topmaintext『黒い手』シリーズ魔法先生ネギま!・クロスオーバー>見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.119
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 麻帆良女子中、3年A組。昼休み中、彼女達の教室ではアスナ達を中心に勉強会が開かれていた。「愛しの横島さん」のために六道女学院除霊科受験を目指すアスナ達へ、ノリの良いクラスメイトからの援護である。傍目には皆優等生なのにクラス全体で見れば定期テストの成績は落ちていたので、ネギを始めとする教員達は首を傾げているらしい。
 流石に学園祭準備期間に入ると、アスナ達が勉強する傍らで出し物についての話し合いが行われているが、その一方で自分達も六女を受験するんだと名乗りを上げた者達もいた。
「僕達も受験勉強するよーっ!」
「するですーっ!」
 鳴滝風香、史伽の姉妹である。レーベンスシュルト城に引っ越し、横島の下で修行を受けるようになっていた彼女達は、その勢いで自分達も六女を目指すのだと張り切っているのだ。二人が受けている修行は、アスナ達から見れば初歩中の初歩なのだが、風香達はあまり気にしていなかった。
「六女を受けるつもりなら、勉強頑張らないとね〜。結構、難関校らしいわよ」
 前回のテストの成績が良かったので調子に乗るアスナ。そんな彼女をあやかが窘める。
「アスナさん……鳴滝さん達は、前回のテストでもあなたより上の順位でしたわよ」
「……え゛? マジ?」
 実はその通りだったりする。
 風香と史伽の二人は、学年順位でこそ三百番前後だが、クラス内では二人揃って十位以内に入っていたりする。アスナも前回のテストでは良い点を取って順位を上げたが、まだこの二人には届いていなかった。
「へっへーん! 次は僕達も頑張って、ヨコシマに褒めてもらうもんねーっ!」
「なでなでしてもらうですーっ!」
「うぅ……もっと頑張らないと……」
 昼休みとレーベンスシュルト城の勉強会で見違えるほどに成績を上げたアスナだったが、まだまだ先は長いようだ。

 一方で、勉強会にも話し合いにも参加していない者達もいる。千雨とハルナの二人だ。
 横島から学園祭中の警備で着るファンタジーな衣装を作って欲しいと頼まれた千雨。コスプレ衣装を作る事は出来ても、デザインする事はそれほど得意ではないため、漫画研究会のハルナに助けを求めていた。
 ハルナは面白そうだと二つ返事で引き受けてくれたが、彼女の言う「面白そう」は二つある。一つは、横島達にどんな衣装を着せようか考える事であり、こちらは何の問題もない。
 しかし、もう一つが問題であった。
「いやぁ、まさか千雨っちが人のためにコスプレ衣装作る日が来るとはねぇ……一体どう言う心境の変化? お姉さんに教えてごらんなさい♪」
「ぐっ……ど、どうでもいいだろ! そんな事は! バレちまったから、隠す必要がなくなっただけだ!」
 横島達のために衣装を作ろうとする千雨に、ハルナは『ラブ臭』を感じたのだ。
 好奇心旺盛どころか暴走気味のハルナ。特に恋愛話には首を突っ込まずにはいられない彼女が、この葱を背負って現れた美味しい獲物を逃すはずが無かった。
「最近のアスナは照れてもくれないから、つまんないのよねー」
「だからって、こっちに来んな!」
「まぁまぁ、衣装作りの方は真面目にやるから」
「当たり前だっ!」
 千雨は大声を張り上げ、机を叩いて立ち上がった。これで衣装作りの方もふざけるのならば、それこそこの場で机をひっくり返しているところだ。
 とは言え、衣装を作るためにハルナの力が必要なのは確かだ。千雨は荒くなった呼吸を整えると、再び席に着き打ち合わせを続ける。そんな彼女の態度を見て、ハルナは頬を紅潮させながらにんまりと笑みを浮かべた。
 以前の彼女ならば、きっとここで機嫌を損ねてしまっていただろう。しかし、今の彼女はぶちぶちと文句を言いながらも、ちゃんと打ち合わせを続けようとしている。
 近しい趣味を持つ者としてハルナは千雨に親近感を抱き、他のクラスメイトよりも彼女に注目していたが、彼女もレーベンスシュルト城に引っ越してから随分と丸くなったものだ。「やはり恋か」と思ったが、それを口にしてしまうと、千雨は今度こそ怒ってへそを曲げてしまうかも知れないため、ハルナも黙って打ち合わせを進める事にする。
「ニヤニヤすんなっ!」
「あたっ!」
 それでも、ラブ臭を感知して顔がにやけるのを止める事は出来なかったが。

