アスナ達の入浴が終わると次は横島の番なのだが、ここでひとつ問題が発生した。
アスナ達が一度水晶球の外に出たため、薫達が既に修業が終わっている事に気付いたのだ。
当然薫達は、修業が終わったのならばと水晶球に入った。そして、横島が入浴していると知ると、自分達も駆け込んだのだ。
「にいちゃ〜〜〜ん!」
煩悩全開状態で、我慢に我慢を重ねて修業を終えた横島。普段ならば薫のような子供が飛びついてきても優しい兄として振る舞う事ができるが、今はタイミングが悪かった。
紫穂が今はまずいとからかうのを自重するほどといえば、どれほどのものか伝わるだろうか。
葵も雰囲気で察して、今日は紫穂と一緒に少し離れたところで顔を真っ赤にしながら湯につかっている。
「もしかして、眼鏡外してハッキリ見えない分、想像が掻き立てられる?」
「……心読んだ?」
「いや、普通に推理だから」
この家では横島の仕事を手伝う時以外は一切超能力を使わず普通の女の子として過ごすのが、紫穂のマイルールである。
もっとも「普通」の解釈については議論の余地がありそうではあるが。
「ていうか、薫の方は大丈夫かいな」
「大丈夫よ。今後ろから横島さんに抱き着いてるわ、全裸で」
「後ろからなら、まぁ……」
アスナ達と違って、薫では「当ててんのよ」をしてもさほど効果は無い。
「それに対抗して澪が前から行ってるわ」
「え゛?」
「横島さんを背もたれにして座ってるわ。あ、お尻が当たってる。あの様子じゃ、澪は何か分かってないみたいね。でも、座りにくいのかもぞもぞしてるわ」
「それアカンやろ!?」
思わず葵は立ち上がって近付き、澪の手を取って横島から離した。
なお葵が、その一連の行動を素っ裸で行っていた事に気付いたのは、その少し後の話である。
見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.210
一方六女組は、泊っていく訳にはいかないため既に冥子と共に帰宅していた。帰りの足は六道夫人が手配してくれた車。おキヌは寮生ではないが、それに便乗させてもらっていた。
帰宅したおキヌを、まず出迎えたのはシロ。先生の匂いがすると寄ってきた。それはいつもの事なのだが、今日のおキヌは落ち着かない。霊力供給の修業の事がバレるのではないかとそわそわした様子だ。
「今日の先生の匂い、いつもより濃い気がするでござるよ」
「えっ? そ、そうかな?」
そこからのおキヌの態度は、手に持つカップも震えるなど挙動不審の一言。
しかし流石の令子も霊力供給のような修業をしていたという考えには至らず、実戦的な修業をしていればそれぐらい接近する事もあるだろうと、深く追求しようとはしなかった。
が、美智恵には、あっさり「何かがあった」とバレてしまった。
「おキヌちゃん、今日何があったのか説明してくれるかしら?」
夕食後、皆でテーブルを囲んでいる時にそんな事を聞かれる。
美智恵としても下世話な好奇心で追及しようとしている訳ではない。幽霊だった頃と違い、今のおキヌは「氷室家から預かっている嫁入り前のお嬢さん」なのだ。不純異性交友の兆候を感じ取ったならば、預かり主として追求せざるを得ない。
とはいえ流石にシロに聞かせる話ではなさそうだ。そう判断した美智恵は、ひのめの子守りをシロに任せて席を外してもらう事にする。
何やらお説教をするような気配を感じたシロはすぐさま了承し、ひのめを連れて自室へと戻っていった。
「おキヌちゃん、本当のところはどうなの? 六道夫人から預かってるのに、横島君が変な事するとは思えないんだけど」
まず令子が、そう問い掛けてきた。
実のところ彼女は、何も分かっていない訳ではない。今の横島ならば六道夫人の怖さが分かって自重すると考えていたのだ。
しかし美智恵が何かを感じ取った。今の彼女の正直な感想は「まさか」である。
「え、え〜っと……」
対して目が泳ぎまくりのおキヌ。
その様子を見て、本当にいくところまでいってしまったのかと冷や汗を垂らす美智恵。
