シネマ村から神鳴流の関係者が運転するバスに乗って、木乃香の実家である関西呪術協会の総本山へと向かった横島一行。彼等が総本山に到着したのは、夕日が山の向こうに沈みかけた夕暮れ時であった。
長い鳥居の道を潜り正門を抜けると、道の左右に巫女達がずらっと並び横島達を出迎えた。大阪での騒動を収めるために衛士達が出払っているためか、ネギ達が到着した時よりも華やかな雰囲気である。
「おおおお! ここは桃源郷か!?」
「ウチの実家やよ」
「く〜、木乃香ちゃんは桃源郷出身か、天女か!? 」
「もぉ、恥ずかしいわぁ」
本当ならここで巫女達に対して次のアクションを起こしたい横島だが、周囲を木乃香やアスナ、そして両手を風香と史伽に押さえられていては動く事ができない。
「君が横島君だね。待っていたよ」
しかし、今回はそれが幸いした。声のした方に振り向くと、そこにはネギを連れた詠春の姿が。木乃香がパッと表情を輝かせ、お父様と飛びついたので、横島も彼が関西呪術協会の長、近衛詠春であると気付く。
「シネマ村では大変だったみたいですね………それはシネマ村で?」
詠春の目線は横島の着る派手な忍者衣装に向けられていた。そう、彼等は着替える間もなく貸衣装のままここまで来たのだ。
「って、刹那ちゃん!?」
「だだ、だ、大丈夫です! ちゃんと皆さんの着替えはバスに積み込んでもらいましたからっ!!」
今日の横島はスーツ着用だったのだが、実はそのスーツが麻帆良に来る際に格好つけようと、かなり奮発して買った物なのだ。それだけに必死になるのも仕方あるまい。刹那も横島の勢いに圧倒されている。
ネギとしては横島が到着すれば早々に親書を渡したかったのだが、どうやら皆の着替えが先のようだ。
クラスメイトの面々は皆一様に疲れた顔をしている。ネギに気付く様子もなく巫女達に案内されて本殿に入って行き、その後にバスから降ろした着替えを持った巫女達が続く。
「皆さん大変だったみたいですね…」
「それはネギ達も一緒だろ。聞いたぞ、のどかちゃん達巻き込んだらしいじゃないか」
一般人である生徒達が巻き込まれた事を知り心苦しそうなネギ。対する横島はその事に関しては平然としている。隠匿され一般人と隔絶された世界で生きてきた魔法使いと、霊障に巻き込まれた一般人を相手にするGSとの意識の差であろう。
「皆さんお疲れのようですし、親書の受け取りは限られた関係者のみで行う事にしましょうか」
「そ、そうですね。あまり皆の前でやるわけにはいきませんから」
「となると、近衛さんとネギだけで?」
「いえ、横島さんも居てください。第三者、GS協会の代表として」
「せ、責任重大っスね…」
「ははは、親書が交わされた事を、後でGS協会に報告してくれればいいんですよ。それで旧家達も『なかった事』にできなくなりますから」
ただの一民間GSに過ぎない横島には、GS協会代表と言うのは少々荷が重い話ではあるが、詠春としては「GS協会が間に入った」と言う事実が欲しいのだ。
彼にとって、今回の一件における問題は陰陽寮の旧家の多くが東の魔法使い達との和睦を認めようとしない事にある。二十年前の大戦の因縁があるため、これはある意味仕方のない事であろう。東寄りの詠春が長である限り、「過ぎ去った事」とは言い切れないのが厄介な問題と言える。
ここで大事なのは関西呪術協会、その上部組織である陰陽寮よりもGS協会の方がオカルト業界内での立場が上だと言う事。関東魔法協会と関西呪術協会は裏に隠れた組織だとしても、陰陽寮の旧家はれっきとした表の世界の存在であるため、関東魔法協会と関西呪術協会の間で親書が交わされ、それをGS協会が公認したとなると、知らぬ振りができなくなってしまうのだ。約束を反故にしてしまうと、彼等の体面に傷がついてしまう。
「う〜ん、興味あるけど取材していいものか」
「流石に不味くないアルか?」
この場に残っているのは、A組の面々の中でも着替える必要が無い和美と古菲。二人ともネギが魔法使いである事を聞いているため事情を隠す必要はない。
詠春と横島の話の中を聞いていると、自分達が思っていた以上に大事に巻き込まれているのが分かってくる。ネギから親書を届ける事については聞かされていたのだが、その裏の事情、所謂『大人の事情』までは彼も聞かされていないらしい。
「ま、兄貴にゃまだ早いって事さね」
「って、カモ君いたの」
いつの間にやら和美の肩の上に登っていたカモが、達観した表情で顎に手を当てている。
カモの言う事も分からなくもないが、ネギよりも少しだけ大人に近い和美は、むしろ自分達の汚れた部分を隠したがる大人の狡さが見えたような気がした。
「先生やってるのに、結局のとこネギ君は子供扱いなのかねー」
「実際子供アル」
「なんだかんだで、まだまだ修行中の身って事だな」
