topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.208
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「いいなー! いいなー!」
 心底うらやましそうな声を上げ、寝転がって手足をじたばたさせているのは薫。今日はスカートだったのでパンツが丸見えだが、それを見せたいであろう横島は、残念ながら今はいない。
 彼は夕食を終えると、アスナ達麻帆良組と、おキヌ達六女組を連れて魔法の水晶球に入っていった。件の霊力供給の修業をするために。
 薫も見学したいとついて行こうとしたが、流石に止められてしまった。
「『まだ早い』って、ココネもアーニャもやってるんだからいーじゃん!」
「いや、まぁ、そうかもしれんけど、やっぱ部外者が見るもんやないと思うで?」
 そうたしなめる葵も、そわそわしている。気になってはいるようだ。
「そうだ! ここは紫穂が調べて詳細な実況解説を……!!」
「やらないからね」
 これぞ天啓と言わんばかりに勢いよく立ち上がる薫だったが、紫穂はそれをピシャリと止めてしまった。
 紫穂は除霊の仕事などで横島に求められない限り、この家では力は使わないようにしているので、当然の反応である。
「というか、そっとしておいてあげなさい。今は向こうのテリトリーよ」
「そうは言ってもさ〜」
「お風呂と寝る時は、私達のテリトリーじゃない」
「……まぁ、そうなんだけど」
 流石のアスナ達も、入浴時と就寝時は横島と別々だった。対して薫達はどちらも一緒なのだ。
 薫は気付いていなかったが、彼女が霊力供給の修業をしてもらえるアスナ達を羨んでいるように、薫達もまた羨まれる立場なのである。
 実際今日も修業が終われば一緒に入浴するし、その後は一緒に寝る事になるだろう。
 その事を思い出した薫は、見学もさせてもらえない事についてはひとまず納得したようだ。

 しかし、ここで葵がある事に気付いた。
「ちょい待ち、その修業終わった後の兄ちゃん……煩悩全開状態ちゃうん?」
「かもね」
 対する紫穂はしれっと返した。
 その状態の横島と一緒に入浴。その事に思いを馳せた薫は思わず顔をにやけさせ、葵は耳まで真っ赤にして俯き、そして紫穂は不敵な笑みを浮かべた。
「薫達、どうしたの?」
「放っときなさい」
 そんな三人の姿を、澪とタマモが見ていた。澪は理解できなかったようで首を傾げながら。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.208


 一方六女組はというと、夕食の間から微妙な空気が漂っていた。皆言葉数は少なく、緊張している。
 かおりと魔理は夕食後帰る事になっているが、こちらも居心地の悪さを感じていたようだ。この後友人達は、横島の霊力供給の修業を受ける。それは彼女達にとって、それだけ大きな事なのである。
 なお二人が「皆、一足先にオトナの階段を上るのね……」などと考えていたかどうかは定かではない。

 夕食後、横島は麻帆良組と六女組を連れて魔法の水晶球に入る。
 麻帆良組はいつものメンバーだ。アスナ、古菲、夕映、裕奈、アキラ、千雨、千鶴、夏美、風香、史伽、木乃香、刹那、高音、愛衣、アーニャ、コレット。そして刀子を加えた十七人である。
 鈴音のマイトは魔族並みであるため、彼女も霊力供給の修業が効かない。同じく修業できないさよと一緒に薫達と遊んでいるとの事だ。
「あ、あの、先生も受けるんですか?」
「そうよ。良い修業だからね」
 おキヌの問い掛けに胸を張って答える刀子。しかし視線を逸らしているあたり、やましく思っている部分はあるのかもしれない。よく見ると頬も紅くなっていた。
 対する六女組は、まずはおキヌ。かおりと魔理が帰ってしまったため、B組からは彼女一人だ。

 A組からは一年生でGS資格を取得した早生成里乃(ハヤセ ナリノ)。民間GSを母に持つ彼女は、業界では横島の一番弟子扱いされていて、さり気にアスナ達のライバルポジションにいたりする。
 霊力増強の仮面使い、いつも眠そうな天城美菜(アマギ ミナ)。彼女は父親がGS協会の事務員で、横島は彼の方とも知り合いである。
 そして香月姫(コウヅキ ヒメ)は愛らしいルックスの割には目立たない子であった。本人も気にしているので、その点についてはそっとしておこう。

 続けてD組からは、キョンシー使い・張霞(チャン シア)。横島から霊木剣をもらって以来、彼を慕っている。
 オールマイティな神通棍使いだが何故か目立たない、「ジミー」こと舞浜静美(マイハマ シズミ)。
 そして非武装結界の使い手である薬師堂有喜(ヤクシドウ ユキ)。D組トリオの参謀的存在であり、六女組屈指のお嬢様であると同時に常識人でもある。