見習GSアスナ極楽大作戦! FILE.119


 アスナ、千雨達とはまた別のグループが教室の一角に集まり、出し物の打ち合わせをしていた。こちらはネギとカモも参加しているのだが、内容が内容だけに超と聡美の二人が中心になっていた。現在彼女達は、ネットを使って美神令子監修の『GS体験マジカル・ミステリー・ツアー』に関する情報を集めている。
「う〜ん、結界を張って霊力を吸収し、アトラクションには低級霊を使って霊気を発する……凄い発想ですねぇ」
「お客の霊力が弱まれば、低級霊でも強く感じて第六感に恐怖を訴えかける事が出来る……この発想はなかったネ」
「え〜っと、どう言う事?」
 集めた情報をプリントアウトした物を手に、唸る超と聡美。しかし、他の面々は何がどう凄いのかが理解出来ない。魔法使いであるネギとカモでさえもだ。
「要するにですね―――」
 そこで、聡美が黒板を使って説明をする事になった。まるで授業をしているかのようだが、皆真剣な表情で話を聞いている。その様子を見て、ネギが「授業もこれぐらい真剣だったら良いのに」と思ったのは、ここだけの話である。

 聡美の説明によると、この『GS体験マジカル・ミステリー・ツアー』は、ただのお化け屋敷ではなく、客の霊感に訴えかけて臨場感を倍増させる仕掛けが施されているらしい。
 ある程度霊感が強い人は、浮遊霊や低級霊が近くに来ると悪寒を感じ、背筋がゾッとしたり鳥肌が立ったりする。だが、所詮は低級霊。霊力が強くなると、本能的に大した相手ではないと察するのか、悪寒は感じなくなってしまう。
 令子はこれを利用し、施設内に結界を張る事で客の霊力を吸収して弱め、またアトラクションのロボットに低級霊を憑依させる事で、ただのお化けロボットを本物の悪霊のように感じさせる事に成功したのだ。

「……それって危険じゃないんですか?」
「あくまでロボットだから問題ないネ。低級霊は結界札で抑え付けて霊気を発するだけみたいだし」
「じゃあ、安全なんですね!」
「安物の札を使ったり、低級霊を何匹も突っ込んだりしなけりゃ問題ないネ!」
「……やっぱり止めませんか? 素人が手を出して良いものじゃないような気がするんですが」
 やけに明るい超に対し、責任者であるネギは、どこか疲れ切った様子であった。

