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過去からの招待状 1


「やっと戻って来れたのか」
「いや、まだ途中だ」
 横島家の朝の食卓でがっつく一人の男。遠征から帰って来た雪之丞だ。

「まったく、またウチに飯をたかりにきおって…今のお前は昔と違って弓家所属のGSだろうが」
「別に住み込みってわけでもないからな。生活が良くなったと言えば、根無し草じゃなくなった事ぐらいさ」
 そう言いつつ雪之丞は茶碗を愛子に差し出す。愛子は苦笑しつつも、それにご飯をよそって雪之丞に返した。

「だいたい、こんな朝っぱらから…弓家の方には顔を出したのか?」
「仕事が終わってないからまだだ。今日はお前に伝えときたい事があってな」
「…は?」
 雪之丞は茶を飲みつつ、一つの封筒を手渡す。
 それを受け取り、封筒の中を見てみる横島。その中には隠し撮りと思われる何枚かの写真が入っていた。
「例の地主とつるんでるオカルト集団の構成員達だ」
「雪之丞さんは、彼等の正体を探りに行ってたのですよね?」
 横島の隣に座っていた小鳩が写真を手に雪之丞に問うと、雪之丞の方は漬け物をつまみつつ頷いた。
「年令、性別、見事なまでにバラバラねぇ…」
 写真に写っている構成員達は流石に子供はいないものの、二十代であろう青年から、四十代、五十代まで老若男女問わず、その年齢層は見事なまでにバラバラだった。


「件の山の中にある過疎化で寂れた廃校を本拠にしているらしくてな。周囲の森にゃ妖怪らしい影もあるんだよ…」
「妖怪相手でどうこうってお前でもないだろ?」
 そう言った横島に対し、雪之丞は押し黙ってしまう。



 詳しく話を聞いてみると今回の仕事はかなり特殊なケースらしく、国が道を作るとかで地主に立ち退きを求めているのだが、地主の方が それを受け容れずにいる。
 その事自体にオカルトの入る余地はないのだが、その山が妖怪の棲家となっているために、国がオカルトGメンに対し妖怪とオカルト集団は繋がりがあるとして、彼等の排除を命じたのだ。

 そんなオカルトGメンの動きを危険視したのがGS協会だった。
 その山に棲む妖怪も人間に危害を加えているわけでもない。
 それだけなら、GS協会はオカルトGメン相手に抗議をするだろう。
 しかし、その山の地主がオカルト集団と関わりがあるとなれば、話は変わってくる。
 そのオカルト集団の正体を突き止め、事実を確認しなければならない。人造魔族を商品化しようとした企業という例も存在するのだから。


 そして、GS協会が直接動けない事態において白羽の矢が立ったのが、弓家だったというわけだ。



「まー、色々とあってな。その集団も妖怪も刺激しちゃいけねぇんだよ」
「ふーん…で、今日戻ってきたって事は休みもらったのか?」
 横島がそう問うと、雪之丞は封筒に残っていた写真を手に取り中から一枚を選んで横島に渡す。

「こ、これは…」
 言葉を失う横島。隣に座っていたタマモが顔を近付けて写真を覗き込んだ。
「ちょ、ちょっと! このオッサンって…」
「お前がそいつと関わりがあるって聞いてな」





 横島の持つ写真には、件の地主であろう壮年の男性と話をするGS協会幹部にして、横島の事務所独立の保証人。



 猪場 道九の姿があった…





 GS協会の人間が霊障対策のために一般の会社等に協力すると言うのはよくある話だが、この写真は少し毛色が違う。
「猪場さんとオカルト集団の関係は?」
「よくわからんが、その集団の一員みたいだな」
「………」
 横島は言葉を失ってしまう。
 一般企業の霊障対策をするにしても、GS協会がする事はあくまで相談事だ。GS協会で制作した対策グッズを販売する事もあるが、それ以上の干渉をする事はない。  しかし、写真に写る猪場は件の組織の一員と言う。全く無い事とは言わないが、組織の性質によっては処罰の対象にも成りうる行き過ぎた行為であろう。


「で、どうするよ?」
「どうするって…」
「俺は朝飯食ったらすぐにでも向こうに戻るが、お前はどうするかって聞いてるんだ」
 雪之丞の真剣な表情に、横島も覚悟を決めて頷いた。
 確かめねばなるまい、猪場の真意を。



