topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.09
前へ もくじへ 次へ


 エヴァとの戦いが終わった翌日の昼休み、横島はまた学園長に呼び出されていた。
 大手を振って女子中に入れるのは嬉しいのだが、四方八方から突き刺さる視線は勘弁して欲しい。
 今日の案内役、と言う名の監視は葛葉刀子。つい先程出会い頭に横島が手を握って口説こうとしてきたので、指が触れ合うよりも速く目潰し食らわせて黙らせたところだ。
 しかし、彼には懲りた様子も刀子に怯える様子も見えない。何とも豪気である。

 こうなる事は分かっていたのだろうが、生徒達を守るためにやむを得ずと言ったところだろうか。
 やはり裏の人間であると同時に彼女は教師なのであろう。

「それじゃ失礼します!」
「お、ネギ」
 横島達が学園長室の前に辿り着くと丁度ネギが学園長室から出てきたところだった。
 何故か隣には豪徳寺が立っており、ネギは白い封筒を大事そうに持っている。
「あ、横島さん!」
「よう、教師の仕事か?」
「はい! もうすぐ修学旅行なんですよ!」
「へ〜、ウチの高校はいつだっけか…」
「横島…いや、転入してきたばかりだったな、お前は」
 横島は忘れていたが、豪徳寺が覚えていた。彼等の修学旅行は麻帆良女子中と同じ日程で行われるそうだ。
 ただし、その話を聞いても横島の心はまったく躍らない。男子校だからであろう。

「どうせなら刀子先生とご一緒に〜。ネギ、どうにかならんか?」
 そう問われるとネギは困った表情を見せた。
 麻帆良女子中は一学年のクラス数が多いため、行き場所をクラス毎に二つの候補地から選ぶ事ができるのだ。
 そして、ネギのクラスと刀子のクラスは別々の場所を選択していた。仮に横島がネギのクラスと共に行ったとしても、そこに刀子はいない。
「葛葉先生のクラスはハワイに行くはずですよ。僕達は京都なんです」
「ハワイ!?」
 笑顔で語るネギを刀子が止めようとしたが、遅かった。
 ハワイと聞いた横島の瞳に炎が宿る。
 情熱…いや、違う。熱く燃え盛る煩悩の炎だ。

「ハーッ! ワーッ! イーッ!!」

「当然水着なんだな!? 露わになった刀子先生のおみ足ぃぃぃッ!!
 あまりにも煩かったので、刀子が横島の喉笛に突き刺さるような手刀を食らわせた。
 今は一般生徒の目があるため丸腰だったが、もし刀を持っていたら確実に一刀両断にしていただろう。



「ん? 今、横島の雄叫びが聞こえたような…」
「気のせいではありません、マスター。声の位置から判断するに、校内の一階…学園長室前にいると思われます」
 その頃、エヴァは屋上で昼食を取っていた。
 ネギとの約束で授業にはちゃんと出るようになったものの、教室では物静かに過ごし、昼休みになるとこうして屋上に来てうとうととしている。
 普段から能天気なクラスメイトと馴れ合う気には、まだなれないらしい。

「…ま、私にはどうでも良いことか。茶々丸、弁当を出せ」
「了解しました」
 横島がこの学校で何をしようがエヴァには関係がない。
 もし、痴漢等で彼が学園都市から追放となれば修学旅行に行けなくなって困った事態となるのだが、いくら何でもそこまではやらないだろうと言う微妙な信頼感が彼女にはある。
 横島の事は意識の外に追いやって、茶々丸が敷いたシートの上にどかっと腰を下ろして胡坐をかくエヴァ。『登校地獄』に呪われて以来、彼女に残された数少ない楽しみである食事。特に麻帆良学園都市から離れられない彼女にとって、地方の名産品を味わうのは至福の喜びだ。
 この時間は誰にも邪魔されたくない…と思っていたのだが、今日は意外な邪魔者が彼女の元に訪れた。