「ねぇ、ハカセ。これ実際のところ私達にも出来るの?」
「う〜ん、難しいですねぇ。そもそも、こう言うオカルトの取り扱いは素人だけでは出来ませんし」
 調べてみて分かった事は、素人だけでは再現出来ない部分も多々あると言う事だ。
 特に、低級霊の扱いについては有資格者でなければどうにもならない。学園祭の出し物とは言え、客からお金を受け取る以上、その辺りはしっかりしなければならないだろう。いかに魔法使いの本拠地である麻帆良とは言え、この手の問題については厳しく審査されるはずだ。情報公開の準備を進めているのだから尚更である。
 となると、有資格者の力を借りるしかない。皆の視線が自然とこのクラスのオカルト関係者、真名、超、刹那の三人に集まった。
「龍宮さんは?」
「私は、GS資格を持っている訳じゃない」
「あ、私も資格は持ってないネ」
「私も表の資格は……」
 しかし、三人ともGS資格を始めとする公的に認められた資格を持っている訳ではないので、今回のケースに関しては役に立たなかった。
 彼女達が知る有資格者のGSと言えば、それこそ横島ぐらいだ。
「頼める人は横島さんぐらいなんだろうけど、ウチの生徒じゃないからねー」
「と言うか、この霊力吸収する結界……下手に使うとさよの命に関わるネ」
「えっ! そ、そーなんですか!?」
 突然話を振られて、さよはビックリ仰天である。桜子の膝の上にいた彼女は、ぷるぷると震えながら桜子の胸に抱き着いた。
「超りん、やっぱりそれはダメだよー」
 怯えるさよを庇うように抱き締めながら、桜子が唇を尖らせて抗議する。他の面々も同じ意見のようだ。『GS体験マジカル・ミステリー・ツアー』のキモとなる結界のシステムだが、素人には再現が難しい上に、クラスメイトのさよに悪影響を及ぼすとなれば、それを使う訳にはいかない。この点に関しては超と聡美も同意見であった。
「その部分に関しては仕方ないネ。私もそれで良いと思うヨ」
「しかし、ミステリーツアーの形式は良いアイデアだと思います。こちらを中心に考えていきましょう」
「「「さんせーい」」」
 そのまま超達はツアーの内容について話し合いを進めて行く。それを黙って見守っていたネギとカモは、ほっと胸を撫で下ろした。素人には危険なオカルトに手を出そうと言うのであれば、割って入って止めるつもりだったが、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。
 その後、勉強会を終えたアスナ達、打ち合わせを終えた千雨達も合流して話し合いが進められていく。アイデアがある程度まとまり、形になってきたところで昼休みの終わりを告げる予鈴のチャイムが鳴った。
「あ、もう終わりか〜」
「どうする? このまま続ける?」
「だ、ダメですよ〜! ほら、皆さん次の授業の準備をしてくださ〜い!」
 少女達はまだまだ続けたかったようだが、流石に教師であるネギはそれを許す訳にはいかない。続きは放課後と言う事になり、この場は一旦お開きとなった。
「う゛っ……そうか、放課後にも学園祭の準備があるから、すぐに帰る訳にはいかないのよね……」
 学園祭準備期間の間は、授業終了後すぐに帰宅する訳にもいかない。その事に気付いたアスナは愕然とする。
「それは横島師父も同じアル」
「しばらくは我慢するです」
 しかし、それは横島や他の面々も同じだ。古菲と夕映に窘められたアスナは、脱力したように机に突っ伏すのだった。



 一方その頃、麻帆良男子高校の横島はと言うと―――

「と言う訳で、我々は麻帆良祭でたい焼きの屋台を開く事になったんだが」
「ただのたい焼きでは女子の人気は得られないから、餡だけではなくカスタード、チョコレートも加えるってのはどうだろう?」
「おおっ!」
「最近流行りの白いたい焼きは出来ないか?」
「調べてみたけど、分量がよく分からなかったんだよなぁ……」
「う〜む……」

―――たい焼き屋台について盛り上がっている一部の面々を尻目に、のんびりと過ごしていた。
 横島の周りには豪徳寺もいるのだが、こちらも暇そうにしている。彼といつも一緒の中村は、たい焼きの屋台に興味があるらしく、盛り上がる一部の面々に加わっていた。
「いいのかねぇ、俺達こんなに暇してて」
「……まぁ、仕方あるまい。ほら、俺達だけじゃないぞ」
 腕を組んだままの豪徳寺がクイッとアゴで示す先には、横島達と同じく盛り上がる面々について行けない者達がそれぞれ暇つぶしをしていた。盛り上がる面々と暇を持て余している面々、割合で言えば半々と言ったところだろうか。横島の周りに豪徳寺しかいないのは、ただ単に彼の周りに集まる人がいないだけのようだ。
 豪徳寺曰く、これは毎年の傾向らしい。異常な盛り上がりを見せ、本職顔負けの出し物が並ぶ麻帆良祭だが、全ての生徒達が真剣に取り組むと言う訳ではない。特にクラスの出し物については、全員一致で突き進む3−Aの方が珍しいケースであった。

 生徒達が麻帆良祭に取り組む姿勢は、基本的に三種類ある。
 一つは、クラスの出し物に力を入れる者。横島の視線の先でたい焼き屋台について盛り上がっている面々だ。
 もう一つは、部活の出し物に力を入れる者達である。部活の出し物は、クラスの出し物とは異なり、何かしらの専門分野に特化している傾向がある。それだけに出し物も本格的な物が多く、クラスの出し物よりもそちらに力を入れる者は、決して珍しくはなかった。
「で、お前は格闘大会か?」
「当然だ。日々の修行の成果を早く試してみたくて堪らない」
 そしてもう一つは、麻帆良祭中に行われる各種大会に燃える者達だ。出し物を出す側ではなく楽しむ側と言うべきであろうか。彼等もまた、麻帆良祭を盛り上げる大事な一要素である。

