topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.101
前へ もくじへ 次へ


 麻帆良女子中学校に通う生徒達が暮らす女子寮。アスナ達がいなくなった事で、まるで火が消えたかのように静まり返る―――なんて事はなく、数人いなくなった程度では変わらぬ程に賑やかな寮である。
 麻帆良女子中では進級してもクラス替えが行われないので、この寮ではクラスメイト達が集まって過ごしている反面、他のクラスとの交流が薄いと言う一面がある。そのため、3−Aの面々以外は、いつもと変わらぬ日々を過ごしていた。
 では、3−Aの少女達はどうかと言うと、横島やネギの影響で新しい仲良しグループが出来ていた。筆頭となるのは、もちろん横島パーティとネギパーティだが、他にも、さよを通じて和美と桜子、美砂、円のチアリーディング部三人組が。まき絵と亜子の二人もまた、共に魔法を学んでいるのどか、それにハルナと一緒に過ごす事が多くなっていた。
 そして、中にはこんな例も存在している。

「裕奈、エヴァちゃん家に帰るなら、一緒に行かない?」
「あ、ゴメン。今日、お父さんとこに寄ってくんだ。先に行ってて」
 部活の帰り道、アキラが裕奈を誘うと、彼女は申し訳なさそうに断りの返事を返して来た。
 しかし、そのように言われてもアキラは困ってしまう。彼女は元々寡黙な質であり、その上恥ずかしがり屋な面も持っている。エヴァの家は、同時に横島の家でもある。アキラは、横島の事を友達である前に一人の男性として意識している。裕奈が間に入ってくれるならともかく、一人で会いに行くのは恥ずかしいのだ。
「明石教授のところにって、どうかしたの?」
「うん……ちょっと『仮契約(パクティオー)』について相談しようかな〜って」
 その言葉を聞いたアキラがピシリと固まった。当然、彼女は仮契約の事を知っている。マスターになる者と『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』になる者がキスしなければならないと言う事も。
 アキラは顔を真っ赤にして、おずおずと問い掛ける。

「も、もしかして……お父さんと仮契約するの?」

 次の瞬間、裕奈はずっこけて街路樹に頭をぶつけた。すぐさま体勢を立て直すと、あたふたとしながら、必死に言い返す。
「ち、違うってば! 兄ちゃん! 横島兄ちゃんだよ! ホントに仮契約しちゃってもいいのか迷っててさ、その事をお父さんに相談しに行くの!」
 そして、咄嗟に横島の名前を出してしまった事に気付き、こちらも負けじと顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「……え〜っと、がんばって?」
「うん、まぁ、がんばるんだけどね」
 力が抜けて、がっくりと肩を落とした裕奈、ひらひらと手を振って教員寮の方へと歩いて行った。緊張がほぐれて肩の力が抜けたと言えば聞こえは良いかも知れない。
 それを見送ったアキラは、このまま一人でレーベンスシュルト城に行くかどうかを考える。
 今、横島に会うと、仮契約――キスを意識してしまい、まともに顔を見られそうにない。横島に会う事そのものが目的ではないのだが、やはりどうしても意識してしまうのだ。裕奈も相談を終えれば帰ってくるのだろうが、身が持ちそうになかった。そう考えたアキラは、結局このまま寮に戻る事にする。


「よう、今帰りか?」
「あ、千雨。おかえり」
 寮に戻ったアキラは、玄関で同じく帰ってきたところの千雨と会った。以前は和気藹々とした3−Aの中でも孤独を好み、一人で居る事が多かった彼女だが、最近は会えば普通に挨拶を交わし、話をするようになっていた。
 流石にクラスメイトの前で意外と毒舌な「素」を見せる事は無いが、一部の限られた者達の前では、ぶっきらぼうな口調を普通に見せるようになっている。アキラは、その限られた者達の一人であった。
 ちなみに、限られた者達と言うのは、横島とその周辺の面々の事だ。横島に対しては、最初に油断して素を見せてしまったと言う事もあり、変に取り繕えば却って変に思われると、彼の前ではあえて取り繕わないようにしていた。すると、あれよあれよと言う間に彼の周りにアスナ達が集まってしまい、エヴァの別荘やレーベンスシュルト城で過ごしている内に、彼女達の前でもぶっきらぼうな口調をさらけ出す事になってしまったのだ。
 当初はクラスメイトに変に思われるのではないかと危惧していた千雨だったが、それは杞憂に終わる事になる。元よりクラスでは目立たないよう、目立たないように努めてきたおかげで、皆「意外と元気が良いんだね」と思う程度で、違和感を感じる者がいなかったのだ。一緒のクラスになって三年目だと言うのに、その反応はどうかと思わなくもないが、原因は自分にある上、助かった事は事実である。