「エヴァちゃん、やっほー!」
「一緒にお弁当食べよ〜」
「貴様ら…何の用だ?」
「そないな顔せんといて、一緒にお弁当食べよと思って」
 明石裕奈、佐々木まき絵、大河内アキラ、和泉亜子の四人だ。
 今まではクラス内にエヴァについては触れないと言う暗黙のルールがあったのだが、彼女の事情を知った四人はあえて踏み込もうと考えたらしい。無論、エヴァと仲良くなるためだ。
 吸血鬼であろうとも受け容れる。その姿勢はエヴァも評価したいが、今は状況が悪かった。
「わっ、スゴイ! これ茶々丸さんが作ったの!?」
「ハイ、マスターは味に煩いので、料理は全て私がしております」
「すごい…」
 アキラが思わず感嘆のため息を漏らすのも無理はない。
 エヴァの弁当箱と言うのは所謂三段重ねの『重箱』である。漆塗りの一目で高級品である事が見てとれる。
 そして何より量が多いのだ。エヴァと茶々丸の二人で食べると言うのならばまだしも、エヴァ一人でこの量である。十歳児の身体のどこにこれだけの量が入ると言うのだろうか。

 中身は更に豪華だった。
 和食の美技をふんだんに盛り込んだそれは、手作りである事がにわかに信じ難い。
「うわっ、これTVで見たことある!」
「先日の旅番組ですね。マスターがそれを見て食べたいと駄々をこねましたので」
「駄々とか言うな!」
 なんと、茶々丸がTV番組で見掛けた料理を再現したらしい。茶々丸の料理の腕が伺える。

「エヴァちゃん、そんなに食べたらお腹壊すよ?」
「それより太っちゃうって」
 年頃の乙女らしい悩みである。しかし、エヴァには関係のない話だったので鼻で笑って返した。
「人間と吸血鬼は栄養の吸収の仕方が違うんでな。血の吸いすぎで腹が膨れたヤツならともかく、吸血鬼が食いすぎで太った話など聞いた事がない」
「食べても太らないの?」
「私達にとっての食事は嗜好品に近い。食事での栄養吸収効率は貴様らより遥かに悪いから、これの数倍は食わんと太らんよ。やはり吸血鬼には血が一番ということだな」
 動物でも種類によって栄養を摂取しやすい食べ物が違うのと同じことなのだろう。傍目に似ている人間と吸血鬼も、中身はかなり違っているようだ。
 エヴァが多く食べるのは、魔力を封じられて精神体が使えなくなっている分、肉体だけで活動するために通常より多くのエネルギーを必要としているためでもある。
 ロクに血も吸えず、こんな生活を十五年間も続けていれば、生きるための止むを得ない事情が高じて食道楽趣味に昇華してしまうのも仕方がないことなのだろう。そんな彼女が現在注目しているのは和風スイーツだ。
 実はバラの花から精気を吸収する事もできるのだが、それはエヴァ的に「味も素っ気もないので却下」らしい。

「食べても太らないなんて、うらやましい〜!」
 と、エヴァに血を吸われた事のあるまき絵が羨ましがっていた。
 あのまま吸血鬼でいてもよかったかもと、半ば本気で考えていたりする。日の光で灰になってしまうことをナチュラルに忘れているあたり、実にバカピンクだ。
「騒ぐな。それより貴様は甘い物を控えろ、血の味で分かるんだぞ」
「ウソ!?」
 何百年も吸血鬼を続けていると、そんな事まで分かってしまうらしい。

 エヴァがまき絵の食生活について説教している隙に、裕奈がそっと近付いて重箱の中から鶏の炭火焼きを一つつまみ取った。
「チキンもーらいっ! って、おいしい〜! 何コレ!?」
「貴様、それはわざわざ取り寄せた最高級地鶏だぞ! 最後にと取っておいたのに…」
「ゴメ〜ン、私の唐揚げと交換ね♪」
「それは冷凍物だろうが! 割が合わん、そっちの卵焼きもよこせ!」
「それなら私の卵焼きを…」
「む…まぁ、いいだろう」
 アキラの卵焼きは手作りだったようで、一口食べたエヴァは「なかなかやるな」と偉そうに褒めた。
 なんだかんだでクラスメイトとの昼食を楽しんでいるようだ。
 A組のクラスで過ごした二年間は伊達ではないと言うことだろうか。彼女も立派な3年A組の一員である。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.09