ネギが麻帆良学園で教師をやっているのも、元をただせば故郷のメルディアナ魔法学園卒業後に課せられた修行の一環だ。そう言う意味では、ネギも魔法世界では一人前の魔法使いとして認められているわけではない。
この親書を届けると言う使命も、ネギにとっては一人前になるための試練と言う事なのだろうか。
カモ曰く、汚い裏の事情を知るのもいずれ必要となるだろうが、今は何も知らない子供でいた方が安全だとの事。カモなりにネギを守るために色々と苦慮しているらしい。
ニヤリと笑うその表情には「苦慮」よりも「暗躍」と言う言葉の方が似合っているような気がするのは、和美の気のせいだと思いたいところである。
「それよりも、事情を知っちまった三人に色々と説明しなきゃなんねぇんだ。和美の姐さんも同席してもらえないかい」
「ああ、本屋達だね。それじゃ、横島さんも一緒に」
「いや、俺も着替えないといけないから、そっちは適当にやっててくれ」
和美は横島も説明の場に同席するものと思っていたが、横島は魔法使いではないためか、この件に関してはあまり興味がない様子だ。バラすならじゃんじゃんバラせぐらいに軽く考えている。彼の立場を考えれば親書を渡す事の方が大事である事は理解できるので、和美も素直に了承する事にした。
「ホテルに置いてる荷物があれば、いい服もあるんだがなー」
「流石に今から取りに帰るわけにはいかないアル」
かく言う古菲もホテルに帰ることができるならば、靴を取り替えたいところだ。
先刻のシネマ村に戦いで、靴に破魔札を詰め込んで千草に投げつけたのだが、流石に破魔札の爆発に靴が耐え切れなかったらしい。彼女の靴の片方はボロボロになってしまったため、今は横島がバスの中で適当に作ってくれたサンダルのような物を履いている。
彼の器用さ故か意外としっかりした作りで、歩く分には何の問題もないのだが、これを履いて戦えと言われると流石に厳しい。
「横島師父の文珠とやらで靴直せないアルか?」
「流石にそんな無駄遣いはできんわ」
「む〜」
横島は文珠を使う事態はまだ起こり得ると考えているらしく、流石に承諾はしてくれなかった。古菲も同じように考えているからこそ、靴を直して欲しいと言っているので、これ以上食い下がる事もできない。
「ホイ、ヨコシマの荷物ならここにあるネ。古菲の靴もスニーカーでよければあるヨ」
「お、サンキュー」
「スニーカーか、背は腹に変えられないアルな」
スニーカーである事を聞き眉を顰める古菲。彼女が普段から愛用してるのは所謂『武術靴』と呼ばれるタイプで、靴底が薄いため床の感覚がダイレクトに伝わる、柔らかい皮製の靴なのだ。
それでもサンダルよりかはマシだろう、背に腹は変えられない。いざと言う時は裸足になってやろうと考えながら、古菲は手渡されたそれらを受け取った。ちなみに古菲は間違って覚えているようだが、正しくは「背『に』腹『は』変えられない」である。
「「………」」
ここで二人はある事にはたと気付き、バッと慌てて周囲を見渡した。
「今そこに超がいなかったか?」
「み、見当たらないアル」
声はすれど姿は見えず。
先程の声は確かに超鈴音だった。しかし、周囲を見渡しても彼女の姿はどこにも見えない。気配も感じない。
「き、気にするだけ無駄か…?」
「そ、そーアルな」
引きつった表情で顔を見合わせて虚ろに笑う二人。
超鈴音、何とも謎の多い少女である。
見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.30
「東の長、麻帆良学園学園長近衛近右衛門から、西の長への親書です。お受け取り下さい」
「確かに承りました」
詠春が受け取った親書を開いてみると、正式な書式の親書とは別に一枚、義父から婿に向けての手紙が一通添えられていた。見るとそこには「下もおさえられんとは何事じゃ、しっかりせい婿殿!」と手厳しい言葉。それだけに堅苦しいだけの親書よりも気持ちは伝わってくる。
「…いいでしょう。東の長の意を汲み、私達も東西の仲違いの解消に尽力するとお伝え下さい」
詠春がニコリと微笑み、それにつられるようにネギの表情もパァとほころぶ。
「任務御苦労! ネギ・スプリングフィールド君!!」
「あ…ハイ!」
こうして厳かな雰囲気の中、ネギの任務は終わった。
ネギはやっと肩の荷が一つ下りたと安堵した表情になっているが、広い本殿の中で、傍から眺めているだけの横島には退屈極まりない時間であった。周りでは巫女達が雅楽を奏でているのだが、ネギと詠春のやり取りが続けられている間は、横島もその場から一歩も動く事ができないので、目の保養にはなるが生殺しである。
「それにしても………それは、嫌がらせですか? 横島君」
「え、陰陽寮関係の場所だからこれにしたんスけど、何か不味かったっスか?」