「しかし、珍しいな」
「何がだ?」
「お前って真面目だから、クラスの出し物にはちゃんと参加すると思ってたんだが」
 横島がそう言うと、豪徳寺は困った表情をして首を傾げた。
 確かに彼の言う通り、真面目な豪徳寺は、例年ならば格闘大会に燃えつつもクラスの出し物にもちゃんと参加していた。しかし、今年は異様な盛り上がりに付いて行けずに、こうして一歩退いて見守っている。
「いや、手伝えと言われれば手伝うんだが、あいつらはなぁ……」
 豪徳寺の視線の先にいるのは、当然中村を始めとするたい焼き屋台について盛り上がっている面々だ。彼等は、いかに女性に受けるたい焼き屋台にするかで激論を闘わせている。
「と言うか、お前のせいだ」
「えっ、俺?」
 突然の言葉に素っ頓狂な声を上げる横島。周りを見回すと、同じく暇をしていた者達がうんうんと頷いている。
「な、なんで?」
「ほれ、この前の大河内さんとか、寮に那波さん達を連れてきた時とか、お前色んな場所で女子と一緒のところを目撃されてるだろ」
「……そうなのか?」
 豪徳寺の言葉に首を傾げる横島。アキラを始めとする3−Aの少女達や、レーベンスシュルト城の同居人達と街で一緒に居る事が多いのは確かだが、彼は誰に見られているかなど最早気にしていなかった。
 ちなみに、一番多く目撃されているのは朝の通学時と昼食時に一緒にいるところを頻繁に目撃されている高音だったりする。
 更に言えば、横島のクラスメイトにとって一番ショックが大きかったのは、彼と麻帆良女子中の教師である刀子との仲が噂された事であったらしい。

 閑話休題。

「要するにあいつらは、たい焼き屋台を通じて女にモテたいと考えてるわけだからな」
「ああ、それで女に受けるたい焼きとか考えてるのか」
 真面目な豪徳寺が一歩退いている理由はそれであった。たい焼き屋台に真剣に取り組むのは良いのだが、今年の盛り上がっている面々は動機が不純なのだ。無論、豪徳寺とて興味がないとは言わないが、あそこまでがっついたりはしない。
「まぁ、向こうが手伝えと言うまで放っておくさ。俺も警備の仕事があるからな」
「俺も同じだな。店番ぐらいならやる」
 そう言う二人だが、実際のところ手伝えと言われるかどうかに関しては微妙であった。と言うのも彼等は屋台で女性と知り合う事が目的なのだから、そのチャンスを他の者に明け渡して良いものかと考えているのだ。
「警備の方も忙しくなるだろうし、クラスの出し物、手伝わずに済むならそれでいいかも」
「だな」
 麻帆良祭期間中は警備の仕事があるので、手伝わずに済むならそれに越した事はない。それが横島と豪徳寺の答えであった。
 横島は、その警備の仕事もアスナ達と一緒に行うのだが、それは言わぬが花であろう。