 一方学園長室に放り込まれた横島は、学園長近衛近右衛門と対面していた。
 放り込んだ刀子は既に去ったため、ここにはいない。
「よく来てくれたのう、横島君」
「それは仕事だからいいんスけど…そちらの子は?」
 横島の視線の先には、麻帆良女子中の制服を着た一人の少女がいた。
 黒髪を一つ結い、小柄な背丈には似つかわしくなく大振りの木刀を佩いている。
 切れ長の黒い瞳に雪を彷彿とさせる白い肌。これで小振りな唇に紅を塗れば白雪姫もかくやと言ったところだ。
 腰の木刀は何かしらの除霊具、その類には見えない。彼女の放つ雰囲気が常人のそれではないことを踏まえて考えるに、おそらく仕込み刀であろう。
 任侠映画などでよく見るタイプだが、現在は銃刀法により所持する事を禁じられているはずだ。それはすなわち彼女が一般人でない事を表していると言える。

「紹介しよう。彼女はネギ君が担当するクラスの生徒で、名は桜咲刹那」
 無言でペコリと頭を下げる刹那。あまりおしゃべりな性質ではないらしい。ネギの生徒と言えばやはりアスナや古菲のイメージが強い横島には少し肩透かしだ。
「彼女は京都神鳴流の剣士での。木乃香の護衛をしてもらっておるんじゃ」
「…中学生の女の子を危険な仕事で酷使するのは止めましょうよ、学園長」
 珍しく正論を吐く横島。その視線は冷たい。
 学園長もその辺りは気にしていたらしく、慌てて弁明を始める。
「い、いや、刹那君は木乃香の幼馴染なのじゃよ」
「あの、お嬢様の護衛は私が望んで就けて頂いたんです。学園長に非は…」
 横島の視線に気付いた刹那も慌ててフォローを入れた。
 刹那自身がそう言うならば、横島としてもこれ以上言うことはできない。

「ところで神鳴流ってのは?」
「古来より京の都を護り、魔を討つ事を生業としてきた裏側の戦闘集団じゃよ。表の君が知らんのも無理はない」
「陰陽寮とは違うんで?」
「検非違使の流れを組んどるから時代は近いが別物じゃ」
「平安京のアレっスか…」
 その名を聞くと、平安時代に行った際に『平安京エイリアンの術』で彼等を埋めた事を思い出してしまった横島。一筋の冷や汗を流す姿に刹那は疑問符を浮かべるが、流石に彼が検非違使達と「ある意味」死闘を繰り広げてきた事など知る由もない。

「実はの、君に一つ仕事を頼みたいんじゃ。麻帆良女子中は修学旅行を一週間後に控えておっての」
「それはネギに聞きました。京都だそうですね」
「うむ、そこで修学旅行の間、君に木乃香の護衛を頼みたいと思っての」
「………」
 横島は一瞬言葉を失う。
 と言うのも、麻帆良男子高校の修学旅行の日程も、麻帆良女子中と同じだと聞いていたからだ。

「俺の高校もその日修学旅行なんスけど」

「男子高校の修学旅行と、女子中学校の修学旅行」

「謹んでお受けさせていただきます」

 横島はあっさりと屈した。
 今度は刹那が「この人で大丈夫なのか」と冷や汗を流す番だ。

「でも、そうやって依頼するって事は…何か危険が予想されてるんですよね?」
「うむ…」
 学園長の表情が曇った。
 大っぴらにはされていないが彼の孫、近衛木乃香は能力者のサラブレッドと言うべき血筋で、生まれ付いて並の能力者では太刀打ちできないような強い力を持っているのだ。
 その上、本人は無自覚のため非常に無防備で、彼女を狙う者が後を絶たないと言う。
 何より、木乃香の父親は京都を本拠地とする関西の裏側の組織『関西呪術協会』の長なのだ。権力目当てに彼女を狙う者も多い。
 故郷の京都ではなく、麻帆良学園都市の中学に進学したのも、ここなら都市全体を覆う結界があり、数十人の魔法使いが守っていて安全だったからだ。