「今日の夕飯、一緒にどうかな?」
「あ〜、そうだな。ごちそうになるよ。後で、お前の部屋に行けばいいか?」
「私が千雨の部屋に行ってもいいけど」
「いや、来るな。その、なんだ、散らかってるから」
 最近、二人は一緒に夕食を食べるようになっていた。裕奈がレーベンスシュルト城に移ったため、一人で部屋を使う事になったアキラが、同じく一人で過ごしていた千雨に気付き、彼女を誘ったのが切っ掛けだ。もしかしたら、アキラは急に一人で部屋を使うようになり、寂しかったのかも知れない。
 ちなみに、千雨のルームメイトは、書類上は茶々丸と言う事になっている。しかし、茶々丸はエヴァの家で暮らしているため、千雨は一年の時からずっと一人で部屋を使ってきた。当然それが異常な事だと気付いてはいたが、人付き合いが煩わしいと感じていた彼女は、一人で部屋を使えると言う魅力に勝てずに黙っていたため、現在までその状況が続いている。
 アキラの誘いも、うるさい相手ならば断っていただろう。しかし、物静かなアキラは千雨にとって一緒に過ごしやすい相手だったので、その誘いを受けるようになった。
 ただ、それでも千雨はアキラを自分の部屋には上げていない。言葉通り散らかっている訳ではなく、彼女は「ネットアイドルちう」と言う裏の顔を持っている。部屋にはパソコン、カメラはもちろん撮影機材やコスプレ用の衣装があるのだ。ぶっきらぼうな口調を見せるようになったとは言え、流石にそれを見せるつもりにはなれなかったのである。

 その後、アキラの部屋を訪れた千雨は、そこに居た風香と史伽の姿を見て、その場に崩れ落ちた。
「きょ、今日は、お前等もいるのか……」
「うん、今日はかえで姉の帰りが遅いから」
「そうか……」
 言われてみれば、最近の鳴滝姉妹はアキラと一緒に居る事が多かったような気がする。二人のルームメイトで保護者のような存在である楓が、ネギパーティの修行に付き合うようになった影響だろう。
 千雨は賑やかなこの双子の姉妹を苦手としていたが、小さいもの、可愛いものが好きなアキラにしてみれば、この二人に懐かれるのは嬉しくてたまらないのだろう。夕食を運んでくる彼女の顔は、ちょっとはにかんだような笑顔であった。
 食事中の話題の中心となったのは横島の事だ。アキラと千雨はどちらかと言えば聞き役で、風香と史伽が中心となって喋っているのだから、当然の流れであろう。中でも特に、風香が横島に対し憧れの心を抱いているのは、クラス内では周知の事実である。
「ヨコシマってば、どんだけ頼んでも、全然修行やってくれないんだよねー」
「それは、危険だから……」
 どうやら風香は、横島がアスナと同じ霊力供給の修行に参加させてくれないのが不満らしい。夕食を頬張りながら、可愛く頬を膨らませている。アキラがフォローしようとするが、効果はあまりないようだ。
 一方、史伽の方は、それほど積極的ではないようだ。彼女もまた横島を慕い、甘えてはいるが、それと同時に幽霊の類が怖いらしい。
 以前、その事に興味を持った和美が、昼休みの教室で、何故怖いのに風香と一緒になって修行をねだっているのかと、史伽に尋ねた事がある。その時彼女は、幽霊に勝てるようになれば怖くなくなるんじゃないかと思ったと答えた。
 この答えには、脇で聞いていた千雨も感心させられたものだ。確かに、未知の抵抗出来ない相手だからこそ怖いと言うのはある。対抗手段を身に着ければ、恐るるに足らずと言うのは、千雨も納得出来る理屈であった。
 そんな事を考えている間にも、風香はますますヒートアップしていた。千雨は黙って話を聞きながらも、心の中では「お前、子供扱いされてんだよ」とツっこみを入れている。しかし、実際に口に出したりはしない。ぶっきらぼうな口調は見せるようになったとは言え、わざわざ好き好んで個人的な事情にまで立ち入ろうとは思わないのだ。