冷や汗を一筋垂らした詠春の視線の先には、彼らにとってある意味馴染み深い着物を着た横島の姿があった。超により届けられた荷物の中に入っていた「いい服」だ。
「た、確かに、旧家に対する牽制としてはこの上なく有効でしょうが…」
詠春にとっても有効であるのが問題なのだろうか。
この時横島が着ていたのは、以前六道夫人から貰った礼服だった。彼は正式に六道家に所属しているわけではないが、「ハッタリに〜なるから〜、必要な〜時は〜いつでも〜着て〜いいのよ〜」と六道夫人からお墨付きを貰っていたりする。
六道家と言えば元々陰陽寮に属する旧家であり、GSが一般化して破魔札の需要が急増した際、いち早く旧いしきたりを捨てて破魔札の売買を手広く行う事で莫大な財産を築いた家でもある。
今では両者の立場が逆転し、六道家が陰陽寮を事実上従えているような形になっている。陰陽寮の旧家に対する影響力はGS協会より大きいと言っても過言ではない。旧家が陰陽寮の名門だとすれば、六道家はオカルト業界全体での名門中の名門なのだ。
「…まぁ、いいでしょう。生徒の皆さんもお疲れのようですし、今日は泊まっていくといいでしょう。すぐに歓迎の宴をご用意させていただきます」
実際疲れていた横島は、当然その誘いを喜んで受けた。ネギの方は修学旅行中だからと渋っていたが、こちらも結局は横島に押し切られてしまう事となる。
詠春に準備が整うまでお休みくださいと促されたので、ネギは横島を連れて部屋へと向かう事にした。
今頃部屋の方では、カモと朝倉、そして古菲が、のどか、夕映、ハルナの三人、そして中途半端にしか事情を知らない楓に魔法使いの事情について説明しているはずだ。
「いやー、ネギ君聞いたよー。大変だねー、魔法使いって言うのも」
「ちょ、ハルナさん、声が大きいですよ」
他の生徒達とは別の、ネギのために用意された部屋に向かって歩いていると、『パル』こと早乙女ハルナが満面の笑みで駆け寄ってきた。テンションが上がっているのか、声が大きくなっているためネギが慌ててハルナを抑えようとするが、彼女はそう簡単には止まりそうにない。
「それより、ほらほら、ネギ君こっちこっち」
ハルナはにこにこと笑顔のままネギを部屋の中へと連れて行くと、部屋の中央に置いていた座布団の上に座らせる。
「…って、あれ? 君だけか?」
続けて部屋に入った横島が疑問符を浮かべる。新たに三人の人間に知られてしまったと連絡を受けていた。それに、豪徳寺と楓も同行しているはずなのだが、部屋の中にはハルナ以外の人影が無い。
「ネギ君、そんな心配そうな顔しなくて大丈夫だよ。私も協力するからさ」
「ほ、ホントですか?」
「それじゃ、イタダキマス!」
「え?」
突然の脈絡もない一言にネギの思考が一瞬停止、その隙を突いてハルナが動いた。
「!?」
ネギの小さな唇目掛け、ハルナが自らのそれをんちゅーっと重ねたのだ。
「いきなり淫行教師かネギーーーっ!?」
「な!? なななな!?」
突然の出来事に驚く横島、そして当事者ネギ。
「仮契約(パクティオー)カードゲットだぜ!」
「何やってるですか、パルーーーッ!!」
その瞬間開かれる隣の部屋へと続く襖。仁王立ちのカモと夕映がそこにいた。
そう、ここはネギのために用意された部屋ではなく、その隣の部屋。ここに仮契約の魔法陣を描いて、それを座布団で隠していたのだ。カモの手にはしっかりと早乙女ハルナの仮契約カードが握られている。
『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』早乙女ハルナ、誕生である。
「…つまり、彼女達に魔法を説明したところ、ハルナちゃんがアーティファクトを欲しがったと」
「へい、その通りでさぁ」
騒動が収まった後、部屋ではカモ、ハルナ、そして和美の三人が並んで正座させられていて、説教大会が開催されていた。どうやら、和美も協力者だったらしい。ハルナの仮契約が成立するまで、襖の向こうで夕映を押さえ込んでいたそうだ。
オコジョのカモも器用に正座をしている。こちらはなかなかにシュールな光景ではあるが、考えてみれば彼は普段から胡坐をかいたりもしているので、今更かも知れない。
「だって魔法だよ? 陳腐ながらも甘美な響き! そんな夢の秘密道具、欲しいと思うじゃない!」
「その気持ちは分からんでもないが…」
欲望一直線の悪びれないハルナの態度に、横島も思わず同意しかけてしまう。
仮契約自体は魔法界でもさほど重い意味を持つものではないらしいので、そんな簡単な方法でアーティファクトが手に入ると言うのであれば、横島だって欲しくなる。もっとも、彼の場合は仮契約の方法であるキスがネックとなってくるので、そう簡単な話ではないのだが。
「それでも、アーティファクト欲しさにキっ、キスをするなんて!」
横島の隣で怒っているのは夕映、こちらは横島以上に本気で怒っている。