「でも、修学旅行中は魔法使いの守りが薄くなるって事ですよね?」
「しかも、関東魔法協会は関西呪術協会とは仲が悪くてのー」
「だったらハワイにすりゃいいのに。刀子先生もいるんでしょ?」
 正論である。
 しかし、学園長にも引き下がれない理由があった。
「ワシとしては、これを期に東と西を仲直りさせたくての。実はネギ君に特使として親書を持って行ってもらう事になっておるんじゃよ」
「その分、木乃香ちゃんに回す戦力が減ったと。って言うか、豪徳寺も巻き込む気ですね?」
「物分りが良くて助かるぞい」
 要するに、関東魔法協会としては今回の修学旅行にかこつけて、二つの部隊を投入したいのだ。
 つまり、一つは特使として親書を持っていくネギの部隊。もう一つは木乃香を護衛する横島の部隊だ。
 関東魔法協会と関西呪術協会の関係改善は、関東魔法協会が情報公開をするための地ならしでもあるのだから、横島にとっても無関係の話ではない。

「ま、横島君が実際に護衛に付くのは修学旅行が始まってからで良いぞ。刹那君も準備があるじゃろうし、一週間は英気を養っておいておくれ」
 そう言って学園長は話を締めた。
 しかし、それには刹那がすぐさま反論する。
「しかし、お嬢様の護衛がっ!」
「それは他の先生に任せておくがよい。気負い過ぎて、いざと言う時に疲労困憊では困るからの」
「………わかりました」
 しばしの沈黙の後、しぶしぶといった様子で了承する刹那。
 それを見て横島は「生真面目な子やのー」と考えていた。


 話を終えて学園長室から出た横島と刹那の二人。
 刹那は「やはり、お嬢様が気になりますので…」と言って走り去って行ったので、横島は一人麻帆良女子中から出て食堂棟へと向かった。
 転入以来、横島は毎日食堂棟のお世話になっている。普通の学校で言うところの学食なのだが、規模が段違いだ。多種多様な店が軒を連ねるその姿は、そのまま繁華街に持っていったとしても通用しそうな程である。

「あ、横島さーん!」
「ん?」
 突然声を掛けられて振り返ると、そこにはアスナと木乃香がオープンカフェの席に着いていた。彼女達はお弁当を持って来ていて、食事する場所だけを求めて食堂棟に来たらしい。
 横島と木乃香は初対面だったので、軽く挨拶を交わす。少し格好つけた挨拶だったが、木乃香にあっさりとスルーされてしまった。なかなかに手強い少女だ。
「今日は豪徳寺さんと一緒じゃないんですか?」
「頼むから、アレとセット扱いしないでくれ」
 どうやらアスナはネギが学園長に呼ばれた事を知らないようだ。
 ルームメイトなのだから後でネギから聞くだろうと詳しい話はせずに、横島はパスタとサンドイッチを注文して、アスナの隣の席に着いた。

「あの、横島さんって…GSですよね?」
「そうだけど、何か相談ごと?」
「オカルトとはちょっと違うんやけど…」
 運ばれてきたパスタを頬張っていると、木乃香がおずおずと話し掛けてきた。
 GSである事を確認してきたので霊障の悩みかとも思ったが、どうも少し毛色の違う話らしい。
「実はウチ…今、お見合いしとるんです」
「…はい?」
「あ〜、木乃香のおじいちゃんって、孫に見合いさせるのが趣味なんですよ」
 詳しく話を聞いてみると木乃香の祖父である学園長の趣味は孫娘に見合いをさせる事らしい。彼女の倍も年の離れた相手を見合いをさせられる事もあるそうだ。
 年若いが、傍目には艶やかな黒髪をなびかせた着物の似合いそうな純和風な少女。アスナから聞いた話によれば気立てもよく、料理が得意で家庭的な性格をしているらしい。
 更に、お見合い相手はこちらの方が目的の可能性が高いが、彼女は関東魔法協会の長の孫であり、関西呪術協会の長の子。家柄的にも引く手数多の超が付く程の優良物件だ。見合い話が殺到するのも無理はないだろう。

「いつもなら一回会って断れば済むんやけど、今回の相手の人はえらいしつこくて…断っても断ってももう一度会いたいって聞かはらへんのよ」
「それで、俺にどうして欲しいんだ? 見合い相手を呪って欲しいならできん事もないが…」
 物騒な事を言い出したので、アスナが慌てて横島を止める。木乃香はそんな二人を見て、まるでコントを見ているかのようにクスクスと笑っていた。
「実はその人、GSやて言うてはるから、諦めてもらうのに協力してもらえへんかなーって」
「なるほど」
 そう言う事情であれば断る理由はない。可愛い女の子を掻っ攫わんとする者は彼の敵である。