 最後にG組からは相手をコントロールする「霊力の触角」を使う逢大和(ユタカ ヤマト)。かおりのライバルであり、六女組の中でもトップクラスの実力者だ。
 「雷獣変化」の使い手であるメリー・ホーネットは留学生……ではない。両親は東京在住である。女子高生としては大柄な彼女。悪霊が目の前に現れても平気だが、怪談は怖いというへたれな一面を持っていたりする。
 そしてトリを飾るのは、「外国旅行に行った事が無い」神野(こんの)むさしだ。精神攻撃が得意なのに、まず本人の精神が弱い。
 彼女も巫女装束の霊衣を使っており、おキヌと被っている事を密かに気にして、ライバル視していたりする。

 六女組からは、この十人が参加する。
 霊力供給の修業は、こちらでも水晶球の中で行われている。これは声が外にもれないというのが大きな理由だ。いざという時は時間の流れを調整できるというのもある。
 水晶球に入った六女組は、まずアスナ達と一緒に修業用の霊衣に着替える事になった。
 素人目にはただの薄手の衣だが、GSのタマゴである少女達は、それがしっかりした霊衣である事が見て取れた。
「霊力を通すこれが無いと、霊力供給してもらう部分をはだけないといけなくなるです」
 薄手である事に有喜が戸惑っていると、夕映がそう説明してくれた。
 アスナ達は楽し気な雰囲気で着替えているが、その霊衣を見れば、楽しいだけではない本格的な修業である事が窺える。
 おキヌを筆頭に成里乃、大和は平然とした顔で着替えている。水垢離の時に同じようなものを着るため、それに馴染みがあるかどうかが影響しているようだ。
 例外は、おキヌと同じ巫女であるむさし。彼女も実家では修業で水垢離をしているので、薄手の霊衣とも縁がある。あるだけに彼女は、横島の前でその恰好になる事を躊躇しているようだ。むしろこちらの方が年頃の少女らしい反応かもしれない。
「というか無理だと思うなら、止めといた方がいいぞ?」
 そう忠告してきたのは千雨。
「簡単に後戻りできるとは思わねえ事だ。崖から転がり落ちる覚悟がいるぞ、これは」
 経験者は語る、といったところだろうか。物騒な事を言っているが、周りの麻帆良組も誰一人として否定しなかった。そして六女組も、ここまできて引き下がろうとする者はいなかった。
 覚悟が決まっている者達を「これがGSを目指す連中か……」と半ば呆れた目で見る千雨。彼女はただ一言「無理すんなよ。やり始める前なら、いつでも逃げていいからな」とだけ助言するのだった。


 そして、霊力供給の修業が始まった。


「横島さんっ 横島さぁんん
 喜悦の声をあげたアスナが、力が抜けたように崩れ落ちた――が、横島と抱き合う体勢だったので倒れる事なく支えられる。
 その光景を見ていた六女組は言葉を失っている。腰砕けになって尻もちをついている者もいる。おキヌもソファに座っていなければ同じようになっていただろう。

 千雨の助言もあって、まずは麻帆良組から霊力供給の修業が行われた。
 この修業のために用意されたという部屋の半分以上を占める大きなベッドに圧倒されていたおキヌ達。黙って修業の様子を見ていたのだが……別の意味でも圧倒されてしまっている。
 ベッドの中央で膝立ちになっている横島。おキヌからは背中しか見えないが、その背がいつもより大きく、力強く見える。彼女にいつもの冷静さがあれば、除霊時以上の霊力が渦巻いている事に気付く事ができただろう。
 彼の周りには力尽きてぐったりしているアスナ達。死屍累々……とは少し異なる。
 ピクッ、ピクッと痙攣しながら倒れている少女達。折り重なる肢体。霊衣が乱れて胸元やふとももがはだけている者も少なくないが、皆それを直す事もできない状態だ。
 しかし、その顔は皆一様に幸せそうで、だらしなく口元を緩ませている。よだれを垂らしている者もいた。
「えっ? いいの、あれ……」
「千鶴さんとか、思い切り揉ま……」
「高音さんの体勢とか、どう見ても……」
「というか刀子先生、脚でガッチリホールドして、ガチなんじゃ……?」
 六女組の面々は戸惑い、顔を寄せ合ってひそひそと話している。衝撃的な光景だった。そうしてしまうのも無理はない。
 ただ麻帆良組の皆が、自ら望んで修業を受けている事はよく分かった。
 しかし、その結果自分もこうなる姿がイメージできてしまった。「崖から転がり落ちる覚悟がいる」という言葉がおキヌの脳裏に浮かぶ。
 なおそれを言った千雨本人は、横島を挟んで向こう側のベッドの端に横たわっていた。彼女の受けた修業はいわば基礎編で、アスナ達が受けたものほどの負荷は無い。
 おかげで少しは余裕があるようで、こっそり自分で霊衣の乱れを直し、おキヌ達に背を向けて身体を丸めていた。恥ずかしくて顔を合わせられないのだろう。
 そわそわと周りを見てみると、同じように周りを見ていたむさしと目が合った。しかし彼女はおキヌの視線に気付くとぷいっと視線を逸らしてしまう。
 姫、霞、メリーも同じようにキョロキョロしている。おそらくアスナ達の様子を見て不安を覚え、怖気づいたのだろう。
 しかし、他の面々は真剣な表情の者、赤面している者と反応は様々だが、誰一人として退こうとはしていなかった。いや、退けなかったのかもしれない。