 かく言う彼女は、先日からその修行に正真正銘の子供であるココネが参加するようになった事を知らない。
 横島が、自分の霊能についてもっと詳しく知ろうと考え始めた事も。
 千雨が周囲の騒動に背を向けている間にも、状況は日々目まぐるしく動き続けているのである。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.101


「………冗談じゃねーぞ」

 目を覚ました千雨は、辛うじてその一言を絞り出した。
 寝ぼけているのだろうか。パンッと自らの頬を叩いて、ぼやけた頭を覚醒させる。
 周囲が明るいので朝だと思う。昨日、アキラの部屋で夕食を食べた後、部屋に戻ってそのまま寝てしまったのだろうか。
 いや、違う。千雨は、昨夜の出来事を順を追って思い出していった。
 昨日、部屋に戻った後、まず彼女は日課である自身のサイト『ちうのホームぺージ』の更新を行った。更にその後、何かをしたはずなのだが……。
「あ」
 思い出した。実は、最近『ちうのホームページ』の閲覧者の間で、あるゲームが話題になっていた。千雨はその話題について行くためにそれを手に入れようとしたのだ。
 昨日の帰り道、帰宅部である彼女と部活帰りのアキラが寮の前で一緒になったのは、千雨がそのゲームを買おうとしたところ人気ゲームのために品薄で、何軒か店を回る羽目になったからである。ようやく手に入れた時には、あのような時間となっていた。

 ゲームをプレイしている途中でそのまま眠ってしまったのだろうか。そこまで考えたところで、千雨はブンブンと首を横に振って益体も無い考えを頭から追い出そうとする。現在、彼女が置かれている状況はそんなレベルでは無いのだ。