 とりあえずは、詳しい情報を集めようと、横島はさっと木乃香の側に席を近付けると「ちょっと失礼」と言って、木乃香の肩を抱き寄せる。
 突然の出来事に頬を染めて目を白黒とさせる木乃香。それと同時に横島の背後で巨大な殺気が膨れ上がった。
 それを確認した横島が無言で席を立ち、食器を店に返す振りをして殺気の主へと近付くと、案の定そこには刹那の姿がある。
 そのまま近付けば彼女は逃げていただろうが、こういう時の彼の隠行は玄人も裸足で逃げ出すほどだ。まるでヤモリのように壁を走り、容易く背後に回り込んでしまった。
「せーつーなーちゃん」
「うひゃあぁ!」
 突然うなじを指でなぞられて可愛らしい悲鳴を上げる刹那。
 慌てて振り返ると、そこには横島の姿が。彼女はここで初めて自分が釣られた事に気が付いた。彼は刹那が見ていると予測し、あえて怒らせる事で居場所を突き止めたのだ。
 刹那は憮然とした表情となるが、横島は平然と話し掛けてきた。
「さっきの話は聞いてたよな?」
「……はい」
「見合い相手の詳しい情報ってある?」
「それは…」
 言葉に詰まる。実は木乃香のお見合いについては彼女も初耳だったのだ。おそらく最初に会った日も、学園長の依頼で侵入者に備えるために木乃香の側から離れていた日の事だろう。
「もしかして、そのために休みにされた?」
「…だと思います」
 刹那に邪魔をさせないようにして、木乃香に見合いをさせる。学園長の思惑はその辺りにあったのだろう。今までも木乃香のためと、何度か妨害してきた事があるだけに刹那は何も言うことができない。
 彼女の表情からは、木乃香の祖父がそうと決めた以上、自分は黙って従うしかないと諦めの境地に立ってしまっているのが見て取れる。
 そんな表情を見ていると横島も嗜虐心がかき立てられ…もとい、罪悪感が芽生えてくる。
 そこで彼は、刹那を喜ばせようと一計を案じることにした。
「俺はさっき木乃香ちゃんに見合いの妨害を頼まれた」
「………」
「やるからには派手にやりたいんだけど…人手が足りないんだよ」
「………え?」
 思わず見上げた横島の顔は、いたずらを思いついた子供のような笑みを浮かべている。
 彼の次の一言は、彼女にとって願ってもない申し出だった。

「同志、桜咲刹那。『俺に』協力してくれるよな?」
「勿論です、任せてください!」


 刹那が一もニもなく承諾したのは言うまでもない。

「でも、いいんですか? 横島さんも『護衛は修学旅行が始まってから』と言われていますから、学園長としては貴方にも関わって欲しくないと考えていると思うのですが」
「『GSの仕事があれば、こっちの都合を優先』。そういう風に契約してるからな」
 横島は余裕の表情でニヤリと小悪党の笑みを浮かべた。
 普通なら不気味さにひく所なのだろうが、この時の刹那は「なんて頼りになる人だ」と感じたと言う。木乃香の事が心配のあまり、少し正気を失っているようだ。


 後程連絡すると、携帯番号を交換してその場は別れる二人。
 既に別の魔法先生が木乃香の護衛に就いているらしく、刹那は仕事仲間にも協力を要請すると言ってその場を去り。横島は詳しい話を聞くために木乃香達の元へと戻った。
「あ、横島さん。どこ行ってはったん?」
「いや、逆立ちして歩くチュパカブラを見掛けて、思わず後を追っちゃったんだよ」
 見え透いた嘘だ。
「珍しいなぁ。ウチも見たかったわ〜」
 しかし、木乃香はあっさりと信じてしまった。実に素直な子だ。
 そしてアスナは二人につっこみたくてうずうずしている。