彼女は親友であるのどかとネギの仲を全面的に応援する立場を主張していて、仮契約がどうこうと言うよりも、ハルナがネギとキスした事を重要視していた。
「いやー、聞けば横島さん相手でもオッケイって話だけどさ」
「だったら横島さんでもいいじゃないですか!」
実際は仮契約の相手は異性でなくてはならないと言うルールはないのだが、ハルナ自身は同性を対象としては考えていなかった。ちなみに、豪徳寺も最初から対象外だったらしい。ハルナ曰く、彼はネギのものなのだそうだ。
一瞬ハルナが視線を向けた事で横島が鼻息を荒くしたが、そこは夕映の反対側の隣に座っていた古菲が、ここにいないアスナに代わって尻を抓る。
この早乙女ハルナと言う少女は、身長はアスナとさほど変わらないが、引き締まった身体でスラッとした印象のある彼女に対し、ハルナの方は、少しふっくらとした柔らかい印象で、アスナ以上に女性的な身体つきをしているのだ。横島が思わず反応してしまうのも無理はあるまい。
ちなみに、この時の夕映は、のどかのアーティファクトについての説明を受けて、仮契約の事をも知っていたが、アスナが横島と仮契約している事までは聞かされていなかった。
後になってその事を知った彼女は、この時の言葉を反省してアスナに謝り、何の事か分からないアスナを戸惑わせたそうだ。
「甘いねー、ゆえっち。横島さん相手だと流石にお遊びでキスはできないでしょ。本気ならともかく」
「ネギ先生ならいいんですか!?」
「だって、ネギ君子供じゃない。親愛の情、ノーカンよ、ノーカン」
「う゛…」
真顔でそう言われれば、夕映も反論できない。
のどかが本気なので応援はしているが、彼女自身もネギの事は子供として見ているのだ。
「僕、遊ばれちゃった…」
そして、部屋の隅には座布団を枕代わりに顔を伏せてシクシクと泣いているネギ。これでは「弄ばれた」と言った方が正確かも知れない。
おのれネギめ、羨ましい事を…と、嫉妬心全開でワラ人形を取り出そうとしていた横島だったが、これ以上ネギを責める気には流石になれなかった。
「っつーか、お前らも止めなかったのかよ」
「悪ノリした女子中学生相手に、俺にどうしろと」
「のどか殿が嫌だと言えば、拙者も止めるのはやぶさかでもなかったでござるが…」
「あの、えと、カモさんが〜」
のどかのただたどしい説明によると、彼女達は先程ニュース番組で、大阪に行ったエヴァ達が何かしらの陰陽師絡みのトラブルに巻き込まれた事を知った途端に、カモが突然「新しい戦力が必要だぜ!」と言い出し、いの一番にハルナが立候補。そこに和美も加わって悪ノリし、『内緒の不意打ちで仮契約カードゲット』作戦が決行されたそうだ。
「結局、お前の仕業かカモーーーッ!!」
「ギブ、ギブ! 新戦力が必要なのは確かなんだってば!」
『ネギへの羨ましさ』が五割、『何で俺が仮契約できるようにしなかったんだ』が三割、そして残り二割の『こちら側』に足を踏み入れてしまったハルナへの心配をブレンドした怒りを込めて、横島はカモを握り締めた。
「それにしても、古菲は何してたんだ? 一緒に居たんだろ?」
「! よ、横島師父のせいアル!」
「は?」
古菲の方に話を振ると、何故か彼女は顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
どうやら彼女は『仮契約』と言う言葉に昨夜のアスナと横島を思い出してしまったらしい。耳まで真っ赤になっている。チラチラと彼の方を見ているが、面と向かう事はできないようだ。
彼女は何も言えないまま、傍観者として襖の向こうで和美と一緒にハルナの仮契約を見ていたのだが―――
「…アスナに比べれば、全然大したことないアル」
―――どこか達観した表情で遠くを見ていたそうだ。
昨日見た光景がよほど衝撃的だったのだろう。
閑話休題。
「横島さん、お待たせしましたー」
その後、着替えを終えたアスナが部屋へとやってきた。もう一人の関係者である刹那は、木乃香と一緒に詠春に会いに行ったらしく、アスナと一緒ではない。
「とりあえず情報を整理しようか。刹那ちゃんには後で話すとして」
「そうですね、今日一日で色々ありましたし」
皆で円になって座り互いに情報交換を始める。横島の両隣はアスナと古菲がしっかりと固め、ネギは右側に豪徳寺を、左側には楓を座らせている。のどかがネギの隣に座りたそうにしていたが、彼はハルナが怖くてそれどころではないようだ。
カモは円の中央で進行役を務めてるつもりらしい。
「とりあえず、こっちはハルナ姐さん達を撒いて総本山に向かったんだけどよ」
「のどかちゃんのアーティファクトで追跡されたと」
「え、えと、この本を見たら、行き先が読めて…」
おずおずと『イドの絵日記』を差し出すのどか。霊視ができる横島が見ると、あきらかに普通の書物でない事が分かる。アスナもそれを見て何か威圧感のようなものを感じていた。