「一体ここはどこなんだぁ〜〜〜ッ!!」

 見渡す限りの草、草、草。上を見上げれば青い空。
 そう、千雨が目を覚ました場所は寮の自室ではなく、見知らぬ草原の中だったのである。



 一方、女子寮の方では、部活の朝練が休みだったアキラが、朝食も一緒にどうかと千雨を誘いに彼女の部屋を訪れていた。
「……あれ?」
 しかし、ドアをノックしてみても返事がない。このまま寝過ごしてしまったら遅刻してしまうかも知れない。アキラはもう一度ノックしてみるが、やはり返事がない。カギは掛かっているのだろうか。何気なく手に取ったドアノブを回してみると、あっさりドアが開いてしまった。
 こうなってしまうとアキラは逆に困ってしまう。しばらくドアの前でおろおろと右往左往していたが、やがてドアに向き直り、意を決してぐっと拳を握り締める。そして、ドアを開くと、そっと部屋の中を覗き込んだ。
 部屋の中は電気が付きっぱなしだった。千雨本人が言う程散らかってはいない。コスプレ衣装が掛けられたハンガーラックがあるのだが、千雨のお手製であろう布製のカバーが掛かっているため、アキラの目には入らない。実はこのハンガーラック、本来ならば半透明のビニール製のカバーが付いていたりする。千雨は、急に誰かが部屋に入ってきた時の事を警戒して、中が見えないカバーを用意したのだろう。
 部屋の一角を占めるパソコンと周辺機器の数々、それに撮影用の機材にアキラは一瞬怯んでしまったが、今はそれよりも千雨だ。
 更に部屋を見回してみるが、千雨の姿は無い。テレビは付けっぱなしで、何やらゲーム画面らしきものが映っているが、アキラはそれが何のゲームか分からなかった。テレビからゲーム機へ配線が繋がっており、電源ランプが明々と付いている。
 ゲームをそのままにして肝心の千雨はどこに行ってしまったのだろうか。もしかしたら寮生食堂へと行ったのかも知れない。今から探しに行っても、既に朝食を済ませてしまっているのではないだろうか。そう思ったアキラだったが、妙な胸騒ぎを覚えたため、一目千雨の姿を確認しようと地下の寮生食堂へと向かう。
「そ、そんな……」
 しかし、寮生食堂に行っても千雨の姿を見付ける事は出来なかった。大浴場に洗濯室。テナント専門店が並ぶ二階や、医務室まで探し回ってみたが、どこにも千雨の姿を確認する事が出来なかった。時間はそろそろ出発しなければ学校に遅刻するぐらいに差し掛かり、アキラの顔がだんだん青ざめていく。
 これは千雨の身に何かあったのではないか。真っ青になったアキラは、誰かに相談しようと考えるが、こんな時に頼りになるクラス委員長のあやかは、レーベンスシュルト城に引っ越してしまった。担任教師であるネギもまた、ゴールデンウィークの内に女子寮に出て麻帆男寮に移っている。
 他に誰か相談出来る者はいないのか。焦りのせいか考えがまとまらない。何人かの名前が頭の中で渦巻き、アキラは頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。そんな時だった。彼女に救いの手を差し伸べる者が現れたのは。
「アキラ〜。朝っぱらから寮中走り回ってるらしいけど、何かあったの?」
 その手の主は『麻帆良のパパラッチ』こと、和美であった。アキラが早朝から寮中を駆け回っている事を聞き及んだ彼女は、事件の匂いを嗅ぎ付けて、こうして本人に確認しに来たのである。
 和美の目的が何であれ、それはアキラにとって救いの福音であった。行動力があり、姐御肌である和美は、先程までアキラが思い浮かべていた頼りになる人物の一人だったのだ。
「あ、朝倉……大変なんだ。長谷川の、千雨の姿がどこにも見えないんだ」
「! 詳しく話してくれる?」
 アキラの様子から異常な雰囲気を察したのか、好奇心に目を輝かせていた和美の表情が真剣なそれに変わる。
 それからアキラは、捲し立てるように千雨の部屋に行ってもドアにカギが掛かっておらず、中にはテレビとゲーム機が付けっぱなしになっていて、肝心の千雨本人の姿が無かった事。そして寮中を探し回っても、彼女の姿が見付からない事を矢継ぎ早に告げた。
 その話を聞いた和美は、まず誘拐の可能性を考える。しかし、この女子寮のセキュリティの堅さは相当なもの。そう易々と侵入し、少女一人を誘拐出来たとは考えにくい。 また、千雨は木乃香のような特別な事情を持たず、あやかのようなご令嬢と言う訳でもない。ましてや、美空のように魔法関係者と言う訳でもなく、彼女一人を誘拐する理由が思い付かなかった。
「とにかく連絡しないと……警察、じゃないね。私は学園長に連絡するから、アキラは横島さんに連絡して!」
「わ、分かった」
 ヘルマン一味が襲撃してきた時のような厄介事が起きているのかも知れない。そう考えた和美は、まず魔法使いとGS、学園長と横島に連絡すべきだと判断した。担任のネギではなく学園長に連絡を取るのは、3−Aが情報公開のテストケースとなった事で『関東魔法協会』と言う組織とのパイプが出来たためである。比較的冷静な和美は、千雨を捜索するとなると、一魔法使いであるネギよりも『関東魔法協会』の組織力に期待できる学園長に連絡した方が良いと考えたのだ。
「そういや、アキラは携帯は……って、あれ?」
 アキラは携帯電話を部屋に置いたままなのではないか。そう考えた和美が振り向くと、彼女は忽然とその場から姿を消していた。
「え? え?」
 驚いて辺りを見回すが、やはりアキラの姿はどこにも見えない。
 和美の頬に冷や汗が伝う。まさか、千雨のように失踪してしまったのか。
 実はそうではない。焦りで上手く頭が回らなかったアキラは、「横島に連絡」と言われても電話を掛ける事を思い付かず、そのまま彼の下へと駆け出してしまったのだ。今頃は、女子寮の玄関を飛び出した辺りであろう。和美がそれを知るのは、再起動して周囲の寮生よりその話を聞き出した後の事であった。