 木乃香にお見合いの日程を訪ねると、彼女はにっこり笑って「明日なんよ」と答えた。
 あまりにも急過ぎる。それではいくら横島でも準備を整えられない。
「準備って?」
「とりあえずワラ人形」
 アスナの神通棍が横島の後頭部に炸裂した。彼女のつっこみの魂がついに尊敬の念を上回ったらしい。
 きちんと呪いを掛けられると言うのも立派な霊能なのだが、彼女はまだその辺りが分かっていないようだ。


 さて、問題はどうやって妨害するかだが、これは木乃香の提案で横島をGSとしてお見合いの相手に紹介する事となった。横島を立派なGSに見せて「自分などまだまだだ」と相手を諦めさせようという作戦だ。
 のほほんと話す木乃香自身気付いていないようだが、それは横島にお見合いの相手に勝てと言ってるようなものだ。手っ取り早い話ではあるのだが、それは二人の実力が物を言う。
 こうなってくると気になるのは「お見合いの相手は一体誰か」という事になるのだが…。
「見合い写真とかある?」
「ん〜、写真はないけど名前なら…」
 そして木乃香の唇が、一つの名前を紡ぐ。

「………まじで?」
「大まじやえ」

 思わず絶句してしまい、かろうじて一言問い返した横島。
 その名は、彼にとって聞き覚えのある名前だったのだ。



 放課後になって麻帆良学園都市内の『龍宮神社』に出向いた刹那は、クラスメイトにしてルームメイト、龍宮神社の巫女である龍宮真名に助力を求めんと、彼女の元を訪れていた。
 碧なす黒髪を背に流し巫女装束に身を包んだ後ろ姿は、厳かな神社の雰囲気に見事にマッチしている。
 しかし、振り返るその顔は日に灼けた情熱的な肌。不思議な雰囲気を持つ瞳で射抜くように見据えられると、そのエキゾチックな美貌も相まって身震いする思いだ。
 その佇まいは落ち着いた大人の雰囲気を醸し出し、長身で充実した肢体はむしろ大学生だと言われた方が違和感がない。色白で小柄な刹那と並べると、何とも映える好対照な二人である。

「私の力を借りたい? 高くつくぞ」
「分かっている。GS横島をリーダーとして動くが、報酬は私が出す」
「ほう…」
 そんな真名の裏の顔は凄腕のスナイパーだ。射撃武器全般に精通し「苦手な距離は無い」と断言する彼女の実力は非常識な人間が揃う彼女達のクラスの中でも刹那、古菲、長瀬楓と並んで四強に数えられるほどであり、さらにその中でも頭一つ飛び抜けている。
 戦場の表裏を問わず、報酬次第でビジネスライクに戦う一面も持っているが、刹那にとって信頼できる仕事の仲間だ。同時に敵には回したくない一人でもある。
「お前がそこまで言うとはな…よほど手強い相手のようだね」
「ああ…」
 思いつめた表情の刹那。GSの仕事とあれば敵が魔族である事も考えられる。
 これは難敵かと真名は身構えて訪ねた。
「それで、相手は誰だい? 報酬さえ貰えるなら、どんな敵だって倒してみせるさ」

「敵は…お嬢様の見合い相手だ

「…は?」
 呆ける真名。なかなか見られない表情である。
 目を丸くしたその表情はどこかあどけなく、中学生らしい一面と言えるかも知れない。

 報酬次第でどんな仕事でもこなすのが信条の真名。それを後悔したのは初めてだと呟いたのは、半ば無理矢理に刹那の依頼を受けさせられた後の事だった。
 あまりにもくだらない仕事なので、報酬は思いの外格安である。

 真名は刹那と木乃香の関係についてはある程度聞き及んでいた。
 クラスの中でもどこか浮いていて、木乃香を守ることに心血を注ぎ己の使命としている。そんな彼女に個人的な友人がいると言う話はルームメイトの真名も聞いたことがない。
 そう考えると、あそこまで思いつめてしまうのも無理はないのかも知れない。己の殻に閉じこもり、極めて狭い世界に生きている彼女にとって、唯一の幼馴染である木乃香が全てなのだ。
「そう言えば、刹那を焚きつけたGS…横島だったか」
 最近クラスの中でアスナの師匠になったと噂になっている男だ。
 どんな男であろうかと、まだ見ぬ横島に思いを馳せる。
 その表情はまるで恋する乙女…のはずもなく―――