そして令子はどんどんボルテージを上げていく。おキヌは怯えたが、こうなると全て白状するしかない。
「――という修業をしました」
結局おキヌは、洗いざらい全てを話してしまった。それはもう、赤裸々に。
彼女は元々、追い詰められると色々と口走ってしまうタイプ。そんな彼女がこの状況でセーブできるはずが無かった。
「……本当なの? というか可能なの?」
流石は年の功というか、美智恵は戸惑いつつも更に追及しようとする。
素人を霊能力者にする修業。口で言うのは簡単かもしれない。しかし優れた霊能力者である彼女は、それがいかに難しい事であるかを理解している。そのため現時点では、半信半疑であった。
「ねぇ、令子。あなたはどう思う? …………令子?」
「〜〜〜〜〜っ!!」
そのため令子に意見を求めようとしたが、彼女はそれどころではなかった。この手の話に耐性が無かったようだ。耳まで真っ赤にしながら勢いよく机をバンバンバンと叩いていた。
その有り様を見て、母親が「ウチの娘、横島君やおキヌちゃんより遅れているのでは?」とか考えてしまったのは余談である。
それはともかく、しばらくして立ち直った令子は、おキヌに向かって勢いよくまくし立て始める。
「おキヌちゃん、身体に異常は無い!? 節々が痛むとか!!」
「えっ? いえ、特には……」
「じゃあ、ヒーリングしたの? 危険なのよ、チャクラに霊力流して無理矢理広げるなんて……!」
こちらも美智恵と同じく、それがいかに難しいかを知っていた。そしてそれは、おキヌが事前に聞いた説明にもあった話だった。
令子の勢いに押され、かえって冷静になったおキヌは、その内容を二人にも説明する。
霊力供給の修業は、本来ならば二人の言う通りチャクラに痛みを与えるものである事。しかし横島の超人的な、いや、変態的な技術によって痛みどころか気持ちよくなってしまう事を。
「…………マジ?」
「ほ、本当です。今日、初めて受けたんですけど……」
その先は言い淀んだおキヌだったが、頬を紅潮させて照れる姿を見れば、どんな内容かを推察できるというものだ。
その姿を見た令子と美智恵は、二人で顔を突き合わせてヒソヒソと話し始める。
「その、おキヌちゃんが騙されてるって事は……」
「いえ、理論上は正しいはずよ。横島君と伊達君が妙神山で受けた猿神(ハヌマン)の修業を長期的に、じっくりやるようなものだし」
「でも、簡単に霊能力者になれたら苦労しないわ」
「そりゃそうよ。普通だったらチャクラがズタズタになるのがオチね」
「だったら……!」
「でも、考えてみて令子…………横島君よ?」
「…………」
反論できなかった。
本来ならばチャクラにダメージを与えるところで快感を与える。女性限定であれば、横島ならやれてしまいそうだ。令子も納得してしまう。
二人の会話が止まったところで、おキヌがおずおずと口を挟んできた。
「あの、向こうで聞いた話なんですけど、アスナちゃんって春まで素人だったらしいですよ? 今では神通棍も破魔札も使えますけど」
「アスナって、同期合体した子?」
「はい、その子です」
「あの子が春まで素人……」
信じがたい話だった。麻帆良で弟子入りしたという話は聞いていたが……。
「あ、でも、その時は素人でも、元々素質があった可能性が……」
「そういう調査もできるかもって言ってました」
「……どうやって?」
「私もよく分からないんですけど、チャクラの開きやすさに差があるとか」
最初から気持ちよくなりやすい子の方が、開きやすい傾向にあるなんて言える訳が無い。
それはともかく、令子と美智恵は絶句した。長年霊能力者をやってきた美智恵でも、そんな違いがあるなんて聞いた事が無かった。
素質がある方が開きやすいという事だろうか。おそらくそれは横島にしか分からない感覚なのだろう。
美智恵が戸惑いつつも問い掛ける。
「その、なんというか、開きにくくても霊能力者にできるって事かしら?」
「それは、まだ試している途中だと言っていました」