 財布も持たずに寮を飛び出したアキラは、そのまま走って横島が通う麻帆良男子高校へと辿り着いていた。アスナと同じく天然で経絡が僅かに開いていると言われただけあって、アスナには一歩及ばないものの、流石の健脚である。千雨を部屋に迎えるために先に制服に着替えていたのは幸いであった。もし、パジャマのままならば、その姿で街を疾走する事になっていたかも知れない。
「ハァ、ハァ……横島さん……」
 男子校の校門前に立つアキラの姿は否が応にも目立った。登校してきた生徒達が遠巻きに彼女の事を見ている。
 「校門前に美少女現る」この報はすぐに校内にも届き、既に登校して教室に居た横島達にも伝わった。
「ん? あれは、アキラちゃんか?」
「何? どうして男子校に」
 その話を聞いて、横島は真っ先に窓際に走る。そして校門前に佇む人影を確認すると、すぐにそれがアキラである事に気付いた。続けて豪徳寺も窓越しに校門の方を見て、アキラの存在を確認する。
「何かあったか? 悪い、ちょっと行ってくるわ」
「出欠の代返はせんぞ」
 豪徳寺のつれない言葉に返事を返す間もなく、横島は大急ぎで教室を駆け出して行った。
 突然の横島の行動に呆気に取られていたクラスの面々だったが、時計の秒針が一周した辺りで再起動を果たし、弾かれたように騒ぎ始める。
「おいおい、あの子も横島の知り合いかよ!?」
「この前寮に連れてきた四人とは、また違う子じゃねーか!」
「あいつ、寮に来た内の二人と食堂棟で飯食ってたのに!」
「あ、思い出した! あの子、この前横島とJOJO苑に行ってた子だ! もう一人、別の子も居た!」
「俺、この前寮に来た子とあの子とも違う三人とカラオケしてるとこ見た事あるぞ?」
「俺はデパートでツインテールの子とデートしてるとこ見たぞ!」
「そういや、あいつ寮を出てどこで暮らしてるんだ?」
「この前、緑の髪した子と腕組んで歩いてるとこを見たぞ。その子と同棲してるんじゃないか?」
「え? アイツ、刀子先生と付き合ってるんじゃないの?」
「俺は双子の小学生に手を出したって聞いたぞ?」
「一人だろ? お姫様抱っこで街走ってるの見たぞ」
「なんてうらやましい!」
「……え?」
 次々に飛び出る横島の目撃談。皆に謎の人物として恐れられ、遠巻きにされてはいるが、同時に注目を集める立場でもあるらしい。
 数々の目撃談をまとめた結果、皆の心は一つになる。「憎しみで人が殺せたら……」と。しかし、当の横島にとっては、男子校での評判など、それこそどうでも良いものであった。

「アキラちゃん、どうしたんだ?」
 アキラがようやく息を整えた頃に横島はやってきた。周囲の視線に気付き顔を伏せていたアキラは、自分を呼ぶ声に気付いて顔を上げると、縋るような目で横島を見る。
「あ、横島さん……大変なんだ。千雨が……千雨が……」
「千雨ちゃんが? とりあえず、落ち着いて話を聞かせてくれ。ここじゃ不味いな。ちょっと場所を変えよう」
 アキラの言葉は要領を得ず、横島は何が起きたのかを察する事も出来なかった。しかし、警察ではなく自分の所に来た事から、それが何かしらのオカルト絡みである事は予測出来る。
 それがオカルト絡みの霊障であれば、GSの領分なので何の問題も無いのだが、魔法絡みであれば魔法使いの領分となり、こうして人目に付くところで話すのは不味い。横島はこのオカルトと魔法の境界線が曖昧なため、どちらにせよ人目の付かないところで会話しなければならないと判断した。
「アキラちゃん、ちょっとここで待っててくれるかな? カバン取ってくるから」
「え、でも……」
 突然の申し出に戸惑うアキラ。千雨の事が心配で焦っているのだろう。少しの時間を待つ事も惜しいと考えているようだ。
 それを察した横島は、彼女の耳元に顔を近付け「内容次第じゃ、人に聞かれると不味い。近くの公園で話そう」と囁く。横島が顔を近付けた瞬間、周囲が騒めいたが、横島もアキラも気にも留めない。アキラも、これから話す内容が周囲に知られては不味いかも知れない事に気付き、そう言う事ならばと横島がカバンを取って来るまで待つ事にした。
 その後、横島が駆け足で教室まで戻ろうとすると、その途中の階段で彼のカバンを持った豪徳寺と鉢合わせになった。状況は分からないが、おそらくオカルト絡みの事情で早退するのだろうと察して持って来てくれたらしい。
 横島は礼を言ってそれを受け取ると、踵を返してアキラの下に戻る。そして、不安のせいか足下がおぼつかない彼女の肩を抱き、始業前だと言うのに早退してしまった。男子生徒達の怨嗟の声がそれを見送ったのは言うまでもない事である。