「そうか、朝にカモがアーティファクトの説明してたのを聞いてたんだな」
「す、すいませ〜ん!」
横島の目の前で開かれた『イドの絵日記』に文字と絵が浮かび上がる。誰の名前も呼ばずに開かれたので、現在そこに表示されているのはのどか自身の心情だ。
「あ〜、そんな怖がらなくていいから。怒ってないから」
「………は、はい」
絵日記を見るに、のどかは横島に怒られるんじゃないかと思っているらしい。彼は自分の責任じゃない限り、ネギほど魔法が知られる事に関しては気にしていないので、彼女の心配は杞憂であろう。しかし、横島に対し「プロの」GSとしてのイメージがあるらしく、のどかはまるで追い詰められた小動物のようであった。
「で、総本山に辿り着く前に敵に襲われたんだよな? 確か」
「ウム、犬上小太郎と名乗る少年の襲撃を受けたでござるよ」
「犬の耳とシッポみたいなのが生えてたんだよ。あれ、コスプレかな?」
どこかワクワクした表情のハルナだが、横島は話を聞いてすぐにある種族の事を思い出していた。
その名は人狼族。彼等は犬塚、犬飼と、姓の一文字目に犬の文字を付けると言う特徴がある。
「ジンロウゾク?」
「狼男って言うと分かりやすいか?」
人狼族と言うのは太古の昔に数多の神を殺し、世界を滅ぼしかけた魔獣、フェンリル狼の末裔達である。
人類が狩猟生活を送っていた頃は神として崇められていたが、農耕文化が広まり、人類が森を切り拓き、家畜を飼うようになると、人狼族と人類は深刻な対立をするようになったそうだ。
狼(オオカミ)とはすなわち大神(オオカミ)。異端の神ロキの子であるフェンリル狼もれっきとした神の一柱であり、その末裔である人狼族は土着の普通の妖怪達と比べて桁外れの潜在能力を持っていると言われている。
「でも、結局倒したんだろ? その後、どうしたんだ」
「衛士達によって捕らわれたそうだ。さっき聞いた」
豪徳寺が聞いた話によると、現在小太郎は総本山の中で囚われの身となっているらしい。
捕らえた衛士達によれば、彼は人狼族の末裔ではあるが、片親が人間の、人狼族とのハーフとの事だ。
人狼族は本来、日中は通常の獣の姿をとる。大人になれば日中でも尾の生えた人間の姿となる事もできるのだが、子供であればそれこそ子犬と見紛うような子狼のままである。しかし、聞いた話では小太郎は普通に人間の姿でいたとの事。これはハーフである彼の身体に流れる人間の血の成せる業であろう。
「でも、人狼族って空間遮断した隠れ里で暮らしてるって話なんだが…なんで京都にいるんだ?」
「京都は天狗等の妖怪の伝承が残る土地ですし、その人狼族と言うのもどこかに隠れ住んでいるのでは?」
横島の疑問に夕映が身を乗り出して推論を述べる。
考えてみれば、彼の知識は己の経験に依るものしかなかった。シロの故郷である人狼族の隠れ里は知っているが、それ以外に隠れ里があるかどうかなど考えたことすらなかった。彼が知らないだけで、夕映の言う通り京都の近くに隠れ里があってもおかしくはない。この辺りは小太郎本人に聞いてみない事には分からないだろう。
ネギの話によれば小太郎に追い詰められたその時、楓がのどか達と共に現れ、『イドの絵日記』の力で彼等を助けてくれたらしい。
その話を聞いた横島は、とりあえず身を乗り出してきたため丁度良い位置にあった夕映の頭を撫でておいた。子供扱いされたのが気に触ったのか、夕映はムスっとしていたが。
「こっちの事情はこんなもんだ。横島の兄さんの方はどうだったんだい?」
「シネマ村に行ったんだが、夕方頃に千草のねーちゃん達が襲撃して来たんだよ」
横島は、最初に月詠が『百鬼夜行』を召喚して襲撃してきた事、彼女達が一般人を巻き込むのを躊躇しなかった事、生徒達も戦いに参加した事、そして、狙いはやはり木乃香である事を語って聞かせた。
ネギは生徒達が巻き込まれたと言うくだりで驚いた表情をしていたが、横島は相手の方が巻き込んできたのだと責任転嫁。確かに避けられる事態ではなかったようなのでネギも仕方がなかったかと納得する。ネギがシネマ村に行っていれば、一気にクラスの大半に正体がバレていた可能性があると考えると、むしろ横島の方に千草達が行ってくれた事は運が良かったと言えるかも知れない。
「で、クラスの大半が総本山に集まっちまったと」
「でも、千草達が一般人も攻撃するとなると、いつ人質にされるかも分からないって事でしょ? 結果としては良かったと思うけど」
「そ、それはそうかも知れませんけど…」
アスナの言う通りではあるのだが、ネギは総本山に皆がいると、いつ魔法使いである事がバレるのではないかと気が気ではないようだ。
それよりも問題は、現在クラスメイトの大半がここに集まっているのが問題だ。彼女らが宿泊するホテルには学年主任の新田がいる。今晩クラスメイトがほとんど帰って来ないとなると大騒ぎになってしまうだろう。