「私を巻き込んだ礼はきっちりしてやらないとね」

―――むしろ、ヒットマンと呼ぶに相応しい剣呑な笑みを浮かべていた。



 そしてもう一人の妨害者、横島はアスナの練習を終わらせた後、エヴァのログハウスに向かっていた。
 この時横島は明日の成否は木乃香と一緒にお見合いの相手の前に出る自分と、陰から密かに妨害する刹那との密な連携にあると考えていた。
 しかし、相手の目の前で堂々と携帯で連絡を取るわけにもいかない。
 当然こんな事に文珠を使うわけにもいかず、かと言ってGSが使う道具で通信機のような物は思い付かない彼は別の業界、魔法界を頼ろうとエヴァを訪ねようとしているのだ。

 本来なら学園長や魔法先生を頼るべきなのだろうが、目的が目的だけに彼等を頼るわけにはいかない。ネギもまだまだ子供なので頼りにできないと考えると、横島にはエヴァ以外の選択肢は残されていなかった。
 横島はネギが魔法関連アンティークのコレクターである事を知らなかった。もし彼に尋ねればあっさりイヤリング型の通信機等を差し出してくれていただろう。

 閑話休題。

「で、何でお前は力尽きてるんだ?」
 ログハウスに到着し、応対に出てきた茶々丸に案内されてリビングに入ると、エヴァがソファの上で口からエクトプラズムを吐いていた。
 その瞳もどこか虚ろである。
「マスターは先程まで佐々木さん達に振り回されましたので」
 どこに行っていたのかは聞かなくても分かった。
 ソファで力尽きているエヴァは似合っているのだが、普段の彼女なら決して着ないようなカジュアルな子供服を身に着けている。まき絵達四人がエヴァを連れて買い物に行っていたのだろう。何を買ったのかは言わずもがなである。
「いや、まぁ、何て言うか…似合ってるぞ、うん」
「…同情するなら血をくれ」
 力なくそう言われてしまうと、横島に断る術はなかった。

「で、何の用だ?」
「その前に口元の血を拭け」
 五箇所に噛み跡をつけたあたりでエヴァはようやく復活を果たした。
 横島がここに来た目的を話すと、血を提供してもらった礼もあるので、エヴァはソファの上で胡坐をかいて腕を組み、真剣に考えてくれた。
 まず彼女が最初に思いついたのは仮契約(パクティオー)カードによる通信だったが、これは仮契約した者同士でしか通話ができない上に、一方的に通信できても対話はできないのだ。これは却下である。
 他にも精神感応による通話を行う魔法もあるのだが、これは対話する両者がこの魔法を使える必要がある。とてもじゃないが明日までに素人が覚えられるものではない。
「茶々丸の通信機能なら何とかなるだろうが、ずっと横島の後ろに隠れているわけにもいかんしなぁ…」
「あの、マスター。姉さんならば何とかなるのではないでしょうか?」
「む…そうか、確かにアレなら何とかなるかもな」
 茶々丸の提案にポンと手を打つエヴァ。
 二階の寝室から手頃なサイズの人形を持ってくると、ホレと横島に手渡した。
 髪の色、瞳、髪の長さは肩の辺りまでと茶々丸との違いはあるが、確かに彼女に似た可愛らしい人形だ。ただし、そのサイズは赤ん坊並である。
「……姉さん?」
「ハイ。私の姉にしてマスターの初代『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』チャチャゼロ姉さんです」
「………」
「………」
 しばし無言で見詰め合った横島と茶々丸。
 やがて横島は、どこか同情したような視線をエヴァに向けた。

「…寂しかったんだな」
「そこで優しい目をするなーッ!」

 思いっ切り誤解をしている。
 確かに傍目にはただの人形なのだが、これでもれっきとした自意識を持った自動人形(オートマトン)なのだ。
 今はエヴァの魔力が封じられているのでロクに動く事ができないのだが、それでも自意識を保ち、喋る事ぐらいはできる。にも関わらず喋らず黙り込んでいるのは、エヴァがからかわれているのを見て楽しむためだろう。実に主思いの自動人形である。