 横島達が麻帆良男子高校に程近い公園に入ると、平日の朝であるためか、案の定二人以外に人影は無かった。
 二人はベンチに座ると、まずはアキラの話を聞く事にする。
「実は、千雨がいなくなったんだ」
 公園まで移動している間に落ち着きを取り戻したアキラは、和美にしたものと同じ説明を、小声で横島に繰り返した。ずっと横島に肩を抱かれた状態なのに気付いてない辺り、もしかしたらまだ混乱していたのかも知れない。人気が無いとは言え、念のために誰にも聞かれないようにするための処置であったが、身を寄せ合って囁き合うその姿は、傍目には恋人同士の語らいにしか見えなかった。
「なるほどな、そりゃ怪しいな。部屋に妙な物があったりはしなかったのか?」
「妙な物と言っても、スイッチが入ったままのテレビとゲーム機ぐらいで……」
「う〜ん、霊視出来りゃいいんだけど、女子寮だからなぁ」
 そこまで呟いた横島は、はたと気付いて言葉を止めた。そう、女子寮だ。麻帆良女子中に通う生徒達が住む寮だ。
「いや、今なら行けるか?」
 生徒達は今頃学校に登校しているはずだ。今ならば、寮にはほとんど人がいないだろう。それでも一人で忍び込むのは不味いだろうが、アキラと一緒ならば大丈夫かも知れない。横島はポケットから定期入れを取り出すと、その中にGS免許が入っている事を確認する。
「アキラちゃん、今から千雨ちゃんの部屋に行くぞ。いざって時は、免許を見せて調査に来たって言えば多分大丈夫だ」
 その言葉にアキラは神妙な面持ちでコクリと頷いた。
 二人はバスを使って女子寮へと向かう。財布を持っていないアキラの分は横島が支払った。その道すがら、横島は学園長に電話を掛け、女子寮に調査に向かう旨を連絡する。和美からも千雨失踪に関する話を聞いていた学園長は、すぐに調査のために女子寮に入る許可を出し、女子寮の管理人の方にもその旨を連絡しておく事を約束してくれた。
「よし、学園長の許可が取れた。これで堂々と女子寮に入れるぞ」
「千雨の部屋を見たら何か分かるの?」
「すらむぃみたいな連中の仕業なら、その痕跡が残ってると思う。それが感じられたら部屋で何かあったって事になるな」
 横島はまず、妖力、魔力の残滓が無いかを調べようと考えていた。また、更に詳しく調べる必要があれば、文珠を使う気満々である。最近の煩悩塗れの日々のおかげで、ストックについては全く心配する必要は無い。
 問題は残滓は時間と共に消えていくと言う事だ。しかし、いくら気が逸ってもバスは速くはならない。これならタクシーを拾うべきだったかとも思ったが、今更乗り換えると余計に遅くなってしまいそうだ。
 横島とアキラの二人は、逸る気持ちを抑えてバスの中で千雨の無事を祈るしかなかった。


 女子寮に到着する頃には、既に管理人の方にも学園長からの連絡が行っており、横島はスムーズに女子寮に入る事が出来た。無論、管理人が先導し、目的の千雨の部屋以外には行く事が出来なかったが。
 アキラが最初に相談した和美はと言うと、千雨の事が気になったが、寮に残っても自分に出来る事はないと察し、それよりも学校に行ってネギやあやか、それにエヴァにも相談するべきだと考えたらしく、既に登校した後だった。
 千雨の部屋の前に辿り着くと、横島はアキラを伴い、管理人は廊下に残して二人で部屋の中へ入る。本当なら一人で入った方が良いのかも知れないが、年頃の少女の部屋を調べるのに、男一人で入る訳にはいかなかったのだ。管理人は学園長から横島に一任するよう言われていたため、横島に言われた通りに廊下に残って待つ。
 部屋の中の様子は、アキラが入った時と何も変わっていなかった。テレビとゲーム機のスイッチも入ったままである。
「……こりゃ、妖気だな」
 部屋を見回した横島は、敏感に妖力の残滓を感じ取っていた。千雨の失踪は、何かしらの妖力を持つ者の仕業らしい。いや、「失踪」ではなく「神隠し」と言うべきであろうか。
 特にテレビの付近から妖力が感じられた。横島は、アキラを入り口近くまで下がらせると、更にテレビに近付いて調べてみる事にする。
「ん?」
「横島さん、どうしたの?」
 しかし、その途中で横島は足を止める。アキラは心配そうに声を掛けるが、何てことはない。つま先にゲームソフトのケースが当たったのだ。現在テレビ画面に表示され、ゲーム機の中に入っているのはそのゲームなのだろう。横島はケースを拾い上げて、パッケージを見てみる。
「……ッ!?」
 次の瞬間、横島はその身を強張らせた。パッケージに書かれていたタイトルが、嫌な記憶を呼び起こさせたのだ。
 そのため、次に起こった事態に一瞬反応が遅れてしまった。
「横島さん!」
「ッ!?」
 アキラの声に反応し、ハッと顔を上げる。テレビ画面が眩しいぐらいの光を発し、スパークを起こしている。
 一体何が起きているのか。理解出来ない横島が、一瞬動きを止めた瞬間―――