「多分、真祖の姐さんも今日は大阪に足止めだろうしなぁ…」
「ああ、さっきネギから聞いた」
ネギだけでなく詠春も言っていたが、大阪で起きた事件は陰陽寮に対する陽動であると考えられる。巻き込まれてしまったエヴァは不運としか言いようがないが、そこにはもう一つの大きな情報が秘められている。
現在、ネギ達が知っている千草一味は三人、天ヶ崎千草、月詠、そして今日ネギ達が出会った犬上小太郎だ。しかし、千草、月詠
の二人が今日シネマ村で襲撃を仕掛けてきた。小太郎は総本山の鳥居の通路でネギ達と一戦交え、そして今は総本山に捕らわれている。
では、大阪で多数の鬼を召喚して事件を起こしたのは一体誰だと言うのか。
「う〜ん、ネットでちょっと調べてみるか」
和美がモバイルを開いて大阪の事件についての情報を集めている。
彼女の調べによると、大阪の事件は横島達が月詠と対面した少し前の事らしい。
この時、小太郎は既に総本山に捕らわれている。
千草や月詠でもない。いくらなんでも大阪京都間をそんな短時間で移動できるわけがない。
そう、小太郎でも、千草でも、月詠でもない。まだネギ達の知らない第四の人物がいると言うことだ。
「このまま一人ずつ増えてったりせんだろな?」
「…さ、流石にそれはないと思いますが」
「無い」と言い切れるほど彼女達を知っているわけではないので、ネギは言葉を濁すのに留めた。
彼としても流石にこのまま敵が延々と増え続けるのは勘弁してもらいたいところではある。
ここで横島が、ネギ達にとってはある意味衝撃的な事を口にした。
「あ、そうそう。超も近くにいるぞ、多分」
「ええっ!?」
驚きの声を上げるネギ。しかし、横島だけでなく古菲も「さっき超が居たアル」と彼に同調。超一人だけではなく、彼女の班はこの近くに潜んでいるに違いないと結論付けた。
「ちょ、ちょっと待ってください」
夕映がここである事に気付く。
彼女達の班、和美達の班、アスナ達の班、そしてあやか達の班が現在総本山に居る。エヴァ達の班が大阪で足止めを食らい、超達の班がこの近くに潜んでいるとなると…どうなるかは明白である。
「ホテルの方に誰もいなくなるんじゃないですか?」
そう、現在ホテルの方に生徒が誰もいなくなってしまう。
ホテルには新田が残っているのだ、今この時にもホテルの方で大問題になっているかも知れない。
「た、たたた、大変ですよ、それっ!」
「大問題になっちゃうじゃない! あんた帰ったらクビよっ!」
「そ、そんな事言ったって〜!」
慌てたアスナがネギに詰め寄った。しかし、ネギも焦るばかりで何も答えられない。
ネギが麻帆良に訪れた当初はA組の教室でも良く見られた光景であるが、それだけに周囲で見るクラスメイトの面々は、これは放っておいても何の進展も無い事をよく理解していた。
自分達がこの二人を止めようとしても、かえって大騒動になってしまう事は重々理解しているので、夕映はこっそりと横島と豪徳寺に助けを求める。
「横島さん、豪徳寺さん、止められませんか?」
「止めろと言われても…」
「う〜ん、要するに問題の方が解決すればいいのか?」
これが男同士のケンカであれば、両方に拳骨を落として止める豪徳寺ではあるが、女子供のケンカではそうもいかない。一方、横島は何か考えがあるのか、唇の端を吊り上げてニヤリと笑った。身を乗り出した体勢のままであったため、間近でその笑みを見てしまった夕映は、どことなくカモに似ていると言う印象を受けたと言う。
横島はGSだ、夕映達の知らないオカルト関係の方法があるのかも知れない。
「で、どうすれば問題が解決するんです? オカルト関係で何か方法が?」
好奇心を刺激された夕映は更に身を乗り出して横島の顔を覗き込む。その様はまるで黒い子猫がそこにいるかのようだ。
どちらかと言うとのどかやハルナの方が詳しいジャンルなのだが、GSやオカルトを題材にした小説ではお札を使って分身を作る場面である。のどか達の好きな作家、安奈みらの作品ならば「超美形」やら「クール」と表現される男が助けてくれるところだが、目の前の横島と言う男はお世辞にもそういう表現は似合いそうにない。
それに、夕映達は知らなかった。この横島忠夫と言う男は、そういう真っ当な手段よりも相手の不意を突く『裏技』に走る男だと言う事を。
「こう考えるんだ。超えもんなら何とかしてくれると」
「…は?」
「他力本願かよ」
思わず裏手でツっこむカモだが、その表情は「その手があったか」と感心している。
超は京都駅での戦いの時、どこからともなく現れて助けてくれた。修学旅行が始まった当初から彼女は横島達の行動を把握していたらしい。実際、修学旅行初日、横島と豪徳寺が向こう岸の公園に身を隠している時に、超は彼等に肉まんを差し入れしている。