「マリア、カオスのじいさんはどこだ?」
「蔵を改造して・研究所にして・います」
「…まぁ、使ってない所だからいいや。カオスのじいさんに留守番を頼むって伝えといてくれ。小鳩ちゃんはバイトで忙しいだろうし」
「イエス・横島さん」
 テレサのメンテナンスが必要だという事も事実なので、カオスがいつの間にか居着いている事には何も言わないと言う事になっていたため、二人は新たな家族として迎え入れられていた。
 特になんとかして家事をサボりたいタマモが、家事能力の高いマリアを歓迎した事は言うまでもない。
 小鳩の方はこちらに引っ越して来てからバイト先から帰宅するのにかかる時間が大幅に短縮されたため、バイトの時間を増やしていた。そのため、家事を手伝える時間は少ないが、それは仕方のない事だろう。
 今日も学校帰りに例のパン屋のバイトに行き、帰りは遅くなるそうだ。

「タマモは来るよな?」
「わかってるわよ、私達を騙してたとすればタダじゃおかないわ」
 普段は手伝いを渋るタマモもすぐさま快諾した。


「ねぇ、私も行っていいかしら?」
「え?」
「ちょっと、この人達ひっかかるのよね…」
 いつもは事務員なため除霊作業には出ない愛子が今回の遠征に参加したいと言い出した。
「ひっかかるって…今度は二時間サスペンスの素人探偵でもするつもりか?」
「違うわよ」


 冗談はさておき、愛子は高校生の見た目に反してその数倍の長い年月を生きている妖怪である。
 現実の学校をそのまま真似た机の中の学校にある本は内容も本物と同じで、彼女は数十年の間にその全てを読み尽くしている。
 それだけに愛子の知識量はかなりのもので、そんな彼女がひっかかると言うからには何か思い当たる物があるのだろう。
 横島は愛子の参加も了承し、テレサは生活防水を施す改造を行うらしく今回の仕事への参加は見送られたため、横島、タマモ、愛子の三名が雪之丞と供に遠征へと向かう事になった。





 その頃、オカルトGメンに出勤した西条は美智恵より更に上の上司に呼び出されていた。
 美智恵はまだ出勤して来ていない。

「は? 僕も例の山へ応援に?」
「近々、大規模な作戦が行われるらしい。今は少しでも戦力が必要なのだ」
 上司の態度に不審なものを感じた西条は一つ訪ねて、確かめてみる。
「…美神隊長は?」
「…彼女は不参加だ」
「そうですか…」
 やはり、何か裏がある。
 それだけ大規模な作戦に美智恵が参加しないと言う事は、すなわち美智恵に言えない何か裏があると言う事に違いない。

 それでも、ここで断る事ができないのが宮仕えの辛いところ。
 西条は現場で情報を収集し、独自に判断するしかあるまいと、その場はおとなしく承諾した振りをする事にした。






「ふー、やっと着いたわね」
「タダの田舎町に見えるけど」
 長い時間電車に揺られて疲れたのか、愛子とタマモは屈伸をしながら町を見た正直な感想を述べていた。


「…見られてるな」
「ああ」
 横島と雪之丞は電車から降りた瞬間から突き刺さる視線の主の気配を探っている。一人ではない、複数だ。

「大規模な組織なのか?」
「組織そのものは二十人と少しだが、件の地主が土地の名士でな。しかも、ここらの連中も工事には反対してるから」
「俺達にとって、ここはもう敵地って事か…」
 雪之丞は無言で頷いた。
 実際の所、弓家とオカルトGメンに繋がりはないが、土地の人達にはそう思われても仕方がない事だろう。



「こんな状況でお前はどこに泊ってるんだ?」
「あ? どこ行ったって敵の懐なんだから、そこらの旅館を適当に使ってるさ」
「お前なぁ…」
 実に雪之丞らしい考え方かも知れない。

 とは言え、他に方法もないので横島達は雪之丞と同じ旅館に部屋を取った。流石にバラバラになるのは拙いと判断したからだ。
「とりあえず、荷物は全部愛子に預けてタマモは愛子と一緒にいてくれ」
「しょうがないわね…」
 タマモは面白くなさそうな顔をしたが、仕方なく承諾した。
 本当なら山で探し物を等をする時はタマモの超感覚が必須なのだが、敵の待ち伏せが予想される場合、横島と雪之丞の二人と一緒ではタマモの実力では足手まといになりかねないのだ。
 如何に伝説の大妖怪の転生体とは言え、妖力はともかくとして身体能力そのものは少女のそれでしかない。



 愛子とタマモを宿に残し、横島と雪之丞の二人は山へ入ろうと考えていたが、宿を出た所で写真で見た者達に取り囲まれてしまう。

「さっそくおいでなすったか」
「おいおい、手出ししないんじゃなかったのか?」
「なるべくはな。向こうから来たんならしょうがねぇだろ?」
 そう言いつつも、どことなく嬉しそうな雪之丞。
 今まで相手を刺激しないよう、戦わずにやり過ごしていたのだ。余程、鬱憤が溜まっていたのであろう。