 ここで先陣を切ったのは成里乃。横島の下で修業を始めてから急成長し、高校一年生でGS資格を取得した彼女。それだけに彼に対する尊敬の念が強い。横島の一番弟子と呼ばれている事も、むしろ誇りに思っているぐらいだ。
 その尊敬の念が、羞恥心に打ち勝ったようだ。「お手伝いします」と横島に近付く、動けないアスナ達をベッドから降ろしてソファ等で休ませていく。
 それに後押しされたのか大和も動いた。それを見ていたおキヌ達もハッとなり、手伝い始める。
「アスナさん、大丈夫ですか?」
「だ、だいじょうぶれすよ〜
 おキヌはアスナを助け起こしたが、大丈夫には見えなかった。呂律が回っていない。上気して紅くなった顔は汗ばんでおり、艶っぽく見える。
 彼女の身体に触れてみると、汗でぐっしょりになっていた。おキヌは横島がこちらを見ていない事を確認し、汗を拭いてやる事にする。下着を着けていないような気がしたが、気のせいという事にしてスルーだ。

 当の横島は一切手伝っていないが、これについては責められない。
 ただでさえ煩悩が暴走しないように抑え込まなければならない綱渡り状態なのだ。この状態のアスナ達を見て、触れれば、足を踏み外す事必至である。
 それは避けねばならない。それをアスナ達が望んでいたとしても、だ。
 彼は大きなベッドの中央で荒い息を整えながら、沸き上がった煩悩を霊力に変えて文珠を生み出していた。
 彼の手から三つの文珠が零れ落ちる。それに気付いたおキヌは目を丸くした。
 あれだけのスピードで新しい文珠が生まれる。それがどれだけ凄い事なのかを、おキヌは理解していた。
「凄まじいな……」
 隣にいた大和が、横島を見て呟いた。
「あれだけ霊力を注ぎ込んだのに、全く減っていない。むしろ増えている」
 今の横島のマイト数はいかほどだろうか。それが煩悩によるものであると大和は理解していたが、それを踏まえた上で霊能力者・横島を高く評価した。
「小手先の霊能を身に付ける前に、霊力を鍛える。まさにそれを体現した姿だな……!」
 大和の言葉に、成里乃も頷いた。
 二人とも一見真面目に修業に向き合っているようだが、頬を紅潮させて汗ばんでいるので、それだけではない事が見てとれる。
 この部屋の空気というか雰囲気にあてられているのか、その視線は少し下を向いていた。そしておキヌも、それを見逃さなかった。彼女達もお年頃。興味が無い訳ではないのである。


 更に文珠が一つ生み出されたところで麻帆良組全員を休ませる事ができた。いよいよ六女組の番だ。
 皆の視線が自然と一点――おキヌに集まる。
「えっ? 私ですか?」
「いや、私が先でいいなら行かせてもらうけど……いいの?」
 そう言ったのは霞。彼女もやる気満々である。
「というか、見るだけで待ってるのが辛い! 早く終わらせたい!」
 そう声を張り上げたむさしは余裕が無さげだ。
 おキヌは改めて横島を見た。霊力の奔流のせいかいつもより大きく、男らしく、そして野性的な雰囲気も感じられる。
 おキヌは思わずゴクリと喉を鳴らしてしまった。顔が熱くなり、耳まで真っ赤になっている。
 美味しそうなエサがぶら下げられた罠。確かに、崖から転がり落ちる覚悟が必要そうだ。
 しかし、だがしかし、転がり落ちた先に横島がいるならば、何を躊躇する事があろうか。
「……私が、最初に行かせてもらいます!」
 そう宣言したおキヌは、勇気を出して一歩踏み出す。


「……あいつらはあいつらで煩悩まみれなんだよなぁ」
 そして、その勇壮にも見えるおキヌの後ろ姿を眺めていた千雨は、ポツリとそう呟くのだった。





つづく


あとがき

 『GS美神!!極楽大作戦』の面々、『絶対可憐チルドレン』の面々に関する各種設定。
 超鈴音・茶々丸に関する各種設定。
 魔法のに関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 魔法界に関する各種設定。
 各登場人物に関する各種設定。
 アーティファクトに関する各種設定。
 これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、『絶対可憐チルドレン』クロスオーバー、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

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