その辺りは夕映のチャクラを開いた時に失敗を糧に、夏美達の協力も得て、修行法を確立しようとしているので、いずれもっと詳しい事が分かってくるだろう。
「う〜ん……」
美智恵は腕を組んで考え込む。不純異性交遊ではないかという疑いから始まった話は、とんでもない方向に転がり始めていた。
いや、煩悩まみれなのは確かなので、不純異性交遊である事もある意味間違いではないのかもしれないが。横島が抑えているので、ひとまずはセーフといっていいだろう。
その上、全員望んで修業を受けているとの事なので、口出ししにくいという面もあった。
その溢れる煩悩を霊力変換して文珠を生み出していると聞いた令子が、コストパフォーマンス的にも優れているのではと考えたのは秘密である。
一方美智恵は、別の事を考えていた。
チラリと令子の方に鋭い視線を送ると、彼女はすぐに気付いてコクコクと頷いた。
横島のやっている霊力供給の修業。それはただの煩悩まみれの修業ではない。
では一体、どういう意味を持つのか。
まず、今試している事が上手くいけば、生まれ持った素質が無くても霊能力者になれる。
そして目覚めた霊能力者を鍛え続ける事で、素質の大小をひっくり返せる可能性が生まれる。
たとえばだが、既に霊能力者である六女の生徒達が、これからもその修業を受け続ける事により、いずれ令子を超えるマイトを持つに至る可能性もあるのだ。
そして横島の言う「チャクラの開きやすさ」で素質の有無を判別できるというのも大きい。その技術を欲しがる者はいくらでもいるだろう。
おキヌも、横島も、六女の少女達も、煩悩方面ばかりに目が行っていそうだが、これは一種のオカルト業界の革命といえるだろう。
もっとも、横島の変態的器用さが無くてはできないという意味では、そこまではいかないかもしれない。
しかしこの件は、それが余計に質が悪かった。
「令子、あなたも分かってるみたいだけど……」
「この情報をどこにも漏らすな、でしょ? 分かってるわよ」
もし、この情報が漏れたらどうなるのか?
できもしないのに霊力供給の修業を試す者が現れて、チャクラがズタズタにされる事件が起きかねない。
霊能力者同士がやってみる分には自己責任で済ませられなくもないが、素人の一般人が犠牲になったら目も当てられない。
「おキヌちゃんもよ? 明日くらいに六道夫人が横島君の家に来て話すかもしれないけど」
「は、はい、分かりました」
真剣な令子の様子に、おキヌも神妙な顔でコクコクと頷いた。
そこまで話したところで、美智恵は自分の方からも六道夫人に連絡しておくべきだと考えた。
オカルト業界の革命ともいえる修業だが、同時に煩悩まみれでもある。嫁入り前の娘を預かっているのは六道夫人も同じなのだ。
ひとまずおキヌとの話はここまでとし、美智恵は六道夫人に連絡するために席を外した。
なお残された令子はおキヌに色々と注意しようとしたが、いかんせん本人の経験値が足りていなかった。
そのため美智恵が連絡を終えて戻ってくる頃にはしどろもどろになっており、その姿を見た美智恵は大きくため息をつくのだった。
つづく
あとがき
『GS美神!!極楽大作戦』の面々、『絶対可憐チルドレン』の面々に関する各種設定。
超鈴音・茶々丸に関する各種設定。
魔法のに関する各種設定。
関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
魔法界に関する各種設定。
各登場人物に関する各種設定。
アーティファクトに関する各種設定。
これらは原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、『絶対可憐チルドレン』クロスオーバー、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。
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