「つまり、今のこの話も超はどっかで聞いてて、何とかしてくれるに違いない!」
「えー、それって主人公らしくないよー」
ハルナは不満そうな声を上げるが、それこそ横島の真骨頂である。
現に総本山の巨大庭園、その茂みの中では―――
「ヨコシマ、なかなかいい勘してるネ」
―――本当に超一味が潜んでいた。
少し離れたところでは四葉五月と葉加瀬聡美が料理をしており、ザジがそれを見物している。
彼女達は既に関西呪術協会総本山の中に侵入し、潜んでいたのだ。
「で、どうするんだ。ホテルの方は」
「どーすると言われても…」
あんな話を聞けば逆に何もしたくなくなってしまうが、残念な事に彼女は既にホテルの件については手を打ってしまっていた。
ネギも含めて三十二人分の身代わりを用意する事も考えたが、それも面倒だったので、新田一人だけを薬で眠らせて来た。これで彼は修学旅行最終日が終わるまで目を覚まさないはずだ。
「…何でしょう、本当に超さんなら何とかしてくれる気がしてきました!」
「そ、そうね、不思議なことに」
ネギとアスナも無意味に自信満々の横島に納得してしまったようだ。
この一件はこれで解決と言うことにして一同は話を進めることにする。問題はもう一つ残っているのだ。最後にして最大の問題が。
「で、最後は…」
一同の視線がここでハルナに集まり、彼女はバツが悪そうにてへっと視線を逸らした。
そう、最後の問題と言うのは新たに『魔法使いの従者』となったハルナの事だ。
「え? え?」
「実はだな…」
後から部屋に来たアスナだけは事情を理解していなかったので、隣の横島が耳打ちしてハルナとネギが仮契約をした事を伝える。するとアスナは目をカッと見開き、再びネギに詰め寄る。
「あんた、一般人巻き込まないって言ってたでしょーが! なんでそう考えなしに仮契約しちゃうのよ!」
「ごかっ、誤解ですってば!」
実際、誤解であるため古菲がアスナを宥めて止めた。
ネギの『魔法使いの従者』は現在三人。一人目の豪徳寺は完全に事故であり、二人目の宮崎のどかはカモと和美が仕組んだ事であり、仮契約自体も事故のようなものだ。そして三人目の早乙女ハルナも、これまたカモと和美が仕組んだ事で、ネギは不意打ちされて仮契約が成立してしまったのだ。彼が自発的に行った仮契約は、実は一件もなかったりする。
「仮契約してしまった事自体は今更言っても仕方がない」
「そうかも知れませんけど…」
今、知らなくてはいけないのは、ハルナが職人妖精達からどんなアーティファクトを授けられたかだ。
アスナの召喚されたものを強制的に送還する力を持つ『ハマノツルギ』、のどかの対象の心を読む『イドの絵日記』。アーティファクトを持つ者は、その使い方次第で状況を一変させるキーマンに成りかねない。
「それじゃ、ハルナの姐さんにもコピーのカードを渡しとくぜ」
「おおー! これ、のどかが貰ったのと一緒のヤツだよねー!」
カモが差し出した仮契約カードをハルナは嬉しそうに受け取る。そのカードには羽のような装飾が付いたベレー帽を被り、羽ペンとクロッキー帳を持ち、そしてエプロンのような前掛けを身に付けたハルナの姿が描かれている。
「このクロッキー帳から伸びてる紐の先は…インク瓶ですか?」
夕映がカードの一点を指差す。確かにそこには古臭いデザインの瓶があった。
どうやらハルナのアーティファクトは羽ペンとインクで何かを描く物らしい。図書館探検部以外にも掛け持ちで漫画研究会に所属する彼女ならではの物と言えるだろう。
「ふむ、どうやら姐さんのアーティファクトは『インペリウム・グラフィケース』ってヤツらしいな」
カードからハルナのアーティファクト名を確認したカモは、自分のモバイルを取り出して『まほネット』に繋ぐ。『世界パクティオー協会』のデータベースに接続し、どのようなアーティファクトかを調べるためだ。
「日本語に訳せば『製図術による軍隊』、或いは『帝国』ですか」
「ぐ、軍隊!?」
夕映がアーティファクト名を日本語に訳し、それを聞いたハルナが驚きの声を上げる。
ペンとインクでどう軍隊になると言うのか。アーティファクトを召喚したハルナは、とりあえずベレー帽を被ってインク瓶が繋がれているクロッキー帳を手に考えてみる。
「何だろねー、これ」
「そのペンで何か書いてみたらどうかな?」
そんな風にハルナ達が『インペリウム・グラフィケース』を囲んでわいわいと騒いでいる一方で、カモの方は『まほネット』でそのアーティファクトについて調べ終えたらしく、ネギ達を呼び寄せた。
「どうやらコイツはゴーレムを創り出すアーティファクトみてぇだな」
「ゴーレムって…『EMETH』のアレか?」
「そんな本格的な物じゃねぇ。…いや、考えようによってはそれよりもスゲェかもな」