 こんなクラスで、アスナ達のように放課後も出し物についての話し合いを全員で続けるはずがなく、横島は授業が終わるとすぐに下校した。そしてエヴァの家の近くの小川に差し掛かると、川からすらむぃ達が顔を出して彼を迎える。
「今日はまだ誰も帰ってきてないゼ」
 彼女達にアスナ達がまだ帰って来てない事を教えてもらうと、横島は一人レーベンスシュルト城に入る。いつもならばすらむぃかぷりんが横島の頭に乗って一緒に入るのだが、エヴァ達もまだとなると警備を切り上げる訳にはいかないようで、今日は三人とも小川に残っていた。
 エヴァと茶々丸もアスナ達に捕まっているようで、本当に城内には3−Aの面々の姿はない。
「あ、お帰り〜」
「お疲れ様でした、旦那さま」
 代わりに彼を出迎えたのは、アーニャ、月詠の二人である。彼女達はテーブルの上にアスナから借りた『季刊GS通信』を広げて、それを読み耽っている。流石の『狂人』月詠も、周りに斬りたい相手がいなければ、ただの文学少女であった。
「お、帰って来たか。他の連中はまだ帰ってきとらんで」
 厨房からティーセットを持った千草が現れ、横島の姿を確認すると踵を返して厨房に戻って行った。自分と月詠、アーニャの三人分しか用意していなかったのだろう。すぐに彼女は、もう一人分のカップも用意して戻って来た。
「ほら、こっち座り、お茶淹れたるから」
「ああ、淹れといてくれ。部屋に鞄置いて、着替えてくるわ」
 アーニャと月詠が囲むテーブルの上は『季刊GS通信』が散乱しているので、千草はその隣のテーブルに着いて三つのティーカップに紅茶を注ぎ始める。着替え終えた横島が戻って来て、千草の隣に腰掛けると彼女は残りの一つのカップに紅茶を淹れて彼に差し出す。
「あ、紅茶なんだ?」
「なんや? ウチが着物着てる陰陽師やからって、緑茶やと思ったか?」
 陰陽師である彼女は緑茶を飲んでいるようなイメージを抱いていた横島。しかし、彼が思っているほど千草は和風趣味の人間ではないらしい。アーニャのリクエストに応えて紅茶を淹れる事も出来るし、月詠と一緒に激務に追われていた時などは、コーヒーを好んで飲んでいたそうだ。
 現に今の彼女は着物を着ていない。涼しげなボートネックセーターに、グラデーション風のボーダーがプリントされたスカートと、ラフな部屋着姿である。こうして見ると、普通のお姉さんだ。彼女に言わせれば、陰陽師と言っても普段から着物や霊衣を着ている訳ではなく、普段着は一般人と変わらないらしい。
「言われてみれば、GSもそうだよな。普段から霊衣着てるヤツって見た事ないわ」
「魔法使いだってそうよ。家では普段からローブ着てる訳じゃないし」
 アーニャと月詠も一旦雑誌を読むのを止めると、千草と横島のいるテーブルに移って、のどかなティータイムとなった。千草にしてみれば、月詠と一緒にこんな和やかな時間が過ごせる事自体が驚きである。ここに来て良かったと、しみじみと平穏を噛み締めていた。
 こうして横島と並んで、向かいのソファに仲良く並んで座っている月詠達を見ていると、まるで母のような気持ちになってくるから不思議だ。そんな年ではないのだが、こう言う雰囲気も悪くないと、千草は思わず笑みを零した。


「ああ、そうそう。例の修行用の霊衣やけどな。陰陽寮から取り寄せる事が出来るで」
「お、そうか。それは霊力を通すんだよな? 修行するのに必要だから、早速取り寄せてくれ」
「了解。『横島除霊事務所』の名前で取り寄せるで」
 以前からアスナ達が探していた修行に使う霊衣だが、これは千草の紹介で陰陽寮から取り寄せる事になった。
 着物の下に着る長襦袢のようなデザインで、色は五種類があった。元が陰陽師の修行用の霊衣であるため、五行に合わせた色となっている。
「色はどないする?」
「う〜ん……皆それぞれ選ぶだろうから、何種類か取り寄せとくか?」
「それじゃ、サイズ違いも合わせて一通り注文しとくわ」
「オッケー、それで頼む」
 霊衣と言っても修行用の物なので大した値段ではない。アスナ達十人以上に修行をしている横島は、太っ腹にサイズ、色違いを一通り買い揃える事にした。相変わらず女性のためならば散財を惜しまない男である。

「ところで、霊衣なんて何に使うんや? あの子ら、まだ素人やろ。そんな本格的な修行をしてるんか?」
「いや、普通の服を通して霊力を送るのって効率悪くてな。霊衣の方がやりやすいんだよ」
「ふ〜ん、結構考えてるんやねぇ……」
 横島が霊力を送り込むためには直接肌を触れ合わせなければならず、体勢が限られてしまう。それが結果として事故に繋がりかねないため、もっと安全に修行を行うためにアスナ達は霊衣を求めていた。これがあれば直接肌を触れ合わさなくても、霊衣を通して霊力を供給する事が出来るのだ。
 注文していた霊衣は一週間ほどで届き、今度はどのような体勢で霊力を供給してもらうのかと言う話に発展していくのだが、それはもうしばらく後の話である。



つづく


あとがき
 レーベンスシュルト城は、原作の表現を元に『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定を加えて書いております。

 『GS体験マジカル・ミステリー・ツアー』の霊力を吸収する結界は、さよにとって危険な物である。
 豪徳寺薫、中村達也に関する各種設定。
 麻帆良男子高校に関する各種設定。
 天ヶ崎千草、月詠に関する各種設定。
 関東魔法協会、及び麻帆良学園都市に関する各種設定。
 『季刊GS通信』。
 陰陽師の修行用の霊衣。
 陰陽師、魔法使いの普段着に関する設定。
 これらは『黒い手』シリーズ、及び『見習GSアスナ』独自の設定です。

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