「どわあぁぁぁぁッ!?」

―――テレビ画面から伸びた光の腕が横島の顔を掴んだ。
 文珠を使うなりすれば対処出来たかも知れないが、突然の事に横島は驚いてしまい、素手でそれを引き剥がそうとしたが、光の腕は有無を言わせぬ力で横島の身体を引っ張る。
「横島さん!」
 その異様な光景を目の当たりにしたアキラ。反射的にその身体が動いていた。横島に駆け寄って肩を掴むと、光の腕に対抗しようとする。
 しかし、それは力で対抗できるようなものではなかった。二人の身体は光に包まれ、そのままテレビ画面の中に吸い込まれてしまう。
 後に残されたのは、何事もなかったようにゲーム画面が表示されるテレビと、電源が入ったままのゲーム機、そして、横島が落としてしまったゲームソフトのケース。
 そのケースのパッケージには、大きな文字でこう書かれていた。『キャラバンクエスト Online』と……。



 一方その頃、千雨は何もない草原をさ迷っていた。目を覚ましてから飲まず食わずの状態であるため、体力は限界に近い。
 気付いた時は既に奴等は貴様の背後に迫っている。いつか聞いたエヴァの言葉が思い出される。これがそうだとでも言うのだろうか。まったくもって理不尽だと、千雨は心の中で毒突く。
 その時、彼女の前に何者かが立ち塞がった。ビクリと身を竦めた千雨は、立ち塞がった者の姿を見る。一言で言えばモンスター。現実世界に存在するはずがない異形の怪物であった。
「こ、こいつは……」
 しかし、千雨はそのモンスターに見覚えがあった。昨日みたばかりだ。ただし、ゲームの中で。
「まさか、ここは……ッ!」
 その瞬間、千雨は全てを悟った。ここが一体どこなのか。自分の身に何が起きたのか。目の前に居るモンスターがその答えだ。
「チクウショウ! ここはゲームの中だ! 『キャラバンクエスト』の世界だ!」
 そう、目の前に立ちはだかるモンスターは、昨晩彼女がプレイしたゲーム『キャラバンクエスト Online』に登場するモンスターだったのだ。
 ゲームならば、プレイヤーキャラを操作して倒せば済むのだが、千雨は何の力も持たないただの人間だ。昨晩はサイトの更新を終えた後は着替えてスウェット姿でゲームに興じていたため、武器になりそうな物も、身を守るために使えそうな物も持っていない。
 逃げるしかない。しかし、足がすくんで動かない。このままじっとしていてもジリ貧なのだが、彼女の両脚は震えるばかりで、どうしても動いてはくれなかった。
「クソッ! 動けよ!」
 握り締めた拳で自分の脚を思い切り叩く。思っていた以上に力が入っていたのか、千雨はそのまま転んでしまう。しかし、それが切っ掛けで脚が動くようになった。千雨は這うようにして少しその場を離れ、起き上がると同時に脱兎の如く逃げ出した。
 しかし、モンスターも素直に逃がしてくれるはずがない。すぐに彼女の後を追い掛け始める。
「クソッ! クソッ! なんでこんな事に!」
 悪態を吐いたところで状況が好転するはずもない。元より千雨は、体力がある方ではないのだ。脚も特別速い訳ではなく、徐々に差が縮まっていく。
 背後に迫り来るモンスター、追い付かれれば命は無いだろう。千雨の命運は、正に風前の灯火であった。



つづく


あとがき
 レーベンスシュルト城は、原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

 千雨と茶々丸。それに、アキラと裕奈が同室。
 麻帆良学園都市内の学校の配置、地理関係。
 『キャラバンクエスト Online』
 「アレ」が肉体丸ごとゲーム内に取り込む能力を持っている。
 これらは『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定です。

前へ もくじへ 次へ