『インペリウム・グラフィケース』で創り出せるゴーレムは簡単なものだが、制限があるとは言え描いた物がそのまま現れるのだ。同じゴーレムとは言え、その能力、特性は千変万化、汎用性の高さは比べ物にならない。
完全な素人であるハルナに授けられた物ではあるが、アーティファクト単体で考えた場合、『ハマノツルギ』や『イドの絵日記』と比べても、かなり強力なアーティファクトと言える。
「ま、際限なく強いのが出せるわけじゃねーけどな…」
問題があるとすれば、このアーティファクトはハルナ本人の能力に依るところが大きく、強くなればなるほどゴーレムが実体化していられる時間が短くなってしまう。彼女の限界を超える強さのゴーレムは実体化させる事すらできない。
より強いゴーレムを創り出すには、ハルナ自身の魔法力、ひいては魂の力を鍛えるしかない。アーティファクトをただの珍しいおもちゃとするか、『魔法使いの従者』としてその力を遺憾なく発揮するかは彼女次第と言えよう。
「っつーわけで、ハルナの姐さん! このアーティファクトはあぁぁぁっ!?」
「どうした…って、何やっとんじゃー!」
ハルナを呼ぼうと振り返ったカモが素っ頓狂な声を上げ、何事かと振り返った横島のアゴがカクーンと落ちる。つられてネギ達も振り返ると、そこには無数のゴーレムが溢れていた。
どうやらハルナは、ペンの書き味を確かめようと適当に落書をしてみる事により、自分で使い方を発見したようだ。
「スゲェ! スケブに描いたテキトーな落書がモリモリ動いてるよ!」
「すっごいメルヘン…」
「…て言うか、今まで見た中で一番魔法っぽいアル」
ハルナの周囲にタコかイカかの判別もつかないような軟体生物型をはじめとして動物型から何とも言えない不可思議な生物の姿をした物まで、様々なゴーレムがひしめきあっている。
カモによると、このアーティファクトによって創り出されるゴーレムは全てその持ち主である従者によってコントロールされるものとの事。現在はハルナが描く事に集中しているため、ゴーレム達は何をするわけでもなくうごめいているだけだ。
「これぞまさに全世界の絵描きの夢!」
ここでテンションの上がってきたハルナは羽ペンを掲げて叫んだ。
描いたものが現実に実体化して現れるのだ。確かに、彼女の言葉もあながち間違いとは言い切れない。
「インペなんたらなんて長ったらしい名前はいらないわ! そう、これは私の『落書帝国』よッ!!」
アーティファクトの名前はともかく、ハルナはこのアーティファクトをお気に召したらしい。
カモもその様子を見て「これは掘り出し物だ」と、その力を使って何ができるかを考え始めている。
「あの、あまり遊び過ぎないでくださいね。いつ敵が攻めてくるか分からないですから」
「分かってるって!」
ネギが注意するとハルナは弾んだ声で安請け合いする。本当に分かっているのかどうかは微妙なところだ。
逆にのどかや夕映は真剣に受け止めているらしく、ネギの言葉を聞いて考え込んでいる。
「ね、ねぇ、ゆえゆえ〜。お話だと、こういう時って…」
「陽動で本拠地が手薄になったところを狙う…常道ですね」
二人とも今までに読んだ小説等を参考に考えているのだろう。ネギ達も同じことを心配している。
何より、陽動で衛士達が大阪に行ったと言っても、明日には帰ってくるのだ。
千草達が攻めてくるとすれば今晩、まず間違いあるまい。
「ネギ、俺は刹那ちゃん探して整理した情報を伝えてくるから、お前は他の生徒達の方を頼む」
「そうですね。昨日みたいに騒がず、大人しくしていてもらわないと」
まず横島が立ち上がり、続けてネギも千草の襲撃に備えて動き出すべく後に続いた。
衛士達を当てにできない以上、自分達で何とかするしかない。
横島はアスナと古菲を連れて刹那の元に向かい、ネギはカモを肩に乗せ、豪徳寺を連れて他の生徒達のために用意された一角へと向かった。
「勝負は今夜、だね」
「正直、今追い詰められてるのは向こうだと思うけどよ――兄貴、油断するんじゃねぇぜ」
「分かっているよ、カモ君」
カモの言う通り、総本山に辿り着いた今、どちらかと言えばネギ達の方が有利だと言える。だが、それだけに千草達も必死になって攻めてくるだろう。
まだ姿を見せぬ四人目の正体も気になるところだ。
ネギは決戦の予感にその身を震わせ、愛用の杖をギュッと握り締めるのだった。
つづく
あとがき
今回は、原作では14巻で行われたハルナの仮契約が行われました。
これは彼女の仮契約が「学園祭編で行われた」事よりも「魔法バレ直後に行われた」事を重視したためです。
彼女の性格ならば、魔法、アーティファクトの事を知れば、すぐに仮契約をしたであろうと考えました。
これにより、今後の展開も色々と変わってくる事でしょう。
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