「待て、我々は君達と事を構えに来たわけではない」
「?」
「ここに『愛子』と呼ばれる机妖怪がいるな? 彼女を連れてくるようにと命令を受けている」
「なんだと!?」
 雪之丞がくってかかろうとしたが、横島がそれを止める。
「そりゃ俺達も行っていいって事かい? 愛子一人って事になったら、力づくでもお帰り願う事になるけど」
 横島の放つプレッシャーに引き攣りながらも、彼等は四人全員で行く事を了承した。



「それじゃ、虎穴に入るとしますか」
「そうだな」
 二人は愛子とタマモを呼びに旅館の中へ戻り、そのまま彼等に案内されるままに山の中へと入って行くのだった。






 一方、学校を終えたかおりと魔理は今日も今日とて、横島の屋敷へ向かっていた。
「弓ー、今日も真っ直ぐ横島さンとこ行くのか?」
「当たり前ですわ! 先日は完敗を喫しましたけど、このまま引き下がるわけには参りませんもの」
 その実、今まで『友人』の少なかったかおりが、六道の生徒の集まるあの雰囲気を好いている事はあえて魔理は突っ込まない。
「そんならさ、近所に旨いパン屋があるそうなんだけど屋敷に行く前に寄ってみないか?」
 魔理の提案に、学校帰りに買い食いなど…と渋ったかおりだったが、最終的には同意した。それはもう嬉しそうに。




「いらっしゃいませ〜」
「あら、花戸さん…でしたわよね?」
「弓さん、一文字さん!」
 魔理に連れられて入った店は、小鳩がバイトをしているパン屋だった。
 本当に小さな店で、制服などもなく小鳩も私服にエプロンを着けてレジに立っている。
 元々は老夫婦が営む本当に小さなパン屋だったのだが、小鳩という看板娘がレジに立つようになってから評判がうなぎ上りらしい。

 女性客の間で「ここのパンを食べると大きくなるらしい」という噂がまことしやかに流れているためだと思われる。



「あ、お二人とも…今日も屋敷へ?」
「ええ、そのつもりですけど」
「横島さん、今日は出掛けていて留守ですよ?」
 小鳩は今朝、雪之丞が訪ねてきて、雪之丞の仕事を手伝うために横島達も一緒に出掛けた事をかおり達に伝えた。

「雪之丞ったら…戻ってきてるなら連絡の一つでも してくれればいいのに…」
「ま…まぁ、仕事だからしょうがないじゃないの?」
 だんだん雰囲気が怖くなってきたかおりに、魔理はフォローを入れようとするが、焼け石に水のようだ。

「一文字さん…」
「なんだ?」
「横島さんもいらっしゃらないようですし。私、急用を思い立ちましたから、ここで失礼しますわ」
「あ、ああ…」
 そう言ってかおりは背中に炎を背負いつつ店を出ていってしまった。
 おそらく、雪之丞達を追うつもりなのであろう。
 その後の行動は容易に想像でき、止めるべきかとも考えた魔理だったが、今のかおりに対して声をかける勇気はなかった。





「う…何か寒気が」
「どうした、風邪か?」
 雪之丞が原因不明の悪寒に襲われつつも、4人は山の中に位置する廃校に辿り着いていた。
 校庭の朝礼台の所に件の地主と、そして猪場の姿がある。

「猪場さん!」
「横島君…あの頃に比べて見違えたな、気付かなかったよ」
「…え?」


 かたや地主の男性は愛子に近付き、手を取るとこう言った。
「久しぶりだね、愛子君」
「………」
 愛子もどことなく見覚えのある男が誰であったかを思い出そうとして、ふと、一人の人物と目の前の男が重なった。


「まさか…高松君!?」
 その言葉を聞いた男は顔を綻ばせる。
「覚えていてくれたか、愛子君…皆も君達を待っていた」

 なんと、件の地主は愛子の学校の生徒であった高松だったのだ。

 高松と猪場は肩を組みこう言った。



「「ようこそ、《愛子組》へ!!」」

「「…はい?」」
 事情の掴めない雪之丞とタマモは呆れる事しかできなかった。




つづく



 と言う訳で「実は原作に登場している」猪場ですが、原作の『教室漂流!!(その1)』で高松にクラスメイトを紹介された時に一番右の机に座っているガタイの良い生徒、彼が猪場 道九です。
 いや、もちろん公式にそんな設定はなく、私が勝手にそう決めただけですが。

 今まで横島に気付かなかったのは、数十年待って初めて現れた教師、美神の印象が強かった事と、横島自身が成長して見違えたからなんです。


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