を夢中にさせてしまうほどの楽しい修業だというのだ。
これはハッキリと言っておいしい。詐欺を疑うレベルだが、事実なのが余計に質が悪い。
たとえるならば「はっ!? こ、この図式は……!? しまった……!? 罠だっ!!! この道を一歩進んだら最後、退路を完全に断たれてしまう!! ああっ、しかし!! エサはうまそうだっ!!」である。
かつて横島を苦しめた状況。今は彼自身が罠になっているのは、ある意味成長したといえるのだろうか。
実際、類稀な効果がある事が彼女達を悩ませる。少女達は今、決断を迫られていた。
「えっと、私はちょっと……」
「流石にこれは、なぁ……」
真っ先に離脱を宣言したのは、かおりと魔理。この二人は雪之丞とタイガーがいるので当然の判断である。
他の面々も彼氏がいればこれに続いたのだろうが、声を上げる者はいない。そもそも彼氏がいれば、毎日のようにこの家での修行に参加していないだろう。
次に、皆の視線は一人の少女に集まった。
「えっ? わ、私、ですか?」
おキヌである。
彼女が六女に来る以前から横島に想いを寄せていた事は周知の通りだ。そのためおキヌの友人である六女組としては、まず彼女がどう判断するかを知りたかった。
急に注目されて戸惑うおキヌ。というのも彼女は、今まで話についていけなくて、黙って聞きに徹していたのだ。それが舞台の上に引きずり出されてしまった。
「え、え〜っと……」
彼女が今考えていたのは「令子に相談したいが、相談できる内容ではない! どうしよう!?」である。
正直に言えば、横島に霊力供給されるのは問題無い。蕩けさせられるのもドンと来い。むしろ望むところだ。歓迎ですらある。
しかし、皆一緒にというのは躊躇する。流石に見られながらは恥ずかしい。横島に見られるのは良いのかという問題もあるが、そこは複雑な乙女心である。
横島にしてみれば二人きりでは理性が危険なので、当然の処理ではあるのだが。
実際、茶々丸に供給する時はすごい事になっていた。
「わ、私……やりますっ!」
だが、彼女は決断した。
「その、なんというか……私、出遅れて後悔しちゃった経験があるんですよ。だから、それを繰り返したくはないなって……」
おキヌの脳裏にあったのは、ルシオラの一件だった。他の者達も真剣な顔でその話に聞き入る。
「だから踏み込むのを恐れちゃダメだと思うんです。ここは思い切って抱いてとか……自由にしてとか……メチャクチャにしてとか……!!」
「ストップ! ストップ! ストーップ!!」
顔を真っ赤にしたおキヌを、葵が飛び込んできて止めた。思い詰めている彼女は、自分でも何を口走っているのか分かっていないかもしれない。
「こっちは比較的まともなヤツらだと思ってたら、これかよ!?」
この状況に、千雨も思わずツッコむ。
「い、今の氷室さんと同列に扱われるのは不本意ですわっ!!」
それにはかおりが思わず言い返した。
「ちょっと千雨、先輩達に失礼でしょ! それに私達のどこがまともじゃないっていうのよ!?」
「お前が筆頭だよ、神楽坂っ!!」
「いや、流石に薫ちゃんには勝てな……勝ってるのかしら? この人」
こうなると少女達は収まらない。
「そ、そうよね! 氷室さんに比べたら横島さんは紳士だし! 私も参加するわ!!」
「そこで私を引き合いに出すんですかぁ!?」
「いや、今のは流石にヒドかったわよ。あ、私も参加で。あれほどじゃないって思ったら安心できた」
「私も」
「私も〜」
ともかく安心できたようで、口々に参加を表明する六女組。
おキヌとしては出汁にされていささか不本意であるが、最終的にかおりと魔理以外の全員が参加する事となった。
そんな彼女達の様子をこっそり窺っていた横島。
霊力供給の修業の最大の問題は、彼の理性が耐えられるかどうかである。
彼女達は信用したようだが、彼は「この世に自分ほど信用できないものはない」とシャウトした事がある。
「俺は……耐えられるんだろうか……?」
この先訪れるであろう幸福な試練を予感し、横島は遠い目をするのだった。
つづく
あとがき
『GS美神!!極楽大作戦』の面々、『絶対可憐チルドレン』の面々に関する各種設定。
超鈴音・茶々丸に関する各種設定。
魔法のに関する各種設定。
関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
魔法界に関する各種設定。
各登場人物に関する各種設定。
アーティファクトに関する各種設定。
これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、『絶対可憐チルドレン』クロスオーバー、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。
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