「チャチャゼロ、そろそろ喋らんか!」
「仕方ネーナ…ヨウ、ハジメマシテGS」
「うぉっ、喋った!?」
 急に腕の中の人形が言葉を発したので、横島は驚いてチャチャゼロを落してしまう…が、床に落ちる寸前に茶々丸がダイビングキャッチで受け止めた。
 そのまま立ち上がり、まるで母親のようにチャチャゼロを抱き上げる。
「オイオイ、ヒデージャネーカ」
「そうは言っても、いきなりじゃ驚くわー!」
「ケケケ、根性ナシメ」
「口が悪いな、親の顔が見てみた…ってお前か、エヴァーッ!!」
「なんだかんだで普通に会話が成立してるじゃないか、やはり貴様普通じゃないな」
 悪態をつくチャチャゼロと、それに叫び返す横島。
 普通ならば人形がいきなり喋りだしたらもう少し驚くだろうが、やはり横島忠夫と言う男にはその辺に常識が通用しないらしい。眺めるエヴァはどこか楽しげだ。

「いいか、横島。明日は特別に私が協力してやろう」
 マスターと従者の関係であるエヴァとチャチャゼロは魔力が封じられた状態でもある程度の念話が可能なのだ。
 傍目にただの人形であるチャチャゼロならば、隠し持つ事も難しくないだろう。木乃香のような性格ならば、堂々と持っていても咎められないかも知れない。
「ククク、その見合い相手とやらを陥れると言う目的も気に入ったぞ。バカピンク達に付き合うよりよほど楽しめそうだ」
 むしろ、まき絵達から逃げ出すのが主な目的かも知れない。
 横島も、茶々丸も、チャチャゼロさえも気付いていたが、それについてはあえて触れなかった。


 意外なところで協力者を増やした横島は、その晩刹那と連絡を取って明日の打ち合わせをした。
 彼女はエヴァの正体を知っていて驚いた様子だったが、協力者である事を知ると素直に歓迎している。やはり大事なのは木乃香であって、他は二の次と言うことなのだろう。
 今日はゆっくり休むようにと伝えて電話を切ったが、あの様子ではちゃんと眠れているか微妙なところである。
 これ以上は気にしても仕方がないので、横島はそのまま床につくことにした。





 そして、翌日。
 横島は「立派なGS」に見せかけるために、いつものラフな格好ではなく仕事用のスーツに身を包んで約束の場所へと向かう。
 辿り着くと、着物を着た木乃香が手を振って駆け寄ってくる。その手には既にチャチャゼロの姿があった。茶々丸が朝の内に彼女の元に届けたのだろう。
「横島さん、今日はよろしゅうな」
「任せとけ」
 そう言って胸を張る横島。協力者が多いので気楽なものだ。
 刹那は既に身を潜めているらしく、少し離れた場所から剣呑な殺気が漂っている。
「それで、相手の男は…」
「そろそろ来るはずやけどなー」
 そんな会話していると、やけに通る声の男が突然木乃香に話し掛けてきた。

「やぁ、木乃香さん! 『日帰りで行くヨーロッパ全美術館巡りの旅 〜最後は絵の中に閉じ込められるよ〜』へとシャレ込んで豊かな心を育みませんか?」

 聞き覚えのある声に振り返ると、そこには見覚えのあるロングヘアにロングコート。
 明らかに無理をしてます! と言わんばかりのポーズで格好をつけるその男は、かつて一世を風靡してお茶の間を賑わせた男。陰陽寮所属のGS、蔵人醍醐その人であった。



つづく



あとがき
 はい、毎度恒例のアレです。

 神鳴流は検非違使の流れを汲んでいる。
 吸血鬼の栄養吸収効率に関して。
 エヴァさまは食道楽。
 この辺りは『黒い手』シリーズ独自の設定ですので、ご了承ください。

 検非違使の辺りなんて書きながら理屈組み立ててその場のノリで書きました。
 平安から鎌倉に変わって六波羅探題が設置され、侍所に取って代わられた辺りから裏の世界に潜ったという設定になっております。

 なお、蔵人醍醐につきましてはこちらをご覧ください。
 『帰ってきたどっちの除霊ショー』

前へ もくじへ 次へ